アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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秋の異世界フェス・異界冒険譚編
第93話 帝国領の旅へ


文化祭が終わり、実りの秋もそろそろ終わりを告げようとしていた。福岡中央高校オフロードレースで龍馬とのデッドヒートの末に見事優勝を飾ったディレットは一躍学校のスターとなり、試合終了後は会場にいたマスコミ陣から取材を受けた上に学校を訪れたプロのモトクロスライダー達から「君ならいいプロレーサーになれる。今からでも遅くない、世界を目指してみないか?」とスカウトまで受ける始末だ。ありがたいお誘いではあるが、ディレットにはまだまだニホンでやりたいことがたくさんある。丁重にお断りしておいた。

数日後には彼女のあまりの勇姿に惚れた生徒から下足箱にラブレターが入っていたり、同性・異性を問わずに告白を受けたりした。もちろん全て断ったが。しかもそのせいで彼女と一緒に生活している龍馬は一部の生徒からあからさまな敵意を向けられる始末だ。全く、同棲しているわけでもないのに勝手に敵にされるのは勘弁してもらいたい。まあ、"博多の怒龍"に面と向かって喧嘩を売ろうなどという人間はいないのでこの時ばかりは己の通り名にちょっぴり感謝した龍馬であったが。

さてさて、文化祭も終わっていつもの日常が再び戻ってきた龍馬達であったが、下校時の博多の街はどこもかしこもあるイベントに向けてのキャンペーンや飾り付けの真っ最中だった。

 

「ねえ、リョーマ。ちょっといい?」

 

「ん?」

 

「なんか……どこもカボチャのお化けやゴーストの絵とかで飾り付けしてるけど、何が始まるの?」

 

「ああ、"ハロウィン"だろ?まったく、日本人は毎年毎年飽きもせずによくやるぜ」

 

「はろうぃん?」

 

ハロウィンといえば毎年10月31日に開催される祭りであり、起源はヨーロッパのアイルランド・古代ケルト人から伝わるとされている。現在はアメリカ合衆国の恒例行事としての立場が強く、子供達がお化けや怪物の仮装をしては夜に近所の家を練り歩いて「Trick or treat!(お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!)」と言いながら大人達にお菓子をねだる祭りとして定着しているが、元々は秋の豊穣を祝い、ジャック・オー・ランタンと呼ばれるカボチャやカブをくりぬいて作った怪物を模した被り物などを被ったり火を焚いたりして悪霊や悪魔、魔女などの"厄"を退ける宗教的な儀式のひとつであった。

 

「ふうん、変わったお祭りだね」

 

「実際のところ"子供が仮装して夜に近所を練り歩く"ってのをやってるのは日本じゃ少ないけどな。日本ではハロウィンにかこつけて商売したいだけの企業やただ酒を飲んでバカ騒ぎしたいだけのアホな連中が毎年目立ってばかりさ」

 

龍馬はやれやれ、と肩をすくめる。実際のところ、日本では企業が商戦戦略として利用するかとにかくイベントや行事を口実に酒を飲んで大騒ぎしたいだけの若者が騒いでばかりのイメージが大きい。龍馬だってハロウィンらしいことを今までやったことはないし、仮装した子供が夜に練り歩いているところを見たこともない。もちろん日本全国探せばゼロではないのだろうが、アメリカで実際に行われているハロウィンの風習は日本ではほぼ見かけることはないと言っていいだろう。

そうだ、祭りと言えば……

 

「リョーマ、今度のフェスの話……」

 

「ん?ああ、そうだな……」

 

そういえばソフォスから聞いていたのだった。何だか変わり者の貴族が是非龍馬に会いたいと言っていると。龍馬はやれやれと思いつつもソフォスに電話をかけてみる。

 

「"もしもし、リョーマ君か?"」

 

「陛下、こんにちは。この間の文化祭の件、ありがとうございました。アルバートさん達の演武、大好評でしたよ」

 

「"そうかそうか、それはよかった。我が帝国の騎士団も儂も鼻が高いわい。ところで何か用かの?"」

 

「ほら、あれですよ。前に俺に会いたいとか言っている貴族の件で……」

 

「"おお、そうじゃったな。そうじゃな……まずその貴族のことから説明するかの。まあ……リョーマ君にはわかりやすく貴族と言ったが、正確には帝国の北の領土を治める『領主』なのじゃ。まあ、とりあえず同じようなものだと思ってくれればよかろう"」

 

以前、拳を交えたベルスティード家侯爵のクリストファーがとある貴族……もとい領主との会食において龍馬の事を話したらしく、その領主は龍馬の話を大層気に入ったとのことだったが……ソフォスの話によればその領主というのは帝国の北方に位置する領土を支配するジョセフ・レスター卿という領主という話であのアドルファス・ヒューイット伯爵よりも珍しいものに目がないというのだ。

 

「"それで……リョーマ君、暇は取れそうかの?"」

 

「学校には家族旅行ってことで申請してます。その分の勉強を取り戻すのが大変ですけどね」

 

11月の下旬には期末試験も控えているので本来ならば勉強に集中したいところであるが、事が事だけに仕方がない。龍馬はディレットと共に再び異界に行くために学校に休みを申請していたのである。

 

「"すまぬな。礼はきちんとさせてもらう故に何卒お願いする。それから今回は『ばいく』を持ってきた方がいいかもしれん。レスター卿の領土までは馬車では時間がかかるし、ばいくを見せてやればレスター卿もさぞ喜ぶことじゃろう。あと、レスター領は北方のためこの時期は既に寒さが厳しくなっておる。防寒対策もきっちりしておいた方がよいぞ"」

 

「わかりました。そうします」

 

「"うむ、助かるぞリョーマ君。それでは儂はフェスの準備があるので失礼する。帝国へ着いたらまた連絡してくれ"」

 

「はい、ありがとうございます陛下」

 

龍馬は礼を言って電話を切る。出発は今週末、三日後だ。荷物の準備は出来ているが、ソフォスの助言通り寒冷地ならば防寒対策をしておかねばならない。今一度荷物や装備を見直す必要がありそうだ。ディレットにもその旨を伝えると二人は足早に帰宅した。

家に帰ると珍しく父の龍一郎が先に帰宅していたので龍馬は先ほどの話を父に伝える。

 

「なるほど。今回はちょっとした旅になりそうなんだな」

 

今回の帝国訪問には両親はついていけない。しかも今回は龍馬とディレット、二人だけでの旅になる。龍一郎は不安もあったが、子供達を信じて最大限の助力をしようと考えた。そこで彼は二人をある場所へと連れていった。そこは……市内のとあるアウトドアショップ。

 

「すごい……!色んな道具がいっぱい……!」

 

「へー、アウトドアグッズってこんなに色々あるのか」

 

ディレットも龍馬も店内に所狭しと並べられたアウトドア用品を眺めつつ、近くにあった商品を物色している。龍一郎は彼等二人の分のきちんとしたアウトドア用品を準備してやろうとここへ連れてきたのだ。

まず買うのはフラッシュライト。二人には"イルミネーター"の最新型フラッシュライトを買ってやる。これは龍一郎のものよりもやや大きめのものでありUSBによる充電に対応している上に金属製のため、非常時には武器にも成り得る頑丈さを誇る。そして同じくイルミネーターの小型LEDランタンとシングルバーナーとクッカーを龍馬とディレットそれぞれに買い与える。さらに靴も。スニーカーだけでは心許ない。龍馬には黒、ディレットにはオリーブドラブのジャングルブーツを買い与えた。

その他にも様々な用品を買ってもらった二人は新しい装備を自宅で改めて詰め込むと三度(みたび)の帝国訪問に向けて身体を休めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後。帝国の港に船がやってくる。帆船ではない、フェリーでだ。再び現れたニホンの船に港の人々はぞろぞろと集まって船体を間近で眺める。そんな珍しいニホンの船から鉄の馬こと"バイク"に乗って現れた人影が二人。

 

「三ヶ月も経たない間に三回も帝国の地を踏むことになるなんて思わなかったよ」

 

「私もニホンと帝国をこんなに行き来するなんて思わなかったわ」

 

バイクに乗って現れた龍馬とディレット。ヘルメットを被っているから顔はよく見えないが、よく見慣れたその外見から人々は"ニホンのバーサーカー"とその仲間のエルフがやってきたのだとすぐに理解した。人々が歓迎の声を上げ、二人は手を振る。その後二人は帝都の東にバイクを進ませてある店に立ち寄った。

 

「こんちはー!」

 

「グレンディルさん、いますかー?」

 

二人が立ち寄ったのはグレンディルの鍛冶屋。店の奥からは鉄を打つ音がこだましており、彼が作業の真っ最中であることがわかる。奥から「ちょっと待っとれー!」と彼の声が響き、龍馬とディレットは店の中の武器や鎧を眺めながら待った。しばらくすると奥からグレンディルがぬっと姿を現した。鍛冶仕事の真っ最中だったために身体中がすすけて汚れている。

 

「おお!リョーマにディレットか!また帝国に来たのか?」

 

「はい、陛下の頼みで。それよりグレンディルさん、俺のナイフとディレットの弓あります?」

 

「おう、ちょっと待っておれ。きちんと手入れしてあるからの」

 

そう言ってグレンディルは再び店の奥へと戻る。数分後、彼が持ってきたのは龍馬がイレーナからもらったナイフにディレットが使っていたもう一本のナイフと弓に矢筒を持ってきた。実は武器に関しては日本国内への持ち込みの許可が降りなかったため、グレンディルの店に預けることにしていたのだ。グレンディルは武器をしっかり手入れしており、彼の職人としての気質と技量の高さが伺える。

 

「いつもありがとう、グレンディルさん」

 

「なに、いいってことよ。このくらいお安いご用じゃわい」

 

龍馬はそんなグレンディルにお土産を用意していた。母から半ば無理矢理持たされたものだ。龍馬はグレンディルに紙袋を渡す。彼が袋を除くと三本の瓶が。

 

「おお!?これはもしや!?」

 

「どうぞ、俺達の住む九州地方の焼酎というお酒です。」

 

瓶には見たことのないラベルが貼られており、これがニホンの酒だということがわかった。グレンディルは芋から作られたというその酒を前に心を踊らせる。

 

「俺はお酒を飲めないので味に関しては詳しくないですが、母曰く"お湯で割ると香りが華やかでうまい"らしいですよ」

 

「ふむ、お湯か!これから寒くなる季節にはありがたいのう!」

 

芋焼酎はその強い香りやクセの強さから敬遠されがちだが、実はお湯割りとなれば日本酒の熱燗にも匹敵するポテンシャルを含んでいる。芋のきつい香りはお湯で割ることで緩和され、逆に麦や米焼酎では出せない華やかさを持つ味と香りを引き出すため、一度ハマれば病み付きになってしまうのだ。特にこれからの季節は寒くなる一方。熱めのお湯で割った芋焼酎のお湯割りは身体をじんわりと暖めてくれるありがたい酒でもある。

 

「リョーマよ、ありがとうな。帰ったらリョーコさんによろしく言っといてくれい」

 

「はい、伝えておきます。それじゃあ、俺達は城に向かいますので」

 

「グレンディルさん、ありがとうございました!」

 

「おう、達者での」

 

二人はグレンディルから装備品を受けとると再びバイクに跨がり、城へと向かう。城まで辿り着くと二人のバイクに気付いた衛兵はすぐに城門を開けてくれた。帝国の城に顔パスとは至れり尽くせりだ。龍馬はひそかにほくそ笑んだ。以前と同じように中庭に停めて荷物を下ろしていると見知った顔のメイドがやってきた。マリーだ。

 

「リョーマさん!ディレットさん!」

 

「マリー!久しぶりだな!」

 

「元気にしてた?」

 

龍馬とディレットに会えたことでマリーは嬉しそうだ。心なしか以前より生き生きとしているような気もする。何か変化があったのかと龍馬は尋ねてみた。

 

「覚えてますか?リョーマさんと以前喧嘩したノーラメイド長……」

 

「ああ、あの眉間のシワがきついオバハンだろ?あの人がどうしたんだ?」

 

メイド長のノーラ・ハドスン。以前のフェスの開催前にメイド達の休みを巡って龍馬と激しい口論を繰り広げたことは記憶に新しい。あの時はアルバートやソフォスまで巻き込む形になり本当に大変だった。

 

「実はメイド長が以前より優しくなったんです。それで少し休みも増えて今はメイド達も毎日楽しくお仕事をさせてもらってて……これみもリョーマさんのおかげですよ!」

 

話によれば部下であるメイド達に対する態度がだいぶ温厚になったというのだ。相変わらずきつい物言いではあるが、メイド達に厳しくも優しい母のような存在として城の仕事の指導にあたっているとのこと。龍馬とのあの一件が彼女の考え方を変えたのかもしれない。

二人は用意された客室へ向かう。途中廊下を歩いていると様々な荷物を持ったメイドや兵士達が駆け回り、大臣のボルドが書類を片手に現場を指導しているのが見えた。

 

「みんな忙しそうだな」

 

「今回のフェスは前回よりも大規模になるそうなので兵士さん達や騎士の方々まで大忙しなんですよ」

 

案内しながらマリーがそう説明する。確かソフォスの話では日本企業も多くやってくるとのことでその対応が大変だという話だったはずだ。龍馬がその様子を眺めていると兵士の一人と肩がぶつかってしまい、兵士は「おっと、ごめんよ!」と言いながら慌てて向こう側へと走り去ってしまった。ディレットが「みんな大変そうだね」と呟く。

しばらくしたら見慣れた客室に辿り着いた。まずは荷物を下ろし、その後にソフォスに会いに行く予定だ。ディレットは龍馬の隣の部屋に入っていく。

 

「じゃあ、私は陛下へお伝えしてきます。準備が出来ましたらまたお呼びしますのでそれまでお部屋でお待ちください」

 

「おう、ありがとなマリー」

 

部屋を去るマリーに礼を言うと龍馬は客室の窓を開けて城下の町並みを眺める。何の縁か、また来てしまったのだ。この世界、この帝国に。龍馬は窓から差し込む風に心地よさを感じながらしばらく帝都を眺めていた。

 

「おっと、そうだ」

 

あることを忘れていた。龍馬はLINEでディレットを部屋に呼び出す。しばらくするとディレットが鞘に入ったナイフを持ってやってきた。これは龍馬の指示だ。

 

「リョーマ、ナイフを持ってこいだなんてどうしたの?」

 

「親父からこれを渡されてたんだ。ほらよ」

 

そう言って龍馬は一本の紐の束をディレットに渡す。

 

「これは?」

 

「パラコードってやつだ。ナイフの柄に巻き付けとけ」

 

「パラコード?」

 

パラコードは丈夫なナイロン製のロープであり、本来はパラシュートに使われるロープだがその軽さや強靭さからサバイバル用品のひとつとして扱われている。腕にブレスレットのように巻き付けたり、ナイフの柄に巻き付けて滑り止めして装備して、非常時にはあらゆる用途に 対応できる。さらに燃えやすく作られてあるため最悪の場合はこれを燃やすことで焚き付けとして使用出来るのだ。龍馬はこれを二人分、龍一郎から受け取っており装備しておくように言われていた。

パラコードの巻き付けが完了すると丁度マリーがやってきた。ソフォスの謁見の準備が整ったらしい。龍馬とディレットの二人は謁見の間に移動し、ソフォスと再会する。

 

「リョーマ君、ディレットさん、待っておったぞ」

 

「陛下、お久しぶりです」

 

「お元気でしたか?」

 

龍馬とディレットは丁寧にお辞儀をした。ソフォスは若干疲労の色が見える。やはりフェスの準備と対応に追われているのだろう。

ソフォスはふう、と軽くため息をついた後に今回のジョセフ・レスター卿からの件についてもう一度説明を受けた。

 

「レスター家は…………長年……その……北方を治めている由緒ある領主の家系でな。北方ではなかなか珍しいものにお目にかかれないらしく、他の貴族や王族とたまに会った時に聞く土産話が大好きなのじゃ。それに珍しい食べ物や装飾品にも。聞いての通りベルスティード家との会食でクリストファーが酒の勢いでうっかり君のことをあれやこれやと喋ったらしく、レスター卿は君に大変興味を持ち、こちらへ使者を遣わせて城への招待状まで送ってきた始末だ」

 

「はぁ……」

 

そういえばクリストファーとシルヴィアは酒癖が悪い。もしかしたら「ドラゴンを素手で倒せる」なんて色々と盛った話までしたかもしれないのだ。先が思いやられる。

 

「あまりにしつこいのでな。つい……"何とかしてみよう"と言ってしまったのじゃ。もちろん、君を向かわせるからにはあちらにも条件はつけた。ひとつは君達を丁重にもてなすこと。ひとつは君達に無理強いをしないこと。ひとつは話や予想と違っても機嫌を損ねないこと。それを条件に儂が仲介役として君達にこの招待の話を持ちかけたのじゃからな。リョーマ君にディレットさん、君達は帝国にとって大切な客人なのじゃ。その客人をぞんざいに扱うようなことは皇帝であるこの儂が許さぬ。あまり気負いすぎずともよいぞ」

 

その話を聞いて龍馬は少しほっとした。アルカ帝国皇帝のお墨付き、さらには後ろ楯まであるのだ。たとえレスター卿といえど、仮に龍馬達が自分の期待通りではなかったとして無礼な扱いをしたりはしないだろう。それはすなわち皇帝に喧嘩を売ることにも等しいのだから。

 

「ほれ、これが招待状じゃ。それを見せれば喜んで城へと招き入れてくれるじゃろう。それから……これは帝国領の地図と皇室の通行許可証じゃ。これがあれば関所や砦、検問などあらゆる場所を通してくれるはずじゃ」

 

龍馬はソフォスから招待状、地図、通行許可証の三つを受けとるとそれらを広げてしばらく眺めた後にまた丁寧に折り畳んで新調したメッセンジャーバッグにしまった。今回の旅に向けて防水仕様でより大きなバッグに買い換えたのだ。

 

「ありがとうございます、陛下。それじゃ、早速出発します」

 

「ああ、待つがよい二人とも」

 

「?」

 

ソフォスは慌てて龍馬とディレットを呼び止める。一体何だろうか?

 

「道中には野盗やモンスターも出没する可能性がある。神の武器がある君なら大丈夫だとは思うが……不安があるならば何かしら他に武器を用意した方がよいかもしれんのう」

 

確かに龍馬はルナ・アームという強い味方がいるが、これとナイフだけというのも少し武装が少なすぎる気がする。ディレットの弓や魔法に自分のルナ・アームと喧嘩技があれば人間やゴブリン、コボルト程度ならまだしも、ワイルドベアーのような大型の猛獣に襲い掛かられれば少し不安が残る。確かに万が一に備えて何かしら殺傷力の高い武器を持っておくのはいいかもしれない。

 

「わかりました。ありがとうございます、陛下」

 

「じゃあ、私達は行ってきますね」

 

「うむ、気を付けて行くのじゃぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とは、言ったものの……」

 

龍馬はグレンディルの店を始めとした帝都の武器屋に並ぶ商品を見ながらため息をついた。

剣や槍や弓を買ったところで付け焼き刃、生兵法は怪我の元。喧嘩以外に武術の経験のない龍馬がそう簡単に武器を扱えるとは思ってなかった。

 

「私は弓があるからまだいいけど……リョーマはルナ・アームとそれから出す火炎以外にはナイフくらいしか武器がないもんね」

 

アルバートやアルフォンスに助力を乞うことも出来るが、剣や槍や弓をそう簡単に素人が大した訓練もなしに実戦で使うことは無謀にも等しい。先ほども言ったが、生兵法は怪我の元だ。無理に武器など買ったところで使いこなせなければただのガラクタだ。

 

「ねえリョーマ、ちょっといい?」

 

「ん?」

 

「リョーマ、最初のフェスの日の前日……バザー通りで会った商人を覚えてない?」

 

「商人?うーん……」

 

ディレットの言葉を聞いて記憶の糸を手繰り寄せる龍馬。フェスの前日……商人……。

 

「……そういえば!」

 

あの時露店も開かず、敷物も敷かず、ただその場で怪しく佇んでいた商人がいた。確か名前は……

 

「コメル・シアンテ……!!」

 

そうだ。あの男。自らを武器商人と名乗り、「この世界にはない武器を売っている」と豪語し、スペイン語を交えて話すあの怪しげな商人。龍馬は鮮明に思い出した。

 

「あの商人なら何か凄い武器を売ってるかも!リョーマ、あの人を探そうよ!」

 

「探すっつったって……あ」

 

居場所がわからない、と言おうとしたが龍馬は再び思い出した。あの男が「興味があるなら"忘却の谷"に来い」と言っていたことを。龍馬は帝国領の地図を広げて確認する。この地図がどれほど正確なのかはわからないが、概ね合っているだろう。

 

「ディレット、"忘却の谷"ってどこだ?」

 

「ここだよ。ロイド山脈を抜けたさらに北東の山……ちょうどレスター領に面する場所だね」

 

ディレットが指差した位置はロイド山脈を通過し、以前に黒の一族が住まう渓谷より東側に位置している場所だ。現在地からは北東の方角にある。しかもレスター領のすぐ隣なら寄り道してもさほど支障はないだろう。

 

「よし!ついでだ、レスター卿に会いに行く前に忘却の谷に行ってみるか!」

 

「おーっ!」

 

龍馬とディレットは高々とお互いに拳を突き上げた。

 

 

異世界の帝国領土を舞台に龍馬とディレット、二人だけの小さな冒険が始まる。

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