アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第114話 ミッドナイト・ハロウィン・カーニバル!

日が沈み、遂に夜がやってきた。

異界でのハロウィンという初の試み。はじめ、帝都の人々はモンスターやゴーストで街を彩るという文化に首を傾げていたが準備をする内に皆がその気になってしまって帝都はもうハロウィン一色だ。

龍馬達は仮装の準備をするために城に戻るが、既に城の人々は仮装の準備を終わらせていた。

 

「おう、リョーマにディレット。仮装の準備か?」

 

廊下で出会ったのはレイラだった。口が両側に裂けたゾンビメイクと頭部から流血しているような血糊がリアルで龍馬達は思わず驚いてしまう。

 

「うおっ、レイラさんなかなかリアルですね」

 

「本当の血かと思っちゃった……」

 

「へへ、だろ?リョーコさんがしてくれたんだ。ほら、アタイってガサツだし化粧なんかまるで経験ないからさ。リョーコさんに頼んでみたらこの通りさ」

 

「母さんが?」

 

どうやらメイクの苦手な者は母の涼子がメイクを代わりに施しているようだ。確かに化粧のイロハにも通じている涼子だがハロウィンの仮装のためのメイクまでこなせるとは知らなかった。

二人はレイラと別れて自室に戻るとそれぞれ衣装を用意する。龍馬はバッグから事前に用意した衣装と小道具を取り出した。血と汚れでボロボロになった風に汚し加工したシャツとジャケットにジーンズを着てコスプレ用の山刀(マチェーテ)を取り出し、どこかで見たようなホッケーマスクをつける。顔に血糊などのメイクをしなくて良いのでこれは楽だ。

部屋を出て廊下でディレットと合流するとディレットは黒いマントに黒いローブ、大きな魔女帽子にホウキと完全に魔女スタイルだ。目元には血糊のメイクも多少施している。

 

「完全にド○キで売ってるヤツを着ただけコスやんけ」

 

「失礼な!帽子とマントはド○キだけどローブは作ったんだよ!?あとホウキはナ○コで買ってきた」

 

「そこまで聞いてねえよ」

 

「それならリョーマだってド○キどころかダ○ソーにもあるレベルじゃない!ジェ○ソンとかス○リームのマスクなんて百均でも見かけるやつじゃん!」

 

「服もマスクもちゃんと汚し塗装してるからセーフ。それに服買ったのはワーク○ンだし、あとマチェーテは手作りですぅー」

 

ド○キだのダ○ソーだのワーク○ンだのと二人が言い張っているところへこれまた仮装を終えた家族と出くわした。父の龍一郎、それにルビィとアヤだ。

 

「二人とも、似合ってるじゃないか」

 

「見て見てリョーマ兄ィ!アタシもお母さんに"カソー"の化粧や衣装用意してもらったんだー!」

 

「私もほら!このサイズの衣装、涼子さんが作ってくれたんだよ!」

 

ルビィは吸血鬼風の衣装、アヤはダークな雰囲気の赤ずきんといった衣装を着ている。なんとアヤの衣装は涼子の手作りだそうだ。母はどうやら小さな頃は人形遊びが好きだったらしく、その時から人形の衣装を手作りしていたそうなのでアヤやルミナくらいのサイズの衣装ならパパッと作れてしまうのだという。さすがにルビィの衣装は既製品らしいが、わざわざ業者にオーダーメイドで作ってもらったらしいのでなかなかの出来だ。こちとらド○キだのダ○ソーだのというレベルだというのに。

龍一郎はというと顔中に縫い目のメイクを施して頭にはでっかいネジが刺さっている。なるほど、フランケンシュタインか。

 

「ルビィもアヤも似合ってんじゃん。いいと思うぜ。……ところで母さんとルミナは?」

 

「城の人達の仮装の準備を手伝ってるよ。まだ時間かかりそうだから俺達はしばらく城で待つから龍馬とディレットちゃんは先に街をぶらついてきたらどうだい?」

 

まだまだフェスの夜は始まったばかりだ。家族と後で合流する時間もあるだろう。なら先に夜の街を歩いてきても損はないはずだ。

 

「リョーマ、行こう!ハロウィン……楽しもうよ!」

 

「ああ、そうだな。行こう!」

 

 

 

 

 

 

ハロウィンが執り行われる夜の帝都は不気味さと賑やかさが混同する不思議な雰囲気を醸し出していた。

ぼんやり輝くカボチャのランタン、飾られた白いゴーストの装飾の下で様々な飲食物や土産が販売されており、行き交う人々は日本人や異界人問わず皆思い思いの仮装に身を包んでいる。

その中で日本のお菓子を買っては「とりっくおあとりーと!」と叫ぶ子供達にお菓子を配って回る一人の女性の後ろ姿が。

長く、美しい紫の髪に白い司祭服。あれはノエルに間違いない。龍馬は彼女に声をかけた。

 

「あ、おーい!ノエルさん!」

 

「はい?」

 

くるりとこちらを向いた彼女の顔は半分が焼け爛れたようになって肉が剥き出しになっており、左の眼球は飛び出して歯と周囲の骨や筋肉までも見えているおぞましいゾンビのようになっていたのだ。

 

「ギャアアア!!」

 

たまらず龍馬は叫んで後ろに逃げた。だがよく見たらそれはただのメイクではないか。しかしあまりにもリアルすぎてグロさが半端ない。あの美しいノエルだからこそ余計にグロさが際立っている。

 

「あら、リョーマさん。うふふ、驚きました?このメイク。ニホン人の方に施してもらったのですよ」

 

「リアルすぎて未だにメイクって信じられんわ!心臓に悪い!」

 

どうやら日本人の特殊メイクアーティストが異界人向けにメイクを施しているサービスがあるらしくノエルもそこでメイクをしてもらったらしい。それにしてもグロすぎる。よく子供達が泣かないなと龍馬は肩を竦めた。

 

「ノエルさん凄いメイクですね!私もびっくりしちゃった!」

 

「ありがとうございます。ディレットさんもとっても似合ってますよ。はい、ではお二人にも。"はっぴー・はろうぃん"です」

 

二人はノエルから日本製のお菓子がいくつか入った小さな袋を渡される。どうやらノエルはじめ教団が子供達に配っているようだが自分達が貰ってもいいものなのかと困惑する龍馬達。一応自分達も配布用のお菓子を用意してきたのだが。

 

「心配には及びませんよ。まだまだ沢山ありますので」

 

日本製のお菓子は子供達にとっては滅多に食べることのできない珍品だ。それを教団が事前にこれだけ用意できるとは。

話を聞いてみると今回のハロウィンにあたって教団管理下の孤児院の子供達を中心にお菓子が配られるよう日本の企業から仕入れたお菓子をソフォスが寄付したというのだ。

あの悪どいヴォルティスもいなくなった以上安心して教団にその後を任せられると判断してのことのようで、実際にきちんと多くの子供達の手に渡っている。

 

「今夜の帝都は普段とは全く雰囲気が違っていてとても楽しいですよ。昼間にはなかったお店もあったりしたのでぐるっと回ってきてみてはどうでしょう?」

 

二人はノエルのその提案に乗ることにした。確かに今この噴水広場だけでも昼間とは違った店が多く出ている。夜だけあって酒類を提供している店も昼間より多くなっていて日本人も異界人も酒を楽しむ姿が見受けられる。

二人は昼間とは反対側、帝都の西側から回ってみることにした。まずは南のバザー通りを一通り回って露店を楽しんだ後、カムラン一家の店に向かった。

 

「あ!リョーマお兄ちゃんにディレットお姉ちゃん!いらっしゃい!"とりっく・おあ・とりーと"!」

 

魔女っ娘スタイルの仮装に着替えたシャルルが龍馬達を出迎えてくれた。後ろでは屋台と雑貨販売に精を出している両親とグレッグの姿が見受けられる。

 

「よお、シャル。ほら、お菓子だ」

 

「ハッピー・ハロウィン、だよ。シャル」

 

「リョーマお兄ちゃん!ディレットお姉ちゃん!ありがとう!」

 

シャルルがお菓子を受け取ったのを知ると両親のキースとマルタが「いつもありがとうございます」と丁寧に頭を下げに来た。

お礼にと今回はマルタがハロウィンのために作ったパイを振る舞われ、龍馬とディレットは彼女特製のパイを堪能した。

カムラン一家に別れを告げて二人は次に西側の港前広場に向かった。

ここは少し開けているのと港に近いせいか、日本企業のトラックや自動車が入り込んでそのまま屋台として営業している店が多い。

 

「リョーマ!クレープだって!あれ食べよ!」

 

「クレープか。いいねぇ」

 

箱バンが店になっているクレープ屋で龍馬とディレットはひとつずつクレープを頼むことにした。漂う甘い香りが食欲を刺激する。二人はそれぞれ注文の品を決めて店員に注文をしようと足を一歩踏み出した。

 

「「キャラメルチョコバナナクレープ二つください」」

 

偶然自分と重なった声があった。若く……いや、まだ幼さの残る、聞き覚えのある声のした方を龍馬は見た。

 

「あっ!エミール!」

 

「その声はもしかして……リョーマさん……!?」

 

そこにいたのは丸眼鏡が特徴の少年。そう、エミールである。龍馬は被っていたホッケーマスクを頭の上に上げて素顔を晒す。

 

「やっぱりリョーマさんだ!」

 

「エミール!元気にしてたか!?……って言うほど時間経ってねーな……こないだ別れたばっかりだもんな」

 

エミールと別れ、リグラスを出発したのはつい二日ほど前のことだ。そんなに時間は経っていないが龍馬とエミールは再会を喜んだ。

クレープを受け取って近くのベンチに行くとそこにはフローレンス教授……もとい、理事長が待っていた。

四人はクレープを食べながら他愛ない話に華を咲かせる。

 

「いやー、しかしこの"くれーぷ"とやら美味いのう!舌が溶けそうじゃ!……おっと、そうじゃ。リョーマ君にディレットさん。君達のおかげで例の魔紅力保存庫なんじゃが、早くもゴールが見えてきたぞ」

 

「えっ!マジで!?もう!?」

 

「教授、それは本当ですか!?」

 

「うむ、もちろんじゃとも。なあ、エミール?」

 

「はい!」

 

話によればエミールとフローレンス教授が研究を続けている魔紅力保存庫は龍馬達がリグラスを離れた後に他の学者達の力を借りて実現化に一歩近づいたらしい。

試作品を組み上げてみると出力は安定し、小さなものではあるが氷を作り出すことに成功したようだ。これであとは出力を自由に調整出来れば冷蔵・冷凍の使い分けも可能だということになる。

 

「すげーな、エミール!まさか一日二日でそこまで出来るなんて!」

 

「はい!……でも、これはまだスタートに過ぎません。出力調整のための内部機構の改善や魔紅石の量など研究しなければいけないことは沢山あるんです。だけどようやく実現に近づいてきた……!これが実用化されて普及すれば多くの食料の鮮度を保ったまま誰もが長期間保存することができます……!もう誰も干ばつや不作による飢饉に苦しんだり怯えたりしなくて済むんです……!」

 

やはりエミールの目は夢と情熱の炎に燃えていた。研究者にとってようやく研究結果の実現が見えてきたというのはこれ以上ないほどの喜びだ。まだやることが多いとはいえ、彼が上げているのは嬉しい悲鳴だ。

 

「けど今日は息抜きです。本当は父さんと母さんも一緒に来たかったんだけど宿屋の仕事が忙しくて……」

 

「で、エミールだけじゃあれだからのう。付き添いでワシも来たわけじゃよ」

 

クレープを食べながらフローレンス教授はそう語った。ギリギリ残っていた帝都行きの馬車があったためそれに乗ってすぐに祭りに間に合うよう帝都へとやってきたのだ。エミールの両親にお土産を約束して。

リグラスで別れた時と違ってハロウィンの祭りに驚きながらも目を輝かせるエミールのそれは年頃の少年そのものだ。龍馬とディレットは彼と共に周辺を散策し、"招待"された広場でのDJイベントで盛り上がるなどして彼等と楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、楽しかったね」

 

「エミールのやつ、くたばっちまったけどな」

 

普段の研究や学業に加えて散々はしゃいで遊び歩いた後、疲労のせいかエミールはほとんど寝ぼけ眼になってしまい、フローレンス教授と共に宿屋へと引き上げてしまった。

小腹が空いた龍馬とディレットは何か食べられる店はないかと辺りを探す。……いい香りがそこら中からしていてどれにしようか迷ってしまうものだ。龍馬はマスクを外して周囲の露店を見回した。そんな中、再び見知った顔に出会う。

 

「あっ!リョーマ!」

 

自分を呼ぶ女性の声の主を探す。すると急に真正面からいきなり黒い服の少女に抱き付かれたのだ。突然の事態に困惑する龍馬。そして急に目付きが悪くなるディレット。

 

「うぇ!?」

 

「リョーマ!探したんだよー!会えないかなって!」

 

よく見ると声の主はカレディアだった。黒いドレスに身を纏い、最初に出会った時のツンツンした態度が嘘のように変わって龍馬にスキンシップを取ってくる。嬉しくないと言えば嘘になるが隣のエルフの視線が痛いのでゆっくりと彼女を引き離そうとする。

 

「ちょっと、カレディア!少しリョーマにベタベタし過ぎじゃない!?初めて会った時はツンツンしてたくせに!」

 

「あら。悠久の刻を生きるエルフが私みたいな小娘に嫉妬してるのかしら?悔しければあなたもリョーマに抱き付いてごらんなさいな」

 

「ぐぬぬ……」

 

「お、おいやめろよ二人とも……」

 

一触即発の女の戦い。その火蓋が今まさに切って落とされんとしたところに迫る複数の足音。前から迫ってきたのはこれまた数日前に別れた見知った顔だ。

 

「おお、リョーマにディレット!数日ぶりだな!」

 

「うふふ、カレディアもあなた達に会えてとても嬉しそうねぇ。私達も嬉しいわぁ」

 

黒く美しい礼装にハットを被ったレスター卿、それに黒のドレスで着飾ったリリスが向こうからやってきた。よそ行きのために用意したその二人の服装と漂う気品さと優雅さは龍馬でさえ見とれてしまうほどだ。

 

「レスター卿に……リリスさん!」

 

「いやはや、"ふぇす"とやらの祭り、非常に楽しませてもらっている。加えて今回の開催はこの夜の"はろうぃん"とやらが一番の見所だそうではないか。これは運が良かった」

 

「モンスターの飾り付けや格好をするなんて変わった催しねぇ。私達も仮装っていうのをするべきだったかしら?」

 

二人はしなくても大丈夫なんじゃないかな、と心の中でツッコミを入れる龍馬。何せ相手は本物のヴァンパイアとサキュバスなのだ。元から充分ハロウィンらしさがある。

 

「ねえ、リョーマ。良かったら私達とお祭りを回らない?遠出は久しぶりだしこうしてリョーマ達と会えたんだし」

 

目を輝かせたカレディアの提案に龍馬は乗ることにした。最初に危うく戦争になりかけたディレットは少し苦い顔をしていたが、龍馬の説得によって渋々了承した。

何よりカレディアだけではなく、実はレスター卿とリリスからの願いでもあった。珍しいものが多いのはいいことだが、ニホンのものに精通した知り合いがいないために案内役を欲しがっていたところだったのだ。

それに話によれば城の留守はセバスチャンと配下の魔族達に任せているため、彼等にニホンのオススメの土産も買っておきたいとのこと。こうして龍馬とディレットはレスター一家と五人で行動することになったのである。

 

「レスター卿。何か希望はありますか?」

 

「うむ、そうだな……"ニホンの庶民の味"を知りたい。これだけ店があるのだからニホンの民も利用するような料理や酒を提供する酒場などが好ましいな」

 

それなら思い当たる場所が二つある。龍馬はまず"あのテント"へ彼等を連れていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふくまる出張店は夜になっても営業していた。愛華やレナ達もそれぞれ仮装をしつつ、接客に励んでいる。再び訪れた龍馬達をおばちゃんは歓迎した。テーブルにつくとレスター卿達は辺りを見回す。

 

「美味しそうな香りのする店ねぇ」

 

「ふむ。嗅いだことのない濃厚な香りが漂う店だ。リョーマよ、ここは一体?」

 

「俺の地元で食堂をやってるおばちゃんの店です。祭りの時だけこっちで営業してるんですよ」

 

ふくまるの店で漂うとんこつスープの濃厚な香りやギョーザやチャーハンの香ばしい香りはレスター卿達の食欲も刺激する。龍馬とディレットのオススメでレスター一家にはとんこつラーメンとギョーザをそれぞれ代わりに注文する。彼等がレスター領の領主であることを言ったおかげか、おばちゃんはレスター卿とリリスにはビールを、カレディアにはコーラをサービスしてくれた。

 

「…………プハァ!うーむ、不思議なエールだ。これがニホンの庶民が飲むという"ビール"なる酒か!」

 

「ワインよりも弱いけどシュワシュワしてよく冷えてて美味しいわぁ。これは料理に合いそうねぇ」

 

「こっちの"こーら"もシュワシュワした刺激と甘さがクセになりそうで美味しい!」

 

三人とも喜んでくれたようだ。そのうちラーメンとギョーザが運ばれてきて異界の庶民の味に三人とも舌鼓を打った。特にカレディアは高級食材の料理よりもラーメンの方が気に入ったようなので意外と舌は庶民派なのかもしれない。

ふくまるでの食事を終わらせると次に龍馬は彼等を竜の髭亭へと案内した。

 

「?ここはこちらの世界のごく普通の酒場のようだが……リョーマよ、ここには何か特別なものがあるのか?」

 

「まあまあ、それは見てからのお楽しみです。……レベッカ!母さんが教えたレシピの料理を色々持ってきてくれないか?」

 

「はいはーい!少々お待ちをー!」

 

しばらくして料理がおまかせで次々に運ばれてくる。これらは母がおかみのアンナに教えたレシピの家庭料理だ。中には福岡の郷土料理をこちらの食材で再現したものもある。是非とも彼等には一度食してもらいたいものだ。

 

「……!?なんだ、このスープは!?食べたこともない不思議な味だ!そして美味い!」

 

「私はこの"ニクジャガ"って煮物料理が好みねぇ。なんだかとても暖かみのある味がするわぁ」

 

「モグモグ」

 

カレディアに至ってはもはや無言で黙々と食べている。しかし表情は嬉々としていて見ているこっちもつい笑みが溢れそうだ。それにしてもよく食べる一家だ。普段からこんなに食べているイメージはないが、或いは祭りだからいい意味で少しタガが外れているのかもしれない。

食べていて気付かなかったがそういえばさっきから酒場の片隅が騒がしい。様子を見てみると空の酒樽を台にして男達が腕相撲に興じている。

 

「ねーねー、リョーマ君。よかったら参加しない?リョーマ君強いし、きっと盛り上がるよ!お金賭けなきゃいけないけどね」

 

「俺が?」

 

レベッカから試合への参加を持ち掛けられた龍馬。確かに面白くはありそうだが、レスター卿達を案内している途中だし、どうしたものか。

 

「リョーマよ、私もお前の実力の程を見てみたい。何、まだ時間はあるのだ。参加してみるといい」

 

「レスター卿がそう言うなら……」

 

レスター卿が希望しているとあっては参加してみるのもまた一興だろう。龍馬は参加の意をレベッカに伝えると男達に混じって腕相撲に興じた。

"ニホンのバーサーカー"の参加もあって酒場は大きく盛り上がり、次々に参加者も集まってくる。

 

「おぉりゃああ!!」

 

「ぐうっ!!」

 

三戦目。龍馬は屈強な男の腕を見事に倒し、勝利をもぎ取る。これで彼は三連勝だ。

龍馬は筋肉の量も体格でも街の力自慢達には劣っている。しかし数々の修羅場を潜り抜けてきた龍馬にはただの力自慢では通用しない。年齢に見合わず龍馬は快進撃を続けた。

 

「やっちゃえー!リョーマー!」

 

「いいぞー!やれやれー!」

 

ディレットとカレディアからも声援が届き、軌道に乗った龍馬は次の相手は誰だと言わんばかりに樽の上に腕を乗せる。そしてレベッカが次の対戦相手を連れてきた。

 

「さあ!次の相手はこちら!この竜の髭亭腕相撲選手権・初代王者ですよー!」

 

「よし、来…………は?」

 

龍馬は"初代王者"を見て絶句する。同時に自らの敗北を悟った。

 

「ほーう、まさかあんたがおるとは思わんやったばい。さ、バカ息子がどれくらい強くなったか確かめちゃろうかねぇ」

 

「……………………」

 

そこに現れたのは紛れもない母・涼子の姿。全く気付かなかったが父・龍一郎を含めたルビィにルミナ、アヤ達と家族が揃っていたのである。

もはや逃げ出せる雰囲気でもなく、龍馬は負け(いくさ)に出陣せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんな化け物に勝てるわけないだろ!いい加減にしろ!」

 

「リョーマ、今のリョーコさんに言おうか?」

 

「やめて」

 

あの後母と勝負をしたものの、ドワーフすら圧倒する涼子の腕力に勝てるはずもなく、散々舐めプで遊ばれた後に惨敗してしまった龍馬。その後ルビィからかけられた慰めの言葉が逆に傷口に塩を塗る羽目になった。

龍馬の家族とあって興味を持ったレスター卿夫妻とカレディアらと食事を共にすることになり、龍馬とディレットは再び二人で街へ繰り出した。

宿屋街通りを南に抜けると街中を流れるマーナ川沿いの帝都東通りにたどり着く。そこで二人は何やら騒ぎが起きていることに気が付いた。

人混みをかき分けて進むとどうやら酔っ払い同士の喧嘩が起きているらしい。

 

「んだとテメェコノヤロー!!」

 

「うっせぇ!!ぶっ殺すぞコノヤロー!!」

 

止めに入った人間もさらにヒートアップしてまさに火に油を注ぐ状態だ。

だが龍馬とディレットには何ら関係はない。衛兵が何とかしてくれるだろうし、余計なトラブルに巻き込まれる前にその場を立ち去ろうとする二人。しかし……

 

「テメェ、このっ!!」

 

乱闘を繰り広げる酔っ払いの一人が投げた酒の瓶が運の悪さと言うべきか、タイミングの悪さと言うべきか、真っ直ぐ龍馬の頭に向かって飛び…………

 

 

 

直撃した。

 

 

 

 

「ぐはっ!」

 

「り、リョーマっ!?大丈夫!?」

 

衝撃と痛みで思わず倒れてしまった龍馬。ディレットが駆け寄って起こそうとするが、それをするまでもなく龍馬はゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

マスクの下で龍馬の目の色が変わった。

 

 

 

 

「この……!!ふざけやがって…………テメェらぁぁぁぁ!!!!」

 

ディレットが止める間もなく、龍馬は酔っ払い達に突っ込んでいく。そして瓶を投げた相手かどうかに関わらず龍馬は手当たり次第に攻撃を開始した。

 

「どりゃあぁ!!」

 

「ぐへっ!」

 

「くたばれぇぇ!!」

 

「はがっ!」

 

「死ねやぁぁぁ!!!!」

 

「ぎゃひぃっ!」

 

猛烈なストレート、二人目へのフック、そして三人目へのハイキック。龍馬は反撃を許す暇を与えず瞬く間に三人を打ちのめした。

衛兵が駆け付ける前に屈強な男達を倒した龍馬がマスクを取ると皆口々に「ニホンのバーサーカーだ!」「いいぞ、バーサーカー!」と歓声が飛び交う。そんな中、龍馬に駆け寄る帝都の男性が一人。

 

「た、助けてくれバーサーカー!酔っ払ったニホン人がうちの前で大騒ぎして商売上がったりなんだ!」

 

「……ちっ、しょうがねーな!おっちゃん、そいつらはどこだ!?」

 

「すぐそこのリトリア通りにある店だよ……!頼む、衛兵さんも他の場所で酔っ払いに手を焼いていてすぐには来られないみたいなんだ……!」

 

「よし、行くぞ!ディレット、ついてこい!」

 

「ちょ、ちょっとリョーマ!待ってよ!」

 

男性と共に南にあるリトリア通りに向けて走り出す龍馬とそれを追うディレット。

リトリア通りにある店の前ではビール瓶を持って騒ぐ三人の日本人の若者の姿があった。

 

「ウェイウェイウェーーイ!!」

 

「ははっ、バッカでー!」

 

「おっし、あいつ動画撮ってインスタ上げようぜ!」

 

一人は店の入口の(ひさし)の上に登って騒ぎ立て、二人はそれを下から囃し立てながらスマホを構えている。いかにもヤンキーといった風貌で渋谷や池袋のハロウィンで馬鹿騒ぎしていそうな連中だ。見たとこかなり酔っている。これでは店の主人も大迷惑だろう。

龍馬の経験上、このような連中に説得は無意味である。おまけにあれだけ泥酔していれば尚更だ。龍馬は彼等が散らかしたであろう空のビール瓶を拾うと問答無用で庇の上にいる男の顔面を狙って思い切りぶん投げた。

 

「ウェイウェイウェーーイ!!ウェイウェイウェ……ぶはっ!!」

 

ビール瓶の直撃を顔面に受けたヤンキー男はバランスを崩して庇から落下し、盛大に尻餅をついた。

 

「リョーマ!流石にあれはまずくない!?」

 

「安心しろ。あの高さなら馬鹿は頭から落ちても死にゃあしないさ。さて……」

 

仲間が何者かの投擲攻撃を受けて落下したことに驚いている間に龍馬は下にいる二人に攻撃を仕掛ける。

一人目にはラリアット、二人目には顔面に頭突きを喰らわせて素早くノックアウトさせ、泥酔日本人による騒ぎをすぐに鎮めたのであった。

龍馬はジ○イソン姿のままヤンキー達を正座させ、背中を蹴っ飛ばして店の主人に土下座をさせた。流石の彼等もこれで酔いは覚めたようでさらに散らかしたゴミなどを掃除させてから龍馬はようやく彼等を解放する。店のトラブルを解決した龍馬は店主から酒を振る舞われそうになったが未成年なので丁重にお断りした。

 

「リョーマ、なんか色々巻き込まれちゃったね」

 

「ああ、全くだよ」

 

「でも二度あることは三度あるって言うし、もしかしたらまたトラブルに巻き込まれたりして」

 

「馬鹿言うなよ。三度も巻き込まれてたま……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひったくりよー!そいつを捕まえてー!」

 

 

 

 

 

 

 

女性の叫び声が辺りに響き渡り、女性から荷物を強奪した男が龍馬達の脇をすり抜けて噴水広場の方へ向かっていく。龍馬はうんざりだ、と言わんばかりの表情でディレットを睨んだ。

 

「…………ディレット」

 

「…………え!?これ私が悪いの!?」

 

「お前は"シュレディンガーの猫"をウ○キペデ○アで検索してこい!チクショー!!」

 

半ばヤケクソになりながらも龍馬はひったくりの男を走って追い始める。噴水広場に差し掛かったころ、龍馬は丁度いいところに落ちていたビール瓶を素早く拾うと男の後頭部目掛けて投げ付ける。

 

「ぎゃっ!!」

 

後頭部にビール瓶が直撃した男はそのままバランスを崩した。追い付いた龍馬は後ろから飛び掛かると男を捕まえる。取り押さえた男から女性の持っていた革袋を回収して男は衛兵に突き出した。

取り返した荷物を被害者の女性に渡すとお礼にと幾ばくかのトラム金貨を貰い、龍馬とディレットは別れを告げてその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー冬の兆しを見せる冷たい風が龍馬とディレットの頬を撫でる。今二人は民家の屋根の上にいた。

ここは数年前から空き家で中には誰もいないとのこと。ディレットが時々帝都へやってきた時に眺めの良い、秘密の場所として使っていたらしい。

帝都の夜空に花火が上がり、二人はドリンクを飲みながらそれを見上げる。

 

「こりゃ特等席だな」

 

「でしょ?よくここで街並みを眺めながらパンを食べてたんだ。天気のいい日にさ」

 

遠くでは未だに祭りを楽しむ喧騒とステージからの音楽が聞こえてくる。この宴は一晩中続きそうだ。

しばらく花火と街並みを眺めなていると着信音が。通知を見ると勇斗からだ。写真が添付されていてどうやらあちらは千春やアメリア、凛と合流して盛り上がっているようだ。リリィとは会っていないのかと聞こうと思ったが野暮なのでやめておいた。ステージ前にいるらしく、後で合流しようと誘われたので約束をする。だが……今はまだディレットと二人で花火と景色を楽しみたい。

と、ディレットの方からカシュッ、という聞き覚えのある音がした。何と彼女は缶ビールを飲んでいる。

 

「ディレット……!お前それ……!酒……!」

 

「ん~?ここは帝国だし私153歳だよ?お酒飲むのに何の問題もありませーん。ふふっ。……ビールって初めて飲んだけど苦いね……でも美味しいや」

 

確かに異世界側(こちら)では何の問題もないだろうが、彼女曰くあまり酒には強くないはず。大丈夫なのだろうか?

 

「大丈夫だよ~。下戸ってほど弱いわけじゃないから。たまには、ね」

 

「ま、まあ……せっかくの祭りだしな」

 

缶ビールを半分ほど飲んだ彼女の頬はほんのりと赤く染まり、花火の光に照らされた美しい横顔を見て何故だか龍馬は思わず息を飲んだ。

 

「ねえ、リョーマ。リョーマが成人してお酒飲めるようになったらさ。今度は二人で飲もうよ。またお祭りの日に、こうして花火を眺めながらさ」

 

「……ああ」

 

「約束だよ?……よし、じゃあそろそろハヤト達のところへ……」

 

「……待った!」

 

「へ……!?」

 

立ち上がろうとしたディレットの手を思わず龍馬は引いた。そして彼女を再び隣に座らせると手を握り締めて龍馬はそっと囁く。

 

「も……もう少しだけ……その……二人でさ……花火を……眺めよう……ぜ?」

 

あまりの突然の出来事に顔がカッと熱くなるディレット。酒のせいか?いや、何だか心臓も高鳴っている。否応なしに龍馬を異性として強く認識してしまう。

 

「う、うん…………」

 

彼女は一言、ゆっくりと頷く。そして二人は再び花火の上がる夜空を再び見上げる。お互いのその手を握ったまま。

 

 

 

ーーーー祭りの夜は更けていく。されども此度の祭りは収まる事を知らない。

その晩、異世界初のハロウィンは日が昇るまで続き、多くの者が飲み、歌い、踊り、音楽と笑い声が絶えることはなかった。

 

 

 

 

 

 




・龍馬トラブル時イメージBGM……
『Trouble Shooting star』
(『龍が如く0 誓いの場所』より)



今回で秋の異世界フェス編は終了です。
次回からは新しいシナリオがスタートします。
なお、次回からのシナリオでは主人公が龍馬から別のキャラクターへとチェンジされます。
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