ケツアゴ作品番外及び短編集   作:ケツアゴ

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死神姫と邪龍の聖杯戦争 

”メディア”、コルキスの王女にして魔女であった。キューピットの矢によってイアソンに猛烈な恋心を抱いた彼女は叔父である王を裏切って国宝をイアソンに渡し、自分を慕って着いてきた弟を殺して死骸を囮にして共に国から逃げ出した。だが、最後にはメディアの熾烈さに恐れをなしたイアソンに裏切られ、彼との間に出来た子供二人を殺したメディアは何処かへと旅立っていった。

 

 そしてメディアは今・・・・・・、

 

 

 

『本日の邪龍クッキングは”牛タンシチュー北欧風”だ。季節の野菜を・・・・・・』

 

「あら、明日の夕ご飯に作ろうかしら」

 

 自宅のリビングでテレビを観ていた。メディアがジグソーパズルをしながらテレビを観ていた時、玄関の戸が開き一人の少女が家に入ってくる。メディアが玄関まで向かって出迎えると背中にはランドレスを背負い、髪の毛はメディアに似た紫色の髪をしていた。

 

「お母様、ただいま!」

 

 少女はメディアの姿を見るなり抱きつきメディアもまた彼女を抱きしめる。

 

「お帰りなさい、アイル。明日から夏休みだけど、お父様が、”約束していたキャンプは海と山のどっちにするか決めておくように”、って言っていたわよ。其れとお祖母様が来ているから手洗いうがいしたらすぐに挨拶なさい」

 

「うん!」

 

 アイルは元気に返事をすると洗面台のある方へと駆けていく。メディアは其の姿を愛おしそうに眺めていた。

 

「・・・・・・まさか私にこんな幸せな日々が訪れるなんて思ってもみなかったわ。可愛い娘に最愛の旦那様、時々怖くなるくらいね。この生活全てが夢で、ある日目覚めたらあの子達を殺して逃げている途中だった、なんてことになりそうで・・・・・・」

 

「お母様~! 石鹸が切れてるよ! 新しいの何処~?」

 

「はいはい、一寸待ってて」

 

 メディアは先程浮かべて不安そうな表情から何時も娘に向ける笑顔に切り替えると洗面台に向かっていった。

 

 

 

 

 これは一誠と玉藻の間に子供が生まれてから数十年後の物語。二人の間に生まれた子はやがてメディアに恋をし、紆余曲折あって二人は結ばれた。第一子の名はアイル。今は小学校三年のメディア夫婦の最愛の娘だ。

 

 

 

 

「お祖母様、こんにちわ!」

 

「ええ、こんにちわ。三日ぶりですね、アイル」

 

 玉藻はかつての様な露出度の高い服装ではなく上物の着物で肌を隠した上品な装いだ。座布団の上で正座をしており、初孫であるアイルに向かって静かに微笑む。其の姿からはかつてのぶりっ子のような姿は予想できず、アイルも祖母のその様な姿など知らなかった。

 

「本当なら一誠様も来るはずだったのですが、マユリがまた珍妙な発明を致しまして、監督責任があるので実験に同伴しなくてはならなくなったのですよ。……そうそう。アイルが好きなケーキをおみやげに買ってきていますから後で一緒に食べましょう」

 

「本当! お祖母様、有難う!」

 

 アイルは玉藻に抱きつき、玉藻はそっと孫の頭を撫でる。その姿は上品で、

 

 

 

 

 

(やっべぇっ! 可愛いなチクショー! あ~んもう! ナデナデした後はぁ、抱き枕にして添い寝したいなぁ ♪ 糞っ! 玉兎(バカ息子)のヤローが”メディアの望む平凡な幸せを味あわせてあげたい”、とか言ってこの家から仕事に出かけなけりゃ毎日愛でれるのにっ! ……まあ、”平凡な幸せ”、て気持ちは分かりますし、冥府の城に住んでいたら無理だとは思いますから仕方ありませんけどね)

 

 などと全く昔と同じキャラでいる事など予想はできなかった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、お祖母様。私がお祖父様に会いに行くのは駄目?」

 

 コクンと首をかしげなら聞いてくる姿に玉藻のテンションは上がり、メディアは魔術を使って気付かれないようにしながら転げまわっている。

 

 

(可愛いよ可愛いよ! 目がクリッとしていて何時も元気で素直で。……よし! 新しい服はゴスロリにしましょう。ありすちゃん達が小さい頃に来ていた服みたいなのを!)

 

「……勝手に歩き回りませんか?」

 

「うん!」

 

「なら、良いですよ。向こうに連絡を入れておきますので都合のいい時間帯に向かいましょう。メディアさんも別に宜しいですね?」

 

「ええ、構わないわ。アイルの事、お願いしますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? アイルが来るのっ! イヤッホォッ!」

 

「……主、落ち着いてください」

 

「父さん、嬉しいのは分かりますが甘やかし過ぎない様にお願いしますね」

 

 孫が来ること聞いてテンションが上がる一誠に対しランスロットと長男(玉兎)は彼を落ち着かせる為に書類の山を執務室の机の上に積み重ねた。

 

 

 

「さて、マユリの発明に関する書類です。リゼヴィムの様な輩に悪用されない為にも厳重に管理致しませんと」

 

「並行世界に行く装置、ですか。分身を送る装置は作りましたが、まさか本人が行く装置まで造るとは……」

 

「……まあ、クロウクルワッハに警備を任せたから大丈夫だと思うよ。機械が暴走でもしなけりゃね。……そうそう、ランスロット。うちの次男と君の所の長女の結婚式の準備どうなってるの?」

 

 一誠は若い頃と変わらずケラケラ笑いながら書類を片付けていく。その時、執務室にフリードが飛び込んできた。

 

 

「おい! 例の装置が暴走してアイルとクロウの旦那が吸い込まれたっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、マユリの発明品には困ったものだな」

 

「私、帰れるのかな?」

 

 クロウクルワッハは何処からか傘を取り出しアイルに差し出す。降りしきる雨が彼の体を濡らすが気にした様子はない。一方アイルは不安から泣きそうになっていた。

 

「安心しろ。マユリはマッドだが天才だ。……ちょうど奴からメールが入った」

 

『装置は直したヨ。そっちの時間で十日後には帰れるネ。金塊(今年の経費全部)を送っておくから資金にしてくれたまえ』

 

「……取り敢えず雨宿りができる場所に……」

 

 二人はその場を離れ雨宿り出来る場所を探す。その時、反対側から女性が一人向かってきた。

 

 

 

 

(……もう、終わりね)

 

 聖杯戦争において最弱の英霊とされるキャスターとして召喚された彼女は、彼女の魔術師としての力に嫉妬した主に魔力を制限された事で主を見限り殺害した。そして今、彼女は魔力の限界が来て消え去ろうとしている。

 

 

「大丈夫?」

 

 そんな時である。途轍もない魔力を秘めた少女がキャスターを心配そうにしながら話し掛けて来た。反応した彼女は僅かに顔を上げ、それによって被っていたローブがずれてキャスター顔が顕になる。

 

 

 

「お母…様?」

 

 キャスターの真名はメディア。並行世界のアイルの母親である。

 

 




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