ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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悪故に悪を成そう 

 彼が目を覚ますと其処は真っ白な部屋――ただし、真っ黒と言われれば真っ黒のような気がするし、赤一変色と言われれば赤い部屋に思える―――だった。

 

『やれやれ、やっと起きたか』

 

「おいっ! 何処だよ、此処っ!? お前誰だよっ!?」

 

 彼は真っ当な人生を送って来た者ではない。普通に日本に生まれ、普通の家庭で普通に愛情を注がれて生きてきたのだが、彼自身の意思で堕落し道を踏み外して生きてきた。この日も近所のスーパーでゲーム感覚で万引きを下後、小学生から脅し取った金で漫画喫茶に入ったのだが、何時の間にか今の場所に居た。

 

『言葉使いが汚いな。まぁ所詮はロクな人間ではないし、気にする事ではないか』

 

 其処に居たのは高圧的な男――もしくは低姿勢の老爺、または礼儀正しい少女――だった。来ている服も身長も、誰かが何かと言えば誰しもがそうだと思う、そんな不思議な相手だ。

 

『お前は死んだ。私が気紛れに殺した。何か力をやるから異世界に行け。貴様の知る『ハイスクールD×D』の世界だ』

 

 普通ならば頭を疑う内容だが、不思議と彼はそれを信じた。それこそ欠片も疑う事すらなく、常識として知っている事を態々聞かされた様な風に。

 

 彼が渡された紙に書いているのは欲しい能力の要望欄。ある程度の変更は可能だとして三つの欄があった。一つは基本的な能力。二つ目は肉体に掛かっている魔法や技術、最後は使える技や魔法。知っているの全てなどは不可能であり、何かしらの作品から、其れも全て別の作品からというのが条件だ。

 

 

「……よし! 一つ目は『僕のヒーロアカデミア』のオールフォーワンの能力をくれ。神器からも奪えるように頼む」

 

『他人から力を奪って生きるのか。まあ能力を奪われて無力化した相手を一方的に叩きのめすのは貴様の好みだろうな』

 

「二つ目は『ドラゴンクエストⅣ』の進化の秘法。ただし小説版の奴を完成した状態で、見た目の変化や黄金の腕輪は無しでも機能するように頼む!」

 

『相手の絶望する顔が見たいのか?』

 

「三つ目は『ドラゴンボール』の魔人ブゥが使ってた対象をお菓子にしたり自由に変えれるビーム!」

 

『やれやれ強欲此処に極まれり。悪役の能力ばかりだな。まあ転生先で欲を満たす気でしかないから仕方がないか……』

 

 パチンと指を鳴らす音と同時に彼の目の前に門が出現する。其れを潜れば己の欲望を満たせる世界に行けると確信した彼は喜び鼻歌交じりで進もうとし、急に足が動かなくなった。

 

 

 

 

『ああ、言い忘れていたが……貴様の人格は塗り潰させて貰う。訓練した兵士でさえ戦場では精神をやられるんだ。サービスだよ、サービス』

 

「あがっ!? あがぁああああああああああああああああっ!?」

 

 自分の中に何かが入ってくる感覚、自分が消え去っていく感覚。浮かれていた気分は一気に恐怖に塗り潰され、やがてその恐怖を感じる心さえ消え去る。

 

 

 

 

『じゃあ、早く行け。伝え忘れていた侘びとして、その内何かしらのプレゼントをくれてやろう』

 

 その声は彼だった者への嘲笑、または同情、若しくは愛情、それか無関心、其のどれか、もしくは全てが込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと何かしらの液体が入った機具の中だった。粘度の高い感触が気持ち悪く、手を伸ばせばガラスの壁に触れる。軽く力を入れただけでヒビが入り、次の瞬間には音を立てて割れる。液体と共に外に出ると真っ赤ないサイレンと共に耳障りな警報が鳴り響き、周囲を見れば自分が入っていたような容器に入った子供達の姿。

 

「はははは! なんたる狂気! なんと悪辣! これだ! これこそが私の生き方だ! そうだ!」

 

 この時、彼は此処が異能者を作り出す為の研究所であり、転生者である自分の存在の帳尻合わせに世界に改変を加えて出来た場所だと理解した。自分は唯一の成功例で、他の失敗作は攫われて来た、若しくは親に売られた結果此処に来た子供を材料にしている事を理解した。

 

 湧き上がってきたのは怒りでも後悔でも絶望でもなく……歓喜! 正しく悪と呼ぶべき所業に対し心の底から歓喜していた。

 

 

「ああ、何たる事だっ! 私に植えつけられた人格は狂人ではないか! ははは! ははははは! 貴方が神という存在かどうかは知らないが、此処は便宜的に神と呼ばせてもらおう! 偉大なる神よ感謝しよう! 私を狂わせてくれて有難う!!」

 

 耳を澄ませば聞こえてくるのは研究者たる悪魔達。彼がこの世界に存在する理由として改悪を押し付けられた者達だ。

 

「さて、今は大人しくしていよう。・・・・・・・だが、何れ」

 

 数ヶ月後、違法研究所に踏み込んだ者達が見つけたのは無残に殺された悪魔達の死体。あえて時間を掛けて殺されたと分かる陰惨な現場からは犯人の残虐性が伺え、サーゼクスは危険視して犯人の捜索を命じたが手掛かりは見つからず、参考になりそうな研究資料は全て焼き払われていた。

 

 

 

「さて、懐も暖かくなった事だし何か食べに行くとしよう」

 

 この日、幼い孫娘と遠出した老夫婦が殺害された。互いの悲惨な最期を見せつけるかのような残虐性から研究所の犯人と同一犯と思われたが手掛かりは残されていない。抜き取られた財布は中身を取り出した後で溝に捨てられ、生き残った、生き残ってしまった幼い少女は何も話せない。

 

 其れは精神を病んだ訳でもなく、彼女は正気のままだった。腹を切り裂かれ臓腑を剥き出しにされた活け作りの姿のまま、死ぬことも狂う事も叶わず、情けとして受けた殺すための傷は瞬時に癒える。其れはサーゼクスの全力の一撃を受けるまで、興味を持った悪魔に散々実験され終わるまで続いた・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「魔獣創造か。・・・・・・思わぬ掘り出し物だったな」

 

 この日、人間界のとある村が壊滅した。住民全てが張り付けにされ、死因は殆どの者が餓死。一部の者は生きたまま猛禽類や肉食獣に喰殺された。

 

 犯人は空に向かって語る。神器の気配が有ったから奪いたくなった。この惨状は序でに引き起こした、と。

 

 

 

 

「お前、何者?」

 

「おや? ああ、四巻までは其の姿だったか。初めまして、無限の龍神」

 

 突如現れた老爺に深々と頭を下げ、顔に浮かべるのは狂気の笑い。今の自分には絶対に無理だが、目の前の存在の顔を絶望に染めたらどれほど面白いかと、そう思ったのだ。

 

「お前、我のこと知ってる? なら、力貸して欲しい。我、グレートレッド倒す」

 

「断る。グレートレッドを倒すのは非常に興味が有るがね」

 

「何故?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「故郷に帰りたい、など余りにも真っ当過ぎる理由だからだよ。幾ら世界が滅びるとはいえ、力を貸す気にはならないな。私の助力が欲しいなら誰もが悪と断ずる理由を見つけたまえ」




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