玉葉のふたつ違いの妹は、きれいな娘に成長していた。
3年前には、背も小さく、ガリガリにやせこけた貧相な子供だった。
いつも玉葉の後についてまわり、玉葉はそれをうっとおしいと感じていた。
「杏玲、あんたは留守番をしていてちょうだい」
あの日も、男友達と遊びに行くのに妹が邪魔だと思っていた玉葉は、冷たく言い放った。それでも妹はついてきた。
適当に途中で置き去りにしてしまおうと考えていたところで、あの男に遭遇してしまった。
かつての玉葉は美しさを良いことに、高慢に生きていた。ただ、顔が整っていたというだけで、何故にあれほどに驕り高ぶっていられたのだろうか。
玉葉は、あの頃の自分を非難と羨望を込めて思い起こす。
杏玲は、玉葉のように美しくなった。そして、玉葉とは違っていた。
美しい妹は、姉のことを思いやり、決しておろそかにしない。
出掛ける時には、さりげなく姉を誘い。断ると、寂しそうな顔をする。玉葉を置いて出掛けることになると、いつも何かを土産に持ってきてくれる。
玉葉のどんな我が儘も許してくれる。顔の傷が時折うずくときも一所懸命に看病をしてくれる。
姉に対してだけではなく、誰に対しても優しい娘だった。
杏玲が、顔も心も美しい娘であればあるほどに、玉葉は自分が惨めになってしまう。
自分は顔も心も醜い女なのだと、きりきりと胸が締め付けられる。
杏玲に感謝しながら、その美しさに敬意を感じながら、玉葉は憎くてならなかった。
美しい杏玲が、醜い自分が。
分かっているのに、後戻りが出来ない。
いくら手をかけても、農地からの収穫は目に見えて減っている。
大地が作物を育てる力を失っているのだ。
かろうじて獲れるものも、あまり良い品とは言えない。
それでも農民は、陽が昇って沈むまで畑を耕し、種を蒔き、肥料を与え、水をやり、雑草を取り除き、虫を払う。
玉葉の父母も、妹の杏玲も、その勤勉な民のひとりだった。
休むことなく、それは続く。農閑期には、機を織り、駕籠を編む。
そうやって一年を過ごし、その一年を繰り返し、人は死んでいくのだ。
報われれば、それでも幸せだ。しかし畑からとれるのはやせこけた野菜のみ、働けど働けど暮らしは苦しくなるばかりだ。
人々は疲れていた。
国はくたびれていた。
玉葉は顔に傷を負ってから、あまり外には出なかった。故に、農作業も全くしていない。
父母がそれを許していたのは、玉葉を憐れんだせいもあったが、その他にも理由があった。
玉葉も決して家の中でただ時を過ごしているのではなかった。食事の支度をし、掃除や洗濯をする。実を言えば顔に傷が無かった頃に比べれば、よほど働いている。
それに加えて、玉葉は針仕事を始めた。片目が見えないことで、はじめは距離感が掴めず、針で自分の手を刺してばかりだった。そして、非道く疲れた。頭が痛くなり、暫く横になっていないといられない程だった。
すぐに嫌になって止めてしまいたくなったが、他にすることがない。
何となく続けていくうちに、大分慣れてくるもので、一日の大半を針仕事で過ごすようになった。
最近では、繕いものや仕立てなどの他に、出来上がった着物に刺繍をする仕事が増えている。
それは古着のほころびの跡を隠すために簡単なものを刺したのが始まりだった。それが思いの外、評判が良く、そして何より面白くなってきた。
花や虫、動物といった生き物の姿や、幾何学模様、伝統的な文様など何でも見事な出来映えだった。
いろいろなところから、様々な注文が来るようになり、正直なところこれが玉葉一家の生活を少なからず支えるぐらいの金を運んで来るようになった。