アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第116話 銃 火 -War Ensemble-

連れ去られたリリィを助けるため勇斗と千春はフェリーを乗り継いで帝都へと辿り着いた。

フェスが終わった後の帝都は非常に落ち着いていて、冬の来訪を告げる冷たい風が吹く中、人々は冬を越すためにせわしなく準備をしている。

勇斗と千春は龍馬の手引きで再び城にお世話になり、そこで一旦荷物を下ろした。

ありがたいことにソフォスは龍馬達が来るときに備えて給油用のガソリンをいくつか城の倉庫にストックしてくれていた。これなら帝都とその周辺でガス欠の心配はない。

 

「まずは情報を整理するわよ」

 

「おう」

 

「まず第一にリリィさんは一昨日、何者かによって連れ去られた。第二に隣の住人が聞いた声から故郷の家族、特に兄によって連れ去られた可能性が高い。最後に連れ去られた先は故郷の村である可能性も高い……こんなところね」

 

リリィはおそらくウォリアーキャット族の家族である兄かもしくは肉親によって連れ戻された線が一番濃厚だ。千春は次にソフォスからもらった地図を広げて印を付ける。

 

「ディレットや色々な人から聞いたけどロンヌの森に行くにはガルザック砦をまず目指すといいらしいわね」

 

「ああ。そこなら前に通ったからわかる」

 

以前モニカと千春がレオンハルトにさらわれた時、ヴィヴェルタニアとの国境を越えるためガルザック砦を通ったことがある。あの付近から国境沿いに北を目指せばロンヌの森付近に行けるはずだ。だがその前に行くべきところがある。

 

「忘却の谷……龍馬はそこへ行けば俺達に協力してくれるヤツがいると言ってた……」

 

「斎藤が言ってた場所ね。何でも魔力の歪みが不定期に起こる、モンスターすら近寄らない場所だとか……本当に大丈夫なの?」

 

龍馬が言っていた"忘却の谷"。そこに勇斗達に協力してくれる人物がいるという。だが龍馬は「行けばわかる」の一点張りで詳しくは教えようとはしなかった。

役立つ装備品を工面してくれるということだけは教えてくれたが、果たしてそれが何なのか勇斗達には予想もつかなかった。

 

「ともかく先にそこへ向かおう。装備品ってことは何か武器とか用意してくれてるのかもしれない。丸腰のままじゃさすがに不安だしな」

 

「あんまり武器とか持つのは気が進まないけど……この状況じゃそうも言ってられないわね」

 

二人はすぐに支度を始める。今は一分一秒でも時間が惜しい。忘却の谷とやらに早く向かわねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都を出発した二人は龍馬が教えてくれた通りに帝都からロイド山脈の東にある忘却の谷を目指す。

幸いにも天気には恵まれているが既に冬が訪れつつあるこちらの世界でバイクに乗るのはなかなかに寒い。まあ、それは日本でも同じなのだが。

 

「"結構ガタガタしてお尻が痛いわ……"」

 

「慣れれば苦じゃなくなるさ」

 

ヘッドセットの向こう側から聞こえてくる千春の声。オフロードどころかバイク経験の浅い千春にはオフロードはなかなかキツいものがあるかもしれない。

二人はロイド山脈を抜けて東へ。段々と草木の生えた大地が荒れ地に変わってきた。環境の変化は龍馬の言った通りだ。これをさらに行けば忘却の谷のはず。

そして二人はいよいよ渓谷に侵入する。そこで二人は驚くべき物を目の当たりにすることになる。

 

「"城島、見て!"」

 

「何だよ……ええっ!?」

 

目の前にあったのは戦車の残骸。それもかなり古い型のものだ。

 

「おい、マジかよ……!こいつはA7Vだぞ!」

 

「えーせぶん……ぶい?」

 

「ああ。こいつは第一次世界大戦でドイツ軍が使った戦車だ。なんでこんなもんがこの世界に……!?」

 

A7Vは第一次世界大戦末期にドイツ帝国が開発した重戦車である。キャタピラに箱を被せたようなデザインが特徴で、戦車というものが実際の戦争で使われ始めた第一大戦においてイギリス軍のマーク戦車やフランス軍のルノー軽戦車などと共に当時を象徴する戦車のひとつである。

 

「どういうことなのよ!?なんで私達の世界の百年以上前の戦車の残骸がこんなところにあるの!?」

 

「俺が知るわけないだろ!しかも見てみろ……この落ちてる鉄屑……これよく見たら鉄屑じゃなくて剣だぞ……」

 

すぐそばに落ちている細長い鉄の塊を勇斗が拾って表面のゴミをはらう。すると刻み込まれている文字が露になった。

刻まれていたのは明らかに漢字。見た目から察するに古代の中国のものか古代の日本の儀礼用の剣だろう。他にもエジプトのヒエログリフが刻まれた壁画や彫像の一部など"明らかに自分達の世界のもの"である物体がそこかしこに転がっている。

 

「こいつは……一体……何なんだ、ここは……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「異世界で打ち捨てられ、忘れ去られた物が時空の歪みによって辿り着く場所……それがこの"忘却の谷"の正体なのさ。アミーゴ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞の向こう側から声がして勇斗と千春はそちらを振り向いた。ゆらりと現れる影の正体。二人はそのおぞましい外見に思わず声を上げた。

 

「なっ……!」

 

「ヒッ……!」

 

ボロボロのローブを纏った男は動く白骨そのものだった。左目の眼孔にのみ眼球が残っていて余計にグロテスクさを増している。勇斗は怯える千春の前に立ち塞がるようにして動くスケルトンの男に問い掛ける。

 

「な、何モンだテメーは……!」

 

「ヒッヒッヒ……そう警戒しなさんな。取って食やあしねぇよ。どうやらお前さん達、日本人だな。ん……?」

 

スケルトンの男は勇斗に近付くと彼の顔をその不気味な見た目でまじまじと見つめて何かを考えている。言い様のない気分に包まれつつも勇斗は千春の前に立ち塞がったまま口を開く。

 

「な、なんだよ……」

 

「ほう……!こいつは大したもんだ!俺の目……まあ、ひとつしか残ってないがな。それに狂いがなければお前にはその"スジ"がある」

 

「……あんたが……龍馬の言っていた"忘却の谷に住む男"なのか?」

 

「なんだ?お前ら龍馬の知り合いか?だったら話が早い。立ち話もなんだ。俺のねぐらに来な。詳しいことはそこで話そう」

 

くるりと踵を返してカタカタと骨を鳴らしながら歩くスケルトンの男。困惑しつつも勇斗は千春を後ろに庇うようにして男の後を追って歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……!」

 

「何なの、ここ……!銃が……たくさん……!」

 

スケルトンの男に連れられて入った洞窟。そこで開けた場所に出ると松明に照らされた壁にはびっしりと銃が並んでおり、勇斗も千春も絶句した。

 

「ようこそ、俺のガンショップへ。俺はコメル・シアンテ。武器商人にしてここのオーナーだ。気軽にルシアンテと呼んでくれ。まあ、座りなよ。茶は出せないけどな」

 

武器商人ルシアンテ。龍馬とディレットが以前に出会った忘却の谷に住まうアンデッドの商人だ。勇斗と千春は無数の銃が掛けられた壁を眺めつつ、ルシアンテに案内されて椅子に腰を下ろす。

 

「どういうことだ?あんたはこの世界の人間じゃないのか?」

 

「おうともさ。俺は元は地球で武器商人をやってたんだ。故郷はスペインさ。テロリストに狙われて死にかけてた時にこっちの世界……気づいたらここでアンデッドになってたわけだ。まあ、お前らくらいの年代にわかりやすく言うなら"異世界転生"ってやつだな。アンデッドになるとは思わなかったが」

 

ルシアンテはパイプを咥えて煙をふかし、一息置いてから再び口を開く。

 

「お前、龍馬の知り合いなんだってな」

 

「ああ。あいつの高校のクラスメイトだ。俺は城島勇斗。こっちもクラスメイトで名前は須崎千春」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

未だに怯え、縮こまっている千春だが勇斗が自分を紹介したのでとりあえず頭を下げる。そんな千春の様子が新鮮なのか、或いは珍しいのかルシアンテは少しポカンとした様子で間を空けた後にパイプの灰を捨てるとカタカタと笑いだした。

 

「いや、すまない。こんな年頃の娘に丁寧に頭を下げられるなんて滅多になくてね。そんなに緊張することはない。さっきも言ったが取って食ったりしねぇよ。ところで……勇斗、お前がここへ来たってことは龍馬に紹介されてきたんだろ?そうじゃなきゃいくらあいつの友人だと言ってもこんな辺鄙なところまで来るはずがねえ」

 

「ああ、あいつからこれを持っていけと言われた。装備品を用意してくれるとも」

 

勇斗は龍馬から預かったポリ袋をバッグから取り出してルシアンテに渡す。彼はそれを受け取ると中を覗き込み、そして大いに喜んだ。

 

「おお!本にカードにボードゲームか!龍馬のやつ、俺が言ったこと覚えてたんだな!カッカッカ!こいつはありがてえ!この身体じゃ食い物も酒も楽しめねえから暇を潰せるものが欲しかったんだ!よし、今回のビジネスの話はこいつが代金代わりだな。龍馬とディレットの時はお任せで見繕ってやったが……勇斗、お前には間違いなくこいつが一番ピッタリのはずだ」

 

ルシアンテは大喜びで棚に龍馬からの品物をしまうと壁に掛けてある二丁の銃を手に取ってテーブルの向かい側からそれを差し出した。

黒い銃身に回転弾装(シリンダー)のついたフォルムの銃。まさしくリボルバーだ。それも……

 

「こいつは……!"シングル・アクション・アーミー"じゃないか!」

 

「ほう。それなりに知識はあるようだな。こいつはコルト社が生んだ最高傑作だ」

 

「当たり前だ!こいつは世界で最も高貴な銃だぞ!俺が一番好きな銃だ!」

 

コルト社製リボルバー拳銃、"シングル・アクション・アーミー"。制式名称・M1837。勇斗に渡されたものは民間向けに製造されていた45ロングコルト弾を使用するモデルで、当時のアメリカ開拓時代の保安官が多く所持していたことから"ピースメーカー"の愛称を持つ。

中折れ式やスイングアウト式のリボルバーが広がる最中に堅牢なソリッドフレームを採用することによってそれまでのリボルバーでは耐えられなかった強力な45ロングコルト弾を使用出来るようになった銃だ。

反面、スイングアウトや中折れが出来なくなったためリロードに手間がかかるのが難点だが、それでも拳銃で強力な弾薬を使用できる頑丈さと信頼性はこの銃をおいて他にはない。

初の生産から140年近くたった現代においても西部劇を愛するマニアやコレクターの存在によってコルト社で小規模ながら生産が続けられており、ウィンチェスターライフルと並んで開拓時代のアメリカ西部を代表する銃である。

 

「それならますますお前にはこいつしかねえな。洞窟の奥に射撃場がある。部下が案内するからついてきな。……おい、お前ら!お客人を射撃場へ案内しろ!」

 

「「「「へい、親分!!」」」」

 

暗がりから突如、ぼろ切れを纏ったスケルトン達が大勢現れた。あまりの不気味な光景に千春は思わず勇斗にしがみついてしまう。

 

「ハハハ、龍馬とディレットの二人と同じ反応だな。あいつらも最初は俺の容姿や部下の奴等に少しビビってたからな。まあ、心配はいらない。あいつらが案内するからついていけ。俺は銃の調整をして後から行く」

 

複数のスケルトンに囲まれ、困惑しながらも配下のスケルトン達の丁寧な案内で勇斗と千春は奥にある射撃場へと入っていく。

射撃場は土嚢が詰まれて木製の仕切りやターゲットがそこかしこにある。洞窟内ではあるが、ランプや松明にしっかりと照らされていて視界は悪くない。

スケルトンに指示された場所で待っているとしばらくしてルシアンテが現れ、勇斗の目の前に弾薬と銃を置く。

 

「銃が好きなら知っているかもしれんが、一通り訓練は受けてもらうぞ」

 

「助かるぜ」

 

勇斗はSAAをルシアンテから受け取る。ずっしりとした重厚感。モデルガンとは違う、本物の銃の重さと恐ろしいまでの鉄の冷たさ。だが何故だかこの銃が身体の一部となるような感覚がある。まるで赤い糸で繋がれた恋人同士が出会うかのように。

ルシアンテは商売柄、一目見ただけでどの武器がその人物に似合うかどうかがわかる武器商人としての観察眼を持っている。そしてたまにいるのだ。

 

 

 

 

 

 

"生まれる時代が違っていれば、歴史に名を刻んだかもしれない人間"が。

 

 

 

 

 

 

 

弾薬を装填し、ハンマーを起こす。まずは両手で的の中心を狙い、勇斗は引き金を引く。

重い銃声が鳴り響き、ルシアンテは木製の人型ターゲットを見る。そしてやはり自分の目に狂いはなかったと確信した。

 

マラヴィジョソ(素晴らしい)、アミーゴ。見事なヘッドショットだ」

 

「……マジかよ」

 

勇斗は自分でも驚いていた。初めて撃った実銃……彼のSAAから発射された弾丸は見事にターゲットの頭部を撃ち抜き、弾痕を残していたのだ。

続けて撃て、と言われ勇斗は残った5発の弾丸を立て続けに撃つ。そのどれもが見事にターゲットの頭部を撃ち抜いていた。

未だ硝煙の香るSAAをゆっくりと見た勇斗は弾薬を撃ち尽くしたそれから薬莢を廃莢し、台の上に銃をそっと置いて深呼吸する。

 

「城島……大丈夫……?」

 

「……ああ」

 

後ろで耳を塞いでいた千春が勇斗に歩み寄る。訓練とはいえ実銃を撃つなど千春としては止めたいところだったが、雰囲気に圧倒されて口を開くことはおろか、動くことさえ出来なかった。ただ勇斗が銃を撃つ様を黙ってみていただけだ。

 

「やはり俺の目に狂いはなかったな。お前にはガンマンとしての才能がある。生まれる時代が違っていれば伝説になっていたかもしれん。お前がリボルバーに興味を持っていたのも何かの運命なのかもな。そのSAAはくれてやる。大事に使え」

 

「いいのか?」

 

「ああ。お代はもうもらったからな。龍馬からの差し入れがそうだ。それに……久々に"ダイヤの原石"を見ることができた。それで充分さ。ヒッヒッヒ……さて……」

 

ルシアンテはそう言うと暗がりにある台から別の銃を持ち出した。

長い銃身のライフル……いや、よく見るとそれは散弾銃……ショットガンだ。

 

「ウィンチェスターM1897。こいつはおまけだ。龍馬と違って体格もでかいお前なら扱うのは容易だろう。この世界では凶暴な獣やモンスターといきなり鉢合わせになることもある。信頼性のあるショットガンはきっと頼りになるぞ」

 

ウィンチェスターM1897は第一次世界大戦前からアメリカのウィンチェスター社によって製造されていたポンプアクション式のショットガンである。

当時のアメリカ軍は塹壕戦が主流となった戦争において、狭く不意の遭遇が多い塹壕では拳銃や小銃よりも至近距離で絶大な威力を発揮する散弾銃に目をつけた。

結果として塹壕でのショットガンは多くの戦果を納め、塹壕を意味する"トレンチガン"と呼ばれるようになったまでだ。

 

「使い方は教えてやる。手入れの方法もな。そして……お嬢ちゃん。あんたにはこいつだ」

 

「え……私……?」

 

ルシアンテは千春の分も用意していたようでさらにもう一丁の銃を取り出す。

彼が取り出したのはモーゼル・ミリタリーだが、龍馬に渡したモーゼルC96とは微妙に違うところがある拳銃だ。

 

「お嬢ちゃんは少し手が小さい。このモーゼルM712の方がいいだろう」

 

モーゼルM712はドイツ語で"速射"を意味する"シュネルフォイヤー"の別名があり、単発射撃の拳銃だけではなくフルオート射撃によるマシンピストルとしての機能も備えており、さらにマガジン式とクリップ式の両方で装填が可能であり、20発弾倉を使えばさらなる火力と持続性を期待出来る。

 

「こいつは龍馬達が去った後に見つかってな。さらには元の世界じゃ20発マガジンは希少で現存するものはわずかなんだが……おそらくこの世界に流れ着いたんだろうな。結構な数が見つかったよ。さて、千春。お前も訓練を……」

 

「ちょ、ちょっと待って!私は銃が欲しいなんて一言も……!それに城島に銃を持たせることだって私は反対よ!」

 

銃を渡して訓練を始めようとするルシアンテの言葉を遮って千春はそれを拒否する。

そもそも暴力沙汰は嫌いだというのに、異世界とはいえ自分が銃を持つなど真っ平ごめんだ。自分だけではなく勇斗も倫理的に問題があるだろう。

 

「……青いな」

 

「……え?」

 

「まだまだお嬢ちゃんはケツが青いと言ったんだ。お前は暴漢やモンスターを相手に暴力はよくないと話し合いを持ちかけるつもりか?やつらがそれに応じるとでも?そんなんじゃ自分の身を守ることすら出来ずに勇斗の足手まといになって一緒に野垂れ死ぬのが関の山さ」

 

「……」

 

こちらの世界の常識が向こうで通用しないように、向こうの世界の常識もまたこちらでは通用しない。ましてやモンスターやならず者も多く徘徊しているのだ。綺麗事は役に立たないと千春も心の底ではわかっているつもりなのだがその事実を認めたくない一心で銃という存在を拒絶してしまう。

 

「まあ、そうしょげるな。何も今から人を撃ち殺すってわけじゃないんだ。俺が本当に伝えたいのはむしろその逆だ。これは龍馬達にも伝えたことだが……撃つのは獣やモンスターだけにしておけ。人を撃てば最後、撃った人間はいずれ怪物と化す……銃の悪魔に囚われてな。そうなればもう二度とまともに生きることはできん」

 

ルシアンテが言ったのは龍馬達の時と同じ警告だ。そしてもうひとつの警告も。

 

「だが……自分の身に危険が迫った時……或いは周りの誰かが危険に晒された時……その時は相手が誰であろうと決して引き金を引くことをためらうな。"奪われるよりは奪え"……俺の座右の銘さ。さて……」

 

ルシアンテはショットガンとモーゼルM712をそれぞれ二人に渡し、射撃用の台の上に弾薬を置く。

 

「さて、改めてレッスンの時間だ。銃は扱い方を間違えれば自分の身を危険に晒すことになる。お前達は大事な顧客だ。銃の暴発なんかでくたばったりしないようにしっかりとここで訓練をしてもらうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇斗は横一列に並んだ複数のターゲットを睨む。そして腰のホルスターに収められたSAAに手を伸ばすと腰だめで素早く構えて六発の銃弾を放った。立て続けに響く銃声の後に束の間の静寂が流れ、勇斗はローディングゲートを開いて廃莢すると鮮やかなガンスピンと共にSAAをホルスターに戻す。

 

「……マラヴィジョソ(素晴らしい)、全弾命中。しかもヘッドショットだ。こんな短時間で、しかもSAAを自分の手足のように使うなんて普通は有り得ねえ。お前の前世はビリー・ザ・キッド(※1)かワイアット・アープ(※2)なんじゃないか?」

 

(※1……1800年代半ば~後半に実在したアメリカ西部開拓時代の伝説的アウトロー)

 

(※2……1800年代半ば~1900年代前半に実在したアメリカ西部開拓時代の保安官)

 

勇斗の放った銃弾は横一列に並んだ全てのターゲットの頭部を早撃ち(クイックドロウ)によって貫通していた。これだけ見事な早撃ちはルシアンテと言えどもそうそう見たことがない。今まで銃を扱ったことがない、日本人の学生とは思えない天才的なセンスだ。

 

「前世のことはわからないけど銃を構えて撃つ瞬間に何となく感じるんだ……まるで時間の流れがスローになっているような……不思議と精神が落ち着いているような……」

 

人間の脳は通常リミッターがかけられているが、生命の危機を感じた瞬間に周囲の時間がスローモーションのようになって感じる時があるタキサイキア現象と呼ばれる活動を脳は引き起こすことがある。

だが稀に勇斗のように自分の意思ひとつでそのリミッターを一時的に解除出来る人間がいる。その現象を起こせるタイミングは人によってまちまちだが、勇斗の場合はそれが"射撃"という点に特化した結果だろう。

 

「ふむ、なるほど……銃を撃つ時は誰だってそれなりに気を張りつめるもんだが、稀にお前みたいなのがいるんだよな。それがいつになるかはわからないが、そんなお前の目に睨まれる獲物が哀れで仕方ないぜ。さながらお前の目は獲物を狙う捕食者の瞳……死眼(デッド・アイ)ってところか。長く生きてりゃそれなりにいいもん見れるってこったな。あ、もう死んでたか。ヒッヒッヒ……」

 

ルシアンテのスケルトンジョークに勇斗が肩を竦めている横で千春がターゲットを狙って射撃する。が、こちらは勇斗とはまるで違って弾痕はまるでバラけている。

 

「ハア……いいか、千春。さっきも言ったが引き金を引く時は力を込めるな。ガク引きになって照準がブレるぞ」

 

「そ、そんなこと言ったって仕方ないじゃない……!銃なんて撃ったことないし……!それに反動で手が痛くて……」

 

勇斗がバケモノすぎるだけであって忘れがちだが本来なら千春のような状態が普通である。ルシアンテはやれやれと言った感じで千春のモーゼルを握ると再び射撃方法をレクチャーする。

 

「千春。まずはしっかりと両手で握れ。そして照準器(サイト)を使ってしっかりとターゲットを見据えろ。撃つ前には呼吸を整えて自分を落ち着かせるんだ」

 

ルシアンテが軽く射撃してみせる。放った銃弾はターゲットの胴部真ん中に命中し、彼は銃を再び千春に渡す。

 

「大丈夫だ。弾薬はたっぷりある。今日はしばらく練習していけ。俺も付き合ってやる」

 

龍馬が彼等にここを紹介したということは何かよくない状況が起きたのだろう。それは勇斗達の表情を見れば明らかだ。余計な詮索をするような真似はしない主義だが、まあ龍馬の友人であれば銃を使って悪用したり無茶なことはしないだろう。

ルシアンテが千春についてレクチャーしている隣では勇斗がSAAと平行してショットガンの訓練をしている。

二人がある程度の訓練を終えたところで一旦休憩に入り、椅子に腰を落ち着かせてパイプの煙を(くゆ)らせながらルシアンテは勇斗に話し掛ける。

 

「勇斗」

 

「ん?」

 

「お前のSAA……実はこういうのもあるんだが……使ってみる気はないか?」

 

ルシアンテが取り出した別のSAA。それは全体的に無骨な勇斗のSAAとは違い、美しい銀色の銃身に(ヴァイパー)彫刻(エングレーブ)が刻まれたSAAだ。

二つを比べれば明らかに今ルシアンテが取り出した物の方が美しく見栄えもいい。だが勇斗は当然のようにそれを断った。

 

「いや、あのSAAでいい」

 

「ほう?そりゃまたどうして?」

 

「確かにいい銃だが……そんな彫刻(エングレーブ)には何の戦術的優位性(タクティカルアドバンテージ)もない。実用と鑑賞用は違うだろ?」

 

その言葉を聞いてルシアンテは満足そうにパイプをふかして一息置くとふっと笑いながら彫刻の施されたSAAを一度だけガンスピンさせて懐に戻す。

 

「やはりお前は俺が見込んだ男だ。お前ならそう言うと思っていたよ」

 

勇斗とルシアンテはプッと吹き出してお互いにハハハと高く笑った。そんなわけがわからない状況に千春はただただ困惑するばかりであったのは言うまでもない。

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