アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第97話 見えざる恐怖

ロヴィクラムの西にあるホルストン牧場の家畜の変死事件の原因究明という長らく誰も解決に至っていない依頼を受けた龍馬とディレット。彼等が契約手続きを済ませてしばらく待っていると部屋の鍵を持ってセバスチャンが現れた。彼は二階にある客室をレスター卿の指示で龍馬達のために用意していたのである。ギルドを出て二階にある客室へ向かう途中で二人は話を聞いてみた。

 

「あの……もしかしてセバスチャンさんもヴァンパイアなんですか?」

 

「まさか。私はただの人間ですよ。この城で働く者の中で唯一のね」

 

話を聞いてみると彼の父も、そのまた父も代々この城の城主であるレスター家に仕えてきたという。昼間に城での仕事をこなしてくれる人間の働き手として主に昼、レスター卿が眠りについている間に掃除や晩餐の買い出しに仕込み、"使い魔"から入る町の情報の整理と報告などを担当しており、龍馬達のような客人の出迎えや応対もしているという。かなりの重労働だが大丈夫なのだろうか。

 

「私はレスター様にお仕えすることに誇りと信念を持っております。それがどうして苦になりましょうか。こうしてあの方のお役に立てているだけで私は幸せなのです」

 

……物凄くいい人だ。この人が現代の日本人でなくてよかった。昨今の日本企業は休みも見返りもなしに社員を酷使する、いわゆる"ブラック企業"が蔓延していると聞くのでセバスチャンのような人がもし日本にいたら散々にこき使われたあげく使い捨てられるだろう。こちらの世界の人間で本当によかった。

そんなことを考えていると二階の東側、廊下の奥の方にある客室へ案内され、龍馬とディレットは鍵を渡される。

 

「こちらがお部屋となっております。この部屋より奥に浴室やトイレもございますのでご自由にお使いください。何かありましたら明け方までギルドが開いておりますのでそちらになんなりとお申し付けください。西にある図書室はお泊まりのお客人であればいつでもご利用いただけます。なお、三階や四階は城に住む者以外の立ち入りを禁じておりますのでご容赦ください。では、ごゆっくり」

 

セバスチャンは淡々と説明事項を述べ、再び城の仕事を行うために廊下の向こう側へと去っていく。龍馬は手前の部屋、ディレットはそのひとつ奥の部屋に入る。

部屋の中はやはり城の中と同じくゴシックな内装だった。一人で寝るには大きすぎるベッドに赤い壁紙と数々の装飾品で彩られた豪華な部屋に気圧されつつも龍馬は荷物を下ろす。

それにしても疲れた。浴室は解放されているらしいし入浴を先に済ませてしまおうと龍馬はシャンプーやリンスを取り出す。これは炭由来の成分で出来ているので微生物に分解されやすく、多少なら自然界に流れても環境汚染の心配はない。

約一時間半後。龍馬もディレットも入浴を済ませると寝間着に着替えて現在は龍馬の部屋にディレットがやってきて明日の依頼について話の真っ最中だ。二人は地図と依頼書をそれぞれ手にしている。

 

「ホルストン牧場ってバイクだとどんくらいだ?」

 

「うーん、この距離だとバイクなら三十分くらいじゃない?スピード出せばもっと早くつけるかもよ」

 

「うし、じゃあとっとと原因究明して帰ろうぜ」

 

明日に向けて装備品のチェックだ。ナイフはもちろんのこと、銃器類の弾薬の確認、ディレットは弓の手入れ、龍馬は契約書の内容をタブレットのノート機能にディレットに訳してもらったものをまとめている。明日は早い。準備が終わり次第早めに休んだ方がいいだろう。装備品や持ち物のチェックが終わるとディレットは自分の部屋に戻り、龍馬もベッドに入って休むことにした。

 

「(……めっちゃフカフカで気持ちいい……)」

 

丁寧にメイキングが施されたベッドはサラサラ、フカフカとして最高の肌触りであり、横になった者をたちまち夢の世界へと(いざな)ってしまう。バイク旅による疲れもあって龍馬は徐々にまどろみの中に陥り、最後には完全に夢の中へと旅立ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。セバスチャンが部屋のドアをノックする音で目覚めた龍馬は後から起きてきたディレットと共に食堂に案内される。既に朝食の支度が出来ているが、何か違和感がある。朝食が三人分あるのだ。朝はレスター卿やリリスは眠りについていて食事は取らないはず。客人は龍馬とディレットの二人だけ。ならばあと一人分は誰の分なのか?その答えはすぐにわかった。

 

「おはようございます、カレディア様」

 

「ふあ~……おはよう、セバスチャン」

 

黒いゴシックな服を着たグレーの髪の少女が食堂に現れた。だが服は所々シワが寄っていて着方もどこかだらしがない印象が見受けられる。こんな少女、昨日は見かけなかったはずだが。カレディアと呼ばれたその少女は龍馬達の向かい側の朝食が用意された席へと座るとまるで龍馬達を不審者か何かのような見下した目付きで睨むと指を差してセバスチャンに言い放つ。

 

「ちょっと、セバスチャン?こいつら誰なの?」

 

先に朝食を取っていた龍馬はいきなりディレット共々こいつら呼ばわりされてムカッ腹が立つ。が、気にしていないフリをしながら食事を続けた。

 

「カレディア様、そのような失礼極まりないお言葉遣いはよろしくありません。彼等はレスター様のお招きしたお客人です。例の異世界からの」

 

「ふうん……」

 

相変わらず見下した目付きは変えぬまま、カレディアは朝食に手をつけようとする。しかし食事に目をやった瞬間、彼女はセバスチャンを怒鳴り付けた。

 

「ちょっと、セバスチャン!これ肉が入ってないじゃない!」

 

朝食のメニューはパンとセバスチャン特製の野菜スープ、それから半熟で焼き上がった目玉焼きにシャキシャキのロキートだ。しかしそれに肉がないことにカレディアは憤慨する。

 

「カレディア様、朝からお肉の取りすぎは身体によろしくありません。ですから……」

 

「ああもう、うるさいわね!じゃあいいわ!朝食はいらないからもう下げて頂戴!」

 

困るセバスチャンに対し、次から次へとワガママ極まりない言葉を浴びせるカレディア。最初は龍馬も気にしないようにしていたが、食べ物を粗末にする彼女の言動に遂に堪忍袋の尾が切れた。

 

「やかましい!!人が飯食ってる時にギャーギャー、ギャーギャー喚きやがって!!人がせっかく用意してくれた飯のありがたみもわからねーならその辺の草でも食ってろバカ野郎!!」

 

「なっ……何よアンタ……!客のくせして偉そうに……」

 

「り、リョーマ様……」

 

龍馬は小学生時代に家族の団欒(だんらん)がないことの寂しさを身を持って知っていた。家から帰れば両親は仕事で家にはおらず、夕食は毎日味気ないコンビニ弁当だけ。朝食だって母が仕事を辞めるまでは両親は自分より早く起きて出勤していたので自分で焼いたトーストを食べるだけだった。"誰かが作ってくれる食事"というものがどれほど暖かくてありがたいものかーーーーこの少女はわかっていないのだ。

 

「うるせえ、黙れ!!他にも色々仕事があるのに朝からセバスチャンさんがどれだけお前や俺達のために早起きして朝飯作ってるか知ってんのか!!文句があるならテメーで作れや!!」

 

「そうよ!セバスチャンさんがあまりにも可哀想だわ!彼に謝りなさい!」

 

度を越えたカレディアのあまりのワガママさにディレットも怒りを露にして叫ぶ。流石に二人がかりで言い寄られてはカレディアも分が悪かった。

 

「な、何なのよアンタら一体……!ふ、ふん!こっちから願い下げよ、そんな粗末な食事!」

 

カレディアは乱暴に席を立つと龍馬達を罵りながら食堂のドアを開けて出ていく。セバスチャンは悲しさと困惑が入り交じる表情のままカレディアの食事を下げようとするが、龍馬はその手を止めた。

 

「リョーマ様……?」

 

「セバスチャンさん。それ俺が食べます。せっかく作ってくれた朝飯を手もつけずにゴミ箱行きなんてあんまりでしょう」

 

「あ、リョーマ!私にも半分ちょうだい!」

 

「リョーマ様……ディレット様……」

 

ああ、何とお優しい方達だ、とセバスチャンは思わず涙ぐんでしまう。これほど他者のためを思ってくれる客人など久しぶりだ。セバスチャンは逆に自分が申し訳ないと思ってしまう。

龍馬とディレットはカレディアの手付かずの食事を二人で分けて平らげただけでなく、おかわりまで望んだのでセバスチャンもはりきって食事を用意してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありません。この時間はカレディア様の朝食のお時間でして……出来ることならリョーマ様とディレット様の朝食のタイミングをカレディア様とはずらしたかったのですが……客人を後回しになど流石に失礼かと思いまして……しかしカレディア様の方の時間をずらせばあの方がお怒りになるので悩んだ末にリョーマ様方とご一緒にしたのですが……どうやら裏目に出てしまったようです……リョーマ様、ディレット様、大変申し訳ありませんでした」

 

セバスチャンは頭を深々と下げて龍馬とディレットに謝罪する。しかしどちらかといえば龍馬達の方こそ彼に謝らねばと思った。

 

「気にしないでください、セバスチャンさん。俺達がいたばっかりに……それよりアイツは誰なんです?昨日はいなかったはずですけど……」

 

「彼女は……カレディア様は……旦那様とリリス奥様の一人娘なのです」

 

「娘!?」

 

どういうことだ。レスター卿の娘ならヴァンパイアのはず。日の光が差し込むこの食堂に朝起きてやってくるなどヴァンパイアである以上は不可能のはずだ。

 

「カレディア様は……その……人間とヴァンパイアの混血……ダムピールなのです」

 

「ダムピール?」

 

ますますわからなくなってきた。レスター卿はヴァンパイアでリリスはサキュバスだ。それなのに娘はヴァンパイアの人間の混血?一体どういうことなのかセバスチャンに尋ねてみる。

 

「……それは……その……申し訳ありません、私の口からはこれ以上は申し上げられません」

 

セバスチャンは困惑した様子で口をつぐんだ。どうやらレスター卿は色々隠していたことがあったが、まだ秘密があるらしい。しかしこれ以上追及するのはセバスチャンを困らせることになるだろうと判断し、龍馬達はホルストン牧場へ出発する準備に入る。

 

「じゃあセバスチャンさん、俺達はホルストン牧場の依頼主のところへ行ってきます」

 

「お城のお仕事、頑張ってくださいね!」

 

「ありがとうございます。リョーマ様とディレット様もどうかお気を付けて……」

 

セバスチャンに見送られながら準備を整えて城を出る二人。そんな彼等の会話を影から盗み聞きしていた人物がひとり。……カレディアだ。

 

「(アイツらホルストン牧場に行くっていってたわよね……依頼ってことはギルドの……?よし、アイツらの後を尾けていっちゃお!さっき私に生意気な口を聞いた罰よ!脅かして邪魔してやるわ!)」

 

カレディアはさっそく服を動きやすい軽装に着替えるとセバスチャンや城の者たちにバレないように窓からロープを垂らして庭へと降りる。そして馬小屋へ忍び込んで馬を一頭連れ出すと、その馬に跨がって城を抜け出し、龍馬達に遅れる形でホルストン牧場を目指すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロヴィクラムを出てから約三十分。龍馬達はホルストン牧場に辿り着いた。牧場には牛や馬、羊などがのんびりと歩き回ったり、牧草を食べたりしていてのどかな雰囲気だ。とても家畜の変死などという奇怪な事件が起きているようには見えない。この牧場を経営するホルストン夫妻を訪ね、龍馬達は事件の概要を詳しく聞いてみる。

 

「時々明け方になると小屋にいるはずの牛や馬が一、二頭死んでいるんだ。しかも……ガリガリに痩せ細ってね」

 

「そうなのよ。うちはしっかり餌もあげて家畜の体調にだって気を遣ってるわ。餓死なんて有り得ないの。絶対これはモンスターの仕業よ」

 

ホルストン夫妻はそう説明する。確かに牛はよく丸々と太っており、馬はしっかりとした体躯を誇っていて丁寧に飼育されていることがわかる。そんな家畜達がいきなり痩せ細って死ぬなどあまりにも不可解だ。だがある程度のモンスターの知識があるディレットもこの状況の原因となっているモンスターには見当もつかない。

 

「リョーマ、とりあえず牧場全体を見て回ろうよ。それから家畜が死んでた小屋も」

 

「おう。捜査は足が基本だしな」

 

何か手掛かりが掴めるかもしれない。まずは牧場の敷地を観察してみる二人だが、ここには異常は無さそうだ。

次に牛小屋と馬小屋。ホルストン夫妻の話によれば基本的に家畜は小屋にいる個体が狙われているらしいが、小屋を荒らした形跡も、小屋に入った形跡すらもないというのだ。一時期は牧場で働く従業員の仕業ではないかと疑ったがそもそも人間にそのような超常的な殺害方法が出来るわけもない。となればやはりモンスターの仕業と考えるのが自然か。調査を続けるうちにディレットが何かに気付いたらしく、ホルストン夫妻に再び話を聞きに向かう。

 

「ホルストンさん、被害に遭った家畜には他に何か気付いた点はありますか?」

 

「う~ん……そうだなぁ……"外傷がなかった"ことくらいかなぁ……」

 

「外傷が……ない……?」

 

傷が見当たらないということは……これは(まじな)いかゴースト系のモンスターによる仕業だとディレットはひとつの仮説を立てるが、この近くではレイスやゴーストの出没例は今までにないし、そんな高度な呪いを使えるのならばレスター卿が気付いているはずだ。結局何の手がかりも得られないまま、時間だけが過ぎていく。

 

「結局手掛かりはなしか……」

 

「こうなったら実際に現場を見つけて犯人を取り押さえるしかないね」

 

手掛かりが見つからない以上、時間をかけて張り込むしかない。しかし家畜の変死は毎回時間がバラバラで、下手をすればホルストン夫妻や従業員が働いている間に殺害されていることもあるらしい。それなのに犯人の姿を誰も見ていないというのだ。

 

「よしディレット、お前はホルストンさんの家の二階に上がってライフルのスコープであたりを偵察してくれ。俺はドローンで牧場を偵察してみる」

 

「わかった。何か見つけたら知らせるね」

 

ここからは二手に別れて行動を開始する。龍馬はドローンで上空からの偵察を、ディレットはホルストン夫妻宅にあがらせてもらい、家の二階からライフルのスコープを使って民家や納屋の周辺を中心に辺りを観察してみる。

そして調査すること数時間後。ドローンによる空撮でも何も手掛かりを得られない龍馬。映るものといえば広大なホルストン牧場の地、そして家畜とドローンに驚く牧場の人々ばかりだ。龍馬はスマホでディレットに連絡を取ってみる。しかし……

 

「ディレット!どうだ!?」

 

「"ダメ。何も見当たらないよ"」

 

「そうか……」

 

怪しい影や雰囲気もないどころか、牧場は平和そのものだ。空を飛ぶ小鳥の鳴き声や牛や馬の鳴き声、牧場で働く人々の作業の音だけが聞こえてくる。本当にこんな平和な牧場で家畜の変死などという奇怪な事件が起きているというのか疑問に思うほどに牧場はのどかで平和だ。

さらに数時間後。徐々に東の空が赤くなり、日没が近いことがわかる。未だに何の進展もない状態に焦りとイラつきを隠せない龍馬を影から嘲笑う一人の影が。

 

「(いひひ。アイツ、何の手掛かりもないものだから怒ってるわ。一番イラついている今が絶好のチャンスね。待った甲斐があったわ。それっ!)」

 

龍馬達をつけてきた暇人、もといダムピールのカレディアはイライラしながらドローンをタブレットで操作している龍馬の足元に向かって魔法を放つ。ダムピールはヴァンパイアの血を半分受け継いでいる故に太陽の光に耐性があり、魔力もそれなりに高い。カレディアは火球を飛ばすフレイムボールの魔法を龍馬の足元に向かって放った。

 

「うわっ!誰だ!?」

 

龍馬はいきなり飛んできた魔法に驚き、慌ててドローンを墜落させそうになるが何とか持ちこたえるとドローンを急いで手元に戻し、辺りを見回す。

 

「(ふふ、驚いてる驚いてる。ざまあみろ。私に生意気な口をきくからよ)」

 

カレディアは素早く物陰から物陰へ移るとその後も龍馬の周囲に魔法を放っては彼をおちょくり続けた。

事件解決の糸口も掴めないまま、何者かの妨害まで受けてしまっている龍馬はただでさえイライラしている。そして遂にルナ・アームを装着すると腕にバレンの獄炎を宿して怒鳴った。

 

「おいゴラァ!!出てこい!!出てこないならこっちにも考えがあるぞ!!」

 

龍馬の腕に突如として現れた謎の籠手とそれを包む炎を見て流石のカレディアも驚きを隠せない。

 

「(な、何あれ!?あいつ、あんなこと出来たの!?魔法が使えるほど頭が良さそうには見えないっていうのに……!)」

 

龍馬のルナ・アームとバレンの獄炎を見たカレディアは流石にこれ以上の妨害や挑発はまずいとして急いで牧場を離れようとする。目的は達成した。後はあいつらが依頼を達成できずに城にトボトボと帰ってきたところを大笑いでもしてやればいい。そう考えながら龍馬が向こうを向いている隙に駆け出そうとしたその時。

 

「リョーマ!!馬小屋から何かおかしな物音が聞こえたよ!!」

 

「なんだって!?よし、急ぐぞ!!」

 

ディレットのエルフの耳が僅かな物音を捉え、家の二階から叫ぶ。もうほとんどの家畜は小屋に戻され、ホルストン夫妻は家へ、他の従業員も牧場を後にしたか住み込みの人間が離れの家に僅かに残る程度だ。今小屋には誰もいないはずだ。ならば可能性はひとつしかない。犯人だ。慌てて馬小屋へ急ぐ龍馬達を見てカレディアも少しこの事件の犯人かもしれない存在に興味が湧いた。彼女は龍馬の後をこっそりつけてみることにした。

馬小屋へ龍馬達が入ると信じられない光景が飛び込んでくる。なんと馬が一頭死んでいるのだ。身体はまるでミイラのように痩せ細り、餓死したかのような状態で。

 

「バカな!俺達はずっと見張ってたんだぞ!?」

 

「私がいた二階からの位置なら馬小屋は見えてた……!でも私は何も見てないわ……!」

 

馬小屋には二つの出入口があり、龍馬達が入ってきたのは人が出入りするための扉だ。反対側の扉は大きく、家畜が出入りするために使っているが今はかんぬきがかけられていて開けることは出来なかったはずだ。一体犯人はどこから侵入し、馬を殺したというのか。龍馬はさっきの魔法を撃った存在を疑ったが、あの時は馬小屋から離れていた。おそらくあれは関係ない。

 

「待って……!リョーマ、馬小屋の外……!一瞬だけど何か微弱な魔力を感じたわ……!」

 

「よし、外へ急ぐぞ!」

 

馬小屋の外に出た二人はあたりを見回すが、何も見当たらない。しかしディレットは確信していた。

 

 

 

この牧場には、"何か"が"いる"と。

 

 

 

 

二人の背中に嫌な汗が流れる。重苦しい空気が辺りに漂い、龍馬はルナ・アームを、ディレットはM1911A1を構えて背中合わせで互いの背後をカバーする。

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

 

 

「ギョアアアアアアアア!!!!」

 

「!?」

 

「リョーマ、危ないっ!!」

 

龍馬の目の前に突如として現れた謎の物体。いや、違う。物体ではない。あれは……"目"だ!巨大な目。人間の身体ほどの大きさがある一つ目の化け物が眼球の下の大きな口を開けていきなり目の前の空間に"出現"し、龍馬に喰らいつこうとしたがディレットがすぐに龍馬を庇って押さえ込んだため、事なきを得た。巨大な一つ目の宙に浮く化け物は目を細めて龍馬達を睨むと再び叫び声を上げる。

 

「ギィヤアアアアアアアア!!!!」

 

「な、なんだこいつは!?」

 

「まさか……!!」

 

ディレットは噂で昔に聞いたことがあった。モンスターの中には次元の狭間を移動することのできる恐るべきモンスターがいると。あの時はおとぎ話だと思ったがこうして目の前に存在している以上、現実である。そしてそのモンスターの名前は……。

 

「ゲイザー……!まさか本当に存在していたなんて!」

 

「ゲイザー!?」

 

ゲイザー。異次元、或いは次元の狭間より現れると言われる一つ目の怪物。極端に目撃例が少ないため、ゲイザーはその存在事態が疑問視されていた。従って弱点や生体などは一切不明であり、唯一おとぎ話や"狂人が書いたとされる怪しい文献"からわかっていることは"ゲイザーは生物のエネルギーを吸収し、喰らう"ことが出来るのだ。もちろんそれすらも絵空事と思われていたが。

 

「この野郎!!燃えちまいな!!」

 

龍馬はルナ・アームを構え、バレンの獄炎を宿そうと強く念じる。しかし予想だにしない事が起きた。なんとバレンの獄炎が"発動しない"のだ。

 

「あ、あれ……!?なんで……!!」

 

「ギョオオオオオオオ!!!!」

 

「うおっ!?」

 

困惑し、焦る龍馬をゲイザーが再び睨み付ける。すると赤い光線が目の前に出現し、龍馬はとっさにそれを避ける。龍馬のいた位置にゲイザーの光線が突き刺さり、地面を黒く焦がした。あんなものに触れれば一巻の終わりだ。

 

「ちくしょう、なんでバレンの炎が出てこないんだ!?」

 

「まさか……!」

 

ゲイザーについてわかることは少ない。だがディレットは今の様子を見てひとつの可能性を考えた。それは……

 

「リョーマ、気を付けて!ゲイザーの瞳はおそらく相手の魔術を封印する力があるわ!」

 

「そうかい!だったら……直接ぶん殴ってやるまでだよ!」

 

龍馬はルナ・アームを装着したまま浮遊するゲイザーに向かい殴りかかる。簡単な話だ。魔法の類いを封じるのならば直接ぶちのめしてしまえばいい。いかに高度な力を持つゲイザーといえど、あの眼球を龍馬の腕力で思いきりぶん殴られればひとたまりもないだろう。

 

しかし、現実はそう簡単な話ではなかった。

 

「ギョアァッ!!」

 

「なっ!?」

 

ゲイザーの瞳に向かい、思いきり振り抜けた龍馬の拳はむなしく空を切る。ゲイザーの姿が……消えてしまったのだ。跡形もなく。

 

「クソッ!どこへ行きやがった!」

 

「ギャアォッ!!」

 

「!!リョーマ、後ろ!!」

 

「後ろ……!?ぐあっ!!」

 

龍馬の背後に突然出現したゲイザーはその身体で思いきり体当たりを喰らわせてきた。振り向くも回避が間に合わずゲイザーに吹き飛ばされて地面に倒れる龍馬。すぐに起き上がり反撃の態勢を取るが既にそこにゲイザーの姿はなかった。

 

「ちくしょう、また消えやがった!」

 

「ゲイザーは異次元の怪物……!きっとアイツは"この世界と重なる別次元"を移動しているのよ!」

 

「パラレルワールドを行き来するってことかよ……!これじゃ手も足も出ないぜ……!」

 

二人は背中合わせで再び辺りを警戒する。ゲイザーは次元移動を行う特殊なモンスターだ。手も足もないゲイザーに対し、手も足もある龍馬達が"手も足も出ない"とは何たる皮肉だろうか。

 

 

次元移動を行う異次元より来たりし怪物・ゲイザー。恐るべき能力を持つこの怪物を倒す術はあるのだろうか。

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