押し寄せる白波、照りつける太陽。潮の香り漂う浜辺に英雄派の姿があった。
「まあ、一部の人は居ないんですがね」
「誰に言ってるんだ? 柳」
「いえ、画面の前の皆様にご説明を」
「? まあ、良いか」
へラクレスは首を傾げるも、どうでも良くなったのか視線を先程まで向けていた方向に向ける。其処では女性メンバーがビーチバレーを行っていた。
「それ!」
ネロがスパイクを打つとボールは見事に砂浜に打ち込まれ大きく跳ねる。ついでに殆ど紐といって良い様な赤い水着で隠された胸も激しく揺れていた。続いてジャンヌがサーブを打つとエリザベートが拾い、ネロがスパイクをジャンヌ目掛けて打つとジャンヌに直撃して水着の紐が解けた。
「きゃあっ!?」
「……見ました? ピンクでしたね」
「ああ、勿論だぁっ!?」
「こ、この、変態共ぉ~!!」
二人に向かって無数の聖剣が飛来し、二人は必死に走って避ける。途中、釣りをしていたアーサーを盾にしつつ何とか逃げ延びた。
「危なかった……」
「ああ、死ぬかと思ったぜ。……しっかしよ、お前はああいうの何時も見てんだろ? ネロなんざ何時も色仕掛けを仕掛けるじゃねぇか」
「まあ、そうなんですが、迫られると気恥ずかしくって。いや、エリザさんは反応が可愛らしく面白いのでセクハラしがいがあるんですが、ネロさんの場合はそのまま食われそうで」
「なあ、殴って良いか? 神器有りで殴って良いか?」
ヘラクレス、彼の神器は殴った対象を爆発させるというものである。
「……しっかしよ、本当に俺達だけで遊びに来て良かったのか? 曹操や殺せんせーは仕事をしてるってのによ」
「仕事をする時には仕事をして、遊ぶ時には思いっきり遊んで心を休ませる。良い仕事をする秘訣ですよ? おや、どうかしましたか?」
柳が手を引っ張られたのに気付いて後ろを振り向くとジャンヌが選んだ真っ当な水着を着たオーフィスの姿があった。
「……お腹減った」
「はいはい、今直ぐ何か作りますよ」
柳は張り切って用意していた鉄板で焼きそばを作り出す。漂う香りに誘われて他のメンバーも集まり、巻き込まれて海に落とされ潮に流されたアーサーが捕まえてきたサメのフカヒレも豪快に焼かれ、特製のソースをかけて食べる。オーフィスも無表情ながら夢中になって食べていた。
「しかしさ、オーフィスも変わったわね。昔は何にも反応示さなかったのに、今じゃご飯作ってくれとか、遊びに参加してきたりとかさ。私達の目標も一歩前進って所かな? 神器や眷属化で苦しむ人を救い、オーフィスにコッチの世界に興味を持って貰って次元の狭間を諦めてもらうっていう計画のさ」
「にゅふふふふ、きっと上手く行きますよ。ああ、柳君。ソースは少し塩を利かした方が私は好きですねぇ」
「おや、終わりましたか。それで首尾はどうでした?」
「上出来ですよ。ちゃんと不戦協定を結んできました」
殺せんせーの触手の先には複数の神話や勢力との不戦協定の書類があった。
「俺達の目的はあくまで人間を救う事。それ以外は考えてない事が伝わったのさ。まあ、オーディンの糞爺からは死後に何人か英雄として引き取るという契約を結んだがね」
「いや、そういうのは私達と話し合って……いえ、リーダーの貴方に従うとしましょう」
「我、イカ焼き食べたい」
「ほら、その前に口にソースが付いていますよ」
「ん」
柳はオーフィスの口元を拭うとイカ焼きを作り出す。甲斐甲斐しく世話を焼くその姿をヘラクレスは訝しげに見ていた。
「なあ、アイツってもしかしてロリコンか? ここ最近、オーフィスの世話を焼き通しじゃねぇか」
「何を言うか! 奏者は余の事が大好きなのじゃぞ!」
「はいはい、その辺にしておきなさい。私が昨日抱き抱えられた時に聞いたんだけど、グレモリーの眷属に死んだ妹に似ている子が居たらしいわよ。私の尻尾を撫でながら寂しそうに言ってたわ」
「あの子は脆い所がありますからねぇ。私も色々とサポートしてあげたいですが、心の問題ばかりは何とも……」
「……綺麗な星ですね」
その日の夜、他のメンバーがホテルで眠る中、柳は一人で夜の浜辺に来ていた。空には星が輝き、体に当たる潮風が心地よい。マットの上に寝転んで空を眺めていると両隣に座る者達が居た。
「うむ! 良い星じゃな」
「まあ、トップアイドルの私の輝きには劣るわね」
二人は昼間同様に赤いヒモ同然の水着にスクール水着だ。そのまま梁後の隣に寝転ぶと同じように空を眺め出す。
「どうかしましたか? 夜更しはお肌の大敵と何時も言っているでしょう?」
「誤魔化そうとするな、奏者よ。お主、悩みがあるだろう?」
柳は誤魔化すようにネロから目を逸らすが、逸らした先ではエリザベートが真剣な眼差しで見つめて来ている。逃げ場なしと悟った柳は観念した。
「仲間なら何でも話すべきなのでしょうが……」
「いや、それは違うぞ。確かに余はお主の事なら性癖や異性の好みまで全てを知りたい。じゃが、話したくない事まで話させたいとは思わん」
「仲間なら何でも話しておくべきなんて小学生の道徳の授業じゃないのよ? 私やネロ、殺せんせーにだって貴方に話してない秘密があるんだし、吐き出したくなった時に話してくれれば良いし、話したくないままだったら話さなくて良いわ」
「ちなみにエリザさんの性癖は?」
「私? 私は、って危なっ!? も~! 良いシーンでセクハラかますの止めなさいよね! 其処は”……有難う”とかでしょ!」
「いや、そういうシーンは他でやってますので。……さて、気も晴れましたし部屋に戻りましょう。お二人も早めに戻った方が良いですよ」
エリザベートの尻尾を慣れた動作で避け続けながら柳は砂浜を駆け巡り、業を煮やしたエリザベートは龍の翼を広げて追いかける。
「待ちなさ~い! このセクハラ男~!!」
流石に飛んだ方が早いのか直様柳に追いつき手を伸ばしたその時、柳は振り向くと背中を反らして回避する。そして自分の真上をエリザベートが通り過ぎる瞬間、反対に抱きついた。
「捕まえましたっ!」
「……あ、あぅ~」
手足を使ってホールドされたエリザベートは恥ずかしさから飛び続ける事ができず墜落する。それでも柳はホールドを解いていなかった。
「シャンプー変えました? ああ、新しく買った高い奴ですね。いい匂いがします」
「は、放しなさいよぉ。ば、馬鹿ぁ……」
恥ずかしさからからかエリザベートは持ち前の怪力を発揮できずに成すがままにされている。柳も調子に乗って尻尾を撫で回し、その腕を掴まれた。
「奏者ぁ? 何故、余には構わんっ!? 余が何度お主を誘惑したか分かっておるのかっ!? なのに毎度毎度エリザにばっかり! 泣くぞ? 余は泣くからなっ!」
「……ねえ、この馬鹿にお仕置きするわよ。べ、別に昨日偶々見つけて読んだ官能小説に影響されたからじゃないんだからねっ!」
ちなみに殺せんせーの私物である夜の浜辺を舞台にした野姦物である。エリザベートの精神は十四歳で止まっており、最近になって漸く成長しだしたばかり。そろそろ気になり出す年頃になっていた。
「エリザよ。あそこに丁度良い岩陰があるぞ! さて、柳よ。精力の貯蔵は十分かっ!」
「またネタに走りましたねぇ。って、本当に引きずられて……」
そして次の日の朝。
「うむ! 昨日は良かった。余は満足だ! 今夜も頼むぞ柳よ!」
「む、無理! あんなの無理! 見るだけでも恥ずかしいっていうのに! でも……」
「柳、何かあったのかい?」
「……ええ、有りました」
ツヤッツヤのネロに対し顔を真っ赤にしたエリザベートがブツブツ呟いてネロと柳から目を逸らし、柳は遠い目をしていた。
「オーフィス! 摘み食いはダメですよ! 貴方には後で作ってあげますから殺せんせーと遊んでいてください」
数日後、任務で悪魔のパーティを監視している黒歌と美猴への差し入れを作っていた柳は唐揚げに手を伸ばしたオーフィスの手を叩くと料理に戻る。彼が後ろを向いた瞬間に伸びてきた触手を包丁で切り裂くと衣を付けて揚げ、触手の持ち主の口に放り込む。聞こえて来る悲鳴を無視して料理を重箱に詰め終えると綺麗に包んだ。
「さて、届けに行きますか。オーフィス。この前教えた通りに片付けられたら好きな物を作ってあげますよ。残った物は全て食べて良いですから皿も洗ってくださいね」
「分かった。我、頑張る」
子供用エプロンを着たオーフィスはリスの様に食べ物を詰め込みながら後片付けを始める。殺せんせーは未だに痙攣していた。
「にゅるぅ~。先生は猫舌なんですってぇ」
「ではゲオルク。送ってください」
柳の体を黒い霧が包み姿が消え失せる。次の瞬間には冥界の森の中にいた。
「……良い匂いです」
「ああ、貴方は学園に居た黒歌さんの妹の……」
そして目の前には白髪の少女が居た。
「しかし退屈じゃな。カラオケセットでも使うとするか?」
「良いわね。思いっきり歌いましょ」
「にゅふふふふ。楽しみですねぇ」
オーフィスは逃げ出した。