アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第118話 来 訪 -Welcome to the Jungle-

スライウルフの群れの強襲を掻い潜り、ピャルナチの森を抜けた二人は日が暮れるころにようやくガルザック砦へと辿り着いた。

夕暮れまで時間がかかったのは運悪くモンスターの群れに二回も遭遇してしまったためだ。マルセラ街道ではゴブリンの群れ、さらにその先ではトロールに出くわした。

いずれも勇斗の射撃によって殲滅し、事なきを得たが……ここまでに多くの弾薬を消費してしまった。手持ちの弾薬はあと半分ほど。無駄遣いは出来ない。

二人がガルザック砦の前に辿り着くと砦の兵士達が武器を構えて勇斗達を取り囲む。

 

「怪しい奴め!何者だ!」

 

「待って!私達は敵じゃないわ!」

 

「ええい、構わん!捕まえてしまえ!」

 

千春が必死に弁解するが兵士達は聞く耳を持たず、勇斗達を捕らえようとする。抵抗するわけにもいかず、彼等はバイクから降ろされ、後ろ手を縛られて拘束されてしまう。そこへ一人の男性の声が響いた。

 

「よさぬか、愚か者!お前達、忘れたのか!この者達の顔を!」

 

現れたのはやや大きな甲冑を纏った兵士だ。兜を被っているため顔はよくわからないが彼は勇斗達を解放するよう兵士達に告げる。

 

「ですが……!」

 

「よく見ろ!彼等は皇帝陛下ならびにアルバート騎士団長のご友人だ。以前にヴィヴェルタニアの王子の件で以前ここを通ったのを覚えておらんのか!彼等を解放せよ!」

 

「……了解しました」

 

兵士達は一度拘束した勇斗と千春を渋々解放し、二人を解放するよう指示した司令官らしき兵士は両手を広げて、おそらくは兜の下でにこやかな表情をしながら彼等を迎え入れた。

 

「久しいな、陛下と団長のご友人よ」

 

彼はそう言いながら兜を取る。口髭が特徴的な金色の短髪をした男性だが久しいと言われても勇斗達には記憶がない。

 

「あの……俺達前にここ通ったけど……会いましたっけ?」

 

「ははは、無理もないな。通行の際に実際に話をしたのは私とアルバート団長だからな。君達は私の顔を知らないだろうが私は君達をよく知っているぞ。……自己紹介がまだだったな。私はロディーヌ・トルゴー。ここの砦を任された司令官だ。皆からはロディ司令官と呼ばれているよ。立ち話もなんだ、砦へ来なさい」

 

ロディ司令官は勇斗と千春を砦の中へと案内する。その中の部屋の一室で二人は暖かい食事を振る舞われた。本当はこんなことをしている場合ではないのだが、空腹には抗えない。二人はありがたく思いつつも無言で食べ続ける。

食事が済んだところでロディ司令官はたった二人だけでなぜこの国境付近まで来たのかを尋ねた。

 

「実は……ロンヌの森の付近にあるウォリアーキャット一族の村へ行こうと思っています」

 

「ウォリアーキャットの?それまたどうして?」

 

「……実は異世界……まあ、俺達の国の日本です。そこで暮らしてたウォリアーキャット族の女性がいたんですが……その人から助けを求めるメッセージが届いて……」

 

「状況から(かんが)みて彼女は故郷の家族に連れ戻された可能性が高いんです。だから私と彼……城島勇斗は彼女を追ってここまで来ました」

 

ロディ司令官はしばらく腕を組んで黙って聞いていたが、二人が話し終わるとゆっくりと立ち上がって窓の外を見ながら言った。

 

「ふむ……なるほど……てっきり"国境を越えたい"と言われるかと思ったが違ったか……確かにここから国境沿いに北へ行けばウォリアーキャット族の村が点在する場所へ行ける。しかしだ。あまりオススメはしないぞ」

 

「どうして?」

 

「ウォリアーキャット族は何よりも一族の掟を優先する。掟のためなら犠牲も厭わないくらいにはな。それに彼等は基本的によそ者を嫌う。自分達が認めた旅の商人くらいしか村に入れないのだ。それでも行くのなら構わんが……村の入口に立った瞬間に矢が飛ぶことも覚悟しなければならん」

 

どうやら狩猟民族とあって実際のウォリアーキャット族はかなり攻撃的なようだ。リリィを見る限りそんなイメージは湧かないが、彼女は自分が一族にとってイレギュラーな事を自覚していたためやはり彼女だけは例外中の例外なのだろう。

 

「それでも……彼女は俺にとって大事な人なんです。彼女が助けを求めるなら俺はそれに応える。何があろうとも」

 

相手が狩猟民族だとか蛮族だとか知ったことではない。リリィはもはや勇斗にとって己の命を賭けるに値する大きな存在だったのだ。その彼女が助けを求めている。だったら応えない理由がどこにあるというのだ。ロディ司令官はそんな勇斗の真っ直ぐな意志を悟ってふっと笑みを溢す。

 

「……ふ、若いな。だがそれがよい。男たるもの己を貫いてこそ、だ。よろしい。今晩はこの砦に泊まっていきなさい。今日はもう遅いからな」

 

「いえ、お気持ちはありがたいですが俺達は急ぐので……」

 

ありがたい申し出だが早くリリィの故郷へ向かわなければ。こうしている間にも彼女は助けを求めているのだ。ここで一晩休んでなどいられない。焦る気持ちを募らせながら立ち上がる勇斗だが、彼の袖を千春が掴んだ。

 

「待ちなさいよ。危険だってわかってるなら尚更準備が必要でしょ。休息もね」

 

「だが……」

 

「気持ちはわかるけど落ち着きなさい。準備には万全を期すべきよ。何が起こるかわからないんだから」

 

もう日はその姿を山の向こうへとほとんど隠してしまい、辺りは夜の闇へと変わっていってしまっている。この状態で外を出歩くのは危険だ。勇斗の気持ちもわからなくもないがここはロディ司令官のご厚意に甘えてゆっくりと休息を取るべきだろう。

 

「……わかった。そうしよう」

 

「賢明な判断ね。それでも行くとか言ってたら張り倒してるところよ」

 

「おー、こわ。委員長には逆らわんとこ」

 

「誰が委員長だっての」

 

そうやって少しのジョークを飛ばす勇斗。千春から返ってくるいつもの反応。この空気によってやや落ち着きを取り戻した勇斗。もしこれが彼一人だけであったなら間違いなく危険な夜の闇へと向かっていったに違いない。やはり龍馬が彼女にお目付け役を依頼したのは間違いではなかったのだ。

 

「兵舎に空いている部屋が二つある。そこを使うといい。兵士達には通達しておこう」

 

「ロディ司令官、ありがとうございます。俺達のためにわざわざ……」

 

「陛下や団長の友は私の友だ。何、気にすることはないよ。今日はゆっくり休んで明日に備えなさい」

 

二人はロディ司令官に頭を深く下げて礼を述べると案内された部屋に荷物を運び込んだ。

荷物を全て運び終えると勇斗はサイドテーブルにカウボーイハットを置いてベッドに座り、ホルスターや装備品を外してSAAとショットガンの手入れを始めた。やり方はルシアンテに教わった通りだ。

一通りの手入れが終わると勇斗は脇に置かれたカウボーイハットをちらりと見る。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

『"ハヤト君……セイブゲキ?うぇすたん?っていうのが好きだってよくSNSで言ってたから……調べたの。それでハヤト君に似合いそうだなって……"』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……リリィさん」

 

このカウボーイハットをプレゼントしてくれたリリィの顔が今でも忘れられない。これを受け取った時、間違いなく自分は世界で幸せな男だった。そう言っても過言ではないほどに。

こんな幸せな日々が続くと思った矢先にまさかこんなことが起きようとは。幸せな日常など何がきっかけで崩れてしまうか、運命とはわからないものだ。

だがきっとかつての日々を取り戻す。必ずリリィを助け出して連れ戻す。勇斗は再び胸に決意を秘めつつ、床に入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしろ、まだメソメソ泣いているのか」

 

ロンヌの森に少し入ったところにあるリリィの故郷・東ロンヌ村。彼女を日本から連れ戻した張本人である兄のカーレルは未だに泣き崩れる妹に対してうんざりしていた。何年間も行方を眩ませ、ようやく足取りが掴めたかと思えば異世界の国・ニホンへと向かっていたという事実。カーレルはそのために渡航資格まで取得せざるを得ず、取得までにまた数ヶ月の期間を要してしまったが、ようやく妹の居どころを突き止めて連れ戻すことに成功した。

家に連れ帰るやいなや激怒していた父は彼女をひっぱたき、母は「一族の恥さらし」と娘を罵った。加えて今はほぼ軟禁状態にあるため、リリィはずっと泣いている。

 

「はあ……いいかリリィ。ウォリアーキャット族が都会の文明どころか異世界の文明の中で暮らすなど絶対に無理だ。だいたい絵を描くなんて何の役にも立たない。それよりは狩りをして明日を生きる糧にする方がずっと大切だろう」

 

「兄さんに何がわかるって言うのよ!」

 

泣きはらした顔でリリィは怒鳴る。突然の妹の剣幕にカーレルは黙らざるを得ない。

 

「私は努力して自分の力でようやく夢を叶え始めたのに……どうしてこんな……」

 

いきなり兄が自分の居どころを掴んで訪ねてきたかと思えば身支度もさせずに無理矢理自分を連れ戻してしまった。唯一の持ち物であったスマホも兄に奪われてしまい、久しぶりに自分の前に現れた兄の表情と怒鳴り声が誰よりも怖くてリリィは大人しくせざるを得なかった。

 

「……あの時声を荒げてしまったのは申し訳ないと思っている。だがリリィ、お前はたった一人の大事な妹なんだ。お前がかつてやったように都会に憧れて村を抜け出した者も一人や二人じゃない。そいつらはいずれも道端で物乞いになるか野垂れ死んでるかのどっちかだった。お前がそうなってほしくはなかった」

 

カーレルはリリィが小さな頃から彼女にとって良き兄であり、またカーレル自身もそうあろうと努力してきた。だがいつからか妹との間にはすれ違いが生じ、今回のような事態を招いてしまった。

 

「……とりあえず今日はもう休め。父さんも母さんも多少は落ち着いただろう。お前も一晩寝て頭を冷やすんだ。外出は制限させてもらうが何か必要なものがあれば俺に言え。出来る限りのことはしてやる。じゃあな」

 

カーレルはそう言うとバツが悪そうにリリィの部屋を出ていく。リリィは目を真っ赤にしたまま窓から見える月を眺めた。

 

「(ハヤト君……きっと助けにきてくれるよね……)」

 

彼女は夜空の月と星々を見上げて祈る。兄にスマホを奪われる前に何とか送ったLINEのメッセージ。それを見た勇斗が必ず助けに来ると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。朝食を取り終えた勇斗と千春は出発前の確認をする。忘れ物はなさそうだ。武器も問題ない。

 

「須崎、弾は大丈夫か?」

 

「ええ。昨日のうちにちゃんと予備マガジンの分も込めておいたわ。あんたは?」

 

「問題ナッシング」

 

二丁のSAAにそれぞれ5発ずつ弾を込め、ハンマーをセーフノッチにしてからホルスターにしまう。これで安全面もバッチリだ。

 

「あんたよくそんなめんどくさい銃使いこなせるわね……シングルアクション?っていうの?引き金引くのにいちいち手動で撃鉄起こさなきゃ撃てないんでしょ?」

 

古い銃とはいえオートマチックピストルであるモーゼルですら手こずっている千春からすればクリップやマガジン装填も出来ず、発砲のたびにハンマーを起こさなければならないシングルアクション・リボルバーをこうも簡単に使いこなしている勇斗には脱帽せざるを得ない。

 

「男のロマン、ゆえの愛、だな。リボルバーの緊張感はマグチェンジでは到底味わえない。リロードタイムはまさに息吹、銃に魂を込めているようなもんさ。俺のリロードはまさにレボ……」

 

「あー、はいはい。わかった、わかったから。あんたのリボルバーに対するロマンは充分すぎるくらいに理解したわ」

 

一気に捲し立てるように喋る勇斗を遮って千春は話を中断させた。こいつにリボルバーや西部劇の話を安易に持ち掛けたら延々ロマンについて語られそうだと悟り、以降はあまりこの手の話題は出すべきではないと千春は判断を下す。

二人は持ち物や装備品の準備を終えるとロディ司令官に見送られながらガルザック砦を出発し、国境沿いを北に向かった。

ロディ司令官に出会えたことは幸運だった。彼はガルザック砦の司令官だけあってこの辺りの土地を熟知している。土地勘のない二人にわざわざ村の正確な位置まで教えてくれたのだ。

 

 

 

 

『"ウォリアーキャットの村はここから一番近いところで森の東に位置する東ロンヌ村だ。ご友人がいくつかある村のどれにいるかはわからないが……可能性としては一番高い気もするな。あくまで私の憶測でしかないが"』

 

 

 

 

 

 

それがロディ司令官の言葉である。二人は時々バイクを止めては道や地図を確認しながら森を目指してひた走り、そして遂に……。

 

「"城島!あそこ!"」

 

遂に森が見えてきた。そして千春の指差す先、森の中からは狼煙(のろし)が上がっている。間違いない。あそこには集落があるはずだ。念のため勇斗は千春を後ろに下がらせ、自分が前方を走ることにする。

 

「須崎、気を付けろ。ロディ司令官の言う通りいきなり攻撃してくるかもしれねえ。充分に警戒しよう」

 

「"わかったわ"」

 

速度を遅めつつ、勇斗と千春は森へと入りながらゆっくりと狼煙のあった場所の方角へ近づいていく。……森はかなり木々や草が茂っていて走りづらい。転倒にも注意しなければ。勇斗が少しブレーキをかけた、その瞬間だった。

 

「!?」

 

ドスッ、という音と共にバイクのすぐ目前に矢が突き刺さる。今ブレーキをかけていなければ間違いなく当たっていた。勇斗の額に冷や汗が走る。

 

「警告する!ここは我等ウォリアーキャット族の住処である!早々に立ち退け!さもなくば身の安全は保証せんぞ!」

 

どこからか声が聞こえる。辺りを見回すと木の上にウォリアーキャット族の男性が弓に矢をつがえて構えていた。それも一人ではない。何人も。さらに。

 

「"じ、城島!囲まれてるわ!"」

 

槍を装備した一族の者達が茂みから姿を現し、いつの間にか勇斗達を取り囲んでいる。しかもスライウルフの時と違って今度の包囲は一筋縄ではいかなさそうだ。

 

だが勇斗は臆することなく言い放つ。

 

「断る。俺達はリリィ・オルテアという女性を連れ戻しに来た。お前らの集落のどこかにいるのはわかっている。彼女を連れ戻すまで俺は帰らねえぞ」

 

その言葉に一族の男達の眉がピクリと動く。そして放たれる異様な殺気。千春は背筋が凍るような恐怖を覚えた。

 

「……貴様ら、リリィの言っていた異界人だな。なるほど、そういうことか」

 

「やっぱりお前らがリリィさんを連れ戻したんだな。嫌がる彼女を無理矢理……」

 

勇斗はヘルメットの下で歯軋りをする。今すぐにでも全員をぶん殴ってやりたいほどに彼の怒りは爆発しそうだった。

だがそれを堪えて何とか冷静を装い、勇斗は続けて言い放つ。

 

「彼女はどこだ。……いや、言わなくてもいい。どのみち全員ぶっ飛ばすわけだからな」

 

「……ふん、生意気な。この人数を相手にそれが出来るとでも?」

 

「さあね。試してみるか?」

 

勇斗と弓を向けたウォリアーキャット族の男性との睨み合いが続く。張り詰めた空気。いつ戦闘が起こってもおかしくないような一触即発の状態。一秒が長く感じられる。

 

「フ……この人数相手にそれだけの大口を叩くか。ただの命知らずか、はたまた大馬鹿者か……いいだろう、ついて来い。ウォリアーキャット族は力と勇気を示す者には敬意を表する。貴様らをどうするかは長老の判断に任せよう。皆、武器を下ろせ」

 

その男性が命じると周囲の槍を構えた者達は皆構えを解き、「早く歩け」と言わんばかりの表情で森の先を顎で指した。勇斗と千春はエンジンを止めてバイクから降り、手で押して村へと入っていった。

森の先にある開けた場所。その村は思ったよりも規模があり、やや大きな木造の家が10軒あまりほどあり、男達は狩りの道具を手入れしたり、女達は赤子を抱えていたり保存食を作っていたりと意外にも活気のある村だった。広場では子供達が鬼ごっこをして遊んでいる。勇斗達は村の広場の奥にある一際大きな、装飾の施された家屋に案内された。

 

「ここでしばらく待て。長老と話をしてくる」

 

男性はそう言うと家に入る。大体十分くらいだっただろうか。再び男性が家から出てきた。

 

「長老がお待ちだ。さっさと入れ」

 

上から目線のぶっきらぼうな彼の態度に勇斗も千春もムッと思いつつも案内されたその家に入る。中はかなり広く、様々な装飾品や動物の骨で飾られた内装でいかにも部族の長老の家という感じだ。

部屋の中央では火が焚かれ、勇斗達と向かい合うようにして年老いたウォリアーキャット族の男性が座っている。毛皮の服を纏っており、おそらくは一族の長のみに許された服装なのだろう。勇斗達は長老と焚き火を挟み込むようにして指示された場所に向かい合って座る。

 

「……来たか。わしはランバ。この村の長老じゃ。お前さん達が異界人じゃな?単刀直入に聞こう。何が目的じゃ?」

 

「俺達はあんたらの一族が連れ戻したリリィ・オルテアという女性を今度はこちらが連れ戻しに来た。それだけだ」

 

長老のランバは勇斗のそのセリフを聞くと鼻で笑い、手元に置いてあった杖を彼に向けると見た目に似合わない鋭い眼光で睨み付けて言った。

 

「面白いことを言う。彼女は自分の意志でここへ戻ったのじゃ。一族の掟のためにな」

 

「ほう?爺さん、あんたボケるには早いんじゃねぇのか?リリィさんの話を聞く限り彼女が自分の意志で戻るなんて有り得ないけどな」

 

勇斗も負けじと軽口を叩く。一族の長をうやまわぬその無礼な口の聞き方に対して周囲の男達から怒号が飛び交い、千春は怯えながら勇斗の袖にしがみつく。

 

「ち、ちょっと城島……!何、刺激してんのよ……!殺されるわよ……!」

 

「その時は全員ブッ殺してから死んでやるさ」

 

苦笑しながら勇斗は言う。だが彼のその軽口が冗談ではないことが千春にもわかる。もしこの場で全員が襲い掛かってきたら勇斗は本当に全員殺しかねないと。彼の怒りはそれほどまでに強かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう、みんな落ち着けよ……誇り高きウォリアーキャット族がみっともねえなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろから別の声が聞こえた。振り向くとそこには赤い髪をしたウォリアーキャット族の男性がいた。全身にタトゥーを入れており、雰囲気と言動からはチンピラかヤンキーに近しいものを感じる。

 

「ウォルフ……お前さんか……」

 

「長老。ヒト風情がここまで大口叩くなんてなかなか面白いじゃねぇか。ここはひとつ……」

 

ウォルフと呼ばれた男は長老のそばに歩み寄ると何かを耳打ちした。それを聞いた長老はニヤリと不敵な笑みを浮かべて勇斗達に語り出した。

 

「異界人。貴様らの名は?」

 

「勇斗。姓は城島、名前は勇斗だ」

 

「わ、私は……須崎……千春……です」

 

「よし、ならばハヤトとやら。お前をリリィに会わせてやろう。さらにじゃ。条件次第ではリリィを異界での生活に帰してやってもよい」

 

どういう風の吹き回しだろうか。いや、何か裏があるはずだ。あのウォルフとかいう男に何か吹き込まれたに違いない。

 

「……何が目的だ」

 

「まあ待て。まずはリリィをここへ連れてこよう。話はその後じゃ」

 

ランバは側近らしき一人に命じてリリィを連れてくるように言う。しばらく無言の時間が流れたのちに家の扉が開いた。そこにいたのは私服ではなくウォリアーキャット族の衣装に身をつつんだリリィの姿があった。

 

「リリィさん!!」

 

「ハヤト君!来てくれたのね!」

 

思わず立ち上がった勇斗に向かい、長老側近の男性の手を振りほどいてリリィは駆け寄ろうとする。だがその体が勇斗に辿り着く前に彼女は横からある男に引っ張られた。ウォルフだ。

 

「おっと!お前のフィアンセはこの俺だろ、リリィ?異界人のガキなんかじゃねぇ」

 

「やめて……!放して……!誰が……あなたなんかと……!」

 

次の瞬間、銃声が鳴り響く。突然の轟音、そして穿たれる壁の弾痕。勇斗がSAAを引き抜いてウォルフの顔面スレスレを発砲したのだ。さすがのウォルフもこれには驚いて思わずギョッとしてしまう。

 

「……その汚ねぇ手を放せ。次はてめぇの頭に風穴を開けるぞ」

 

あまりの一瞬の出来事にその場にいた全員が固まってしまう。いきなり響いた轟音に長老のランバは驚いて腰を抜かしている。

 

「バカ!やめなさいよ、城島!大事な人の前で人殺しになるつもりなの!?気持ちは分かるけど銃を下ろしなさい!」

 

千春が必死に訴える。勇斗は息を荒げながらもどうにか怒りを抑え込み、SAAをホルスターにしまった。

 

「……へっ、ビビらせやがって。お前は単細胞だがお仲間は利口だな」

 

脅威がなくなったと見るやウォルフは元の調子に戻る。勇斗は怒りが爆発しそうになるが千春は「挑発に乗らないで」と彼を諫めた。

 

「まあいい。今日一日、別れを言う時間くらいはくれてやるよ。せいぜい最後のひとときを楽しみな!ハッハッハ!」

 

ウォルフは高笑いをしながら扉を開けて去っていく。その後ろ姿があまりにも憎らしくて勇斗は再び手が出そうになるが、再び堪えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇斗がある程度落ち着きを取り戻すと彼女はリリィとの再会を束の間、喜んだ。彼が銃で武装していたことには驚いたが、それでも彼が世界を渡ってわざわざここまで助けに来てくれたことには変わりない。

 

「ハヤト君……私、きっと来てくれるって信じてたわ……」

 

「さっきは怖がらせてごめん、リリィさん。ところであのウォルフってヤツは?フィアンセとか言ってたが……」

 

「……言った通りよ。彼は隣村の戦士で私の婚約者なの。"一族の掟"による望まない結婚のための、ね」

 

ウォリアーキャットの一族の女は隣村で一番優秀な戦士として認められた男に嫁がなければならないという掟がある。リリィはそのためにあのチンピラのような男と結婚させられてしまうらしい。

しかしウォルフはああ見えて実力は本物だそうだ。村の男達と戦っても負けなし、狩りでは一番の大物を狩ってくる弓の名手でもあるという。

 

「なるほどな。で、爺さん……あんたが言ってた条件ってのを満たせばリリィさんを解放するんだな?」

 

「……ふ、ふん。よかろう。お前が条件を満たせばリリィは解放する。ウォルフとの結婚も取り止めにすると約束しよう」

 

「だったら勿体ぶらずにさっさと条件とやらを言え」

 

さっきは少し取り乱したランバ長老だが落ち着きを取り戻すと軽く二度咳払いをして勇斗を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様には……"戦士の試練"を受けてもらう」

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