泊り込みで護衛をするために、戒莉には一室が与えられていた。
用心棒などに振り当てられる部屋にしては、豪華だ。
ここにも、あの男の下心が透けて見える。
いっそ清々しい程だと、戒莉は思うことにした。それで何とか、平常心を保てている。いや、保ててなどいないだろう。
戒莉は、その部屋に下がって着替えを済ませると、一息おとす。
着慣れぬ絹物に、そろそろ疲れていた。いつもの少しくたびれた着物は、肌に柔らかく馴染む。
だが、ほっとする暇もなく、横の姿見にうつる己の姿に戒莉はぎょっとした。
他の人間が、そこに居るような気がしたのだ。
鏡に移った自分の姿だと分かっても、その影には薄気味悪さを感じる。
―― 本当にこれは自分なのだろうか ?
戒莉は常々、疑問に感じていた。
目を閉じて、戒莉は自らの顔に触れてみる。
額、眉、まぶたをとおると、睫が指先をくすぐる。鼻梁を渡り、頬をさらい、唇から顎先へ。
指から伝わる顔の形が、やはり自分のものだとは思えなかった。
少なくとも、かつて日本に居た時に、触れていた自分の顔ではない。
10歳の自分の顔と、今、おそらく十八になる自分の顔。年齢的に変わっていても不思議はない。そのはずだ。
戒莉は、そう心の内で唱え続けた。
―― いや、こんなことを考えている場合じゃないだろ。
戒莉は、この家に入り込んだ本来の目的に立ち返ろうとした。
どんな些細なことにも、目を光らせ、内情を探る。
正直、戒莉には苦手分野だ。
とにかく、今日あったことを反芻してみることにした。
―― あの娘は……いくつぐらいなのだろうか。
ふいに戒莉は、昼餉の席で椀を派手にひっくり返した娘のことを思い出した。
白っぽい灰色の髪に、瞳の色は何色だったろうか。思い出せない。と、言うよりも憶えていない。ただ、ひどく怯えた目をしていた。
朱甲は、あの子のことを家生と言っていた。戒莉は眉間に皺を刻む。
家生という存在について、以前に珊揮から説明されたことがある。それは、戒莉にはあまり気持ちの良い話ではなかった。あの、ビクビクした様子は、その境遇のせいなのだろうか。
あの娘の姿を観た時に、戒莉は苛立ちを覚えた。
そして、またもう一人のうつむき勝ちな玉葉という娘のことを思い出してしまった。
そこに至って、戒莉の感情は留めようがなくなってしまった。
―― 気分が悪い。
まるで、人を斬った後のような吐き気がこみ上げてくる。
あの家生の娘や、玉葉への怒りではない。
激しい自己への嫌悪に体が痺れるようだ。
この瞬間、戒莉は自分ほど醜い生き物はないと思った。
なのに鏡に映る姿は、薄気味悪い程に綺麗だと……戒莉は思った。
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