「アイツについて訊きたいって、あの馬鹿、また何かしたんですか!?」
コカビエル襲来から数日後、リアスとソーナが同席する部屋に呼び出された匙は理沙について聞きたいと言われ、開口一番にそう叫んだ。どうやら昔から彼女が頻繁に何かをやらかし、匙が巻き込まれてきたらしく、彼は頭を押さえ込んでいる。
「サジ、落ち着きなさい」
「何もやってないわ。ほら、あの子がコカビエルを倒したでしょ? 魔王様方にあの子の事を報告しなきゃいけないのよ。あの子ってどんな子なの?」
「変な奴です。付き合い長いですけど未だに何を考えているか分からないんですよ」
匙は真面目な顔で即答した。
「……まぁ、良いでしょう。それであの剣はどうやって手に入れたものなのですか?」
「あ~、アレは当時の俺がアイツととツチノコを探しに行った時のことっすね」
匙はしみじみと幼い頃の話をし始めた……。
「逸れたアイツが、魔女の幽霊から貰った、って言いながらあの剣を持って来ました」
「「それだけ!?」」
匙が二人に呼び出されている時、理沙は一人で昼食を摂っていた。これは別に彼女がボッチという訳ではなく、ギグと話をしながら食事をする為だ。だが、なにか様子がおかしい。先程からギグの必死の叫びが響いていた。
『や、やめろ相棒! 喰うな! 喰うんじゃねぇ!』
「……嫌。お腹空いた。食べたい」
『相棒ぉぉぉぉっ……』
ギグの必死の懇願を却下した理沙はゆっくりと口に含んだ物を咀嚼して飲み込んだ……。
『あ~、すっぺ~! 止めてくれって言ったじゃんかよぉ。酷いぜ、相棒』
「ギグって本当に梅干嫌いだね」
理沙はそう言って次のオニギリに手を伸ばす。今度の具はギグも好きなツナマヨだったので特に何も言われずに済んだ。理沙とギグの感覚の共有。普段は困らないが今回のように嗜好が違う時には困った事になる。普段はギグ第一の理沙ではあるが、食べ物に関しては決して譲らない。その後も黙々と食べ続け、重箱の中のオニギリをすべて食べ尽くした理沙は微睡みに身を任せる。
「……お休み、ギグ」
『おう。お休み、相棒。予鈴が鳴ったら起こしてやっからゆっくり眠りな』
ギグは理沙のみに向ける優しい声でそう囁き、理沙の意識は静かに沈んでいった。
「……俺はアイツを幼い頃から見てきたんっすよ。だから俺はアイツを守りたい。会長の眷属になったのもその為です」
その頃、匙は真面目な顔で小っ恥ずかしい事を語っていた。
「……どうやったらギグを外に出せるのかなぁ」
『俺は今に十分満足してるって言ってんだろ? それとも相棒は今の状態が嫌なのかよ?』
「……嫌じゃないけど」
その夜、理沙はベットに入りながらそう呟いた。二人は常に一緒に居るし話もできる。まさに一心同体の二人だが、互いに顔を合わせる事も、互いの体温を感じる事もできない。理沙は溜息をつくと電気を消し、そっと目を閉じる。
「剣の中の子を出す方法が知りたいの? なら、私が教えてあげようか?」
「貴方は……」
そこには理沙に剣を渡した魔女、ルジュが微笑みながら浮かんでいた。
「……授業参観かぁ」
『あん? 爺さんにでも来てもらえば良いじゃねぇか』
数日後、授業参観のお知らせのプリントを渡された理沙は複雑そうな顔で帰宅していた。ギグは気楽に言うが理沙の祖父はヤクザの先代組長であり、両親が死んだ今もそちらの世界に巻き揉まない為に生活費を毎月振込み、たまに会うだけにしている。
「……お祖父ちゃんは駄目。あの人見た目が怖いから、他の来た人に怖がられたら可哀そう」
『……そうか。なら、俺が代わりに見ててやるよ』
「……有難う、ギグ」
普段あまり表情が変わらない理沙だが、この時の彼女はかすかに微笑んでいた……。
「……忘れてた。組員の人の子供も通ってるんだった」
「祖父ちゃんに隠し事なんて水癖ぇじゃねぇか、理沙ちゃん」
授業参観当日、教室に居た祖父を見て理沙は溜息をつきながらも内心は喜んでいた。やはり彼と彼の息子である叔父と従姉妹を除いて彼女には身内がいない。故に祖父である次郎吉が参加してくれたのが嬉しかった。次郎吉も何時もの着物ではなくTシャツにジーンズという服装で多少強面の老人にしか見えず、理沙が当初心配していたような事もなく授業は過ぎていった。
「今夜は何食べに連れてってやろうか?」
「……中華」
「おう、任せとけ! 良い店知ってんだよ。北京ダックが自慢の店でな……なんか騒がしいな」
午前の授業も終わり昼休みになった頃、理沙と話をしていた次郎吉は騒ぎに気付いて其処に視線を向ける。何やら騒いでいる集団があり、其処には彼が見知った少年もいた。
「……彼処にいんのは元坊じゃねぇか。ああ、確か生徒会に入ってんだったか?」
「うん。多分会長に惚れてるんだと思う。……お昼行こ。お祖父ちゃんの分もお弁当作ってきたから」
「おお! すまねぇな。いや~、楽しみだ」
騒いでいる孫娘の幼馴染より孫娘の手料理を優先した次郎吉はそのまま騒ぎから離れていく。その二人の背中を見ている者舘がいた。
「……あの子が死神憑きの少女か」
「なんか思っていたより普通だね✩」
二人の名はサーゼクスとセラフォルー。冥界を支配する魔王である……。
「……会談に出て欲しい? 面倒臭い」
「そ、そこを何とかならないかしら?」
理沙は頼みを速攻で断り、リアスは顔を引きつらせながらも食い下がる。コカビエルの襲撃を機におこわなれる今回の会談には彼女の出席が望まれているのだ。その為リアスは必死に頼み込み、つにに堪忍袋が破れた。
……ギグの。
『……しつけぇよ、ゴミ虫が! おい、相棒! 今回は代価無しで良いから暴れっぞ! ギグパワー全注にゅ……』
正確に言うと今回もだ。
「駅前の老舗和菓子屋の桜餅十個!」
「……わらび餅も十個」
「構わないわ。……匙君に聞いたとおりね」
だが、理沙はお菓子で釣られ出席を承諾する。あと少しで全力を出す所だったギグは不完全燃焼に陥り、モヤモヤした気持ちに包まれた。
『そりゃねぇぜ、相棒ぉぉぉぉぉぉぉ! ……栗むし羊羹もつけろ』
その夜、ギグはお腹いっぱい食べて眠そうにしている理沙に怪訝そうに話しかけた。
『……なぁ、相棒。なんで会談の事を承諾したんだよ? いくら甘いもの好きのお前でも。……まさかあの魔女が言ってた事信用してんじゃねぇだろうな?』
「……ギグが外に出られる可能性があるなら、私はそれに縋りたい」
ルジュは理沙にこう言った。
「中に居る豚を出す方法? 下らんな! その程度の事など簡単だ。その剣の力で魔王クラスの奴を沢山喰らって、その力をその豚に渡せば良いだけだ!」
意見 感想 誤字指摘お待ちしています
クレスがセラフォルーの息子だったらってやつ、もしかしたら書くかも
ヒロインは気弱系のヴァーリの妹にしたり 眷属一新して……