一誠の城には先程から何度も長い廊下を行ったり来たりしている人物が居た。メディアである。我が子を心配する彼女はアイルが異世界に行った日からずっと城に泊まり込んでいた。
「メディア、少し休んだ方が良いですよ。落ち着かないのは分かりますが、あの子が帰ってきた時に貴女が倒れていたら心配しますから。……大丈夫。アイルは私達の娘です。無事に帰ってきます」
「……そうね。なら、少しだけ仮眠を取らせてもらうわ。でも、私が寝ている時に帰ってきたら……」
「ええ、必ず起こします。さ、部屋に行きましょう」
夫である玉兎に連れられて部屋に向かったメディアは疲れていたのかベットに入るなり寝息を立てる。それを見届けた玉兎は装置のある部屋へと向かっていった。部屋には既に一誠や玉藻を始めとした親族が数人揃っており異世界へのゲートが開くのを見守っている。
「玉兎。メディアさんは眠りましたか?」
「ええ、先程眠りました。下の二人の世話はグレンデルに任せましたし、メディアにはちゃんと休んで貰わないと。それでクロウクルワッハからの連絡は有りましたか?」
「うん。どうやら向こうのメディアさんに協力して聖杯戦争に参加する気らしいよ」
「……はいっ!?」
「・・・・・・所で馬鹿息子。何故二人の世話を私に任せねーのですか? 赤ん坊の世話を祖母でなく邪龍に任せるとは気が利かない奴ですねぇ」
「いや、経験からして母さんに任せたら悪影響が出ると判断しましたので。ああ、上の妹達に任せても良かったでしょうか。下の弟妹の世話をしていましたし、反面教師が居たので母さんよりマシでしょう」
「・・・・・・娘達、よく見てなさい。必殺の新奥義を教えて上げましょう。まずは金的!」
熱せられた鉄板の上で餃子が焼けている。その上から小麦粉を溶いたお湯を注ぐと蓋をして暫く待つ。その間に中華鍋に米と卵と調味料が投入されパラパラの炒飯が出来上がった。
「出来たぞ」
クロウクルワッハはアイルが用意した人数分の皿に盛るとテーブルまで持っていく。其処には待ちかねている者が、
「わーい!」
「頂きましょうっ!」
なお、”食事は魔力補給の為に取る必要があります”などと真面目な顔をしていたが、
「……おかわりを所望します」
「私も~!」
等と言っている辺り食べるのが大好きなのだろう。その姿を眺めるキャスターは今にも鼻血を流しそうな様子だ。
「可愛いわぁ~。アイルちゃんと並べてゴスロリ? それともメイド服? フワッフワのドレスなんて良いわねぇ」
「……この世界の王族には普通の奴は居ないのか? 何故か”パンツ履かない征服王”とか”AUOキャストオフ!”、とか頭に浮かんで来たぞ……。ああ、馬鹿魔王や醤油くさいマントの冥王とかあっちの世界もマトモな王が居なかったか……」
セイバーの真名は”アルトリア・ペンドラゴン”。かの有名なアーサー王であり、し、アイル達の世界では召喚に使った聖遺物であるコールブラントを巻き上げられたアーサーの先祖である。
「所で教会に監督役が居るのだろう? 報告に行かなくて良いのか?」
「そうですね。マスター、どうしますか? ……私達はルール的にどうなのでしょう」
セイバーは自分達の契約が不正ではないかと心配する。本来はマスター一人に英霊一人なのだが、セイバー達はキャスターのマスターとしてアイル、そしてセイバーにマスターはキャスターだ。だが、アイルは呑気にテレビを見ながら言った。
「なら、こうやったら良いんだよ」
アイルからキツネ耳が一対と尻尾が二本生えキャスターは”巫女服も良いわねぇ”、と母親であるメディアと同じ事を言っている。セイバーも可愛いものが好きなのか見とれている。そして尻尾を振るとアイルは二人に増えていた。
「お祖母様に教えてもらったの。これで片方がセイバーお姉ちゃんのマスターになったらいいんだよ。でも、一日しか持たないからすぐにキャスターさんに返すけど」
「……あの、アイルちゃん。私の事も”お姉ちゃん”って呼んで欲しいかなぁ」
「マスター、無理があります」
「無理があるな」
「あの、無理があるんじゃないかな……」
この後、拗ねたキャスターの機嫌を直すのに時間がかかり、一行が教会に向かったのは夜中になった。
「おやおや、保護者同伴で聖杯戦争に参加とは。お遊戯会では無いのだがね」
教会にいた監督役の言峰綺礼はクロウクルワッハと一緒にやって来たアイルを見るなり皮肉げに笑う。何故かセイバーは教会に入りたがらず教会の近くで待機し、一緒に入ってきたキャスターは彼の態度に腹が立ったのか眉間に皺を寄せていた。
「随分と失礼な男ね。アバラ骨をこじ開けられたいのかしら?」
「おやおや、それは怖い。さて、登録は済ませた。早く帰りたまえ。子供は寝る時間だ」
アイルは二人とも眠そうに目を擦っており、クロウクルワッハとキャスターがそれを背負う。そして一行が帰った時、金色の鎧を着た男が現れた。
「ククク、面白い奴らが来たな綺礼。気付いたか? あの小娘と男、人間ではなかったぞ。……そして奴らも我に気付いていたようだ」
「ああ、気付いていたとも。さて、中々面白くなりそうだ」
「……終わりましたか」
「ああ、今終わった所だ。キャスター、明日の朝にはマスター権を変更しておけ。貴様がアイルから貰った魔力をセイバーに使おうが構わんが、セイバーのマスターになるのは契約外だからな」
「分かっているわ。私はちゃんとお約束を守るわよ。……っと、どうやらお客さんのようね」
帰る途中、一行の前に赤い服を着た二人組が現れた。一人はツインテールの少女。もう一人は褐色の肌に白髪の青年だ。
「アーチャー! 敵よっ!」
「分かっているさ、凛……っ!?」
アーチャーはセイバーの顔を見るなり一瞬固まる。それは予想外の事態が起きた時の顔だった。
「アーチャー?」
「……いや、何でもない。さて、始めようか」
アーチャーの両手には双剣が出現しセイバーが不可視の剣を構える。そしてクロウクルワッハは……、
「俺達は先に帰るぞ。このままだと体を冷やすからな」
アイルを連れて先に帰った。
「……あの少女がマスターなのではなかったのか?」
「貴方に話す事では有りません」
セイバーの剣とアーチャーの双剣がぶつかり合って火花を散らす。剣戟の音が響く中、キャスターは凛と対峙していた。
「キャスターが陣地から出ている内に叩けるのは幸いね」
「あら、たかが魔術師がキャスターと戦えるとでも思っているのかしら?」
凛が時間稼ぎの為にキャスターと相対しようとしたその時、乱入者が現れた。
「よっ! 俺も混ぜてくれや」
現れたのは青い全身タイツの男。そして彼が赤い槍を振るおうとした時、
「伝え忘れていた。明日のカレーは辛口だからな。朝から仕込みをするから文句を言うなよ」
「ぐへっ!?」
戻ってきたクロウクルワッハに踏み潰された。
「「むにゃむにゃ、ランサーが死んだ、この人でなし……」」
「ああ、俺は人ではなく
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