ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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悪魔の力を手に入れました…… ③

「焼き鳥5人前と生大ジョッキお待たせしました!」

 

もうすぐ夏休みといった頃、久しぶりに残業がなかった薫は友人二人と共に飲みに来ていた。既にテーブルの上は大量のジャッキやグラスで覆い尽くされており、三人が大酒飲みである事を示していた。

 

「それにしてもかー君と飲みに来るのは久しぶりだね、ちーちゃん」

 

「……いい加減かー君は辞めてください。私は今年で23ですよ? 貴女達もっ!?」

 

同い年でしょうっと言おうとしたその時、薫の脳天に肘が打つ込まれる。年の話はするなっという事らしい。先ほど薫をカー君と呼んだのはどこか浮世離れした感じの女性。肘を打ち込んだのは見るからに厳しそうな女性だ。なお、二人共ナイスバディの美人であり、相手の居ない男性陣からは薫に殺気が送られていた。

 

「それにしても、まさか私達三人とも教師になるとはな。……束が対人の仕事を選んだのが一番驚いたぞ、あっ、芋焼酎もう一杯」

 

「飲みすぎですよ、千冬。体育教師が二日酔いで動けないなんて情けないザマを晒さないでくださいね」

 

「……ふん。貴様らこそ飲みすぎじでなないのか? 貴様は朝一で数学の授業だと言ってたではないか。束も明日は実験があるのだろう? 薬品の調合ミスをするなよ」

 

そう言って千冬と呼ばれた女性はカクテルを一気に飲み干す。束と呼ばれた女性は彼女の言葉に頬を膨らませており、年相応の落ち着きが無さそうな印象を与えた。

 

「ひどいよ、ちーちゃん! この天才の束さんがそんなミスする訳無いじゃん!」

 

「……高校生の時に貴女から貰った特性の栄養ドリンクが私を何日下痢にさせたと思ってるんですか。っと、もうこんな時間ですね。明日も生徒会の会議があるので此処で失礼します」

 

薫はそう言って席から立ち、財布から自分の飲んだ料金より少し多めに金を出すとテーブルの上に置く。だが、行こうとしたその手を束が掴んだ。

 

「え~! もうちょっと良いじゃん! もっと一緒に飲もうよ~! もう二三件ハシゴしようよ~! そのあとホテル行こ……痛たたたたたたたたた!? ごめん、冗談! 許してちーちゃん!!」

 

「この馬鹿には私からちゃんと話をしておくから行け。また暇ができたら電話しろ、何時でも飲みに付き合うぞ」

 

「ええ、それでは」

 

千冬のアイアンクローで束の頭から変な音がしだす中、薫は居酒屋から帰路に着いた。その途中、一人の男が彼を呼び止めた。

 

 

 

 

「よう! お前がブックマスターか?」

 

中年くらいの和服を着たその男性を見て薫はすぐ人間でないと感じ取る。グリモアの影響かそういう気配に敏感になっているのだ。すぐさま本を取り出した薫に対し、男性は笑いながら戦う意志がないと言うように両手を上に挙げた。

 

 

「そう警戒すんなって。ちょっとコカビエルを倒し、ヴァーリに呪いをかけた奴の顔を見に来ただけだって」

 

「……ああ、彼の身内ですか」

 

薫が突如現れた不審な鎧の男性に『暴露』の力で強制脱糞の呪いをかけた時、彼は窓ガラスを破ってトイレに駆け込んだ。当然夜勤の薫が後始末や面倒くさい説明をしなくてはならず、つい大人げない制裁をしてしまったのだ。

 

 

 

 

「……流石にアレはやりすぎでした」

 

薫はやった事。それはバケツの水を上からかけてトイレットペーパーを使い物にならなくし、電気を消した上で彼が知るトイレの怪談を延々と聞かせた事だ。途中どこからか現れた赤い服のおかっぱ頭の少女に、

 

「大人げないよ」

 

っと言われるまでそれは続き、薫が振り返ると少女はいつの間にかいなくなっていた。

 

 

 

 

 

「……っぷ。いや、気にすんなって。誰でも敵の増援だと思うだろ。それに呪いに掛かったアイツがワリィんだ。にしても思い出しただけでも笑えるぜ。クックック。おっと、名乗るのが遅れたな。俺の名はアザゼルだ」

 

そう言って男性は背中から十二枚の黒い羽を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……先生の所にも現れたのですね? 聞けば兵藤君にも依頼人として何度も接触があったとか」

 

「アザゼルの名はアジュカから何度か聞きましたが……私のグリモアって神器じゃないですよね。彼の興味の対象外なんじゃ……」

 

翌日、薫がアザゼルと会った事をソーナに話した所、彼女は真剣な顔つきで悩みだした。

 

「いえ、先生の持つ本は悪魔なら触れただけで死ぬ事すらあります。恐らく勧誘ではないでしょうか? しかし、そんな事をすれば悪魔と敵対しますっと言っているようなものですし……」

 

「まぁ、事が起こってから考えましょう。それよりも来週の授業参観についてですが……」

 

まだ目的が分からない以上、行動のしようがないっということで話は生徒会の業務へと移っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……コスプレ撮影会?」

 

「ええ、そうなんっすよ。とりあえず注意しに行きましょう」

 

授業参観当日、生徒会役員の匙から報告を受けた薫は彼に案内されてその場所に移動する。すると魔女っ子のコスプレをした少女がカメラを持った男性達に囲まれてポーズをとっていた。

 

 

「……なんででしょう。知り合いと同じ属性の気がします。……っと、匙君。どうやら悪魔のようです。それも純潔ですね」

 

「いぃ!? マジっすか!? ……グレモリー先輩の所は赤髪が特徴らしいから……」

 

彼の脳裏をよぎったのは不思議の国のアリスのような格好を好む幼馴染の顔。もう一人の幼馴染と彼女に彼は振り回されてきた。そして目の前の少女も同じような人間に見えたのだ。そして彼女が純潔悪魔らしいと香るから聞かされた匙はそれが誰か察した。

 

「……とりあえず解散させましょう」

 

「……っそうっすね。ほらほら、解散解散!何を騒いでるんだ!今日は公開授業の日なんだぜ!」

 

匙は周りの人を追い払うとコスプレ少女にオズオズと尋ねる。

 

「あの~、会長のお姉様でしょうか?」

 

「そうだよ✩ 私がソーナちゃんの姉のセラフォルー・レヴィアタンだよ! レヴィアたんって呼んでね♪」

 

あまりの事態に匙は固まり、薫も言葉を失う。そんな二人の様子にも気づかずセラフォルーは再びポーズをとっていた。

 

 

 

 

「……とりあえずここは学園ですのでそのような格好はお控えください」

 

「え~!? これが私の正装だよ✩」

 

「お着替えください」

 

「だから~」

 

「お着替えください」

 

「……うわ~ん!!」

 

無表情で言葉を続ける薫にしばし抵抗したものの、ついに堪えきれなくなりセラフォルーは泣きながら逃げていった。

 

 

「何事ですか?サジ、問題は簡潔に解決しなさいといつも言って……」

 

「……会長のお姉様が魔女っ子のコスプレ撮影会をしてて、先生が格好を注意したら泣いて逃げ出しました」

 

「……何も異常ありませんでしたね。先生も匙も何も見てませんね?」

 

「「は、はい!」」

 

ソーナのあまりの迫力に逆らえず、二人は脳内メモリからセラフォルーの事を消し去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? 同年代の同僚に子供いるんですよね? だったら彼女も子供が居てもおかしく無い歳なんじゃ……」

 

「誰の事ですか?」

 

「……イエ、ナンデモアリマセン」




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薫は途中で『絶望』の力を使い精神をガリガリ削りながら怪談を続けました


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