戒莉は、不機嫌極まりない。
両手を縛られ、なにより自由を奪われている。
常に腰にあった剣が大小ともに無いのが、心許ない。
苛立ちが、体全体から放出されていた。
何故にこんなことになったのかというと、きっかけは、戒莉自身が口にしていた。
朱甲を売ったらどうかと、戒莉は言った。
それは、破れかぶれでも、朱甲への嫌がらせのつもりだった訳でもない。
朱甲が売った人々が、どこへ連れて行かれるのか分からないのならば、誰かを売って、その後をつけていけば良いのではないかと言う単純な考えから発したことだった。その誰かに、朱甲がうってつけだと思ったのは、やはり朱甲を罰したいという心からだったのかもしれないが、そう馬鹿な考えでもないように思われた。
珊揮も、漣浄もその提案にのった。
だが、朱甲ひとりだけが商品というのも品揃えが悪い、ということで戒莉もその売られていく者に加えられてしまった。これが戒莉の苛立ちの始まりだった。
珊揮は、中から朱甲を見張る人間も必要なのだと、戒莉に説いた。また、売られていく者たちの後を追っていって、万が一見失ったときの為なのだと、もっともらしい言い分が付け加えられた。もっとも、それらの言葉の連なりは、戒莉を納得させるには至らなかった。
更に真佳と、捕らえた盗賊の中から何人か選んで売ることになった。本当のところは、選んだというよりも捕らえた十三人のうち、怪我がましだったのが七人だったにすぎないのだが。
朱甲と七人の盗賊たちは、縛られた上に、薬使って一時的に声がでないようにされている。そんな都合の良い薬があるのだろうかと、戒莉は密かに思った。
ともかくも、珊揮と漣浄、そして英俊が賊の一人に案内をさせながら売る役を引き受けることとなり、戒莉は売られていく役におさまったのだ。
ちなみに七人の盗賊の中にも、怪我があまりましではない五人の中にも、首領の元山はいなかったという。
粗末な荷馬車に積まれて、戒莉たちは無事にナゾの商人に売られていった。 売られるというのは、実に屈辱的だ。もしも、本当に売られるのであれば、その恐怖と絶望は如何ばかりであろうか。
体に伝わってくるゴトゴトという荷馬車の振動が、戒莉をさらに苛立たせていた。
本当に売られている訳でもないのにそこまで腹を立てなくてもいいのではないかと、真佳は戒莉の様子を見ていた。つい目を奪われてしまうのだ。縛られた痛ましさが、その屈辱が、戒莉の体を飾っている。
真佳は、唇を噛む。痛みが、正気を取り戻させてくれることを信じていた。
戒莉自身も、なぜ自分がここまでの苛立ちに囚われているのか説明がつかなかった。
だが、体が、心が縛られることを拒否していた。
あ、なんか、もう一人落ちそう。