商談は無事成立した。
戒莉たちは珊揮の手を離れ、売られていった。
珊揮は、戒莉を乗せた荷馬車が遠ざかっていくのを、しばしその場で見送っていた。
「名残惜しそうだな」
漣浄が、そんな言葉を珊揮に浴びせかけた。
ややあって、珊揮は去っていく馬車に背を向けた。
「さて、どうなるかね」
口にしてみて、一抹の不安がよぎる。
あの馬車が、探し求めていた地へと導いてくれるのだろうか。
そうすることを決めたが、計画としては、いちかばちかという博打的な趣があった。
「うまくいくと思うか?」
漣浄は、懐疑の念を混ぜた口調で問いかけてみせる。
「さあね。正直、運まかせだねえ」
「勝算があると踏んだんだろ」
漣浄は、にやりとする。
そう、願っているだけだ。珊揮は苦笑する。
「まあ、どっちかに転ぶだろ」
投げやりな口調だ。
「何もしないよりは、いくらか『まし』なくらいだな」
「ああ、全く以ってましだね」
『商品』を乗せた馬車は北へと向かっていた。その行く手には、公式に登録されている鉱山はない。
ガラガラと進む馬車から着かず、離れずという行為は、思った以上に疲弊する。気付かれぬように、だが見失わぬように気を配る。
漣浄は、珊揮という男とここ数日過ごすうちに、戒莉に同情するようになった。漣浄も長いこと生きているが、珊揮ほど掴めぬ男にはお目にかかったことがない。
肯定したかと思えば、即座に否定、こうかと思えば、次には真逆のことを言ってのける。何を考えているのかさっぱり掴めない。こんなのと組んで仕事をすることが出来る戒莉というのは、そうとうに忍耐強いのだろう。
「このままいくと、何処に着くだろうね」
珊揮の問いかけに、漣浄は遠くに視線を遣った。
漣浄の中で警告を告げるように、鐘の音が響いていた。
珊揮は、漣浄に喋らせようとしている。
その誘いに、乗ってみるのも一興だと、漣浄は笑った。
「鉱山がある」
そう、このまま進んでいく先には、鉱山がある。正しくは、『あった』だ。
つまり既に閉山した鉱山だ。
しかも閉山したとは言え、鉱物はほとんど採掘されていないという山だ。
岩盤がゆるいために坑道を掘ることが難しく、安全が確保できないために、発見されて直ぐ放置されてしまったという山だ。
おそらく、そこが戒莉達が売られていく先、目的の山だ。
「鉱夫が死んでもかまわないと考えたら、危険な鉱山も掘れるというところかね」
眉間にふたすじ刻みながら、珊揮はそう言った。
その皺は、保源への怒りを示しているのだろう。そして、目の前の漣浄にも向けられている。
「お前、分かっていたんだろう」
珊揮の声は、穏やかに漣浄の懐に入った。
「それはお互い様というものだ」
爽やかに笑う漣浄の瞳に、曇りなどなかった。