珊揮は、出来る限り現場を片付けた。多少の不自然さはあったが、大の男が五人斬られて血まみれになって倒れていたとは思えぬくらいにはなった。
賊を薬師に診せる手配をし、役人の目からは隠した。
だが、と珊揮は思う。
奴らの中で助かる者はないだろう。
戒莉は、人を殺している。その事実から目を背けても、それがなかったことにはならない。
珊揮の耳に『王の目』がこの街に入っているという話が飛び込んできた。
『王の目が暴走しており、それを止めて欲しい』という依頼は、実は以前から珊揮にもたらされていたのだが、『王の目』の所在がはっきりしないために、一時棚上げされていた。だが、どういう巡り合わせなのだろうか、この街が二つの異なる依頼の舞台となりつつあった。
そもそも『王の目』の暴走というのは、どういうことかというと、罪を犯している者を見つけ出すと、役人が捕らえる前に処刑してしまうということなのだという。
一見、正義のようにも見えるが、これでは道理が通らないのである。
正式な段取りをとらず、確固たる証拠も無く、被疑者を斬り殺すというのには問題がある。
まず、冤罪の可能性、そして犯罪共犯者、或いはそれは組織的なものかもしれない、それらを見逃す可能性がある。犯罪の背後関係、根本原因があやふやになる。
珊揮は、こんな仕事が自分に廻ってくるとは皮肉だと、心の内で密かに笑った。
珊揮は、戒莉と二人で仕事をしている訳ではない。
仕事をこなすためにある程度の人間をかかえ、組織を形成している。
その中には剣客も何人かいるし、情報を探ってくる者や、仕事の依頼を受ける窓口となっている者もいる。
依頼によって、珊揮がそのうちの何人かを選んで仕事をする。
今回の仕事では、二人に朱甲のことや賊のことなどを探らせていた。この二人は、どこをどうしたものか、珊揮でも不思議に思うほどの情報を集めて来る。そればかりではなく、現場の後始末や、戒莉が斬った賊の手当てさせることも、この二人が指示を受けて段取りを組んでいる。実に有能な二人なのだ。
ちなみに『王の目』の情報を携えて来たのは、二人とは別の者で、もともと珊揮とは行動をともにせず、『王の目』の探索に当たっていた男だった。
この男が合流し、珊揮たちは全部で五人になっていた。
とりあえず、珊揮は戒莉の様子をみにいった。
戒莉は、玉葉を藍椋のところに担ぎ込んだところで、バッタリ倒れたらしいが、直ぐに意識を取り戻したらしい。
返り血も自分で洗い流し、自分で着替えたという。
話をしてみると、多少は弱っているが、今までにないくらいにしっかりしている。
一安心したところで、珊揮はようやく本腰を入れて考え始めた。
元山は、姿を消した後だった。これで朱甲を諦めたのだろうか。
なぜ、『王の目』がこの街に現れたのか。朱甲のごとき世を乱す者を成敗。とかなんとか言うところだろうか。
所在の分からない元山と『王の目』を両方ともに誘い出すことは出来ないだろうか。
朱甲を餌に釣り上げるという発想は、ここから生じた。
そして、より食いつきたくなるように噂を流した。朱甲が、役人に捕らえられる寸前だと。
元山は、その前に金を取ろうとするだろうし、『王の目』は役人なぞの手に落ちる前に自ら斬りに現れるだろう。
「と、いうところなんだけどね。戒莉、どう思うかい?」
静かに語ってた珊揮は、話の最後を戒莉への問いかけで締めた。
途中までは、また珊揮が話をはぐらかし始めたのだと思っていた戒莉だったが、とりあえず最後まで黙って聞いていた。
「そんなに都合よくいくものとは思えないけど」
戒莉の答えは、率直で、単純なものだった。
「まあね」 やっぱりね、という顔で珊揮は笑った。