神は基本的に人間が好き。かつては神と人は身近な関係で、恋に落ちたりもしていた。でも、今は違う。人は神の助けを必要としなくなったから、私達はそっと見守る道を選んだの。
転んだ時、そっと手を差し伸べるのが優しさなら、一人で立ち上がれると信じて見守ってあげるのも優しさ。だから神話同士で話し合って極力人間には関わらないって事になったわ。其の取り決めの中には”女神は代償なしに人に力を貸しては駄目”ってのも有って、必死に祈られても力を貸せないのは歯痒かった。
でも、何時までも私達が人間に干渉していては駄目だって分かってた。あの好き勝手にしていたギリシア神話の神々も干渉をしなくなったし、聖書の陣営に関してはあくまで人間同士の争いだと関わらないようにしていた。下手に神々の争いになりにでもすれば被害が拡大するからって分かっていても、正義の神からすればモヤッとすることも多かったですけど……。
「……ごめんね。私にはどうにもできないの」
今日も神殿の近くの村の住民が捧げる祈りが私に届く。でも、病気が広まるのも自然の摂理。だから私が気軽に治すわけにはいかない。あの聞き分けの悪かった聖書の陣営でさえ聖女ジャンヌ・ダルクの時のような関わり方は長い間していない。神器を勝手に宿しているけど、人間を襲う存在が居るからって私達は何も言わないで居た。
本当は私も昔のように人間と関わりたい。”何時か”そんな日が来たら良いと思っていたわ……。
「何時か、なんて日はねぇぞ。何時にするか、自分で決めないと絶対にやって来ねぇ」
だから、その言葉を聞いた時は身体に電流が走った気分だったの。そうよね。自分で何時やるか決めないとそんな日はやってこない。簡単な話じゃない。
最初に其の存在に気付いたのは偶々だった。川に流されている子が居たから何か理由を付けて川の流れを変えて助けようと思ったのだけど、まさか迷わず飛び込んで助けちゃうなんて。
私はこれでも神としては最上級クラス。だから直ぐに分かった。彼は―――だって。きっとオーディンやギリシア神話の神も彼を見れば直ぐに分かるでしょうね。その日は何時かやって来る。
「仕方ないデース」
自分の管轄地の子を助けたからという理由を付けて私は彼を”保護”しようと思った。と言っても私が先に見付けたって印を付けるだけ。そうすれば彼に手が出し辛くなるから。そんな風に侮っていた。
……うん。まさか手加減しているとはいえ私相手に丸一日闘い続けるなんて予想外。しかも闘ってみて分かった。私、彼の輝きを見誤っていたわ。
最初は神としての興味。でも、闘ってみて其れは変わった。私、彼に恋をしていた。
「ヤー! 此処がレーカンの祖国なんですネ」
神と人間の価値観は違うから行き成り求婚しちゃった結果、取り敢えずお付き合いからって話に。実は彼も私に恋しちゃったんだって。うふふふ。幸せってこんな事を言うのね。
え? 人間への不干渉はどうしたって? あくまで個人として関わるなら黙認されるわ。彼に神の力で力を与えたり、彼を王にしようとかしなかったらセーフよ。
だから、日本について来ちゃった。勿論体験を共有している分霊でだけど。流石に最高位の神である私の本体が国を出るわけにはいかないもの。管轄している日本神話に話を通したら、基本的に来るもの拒まずだしオッケーが出たわ。
さて、これからご両親にご挨拶。私は戦いやら火や風を司る善神だけど、こういった事には慣れていない。でも、そんな私の不安を察したのかレーカンがそっと手を握ってくれた。
「安心しろ。俺の両親だ」
……そうね。何を不安になってたのかしら。彼を育てた人達なら善人に決まってマース。そう考えると嬉しくなって、思わず彼に抱きついていた。少し背が高めの私だけど、彼は更に頭一個分高い。だから自然と頭を胸で受け止められる形になった。
「おいおい、あまり人前でくっつくなよ、ハニー」
少し恥ずかしがっている声を出しながらも引き離される様子はない。もう少しこのままで居たいと思った時、話し掛けてくる人が居た。
「あれ? レーカン?」
「ヤッ、凄い数だったね.流石私のダーリン。人気者ネ」
「只のダチだよ、ダチ。気があっただけで人気とか関係ねぇよ」
あの後、レーカンに向かう途中で何度も彼の友人に会った。
「ふはははは! 久しいな。帰国したのか!」
やたらと偉そうな
「ほぅ、貴様が恋をするとは……何か悪いものでも食べたか?」
同じように偉そうな
「……これはチャーミングな! え? 貴方の彼女? それは失礼」
真面目そうだけど多分ムッツリの
兎に角他にも個性的な友達と会ったけど、彼は皆に好かれていた。きっと彼の持つ物に惹かれ……いえ、彼という個人に惹かれて集まったのね。女の子も多いのは少し嫉妬しちゃうけど……。
「ワオ! 大きいわね」
「……いや、増築したとは聞いてたけど……有り得ないだろ」
レーカンの家を私は驚きながら眺める。レーカンもまた豪邸になった実家に驚いていた。あっ、悪魔の仕業ね。家に住みだした女の子が居るって聞いてたけど、悪魔の気配がするもの。
「さっ! 行きまショウ!」
「そうだな。些細な事だ」
そんな事は後で考えれば良いし、今はご挨拶が優先ネ! 私はレーカンの後に続いて家に入り、其の儘リビングに通される。
其処でレーカンは包み隠さず全てを話した。私が神である事や、一日中戦った事。どうやら悪魔になっていたらしい弟さんもご両親も直ぐには言葉が出ないのか固まっていた。だから少し不安になったんだけど……。
「
「女の子の友達は多いのに浮いた話はないから心配してたのよ」
「しかも女神様とか凄いな。イッセーが美少女二人を連れて来た時よりビックリだ」
流石は彼の家族。私が神であると知らせても驚いた様子はない。むしろ私が驚かされた方。どんな子供時代を過ごして来たのかしら?
「……でだ、此処からが本題なんだけど……大学を出たら俺は日本を出る。向こうで此奴と一緒に暮らす積もりだ」
だからこそ、そんな家族から彼を引き離す事に今更ながら良心が痛む。いくら個人的な関係ならオッケーでも、私がこの国でずっと暮らすのは許されない。精々が彼が私と結婚するまで。
私の恋は彼から家族やあんなに多くの友達を奪う事になるってこの時まで気付かなかった。
「……そうか。なら、行ってこい。子供は何時か親の元を去るもんだ。女神様と結婚するなら心配は要らないしな」
「そうよ。私達は今まで貴方を精一杯愛した。だから胸を張って出て行きなさい。あっ、でも孫の顔を見せに帰って来なさいね? ……えっと、子供は生まれるのかしら?」
「え、ええ。生まれます……」
ああ、私は何を心配していたのだろう。人間が好きって言っておきながら何も分かっていなかった。例えどれだけ離れても家族は心で通じて居るって、私は今日知った……。
取り敢えずソロモンが聖夜の晩餐になりそう すごいペース
意見 感想 誤字指摘お待ちしています バルバトス復活求む 心臓欲しい
弓魔神の即死でまさかの苦戦でした 四体落とされたから