その『特製健康茶』というものは、この世の苦しみを集めたような味がする。
玉葉は、たったの一口で自分の身の上にかかる嘆きを一瞬忘れたくらいだ。
「どう?」
――― どうもこうも……
藍椋はとてもホントのことを答えられない問いかけをする。
「ええ」
玉葉は曖昧に応えながら、微妙な笑みを浮かべていた。
藍椋の店の奥で、茶を出された玉葉は激しく後悔していた。店先で帰っておけば良かった。
それは『健康茶』のせいでもあるが、やはり顔のことだった。
家族以外と卓を囲むということは、顔に傷を負ってから一度もなかったことだ。他人とは、ただすれ違うだけでも辛いのに、面と向かうこの息苦しさ。
前髪がきちんと顔の傷を隠しているのかが、気になった。
口元の引きつれを見られるのが嫌で、あまり喋りたくない。
玉葉の手は髪をさかんに押さえ、喋る時には口元を隠した。
「次の仕事なんだけどね」
藍椋は、ニコニコと喋り続ける。
「はい」
玉葉は、それに相づちをうち、最小限の言葉で返事をした。
「私ね。今は古着だけしか扱ってないけど、いろいろやりたいのよね」
「はい」
「手始めにね、こんな袋物を置いてみようと思うのよ」
「ええ」
藍椋は、小ぶりの巾着袋を玉葉に見せた。
それは、紫がかった桃色の布に、大輪の花が刺繍された見事なものだった。
「こういう刺繍ものも良いのだけど、端切れを縫い合わせると、面白いものが出来ると思うの」
「はい」
「例えばこの布をこうもってきて、こう組み合わせるでしょ」
藍椋は端切れのたくさん入った箱から何枚かを取り出し、卓の上に並べてみせる。
「ええ」
玉葉はみるみるうちに卓上に形作られていく布の様子に目を奪われた。
「こんな感じに端切れで模様を作っていくのよ。面白くない」
「そうですね。こんな風にすると、また感じが変わって…」
知らず知らず玉葉は手を伸ばし、藍椋にならって端切れを並べていた。
「あら、ステキ。やっぱり、玉葉さんは才能があるわ」
藍椋は嬉しそうだ。
「え?」
玉葉は、自分に向けられた言葉に驚いた。そんなことを言われたのは、生まれて初めてだ。
「玉葉さんの刺繍はとても評判が良いのよ。この間の古着に刺繍してもらったものなんて、直ぐ売れちゃった。お客さんから、もう無いのかとか、いつ新しいのが来るのかとかもの凄く聞かれるんだから」
藍椋の言葉は、玉葉に心地良く、甘く響く。しばらくこのまま、聞いていたかった。
「でね。いくつかまた刺繍してもらいたいんだけど、これのここにこんな感じで…」
藍椋は立ったり座ったり、部屋のあちこちを駆け巡り、着物を何着か持ってきて、着物の裾や襟元、胸元を示して、紙に刺繍の模様を描いてみせる。
藍椋の言葉や動き、すべてに玉葉は惹き込まれた。
藍椋は美人というわけではない。丸顔に低い鼻、少し厚めの唇、頬はいつも赤みをおびていて、ちょっと幼い印象を受ける。生気に満ち溢れた様子が彼女を美しく飾っている。かつての玉葉には、この美しさを美しいと感じることはなかっただろう。
美醜というのは、実は見た目ではない。そう気づいていながら玉葉は自分の容貌に対して、それが当てはまるとは思えない。そして容貌のみに拘っていることが、更に自分を醜くしていることも自覚している。面倒なものだと、自分でも呆れる。
挙げ句、藍椋の様子に惹きこまれた結果、今回かなりの量の仕事を引き受けることになってしまった。