ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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悪魔の力を手に入れました…… ⑤

篠ノ之束。彼女は二十三歳で教授として数々の実績を上げている天才だ。もっとも、その才能は学術のみに向けられていたが……。

 

「呆れましたね。研究のし過ぎで食事を忘れ、何か食べようにも冷蔵庫の中は空。そのうち死にますよ、束」

 

薫が緊急の呼び出しを受けて彼女の研究室兼自宅に行くと空腹で倒れている束の姿があった。人間嫌いの彼女は幼馴染である薫・千冬・ウエイバーの三人以外には心を開かず、助手の一人も居ないのだ。

 

なお、家事は壊滅的にダメである。

 

「えへへ~♪ だったらかー君が毎日ご飯を作ってよ。ほら、私ってお買い得だよ?」

 

束は塩味が効いた中華風味のお粥を啜りながら自分の顔を指差す。薫は溜息を吐きながら差し出された空のお椀を受け取るとお粥を並々と入れた。

 

「……それも良いかもしれませね。っていうか、束は私かウエイバー位しか結婚相手の候補がいないでしょう」

 

「ぶぅ~! 私は三人以外しか興味ないんだって。……今、なんて言ったの? それも良いって? やったぁぁぁぁ! ねぇねぇ、式はいつ上げる?」

 

「食べてる時は立ち上がらない! ……あくまで、良いかもしれない、です。じゃあ、私は行きますね。今日は会議があるんですよ」

 

薫は食べ終わったお椀と鍋を洗うと数日分のオカズを冷蔵庫に入れ、学校へと向かう。その日は三大勢力の会談の日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(しかし、私って場違いですよね)」

 

薫は魔王や大天使といった異常な存在が平和について話し合っているのを見ながらそんな事を考える。コカビエルを討伐したのは彼だから仕方のない話だが、普段は理事長であるサーゼクスの仕事を押し付けられくらいしか裏の世界に関わってないので実感が湧かないのだ。そんなこんなしている内に会談は進み、同盟が結ばれる事となった。

 

「……んじゃブックマスターに質問と行こうや。なぁ、お前はその力を使ってどう生きる気だ?」

 

「この本の力を使ってですか?」

 

薫は急にアザゼルから話を振られ、思わずグリモアを取り出す。すると、悪魔達は一斉に壁際に飛び退いた。本に触れた悪魔はその実力に関わらず重い罰を受ける。腕が捻じれ、体中から血が噴き出し、時には五臓六腑を辺りにブチまける。

 

悪魔は本能的にグリモアに対する恐怖心を持っており、サーゼクスやグレイフィアでさえも顔が引きつっていた。

 

「……すみません。ああ、私の望む生き方に本は必要ありませんよ。普通に働いて、たば……好きになった女性と結婚し、生まれてきた子供を見守り、歳をとったら孫に囲まれ、自宅で静かに息を引き取る。そんな普通の幸せが私の望みです。それを邪魔するというのなら本の力を使いますけどね。それ以外では極力使いません。……まぁ、仕事を押し付けてくる理事長は息子さんの前で脱糞させてやろうかと思ってますけど」

 

満面の笑みを浮かべた薫に対し、サーゼクスは冷や汗をダラダラと流している。その時、学校内の時が停まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? さっき何か有ったような」

 

「お、少し遅かったけど復活したか。やっぱ本のおかげか? テロだよ、テロ」

 

薫が復活したのは時が停まってから数分後、校庭では魔法使いっぽい格好をした集団と木場達が戦っている。そして、会場内に魔方陣が出現した。

 

「旧レヴィアタンの紋章……」

 

「首謀者のお出ましって訳か」

 

魔方陣が光り輝き、中から一人の女性が出現する。彼女は胸元を大きく開け、深いスリットを入れている服を着ていた。

 

「ごきげんよ―――」

 

「取り敢えず『暴露』」

 

その瞬間、校庭中の魔法使いと自信満々に挨拶をしていた女性が腹を押さえて蹲った。

 

「……お前、えげつねぇな」

 

「いや、敵の前で隙を見せる方が悪いと思いますよ?」

 

「……サーゼクス様。早く捕らえて……トイレに行かして差し上げませんか?」

 

「……うん、そうだね」

 

微妙な空気の中、今回のテロの首謀者が捕まり、襲撃してきた魔法使い達も捕らえられた。裏切ろうとしていた奴が居たが……何か裏切ったら社会的に死にそうな気がしたので辞めたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、和平協定は正式に結ばれ、学園の名前を取って駒王協定と名付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、今日から同僚だな!」

 

「……なんで貴方が?」

 

数日後、宿直明けで帰宅しようとしていた薫はアザゼルと出くわす。話を聞くと一誠達の指導の為に教員となったらしい。

 

「失礼ですが教員免許は持っていませんよね?」

 

「まぁな。ソーナに仕事を頼んだら教員しか残っていなくてよ。ま、女子高生でも食いまくるとするぜ」

 

「……そうですか。では、私はこれで」

 

薫は少々眉を顰めながらその場を立ち去る。アザゼルから見えない場所で本を出し、『淫奔』と呟きながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れから暫くの間、アザゼルのアレは役に立たなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

if・もしヴァーリが裏切っていたら……。

 

 

 

「うわっ!?」

 

薫は身の危険を感じて咄嗟に伏せる。先程まで彼の頭があった場所を強力な魔力が通過した。

 

「……このタイミングで裏切りか、ヴァーリ!」

 

アザゼルは薫に魔力を放ったヴァーリを睨む。だが、白い鎧を身に纏った彼は薫の方をジッと見て、アザゼルには反応しなかった。

 

「その本の力は厄介だ。そして、戦って楽しい部類の力じゃない。だから君には此処で死んで貰うよ」

 

「暴…ッ!」

 

ヴァーリに腹痛を起こさせて無力化しようとした薫であったが、ヴァーリが放った魔力を避けるので精一杯で呪文が唱えられない。

 

「フハ、フハハハハハ! 何だ、結構動けるじゃないか! それもグリモアの恩恵かい? その本にはどれだけの力が隠されているんだろうね。いやはや、君に少しは興味が湧いてきたよ」

 

「いえいえ、この力使うと後でキツいんですよ。君の力は敵の弱体化でしたっけ? ……な~んだ。弱い敵としか戦えないんですね。臆病者のヴァーリちゃんは自分を主人公にした主人公最強物の小説でも書いていてくださいよ。どうせ敵を弱くしてからの”俺ツェェェェェ”しかできないんですから。ププッ!」

 

「……何だと?」

 

『その言葉、俺への侮辱と取るぞ人間! ヴァーリ、覇龍だっ!!』

 

ヴァーリは額に青筋を浮かべ、体中から本気の魔力を放つ。そしてアルビオンも怒り出し、ヴァーリは呪文を唱えだした。

 

「我目覚めるは……」

 

「暴露」

 

当然、隙だらけなので薫は呪文を唱える。

 

「ふぐっ! 覇の理に全てを……」

 

すかさずヴァーリの腹を下した薫であったが、ヴァーリは歯を食いしばりながらも呪文を唱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、暴露暴露暴露暴露、最終奥義ファイナルビックベン!! ついでに寝て下さい、誘惑!」

 

続け様に強制脱糞の力を喰らい、トドメとばかりに睡眠への誘惑を受けたヴァーリは呪文を唱えるのを辞め、

 

 

 

 

 

……精神的と社会的に死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、傍観していた貴方達も後で何か掛けて良いですか? バトル漫画じゃないんだから数で潰しましょうよ」

 

この後、薫の預金残高が大幅に増え、サーゼクス達の精神的と社会的な死は回避された。


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