アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第107話 龍馬の喧嘩指南(前編)

「色々あったけどリグラスの街、楽しかったね!」

 

帝都に戻る途中の休憩でキャンプの焚き火に当たりながら嬉しそうに彩弓が言った。

かなりの面倒ごとに巻き込まれたが、中々に楽しい街だった。いずれまた行きたいものだ。おまけに風の聖霊ルフローラのオーブが手に入ったのは嬉しい誤算だ。……少々口の悪い聖霊ではあるが。

 

「さて、天気もいいしのんびり行くか。帝都はそんなに離れてないしな」

 

『ええ、そうですわね。異世界の乗り物は見てて中々に楽しいし、もう少し見ていたいですわ』

 

そうだろう、そうだろう、と相槌を打つ龍馬だが何か違和感に気付く。

……今のセリフは誰が言った?

 

「ディレット、お前今変な喋り方しなかったか」

 

「え?私何も言ってないよ?」

 

「あみもずっとスマホいじってたし……」

 

おかしい。確かに声が聞こえたはず。だがどこかで聞いたような……

 

『あら、リョーマったら。契約者なのに私をお忘れですか?』

 

声がした次の瞬間、一陣の風と共に現れた姿。それは紛れもなく風の聖霊ルフローラであった。

 

「……そういえば聖霊ってこうやって出てこれるんだな。忘れてたわ」

 

『ええ。契約者だけではなく周囲のものとも会話が可能ですわよ』

 

物凄く上品な喋り方をしているルフローラだがあの凄まじい暴言を撒き散らす姿を見た後では上品さなど微塵も感じない。それが取り繕ったキャラであることはバレバレだがあくまで本人はこのキャラを押し通す気のようだ。

 

『そういえばあなたバレンとも契約してましたわね?彼とはこうして話していないのですか?』

 

「……バレンは契約してから一度も現したことないけど」

 

そういえばバレンとは契約時に会って以来、その姿を見ていない。能力は問題なく使えているのでルナ・アームには間違いなく宿っているはずなのだが。

 

『そりゃあ、お主のようにいちいち表に出て無粋な真似をするのは我の意に反するからな!』

 

野太い声が響き渡り炎や火の粉と共にあの獅子の聖霊が空中に現れた。龍馬にとってバレンの姿を見るのはこれが二回目だ。相変わらず迫力のある見た目をしている。

 

『お主は感情を契約者の前で出しすぎなのだ。聖霊ともあろう存在が嘆かわしい。一度契約すればその契約者の行く末を黙って見守るのが聖霊たる我等の役目であろう』

 

『……こんの獅子アタマ……相変わらず古くせぇ考えしやがって……』

 

「ルフローラさん、素が出てますよ」

 

『あ"ぁ"?……あらやだ、私ったらはしたない……オホホ』

 

……ルフローラは風をコントロール出来るようだが、怒りのコントロールは出来ないらしい。バレンもそれを古くから知っているようで「やれやれ、またか」といった表情で腕組みをしながらため息をついている。

ともあれ、動きを加速させるルフローラの風の力による加護は今後の龍馬にとって大きな助けとなるはずだ。

三人と二体の聖霊の会話はその後もしばらく続き、彩弓に至ってはバレンとルフローラに記念撮影を頼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。再び帝都へと戻ってきた龍馬達。彩弓はフェスの打ち合わせとリハーサルのためここで別れて島袋達と合流した。

龍馬とディレットの二人は彩弓と別れたのちにグレンディルの鍛冶屋へと向かう。

 

「おお、リョーマにディレットではないか。どうしたんじゃ?」

 

「すみません、グレンディルさん。また俺達の武器を預かってもらえますか?」

 

「ふむ、なるほど。そういうことか。わかった、任せておけ」

 

おそらく今回の旅ではもう帝都の外へ出ることはないだろう。二人は今は涼子が城で待っているらしいが、母親の元へと行くのに高校生が実銃を背負ったままでホイホイ行くわけにはいかないだろう。おそらく雷が落ちる。

かと言って今からわざわざ忘却の谷まで行くわけにもいかないし、ここはグレンディルの店にナイフや弓と一緒に銃も預かってもらうのが最善の策だと考える。

 

「何やら変わった武器を手に入れたようじゃが……この筒はなんじゃ?クロスボウに似ておるが……どうも違うのう」

 

「グレンディルさんにだけは教えておきますが、そいつは元々俺達の世界にあった銃という火薬を使った武器です。火薬の爆発で鉛の弾を飛ばす危険な代物なので注意してください。あと、この武器のことは絶対に他言無用でお願いします」

 

「……なるほどのう。なかなか厄介な代物のようじゃ。よし、任せろ。ワシが責任を持って保管しておく」

 

銃はこの世界の技術レベルではまだ到底作れないものだ。龍馬達の世界ではかなりの旧式とはいえ、これがこの世界に流出すればこの世界のパワーバランスを変えかねない恐ろしいものと成りうる。龍馬とディレットは事情を説明して銃と残った弾薬、それにホルスターや弾帯などの装備品はナイフや弓とは別に厳重に保管してもらうよう念押ししてグレンディルに依頼する。お礼にまた今度日本の酒を持ってきてあげようと龍馬は考えた。

グレンディルに装備品を全て預けると二人は店先に停めてあるバイクに跨がった。

その瞬間に龍馬の腹の虫が鳴り始める。既に太陽は真上を通りすぎており、さらにバザー通りにある屋台からの香りが漂ってきて空腹の龍馬は否応なしにそちらに引き寄せられてしまう。

 

「……リョーマ、城に帰る前に何か食べていこうか」

 

「ああ、すまないな」

 

ディレットが気を利かせてバザー通りの屋台に行くことを提案してくれた。

帝都の料理も少しずつ異世界の要素が混じった飲食物が目立つようになってきた。特にカムラン一家が販売している"オコノミー・ソース"は肉料理にも合うと評判で屋台からは龍馬の嗅ぎ慣れた、しかしどこか新鮮な感じのする香りが漂ってきている。フェスが近いせいか帝都にも人が多く、そんな屋台にも大勢の人が集まっている。

龍馬とディレットはバザー通りにバイクを停めると、近場にあった屋台で串焼きにしたブラウンボアの肉をそれぞれ一本ずつ注文する。

 

「モグモグ……うめえ」

 

「美味しいね」

 

シンプルだが飽きのこない味だ。二人はかなり大きなブラウンボアの串焼きを平らげると次はパン屋へ、その次はカムラン一家の屋台へと向かって胃を満たしていく。

ブラウンボアの肉がたっぷり入ったキース特製のお好み焼きを店先で食べていると何やら子供達の騒ぐ声が聞こえてくる。

声がしたのは先ほど自分達が寄ったパン屋からだ。そこには大勢の子供達を相手にレクシオン教団のノエルが二人の女性の助祭を連れて子供達にパンを配っていたのである。

 

「ノエルさんだ。何してるんだ?」

 

「ああ、ノエル様は教団の寄付金でああやって時折子供達にパンや木のおもちゃなんかを工面して配ってるんだよ」

 

「へえ……」

 

以前ぶちのめしたヴォルティスと違って聖職者の鑑のような人だ。見た目だけでなくやはり中身も美しい。彼女目当ての巡礼があるという話もやはり頷ける。

お好み焼きを食べ終わった龍馬はノエルに声をかけようと立ち上がり近付いた。

そんな時、前方からガラの悪い男達の集団が近付いてきて近くにいた子供を突き飛ばした。

 

「邪魔だ、どけ!」

 

「あっ!」

 

背中から突き飛ばされた子供は膝を打ち付けて擦りむいてしまい、膝の擦り傷から血を流して泣き出してしまう。慌ててノエルの脇にいる助祭が子供を抱き起こす。そんな子供を突き飛ばした先頭の男に対し、ノエルが顔をしかめて喰ってかかった。

 

「な、何をするのです!この子が何をしたというのですか!」

 

「あぁ?なんだぁ?オメー、このガキ共の保護者か?ったく、ガキを大勢連れてチョロチョロ歩くんじゃねぇよ!目障りだ!」

 

男はさらにノエルをも突き飛ばし、彼女は尻餅をついてしまった。

もう一人の助祭が「大丈夫ですか、ノエル様!」と言いながら彼女を抱え起こしている。そんなノエルを見下ろしながら男達はニヤニヤと下品な笑いを浮かべていた。

 

「なんだ、よく見たらいい女じゃねぇか……どうだ?俺達と"イイコト"しようぜ?」

 

「ヒッヒッヒ!そいつぁ名案だなぁ!」

 

「おい、俺に一番にヤらせてくれよ!」

 

男達はガタイもよく、しかも三人。周囲の人々も助けようにも助けに入れず、不安そうに成り行きを見ている状態だ。

ノエルの隣にいる助祭は不安に怯えた顔をしているが、ノエルはなおも男達を睨み付ける。

 

「ノ、ノエル様……」

 

「……今にあなた達のような愚か者には神罰が下りますよ!」

 

「神罰?へっへ、そいつは面白ぇ。そんなもんが下るんなら是非ともお目にかかりてぇもんだぜ」

 

男はまるで気にしていないとでも言いたげにノエルの発言を鼻で笑い飛ばした。

……しかし男達は気付いていない。今まさに、彼等の後ろから恐ろしい形相をした男が迫り、神罰が下らんとしていることに。

 

「楽しそうだな……俺も混ぜてくれよ」

 

「あん?」

 

男の肩に手が置かれる。振り向くと一人の少年が肩を掴んでいた。

 

「なんだテメェは?……がはっ!!」

 

渾身の右ストレートが男の顔面に炸裂する。男の身体が宙を舞い、露店の果物が並んだ(かご)に身体が激突して辺りに果物が散らばる。

ノエルはその姿に見覚えがあった。いや、見覚えどころではない。彼はーーーー自分の命の恩人に他ならないーーーー"サイトウ・リョーマ"その人であったからだ。

 

「あ、あなたは……リョーマさん!」

 

「ノエルさんは下がってろ。この生ゴミどもをすぐに片付けてやっからよ」

 

「は、はい!」

 

ノエルは助祭と共に子供達を引き連れて距離を取った。男達の前に龍馬は立ちはだかり、拳を鳴らして鬼、いや"怒れる龍"のような目付きで彼等を睨み付ける。

 

「て、テメェ!いきなり何しやがる!」

 

「俺達にこんな真似をしてただで済むと……」

 

 

 

 

「やかましい!!!!」

 

 

 

 

龍馬の怒りの一喝。あまりの凄みに思わず男達も一瞬たじろいだ。

 

「女子供に手ェ上げて好き勝手しやがって……テメェらみてぇなクズはこの帝都にいる資格はねぇ!!!!」

 

さらに怒鳴り声を上げる龍馬。そんな彼の姿を見て野次馬がガヤガヤと騒ぎ始める。

 

「おい、見ろよ。ニホンのバーサーカーだ……」

 

「ああ、確かメチャクチャ喧嘩が強いんだろ?」

 

「噂じゃあのヴィヴェルタニアの騎士にも勝ったらしいわよ……」

 

「マジかよ!こりゃ見物だぜ!」

 

「ニホンのバーサーカーに目ェ付けられるなんてあいつらも運がねぇなあ……」

 

以前よりも龍馬の噂は広まっているようだ。異世界の国・ニホンからやってきた、ひとたび怒らせればその怒りが尽きるまで暴れ出し、手に終えないほどの力を発揮するという男。少し尾ひれが付いているような気もするがあながち間違ってはいない。

異世界の鉄の馬を駆り、あらゆる敵をその恐るべき怒りのパワーで打ち倒すと噂の男。それが"ニホンのバーサーカー"こと斎藤龍馬であった。

 

「くっそ……テメェ!覚悟しやがれ!」

 

籠に叩き付けられた男も起き上がって拳を構える。龍馬も拳を構えて戦闘態勢を取った。こんな連中にルナ・アームは必要ない。いつものストリートファイトスタイルで充分だ。

襲い来る男達の拳による攻撃。だが龍馬はそれを難なく避け、鳩尾に的確に拳を打ち込んでいく。

ダメージを受けた男達はよろめくが、すぐに反撃に打って出る。そのうちの一人が棒切れを拾って龍馬に殴りかかった。

 

「せい!!」

 

「!?」

 

流れるような動きで龍馬は男が振り下ろした棒に両手を添えるようにして受け止め、そのまま勢いに任せて棒切れをその手から奪い取る。

 

「どりゃあっ!!」

 

「ぶひゃっ!!」

 

男の顔面を奪い取った棒切れで気絶するほど思い切りぶん殴り、そのままノックアウトだ。

五十嵐流・武士泣かせ。武士の魂とも言える刀を奪い取る技術から来たというこの技は現代の喧嘩技においても充分に役立つ。

武士泣かせからの棒切れフルスイングホームランで一人が沈み、さらに龍馬は警戒なフットワークでもう一人の背後に回り込んだ。そのまま相手が振り向こうとしたところに思い切り足払いを喰らわせる。

 

「どわっ!?」

 

「くたばれ!!」

 

「ぐふぅっ……!!」

 

足を取られて仰向けに転んだ男に容赦のない顔面への拳による追撃。これで二人目だ。

 

「く、くそっ……!ガキのくせに舐めやがって……!うおおおお!!」

 

最後の一人が懐から短刀を取り出した。鈍く輝くその刃が龍馬を捉えるが彼は怯まない。

短刀を突き出して攻撃する男の腕をかわしつつ掴んだ龍馬はその腕に強力な手刀を浴びせた。

 

「オラァァッ!!」

 

「ぎゃあっ!!」

 

五十嵐流・小刀封じ、そして五十嵐流・断骨(だんこつ)。ナイフや小刀などの短い刃物を持った敵に対して有効な技で、刃を繰り出してきた相手の腕をかわして拘束してからの相手の関節に手刀を浴びせる無慈悲な一撃である断骨の流れるようなコンボに男はたまらず短刀を落として激痛の走る腕を押さえながらうずくまる。

 

「まだやんのか?あぁ?」

 

凄む龍馬。男は腕をかばいつつ「お、覚えてろ!」と捨て台詞を吐きながら気絶した仲間を見捨てて逃げていく。ノエルと子供達を救ったニホンのバーサーカーこと龍馬に対し、周囲の人々から大きな歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、もう大丈夫だよ!」

 

「エルフのお姉ちゃん、ありがとう!」

 

怪我をした子供にディレットがヒールをかけると出血は止まり、傷はたちまち回復した。目の前で起きた回復の奇跡に子供もディレットに対して笑顔で礼を述べる。

ノエルと助祭達も龍馬に対して礼を述べる。……が、ノエルの表情はどこか浮かばない雰囲気だ。

子供達が帰った後、龍馬とディレットは後でレクシア大聖堂へ来てほしいと突然ノエルから頼まれたので城へ行く前に仕方なく大聖堂へと向かった。彼女があんな深刻な顔をしていては断りづらい。

礼拝堂へ入ると龍馬が以前破壊してしまった巨大なアレクの女神像…………の代わりにその場所に山笠が設置してある。以前のフェスで龍馬の祖父の平蔵が仲間達と運んだのちにレクシア大聖堂に寄贈したものだ。異世界の文化を表すものの一部として何故かこの礼拝堂に設置してある。

こんな神聖な雰囲気の礼拝堂に唐突に鎮座する博多の祭りの象徴とも言える山笠のミスマッチ感に少し笑いを隠せない。

と、そんな山笠の前にノエルが立っていた。

 

「あ……リョーマさん、ディレットさん……」

 

「ノエルさん、どうしたんです?」

 

「何か悩み事ですか?私達で良ければ相談に乗りますよ」

 

「ええ……実は……」

 

ノエルは少しためらった様子で言葉を濁したり口をつぐんだりしている。が、ようやく意を決して口を開いた。そんな彼女から出た言葉は驚くべきものだったのだ。

 

「リョーマさん……!折り入ってお願いがあります……!私に……私に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私に格闘術を教えて下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

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