四日前に珊揮が何か調べに行くといって藍椋の家を出て行った。
戒莉はついていこうとしたが、きっぱりと拒絶された。
「お前は留守番」
だったら、さすがに珊揮の留守に藍椋の元に身を寄せるのはよろしくないだろうと、戒莉は舎館に移ろうとした。
「最近物騒で心配だから、一人で居るのは怖いわぁ」
という藍椋のもっともらしい言葉に、戒莉は『藍椋特製健康茶』から逃れる絶好の機会を失った。
もっとも、ここ数日は『健康茶』のおかげか、以前より戒莉の食欲が出てきたし、体力もついてきたような気もしないでもない。まあ効用ぐらいなくては、あの味に耐えている甲斐がない。
それにしても若い恋人を、これまた若い戒莉と一つ屋根の下におく珊揮の気が知れない。
それだけ藍椋と戒莉を信用しているということか、それとも戒莉にそんな意気地はないと踏んだのか。
おそらく後者だと、戒莉は思う。
珊揮が出かけて四日目の夕方、客足が途絶えた頃、藍椋が「ちょっとそこまで」と言って出で行ってしまった店の奥に座って、店番をするような、ただ居るだけのような状態で戒莉はぼんやりとしていた。
「戒莉」
ふいに名を呼ぶ声がした。戒莉は反射的に顔を上げると店先に大きな男がひとり立っていた。
「なに?」
あからさまに機嫌の悪い声に、戒莉は自分が苛立っていることに気づいた。
「熱烈な歓迎だこと」
珊揮は、あいかわらずのふざけた調子で戒莉の感情をかわした。
「藍椋はでかけてるのか?」
「ああ、いたらホントに熱烈歓迎だ」
「違いないね」
そう言って笑う珊揮の口元に、嫌悪感をおぼえる。自分がどこかおかしくなっているのかもしれないと戒莉は思う。その証拠に胸の鼓動のリズムが乱れている。
戒莉はのろのろと立ち上がりながら珊揮に知られぬように呼吸を整えた。
「戒莉」
ふたたび名を呼ぶ珊揮の顔は、さっきまでとはちよっと違っている。
「なんだ?」
「ここを出る」
「は?」
「いそげ」
支度といってもたいしたことはない。身支度をして腰に剣を挿すだけだ。荷物などはもとよりほとんどない。
あっという間に藍椋の店を出る準備ができてしまった。
「藍椋には?」
まさか、このまま出て行っては藍椋が心配するだろう。
「手紙を書いておいた」
珊揮は戒莉が支度をしている間に適当な紙に書いた短いものを示した。
「でも、店を開けっ放しにしとく訳にいかないだろう」
「隣のおばさんに頼んである」
短く答えながら、珊揮の体は既に店の外にあった。
性急だ。
珊揮がこんな風に急ぐときは、仕事の時ぐらいだ。
戒莉は、その仕事の内容などの説明を期待できないことを経験上知っていた。
現場で、剣を抜く。それが戒莉の役目だ。