アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第117話 憤 怒 -Fury of the Storm-

「銃だけじゃなく、色々用意してもらって……本当にいいのか?」

 

「気にするな。何度も言うがお代はもらったし、いいものを見せてもらったしな」

 

翌日。一通りの訓練を終えて勇斗と千春は忘却の谷を出発する。ルシアンテはそんな彼等にホルスターや弾帯、それにナイフといった装備品を与えてくれた。勇斗は背中にショットガンを背負い腰の両側にホルスターを付けてそこへSAAを、千春は腰の右側にモーゼルのホルスターを装備している。

 

「最後に忠告しておくぞ、勇斗。SAAの装弾数は5発までで止めておけ。暴発の危険性があるから戦闘中以外は絶対にフル装填は止めろよ」

 

「ああ。肝に命じておく」

 

SAAはシングルアクション・リボルバーという構造上、安全装置(セーフティ)が存在しない。そのためフル装填でレストポジション(撃鉄が下りている状態)にあると雷管に常にハンマーが接触している状態のため、何らかの拍子に衝撃が加わると暴発の恐れがあるのだ。

これを回避するためSAAでは安全対策としてシリンダーから1発だけ銃弾を抜き、セーフノッチ(ハーフコックとレストポジションの間の状態。僅かにハンマーを上げている状態のこと)にするのが一般的な安全対策である。

SAAは使い手の技術で大きく戦況が左右される銃であり、"体格や技術を平均化する"という意味で"イクォライザー"という別名もある。

 

「千春。最低限教えることは教えた。撃つ時は焦るな。周りを確認しろ。間違っても味方を撃ったりしないようにな。基本的にM712のフルオート機能は至近距離以外では使うな」

 

「わ、わかってるわよ」

 

「おいおい、須崎。誤射(フレンドリーファイア)だけは勘弁してくれよ」

 

M712のフルオート射撃は強い反動を持つため、精密に狙い撃つのは難しい。そのため至近距離で弾幕を張る以外の利用は決してするべきではないと千春はルシアンテから念押しされる。

また、彼女は少々危なっかしいために拳銃以外は扱うなとルシアンテから忠告を受けたので装備しているのは腰のモーゼルだけだ。

 

「お前はなるべく銃を撃つな。何かがあれば勇斗の後ろに隠れてこいつを頼れ」

 

「……ひどい言われようだわ」

 

「お前だって勇斗の背中を撃ちたくはないだろう」

 

最もな意見だ。さっきも言ったが誤射(フレンドリーファイア)はご免である。なるべく彼女には非常時以外に銃を握ってほしくはない。基本的には自分が前に立つべきだ。

 

「ルシアンテ、ありがとう。恩に着る」

 

「なあに、こちらも顧客が増えて嬉しい限りさ。龍馬によろしく言っといてくれ。弾薬やメンテナンスが必要ならまたいつでも来てくれ。ブエナ・スエルテ(幸運を)、ソルジャー。ヒッヒッヒ……」

 

勇斗と千春はルシアンテに別れを告げ、忘却の谷を出発する。まずは帝都に戻り、ガソリンを給油しなければならない。その後に再び道を確認していよいよ村へと向かう。

 

「(もう少しだ……待っててくれ、リリィさん……!))」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、龍馬の自宅。熱も下がり落ち着いた龍馬は自室でアヤとトランプに興じていた。

 

「フラッシュだ。これは勝ったな」

 

「残念でしたー。ロイヤルストレートフラッシュ」

 

「ハァ!?お前それ自分に雷が落ちるより低い確率だぞ!?」

やっぱり何故かカードになるとツキがないのが龍馬である。しかもこれで三戦三敗。修学旅行の悪夢が甦るようだ。彼はその悪夢を払拭すべく再びカードを混ぜて今度こそはと再戦の準備にとりかかる。

 

「はあ……なんだか寂しいな」

 

「ああ……」

 

アヤはため息をつく。彼女は特にルミナと仲が良かった。そのルミナが里に一時的に帰郷してしまっているため、寂しさを感じずにはいられない。もちろんルビィや涼子とだって龍馬やディレットが学校でいない間はよく過ごしていたが、ルミナはアヤにとって親友のような存在にまでなっていたのだ。

気を紛らわすために龍馬が再びカードを配り、ポーカーに興じる二人。そこへディレットが学校から帰ってきた。

 

「ただいま、リョーマ。スポドリ買ってきたよ」

 

「おかえりー。それとありがとう」

 

症状は落ち着いたものの、大事を取って龍馬は今日まで学校を休んでいる。そんな彼のためにディレットは毎日スポーツドリンクやらアイスやらを買ってきてくれた。

龍馬が彼女から受け取ったスポーツドリンクを飲んで一息つくと、龍馬はアヤとのポーカーを再開する。

 

「もう……ちゃんと寝てないとまたぶり返すよ?」

 

「ああ、これが終わったら休むよ。な、アヤ」

 

「うん!」

 

「やれやれ……仕方ないなあ……ねぇ、リョーマ。そういえばハヤトのことだけど……」

 

「ん?」

 

「ハヤトとチハルだけで大丈夫かなあ」

 

ディレットは二人を心配していた。龍馬と二人で旅をした時は土地勘のある自分がいたからいいものの、二人にはそういう存在がいない。果たして無事だろうか。

 

「大丈夫だろ。勇斗のやつは頼りになる。それに……ディレット、お前は知らないだろうが本当にキレたらヤバいのは俺よりあいつだからな」

 

「どういうこと?」

 

いつも龍馬の方が激昂して冷静な勇斗がそれを止めるという構図だったが……勇斗がそれほどまでに激昂したところは記憶の限りではない。敵と戦っているときでさえジョークを放つほどの勇斗がだ。

 

「お前と合う一年前、入学したての頃に本気でキレたあいつを見たことがある。相手はあいつが中学の時にぶちのめしたバレー部の先輩連中だ。俺が本気を出しても止められなかったほどだったんだ」

 

龍馬が言うには創作活動が軌道に乗り始めた高校一年の頃、暴走族に入った中学時代のバレー部の元・先輩達が復讐に来たらしい。

その時にバレー部の件や創作活動を馬鹿にされた勇斗が激昂して30人近くの人数をほぼ一人で壊滅させてしまったという。

 

「あれほど恐ろしい勇斗は後にも先にも見たことがなかった。俺でさえ縮み上がったほどだ。その時俺は思ったんだよ。"こいつだけは絶対敵に回しちゃいけねえ"ってな」

 

「そんなに……?」

 

「ああ。それにあいつがその手の連中からなんて呼ばれてたか知ってるか?」

 

「……なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"仁王"さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハー!ニホン人だぁー!」

 

「女もいるぜー!」

 

北アルカ街道を走る勇斗と千春をならず者の集団が取り囲んだ。その数十人余り。二人はバイクを止めざるを得ず、その場に停車する。

 

「じ、城島……」

 

「……」

 

勇斗は何も言葉を発さずにバイクから降りてヘルメットを脱ぐ。代わりに首にかけていたカウボーイハットを被ると真正面にいたならず者のリーダー格らしき男に向かってずんずんと歩いていく。

 

「ヒャッハー!女と金目の物は置いていけぇ!さもなきゃ……ぶべらっ!?」

 

いきなり勇斗の拳が男の鼻っ柱をへし折った。さらに彼は無言のまま周囲のならず者達を次々と殴り倒していく。ならず者達の武器など彼の鋼の肉体の前では何の役にも立たず、ある者は腕を、またある者は足をへし折られ、中には肋骨を砕かれるほどの拳を胴体に受けた。このあまりの凄惨な光景に残ったならず者達は恐れおののく。

 

「ヒッ……や、やめろ……!」

 

「く、来るなあぁ!!」

 

勇斗は逃げ出そうとする一人の背中を掴むと後頭部を押さえて思いきり顔面を地面に叩きつけた。

へし折られた鼻と歯から溢れ出す鮮血が地面で土と入り交じり、赤黒い色に染めていく。

 

「く、クソッ……!そこを動くんじゃねぇ!動いたらこの女の命はないぞ!!」

 

「痛っ!やめっ……放しなさいよ!」

 

このままでは逃げられないと悟った最後の一人は千春を拘束し、短剣を突き付けて彼女を人質に逃げようとする。無言のままギロリと男を睨んだ勇斗はここにきてようやく言葉を発した。

 

「俺達は大事な用事があった。お前らはそれを邪魔し、俺達の大事な時間を無駄にさせた」

 

「あ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろん、謝るつもりだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、一発の轟音が鳴り響く。それと同時に短剣が弾き飛ばされて男が後ろに仰け反ると、千春が前のめりに倒れた。彼女は急いで立ち上がり、勇斗の後ろへと避難した。

 

「な……な……な……」

 

男には一体何が起こったかわからない。いきなり短剣が弾き飛ばされたかと思うと目の前の"獲物"であるはずの男の手には見知らぬ武器のような物が握られている。

 

「動くな。下手な真似をすれば矢よりも早い鉄の玉がお前の腹に風穴を開けるぞ」

 

勇斗は尻餅をついた男の側の地面に武器……SAAの弾丸を放つ。轟音と共に男の側の地面が大きく抉れ、彼の言葉が脅しではないことを知った。

 

「ひ、ひいぃっ!!」

 

あの手に握られた武器のような物の正体はわからないが……あれが自分に向けられた状態で火を吹けば自分が死ぬーーーーそれだけは確実だ。

 

「もう一度聞く。"謝るつもりだろうな?"」

 

「は、は、はひ……ご、ごめんなひゃい!謝りまふ……!だから許ひて……!」

 

勇斗が銃をゆっくりと向ける。男は恐怖のあまりに失禁してしまい、その顔は涙と鼻水でグショグショになってしまっていた。

 

「じ、城島!人を撃つなってルシアンテが……!」

 

「……大丈夫だ須崎。撃つつもりはない。こいつはもう謝った。だから……」

 

勇斗は鮮やかなガンスピンと共にSAAをホルスターに戻すと男に歩み寄り、そしてーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「顔面タコ殴りの刑で許してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

男の意識が飛ぶ前に最後に見たものは目の前に迫り来る大きな拳の一撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ならず者達を倒した勇斗達は帝都へと戻ってきた。城に戻り、ガソリンを給油する。

距離的に見れば往復しても充分足りるだろうが念には念を入れて携帯用の燃料缶にもガソリンを入れておいた。

一連の行動の最中、いつもふざけた態度をしているムードメーカー的な勇斗から言い様のない怒りのオーラが漂い続けていることに千春は戦慄を感じずにはいられなかった。あの時、もしかしたら彼は本当に人を撃っていたかもしれないという凄みがあったのだ。

 

「須崎」

 

「……へっ!?」

 

「さっきはすまなかった」

 

勇斗は千春に対して頭を下げる。勇斗は彼女を守るために男の短剣を狙った。天性の射撃能力、そして彼が持つ死の瞳(デッド・アイ)によって絶対に外さない自信はあったが、それでも彼女を被弾の危険性に晒したことには変わりがない。

 

「……全くよ!当たったらどうするつもりなの!……でも……その……ありがとう。またあんたには助けられたわね」

 

以前の中国人による暴動の際に真っ先に助けに来てくれたのは勇斗だった。そして今回もまたまた彼に助けられたのだ。

 

「ほら、頭上げなさいよ。あんたらしくない。お調子者だとかおしゃべりゴリラだとか斎藤に言われてる時の普段のあんたはどこへ行ったのよ」

 

「悪いな、須崎」

 

「いいから!ほら、リリィさん助けに行くんでしょ?早く出発するわよ」

 

こうしている間にも彼女は助けを求めているはずだ。ぐずぐずしてはいられない。千春は罪悪感を感じる勇斗の肩を叩き、バイクに跨がる。勇斗はそんな彼女の背中を頼もしく思いつつ、ふっと笑みを浮かべながら自分もバイクに跨がるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

帝都を出発した彼等はガルザック砦を目指して東へと向かう。見通しのよい東アルカ街道をひたすら東へ向かうと見覚えのある村が見えてきた。以前に通ったアテリ村だ。

村人達は農業や冬の準備に勤しみ、子供達は棒切れを使って兵士ごっこで遊んでいる。辺り一面の麦畑が太陽に照らされて黄金色に輝き、美しい情景を生み出していた。

ゆっくりとバイクで進む勇斗達の周りに手を振りながら子供達が集まり、平行して走り始めた。勇斗は彼等に手を振りながら千春と共にそのまま村を抜ける。本来なら少し立ち止まって子供達の相手をしたいところだが、今はそうも言っていられない。ここは先を急がなければ。

アテリ村を抜けるとピャルナチの森が見えてきた。ここは比較的道が整備されているため抜けやすいはずだ。だが……

 

「道が塞がれてる……」

 

二人は足止めを喰らってしまった。森の中を走る街道に複数の大木が倒れていてとても抜けられる状態ではない。自分達の前にも荷馬車が並んでいて彼等も立ち往生しているらしく、昨日からここでキャンプをしているというのだ。

 

「ああ……あんたらニホン人かい?見ての通り大木のせいでこの道は昨日から通れなくなってるんだ。コボルトの悪戯かはたまた自然現象か……今は仲間が帝都に応援を頼みに行ってるからあと半日もすれば通れるようになるとは思うが……」

 

半日。いくら何でもそれは遅すぎる。今は時間が惜しいというのに。勇斗は歯軋りしながらハンドルを叩いた。

 

「クソッ……!こんなところで……!」

 

「……城島、別の道を探すわよ。時間が惜しいんでしょ?森なんだから抜けられないことはないはずよ」

 

千春はバイクを反対に向けてすぐに出発の準備をする。勇斗はそんな彼女を見てやはり須崎がいてくれてよかった、と改めて認識する。二人は脇道を探すために来た道を少し戻った。

やがて入れそうな道を見つけた。少し狭く、先がどうなっているかわからないが今は手段を選んでいる場合ではない。木々や草に囲まれたガタガタの脇道で転倒しないよう気を配りながら走行を続ける。やがて二人は少し開けたところに出た。さっきの道より多少は走りやすそうだ。

 

「"城島、これなら抜けられそうよ!早く……"」

 

「……待て、須崎!……何か聞こえないか?」

 

再度アクセルを回そうとした千春を勇斗は止める。辺りに聞こえるのは森の木々が風で揺れる音だけのはず。だが明らかに何か異質な、草を激しく掻き分けるような音が聞こえる。何かが近づく気配を悟った勇斗はSAAを素早く引き抜いてフルコックにし、バイクに跨がったまま辺りを警戒した。

 

「須崎、気を付けろ!何かがいるぞ!」

 

「"な、何かって何よ!"」

 

「そんなこと知るか!お前も銃を構えろ!」

 

その言葉に慌てて千春もモーゼルを引き抜いてたどたどしい手つきで銃を構える。

徐々に草を掻き分ける音が強くなる。それもひとつではない。二つ、三つ……明らかに複数の何かが迫っている。そして"それ"が正体を現した。

 

「グルルルル…………」

 

「ウオォォォ!!」

 

「アオォォォーーン!!!!」

 

森の奥から姿を現したのは白銀の毛並みを持つ(ウルフ)の群れだった。しかもよく見ると前方だけではない。進んできたはずの後ろの道からも群れの仲間が現れたのだ。

 

「しまった……!ここはあいつらのテリトリーだったのか……!」

 

現れた狼達。それはこの世界の人々が"スライウルフ"という非常に狡猾で、獰猛な狼の群れ。

勇斗と千春はいつの間にか囲まれていた。いや、最初から囲まれていたのだ。そして奴等は自分達の縄張りに、網に獲物がかかるのを狡猾に待ち構えていたのである。

 

「"ど、どうしよう城島……どんどん増えてる……!"」

 

「クッ……!」

 

バイクでは突破できそうにない。いや、突破したとしてもこのうねるような森の中で奴等を振り切れるとは思えない。ならばーーーー、

 

「須崎!バイクから降りろ!奴等をここで迎撃する!」

 

「"ええ!?無茶よ!何匹いると思ってるの!?"」

 

「いいから俺のそばに寄れ!背中合わせ(バック・トゥ・バック)でカバーするんだ!」

 

視界を確保するため急いでヘルメットを脱ぎ捨ててバイクから降り、二人は背中を合わせて群れに銃を向ける。

獲物を前にしたスライウルフの群れはその凶悪な牙の生えた口から涎を垂らしながらジリジリと勇斗達に迫りつつあった。

 

「クソッ……!クソッ……!どいつもこいつも……どいつもこいつも……どいつもこいつも邪魔ばかりしやがって……!!俺の……俺の……」

 

「じ、城島……?」

 

勇斗はカウボーイハットの鍔を左手でギュッと握り締めて下を向くと身体をわなわなと震わせる。

それはもちろん恐怖から来る震えでも、強者と対峙する武者震いでもない。そこにはあるのはただひとつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

己の前に立ち塞がる愚かな(けだもの)どもに対する彼の底知れぬーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

"怒り(フューリー)"だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の邪魔をするなあああぁぁぁーーっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇斗の怒りの雄叫びと共にスライウルフ達も咆哮を上げながら一斉に勇斗達に飛び掛かる。勇斗はその瞬間腰だめで発砲し、直後に何発もの轟音が鳴り響いた。

勇斗の見る世界がスローになる。1ミリたりとも着弾のズレを許さない勇斗の"死の瞳(デッド・アイ)"がその中で飛び掛かるスライウルフ達の眉間を捉えた。

彼等の牙や爪が勇斗の肉に食い込むよりも遥かにそれは早かった。脳天を撃ち抜かれたスライウルフ達は悲鳴を上げることすら許されず、力なく地面に落下して物言わぬ屍と化したのだ。

 

「城島!後ろも……!」

 

「須崎!頭を下げてフルオートで弾幕を張れ!」

 

「わ、わかった!」

 

勇斗が指示した瞬間、千春は素早くしゃがんで飛び掛かるスライウルフ達に弾幕を張る。命中の是非はどうでもいい。とにかく制圧射撃が出来ればいいのだ。勇斗はしゃがんだ千春の頭上にもうひとつのSAAを構えると千春が打ち損じたスライウルフの眉間にさらに追加の45ロングコルト弾をお見舞いする。

わずか十数秒の出来事。その間に彼等を襲ったスライウルフ達は全滅していた。

 

「……終わったみたいだな」

 

辺りにしばらくの静寂が漂ったのちに勇斗は撃ち尽くしたSAAから排莢する。千春もペタリと地面にしゃがんだまま、マガジンが空になったモーゼルを下げた。

 

「は、はあぁぁぁ……死ぬかと思った……」

 

突然襲いかかってきた脅威を何とか退けた二人。辺りに倒れているスライウルフの群れの死体を勇斗が蹴飛ばしてどけていると、腰が抜けて動けない千春は勇斗の死角に"もう一体"の脅威を発見する。

 

「城島!!危ない!!」

 

勇斗が気付いた時には既に最後の一体であるスライウルフが飛び掛かっている瞬間だった。千春のモーゼルは既に弾を撃ち尽くしている。いや、そもそもこの距離では弾があったとて自分の腕で当てられるかどうかは怪しい。

もはや万事休すーーーー千春がそう思った時ーーーー、

 

 

 

 

 

再び辺りに轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わず目を閉じた千春がおそるおそる目を開けるとスライウルフが爆ぜるように吹き飛んで血を流している姿だった。一方勇斗はーーーー背中のショットガンを構えており、銃口からは未だに硝煙が立ち上っている。

 

「12発だ」

 

勇斗はショットガンを背中に戻すと既に冷たくなりつつあるスライウルフの死体に向けて言い放つ。

 

「SAAの弾丸は、だがな。ショットガンも合わせれば17発だ。狩る相手を間違えたな、オオカミさんよ」

 

スライウルフは狡猾で、どこまでもずる賢く執拗に獲物を追い詰める。今回もそうだ。哀れな二匹の"肉"がノコノコとやってきた。いつも通りに狩りをするはずだった。

だが現実はどうだ。狩る側は狩られる側へと転落し、獲物にありつくどころか自分達が屍となってしまった。

奴等は…………よりにもよって"仁王"の逆鱗に触れてしまったのだ。

 

「……なーんて、言ってみたかった。まあ実際は5発ずつしか入ってないから10プラス5で15発なんですけどね……おい、須崎。大丈夫か?」

 

「だ……大丈夫……なわけないでしょ!あんたも私も死ぬかと思ったのよ!」

 

「そんだけ喚けりゃ大丈夫だな。先を急ぐぞ」

 

もしかしたら群れの残りがまだ近くにいるかもしれないし、新たなモンスターに遭遇するかもしれない。二人は銃弾を装填すると再びバイクに跨がり、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

今や、スライウルフの縄張りは勇斗の"怒りより巻き起こされた嵐"(フューリー・オブ・ザ・ストーム)が通ったあとのように、不気味に静まり返っていた。

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