ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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悪魔と秘密道具 ⑫

「さて、説明をしてもらおうか」

 

その日、八咫烏の幹部集会に出席した我道が着席するなり他の支部長の一人が開口一番にそう言った。

 

「説明とは? 私には何の事かサッパリなのだが」

 

「巫山戯るなっ! 魔王との交渉を任されたからといって勝手な条約を作りおって! 特に悪魔との条約が問題だっ! 貴様、悪魔を敵に回す気かっ!?」

 

「おやおや、貴方は悪魔が我々人間の敵ではないと思っていたのですか? 全く、これだから平和な支部を任されている者は困る。今回の条約、重要拠点近くの支部長は全員賛成したのだがね。さて、此処で資料を見て貰いたい」

 

唾を飛ばして叫び今にも飛び掛ってきそうな他の支部長の男性に対し我道は沈着冷静に挑発めいた発言をする。男性は怒り心頭といった有様で乱暴に資料を開き、顔を青ざめた。

 

「お分かりかな? 貴方が進めてきた対応と私が進めてきた対応による人的被害数の動向だが、被害数の減少が著しいのが私の考えに賛同した支部周辺、貴方方穏健派の支部周辺は……おやおや、少し増えて来ているね」

 

「……これから減らす。三大勢力も和平に入り戦力の増強の必要性は前よりも減ったはず。ならば対話によって歩み寄れるはずだ。種族が違っても絆は結べるのだ」

 

男の発言について来ていた隊員や他の穏健派の幹部達も頷く。それを見た我道はあくまでにこやかにしながら肩を竦めた。

 

「まあ、私の甥と居候達の件もあるから少しは認めよう。だが、奴らとは文字通り住んでいる世界が違う。私達に必要なのは奴らと絆を結ぶ努力ではない。奴らを害する努力だ。……さて、納得できないようだが、二分ばかり貴方方の所の隊員と一緒にさせて貰えないかい?」

 

「……良いだろう。彼らは友好を結ぶ事の大切さを貴様と違って理解している。たった数分で篭絡できると思うな」

 

穏健派の幹部達は隊員を残して退席し、我道に賛同する幹部や隊員も出ていく。部屋には穏健派の隊員と我道のみが残された。

 

「さて、少し話をしよう」

 

そして二分後、穏健派の隊員達が部屋から出てきた。

 

 

「悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す……」

 

「コレが貴方達の言う大切な絆とやらだ。たった数分で消え去るとは随分儚いものだね。では、会議の続きと行こう」

 

我道は緩んだネクタイを締め直し、絶句して固まる穏健派達を尻目に笑いながら椅子に座り直す。穏健派達は彼の背後に巨大な百足がいる様な錯覚に襲われた。

 

 

 

 

「はっはっはっ。流石ですね、叔父さん」

 

「なぁに、君のおかげだよ」

 

その日の夜、己道家に来ていた我道は因果と言葉を交わす。彼が苦手な黒歌と白音は退席しており、摂理は苦笑し束は爆笑している。

 

「もう、お義兄さんは厳しいわねぇ」

 

「あはははははは! お兄ちゃんだから仕方ないって」

 

「さて、そろそろお暇しよう。明日も朝イチで会議があるのでね。今回の事で支部長が退職した支部の管理を他の支部で管理する事になったんだ。例の条約によって上級悪魔の駆除作業も本格的になったし、全く身が休まらなくて困るね」

 

我道は邪悪な笑みを浮かべながら迎えの車に乗り込む。その時の笑みは某・自称新世界の神が計画通りにいった時の笑みだった。

 

 

「多分、全部お兄ちゃんの計画どおりだったんだろうね」

 

「まあ、叔父さんだから仕方ない」

 

「……やっぱりこの二人、お義兄さんの血縁者よねぇ」

 

摂理は愛する妻と息子を見ながらしみじみ呟いた。

 

 

 

 

 

「さて、この状況をどうしたものか……」

 

それから数日後、家族旅行に出かけた己道一家は別荘付きのプライベートビーチで遊んでいる所を襲撃された。因果達を取り囲んでいるのは大勢の悪魔。中には貴族らしき悪魔も数名おり憎悪の篭った視線を向けている。

 

「貴様らの身内のせいで私の子は死んだっ!」

 

「それも人間を有無を言わせず眷属にしたという程度でだっ! 断じて許せんっ!!」

 

貴族達は涙を流しながら因果達を取り囲み、黒歌や白音は因果を庇う様に進み出る。だが、摂理がそれを手で制した。

 

「貴方達が子を殺されて悲しむ気持ちは理解できるし、お義兄さんの身内であるアタシ達に怒りをぶつけたい気持ちも分かるわ。でもね、身内を失った気持ちは無理やり眷属にされた子達の家族も同じなの。帰って貰う訳には行かないかしら?」

 

「巫山戯るなっ! たかが人間と私たち悪魔が同等な訳がないだろうっ! 男達は殺し、女共は此処に居る全員で犯し尽くした上で惨殺してくれるわっ!」

 

最後まで説得しようとした摂理に対し貴族達は殺意で応える。そしてその言葉は摂理の怒りを買うに十分だった。

 

「……そう。此処まで言っても駄目なのね。アタシ暴力は嫌いだけど、家族に手を出されると言われて黙っている訳にはいかないの。ハニーは大切な奥さんで因果は大切な息子。黒歌ちゃんと白音ちゃんは大切な息子の将来のお嫁さん達。それに手を出すって言ったわよね?」

 

怒りで震える摂理の体は徐々に大きくなり、急激に肥大化した筋肉によって着ていた水着が敗れる。その姿を見た束は黄色い歓声を上げた。

 

「ダーリン格好良いっ!」

 

「……さて、どうしよう」

 

「取り敢えず目を瞑っておけば良いと思うにゃん」

 

「……甘いですね。私は最初から目を瞑っています」

 

目を輝かしている束の視線の先では魔法力で強化した拳で大勢の悪魔相手に無双する摂理の姿が有り、因果達は目を瞑って全裸のムキムキオカマが大暴れする光景を見ないようにしていた。

 

 

 

その頃冥府では若手同士の顔合わせが終わり、対決が決まって互いに闘争心を燃やしているソーナとリアスの前に八咫烏の隊員達の姿が現れた。

 

「すまないがディオドラ・アスタロトは何処に居るか教えてくれるかい?」

 

「人間が僕に何の用……アーシアっ!」

 

会話が聞こえたのかディオドラは訝しげな顔で返事をし、アーシアの姿を見るなり笑顔で近付いて行く。

 

 

「悪いが君には死んで貰うよ。ああ、正確に言えば君には死んで貰うけど悪いのは君だ、かな?」

 

「あ……」

 

そして曹操が持つ量産型上位聖剣のエクスカロンによって胸を貫かれる。当然辺りは騒然となり、会場に来ていたサーゼクス達が飛び出してきた。

 

「これはどういうつもりだい! 彼はアスタロト家の次期跡取りで……」

 

「その次期跡取りを駆除する許可をくれたのは貴方だ、魔王ルシファー。彼は聖女とかの教会関係者マニアなんだが大勢の聖女を誘惑して……ああ、これはどうでも良い。彼女達に関しては自己責任としている。日本での話じゃないしね。だが、彼女達に接触する時に邪魔な人間を手に掛けてるんだ。さて、こういった奴らを駆除する許可は貰っている。それとも他の神話体系、それも君達が同盟を結んだばかりの天界に色々と恨みを持つ勢力に結んだ条約を直ぐに反故にすると思われても良いのかい?」

 

”それならそれで良い。戦う気なら相手になる。”そういう様に聖剣を構えた八咫烏のメンバーにサーゼクスは何も言えず、そのまま黙って帰すしかなかった。




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