アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第105話 「テメーにはそのツラがお似合いだ」

「屋敷に忍び込む……ってリョーマ、本気なの!?バレたらどうなるかわかってんの!?」

 

突然の龍馬の言葉にディレットは目を丸くして驚く。

無理もない。バウスフィールド家の屋敷に忍び込むなど前代未聞だ。もし見つかればただではすまないだろう。

あまりにもリスクが高すぎる龍馬の考え。だが彼の決心は固かった。

 

「あんなヤツをこのままのさばらせておいていいのかよ!?自分の立場を利用して自分勝手にやりやがって!しあもあいつのバカ息子は親が権力を持ってるのをいいことにそれを振りかざして好き放題と来たもんだ!俺は絶対に許さねえぞ!たとえ一人でも俺は行くからな!」

 

エミールの夢は人々の夢。そしてそれを実現しようと彼は頑張っている。それなのにあのバウスフィールド家の連中は権力にあぐらをかいているばかりか「自分達さえよければいい」という傲慢な考えの下、エミールの夢を妨害し続けている。

もはや手段など選んでいられない。回避や対策だけではダメだ。エミールを邪魔する"根源"を断たなければ。

 

「リョーマ……」

 

「リョーマさん……」

 

ディレットとエミールが見た龍馬の目。それは確固たる決意に満ちた者の目だ。もはやどれほどのリスクや危険性を指摘したところで彼は決して考えを改めることはないだろう。言葉通り、誰も行かないと言えば一人で乗り込むはずだ。

 

「私も龍馬君に賛成だよ。これだけやって、権力を盾に人の成果を横取りなんて私は絶対に許せない。私は龍馬君についていくよ」

 

ただ一人、彩弓だけが龍馬の考えに賛同した。

彩弓は弱気なエミールを叱咤激励し、彼もそれに応えてくれた。そんな彼には……夢を叶えてもらいたい。

しかしアルフレッドとエリックは権力という椅子にあぐらをかいてそんなエミールを妨害し、奴等は親子揃ってやりたい放題のロクデナシだ。これでは自分が何のためにエミールを叱責したかわからない。彩弓も静かに怒りの炎を燃やしていた。

 

「はぁ……仕方ないなあ。確かに私も気持ちは同じだしね。わかった、私もついていく」

 

この二人は怒ればもう止められない性格であることはディレットは百も承知であった。今さら止めたところでどうせ無駄なのだからここは自分も覚悟を決めてやるしかあるまい。

 

「……皆さん……会ったばかりの僕にどうしてそこまで……」

 

エミールにはわからない。どうして彼等は会ってまだわずか数日の自分のためにそこまで危険を犯せるのか。

自分なんか助けたところでメリットなどないはずだ。なのに彼等は研究の手助けをしてくれたり、資金集めのために恐ろしいキラーワスプと戦ってくれたり、果てはこの街を支配する権力者にすら楯突こうとしている。一体何が彼等をそこまで突き動かしているのか。

 

「そんなの決まってるじゃねぇか。助けを求めてる仲間や友達を黙って見過ごせるほど俺らは大人じゃねぇんだよ。なあ、二人とも?」

 

「うん!」

 

「愚問だね」

 

友達……会ってわずか数日の自分を彼等は友だと言ってくれた。

友達らしい友達など今までエミールにはおらず、成績も魔法もいまひとつで馬鹿にされてばかりでいつも孤独だった。強いて言うなら本が彼の唯一の友達と呼べる存在だったかもしれない。

そんな自分が出会った異世界の国ニホンから来たという彼等は自分のことを決して笑わず、いじめっ子から助けてくれたばかりかこうして自分の事を友だと言ってくれた。

 

エミールの目から、涙がこぼれた。

 

友達。自分には縁のないものだと思っていたのにーーーー友達が突然出来てしまった。しかも三人も。

目に涙を浮かべて嬉しさと感謝の気持ちを抑えられない彼はただ「ありがとう」と言葉を述べる。そんなエミールの背中を龍馬は笑いながらバシバシと叩き、「気にすんな」とだけ言ってくれた。

 

「それに……ここまでするにはもうひとつ理由がある。な、みんな?」

 

「……え?」

 

龍馬と顔を合わせてディレットも彩弓も頷いた。

そしてーーーー三人同時に"ある言葉"を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

「「「あいつらの顔がムカつくからだよ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜ーーーーバウスフィールド家の屋敷の裏手の茂みに潜む四人の姿があった。ある作戦を立てた龍馬達はついに屋敷への侵入を決行したのである。

 

「へへ、なんかこういうのステルスゲームみたいでワクワクするね」

 

「おっ、彩弓さんはそういうゲームやるクチですか?実は俺も好きで……」

 

「もう二人とも……遊びじゃないんだよ?ほらリョーマ、早くドローン準備して」

 

「へいへい」

 

ディレットに急かされて龍馬はタブレットとドローンを取り出すとタブレット画面の光が目立たないように注意しながらドローンを起動して上空へ飛ばし、ナイトビジョンモードに切り替える。

 

「す、すごいですね。本当にあの機械をこれで動かしてるんだ……しかも遠くの景色まで……」

 

初めて見るドローンに興味津々のエミール。さらにそこからカメラによって映し出される風景と暗闇でも見えるという異世界の技術にただただ驚くばかりである。

現在はバウスフィールド家の屋敷周辺から偵察を行っている。やはり貴族の、それもこの街を実質支配するだけの権力を握っているだけあって警備はかなり厳重だ。そこらじゅうに私兵が巡回している。

 

「確認出来るだけで裏庭に六人、表の正門と中庭にはそれ以上いるな……」

 

ドローンによる空撮で侵入ルートを探ってみるが、どこにも穴を突く隙が無さそうだ。行くとすれば比較的人員の少なそうな裏口からだが、裏口の扉の前には六人のうち二人が両脇を固めており、その周囲を四人が死角がないよう巡回している。まともな手段では無理そうだ。

……"まともな手段"では。

 

「エミール。例のアレ、大丈夫か?」

 

「いつでも大丈夫ですよ。そろそろ時間のはずです」

 

「よし、グッジョブだ」

 

確実に屋敷に侵入するために彼等にはある作戦があった。それは魔導学に詳しいエミールだからこそ成し得るものであったのだ。

龍馬が手元にドローンを戻すのとほぼ時を同じくして正門付近で爆発音が聞こえた。私兵達は慌てて爆発音のした方角へ向かっていく。

裏手にいる私兵達も例外ではない。こんな夜更けにいきなり爆発音が鳴り響いたのだ。その場でじっとしている方が無理な話だ。

……最も、彼等にとってはその行為こそが致命的であったが。

 

「よし、今だ!」

 

裏口の警備ががら空きになった。侵入するなら今しかチャンスはない。四人は茂みから飛び出すと姿勢を低くしたまま素早く裏口の扉へと駆け寄る。

扉にはやはり鍵がかかっている。が、これも想定済みだ。

 

「彩弓さん!」

 

「はいはい、鍵開け師あみにお任せあれ!」

 

彩弓はポケットから二本の針金を取り出すとそれを鍵穴に突っ込んでガチャガチャとこじ開け始めた。

しばらく鍵穴をいじるが鍵はまだ開かない。早くしなければ私兵達が戻ってくる。龍馬達の表情に焦りが見え始めた。

 

「彩弓さん、まだか……!?」

 

「ちょっと待って……もう少し……!ああもう、こんなことならロックピックスキルにたくさんステ振りしとけばよかった……!」

 

彩弓の手に汗が滲む。焦りから震える手を何とか落ち着かせて鍵穴に針金をねじ込んで回そうとする。

彩弓自身も、龍馬達も鍵が開くまでの時間がとてつもなく長く感じられた。そして……

 

 

 

 

カチリ。

 

 

 

 

「開いた!」

 

「っしゃあ!急いで入るぜ!」

 

急いで中に入り、内側から再び鍵をかける。その直後に扉の前に戻ってくる私兵達の足音が聞こえてきた。

四人は肝を冷やしながら一番近くにあった部屋に隠れる。どうやらここは物置か倉庫のようだ。色々木箱が積み上げられており、中には野菜や果実といった食品が詰め込まれていた。

 

「ふう……ギリギリだったが……うまく……いったな……」

 

「生きた心地がしないよ……」

 

ディレットは張りつめていた緊張の糸が途切れたようにその場に腰を下ろす。

先ほどの爆発。あれはエミールとフローレンス教授の"失敗作"をヒントに即席で作り上げた小型の簡易時限爆弾だ。

見た目は小さな木箱で箱の中には小さな魔紅石の欠片と熱した鉄が入っており、鉄から発せられる熱によって魔紅石のエネルギーが膨張し、爆発する仕組みである。

細かな時間を設定することは出来ないし、殺傷兵器としては期待できないが、爆竹程度の小規模の爆発を起こして陽動させるには充分だった。

さらに彩弓は学生時代によく学校の施錠されたドアをピッキングでこじ開けてイタズラをしていたらしく、簡単な鍵なら開けてしまえるという人には到底言えない特技を持っていたことが幸運にもこの作戦に役立った。

何とか侵入には成功したが本番はこれからだ。アルフレッド、ひいてはバウスフィールド家の悪事を暴く証拠を見つけねばならない。

固まって動いては発見されるリスクが高まる。そこで龍馬とエミール、ディレットの彩弓の二手に別れて屋敷を探索することにした。

屋敷は三階建ての建物だ。証拠になりそうなものがあるとすればおそらく二階か三階にあるであろう書斎や彼等の寝室などが有力か。

幸い屋敷内には私兵などはいないようだがメイドや執事といった人々がいる。彼等に見つからないようにしなければならない。四人はそれぞれ行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい……なんという美しさだ」

 

二階にある執務室。アルフレッドは龍馬達から回収した女王の眼を眺めながらその美しさに見とれていた。

彼は無類の宝石好きでもあった。見る角度によって様々な色の輝きを放つ女王の眼。王や皇帝といった存在でさえおいそれとは手に入らない貴重品である。それに加えてこの数多くのキラーワスプの眼。これだけあれば貴重な眼を使った多くの宝飾品を製造出来るに違いないと口元を綻ばせる。

宝石好きは彼だけではない。彼の妻でありリグラスの"ギルドマネージャー"であるアンジェリカ・バウスフィールドもこの大量のキラーワスプの眼を前にして驚きと喜びを隠せなかった。

 

「はあ、素敵だわ……とても……これほど沢山のキラーワスプの眼があれば……指輪にブローチにネックレス……いくらアクセサリーを作ってもお釣りが来るわね、あなた」

 

「ふふ、そうだろう。あのエミールという生徒とヤツに付いている異界人を利用した甲斐があったというものだ」

 

龍馬達は気付く術もなかった。ギルドマネージャーであるアンジェリカがアルフレッドの妻であったため、龍馬達の行動は彼に筒抜けだった。

さらに書類の捏造や改ざんにあたっては彼女の助力であったところが大きい。今回の一件、あまりにもエミールや龍馬にとって不利な面が多すぎたのだ。

 

「本当にバカなお子様達ですこと。自分達がいいように利用されていたとも知らずに」

 

「全くだ。これであのエミールとかいう少年も忌々しい魔導学研究を諦めるだろう。お前にギルドの書類の改ざんを頼んでいて正解だったよ。

それに……本来魔法とは優れた素質を持つ一部の者のみが使えればよいのだ。魔法を利用した装置で庶民に普及しようなど馬鹿げている。

しかしそれにしても……何と美しい"眼"だ……眺めているだけでこの輝きに吸い込まれそうな気さえしてくる」

 

アルフレッドは再び女王の眼に視線を戻す。他のキラーワスプの眼などこの美しさの比ではない。何せ自分ですら実際に見るのはこれが初めてなのだ。これほどまでに惹き付けられる宝石は生涯において"二度目"である。

 

「だがやはり一番美しいのは……あれだろうな」

 

彼は部屋の壁際に設置されたガラスの箱に目をやった。

その中には緑色の宝玉が優しく、それでいて美しい輝きを放ちながら鎮座していた。

この緑色の宝玉はバウスフィールド家に代々伝わる家宝であり、先祖がかつて勇者と共に悪しきドラゴンと戦ってそれを見事討ち果たしたときに手に入れた宝なのだという。

いくら女王の眼といえどこの家系に伝わる家宝とあってはさすがに分が悪いというものだ。この輝きには如何なる宝も勝てないと断言していいほどに。

この宝玉の正体はわからないが、とにかくこれほどの美しさを誇る代物なのだ。きっと価値のあるものに違いない。

 

「この街も、学院も、宝も、全て私達バウスフィールド家のものだ!優れた魔法使い……そして支配する者は我等だけでよい!はははは……!」

 

アルフレッドは妻のアンジェリカと共に高笑いを上げる。

 

 

 

 

 

その瞬間ーーーー書斎の扉が勢いよく開けられた。

 

 

 

 

 

アルフレッドとアンジェリカが扉の方を見ると……そこには見覚えのある生徒、そしてあの"異界人"が立っていた。

 

「りょ、リョーマさん……!!」

 

「もう我慢出来ねえ!!この最低のゲス野郎が!!」

 

龍馬は拳を震わせ、歯軋りをしながらアルフレッドを睨み付ける。アンジェリカは多少慌てていた様子だがアルフレッドはフンと鼻息を鳴らして気にも止めていない様子だ。

 

「……何だ?密猟を取り締まられた腹いせに今度は人の家に勝手に上がり込んで泥棒かならず者の真似事かね?全く、異界人というのはやはり野蛮で、愚かで、知性や品性の欠片すらない連中のようだな?」

 

見下した目でアルフレッドは龍馬を蔑む。

何やら摩訶不思議な鉄の馬や不思議な武器を使っているようだが、所詮は蛮族の浅知恵程度しかないとアルフレッドは龍馬や彼の世界に住む異界人を下に見ていたのだ。

優れた魔法使いは、優れた知能を持ち、誇り高く人の上に立つべき存在であるーーーーアルフレッドはそう信じてやまなかった。

 

「エミール君、君には失望したよ。このまま大人しくしていれば今までの事は不問にしてやろうと思っていたのに……まさかこんな馬鹿げた事をするとはね」

 

「馬鹿げているのは……あなたの方です、理事長!!」

 

龍馬の陰に半分隠れながらもエミールは大きな声を上げた。あの気弱なエミールが自分を相手にこうも強気な態度を見せるとは、アルフレッドもこれには予想外であった。

 

「全て聞いていましたよ。あなたと奥さんのやり取りを。書類の改ざんについてもね。

自分の私腹を肥やすだけでは飽きたらず、『優れた魔法使いだけが魔法の恩恵に預かれればいい』というその歪んだ思想……そしてそのためならあらゆる卑怯な手段を駆使する……教育者として人の上に立つ人間の考えることではありません!」

 

「……何を言っているのかさっぱりわからんな。私と妻の会話だと?私達は仕事について話していただけだ。人の家に忍び込んだ上に勝手な言いがかりをつけるとは、君こそ歪んだ思想なのではないのかね?」

 

「そ……そうよ!このような事をしておいてあなた達、ただで済むと思っているの!?」

 

今まで黙っていたアンジェリカも口を開き、夫と共に龍馬とエミールの二人を批難し始めた。

まったく、どの口がどの(ツラ)をさげてそんなセリフを吐けるのかとあまりに滑稽で龍馬は思わず笑ってしまう。

さて、出し惜しみをする必要もあるまい。散々自分達異界人を蛮族だの知性の欠片もないだのと見下していたコイツに……その異界ならではの文化と利器を使ってトドメを刺してやろうではないか。

龍馬も怒りに任せて考えなしに飛び出したわけではない。こうやって姿をわざわざ晒したからには勝算があるからだ。

この状況ーーーーあの時に似ているような気がする。他校の生徒にリンチを受けていた中学時代の勇斗を助けたあの時に。

 

「な、何がおかしい」

 

「アンタ……散々俺達のこと馬鹿にしたよな。魔法がない世界の人間だからってよぉ?じゃあその魔法がない世界ならではのコイツで……あんたのその化けの皮を剥いでやるぜ」

 

龍馬はスマホを取り出して操作するとあるアプリを起動する。

しばらくするとスマホからはアルフレッドとアンジェリカの先ほどのやり取りが聞こえてきた。

 

 

 

 

"「本当にバカなお子様達ですこと。自分達がいいように利用されていたとも知らずに」

 

「全くだ。これであのエミールとかいう少年も忌々しい魔導学研究を諦めるだろう。お前にギルドの書類の改ざんを頼んでいて正解だったよ……」"

 

 

 

 

 

スマホに録音された音声。それは紛れもなくアルフレッドとアンジェリカの声だった。

過去の自分達の声が聞こえてきたことに二人は驚きと……戦慄を隠せなかった。

 

「な、な、な……なんだそれは!?」

 

「ど、どうして私達の声が……!」

 

「オメーらは異界人を舐めすぎた。テメーの魔法の実力と権力にかまけてな。確かに俺達の世界には魔法という概念は存在しねえ……だが代わりに俺達の世界は"機械"という技術が発達している。このスマートフォンもそのひとつさ」

 

遠く離れた人間と会話でき、文面をやり取りし、様々な映像や音楽を見たり聞いたり、音を記録したり、あらゆる情報を閲覧したり誰かに送ったり可能な現代人の必須アイテム・スマートフォン。

そんな現代文明の利器の性能を龍馬から聞かされ、目の当たりにして流石のアルフレッドも驚きを隠せない。

 

「ば、馬鹿な……そんなものが……」

 

「あるんだよなあ。俺達の世界じゃ誰でも持ってるんだぜ?アンタが馬鹿にしていた"野蛮な異界人"が誰でもな」

 

「ぐ、ぐぬぬ……ふ、ふん!そのようなものが証拠になると思うか?貴様らの世界では一般的かもしれないが果たしてこちらの世界ではどうかな?誰がそのようなものを信じると?」

 

アルフレッドはなおも龍馬に食い下がるが、龍馬はニヤリと笑みを浮かべたままさらに続ける。

 

「それはこっちのセリフだぜ、アルフレッドさんよぉ。これを皇帝陛下に聞かせれば何て言うだろうな?陛下は積極的に異界にある俺達の国に来てるし、スマートフォンやバイクなんかの俺達の世界にあるものの存在も理解している。なんなら陛下自身も似たようなものを使ってるしな。しかも陛下は俺との交流もある。さて……この状況で陛下はどちらを信じるだろうな?」

 

「な……ぐ……!」

 

アルフレッドは言葉に詰まってしまう。このような生意気なガキと皇帝陛下が交流があるなどとはにわかには信じがたいが、ここまで強気な態度に出れるということは真実である可能性が大きい。

だが、それならば簡単だ。自分にとって都合の悪いものは揉み消してしまえばいいだけの話だ。

しかし……龍馬にはそれすらも読まれていた。

 

「おい、オッサン。アンタおおかた今この場で証拠隠滅のために俺のスマホを取り上げようなんて考えてるんだろ?テメーさっきの話を聞いてなかったのか?こいつは"情報を他人に送れる"んだぜ?今の録音したデータは既に俺の友人達に送ってある。何の対策もせずに俺がこうして証拠を持ってノコノコあんたの前に現れるとでも思ってたのか?」

 

「なに……!?」

 

「バウスフィールド家ももうおしまいだ。今度はテメーらが……地べたを這いずる番だぜ!!」

 

「ぐぬぬ……!!」

 

アルフレッドは拳を握り締めて身体を震わせ、妻のアンジェリカは絶望のあまり床に膝をついて虚無とも言える状態になっている。

完全に立場は逆転した。そこへ更なる援軍が駆け付ける。

 

「リョーマ!あったよ!」

 

「アルフレッドのオッサンの悪事の証拠、大量に見つけたよ……コイツのおかげでね!」

 

「うう……」

 

ディレットと彩弓が合流する。そして傍らには顔中腫れ上がったエリックの姿が。

大体予想は出来るが……何をしたのか一応龍馬は聞いてみる。

 

「コイツを見つけて縛り上げてからディレットちゃんと一緒に顔面にビンタかましまくって証拠になりそうなものの場所を吐かせたんだよ」

 

「うわぁ」

 

エグいことしやがる、と龍馬は彩弓とディレットの過激な行動に対して苦笑してしまう。が、よくやったと言いたいのも事実だ。

こいつらの今までの横暴を考えればこれくらい生ぬるいものだ。

 

「僕にこんな真似をして……父上と母上が黙っちゃいないぞ……」

 

「そのご自慢のパパとママも今は崖っぷちだぜ。もうお前に親の後ろ楯はねぇ。さて……アルフレッドさん達、どうするんだ?」

 

ボロボロになったエリックからアルフレッドとアンジェリカに視線を戻し、不敵な笑みを浮かべる龍馬。

追い詰められたアルフレッドは愛用の杖を手に取ると逆上して龍馬に杖を向ける。

 

「おのれ……おのれおのれおのれぇ!!この私を……バウスフィールド家をコケにしおって……!許さぬ!今ここで死ねぇ!!」

 

「させるか!!」

 

何やら呪文を唱えようとするアルフレッドだが龍馬の動きはそれよりも早かった。彼は傍らにあった高価そうな置物を掴んで思いきりぶん投げる。それは一直線にアルフレッドの顔面目掛けて飛来し、ぶち当たった。

 

「はがっ!!」

 

衝撃でアルフレッドはその場に倒れ、跳ね返った置物が例の家宝を飾ってあるガラスに当たって激しい音を立てながら割れた。

バウスフィールド家の家宝である緑色の宝玉はがコロコロと転がり落ち、龍馬の足にコツンと当たる。龍馬はそれを拾い上げるとアルフレッドとアンジェリカを見下ろしながら再び口を開いた。

 

「いい宝物じゃねぇか。なあ?こんな品物のために一体何人の人間を踏みにじってきたんだ?」

 

「や、やめろ……それは我がバウスフィールド家の……家宝……だぞ……」

 

鼻血の出る顔を抑えながら倒れたまま、アルフレッドは龍馬の持った宝玉にその届かない手を伸ばした。だが龍馬はそれを返そうとはしない。

 

「こんなただの光る石っころが家宝ねぇ。人間にゃあもっと大事にするもんがあるだろうに…………うっ!?」

 

その瞬間龍馬は気付いた。ただの石だと思っていたその宝玉が突如として光を増していったのだ。

光はどんどん強くなっていき、最終的には龍馬の視界が全て緑色で満たされるほどにまでなっていった。

 

 

 

彼の世界が、神々しい緑の光で覆われるーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと龍馬は強い風の吹く草原に立っていた。

雲一つない青空と風になびく草原がどこまでも果てしなく広がり、どこか幻想的な雰囲気を思わせる。

この感覚……前にも似たような経験をした覚えがある。そうだ、あれはルミナの故郷の森の奥でーーーー

 

 

 

 

 

『ようこそ、契約者よ……私はあなたを待ちわびていました……』

 

 

 

 

 

 

頭の中に声が響く。美しい、透き通るような女性の声だ。龍馬は辺りを見回す。

 

 

 

 

 

『ふふ……ここですよ。あなたの目の前にいます……』

 

 

 

 

 

風が生きているかのように舞い始める。

風はやがて渦となり、激しくうねり始めた。龍馬は思わず顔を腕で覆ってしまう。

そして風が止んだその場所にはーーーー美しい緑色の長い髪に白い衣を纏った女神のような女性が佇んでいた。

 

「あ、あなたは……?」

 

『私は風の聖霊ルフローラ。再びこうして私と契約出来る者をこうして永い刻の中で待っていました。契約者よ、あなたの名前は……?』

 

「龍馬。さ、斎藤……龍馬です」

 

『リョーマ……ああ、なんと素敵なお名前でしょうか。いいでしょう。我が風の加護をあなたに授けます。この力であなたは羽よりも軽く、空を飛ぶ鳥よりも速く駆け抜けることが出来るでしょう。ここに契約は完了しました。我が風の加護の元、疾風のように大地を駆け巡るのです』

 

やはり彼女は聖霊だった。そしてアルフレッドが持っていたあの宝玉は聖霊の力が込められた"オーブ"だったのだ。

ルフローラは手のひらを口元に近付けて龍馬にふう、と軽く息を吹き付ける。

まるで彼を守るかのように風の渦が彼を包み込みーーーー龍馬の視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

気が付くと龍馬は再びアルフレッドの屋敷にいた。手に持ったオーブはなくなっている。

 

「き、貴様……家宝をどこへやった!?答えろ!!」

 

突如として家宝の宝玉が消失してしまったことに驚きと焦り、そして怒りを隠しきれないアルフレッドは起き上がって龍馬に掴みかかり、彼を揺さぶった。

 

「や、やめろっ!離しやがれ!」

 

「うるさいうるさいうるさい!家宝をどこへやったのだ!言え!言わないと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャーギャー、ギャーギャーやかましいヤツですこと……先祖にそっくりっならありゃしない……あの時の末代までクソッタレとは……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の声が辺りに響く。声の主を探して龍馬もアルフレッドも、エミール達も辺りを見回した。

龍馬にとっては聞き覚えのある声だが、まさか……

 

 

 

 

 

 

 

『家宝なんてチャンチャラおかしいですわね。この……クソッタレのゲス野郎が!』

 

 

 

 

 

 

現れたのは無論ーーーー風の聖霊ルフローラであった。風を纏いながら龍馬の背後に現れ、彼を守護するように宙に浮いているが、その表情は女神のように美しかった先ほどとはうってかわって怒りに歪んでいる。

 

「な、なんだ貴様は!?」

 

『私はルフローラ!アンタの先祖が盗んだオーブに宿っていた風の聖霊だよ!何が「先祖が勇者と共にドラゴンと戦って手に入れた」だ!アンタの先祖が盗んできたんだろーが!!この◯◯◯の×××野郎がァーッ!!』

 

聖霊が実際にこうして現実で飛び出してくるなど初めて見たが、それ以上に驚くべきことがある。

 

 

 

この聖霊、龍馬以上に口が悪い。

 

 

 

 

女神のような美しさとは裏腹に詳細を語れないレベルの罵詈雑言をアルフレッドにぶつけている。まるで某奇妙な漫画に出てくる登場人物のようだ。

聖霊の姿を見た驚きというより、エミール達もその口の悪さに唖然として言葉を失っている。

 

『おい、リョーマッ!!』

 

「は、はいっ!!」

 

突如名前を呼ばれた龍馬は背筋をピンと伸ばして素早く返事した。そうしなければブン殴られそうな勢いだったからだ。

 

『さっき私の風の加護をやっただろ!あれでこのドグサレ野郎をぶちのめせ!』

 

「え……いや……あの……」

 

『いいからさっさとしろォーッ!!テメーもぶちのめされてーのかァーッ!!』

 

「アッハイ」

 

半ば機械のように答える龍馬。もはや口答えも意見も出来る雰囲気ではない。

こうなったらヤケクソだ。そもそもよく考えてみれば自分もこの男を一発殴らねば気が済まないくらい龍馬は怒り心頭であった事を思い出し、彼はそのままルナ・アームを装着する。

ルナ・アームに二つめのオーブの光が宿り、腕と足を風の渦がつむじ風のように覆う。

龍馬はそこで感じた。手足が、身体がまるで羽のように軽く感じる。

そんな光景を目の当たりにしたアルフレッドは後ずさりし、窓を背にして震え上がっている。

 

「あわ、あわわ……」

 

「悪いな、アルフレッドさんよ。恨むんなら……テメーのしたことを恨むんだな!」

 

龍馬はルナ・アームを構える。

まるで風そのもののように、疾風の如く颯爽と、龍馬は拳を振り上げた。

 

 

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」

 

 

 

 

 

目にも止まらぬ拳の連撃(ラッシュ)。無数の拳がアルフレッドの顔面と身体中に襲い掛かり、悲鳴を上げる暇すら与えない。さらに龍馬は片足を上げて今度は蹴りの連打を繰り出した。

人間が出せる速度を遥かに超えたスピードで龍馬の蹴りがアルフレッドに全て命中する。

 

 

 

 

「オラァァァァァッッッ!!!!」

 

「ぶへえぇぇぇーっ!!!!」

 

 

 

 

トドメに渾身の拳による一撃を顔面に受けたアルフレッドはそのまま吹き飛ばされると窓を破壊しながらそのまま外に叩き出されて中庭の花壇の上に落下する。

花壇の花がクッションとなり、大事には至らなかったようだがそれでも顔面は龍馬によりめちゃくちゃにされ、元の端正な顔立ちは全くわからなくなっているのがここからでもわかる。

落下してきたアルフレッドの周囲に見張りの私兵達が集まって何事かとざわついており、龍馬は割れた窓から無様な姿になったアルフレッドを見下ろしながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「テメーにはそのツラがお似合いだぜ。アルフレッド理事長」

 

 

 

 

 

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