「じゃあ、続いてのナンバー行くわよ!!」
三大勢力の会談はテロによって中断され、テロ級の音痴によって阿鼻叫喚の場へと変貌していた。今無事なのは歌っている二人と柳と殺せんせー。そして小猫のみだ。
「良いですよー! よっ! トップアイドル!」
「ピューピュー♪」
「ぶらぼー」
柳はどっから出したのか応援旗を振り回し、殺せんせーは指笛を吹き、小猫は拍手を送る。そしてほかのものは死屍累々といった様子だ。
「ねぇ、柳。アイツ等寝てるけど、どうしてかしら?」
「うむ! 全く失礼な奴らだ!」
自分達が無差別破壊テロ級の超絶音痴である自覚がない二人は不機嫌そうに頬を膨らませる。その姿は年相応でとても可愛らしかった。
「ええ、恐らくお二人の歌がとても素晴らしいので昇天したのではないでしょうか? または人外だからお二人の歌の素晴らしさが理解できない、とか? あ、帰りに食事でもしていきません? 曹操が良い店教えてくれたんですよ。二天龍より強い店主がやってる蕎麦屋なんですけどね……」
っと其処まで言った所で柳は身を逸らす。その横を消滅の魔力が通り過ぎていた。放たれた方を見ると、一誠とアーシアとゼノヴィア以外のグレモリー眷属がフラつきながらも立ち上がっていた。
「……甘かったわね。小猫が居るから音痴には慣れてるのよ!」
「っ! 部長っ!」
リアスが叫んだ瞬間、彼女の上に影ができる。祐斗がリアスを抱えてその場から飛び退いた瞬間、先程までリアスが居た場所にエリザベートの槍が叩きつけられた。
「……音痴? 私達が音痴ですって? 子リスの分際でっ! 悪魔の分際でっ! ゴミの分際でっ! あ~、もう! 頭が痛いじゃないっ!」
「な、何っ!?」
エリザベートは突如癇癪を起こしたように叫びだし、リアスはその様子に唖然とする。
「部長、今ですっ!」
「そ、そうね!」
祐斗の言葉に我に返ったリアスはエリザベートに向かって滅びの魔力を放ち、その魔力は槍で簡単に振り払われる。槍には傷ひとつ付いていなかった。
「何それ? 本気でやってる? あ~あ、ぶっ殺したなるわねっ!」
エリザベートはそのままリアスに向かって槍を突き出し、祐斗が咄嗟に間に入って剣で防ぐも、
「本気でやってる?」
あっさりと吹き飛ばされた。
「……退屈ね。ねぇ、もう帰らない? 紅茶が飲みたいわ」
エリザベートは退屈そうに欠伸をし、柳は何処から出したのかティーポットとティーカップを用意すると暑い紅茶を入れる。受け取ったエリザベートは美味しそうに紅茶を飲みだした。
「はいはい、あと少し我慢していて下さいね。今日は英雄派を代表して宣戦布告をしに来たんですから」
「そうだぞ、エリザよ! それに此奴は
「……ちょっと待ちなさい。柳が誰の、ですって? あの子は世界一の歌姫である私の付き人で、一番のファンなの!」
何時の間にか二人の間に険悪なムードが流れ出す。再びチャンスだと判断した祐斗が剣を構えるも、突如周囲を複数の殺せんせーが囲んでいた。その手には先程まで祐斗が握っていたはずの剣がある。
「駄目ですよ? 今日の我々は宣戦布告だけをしに来たんですから。おっと、申し遅れました。私は……殺せんせーと呼ばれております。
「くっ! 分裂かっ!」
「いえいえ、タダの超スピードです」
警戒した祐斗に対し、殺せんせーの顔はナメた時の色になった。
「むむっ! 其処まで言うのなら何方の方が奏者とラブラブが競い合おうではないかっ! まぁ、余に勝てるはずがないがなっ! 聞いて驚くなっ! 余は一昨日奏者に背中を流して貰ったのだっ!」
「な、なによっ! 柳が入っている所に突入して貞操を寄越すか背中を流すか迫られたって聞いたわよ! は、裸を見られたからって偉そうにしないでよ! わ、私なんて子供がどうやったら出来るかを勘違いしているからって……」
エリザベートは其処で顔を真っ赤にする。心なしか湯気が出ているように見えた。
「な、なななっ!? 何をしたのだ、奏者っ!? まさか此奴を抱いたのかっ!? 違うと言ってくれ。泣くぞ? 余は本気で泣くからな?」
「……抱いていませんって。ただ、ジュースと間違ってワインを飲んでしまって酔っ払った勢いで悪乗りしてしまい……。膝に乗せて尻尾と胴体を抱きしめた上で殺せんせー秘蔵の無修正物を最後まで……」
「ニュルフェェェェェェッ!? ま、まさか隠していたDVDが粉々になっていたのは……」
「わ、私が砕いたわっ! 此れだから男って嫌っ! あと、柳! 私を辱めた責任は取りなさい! ぐ、具体的に言うと……キャッ!」
エリザベートは真っ赤に染まった顔を両手で覆い、顔をブンブンと振っている。柳がどう返せば良い物かと迷っていると、突如ネロに胸ぐらを掴まれガクガクと揺らされた。
「奏者ぁぁっ!! どういう事だ!? 余は膝の上に座らせて貰った事などないぞっ!? ええぃっ! 今晩座らせて貰うからなっ! ……あと、耳掃除も頼む。ついでに今晩も背中を流せっ!」
「クソッ! イケメン死ねっ!」
「うぅ、頭がガンガンしますぅ」
この時になって最近漸く小猫の音痴に慣れてきた一誠とアーシアが復活する。なお、他の者はまだ悶えている。一誠はこんな場所でラブコメを繰り広げている柳に嫉妬し、背中のブースターを吹かせながら突撃した。
「っ!」
柳が気付いた時にはすぐ目前まで一誠が接近しており、柳の顔面向かって拳を振り抜く。辺りに鮮血が散った。
「……ふぅ、ビックリしましたね」
「がっ……」
無傷の柳は汗を拭い、脇腹から血を流した一誠はその場に倒れこむ。強固な赤龍帝の鎧は柳が手にした槍によって簡単に貫かれていた。
『ば、馬鹿なっ! 大丈夫か、相棒!? それにしてもあの槍が触れた瞬間、その箇所だけ鎧が……まさかっ!』
「気付いた様ですね。私の槍の名はゲイ・ジャルク。魔法や異能を消し去る力を持つ槍です。まぁ、本来は長槍ですが、殺せんせーが短槍にしてくださいました。もう一つの武器を扱う為に……なっ!? 桜?」
一誠を回復させようと慌てて寄ってきたアーシアの姿を見た柳は固まる。瓜二つとまでは言わないが、アーシアは死んだ妹に似ていた。
「しっかりせぬか、奏者! あやつは貴様の妹ではないっ!」
「はっ!」
柳を我に返したのはネロの叫び。柳は迷いを振り払うかの様にに顔を振り、サーゼクス達の方を向いた。彼らも漸く回復してきたのか、頭を押さえな型も立ち上がった。
「……そろそろ時間ですね。オーフィスがお腹を減らしてやって来る頃合いですし要件を告げます。我々、英雄派の目的は貴方達、三大勢力から人間を解放する事。悪魔の駒や神器とかでいい加減迷惑しているんですよ。では、私達はこれで。……殺せんせー」
「はいはい、分かっていますよ」
何時の間にか殺せんせーの手には柳達が抱かれており、次の瞬間には結界をブチ破って遥か彼方に消え去った。
「……奏者よ。幼馴染や妹に似た少女と戦うのが嫌なら戦わずとも良いのだぞ? 其方は余が守る」
「そうよ。貴方は私達の中で一番弱いんだから無理しなくて良いのよ?」
ネロとエリザベートは柳を心配して気遣うが、柳は顔を横に振った。
「いえ、私も戦います。貴女達ばかりに戦わせられませんよ。……家族ですから」
「流石だ、奏者よ! ええぃ、愛い奴めっ! 余の婿に来ると良い♥」
「ちょっと、いい加減にしなさいよ! 此奴は私の彼氏なのっ!」
柳の両脇で二人は睨み合い、殺せんせーは、青春ですねぇ、と言って笑っている。そんな時、チャイムの音が聞こえてきた。
「やぁ、柳。ソッチはどうだった? 俺とジークは神器の違法研究施設から子供達を助けてきたよ。……とりあえず何か食わせてくれ。昨日から何も食べてないんだ」
「まったく! 曹操は食事を与えられてなかった子供達に持っていた食料を全部上げたんだよ。地中海で立ち寄った街でも、貧しい子供達が売ってる花を全部買って路銀を使い果たすし。……僕も限界だ」
「我も、お腹減った」
「はいはい、今から蕎麦を食べに行きますから一緒に行きましょう」
やってきたのはオーフィスと青年二人。彼らの名前は曹操とジークフリード。柳の大切な仲間である。
なお、自分の歌に自信満々だった小猫はリアスに音痴と言われたショックでずっと項垂れていて参戦できなかった。
意見感想誤字指摘お待ちしています