アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第94話 忘却の谷

二人は出発前に必要な雑貨用品や食糧を帝都で購入する。ある程度の傷や病気なら速効性のあるブルーポーションやブラウンボアの生肉や薫製肉、帝都特産の小麦粉で作られた自慢のパンなど帝都で買えるものはあらかた買い揃えた。ついでに久々にカムラン一家の屋台に顔を出してみるとなんと屋台の隣に小さな露店が出来ていてそこではキースが雑貨用品の商いに精を出していた。

 

「キースさん!」

 

「あっ!リョーマさん!お久しぶりです!」

 

「どうしたんですか、この店?」

 

「いやあ、実は……」

 

どうやらお好み焼きと焼きうどんが大成功した上に更に独自の改良を再び重ねたソースだが、とある貴族が「ソースだけを売ってくれないか」と持ちかけたところ、キースはこれを快諾してそれをきっかけにソースを単品で貴族向けに販売。その後妻のマルタとこれはいい商売になるのではと話し合って一般向けにも販売した結果、"オコノミー・ソース"は帝都で大ヒットし、新たに得た資金を元に小さな露店レベルではあるが雑貨屋を再スタートさせたとのこと。

現在は屋台での調理と雑貨販売をグレッグと交代で行っている。ラオグリッドの魔の手によって全てを失ったはずの雑貨屋カムランはかつての活気を取り戻しつつあった。

 

「これもリョーマさん達のおかげです。あなた達がいなければ私達家族は心中していたかもしれません」

 

「本当に……感謝しています。ありがとうございます」

 

「リョーマお兄ちゃん!ディレットお姉ちゃん!ありがとう!」

 

「いやあ、それほどでも……」

 

「なんか照れるね……」

 

キースに続いて妻のマルタ、娘のシャルルも龍馬とディレットに丁寧にお辞儀をして礼の言葉を述べる。龍馬に最初に救ってもらったのは彼等が初めて帝都を訪れた時。ラオグリッドの嫌がらせでやってきたチンピラを勇斗と共に糸もあっさり撃退し、さらに放火された家に取り残された娘をその危険を省みず救いだしてくれた。さらには全てを失い、絶望のどん底にいた自分達家族を励ましてくれただけでなく、店を復興させるために異世界の知識や技術を惜しみ無く提供し、何の見返りもないというのにあちこちを走り回って尽力してくれた。しかも狡猾なラオグリッド、そしてそのラオグリッドと癒着していたヴォルティス大司教らの悪事を暴いたことで帝都に住まう多くの人々が救われることとなった。彼と彼の友人達は……本当に"英雄"と呼ぶに相応しい。

 

「おい、リョーマ!ディレット!せっかく来たんだ!キースさんが改良した新しい"海鮮たっぷりオコノミヤキ"と"ボア肉たっぷりオコノミヤキ"……食ってけよ!俺のおごりだ!」

 

屋台で調理を担当していたグレッグが丁度お好み焼きを焼き上げたらしく、テーブルに並べていた。せっかく来たことだし二人は出発前にキース特製の改良された新しいお好み焼きをグレッグのおごりでご馳走になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荷物を揃えた龍馬とディレットはカムラン一家に別れを告げて帝都の北門からまずはロイド山脈を目指す。この山脈は標高が低く、傾斜も穏やかで山越えにはそう苦労はしない。街道も比較的整備されていてバイクでの走行も楽だ。木々が立ち並ぶ山では差し込む木漏れ日が美しい。ちょっとしたツーリング気分で走行しているとディレットからヘッドセットを通じて声が聞こえる。

 

「"リョーマ、誰かがキャンプしてるよ!"」

 

ディレットが見つけたのは立ち上る狼煙(のろし)。おそらく商人のキャラバンか冒険者だろう。

 

「"私達も少し休憩しようよ"」

 

「そうだな。キャンプの近くにお邪魔するか」

 

見知らぬ旅人のキャンプを見つけた別の旅人が同じ焚き火を囲んで話をするのは珍しい話ではない。旅人同士での会話は貴重な情報源にも成りうるし、何か面白い話が聞けることだってある。旅の一期一会とは彼等にとってなくてはならないものなのだ。

龍馬達はキャンプに近づくと大きな馬車を連れた一団に出会う。武装している三人の男女もいることからおそらくはキャラバンとその護衛の傭兵達であろう。彼等は龍馬とディレットのバイクのエンジン音に驚き、赤毛のリーダーらしい男が剣を抜いて立ちはだかる。

 

「な、何者だ!怪しいやつめ!」

 

「ま、待って!私達は敵じゃないよ!」

 

先にディレットがバイクを停めて降りるとヘルメットを脱いで素顔を見せる。それを見ると剣は構えたままだが、多少警戒は緩めたようだ。ディレットは彼等に近づいて旅の途中であることを話し、龍馬もバイクから降りて彼等に近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなぁ、今噂の異世界の人間……それにそこで暮らしてるエルフか……」

 

キャラバンの焚き火に参加した龍馬とディレットは彼等と会話を交わす。赤毛の男はスレイド、隣にいる弓と短剣を装備した青髪の美男子はラファエル、三人の紅一点である銀髪ポニーテールの女性は魔法使いのフェリアという名前らしい。やはりこのキャラバンの護衛として同行し、現在は帝都へ向かう途中とのこと。龍馬はキャラバンが帝都に行く理由を尋ねてみる。

 

「スレイドさん達のキャラバンは帝都へ何をしに行くんですか?」

 

「おう、何だか"ふぇす"とかいうでかい祭りがあるんだろ?うちの雇い主がそこで露店を開くんだとよ。なあ?」

 

スレイドが焚き火に向かったまま馬車の方に話しかけると積み荷の整理と確認をしている商人の男性が「そうだぞー」と声を発する。

 

「"ふぇす"は何やら異世界の珍しい品や催しがあるみたいだね。僕もひそかに楽しみにしてるんだ」

 

「うんうん、美味しいものもいっぱいあるって聞くしね!」

 

まだ見ぬフェスに思いを馳せるラファエルとフェリア。ラファエルは読書家でもあるらしく異世界の書物があれば読んでみたいと考えており、フェリアは食いしん坊でグルメな話に目がないらしい。

 

「そういやお前らの乗ってるあの鉄の馬、やっぱりあれも異世界の乗り物なのか?」

 

「はい、"バイク"といってエンジンという機械にガソリンという特殊な油を入れて燃焼させ、それで動かしています」

 

「ちょっと見てもいいか?」

 

「どうぞ。いいよな、ディレット?」

 

「もちろん!」

 

スレイドは焚き火の前から立ち上がると龍馬のKDX220SRとディレットのKLX250を眺めたり、触ったりしている。

 

「あ!スレイドずるい!私も!」

 

「僕もいいかな?」

 

フェリアとラファエルの二人も立ち上がってバイクを四方八方から眺めながら和気あいあいとしている。いつの間にやら彼等の雇い主である商人の男性も混ざっていた。

見たこともない材質で出来た乗り物。さらにそれに取り付けられた不思議な手触りの箱のような(パニアケース)。龍馬とディレットはバイクに跨がるとその辺を軽く走り、彼等を驚かせ、楽しませた。その後もしばらく話し込んでしまい、スマホを使って記念写真まで撮り、それに一区切りつくとようやく龍馬とディレットは彼等に別れを告げて出発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ロイド山脈を抜けると少し冷え込みが厳しくなってくる。ここからは黒の一族の渓谷より東に位置する忘却の谷を目指す。そんなツーリング旅の最中、ディレットの音声が聞こえてきた。

 

「"ねえ、リョーマ"」

 

「ん?」

 

「"ハヤトやチハルも来れればよかったのにね"」

 

「まあ、仕方ねえよ。ゴリラは風邪で勉強中毒の委員長は期末試験に向けてずっと机に向かってるしさ」

 

あのレースの雨で身体を冷やしてしまったせいか、勇斗は珍しく風邪を引いてしまったのだ。そのため今回の旅には同行できず、現在は自宅で療養中だ。そんな中リリィが家までお見舞いに来てくれたとかで風邪にも関わらずわざわざそのことをLINEで送ってきやがったので死ねばいいのにと書いて送り返してやったら既読スルーされた。死ねばいいのに。

一方千春は月末に期末試験が迫っているとあって学校でも家でも勉強漬けの毎日だ。そんなことばっかりしてるから頭が固いんだよと言いたいところだが、鉄拳制裁を喰らいそうなので黙っておく。君子は危うきには近寄らないのである。

 

「まあ、あんまりゾロゾロいたら向こうの領主さんもいい気分しないかもだし、今回は俺ら二人でのんびり旅しようじゃねえか」

 

「"そうだね!……あ、リョーマ。見えてきたよ。忘却の谷が"」

 

平原の草が徐々に荒れ地へと変わり、緑が少なくなってきたその時、巨大な岩山が連なる次の山脈が見えてきた。ディレットが指差すその先が"忘却の谷"らしい。荒れ地が続く街道はやがて途中で無くなり、山の麓には草木がわずかに生えるだけの木々のない荒野が広がっている。

 

「"前にも言ったけど、ここはよくわからない大小様々な魔力があちこちに渦巻いてて誰も近寄らない場所なんだ。モンスターもいないとは思うけど……一応警戒はしててね"」

 

「おう」

 

忘却の谷。モンスターでさえ近寄らぬというその秘境は帝国領の北東に位置する岩山の間に存在する。出所のわからない、大小問わず歪んだ魔力の渦がそこかしこに存在するという噂のこの谷がなぜ"忘却の谷"と呼ばれているのか、知る者はいない。わかっているのはただ昔から"忘却の谷"と漠然と呼ばれていること。ただそれだけだ。忘却の谷に関するあらゆる書物や文献は全く発見されず、今に至るまで何もわかっていない。

龍馬とディレットは岩山の間を進む。幸い道は広く、バイクでも充分抜けられそうだ。二人はゆっくりとアクセルを回しつつ、慎重に先へと進んだ。やがて両側に断崖絶壁が立ちはだかる渓谷へとやってきた。そこで龍馬は不可解な物を発見する。

 

「ディレット!ちょっと待ってくれ!何かおかしなものがある!」

 

ディレットを呼び止めてバイクから降りると、岩場の陰に散らばった銀貨か銅貨のようなものを見つけた。トラム貨幣かと思ったが、どうにも違う。真ん中に穴が空いている。龍馬がそれを拾って泥や汚れをはらうとそこに刻まれていたのは信じがたいものだった。

 

「ば、馬鹿な……!有り得ない……!」

 

「リョーマ、どうしたの?」

 

バイクから降りてきたディレットに龍馬が"それ"を見せる。龍馬が手にしていたのは"寛永通寳"と漢字が刻まれた貨幣。これは日本の江戸時代に流通していた貨幣で龍馬が持っているのは鉄製の一文銭だ。

 

「これは俺達の世界の500年以上前の日本で使われていた金だ!何故こんなものが異世界のこんな場所にあるんだ!?」

 

「ど、どういうこと!?」

 

ここは異世界・アルカ帝国領の誰も近寄らぬ秘境である。しかも日本とこの世界が繋がったのはつい一年ほど前のことである。こんな場所に江戸時代の日本の通貨が落ちているなど有り得ないのだ。いや、貨幣だけではない。辺りを探索すると古代エジプトのヒエログリフが刻まれた壁画の一部が落ちていたり、古代中国のものであろう漢字が刻まれたよくわからない陶器や古いプロペラ機や戦車とおぼしき残骸などが散らばっている。

 

「一体これは……」

 

龍馬が地球の過去の遺産を調べているとディレットが何者かの足音を聞き付けた。それは龍馬にもはっきり聞こえ、ディレットは弓を、龍馬はルナ・アームを構えて戦闘態勢に入る。

 

「ヒッヒッヒ……やっぱり来たなぁ、アミーゴにセニョリータ……来るとわかってたぜ」

 

「コメル・シアンテ……!あんたか……!」

 

岩場の陰からぬっと出現した黒い影。ボロボロの黒いローブにずだ袋のようなリュック。それは紛れもなくあの時帝都で会った武器商人その人であった。

 

「気軽にルシアンテと呼んでくれて構わないぜ。やっぱり俺の勘は当たるなあ……ヒヒヒ……じゃあ、ビジネスの話をしようじゃないかソルジャー。ついてきな」

 

武器商人はローブの裾を引きずりながら踵を返して歩き出す。龍馬とディレットは顔を見合わせて困惑した表情を見せつつも、仕方なくその男ーーーーコメル・シアンテについていくのだった。

二人はその後、近くにあった洞窟へと案内された。内部にはきちんと燭台が灯してあり、意外に明るく、足を取られたりする心配はなさそうだ。細長い通路をしばらく進むとやや開けた場所に出た。

 

 

 

 

龍馬とディレットは、そこに広がる光景に絶句した。

 

 

 

 

 

壁や床、天井を鉄製の建材で補強したその場所には壁一面に大量の"銃"が並べられていたのである。

 

「なんだこりゃあ……!?」

 

「リョーマ……!これって……銃……だよね……!?」

 

銃と言っても現代の特殊部隊が使用しているようなハイテクなものではない。そのほとんどがアメリカ西部開拓時代から第二次世界大戦の間に使用されたような古いものばかりである。しかし古いからといって状態が悪いわけではない。年季は入っているがよく手入れされており、状態は良好そうに見える。

二人が無数に並べられた銃器に目を奪われているとルシアンテはボロボロのソファのひとつに腰掛けて手を揉み合わせながら話し始めた。

 

「ビエンベニードス(ようこそ)、忘却の谷へ。ここは"銃"を専門に扱うガンショップさ。さあ、ビジネスの話をしようじゃないか」

 

「ルシアンテ……あんたやっぱりこの世界の人間じゃないな!?」

 

龍馬は最初に彼から話しかけられた時に薄々感じていた。現在日本は世界の混乱を招かぬように異界人の海外への出国を規制している。したがって日本以外の国の言語を異界人が語るのは明らかに違和感がある。そして「この世界にはない武器」という言葉。まるで異世界の武器を知り尽くしているとでも言いたげなセリフに龍馬は彼がこの世界の住人ではないことを察していたのである。

 

「そうさ。俺もアミーゴと同じ地球の出身。そして残念ながら"俺はもう人間じゃない"」

 

そう言いながらルシアンテはローブのフードを脱いだ。そしてその下から現れたあまりにもおぞましい男の容姿に龍馬もディレットも全身の鳥肌が立つのを感じた。

 

 

 

 

なんと、彼の顔は"髑髏"……骨だった。

 

 

 

顔だけではない。手も真っ白な白骨のそれだ。そしてとびきり目を引くのが彼の頭蓋骨の眼球の穴。その穴は片方が真っ暗闇の空洞でもう片方には唯一残った眼球が赤く血走ってギョロギョロと蠢いている。あまりの不気味なその容貌にディレットは小さく悲鳴を上げて龍馬にしがみついた。

 

「ヒッヒッヒ……驚いたか?そうだ、俺は元・人間のスケルトン……いわゆるアンデッドってやつだ。そして俺は地球のスペイン出身の武器商人さ。まあ、詳細は割愛するがこう見えても昔はその筋じゃ結構名の知れた武器商人だったんだぜ?」

 

ヒヒヒ、と不気味な笑い声を上げる武器商人コメル・シアンテ。そして彼は語った。何故現代の地球で武器商人として世界中を暗躍していた彼が異世界の秘境でアンデッドと化してしまったのかを。

 

「詳しいことはわかっちゃいないが、俺は三年前のある日に敵勢力に武器を売ったことが原因でそいつらと敵対するテロリストに命を狙われた。ま、そんなことは日常茶飯事だったが今回は完全に先手を取られちまった。ドジった俺は瀕死のまま逃げおおせたものの、怪我は酷くて意識も薄れ、そのまま死ぬものと思った。そして目を覚ましたらこの忘却の谷にいた。アンデッドと化してな。最初は地獄に来ちまったんだと思ったよ」

 

彼はこの世界で正体を隠して情報を集めるうちにここが地球とは違う異世界であることに気付いた。忘却の谷に身を潜めているある日、彼はここに地球の過去のものが銃を含め落ちているのを発見し、生前の癖からかそれを片っ端から拾っては手入れしてこうしてコレクションしていたのだ。

 

「この場所が何故"忘却の谷"と呼ばれているか知っているか?……この場所はな、"次元の歪みの特異点"が不定期に発生する場所なんだ。ここは異なる世界同士の交わりが小さな規模でよく起きる。そして異世界で"忘れ去られた遺物"がこの場所に流れ着くんだよ」

 

彼が所持している銃は数々の戦争で"持ち主を失った"武器達が世界から忘れ去られたまま存在意義を失い、この世界に流れ着いたものだと説明する。そしてこの場所は古代より異世界の遺物が流れ着く特異点であると。それがこの"忘却の谷"の名の由来であり、真実なのだ。

 

「話が逸れたな……ビジネスの話に戻ろう。ここに来たということはブツの取引に来たんだろう?」

 

確かにそうだがまさか売っている武器が銃とは思わなかった龍馬は数多く存在する彼の"商品"を眺めて困惑する。銃などゲームの中でしか扱ったことがない。確かに使えれば強力な武器だが、果たして自分達に扱えるものか。

 

「"扱い方がわからない"……そんな顔をしているな?フッ、安心しな。奥に行けば射撃場もあるし、メンテナンスや使い方の指導もしてやるよ。さあ、まずは気になる物を選んでくれ」

 

「選んでくれ、ったって……」

 

これだけ種類があるのだ。選ぶにしてもそう簡単に品定めは出来ない。二人が迷っているとルシアンテはソファから立ち上がり、棚を物色し始めた。

 

「仕方ねえな、あんたらに合いそうな物を俺が適当に見繕ってやるよ。ちょっと待ってな……ええと……ああ……時間がかかるから適当に座って待ってなよ」

 

そう言われて龍馬とディレットは仕方なくいくつかある古びたソファに腰掛けた。その間にもルシアンテは棚から銃を引っ張り出しては戻したりを繰り返して"龍馬達に合う銃"を探し続けている。

 

 

 

そして約30分後。

 

 

 

「待たせたな。レディファーストだ。そちらのセニョリータの武器から紹介していこうじゃないか」

 

そう言ってルシアンテはディレットを手招きする。ディレットはおそるおそる近づくと彼がテーブルの上に置いた銃を見る。ひとつは古いボルトアクション式のライフル、もうひとつはオートマチック式の拳銃だった。

 

「このライフルはリー・エンフィールド。イギリスで長年軍に正式採用され続けたボルトアクション式のライフルだ。セニョリータは狙撃が得意そうだからスコープもおまけしといたぜ。それからサイドアームとしてM1911A1だ。説明不要のアメリカ軍の傑作自動拳銃だな。100年以上使われ続けている名銃だぜ。ストッピングパワーは非常に強いから至近距離ならこいつがいいだろう」

 

ディレットにルシアンテが用意したのは10発の弾薬を装填可能なリー・エンフィールドライフル。そしてアメリカ軍で1911年に製造されてから一線を退いた現在でも一部の部隊には配備されており、根強いファンを持つM1911、いわゆる"ガバメント"だ。ディレットに渡されたものは1926年以降に改良が施されたM1911A1だ。.45ACP弾を使用するこの拳銃はストッピングパワーの強さを考慮して製作されており、第一次世界大戦時代に製造されてから100年以上の時が流れても基本的な構造は変わっていない。

 

「意外と重い……!」

 

映画やゲームを見ていると軽そうに構えているが、実際は銃というものは拳銃でもかなり重く拾ってすぐ撃ちまくるようなことが出来るのは皆無だと思っていい。

ディレットが自分に用意された銃を眺めているとルシアンテは今度は龍馬を別の机に案内した。

 

「ヘイ、アミーゴはこっちさ」

 

龍馬が案内された机には三丁の銃が置かれていた。ひとつは四角いフォルムが特徴的な拳銃、ひとつはレバーアクション式のライフル、そして最後が水平二連式のショットガンである。

 

「モーゼルC96に……ウィンチェスターライフル……それにソードオフショットガンか」

 

「詳しいな、アミーゴ。さてはミリオタってやつか?あれだろ?FPSとか好んでやるタイプの」

 

「まあ……それなりに」

 

普段からオンラインゲームでFPSをやっている龍馬は銃の外見と名前くらいならある程度知っている。特に龍馬は西部劇や古い銃器が好きな勇斗の影響で自身も結構古い武器を好んでいる節がある。そんな自分にチョイスされた銃がモーゼルやレバーアクションライフルとはなかなか渋い。

 

「結構。なら早速試し撃ち兼訓練と行こうか。おい、お前ら!!仕事だぜ!!」

 

「「「へい、親分!」」」

 

ルシアンテが声を上げながら手を叩くと奥からカタカタと音を立てながらボロボロの服を纏ったスケルトンが何体も現れた。龍馬とディレットは咄嗟に身構えてしまう。

 

「そう警戒しなさんな。こいつらは俺の部下でね。なりはこんなんだが優秀だ。俺が保証する」

 

「お客人、どうぞこちらへ。射撃場の準備が出来ております」

 

スケルトン達は丁寧に頭を下げると手招きしつつ、龍馬達に洞窟の奥へと案内する。二人は困惑しつつもルシアンテが出した銃を手に射撃場へと足を運ぶのだった。

 

 

ここまで来たら引き返すわけにも行くまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「銃はしっかり両手で握るんだ。構えて撃つ時以外はトリガーに指をかけるなよ。そうだ……それでいい」

 

ルシアンテの指導の元、洞窟の奥に設置された射撃場で射撃訓練を行う龍馬とディレット。初めて銃を撃った感想……それは"反動(リコイル)の衝撃が想像を越えるほど大きい"ということに尽きる。銃を扱うにはまず身体を鍛えなければならない。銃の反動は素人が想像しているよりも遥かに大きく、下手をすれば撃った本人が脱臼や怪我をする可能性もある。映画やゲームではよく片手で連射したりする描写があるがやはりフィクションはフィクション。現実とはかけ離れている。訓練を重ねるごとに手と肩の痺れが増していく。

 

「いてて……」

 

「手が痺れてきちゃった……」

 

「そろそろ休憩するか」

 

二人の疲労を見かねたルシアンテは一旦休憩を挟むことを提案する。初の実銃射撃でだいぶ疲れてしまった龍馬達はルシアンテと共に先ほどの部屋に戻って休んだ。ルシアンテは向かい側にあるソファに腰掛けると懐からパイプを取り出して火を付け、煙草の煙をくゆらせた。

 

「……骸骨なのに煙草吸って味感じるのか?」

 

「いいや、全く。ただ、俺は生前はヘビースモーカーでね。こんな身体になっても何かしらの煙草を加えてないと落ち着かないのさ。まあ、生身の人間だったころのクセみたいなもんだ」

 

ニコチン中毒というものはなかなか恐ろしいものだ。肉体だけでなく、精神までこうして蝕んでしまう。身体が骨だけの生ける屍となってしまった以上ルシアンテは味覚を失い、煙草どころか酒や食べ物の味もわからなくなってしまった。飢えや病気で死なないのはありがたいが、生きる上での楽しみの多くを失ったことはかなり痛い。何か娯楽でもあればいいのだがこの世界にはそういったものは少ない。誰も近寄らないこのような場所で暮らしていれば尚更だ。

 

「アミーゴ、セニョリータ、お前ら……名前は?」

 

「名前?俺は……龍馬。斎藤龍馬だ」

 

「私はディレット。ディレット・アドミラシルだよ」

 

「ふむ……龍馬にディレット、か。よし、休憩がてらお前らにひとつ忠告しといてやる」

 

ルシアンテは煙草の煙を吐き出すと再びパイプを口に咥えて立ち上る煙を眺めながら話し始める。

 

「戦争を生業としてきた俺だからこそ言える話だ。普通は顧客にこんなことは言わないんだがな。龍馬、ディレット、出来ることならば"銃を撃つのは獣やモンスターだけ"にしておけ。人に向けて撃てば……もう後戻りは出来なくなる。銃というものは呪われた武器だ。一度人間を撃てば最後、人はいずれ怪物と化す」

 

ルシアンテは商売柄、多くの人間の死を目の当たりにしてきた。虫すら殺せぬほどの臆病者が銃で人の命を奪った途端、その狂気と銃の力に溺れて悲惨な結末を辿った現実も。

銃は人を怪物に変えてしまう恐ろしい代物だ。ディレットとかいうエルフの年は知らないが、龍馬という日本人の少年は恐らくまだ酒も飲めないほど若い人間だということはわかっていた。ならば忠告をするに越したことはない。

 

「いいか、お前らが考えている以上に銃や兵器、戦争は恐ろしい。俺だってこうしてアンデッドになって異世界転移してなけりゃ今頃野垂れ死んであの世にいたはずなんだ。そっちのエルフのセニョリータはどうか知らないが龍馬、お前はまだ若い。……銃の呪縛に囚われるなよ」

 

「……忠告どうも。肝に銘じとくよ」

 

龍馬は水筒の水を一口飲んでふう、と息をつく。

 

「だが……もし自分の命や周りの仲間の命を脅かすヤツがいたならば……その時はたとえ相手が人間だろうと決して躊躇うな。"奪われるよりは奪え"……俺の座右の銘さ」

 

ルシアンテは再びパイプの煙をくゆらせ、煙が立ち上る洞窟の天井を見上げる。しばらくの間沈黙が続くとルシアンテはパイプの灰を捨て、ゆっくりと立ち上がった。

 

「柄にもない話をしちまったな。さて、訓練の続きと行こうか。ところで龍馬にディレット、お前らフラッシュライトは持ってないか?」

 

「フラッシュライト?あるにはあるけど……」

 

「リョーマのお父さんに買ってもらったやつだね」

 

「いいだろう。次はライトを使った拳銃のテクニックを教えてやる。射撃場へ来な」

 

龍馬達はルシアンテの後に続いて再び射撃場へと向かう。今度は龍一郎から買ってもらったフラッシュライトを手に新しい射撃法をルシアンテから教えてもらった。

 

「お前らに教えるのは"ハリエス・テクニック"という構え方だ。フラッシュライトは左手に逆手で持ち、右手で銃を構える。右手は左手の上に置くようにして構え、照準を安定させるんだ。この時ライトと銃の位置は胴や頭から離すようにしろ」

 

ルシアンテは腕をクロスさせるようにして左手に龍馬から借りたフラッシュライトを持ち、左手で支えるように右手を置いて銃を構える。

これはアメリカ海兵隊所属のスナイパー兼射撃インストラクターの故マイケル・ハリエス氏が考案したフラッシュライトと拳銃を同時に構える戦術である。夜間や暗所での戦闘で有効であり、フラッシュライトを相手の目に向けることによって目眩ましの効果を発揮すると共にスムーズな射撃を可能にする。生物の眼球は暗所ではより多くの光を取り込んで視界を確保しようと瞳孔が大きくなる。従ってそこへいきなりライトの強烈な光を浴びせられれば視界がくらみ、一時的に行動できなくなるためこちらは素早く反撃出来るとというわけだ。

また、夜間にライトの光を確認した敵は光源かその根元を狙おうとする。胴や頭からライトを離すことで遠距離からの狙撃による致命傷のリスクを減らせる。

しかしこの技術、欠点もある。ひとつは拳銃を片手で構える上に頭から離れた位置に構えるため射撃精度は大幅に落ち、反動によるブレも大きくなってしまう。また、咄嗟にライトと銃を構えるのは時間がかかり難しい。そしてもうひとつはライトによる目眩ましは昼間や明るい場所では全く効果がない。瞳孔は明るい場所では眼球が取り込む光量を調節するために小さくなっており、この状態では目眩ましの効果はほとんど期待できないと思っていいだろう。ルシアンテは戦術の欠点をも説明した上で状況に応じて使い分けるように龍馬達に指南する。

その後龍馬とディレットの二人はしばらく訓練を続けた。結構な時間が経ってしまったため、ルシアンテの提案で今夜はこの洞窟で一晩を明かすことになった。

 

 

 

 

 

そして、翌日。

 

 

 

 

 

「ディレット、忘れ物はないか?」

 

「うん、大丈夫」

 

洞窟からバイクを押して出てきた龍馬とディレットの二人。昨日とは違い、龍馬は背中にウィンチェスターライフルを入れたショルダーケースを背負って腰の両側にはモーゼルC96とソードオフショットガンを入れたホルスターを装備している。更にショットガンの弾薬であるショットシェルを付けた弾帯を肩から斜めがけしており、ディレットはスリング(肩ひも)を付けたエンフィールドライフルを弓と一緒に背負い、腰の右側にはM1911A1を入れたホルスターを装備していた。

 

「ヒッヒッヒ……毎度あり。達者でなソルジャー」

 

「ああ、ありがとうルシアンテ。しかし本当にタダでいいのか?」

 

龍馬達はこれだけの銃器と予備の弾薬、さらには弾帯やホルスターなどの装備品に加え、メンテナンス用のガンオイルなどをもらったのにも関わらず、武器商人ルシアンテはそれをタダで譲るというのだ。

 

「ヒッヒッヒ……構わねえさ。久々に俺も銃の商売が出来て楽しかったしな。それにアミーゴ達とは何だか長い付き合いになりそうなんでな。ただし次からはお代をいただくぜ」

 

「わかった、恩に着る」

 

「ありがとね、ルシアンテさん」

 

「いいってことよ、アミーゴ、セニョリータ。弾が無くなったり修理や改造をしてほしい時はいつでも来な。歓迎するぜ。それから何かお宝があったら持ってきな。不要なお宝は買い取ってやるからその金で装備を充実させるんだ。ヒッヒッヒ……」

 

「……商魂逞しいこって」

 

結局、武器を渡しておけば今はタダでも新しい装備や弾薬の購入、修理や改造の依頼を受ければ龍馬達から継続的に儲けが入る。しかも銃の取り扱いがこの世界で出来るのはルシアンテただ一人。たとえアンデッドになっても商売人は商売人なのだ。龍馬はその逞しさに苦笑する。

 

「レスター領に行くならこの谷を北に向かえばすぐだ。レスター卿の城がある町は目立つからすぐわかるはずだぜ」

 

「ルシアンテ、ありがとう。じゃあ、俺達は行くよ」

 

「また来るね!ルシアンテさん!」

 

「グラシアス、アミーゴ、セニョリータ。ブエナ・スエルテ(幸運を)……ヒッヒッヒ……」

 

"銃"というまさかの思いがけない武器を手に入れた龍馬とディレットは見送りに来てくれたルシアンテと部下のスケルトン達に別れを告げてバイクを走らせる。

 

 

 

レスター領はもう目と鼻の先だ。




●フィールド移動時BGM……
『荒野の渡り鳥』
(『ワイルドアームズ』より)
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