アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第111話 大道芸コンテスト開催(中編)

「"大変長らくお待たせしました!!いよいよコンテストを開催致します!!それでは、出場者の紹介です!!"」

 

遂にコンテストが始まり、出場者達が壇上に現れる。もちろん中にはナックルとプリンスの姿もあった。

MCの島袋によって出場者が紹介されるのを広場から見物する龍馬達。と、そこへすっかり風邪が治った勇斗が千春と共に人混みをかき分けて現れる。あれだけゴホゴホ言っていた姿はどこへやら、その鬱陶しいくらいに元気な姿は風邪を引いていたことなど微塵も感じさせない。

 

「おーす、龍馬にディレット!お待たせ!」

 

「ギリギリ間に合ったわね」

 

「ハヤトにチハル!よかった、今からコンテスト始まるとこだよ!」

 

「おっせーんだよ、もう来ねえかと思ってたよ」

 

しばらく異界の旅に出ていたので勇斗と千春の二人と顔を合わせるのも久しぶりだ。学校や地元の街の様子を聞いてみると特にこれといって変わったことはなく、大きな騒動もないそうで龍馬とディレットは少し安心した。

だがこのフェスのことはやはり話題になっているようで、クラスでも何人かは遊びに来ているらしい。もしかしたら顔を合わせることもあるかもしれない。

ちなみに両親とルビィとアヤの四人も一緒に来てたのだが人混みの凄まじさ故に途中ではぐれてしまっていた。母とスマホで連絡を取り合うとそう離れていないようだったし、また移動するのもめんどくさいのでお互い離れた位置から観ることにしたのだ。

 

「あ!ショーが始まるよみんな!」

 

ディレットが指差した先を全員で見る。出場者全員の紹介が終わり、いよいよ予選が始まる。審査員として選ばれたのは公平を期すために貴族、レクシオン教団員からそれぞれ一人ずつと事前に抽選によって選ばれた帝都在住の住民が三人の計五人だ。

貴族代表はトレヴァー、レクシオン教団からはノエルが選ばれ、住民からは雑貨屋カムランの店主キースに仕立屋のタマラ、それから竜の髭亭看板娘のレベッカが審査員として選ばれた。

大会の仕組みは全八組のチームが事前にくじ引きで当たったチームと技を競い合い、審査員によって相手より高得点を取得出来れば勝ち抜きとなるトーナメント方式だ。三回勝ち抜いたチームが見事優勝となり、優勝したチームには賞金が与えられる。

八組のチームのうち、ナックル・プリンスの"チーム・エデン"は予選1ブロックで相手はヴィヴェルタニアからやってきた料理人コンビ"踊る鉄鍋"の双子の兄弟で名をミディー・レーアとウェルダー・レーアといった。ちなみにミディーが兄でウェルダーが弟だそうだ。二人ともかなり筋骨隆々としており、お揃いのちょび髭がよく似合っていて料理人らしい面構えである。

このコンテストではパフォーマンス要素があれば飲食物を作る職業の人間でも参加できる。"食"をエンターテイメントのひとつとして扱うのはナックル達チーム・エデンだけではないのだ。

 

「おおう、これは初っぱなから強敵の予感」

 

「気を引き締めていけよ、プリンス。予選敗退なんて無様な結果は見せられんけん」

 

まずはレーア兄弟が先にパフォーマンスを披露する。彼等は巨大なかまどとフライパンのような柄のついた鉄鍋をステージに用意し、隣に置かれた調理台には岩ほどもあろうかという巨大な肉が置かれた。

 

「"さあ、予選1ブロック開始!まずは『料理は炎と豪快さ』がウリの"踊る鉄鍋"のレーア兄弟チームからだ!では、イッツ・ショータイム!"」

 

「行くぜ、ウェルダー!」

 

「任せろよ、兄貴ィ!」

 

MCの島袋の合図と共に二人は愛用のペッパーミルをそれぞれ二本ずつ取り出した。

そのミルの中には様々な国の食材・食文化に加えて薬草や医学に至るまで研究を重ねて彼等が独自に調合したスパイスが詰まっている。

数多くの貴重な香辛料をふんだんに使用したミックススパイス入りのミルが宙を舞い、まるで"フレア"を彷彿とさせるパフォーマンスで味付けされていく。観戦している龍馬達から見ればあの沖縄の修学旅行で見たステーキハウスでのパフォーマンスを思い起こさせる。

次にウェルダーがその巨大なブロック肉をひっつかむと頭上に高く放り投げた。そしてーーーー、

 

「おらおらおらぁぁぁ!!!!」

 

兄のミディーが剣と見まごうほどの巨大な包丁を頭上の肉に向かって目にも止まらぬ速さで振り回す。その包丁捌きはまるで剣舞の如くしなやかで、それでいて豪快だ。

巨大包丁の斬撃を受けた肉は空中で見事にバラバラになる。が、その大きさは均等に、美しく切り揃えられており、彼等兄弟が百戦錬磨の料理人であることが嫌でも理解できた。

肉は計算されたかのように巨大な鉄鍋の中に落下し、その鉄鍋は既に弟のウェルダーによって着火されたかまどの火で熱く熱されている。一連の流れから観客からおお、という驚きの声が上がった。

 

「っしゃああ!!」

 

掛け声と共にウェルダーが鉄鍋を振る。

鍋は相当の重さがありそうだが、ウェルダーはそんな事を微塵も感じさせないほど軽快に、豪快に鍋を振るう。大きな火の上で巨大な鉄鍋が激しく動くその様はまさにチーム名の"踊る鉄鍋"にふさわしい。

と、ここでウェルダーが兄ミディーに鉄鍋を持つポジションを交代する。ウェルダーは兄に向かって木箱から取り出したボトルを投げた。ミディーはそれを受けとると豪快にボトルの酒を鉄鍋にバラまいた。

次の瞬間、鉄鍋からは何メートルにもなるような巨大な炎が立ち上ぼり、さらに観客を驚かせる。いわゆるフランベという調理のテクニックだ。

そして仕上げ。ミディーが焼き上がった肉を皿に盛り付けて完成である。皿にはミディーが鍋を振っている間にウェルダーが色とりどりの美しい付け合わせの野菜をこれまた美しくカットしてスタンバイしており、見た目の美しさとよく焼けた肉から発せられるジュージューという音、そして何より食欲をそそるその香りが見る者を惹き付けてやまない。

 

「"すごい!これは美しさと豪快さを兼ね備えた料理という名の芸術だ!それでは審査員の方!判定をお願い致します!"」

 

このコンテストはあくまで"芸"を競うもの。食品を使ったパフォーマンスの場合、"味"までも審査の対象にすると食品を使わないチームとで審査に差が出てしまい、公平さに欠けるからだ。だが……

 

「ほう、肉料理をこれほどまでに派手な方法で調理するとは。非常に面白い。しかし美味そうだ」

 

「見ていても楽しいし、それに……とてもいい香りですね」

 

トレヴァーとノエルはレーア兄弟の調理方法はもちろん、美しく焼き上がった肉の"香り"に魅せられている。

レーア兄弟はニヤリと笑った。そう、"味"は考慮されなくとも"香り"までは防ぐことは出来ない。否応なしにこの上質な肉の"香り"を審査員は嗅ぐことになるのだ。これこそレーア兄弟の狙い。

焼いた肉というものを好む人間は多い。それ故に"香り"だけでも充分なポテンシャルと成りうる。「匂いに釣られて~」という心理を狙ったレーア兄弟の作戦である。

実質、タマラもレベッカも肉の香りに釣られてさっきからガン見状態だ。もちろん観客やその中にいる龍馬達も涎を垂らして肉に惹き付けられている。完全に流れはレーア兄弟に分があると言ってもいいだろう。

いよいよ審査の時だ。審査では一人最高10点の40点満点でポイントが加算される形式になっている。

 

「"それでは審査員の皆様、判定をお願い致します!"」

 

島袋のその言葉に対し、四人が手元のパネルを上げる。パネルにはアラビア数字とシルワ語数字の両方が書いてあり、異界人と日本人のどちらが見てもわかるようになっている。結果は……

 

「"7点、8点、10点、10点……合計35点だあ!!素晴らしい!!これはいきなり高得点です!皆様、炎の料理人・レーア兄弟に惜しみない拍手をお願いします!!"」

 

35点はなかなかの高得点だ。レーア兄弟は帽子を脱いで観客に一礼をし、ステージから去る。

いよいよ次はチーム・エデンの番だ。強く、いい香りを放つ"肉"が相手では"酒"を取り扱う二人からすれば少々分が悪い。ステージ上の準備が日本人スタッフによって変更される最中、いきなり窮地に立たされた二人であったがその顔には焦りや不安などなく、むしろ笑みすら溢れていた。

 

「"……さて、次は……日本は福岡の地でバー・エデンを営むフレアバーテンダーのナックルとプリンスのコンビ、チーム・エデンの出番だ!美しいパフォーマンスとカクテルで誰しもを魅了する二人はどんなひとときを与えてくれるのか!?"」

 

MCの島袋によるチーム・エデンの紹介が終わり、登場した二人がステージの中心へと向かう。すると不思議なことにセンターに立ったのはナックルではなくプリンスだった。

 

「はいはいはーい!じゃあ今からね、"フレア"っていうのをやっていきます!日本の皆さんも異界の皆さんも審査員の皆さんも"フレア"って知ってるかな?」

 

マイクを持ったプリンスの言葉にほとんどの者達が首を振る。日本人でもフレアというのはあまり馴染みのない人間が多い。異界人なら尚更だろう。

 

「まあ、フレアっていうのはですね、こういう容器でお酒の瓶をキャッチしたりクルクル回してジャグリングしたりしながらお酒を作るパフォーマンスのことをフレアといいます!上手く出来たら拍手をくださいね!」

 

プリンスが軽くシェーカーでボトルをキャッチしてみせると観客から「おおー!」という声が上がる。この状況を見てトレヴァー伯爵は笑みを浮かべながら「あの男、なかなかやるな」と呟いた。その声に反応し、隣の審査員席のノエルが「何がですか?」と尋ねる。

 

「観客を見てみろ。あのプリンスという男、あの気さくな態度とわかりやすい説明で会場の雰囲気を全て味方につけた。これで流れはあの男に集中したも同然。さて……何を見せてくれるのか?」

 

ノエルは観客を見渡してみる。確かに先ほど作った美味そうな肉のことなど忘れたようにプリンスの方に視線が集中している。タマラやレベッカも今か今かとショーの開始を待ちわびているのがわかる。

 

「じゃあ、イッツ・ショータイム!ミュージックゥ、スタートォ!」

 

プリンスの掛け声と共に補助役に回ったナックルが音楽を流す。もちろんプリンスのテーマとも言えるあの曲だ。

 

 

 

 

\オマエノコトスキダケド……オレ……ホストダカラ……ヨロシクゥ!/

 

 

 

 

音楽の始まりと共にプリンスがボトルを回し始める。宙を舞うボトルとシェーカーに観客の視線は釘付けだ。

頭上高く放り投げたボトルは吸い込まれるようにシェーカーに落ちていく。カシャッ、というボトルがシェーカーにはまった小気味良い音と共に観客達も拍手と歓声を上げた。

 

「おおー!」

 

「いいぞー!」

 

「素敵ー!!」

 

プリンスの披露するテクニックで会場のボルテージは上がりつつある。いつもより派手に回しつつ、徐々にカクテルが出来上がっていく。

ここでプリンスの十八番だ。彼は審査員の四人を指差すとお決まりの質問を投げ掛けた。

 

「はい、審査員の皆さん!好きな数字をそれぞれどうぞ!」

 

「む?私か……そうだな、3かな」

 

「私は……7ですね」

 

「あたしかい?そうさね……10かな」

 

「私は……1で!」

 

「3!7!10!1!全部足したら……ええと……21!じゃあね、今からこのボトルをシェーカーというこの容器で21回連続でキャッチします!達成出来たら盛大な拍手を!!ヨロシクゥ!」

 

オーディエンスに尋ねた数字を足してその数だけボトルをシェーカーで連続キャッチする。プリンスならではのパフォーマンスである。

前回のフェスではシルヴィアの前で披露した際に一番最後にボトルを落として割ってしまったが、今回は果たして。

 

「はい、行きまーす!!いーち!にー!さーん!」

 

キャッチの度にいつの間にか観客も一緒になってカウントをしていた。今や会場はプリンス一色と言っても過言ではない。

順調に数を重ねていき、いよいよ残すところあと数回となる。

 

「18!19!20!…………21ぃ!!!!」

 

ボトルは綺麗にシェーカーに収まり、見事にカウントを達成した。その瞬間に会場から大きな歓声と拍手が上がる。

 

「イェェーイ!!みんなありがとーう!!でも今回は何だか調子がいいや!!もう21回キャッチするぜー!!」

 

なんとプリンスはさらに同じパフォーマンスを続け、ペースを上げてさっきよりも素早く連続キャッチを始めたのだ。

この行動に観客の喝采もさらに大きくなり、誰もが彼のテクニックを見守っている。

 

「行くぜー!18!19!20!にじゅうぅ……いちぃぃぃ!!……あ」(ツルッ)

 

「あ」

 

「あ」

 

「あ」

 

「「「「あ」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後に響き渡るガラスの割れる派手な音。同時に音楽が止み、会場が重苦しい沈黙に包まれる。

プリンスはしばらく硬直したのちに観客を二度見すると竹ボウキをステージの裏から取り出していそいそと片付け始めた。

 

「………………まあ、あれですよ。日本には"猿も木から落ちる"ということわざがあってですね……プロでも失敗は付き物で……」

 

「いや、そんなんいーから早くその破片と片付けろや!」

 

ナックルの一喝ですごすごと片付けをするプリンス。しかし次の瞬間、会場はどっと笑いに包まれていた。

 

「はっはっは!面白い奴だな、アイツ!」

 

「全くだ!いいぞー!失敗してもいいから続けてくれー!」

 

「頑張ってー!」

 

さらにプリンスに応援の言葉が投げ掛けられる。彼は破片を片付け終わると再びシェーカーとボトルを手にカクテルを作り続ける。

一見プリンスの失敗に見えるこの一連の流れ。しかしトレヴァー伯爵は彼等チーム・エデンの考えを読んでいた。

 

「(……ふむ。あのプリンスとやら、"わざと"瓶を落としたな?そしておそらくこの"失敗"もあのナックルという相方の男と折り込み済みの"演出"……その証拠にあの男が瓶を割った瞬間にまるで知っていたかのように間髪入れず音楽がすぐに止まり、さほど慌てた様子も見えない……そして割れた瓶は既に空っぽ……本当に失敗したのなら中身の入った瓶をぶちまけているはずだ。"完璧"よりも敢えて"失敗"や"中途半端"を演出に盛り込むことでより観客を引き込み、楽しませる……全ては彼等のシナリオ通りというわけか。なかなか面白いじゃないか)」

 

これは目が離せない。誰もがそう思っているはずだ。観客も再び流れ始めた音楽に乗って手拍子をしながらプリンスのカクテルが出来上がるのを待っている。

いよいよクライマックスだ。曲も終わりに近付くなか、出来上がった青く、美しいカクテルを優雅にグラスに注ぐと曲の終わりに合わせてプリンスはポーズを決める。

 

「はい、完成!!これが俺の……"異世界フレア"で作った超スペシャルなカクテル……名付けて"プリンススペシャル"だ!!」

 

再び会場がどっと笑いに包まれる。だが歓声は大きく、喝采や拍手に口笛が辺りに響き渡っている状態だ。

 

「だっはっは!!何だよそれ!!そのまんまじゃねーか!!」

 

「いやー、でも面白かったぜー!」

 

「プリンスさーん!こっち向いてー!」

 

流れは完全にチーム・エデンにあるようだ。

そしていよいよ結果発表の時。"踊る鉄鍋"、"チーム・エデン"の両者に緊張が走る。果たして結果は。

 

「"出ました!8点、9点、9点、10点……計36点!ということは……1点差でチーム・エデンの勝利です!!観客のハートを射止めたのはチーム・エデンのプリンス選手だぁー!"」

 

僅か1点の差。だがどれほども大きな1点の差を見事手にしたチーム・エデン。豪快さと美しさを兼ね備えたレーア兄弟に彼等は見事勝利し、予選を突破してみせた。勝利したチーム・エデン、そして惜しくも敗れたレーア兄弟にも観客達から盛大な拍手が贈られる。

 

「いやあ負けちまった、負けちまった!こりゃ完敗だな!な、兄貴!」

 

「ああ!料理だけじゃなく俺らももっと芸の腕も磨かないとな!」

 

負けたというのに彼等はこれ以上ないくらいに清々しい表情だった。"見ても食べても楽しい"をモットーとするレーア兄弟にとってパフォーマンスと芸術性は自分達の料理の道になくてはならない要素。

「大事なスパイスがちょいとばかり不足していたようだ」と兄ミディーは自分達の戦果を笑い飛ばした。

 

「あんたらのパフォーマンスは人を惹き付ける素晴らしさに満ち溢れていた。だから観客もあんたらを選んだんだ。いい勝負だった。自分達を見つめ直すいい機会になったよ」

 

「兄貴の言う通りだ。その調子で俺達の分も勝ち抜いてくれよ。それから俺達は祭りの終わりまで出店を出すから試合の後に俺達兄弟の焼いた肉、食っていってくれよ。あんたらならご馳走してやるからさ!」

 

レーア兄弟はそう言って右手を差し出し、ナックルとプリンスもそれに応えるように彼等の手を握った。

がっしりとした腕と大きな手。その手に刻まれた無数の傷と火傷の痕。おそらく彼等はここまでの腕を付けるために多くの苦難を乗り越え、努力を積み上げてきたのだろう。この傷痕はその証とも言える。

だがそれはこちらも同じだ。多くの努力や練習、そして苦難の数なら負けてはいない。だからこそ勝てたのだと……そう思いたい。

 

「ミディーさん、いい勝負でした。後で必ず店に行きますよ」

 

「俺肉好きだから二人の肉食うの今から楽しみですよ。ぶっちゃけさっきの肉の匂い嗅いだせいで腹が鳴りっぱなしなんです」

 

ははは、と笑いながらプリンスはウェルダーと握手を交わし、ナックルはミディーと握手を交わす。彼等を讃えるべく、再び大きな拍手が会場に響き渡る。

 

 

 

これにて予選1ブロックは終了した。続いて2ブロックがスタートし、芸自慢のキャストが次々に芸を披露し、会場は更なる盛り上がりを見せる。

 

 

 

 

そして今回の優勝候補。"火と煙の幻団"が出場する4ブロック目は予選でも凄まじい盛況だった。

 

 

 

「さあさ、皆様お立ち会い。今宵、ここに見せるはひとときの夢か幻か。皆様を素敵な宴の世界へご案内致しましょう」

 

火と煙の幻団の先陣を切るは、小道具担当のハワード。彼の手に握られているのは一本の杖。彼はその杖をクルクルと回すと突然空中へと放り投げた。

するとどうしたことか。落下してきた杖はその最中に赤く美しい光をまるでダイヤモンドダストの如く会場中に振り撒き、観客達を魅了したのである。

これぞハワードの得意技のひとつ"(くれない)の雪"。儚くも美しい赤い光。いきなりの大技に多くの観客が驚きの声を上げる。

 

「紅き光の雪は儚く散り、露と消える……それはまるでひとときの夢ように。今宵は更なる夢の世界をお見せしましょう」

 

続けてハワードは懐から小さな箱を取り出した。彼がゆっくりと、まるで赤子をあやすような優しい手つきでその箱を開けるとーーーー

 

「おや、どうしたことか。箱の中には何もない。はて、これは困った」

 

……箱の中身は空っぽだった。てっきり何かが出てくるものと身構えていた観客達は顔を見合わせて怪訝な表情をする。

 

「しまった。私としたことが。この箱には"夢"を閉じ込めておいたのに。だけど"夢"には形がない。だから閉じ込められるはずもない。ああ、何ということだ」

 

困り果てた顔のまま首を振るハワード。相変わらず何も起こらないままの会場は徐々にどよめきすら少なくなっていき、しまいには静かになってしまう。

 

「そうだ。夢がなくなったならまた作ればいいんだ。皆さん、しばし目を閉じて……」

 

ハワードがそう言った途端、観客達がまるで催眠術にでもかかったかのように徐々に瞼を閉じていく。その中で龍馬達も急激な眠気に襲われ、徐々に視界が狭くなっていった。

……どのくらいの時間だっただろうか。体感的には僅か数秒の時間だったはずだ。最初に耳に入ってきたのは会場に響き渡るハワードの声だった。

 

「さあ皆さん、目を開けて。今宵の夢は目を開けなければ見ることはできません」

 

うっすらと視界が戻っていく。あれだけの眠気が嘘のように消え失せ、まるでグッスリと眠った後の清々しい晴れた日の朝のように頭が冴え渡り、そして目を見開いた龍馬達と観客が目にしたものはーーーー驚くべき光景だった。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「会場中に……花が!」

 

それはまるで楽園のような光景であった。色とりどりの花が咲き乱れ、花弁が花吹雪となって会場を多い尽くし、観客達を驚かせた。

それは決して幻ではない。本物の花だ。あまりの美しい光景に誰しもが歓喜の声を上げていた。

 

「……ひとときの夢、いかがでしたでしょうか?喜んでいただけたのなら結構。私共も感激でございます。ところで……夢にはまだ続きがあるようですよ?ですが……」

 

ハワードは観客に一礼したのちにわざとらしく困った顔をしてみせる。そしてふぅ、とため息をついてからちらりと審査員を見ると再び口を開いた。

 

「これはあくまでも競技。もし私が負ければ夢はそこで終わり。そうなると残念ですね……」

 

もはや審査員も会場も完全にハワードのペースに飲まれていた。ここで低い点数など出そうものなら観客からの大ブーイングは間違いない。

 

 

 

そして出た結果は…………予想通りであった。

 

 

 

 

 

「"おーっと、これは凄い!9点、10点、10点、10点……合計39点!相手チームに5点もの差をつけてハワード選手の勝利だぁー!"」

 

相手チームは南にある砂漠の大陸の国からやってきたという二人組で曲刀(シミター)を使った素晴らしい演舞を見せてくれたが、分が悪すぎた。"火と煙の幻団"がひとり、ハワードの圧勝であった。

これにて予選は終了。次は準決勝だ。まだハワード一人の前座しか披露していないというのに"火と煙の幻団"の圧倒的な力の差の前に他のチームは不安な表情を見せている。

だが、チーム・エデンの二人だけは違った。彼等だけは堂々と構えており、不安そうな空気すら一切漂わせていない。

 

「さて、オーナー。どうするよ?(やっこ)さんなかなか強敵ですよ?」

 

「さてね。俺らは俺らに出来ることをやるだけやし。そもそも勝敗うんぬんの前に俺らがやるべきことは"お客さんを楽しませること"。それだけ出来れば勝ちなんざ後からついてくるさ」

 

ボトルを片手でクルクルと宙に舞わせながらステージで一礼する"火と煙の幻団"の三人を見ながらナックルはそう言い放った。

 

「最も……やけんっち言うて負けるつもりも無いけどね」

 

「ヒュウ!カッコいい!言うねぇー」

 

 

 

 

 

フレアバーテンダー・ナックルとプリンスが見せるエンターテイナーとしての意地とプライド。

その闘志の宿る目はまさに勝利への渇望に満ちた紅の瞳(レッド・アイ)

 

 

 

戦いはまだ、始まったばかりだ。

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