自称・崇高なる血統のカテレアがギルガメッシュに弄ばれている頃、神田宅の庭では剣術の訓練が行われていた。
「えぃやぁ!」
アーシアの剣が訓練用の人形に当たるとポフっといった音がして人形が僅かに揺れる。本人はいたって真面目にしているつもりなのだが、傍から見ると可愛らしいごっこ遊びにしか見えず、教官役のバルバトスも頭が痛そうに押さえている。
「全然ダメだぁ。やはり貴様に剣の素質はなぁい」
「はぅぅぅ」
何故彼女が剣の訓練をしようとしているかと言うと、自分も柳に守られてばかりではなく戦いたいと思ったからだ。なお、既に敵も気ずつ付けられないという弱点的優しさはバルバトス式ブートキャンプ(柳が子供の頃に受けたのよりソフトバージョン)によって克服し、先日セラフォルーにエアプレッシャーを放った時のような事が可能になった。
「……やはりお前は晶術を中心にしろぉ。まぁ、合気道などの力がいらん武術は覚えておくがいぃ」
「あっ、この前に連れて行って頂いた異世界で仲良くなった方から教えてもらった武術があるんですよ!」
「……やってみろぉ」
アーシアは訓練用の人形を睨むと駆け寄っていき、拳を振り抜く。
「まずは金的!」
全体重を乗せた右腕が人形の股間に当たり、後ろへ大きく揺らす。そして今度は左手を振り抜き、
「続いて金的!」
又しても美しいフォームで放たれた拳が股間に直撃。そしてアーシアは後ろへ向かってダッシュし、勢いつけて人形に駆け寄ると無駄のないフォームからの全体重を乗せた完璧な蹴りを放つ。
「それでこれがトドメの金的!!」
当然、股間にだ。最後に彼女は自分が一番イケていると思う(ダサい)ポーズを取り、声高々に叫ぶ。
「これがキャスターさん秘伝の奥義! 一夫多妻去勢拳!! 素敵な旦那様が浮気をした事を想像し、愛情を怒りに変えて拳に乗せて振り抜くべし!!!」
「おい、飯ができたぞ。……どうした?」
料理中の為、例の虫を気にしない為に心綱を切っていたエネルが庭に出ると顔を青ざめてアーシアを見ているバルバトスの姿があった。
「恐ろしい技だぁ……」
なお、エネルの格好は何時もの格好の上からエプロンを纏っていた。いったい誰得だと言うのだろうか?
その後、その話を聞いたギルガメッシュは大笑いしながら宝具の一つである、とある騎士の剣の鞘の原典をアーシアに授け、それは彼女の体の中に入っていった。
「夏休みに旅行? ……また修行の旅ですか?」
「たわけ。観光をしてその土地の名産品に舌鼓を打つ普通の旅行に決まっておろう」
「疑わしいですよ。今までもそう言って戦わされたじゃないですか」
それは夏休みも目前というある日の事、食卓の席でギルガメッシュから告げられた提案に柳は不信感丸出しの反応を示す。今まで旅行と聞かされて向かった先は歴史上の有名武将が全て女性になっている古代中国や正義の魔法使いを名乗る魔法使いたちがいる世界。他にもバルバトスさえも一撃で倒すハゲがいる世界にも行き、実戦訓練を行わされた。
「……そう言えば恋さん達は元気ですかねぇ、うぐっ!?」
修行の時に食事を作ったら仲良くなったアホ毛が特徴の少女の事をふと思い出した時、脇腹に痛みが走る。横を見ると満面の笑みで柳の脇腹をつまむアーシアの姿があった。
「……また女の人ですか。ゼノヴィアさんといい、セラフォルーさんといい、随分おモテになりますね。ふふふふふ」
「ご、誤解です! それに私が彼女に会ったのは十一の時ですよ。バルバトスさんに連れられていった修行先で知り合って、大規模な反乱が終わった頃までお世話になってただけですって!」
「……確か、勝手に呼ぶと首を刎ねられても文句が言えない程大切な二つ目の名前を呼ぶ許可を貰っていたなぁ。それも、殆どが女だったぁ」
「……少し戦闘訓練に付き合って頂けますか? 大丈夫。手加減致しますから」
「お、落ち着いて! まずは話し合いましょう!」
「ええ、お話しましょうしましょう。……拳で」
アーシアは肝の冷える笑いを浮かべながら柳の襟首を掴んで何処かへ引きずっていき、バルバトスはそっと手を合わした。
「……所で旅行は何処へ行くのだ?」
「冥界だ! 我がオーナーを務めるレジャー施設『わくわくざぶ~ん』の開園も間近なのでな。それに、カジノやホテルも我の所有物が冥界にあるぞ。まぁ、ホテルはサーゼクスとやらのホテルの株を買い取って我好みに改修しただけだがな。そして勿論今回の旅費は全て我が出す! 感謝するが良い、貧乏人どもよ!」
そして夏休みが始まり八月頃、ついに旅行の日がやってきた。アーシアは白のワンピースといった普通の格好だが、ギルガメッシュは何処のホストだと言いたくなるような金ピカのスーツ。バルバトスはサングラスにアロハシャツとハーフパンツと海が似合う格好をしており、エネルはマトモな姿をしていた。
「では、行くぞ!」
ギルの宝具である空飛ぶ船『ヴィマーナ』に乗り込んだ一行はバルバトスの能力で時空の壁を渡り冥界へと向かった。本当なら乗り物に乗る必要はないのだが、ギル曰く『形式美だ。それとも我に徒歩で旅行に赴けと?』らしい。
一方その頃、リアス達も冥界に向かっていた。彼女達が乗っているのはグレモリー家所有の列車だ。その列車にはアザゼルも同行していた。
「そういや柳達も冥界に旅行に行くんだとよ。向こうで会うかもな」
「……私は会いたくないわ。お兄様達へのあの態度はなんなの!? 朱乃、貴女もそう思うでしょ?」
リアスはギルガメッシュの発言に憤慨しながら朱乃に話を振る。しかし彼女は何か考え事をしているのか上の空で返事をしようとしなかった。
「朱乃さん。どうかしたんですか?」
「……え、ええ! 少し考え事をしていまして。実は昔のアルバムを見てたら懐かしい写真が出てきましたの。初恋の男の子と一緒にとった写真なのですが」
朱乃がそう言って大事そうに取り出した写真。其処には朱乃とみられる幼女と幼い少年が写っており、朱乃はその少年にベッタリくっついていた。そして少年の隣には何処かで見た事のあるような幼女も写っており、朱乃に対抗するように少年に抱きついている。
「ぐぐぐぐぐっ! この歳でモテモテかよ……」
流石に朱乃の大切な写真なので握り締めはしなかった一誠であるが表情は少年への嫉妬で歪む。それを見たリアスは嘆息を吐くと一誠を後ろから抱き寄せた。
「はいはい、嫉妬しないのイッセー。……この男の子、誰かに似てない?」
リアスは写真を覗き込んでそんな疑問を口にする。すると、朱乃は少し言いにくそうに口を開いた。
「……実は昔の日記にこの二人の事が書いてありまして、なぜか忘れていた名前を思い出しましたの。女の子の方は桜ちゃんと言ってこの男の子の妹なんですの。大のお兄ちゃんっ子で何時も後を着いて来てましたわ。そして、男の子の名前は……柳。神田 柳といいました……」
『!?』
その言葉を聞いてリアス達は写真の男の子をジッと観察する。言われてみれば先ほど話題にしていた少年を幼くしたらこうなるだろうっという容姿だった。すると先程から黙って話を聞いていたアザゼルが近づいてきて口を開く。その顔は真剣そのものだった。
「……そいつは確かにあの柳だ。それで、それを聞いたお前はどうするんだ?」
「やっぱり! 少し前からもしかしてとは思っていましたが、あの方が『やっくん』でしたのね!」
アザゼルの言葉を聞いた朱乃は嬉しそうな顔をして写真をそっと抱きしめる。彼女の頭の中にあるのは次ぐ次々に思い出される幼い頃の思い出。だが、その表情をみるアザゼルの顔は複雑そうだった。
「こうしてはいられません! 向こうであの方に会ったら昔の話を致しませんと。ふふふ、懐かしいですわ」
朱乃は楽しそうにそう呟く。その顔はまさしく恋する乙女のそれであり、彼女の中には幼い頃の恋心が蘇っていた。思い返すのは幼い頃の夢のような時間。朱乃は昔の思い出に浸り、
「止めとけ。多分ロクな結果にならねぇ」
「……え?」
アザゼルの言葉によって現実に引き戻された。
「ちょっと、アザゼル! ロクな事にならないってどういう事!? そりゃ、柳は悪魔が嫌いっぽいし、もう恋人がいるけど、幼馴染と昔話くらい……」
「……そういう事じゃねぇんだ。アイツが悪魔が嫌いなのは家族をハグレ悪魔に殺されたからなんだが……。いや、やめておこう。別に口止めされてねぇが。朱乃、お前には辛い内容だ」
「どういう事ですの!? 構いませんから教えてください! じゃないと納得いきませんわ!」
「……アイツの家族を殺した悪魔はアイツの家に行く前に一人の堕天使と遭遇し、子供の姿だったのを利用して見逃して貰ったんだ。そしてその後、アイツの家族はその悪魔に喰われた。……そしてその堕天使の名はバラキエル。お前の親父だ。分かるだろ? アイツにとってお前は幼馴染であると同時に、家族の死因となった奴の娘なんだ。……だから、アイツとはあまり関わんな。お互いに辛いだけだ」
「そんな……」
「朱乃!? しっかりしなさい!」
アザゼルの言葉を聞いた朱乃は顔を青ざめヘナヘナとその場に崩れ、そのまま気を失った……。
意見 感想 誤字指摘お待ちいたしてます
本編ではリアスと一誠と祐斗がまともで他は魔改造でしたが、こっちではアーシアが大変な事に
ギルの宝具に鞘みたいに最高ランクの英霊のは入ってないよ ってツッコミの受付期間は過ぎました。