子供はヒーローに憧れる。俺も勿論テレビのヒーローに憧れて、自分も同じようになりたいって無邪気な夢を持っていた。
だけど、俺にとって一番の憧れで身近なヒーローは兄貴だ。兄貴は何でも――ただし、音楽を除いて――出来た。運動も勉強も出来たし、家事や多趣味の対象も人より優れていて――但し、音楽関係にはその分の逆補正が掛かっている――、俺はヒーローみたいだから兄貴に憧れたんじゃなくって、兄貴に似てるからテレビのヒーローに憧れたんだ。
なあ、俺にとって兄貴がヒーローなんだ。俺は強い兄貴に守られてたから、兄貴みたいに誰かを守れる強さが欲しかった。その為に必死に体を鍛えたさ。でも、どれだけ頑張っても兄貴には届かない。その事で悩んだ事もあったけど、兄貴の言葉で立ち直ったよ。
『テメーは今までの頑張りに誇りを持ってるんだろ? なら自分を他人と比べて落ち込んでないで胸張っとけ』
兄貴は大学進学と共に家を出て、俺は高校に入学した。エロ仲間の元浜や松田と違って覗きとかはしないけど、やっぱ男だから猥談が好きだし、おかげで二人程ではないけど変態扱いされて女子からは嫌われている。その事もあってイケメンは憎いな、うん。
しかし、どうして兄貴はモテないんだ? いや、女から嫌われてはない。それどころか女友達は多いんだ。俺の知り合いだけでも、
あれだな。先に彼女作って一つでも勝利してやるぜ!
そんな事を企んでいた俺だけど、結局二年になっても一向にモテる気配がない。だけど、そんなある日転機が訪れた。いや、本当人生の転機だったぜ……。
「お願いがあるんだけど……死んでくれないかな?」
ある日俺に告白してきた天野夕麻ちゃん。初めての彼女だから大切にしようと思い、男の意地で兄貴には相談せずにデートプランを考えた。そして初デートの終わりごろ、夕日の綺麗な公園で黒い羽を生やした夕麻ちゃんは俺を殺そうと襲いかかって来たんだ。
「悪魔、いや、堕天使?」
「知ってる、な訳ないか。娯楽作品の知識ね」
兄貴が神話とかを調べるのが好きな関係で俺もその手の知識は読み齧った程度にはある。だから堕天使のコスプレをしてワイヤーか何かのトリックで空を飛んでいるだと思ったけど、咄嗟に避けた物を見て違うって直ぐに分かった。
「へぇ、避けるのね。……生意気よ!!」
僅かに服を掠めて地面に突き刺さたのは光の槍。掠った部分が焦げてるから熱を持っていて、直ぐに消えたから立体映像とかじゃないっ! 拙い、と思った俺は夕麻ちゃん目掛けて駆け出した。彼女は確実に俺を殺そうとしている。直ぐに逃げ出す? いや、俺を舐めていたさっきの槍の速度でさえギリだったのに、怒った今じゃ確実に避けられないし、巻き添えが出るかもしれない。だったら、ぶっ倒す! それしか無い!!
「うぉおおおおおおおっ!!」
叫びながら駆け出した俺にさっきよりもずっと速く槍が投げ付けられる。横に軸をずらしたけど右肩を掠めた。焼き鏝を当てられたみたいに痛ぇっ! だけど、こんな所で俺は諦めねぇ!
「無駄な騰きは死に様を穢すわよ。潔く死になさい」
「巫山戯んなっ! 生きる事を諦めるのが一番格好悪いだろがっ!!」
俺は次の槍に対し右手を盾にする事で致命傷を避け、一気に飛び掛る。勿論届かないし大きな隙を晒す。でもな、兄貴みたいになる前に死んでたまるかってんだっ!
俺の背中目掛けて放たれた槍。其れは俺が街灯を蹴りつけて跳んだ事で地面へと刺さる。
「これでも食らっとけっ!!」
駆け出す時、咄嗟に拾った石を予想外の事態で固まっていた夕麻ちゃんの顎目掛けて振るう。だけど、当たると思った瞬間、俺の脳裏にデート中の楽しそうな彼女の顔が過ぎった。
「……ふん。人間風情が驚かせちゃって」
決定的な隙を晒した俺は腹に穴を開けて地面に横たわっている。夕麻ちゃんは俺を一瞥すると去っていった。もう痛みはなくて寒いとしか感じない。……俺がこのまま死んだら、お袋やオヤジや兄貴は泣くんだろな。元浜や松田はどうだろう? ああ、嫌だな。死ぬのも嫌だけど、死んで皆を悲しませるのはもっと嫌だ。
「……たい。生きたいっ!」
俺が叫んだ時、デートの待ち合わせの時に貰ったチラシが光り輝いた……。
なあ、兄貴。俺、悪魔になっちまった。アレから数日後、夕麻ちゃんの事なんて皆の記憶から消え去って、悪夢だったのかとさえ思っていた時、元浜達とのエロDVD鑑賞の帰りに光の槍を持ったオッサンに襲われて、何とか撃退した時に現れた三年のリアス・グレモリー先輩に案内された旧校舎のオカルト研究部で俺は悪魔社会の事を教えられて、自分が悪魔になった事を知ったんだ。
俺が襲われた理由、其れは神様が人間に与えた
それから魔力が絶望的に足りない事を知ったり、チラシ配りをしたり、変な人達との契約(中には兄貴の知り合いが居た)をしたりと忙しい中、俺はある少女と出会ったんだ。
アーシア・アルジェント。癒しの神器を持つシスター服の美少女。彼女を教会まで案内した俺はグレモリー先輩こと部長にこっぴどく叱られた。もう会うなとも言われ、会えないと思ってたけど、契約先ではぐれ悪魔祓いってのに襲われて苦戦していた時に再会したんだ。
この時、俺は自惚れ出していたんだと思う。堕天使を撃退して、悪魔になって力も上がったし強くなれたと思い込んでいたんだ……。
「……だったら、今日から君と俺は友達だっ!」
次の日、忘れ物を取りに学校を出た時、俺はアーシアと出会い、寂しそうな彼女を放って置けなくて一緒に遊んで、彼女の事を聞いた。聖女と崇められ、悪魔を癒して魔女として追放された彼女はずっと友達が欲しかったんだ。だけど、俺は同情とかじゃなくって本当に友達だと思ったんだ。だからまた一緒に遊ぼうと約束したんだけど……。
「あら、其れは無理よ。探したわ、アーシア」
「レイナーレ様……」
彼女が、夕麻ちゃんがアーシアを連れ戻しに現れた。本当の名前をレイナーレていうらしい彼女は俺に手を出さない代わりにアーシアに大人しく付いてくるように要求して、アーシアは其れに従おうとした。
「……待てっ! アーシアはそんな奴の所に戻らなくて良いっ! もう君は我慢しなくていいんだっ!」
色々理由はあったけど、一番の理由はアーシアが助けを求める顔をしていたからで、其れを見た瞬間には考えるよりも先に体が動いていた。
「このっ! いい加減死になさいっ!」
やっぱりレイナーレは強くて俺は傷だらけになりながら必死に食らいつくのがやっと。だけど思っていたよりもダメージが大きくて、俺は膝から崩れ落ちてしまう。レイナーレは笑いながら光の槍を投擲して……アーシアが刺し貫かれた。俺は守ろうとしたアーシアに庇われて、最後にこっちを見て笑いながらアーシアは死んだ。
「良かった、イッセーさんを守れて……」
「アーシアっ! アーシアァァァァッ!!」
この時、俺は完全に頭に血が昇ってしまった。レイナーレが上を騙してとか叫んだり、時間ごとに急激に力が上がるのにも気付かずに戦って、気付けばボロボロの俺の前でレイナーレが気絶していた。
この後、駆けつけた部長がレイナーレを尋問したり、彼女の時の演技のまま命乞いして来たのを見て怒りさえ消え失せて一発殴って二度と姿を見せないように言ったりと色々あったけど、そんな事はどうでも良かった。
「イッセー…さん?」
「アーシアァァァッ!!」
俺と同じようにアーシアも部長が悪魔に転生させて蘇らせた。俺は困惑してる彼女を抱きしめてワンワン泣いた。声が枯れるまでずっと泣き続けたんだ……。
それから部長の婚約者とレーティング・ゲームをしたりして、最後には意識が朦朧としながらも殴り続けたら勝っていたりして、何故か部長まで俺の家に住みだしたりした。
あ〜、兄貴驚くだろうな。色々凄い人だけど一般人だもん。
『お前の話を聞く限りでは一般人とは思えんが?』
「いや、兄貴が凄いのは小さい頃からだし普通だろ?」
俺の神器に宿っていた凄いドラゴンのドライグはこう言うけど、兄貴は一般人だよ。そりゃ複雑骨折が数日で完治したり、小学生の頃に猪の突進を正面から受け止めたり、バイクと正面衝突してバイク側だけが損傷したりしてるけど、普通の人間だぜ?
『相棒。一度”普通”を辞書で調べろ』
変な奴。それより今日は兄貴が帰ってくる日だって聞いてる。どうも大切な話があるって事だけど……。
次回未定 感想来ないが書くのは楽しい
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