アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第99話 リグラス魔導研究都市

すっかり日も沈んだ頃、龍馬達のバイクはようやくロヴィクラムの町へと戻ってきた。バイクに乗ると強く当たる冷たい風が身体を冷やし、身震いさせる。

町を抜けて城まで行くとロヴィクラム城の城門は開きっぱなしになっていたのでそのまま入ると龍馬達がバイクから降りると同時に城門が開き、中からレスター卿とリリスを連れて慌てて出てきた。

 

「カレディア!!無事か!?」

 

「……た、ただいま……"お父様"……」

 

バイクから降りてきたカレディア。しかし彼女に駆け寄ったレスター卿は信じられない行動に出た。

パチンと響く乾いた音。カレディアの頬に走る痛み。すぐにレスター卿にぶたれたのだと気付いた。レスター卿は"娘"であるカレディアの頬を叩くとそのまましっかりと抱き締めた。

 

「この馬鹿者!!私達がどれだけ心配したかわかっているのか!?ああ、だが無事で良かった……お前にもしものことがあったら私は……」

 

「カレディア……私達は心配したのよ……セバスチャンがあなたがいないことに気付いてね……でも本当によかった……」

 

リリスの口調が普段のそれとは全然違う。"おっとりしたお姉さん"のような魅惑的な口調ではなく、それは完全に娘を思う母親のそれだ。無事にカレディアを連れて帰れたことに龍馬もディレットもほっと胸を撫で下ろした。安心しているのはセバスチャンも同じのようだ。

 

「ほら、カレディア。みんなに言うことがあるだろうが」

 

「約束、忘れてないわよね?」

 

「う、うん……」

 

カレディアは俯きつつも上唇を噛み締める。そしてしばらくの間沈黙すると頭を下げて涙ながらに言葉を発した。

 

「お父様……お母様……セバスチャン……ごめんなさい……!」

 

「カレディア……!」

 

「あなた……」

 

カレディアは話した。勝手に外出した先で自分が何をやったか。どんな目にあったか。もちろん龍馬達に助けられたことも。その全てを伝えた。

そして彼女はセバスチャンの前まで行くと(せき)を切ったように泣き出しながら彼に謝罪した。

 

「セバスチャン……!ごめんなさい……!いつも私のワガママで迷惑をかけて……!本当にごめんなさい……!」

 

「カレディア様……」

 

いつも高圧的だったカレディアが涙を流しながら謝罪するという目の前の光景に驚きと困惑を隠せないセバスチャン。だが嗚咽を漏らしながら頭を下げたままのカレディアにセバスチャンは歩み寄るとしゃがんで目線を合わせ、にこやかに笑いながら語りかける。

 

「カレディア様。お顔をお上げくださいませ。(わたくし)めに謝る必要などございません。私はたとえカレディア様にどのようなお叱りを受けようと貴女様が無事で、健康であればそれが何よりの喜びでございます」

 

「セバスチャン……!うわああああんごめんなさああああい!!」

 

カレディアは号泣した。そこにいたのはいつものセバスチャン。いつもニコニコとしながら淡々とこの城の仕事を昼夜問わずこなす頼れる執事がいつものようにそこにいたのだ。

どれだけ自分がワガママを言っても、困らせるようなことを言っても、いつもセバスチャンは変わらずそばにいてくれた。昼は種族の特性故に"両親"に変わってセバスチャンはずっと自分の身の回りの世話をしてくれたのだ。龍馬達に諭されて初めてわかった。彼の大切さが。ありがたみが。

泣きじゃくりながらしがみつくカレディアを頭を撫でながらセバスチャンはいつものように優しく語りかけてくれる。レスター卿とリリスも寄り添い、そのままカレディアは泣き続けた。

そこにあったのは紛れもなく家族の愛。人間も、ヴァンパイアも、サキュバスも、ダムピールも関係ない。家族を想う愛情の形がそこにはあった。

龍馬とディレットはカレディアは落ち着くまでずっとしばらくその様子を見守り続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……レスター卿、カレディアは?」

 

「安心したのかぐっすり眠っているよ。リョーマ、ディレット、世話をかけたな」

 

あの後カレディアが落ち着くと城でセバスチャンが腕によりをかけた料理を振る舞ってくれた。カレディアはそれを喜んで食べた。大切な家族が作ってくれた料理。その暖かさにようやく気付いたから。

食事を終えるとカレディアはすぐに眠ってしまった。よほど疲れていたのだろう。

 

「リョーマ、ディレット。君達はカレディアを守ってくれただけではなく、長らく未解決だったホルストン牧場の依頼まで達成してくれた。まさか原因がゲイザーとはな。道理でわからないわけだ……大手柄だよ。君達は本当によくやってくれた」

 

ゲイザーの死骸はギルドに引き渡された。この死骸は非常に貴重なサンプルだ。この後はレスター卿のツテでとある研究機関によってゲイザーの研究が行われる予定だ。その旨も龍馬達に説明され、後始末は任せてほしいとのことだ。

ギルドの運営のためにセバスチャンが席を外した所でレスター卿がいつになく重苦しい雰囲気を醸し出しながらため息をつくと、"ある事実"について話し出す。

 

「……君達は疑問に思っているだろう。カレディアがなぜヴァンパイアと人間の混血……"ダムピール"なのか」

 

セバスチャンが口を開くことを躊躇った"娘"の真実。カレディアを救い、領地の危機を救った龍馬達にはその事実を知る権利があるとレスター卿は言う。同席していたリリスも静かに頷いた。

 

 

 

 

「あれは十数年前のことだ。シルワ大陸の東の国……ヴィヴェルタニアよりも東にミラドという国家がかつて存在していた……。そこの領地の一部を治める"もう一人のヴァンパイア"の家系がいたのだ。領主の名はロア・ウィザーズ。私の……親友だった男だ。西のレスター家に東のウィザーズ家……数少ないヴァンパイアの一族同士ということで両家の交流もよく行われていたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三十年程前に起きた東の国の内戦。その国の名をミラドといった。ミラドは豊かで戦争とは無縁の国……のはずだった。

ある時ミラドの王が突然の病に倒れ、帰らぬ人となった。ミラド王には後継者がおらず、その玉座を狙って激しい権力争いが起きた。状勢は崩れ、秩序は崩壊した。貧富の差は拡大し、国はみるみるうちに衰退の一途を辿った。

 

 

 

 

だが、それでも内戦は終わらなかった。戦いは長きに渡り続いた。権力者が変わっては暗殺され、再び内戦が始まる……そんな歴史が二十年近くも続いたのだ。

 

 

 

そしてある日。かつてのミラド王の側近達が国の支配者として組織を結成した。彼等は自分達に刃向かう者を次々に捕らえ、処刑した。そして"人間至上主義"による他種族への弾圧が高まり始めたのだ。

 

 

絶大な力を持つヴァンパイアのウィザーズ家も例外ではなかった。

 

 

多勢に無勢、強大な魔力を(もっ)てしても国の兵士相手には分が悪かったのだ。ロアはかねてより親交のあったレスター家のジョセフに人間の妻との間に生まれた一人娘のカレディアを託すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジョセフ。この子を頼む。もし私と妻の身に何かあれば……後は任せたぞ』

 

 

 

 

 

『ロア!馬鹿なことを言うな!君達も一緒に逃げるんだ!』

 

 

 

 

 

『領主が領民を置いて逃げるわけにはいかない。私も妻も覚悟は出来ている。だがこの子だけは……!……ジョセフ、娘を……カレディアを頼む……!』

 

 

 

 

『ロア……!くっ……!すまない……!』

 

 

 

 

 

まだ赤子のカレディアを抱えてレスター卿は西の領地へと連れ帰った。

 

 

 

 

ロアは自分が死ぬことを既に覚悟していた。領主は領地とそこに住まう全ての民と運命を共にするのだと。

だが……あの時の彼の顔が忘れられない。未だにこの目に焼き付いて離れない。

 

 

 

 

 

もう彼はその腕で愛する娘を抱くことは叶わないのだという事実を前にした彼の哀しみに満ちた顔が。

 

 

 

 

 

そしてこの赤子は……カレディアはもう二度と本当の両親の愛を受けることは出来ないのだと思うと胸を貫かれるような気持ちだった。

 

 

 

 

 

 

その後、ロアの領地や屋敷は焼き討ちにされたとの話を聞いた。強大なヴァンパイアをも滅ぼした狂った権力者どもはその後も無益な争いを続け、結局は組織内でのいさかいが殺し合いに発展し、遂には全員が息絶えた。

 

 

 

 

 

 

これによりミラドの国は地図上から姿を消し、その歴史に幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これがカレディアの過去、そして真実だ」

 

「私達はあの子を養子として引き取り、育てたのぉ。でも……あの子にとって私達は"本当の両親"以上の存在にはなれないのよぅ……」

 

「リリスの言う通りだ。実の親を失ったあの子のために私達は可能な限りの愛情を注いだ。だがどれほど私達があの子を愛そうとも彼女は満たされることはないのだよ」

 

壮絶なカレディアの過去を知り、龍馬とディレットは彼女を怒鳴り付けたことを悔いた。親を失うということがどれほどのものか、両親のいる二人には推し量ることもできない。行き過ぎたワガママや横柄な態度はーーーー決して満たされぬことのない"愛"に飢えた彼女の姿だったのである。

その話を聞いてショックのあまり俯く龍馬とディレットにレスター卿とリリスは優しく語りかけた。

 

「気に病む必要はない、リョーマにディレットよ。君達に出会い、諭されたことで彼女も気付いたはずだ。本当に大切なのは過去ではなく現在(いま)だということを」

 

「ええ。あの子は私達にもセバスチャンにも初めて本当の感情をぶつけてくれたわぁ。リョーマ君にディレットちゃん、あなた達のおかげよぉ。本当にありがとうね、うふふ」

 

二人から感謝されて龍馬もディレットも頭を掻きながら照れる。ヴァンパイアとサキュバスからここまで感謝されるとは夢にも思ってなかった。

 

 

そんな中、龍馬のスマホに着信音が入る。

 

 

相手は……DJの島袋だ。一体どうしたというのだろうか?

 

「もしもし、島さんですか?」

 

「"あっ、よかった!龍馬君、今どこにいるんだい?"」

 

「今は……帝国北のレスター領にあるロヴィクラム城にいますけど……どうしたんです?」

 

島袋は何だか慌てているか、困っている様子だった。……何となく嫌な予感がする。

 

「"実はさ、今度の秋のフェスに出演するDJを何人か打ち合わせのために帝都(こっち)に連れてきたんだけど……その中の一人が『帝都の外を見たい!』ってずっと言ってるんだ。帝都の外はモンスターも出るし危険だからやめとけって言ってるんだけど聞かなくて……騎士団の人達も今は忙しくて護衛するなんて暇はないんだよ。すまないが龍馬君、そのDJをちょっとどこかへ連れていってやってくれないか?君やディレットちゃんならモンスターとも戦えるし、バイクもあるだろ?頼むよ……ヘルメットとかはこちらで用意するからさ……"」

 

「えぇ……」

 

まーためんどくさい事が起こりやがった、と心の中でふてくされる龍馬。今しがた厄介なお嬢様と異次元の怪物の相手をしてきてクタクタだというのに今度は観光気分のDJのお守りとは。どうやらのんびりしている暇は無いらしい。

まあ、どのみち帝都には戻らなければいけないのだ。早いに越したことはないだろう。

 

「わかりました。でも今日は遅いので明日のお昼に帰ります。こっちも色々ゴタゴタがあって疲れてまして……」

 

「"助かるよ……すまないね。でもなるべく早く戻ってきてくれたら嬉しいな"」

 

「了解しました。島さんもお疲れ様です」

 

龍馬は電話を切り、今の内容をディレットにも伝えた。龍馬とは違い、「いいじゃん!どこか連れていってあげようよ!」と意外にも乗り気だ。また何か騒動に巻き込まれるような予感しかしないのにいい気なもんだ。

 

「今その機械が鳴ったということは……リョーマの知り合いからかね?」

 

「はい。帝都にいる知り合いの方から。今はフェスに向けて日本からこちらの世界に来ているらしくて……ちょっとその方から頼みごとを……」

 

「なるほど……さっきの口ぶりから察するにもう明日には帰ってしまうのだな」

 

「寂しいわぁ。もう少しゆっくりしてほしかったのにぃ」

 

二人が翌日には帝都に戻ってしまうと知って残念そうな顔をするレスター卿とリリス。龍馬達も出来ればあと二日くらいはのんびりしたかったのだが、仕方あるまい。島袋も困っているようなので早めに戻らねば。

龍馬達は早めに就寝し、朝早くに出られるよう身体をゆっくりと休めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。龍馬とディレットは早めに起床し、洗顔と朝食を済ませた。二人のためにセバスチャンがいつもより早い時間帯から朝食を作ってくれた。本当にありがたい。

荷物を準備して忘れ物がないかチェックをする。全ての荷物をバイクに積み終わると城の入り口までセバスチャンが見送りに来てくれた。いや、セバスチャンだけではない。

なんとレスター卿やリリス、ギルドで働く魔族達までが龍馬とディレットの二人を見送りに来てくれたのだ。……日傘を差して。

 

「レスター卿……!リリスさん……!」

 

「え、日光とか大丈夫なんですか!?」

 

「短時間なら大丈夫だ。日傘を差していればな。それに……これほどの大切な客人を挨拶もなしに送り出すなどあまりにも無礼。我等レスター家とロヴィクラム冒険者ギルド総出で君達を見送らせてもらおうではないか」

 

「そうよぉ。あなた達は未解決の依頼を達成しただけじゃなく、カレディアに変わるきっかけを与えてくれたのよぉ。そんなお客様には最高のお見送りをしなくちゃ……ね?」

 

やはり彼等は偉大な領主だ。客人に対する最大限のもてなしを心得ている。確かに誰もが口を揃えて言うはずだ。"レスター家は偉大な領主である"と。

 

「リョーマ様、ディレット様、どうかお気をつけて」

 

「セバスチャンさん、ありがとうございました」

 

「お料理、美味しかったです!」

 

セバスチャンが最後の挨拶をし、ニッコリと微笑みながら二人のために城門を開けた。いよいよ帝都に戻る時だ。

 

 

 

 

 

バイクに跨がろうとしたその最中、魔族達の後ろから髪を揺らしながら慌てて駆け寄ってくる人影がひとつ。……カレディアだった。

 

「リョーマ!ディレット!」

 

「カレディア……」

 

「もう……行っちゃうのね……」

 

「ああ。別の人間にお呼ばれしてるみたいだからな」

 

カレディアはバイクに跨がろうとする龍馬に駆け寄ると彼の両手を握り、寂しそうな笑顔を見せながら口を開いた。

 

「……リョーマ、また……来てくれる?」

 

「……ああ。来るさ。レスター家の人達はみんないい人達だからな……それに……セバスチャンさんの料理をまたみんなで食べたいからな」

 

「……ありがとう、リョーマ」

 

短い間だったが、このロヴィクラムの町は本当にいい場所だ。帝都にもひけを取らないほどに。

龍馬の両手を握るカレディアに一瞬嫉妬の炎を燃え上がらせたディレットだったが、さすがに今龍馬の足を踏みに行くのは無粋だとして今回は黙って見守ることにした。

 

「リョーマ、ディレット。今度帝都で行われる"ふぇす"とやらの祭り。私達も参加しよう」

 

「ええ。異世界の要素がたっぷり詰まった盛大なお祭り……楽しみだわぁ」

 

レスター卿とリリスはカレディアを連れてフェスに行くことを約束してくれた。ようやくひとつになれた家族が水入らずで楽しむにはいい思い出の場となるに違いない。龍馬は「是非来て下さい、お待ちしています」と笑顔で返事を返した。

遂に出発の時がやってくる。龍馬とディレットはバイクのエンジンをかけ、アクセルをふかした。

 

 

 

 

 

 

 

そしてレスター卿達に見送られ、惜しまれつつも二人はロヴィクラムの町を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は元来たルートで帝都へと戻る。もちろん忘却の谷を通ってだ。

ホルストン牧場のゲイザーとの戦いで大量の弾薬を消費してしまった。一度武器商人ルシアンテのところで弾薬を補充しておかねば。

再び険しい山を登って忘却の谷にある洞窟へと向かう。中ではルシアンテが暇そうにパイプをふかしていた。

 

「おう、龍馬にディレットじゃねえか。レスター領には行ってきたのか?」

 

「ああ。おかげさまでな。それより弾薬の補充をしたい。いいか?」

 

「バレ(了解)、ソルジャー。ヒッヒッヒ……早速俺の武器が役に立ったみたいだな」

 

ルシアンテの言う通りだ。彼の提供した銃が無ければ今頃は家畜と並んで二人仲良くゲイザーの餌食になっていたはずだ。ついでに銃のメンテナンスも頼んでおく。

しばらくしてメンテナンスが終わり、予備の弾薬を受け取った。提示された金額をトラム貨幣にて払う。するとルシアンテが謎の部品を一緒にくれた。

 

「こいつはディレットにサービスだ。実はお前らが出ていったあとに見つかってね。弓用の照準器だ。ディレット、お前の弓に取り付けてやるよ」

 

「え!?いいの!?」

 

「ああ、今のところうちにはアーチェリーの在庫は無いんでな。あってももて余すだけなんだよ。ほら、弓を貸しな」

 

ディレットは背負った弓をルシアンテに渡すと彼は照準器の取り付け作業にかかる。

カスタマイズの済んだ弓を受け取り、ディレットは弓単体で弦を引き絞ってみる。照準器が取り付けられたことでより精密な射撃が出来そうだ。

 

「うん、いい感じ!ありがとう、ルシアンテさん!」

 

「ヒッヒッヒ……いいってことよ。その代わり今後ともうちをご贔屓に、ってな……」

 

「よかったな、ディレット」

 

弾薬の補充とメンテナンス、さらにディレットの弓のアップグレードも完了し、龍馬達は洞窟を出る。

そろそろ燃料が減ってきた。二人はパニアケースから小型の燃料缶を取り出すとそれで給油を開始した。

給油作業が終わると再びバイクに跨がる。すると見送りに来てくれたルシアンテがある頼みごとを龍馬に言った。

 

「龍馬、もし何か暇を潰せそうなものがあれば持ってきてくれ。酒も料理も楽しめないこの身体じゃあ暇で暇で仕方ねえんだ。もちろんタダとは言わん。それと引き換えに何かをサービスしてやろう」

 

「わかった。何か見つけたら持ってくるよ」

 

「グラシアス、アミーゴ。毎度あり……ヒッヒッヒ……」

 

骸骨の顔と身体に不気味な笑い声のルシアンテだが、今ではこの外見に何だか親しみと頼りがいを感じてきた。実際彼の銃器の取り扱いの技術は武器商人だけあって一流だ。これは頼もしい限りである。

龍馬とディレットはルシアンテに別れを告げて再びバイクを走らせ、忘却の谷を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忘却の谷からようやく帝都に戻ってきた時には昼をとっくに過ぎていた。龍馬とディレットは城へと戻り、ソフォスと再会する。

 

「リョーマ君にディレットさん、戻ったか。早速じゃがシマブクロ殿が待っている。彼の客室へ行ってくれんかのう」

 

「わかりました」

 

ソフォスが言った通り、龍馬とディレットは島袋のいる客室へと向かう。

客室へ移動する最中、この前よりも城全体の動きが慌ただしくなっている。今回のフェスは11月上旬に決定しており、開催まではあと二週間ほどだ。徐々に迫るフェスの準備で皆忙しいのだろう。

本来の秋の祭りは既に開催しているはずだが、ソフォスは前回の反省と今回の規模を考慮して準備の期間を長く設けている。それでも忙しいのは変わらないが。

客室へ向かい、ノックをする。中から島袋の声が聞こえてきたので部屋へとお邪魔した。

 

「あっ、龍馬君にディレットちゃん!待ってたよ!いきなりで済まないが応接室で待っててくれないか?例のDJを呼んでくるよ」

 

「わかりました、待ってます」

 

「悪いね」

 

二人は応接室に移動する。待つこと十分弱。ようやく島袋が例のDJとやらを連れて現れた。

 

「龍馬君、"彼女"が例の()だよ」

 

「やっほー。こんにちはー。君達が私を案内してくれるの?やったー!」

 

島袋と共に現れたのは栗色の髪をしたセミロングの女性。ふんわりとした雰囲気を漂わせており、第一印象では癒し系のようなイメージがある。

 

「彼女が今度のフェスに出演するDJの彩弓(あみ)ちゃんだ。よろしく頼むよ」

 

「あみでーす!よろしくね!」

 

「は、はあ……よろしくお願いします」

 

DJとは男のイメージしかなかった龍馬にとってまさか(くだん)のDJが女性とは思わなかった。彩弓(あみ)というのは本名ではなくあくまでDJ活動のためのハンドルネームのようなものらしいが、まあ普通に女性の名前だし気にしなくていいだろう。

龍馬達も自己紹介を済ませると島袋は打ち合わせがあるからと応接室を出ていった。部屋には龍馬とディレット、彩弓の三人だけが残される。

 

「えーと……彩弓さんはどこへ行きたいんですか?」

 

「んとね、ファンタジー感の強い場所!魔法とかそれに関する物を色々見てみたい!」

 

話を聞けば彩弓はファンタジー系のアニメを結構見ているらしく、それっぽいところに行きたいのだと言うが……。

 

「ディレット、なんか心当たりあるか?」

 

「うーん……うちの実家の村はちょっと地味だしなぁ……陛下にでも聞いてみる?」

 

あまりそこまでの広範囲を探索したことのないディレットにも彩弓のお眼鏡に叶いそうな場所は思いつかなかったのでソフォスを頼ってみる。するとソフォスは"ある場所"を提案してきた。

 

「ふーむ。それならここから南西にある"魔導研究都市リグラス"を訪ねてみるのがよかろう」

 

「魔導研究都市……リグラス?」

 

「うむ。実はな、そこにあるリグラス魔術学院ではかねてより"魔紅力保存庫"の研究が行われていて、これの実用化に成功すれば多くの民がより豊かに冬を越せるようになるのじゃ」

 

魔導研究都市リグラス。帝都南西に位置する魔法や魔術、マジックアイテムの研究を行う学術都市であり、その中心部を担うリグラス魔術学院は多くの魔法使いや魔導研究者を輩出しているというシルワ大陸きっての学術都市だ。

今そこで研究されている"魔紅力保存庫"とは地球に存在する"冷蔵庫"を魔紅石の力を使って再現する装置として研究が進められていた。

研究が進み、魔紅力保存庫が実用化されれば本来は貴重なはずの氷を作り出したり、多くの食料を長期間保存出来るようになり、食料難のリスクを抑えられるというわけだ。それにうまくいけばいずれはフェスにおける保冷庫としても役に立ち、日本からの冷蔵・冷凍庫のレンタル費用やそれに伴う電力供給の設備の費用も節約できる。

 

「あそこにはなかなか珍しい魔導研究のための装置や魔術学の書物も揃っておるし、一般の人間でも学園の見学が可能じゃ。ニホンは魔法が存在しない分珍しいじゃろうし、アミさんもそこに連れていってみてはどうじゃ?」

 

「魔導研究都市リグラスか……」

 

「リョーマ、行ってみようよ!実は私も一度行ってみたかったんだ!リグラス魔術学院にさ!」

 

「えー!凄い凄い!魔法の学校とか魔法の研究とかマジでファンタジーなアニメじゃん!あみ、そこに行きたいなー!」

 

どうやら彩弓もリグラス魔導研究都市行きを希望しているようだ。

こうして次の目的地が決まった。

 

 

リグラス魔導研究都市。魔術とそれを応用した技術の研究が行われているという学問の街。地図で確認するとそう遠くはない。帝都の南の街道を南西へと行き、途中にあるアルカ南関所を越えればすぐだ。

 

 

「ああ、リョーマ君。リグラス魔術学院に着いたらフローレンスという教授を訪ねてみるといい。儂と付き合いのある魔導研究の第一人者じゃ。ついでに研究の進み具合を聞いてきてくれると嬉しいのう」

 

「わかりました、陛下。ありがとうございます」

 

 

こうして龍馬達は次なる目的地・リグラス魔導研究都市を目指し、出発することになった。あらかじめ城に運んでおいた予備のガソリンをバイクと燃料缶に入れて再び出発の準備をする。

バイクに積んでいた銃も再びホルスターやケース、弾帯と共に準備する。と、龍馬達の銃を見て彩弓が興奮し始めた。

 

「え!?凄い凄い!これって本物の銃!?どこで手に入れたの!?あみにもちょっと触らせて!」

 

「えっと……すみません、ごめんなさい……それは言えないんです。あと訓練積んでないと危ないので触らないでください……」

 

「そっか……残念……あ、私ヘルメット用意してくるね」

 

「泊まりがけになると思うので着替えとかもお願いします」

 

「りょー!」

 

銃器にはすぐに撃てるように弾薬が装填されている。龍馬達でさえまだ完璧には使いこなせていないというのにずぶの素人である彩弓に触らせるのは危険だ。万が一、暴発でもしたら大事(おおごと)である。

それを悟ったのか彩弓もそれ以上は言わずに大人しく引き下がると自分のヘルメットや荷物を用意するべく一旦自室へと戻る。龍馬とディレットはその間に再び地図を確認しておく。

 

「リョーマ、関所を越えるから通行証を用意しておいてね」

 

「あいよ」

 

バッグのすぐに出しやすいところにソフォスにもらった通行証を入れておく。次に銃器類やその他荷物の確認を行っていると荷物の入ったバッグとヘルメットを抱えて彩弓が戻ってくる。

 

「お待たせ!さ、行こ!」

 

「よし、じゃあ彩弓さんは俺の後ろに……」

 

と、そこまで言った瞬間何か恐ろしい殺意にも似たオーラを感じ取った龍馬はすぐに意見を変える。鬼がこちらを見ている……命を取られてはたまらない。まだ死にたくないのだ。

 

「…………俺の後ろに荷物を積んで、ディレットの後ろに乗ってください」

 

「あれ?龍馬君の後ろに乗せてくれないの?」

 

「…………(彩弓さん、察してください)」

 

龍馬は小声でボソリと呟く。彩弓もそれを感じ取ったのか、「うん、わかった」と言って荷物を龍馬に渡した。ディレットもそれを見て安堵の表情を見せる。

龍馬はパラコードで荷物を固定するとバイクに跨がり、彩弓はディレットの後ろに乗る。すると彩弓が龍馬に聞こえないようにディレットに話しかけてきた。

 

「ディレットちゃん……ふふ、そんなに妬かなくても大丈夫だよ……私、彼氏いるから」

 

「んなっ……!?んもう……アミさんったらからかわないでください!」

 

「あれあれ~?照れてるのかな?ますます可愛いエルフちゃんだなぁ。まあいいや、じゃあよろしくね」

 

「は、はい……」

 

自分の本心を彩弓に見透かされていて顔から火が出そうになるディレット。年はディレットの方が遥かに上でも精神年齢は彩弓の方が上であることを思い知らされてしまう。

 

「よし、じゃあ行くぞ!魔導研究都市リグラスへ!」

 

「「おーっ!」」

 

エンジンの音が鳴り響く。タイヤの状態も、ガソリンもバッチリだ。あとは安全運転とモンスターに気を付けながら移動するだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

三人は帝都を出発し、魔導研究都市リグラスへの旅路をゆく。徐々に冬が近づきつつあるこの世界の少しひんやりとした風をその身に受けながら。

 

 

 

 

 

 

 

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