目覚めると、そこには男の顔があった。
40才そこそこの年齢に見えるが、そうではない。
……父さんの顔ってどんなんだったんだろう……
戒莉はぼんやりと、目の前の男を眺めていた。
赤錆のような髪に、日焼けした肌が健康そうだ。
「!」
戒莉は、はっとして身を起こした。
「珊揮!!」
「何?」
「何でこんなとこで寝てるんだ」
気付けば戒莉の横に寝転んだ大男のせいで寝台のほとんどが占領されている。おかげで戒莉は、身を縮めてようやくそこに留まっていた。
「髪を拭いてやろうと思ってね」
「はぁ?」
この男は、昨日は確か女のところに泊まると言って別れたはずだ。もう朝なのかと思ったが、そうではない。あれから暫くたってはいるが、まだ夜だ。
それが、髪が何だって……と、髪が乾いていた。湯を浴びて濡れっぱなしで朝を迎えると、まだしめっているはずなのに。
「拭いたのか?」
戒莉はおそるおそる尋ねた。
「そうだよ。濡れたまま寝て熱が出るといけないからね」
珊揮は、さも当たり前のことをしたような口調だった。
「女、藍椋とかいったよな。そこへ行ったんじゃなかったか」
「行ったよ。だけど、どうせお前のことだから、ちゃんとしてないと思って」
「……」
確かに、何かを殺した日はどっと疲れて、湯浴みをしてから体も髪もよく拭かないまま寝てしまう。それで体調を崩すこともあった。
「そしたら案の定、お前ときたら濡れ鼠の上に、ほとんど裸で転がってるじゃないか」
良く見ると、寝間着もきっちりと着せられている。戒莉は、急に恥ずかしくなった。
「悪かった」
「ああ、悪いね。藍椋とは久しぶりだったッて言うのになぁ」
からかい半分の言い方だった。効果はてきめんで、戒莉はみるみるうちに上気していった。肌が白い分、それは顕かだった。
「放っておいて呉れても良かったのに」
顔をそらしながら、寝台から逃れようと身をよじった。が、珊揮が戒莉の肩を押さえて、そこに留めた。
「お前が具合悪くなると困る。明日は仕事だからね……さて、私はまた藍椋のとこに戻るよ」
珊揮は寝台から降りると、戒莉に夜具を掛けなおした。
「はい、おやすみ」
珊揮は、子供をあやすように甘く笑った。戒莉は、こんな扱いを受けることに屈辱を覚えたが、抗議すればするほど子供扱いされるのが分かっていたので、むっとした表情のまま、ごろりと背を向けた。
「また、明日」
燭台の灯りが吹き消される。扉が閉まる。足音が遠ざかる。
戒莉は、珊揮が藍椋のところへ向かう音を聞きながら、妙な気分になっていくのを感じた。
今夜はこれ以上眠れないと思った。