アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第109話 ルミナの決意と祭りの準備

「遅い!何しよんね!」

 

「うぅぅぅ……」

 

「ごめんなさいぃ……」

 

涼子から早く戻ってこいと言われていたにも関わらずあまりに遅い帰還に龍馬とディレットの二人は頭にゲンコツを喰らってしまっていた。まだ頭がズキズキ痛む。

 

「ったく、ルミちゃんから大事な話があるとにから……」

 

そういえばルミナがどうとかいう話だった。今はどうやらルビィと同じ客室で待っているらしく、涼子はそこへ早く行けと促す。

自分達の荷物を置いてルビィとルミナの客室へ向かう龍馬とディレット。部屋に着くとコンコンとノックをする。

 

「ルミナ、ルビィ。俺達だ」

 

「リョーマ兄ィ……どうぞ」

 

返ってきたのはルビィの声だ。龍馬はドアノブに手をかけて扉を開き、ディレットと共に中へと入る。

中に入ると部屋の小さなテーブルにはルビィとルミナ、そして龍馬達が予想だにしなかった"二人の来客"の姿があった。

 

「お久しぶりです。リョーマさん、ディレットさん」

 

「娘がお世話になっていますわ」

 

「アドニス王に……ジェナ王妃……!?」

 

「ルミナのお父さんとお母さんじゃないですか……!?」

 

そこにいたのは花の里ーーーールミナの故郷を治めるピクシー達の王にして彼女の両親であるアドニスとジェナがいたのだ。

二人は龍馬の前に羽を羽ばたかせて飛んでくると深々と頭を下げた。

 

「どうしてお二人がここに?」

 

「リョーマ、それは私から説明するよ」

 

真剣な表情で語ったのはルミナだ。何やら事情があるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「花の里に帰るぅ!?」

 

ルミナの口から語られたのは驚くべき事実だった。なんと彼女は故郷である花の里に帰ってしまうと言うのである。

突然の話に驚きと困惑を隠せない龍馬とディレット。ルビィは既に知っていたのか少し寂しそうだ。

 

「な、なんでまた急に……」

 

「実はね、最近よくこっちの世界に行くことが多いリョーマ達のために私の転移魔法が使えないかなって思ってたけど……今の私じゃ自分の身体を転移させるので精一杯なんだ……」

 

「うむ。そこでリョーマさん。一度ルミナを里で修行させようと思うのです。娘の転移魔法はまだ未熟だが、他者やリョーマさん達の所持している"ばいく"なども転移させることが出来るようになればきっとあなた方の助けになるでしょう」

 

ルミナと父親のアドニス王が言うにはそういうことらしい。ここ最近何の縁か知らないが、帝国や異世界の様々な場所に行く機会が多くなった。

しかし福岡から異世界の帝国まで行くには飛行機、或いは船で東京まで行ってからそこからまた船を乗り継いで東京湾沖の異界の門をくぐるしか方法はない。旅費も時間も馬鹿にならないし、龍馬やディレットも頻繁に学校やバイトを休むわけにはいかない。

そこでルミナの転移魔法だ。より強力な転移魔法が使えるようになれば一瞬で帝国まで移動できる。帰りも然りだ。

しかしそのためには今のルミナの魔力では難しい。修行を積んで魔力を増強させねば他者を転移させることは困難を極める。そのためルミナは修行のために一度里へ帰るというのが事のいきさつである。

 

「陛下にはもうお話してあるの。もし私がリョーマ達を転移させることが出来るようになったら帝都の北東にある古い空き家を転移先として使ってもらって構わないんだって」

 

「リョーマ兄ィ、あそこだよ。アタシが盗賊やってたころに使ってたあの空き家」

 

「ああ、地下への隠し通路があったあそこか」

 

そういえばルビィが盗賊して生きていた頃、潜伏先の地下への入り口があった空き家が帝都の北東にあったはずだ。なるほど、あそこなら都合がいい。いきなり人前に転移したら大騒ぎになりかねない。

 

「これは私がもっと力をつけたあとの話になるんだけど、私がリョーマ達を転移させることが出来るようになったら帝都だけじゃなく他の場所にも一瞬で行けるからかなり便利になると思うよ。あ、でも流石に行ったことのない場所には行けないからね」

 

「つまり一度行った場所にはファストトラベルが出来るようになるっつーことか。確かにそれは便利だな。なあ、ディレット」

 

「うん。まるで"オープンワールドゲーム"みたいだね。確かに移動に時間がかかりすぎるのはクソゲーの極みだし」

 

「クソゲーってお前……」

 

最近ほんとに"こちら側"の世界の用語を交えて話すせいで時々ディレットが異世界のエルフであるということを忘れそうになる。エルフ特有の長い耳以外は普通の人間と変わらないし、無理もないのかもしれないが。心なしか若干口も悪くなっているような気がしないでもない。

 

「とにかくフェスの終わりまでは帝都にいるよ。それが終わって修行を積んだらまたリョーマの家に行くからね」

 

「少し寂しくなるな、ルミナ。まあ、頑張れよ。ところで……アヤは一緒じゃないのか?」

 

そういえばキジムナーのアヤが見当たらない。あれだけ異世界を楽しみにしていたのに連れてこなかったのだろうか。

 

「ああ、アヤなら自分から留守番するって家に残ってるよ。リュウイチロウさんが仕事から帰ってきて独りぼっちだったら可哀想だからって。フェスが始まる前日に二人で一緒に来るって言ってたよ」

 

どうやら龍一郎のためにわざわざ居残ったらしい。それはそれで昼間父が仕事に行っている間が逆に一人で寂しいのではないかと龍馬は言うが、タブレットを置いてきたので今頃沖縄にいるフミと通話してるかネットで動画サイトを楽しんでいるらしいのであまり心配はないという。ガジュマルの精霊とは一体何なのだろうか。

とにもかくにもルミナの里帰りまでにはまだ時間がある。フェスの準備も最終段階に入ったらしく、城内がより一層慌ただしい。

そういえば何やら今回のフェスは雰囲気が違う。嬉々としてみんな"見た目が禍々しいもの"を飾りや置物としてあちこちに配置している。これはまさか……

 

 

「もちろん、"はろうぃん"じゃよ」

 

 

あっけらかんとした声でソフォスはそう答えた。どうやら日本のハロウィン騒ぎにかこつけてこちらの祭りでもハロウィンをやるつもりらしい。10月31日はとっくに過ぎているが……細かいことは気にしてはいけないと龍馬は「そっすか」とスルースキルをレベルアップさせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の帝都へ出てみると街には篝火が煌々と灯り、あちこちで動物の頭骨やらゴーストっぽい人形、日本から取り寄せたカボチャのランタン、いわゆるジャック・オー・ランタンが配置され、帝都は遅いハロウィンに向けて着々と進んでいた。

男達は飾りつけや商売のための売り文句を書いた看板を日本語とシルワ語の両方で設置し、女達は衣装や菓子の準備を行っている。

普段はもう寝ているはずの子供達は親や仕立屋に作ってもらったモンスターやゴーストの衣装を着て大通りをはしゃぎながら走っている。まだフェスまでには数日あるというのにすっかり帝都はお祭り気分だ。

 

「とりっく・おあ・とりーと!とりっく・おあ・とりーと!」

 

「おかしくれなきゃイタズラするぞー!」

 

脇を駆け抜けていく子供達を見て「やれやれ、子供は元気だな」と呟く龍馬に対し、「17でおっさんみたいなこと言ってて草生える」と切り返すディレット。少々言い返したいことがあるが、それを言うとおそらく殺されるのでやめておいた。まだ死にたくはない。

バザー通りの散策中、カムラン一家の屋台を見かけたが一家とグレッグ、それにグレッグの連れの元ゴロツキ達が一緒に飾り付けに勤しんでいた。声をかけようかと思ったが、忙しそうなのでそっとしておくことにした。

バザー通りの先にある噴水広場では電源車や音響設備が持ち込まれていてニコラス達建築ギルドがステージの改修に取り掛かっていたり、島袋達がキャスト陣と打ち合わせをしたりしている。

本番が近いせいか、こんな夜更けになってもまだ作業に明け暮れている人々だが前回と違って龍馬とディレットが出来ることは今はほとんどない。準備が終わるのを見守るだけで充分だ。

そんな中、夜ということもあってかやはり明らかにガラの悪そうな連中がウロウロとしているのを見かける。が、彼等は龍馬の姿を確認するとギョッとした表情でそそくさと去ってしまう。

 

「おい、やべぇぞ……あいつ……ニホン人のサイトウ・リョーマだ……!」

 

「リョーマだって……!?ニホンのバーサーカーじゃねぇか……!何人もあいつにやられたって噂だぜ……!?」

 

「お、俺は逃げるぜ!あんなのと喧嘩してちゃ命がいくつあっても足りねえや……!」

 

度重なる帝都での喧嘩の噂はゴロツキ達の間でも徐々に有名になっていた龍馬。まだ17歳の少年だというのにその恐ろしさは半端ではなく、一部の者は龍馬の顔を見ただけでコソコソと逃げていってしまう。

 

「兄貴ィ、あんなガキに何ビビってるんですか?全然弱そうじゃないですか」

 

逃げようとしたゴロツキの弟分は龍馬の事を知らず、愚かにも彼に喧嘩をふっかけようと息巻くが、後ろから肩を掴まれて引き止められる。

 

「バカ野郎!ガキだからって甘く見るな!俺達ワルだけじゃねぇ。あいつは"黒衣の刃"の連中やヴィヴェルタニアの騎士までぶっ倒したほど喧嘩が強いんだ!俺らなんかで勝てるわけないだろ!」

 

「そんなのただの噂じゃないすか。俺が軽ーく……」

 

「噂じゃねぇ!本当だ!……丁度いい、見ろよ。あそこにお前と同じ大バカ野郎共がいる。あいつらがどうなるか、よく見てから考えるんだな……!」

 

ゴロツキと弟分が見る先には自分達と同じような三人の男達。龍馬のことを知らないのか、龍馬とディレット相手にカツアゲを始めたのである。

その瞬間、先頭の男の身体が激しく宙に舞った。顎を龍馬に思いきり殴られたのだ。さらに一人は鳩尾に膝蹴りを受けて吐瀉物を吐き出しながらうずくまってしまい、最後の一人は何がどうなったかもわからないうちにいきなり顔面を殴られて倒れたかと思うと、さらに龍馬はその倒れた男を引っ付かんで持ち上げ、噴水の中に投げ落とした。

あっという間に三人は倒されてしまい、隣にいたエルフの少女は見慣れているのか、少し離れた所で涼しい顔をしながらニホン人がよく持ち歩いている光る板をいじりながら喧嘩が終わるのを待っている。

ゴロツキを倒した龍馬はそのまま何事もなかったかのようにエルフの少女と立ち去ってしまった。

 

「……」

 

「……なあ、あれでもまだあいつに喧嘩を売るか?」

 

「……この街では大人しくしときます……」

 

「懸命な判断だ」

 

流石にあれを見た後では自分の考えが愚かであったと思わざるを得ない。さっきも誰かが言っていたが、あんな人間を相手にしていたら"命がいくつあっても足りない"。

それに兄貴分から話をさらに聞いてみると、向こうから喧嘩をふっかけてくることは絶対にないようだが、何か悪事を働いているのを見られたら最後、あの鉄拳が容赦なく飛んでくるとのこと。それだけあのサイトウ・リョーマという少年は帝都の人々を大事にしているらしい。

二人は彼と関わり合いにならないことを祈りつつ、広場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建物から流れる香ばしい香りに誘われて龍馬とディレットはフラフラと帝都北東まで来てしまった。ここは宿屋と酒場が多く建ち並ぶ場所のため、フェスを目当てに集まった人々でごった返している。中には日本のマスコミの姿も確認できる。

二人が行き慣れた道を辿った先にあったのは"竜の髭亭"。今日もこの店はよく繁盛している。母の教えたレシピのメニューが連日大人気だそうだ。

特に"ヤキトリ"は一番の人気メニューであり、炭火でじっくり焼いたその香ばしさと味わいはただ焼いただけの鶏肉よりも非常にうまいと評判なのだ。

ただひとつだけ、店側も客側も理解に苦しむメニューがあった。

 

 

それは"ブタバラ"である。

 

 

"ヤキトリ"とは"鶏肉を焼いた料理"であって豚やイノシシの肉ではない。しかしそのヤキトリの中になぜイノシシ、つまり豚肉に相当するブラウンボアの肉が使われていてヤキトリというメニューの一部になっているのか、疑問の声が上がっていた。

美味いから大した問題ではないが、レシピしか教わっていないアンナはその由来に関しては首を傾げていた。

 

「あー……これは福岡の焼き鳥ならではの事情ですねぇ」

 

「?」

 

店でヤキトリとコカトリスの香草焼きを頬張って口を膨らませたままディレットは龍馬のその言葉に対してハテナを浮かべた。

福岡で焼き鳥を提供している居酒屋では豚バラ肉を串に刺して焼いたものも"焼き鳥"のメニューのひとつとして扱われる。

母の涼子は福岡生まれの福岡育ちのため、焼き鳥のレシピに豚バラも載せてしまったのだろう。しかし疑問の声が上がりながらも"ブタバラ"はやはり人気のメニューのひとつで、特に油っこいものを好むドワーフの客に人気があるようだ。先ほどから遠目に見えるドワーフの二人組が豚バラをよく注文している。

 

「はい!追加の"トンジル"だよ!」

 

レベッカが豚汁を二人分、彼等のテーブルへと持ってきた。もう夜は冷え込みが厳しくなりつつある中、この温かい豚汁はありがたい。

しかし店の中がいつもよりも大繁盛している。レベッカもアンナもかなり忙しそうだ。

そういえば今まで気が付かなかったが、遠くのテーブルに見知った顔を見つけた。レスター領への旅路で出会った冒険者のスレイド達がここにも来ている。

向こうも龍馬達に気付いたらしく、こちらへジョッキを持ってきて近付いてきた。

 

「よう、リョーマにディレットじゃねぇか!」

 

「どうやら無事に帰ってきたようですね」

 

「レスター領にはちゃんと行けたかしら?」

 

ラファエル、フェリアも一緒だ。龍馬とディレットは旅の報告も兼ねて彼等と食事を共にした。

話も弾んできた頃、一部のグループが退店したのと入れ替わりに三人ほどの男女が入店してくる。いずれもなかなかに派手な服装とメイクが目立つ人間ばかりで、龍馬達とは離れたテーブルに腰を落ち着けた。

こちらから見て右側には緑色の短髪に目の下に赤いラインのようなメイクを施した男性、左側には目の周りに派手な紫のアイラインを施した青い髪の女性、そして真ん中に座っている男性はオレンジ色の長髪が目立ち、頬に竜を思わせるメイクか或いはタトゥーを入れた男性だ。

 

「おい、ラファエル。あいつら……」

 

「ああ、間違いない。"火と煙の幻団(まぼろしだん)"だ。彼等もここに来てたのか」

 

エールの入ったジョッキで軽くその三人を指すスレイド。ラファエル共々どうやら知っている人間のようだ。フェリアも焼き鳥を頬張りながらうんうんと頷く。龍馬は知り合いなのかと訪ねてみるが、三人はその問いに対しては首を振った。

 

「あいつら"火と煙の幻団"は旅の芸人さ。少人数ながらなかなか面白い見世物をしてくれる奴等で、俺達も昔あいつらの芸をある町で見たことがあるんだ。その名の通り、火と煙を駆使した魔術のような芸で観客を魅了する、今一番人気の旅芸人だ」

 

スレイドの話によればちょくちょく色々な場所でその得意の芸を披露して旅費を稼ぎながらあちこちを旅しているのだという。おそらく帝都のフェスを聞き付けてやってきたのだろう。

 

「端っこにいる緑色の髪の男、あいつがハワード・ディズリー。チームでの小道具やショーの前座を担当する。だが小道具だからってナメちゃいけねえ。皆あいつの芸にいつの間にか引き込まれちまうんだ。そして気付けばショーのメインまで……って、感じさあ。

んであの女がイザベラ・エイリー。"煙"の担当だ。あいつの作り出す煙はまるで魔術だ。それが生きているように動き、観客を魅了する。さらに美人ときたもんだから男のファンも多い。

最後に真ん中の男……あいつがリーダーのマティアス・クロフォード。"火"の担当さ。奴が操る火はそりゃもう派手で度肝を抜かれるぜ。そして三人の技が一斉に合わさったクライマックスで観客は全員三人の虜になっちまう。俺達もついつい金貨を投げちまったよ」

 

三人の解説を一通り終えたスレイドが再びジョッキを口に運ぶ。その横でラファエルがうんうんと頷きながら当時の光景を物語った。

その時はかなり金に困っていた時期だったらしく、なけなしの金貨を投げてしまったスレイドはフェリアから相当なお叱りを喰らったらしい。フェリアも「あの時はしばらく硬い薫製肉だけで過ごさなければならなかったから大変だったわ」とため息をついた。

スレイド達が当時の思い出を三人であーだこーだと語っているのを横目に龍馬とディレットは"火と煙の幻団"の面々を再び見た。

三人はヤキトリやギョーザといった異世界の料理に舌鼓を打っているが、たまたま視線を向けている龍馬達と目が合った。すると三人ともニッコリと微笑んで会釈してくれたので龍馬達二人も慌てて会釈する。

美しい女性のイザベラも魅力的だが、ハワードとマティアスも整った顔立ちで男である龍馬ですらも何だかどぎまぎしてしまう。きっと女性のファンも多いはずだ。

龍馬達はその後スレイド達と食事を共にしたのち、竜の髭亭を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り際、龍馬とディレットは後ろから誰かに声をかけられた。

振り向いて二人は驚く。なんとそこにいたのは"火と煙の幻団"の面々であったからだ。

 

「やあ、こんばんは。さっきはどうも」

 

「変わった身なりをしているわね。やっぱり噂のニホン人っていう異世界の方かしら?」

 

「よければ少しお話でもどうだい?」

 

いきなり彼等から話し掛けられるとは思ってなかったので思わず緊張してしまう龍馬とディレット。彼等の提案で少し場所を移し、ベンチのある近くの広場へと向かうことになった。そこで腰を落ち着けて互いに自己紹介すると龍馬とディレットは三人からこの帝都と日本について色々と訪ねられた。

リーダーのマティアスは龍馬達の服装や持ち物に興味津々でイザベラとハワードは日本の文化について色々と聞いてきたので答えられる範囲で龍馬達は答える。その中で龍馬は興味深い話をマティアスから聞いた。

 

「この時間になってもまだ人の行き来があるなんてよほどでかい祭りなんだなあ。こりゃコンテストもやりがいがあるね」

 

「コンテスト?」

 

「あれ、知らないのかい?今回この"ふぇす"とやらの祭りでは俺達のような芸人が各地から集まって自慢の芸を披露するコンテストがあるのさ。……ハワード、チラシ持ってるかい?」

 

「ああ、あるよ」

 

ハワードが取り出したチラシ。龍馬がディレットに読んでもらうとそれには"帝国主催・大道芸コンテスト!"と書いてあるようで、下の方にはシルワ語で既に参加が決定している一部の参加者の名前も書いてある。

自慢の芸を披露するために様々な場所から芸人達がこぞって集まっているらしいのだが、チラシを見せたハワードはどこかワクワクしている様子だ。

 

「今回のコンテストには異世界の人々も参加するらしいんだ。だから俺達も胸が高鳴ってるってわけさ」

 

「異世界って……ニホンの?……ああ!」

 

「どうした、ディレット?」

 

ディレットはチラシに書いてある何かに気付いたようで、下の方を指差す。

 

「リョーマ!ここ!見て!」

 

「……見てっつったって俺はシルワ語わからんから読めねえよ」

 

「あっ、そうか……ゴメン、ゴメン。とにかくここ。ここは出演者の名前が書いてあるんだけど、ここに"フレアバー・エデン所属 フレアバーテンダー・ナックル"って名前が……!」

 

「ええ!?ナックルさん出るのかよ!?」

 

ディレットの話によればそこにはあのフレアバーテンダー・ナックルも出演するとの情報が記載されているようだ。

ナックルといえば前回のフェスにおいてヒューイット伯爵やベルスティード家のシルヴィア公爵令嬢をそのパフォーマンスと美しいカクテルの数々で魅了し、一躍話題となった福岡出身のバーテンダーだ。まさか彼もコンテストに出るとは。

 

「なんだ、君達はこの名前の人物と知り合いなのか?"ふれあばーてんだー"なんて聞いたこともないな。一体どういう芸人なんだい?」

 

「いや、あの人は芸人っていうか……こっちの世界で言うところの酒場の経営者っていうか……」

 

説明が難しい。どう説明したものか。龍馬はとりあえず"複数の酒を混ぜて一つの酒を作る職業"と答えておいた。多分イメージ的には通じるだろう。

 

「お酒同士を混ぜて別のお酒を作るの?初めて聞く話だけどとても興味深いわ。会うのが楽しみね」

 

イザベラはどうやら三人の中でも最も酒好きなようで龍馬達の話をうんうんと頷きながら聞いていた。どちらかというと勝負の相手というより、(ナックル)の作る酒を飲むことの方を楽しみにしているように見えるが気のせいだろうか。というかこの世界にはレイラ然り、シルヴィア然り、酒好きな女性が多いように感じる。

その後も龍馬達はイザベラを中心にバーテンダーについて質問され、30分ほど経ったところでようやく解放された。

城へと戻る二人を見送った後にマティアス達も宿への歩を進める。

 

「……」

 

「どうしたのかしら、マティアス」

 

「何か考え事かい?」

 

イザベラとハワードに挟まれた位置でマティアスは何やら考え込んでいる。もちろん内容は今回のコンテストのことだ。

"フレアバーテンダー"などという聞いたこともない異世界の職人……"酒"を"芸術(アート)"にするというその存在に対し、マティアスは非常に興味を抱いていた。それと同時に今回の競技(コンテスト)の最大のライバルになるであろうことも。

 

「……ただ酒を作ることを芸にするなんて普通じゃ考えられないし、一体どんなことをするつもりなのか俺達じゃ全く予想がつかない。これは一筋縄ではいかないかもしれないぞ」

 

「……そうね。大いに興味はあるけど私達の"敵"であることに違いはないわ。これは気を引き締めてかからないと」

 

「確かにね。じゃ、宿に戻ったら今回のショーのネタでも練り直すかい?」

 

ハワードのその言葉にマティアスもイザベラも頷いた。

あのリョーマとかいう少年とディレットとかいうエルフに事前に情報を聞き出せたのは運が良かった。具体的にどういう芸をするのかまだピンとこないが、少なくとも強敵たり得ることは確かだ。可能な限りの対策を練っておくに越したことはない。

 

 

 

 

徐々に冬の寒さを帯びつつある冷たい夜風に当たりながら、"火と煙の幻団"の三人は宿への歩を進めるのであった。

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