アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第119話 覚 醒 -Tornado Of Souls-

「……戦士の……試練?」

 

「そうじゃ。もちろんお主一人でな。連れの一人にはここで待っていてもらおう」

 

戦士の試練。それはウォリアーキャット族の男にとって一人前と認められるための試練だ。18歳になる前にウォリアーキャット族の男は一人で狩りを出来るようにならねばならい。それも凶暴な獣を相手に、だ。特に標的として推奨されるのはブラックボアまたは大きな個体のワイルドベアーである。

 

「お主が見事それを果たすことが出来ればお前の望みを叶えよう。一族の掟は無視し、リリィを解放することを約束する。ただし、だ。お主が狩る獲物は"ある個体"に限定させてもらう」

 

そこまで聞いた時、リリィは何かに気付いたようだ。そして彼女の顔が青ざめていく。

 

「長老……まさか……」

 

「そう、そこな異界人が狩るのはただのワイルドベアーではない……"一ツ目"よ」

 

「そんな!!"一ツ目"のために一体何人の村の男達が死んだと……!!」

 

「だからこそ、じゃ」

 

何やら物騒なワードが飛び交ったが、"一ツ目"とは何だろうか?だがリリィの慌てようを見るになかなかの標的のようだ。

 

「一族以外のものに試練を課してもし成功すれば掟を曲げねばならないことになる。それくらいの枷は当然のことじゃろう」

 

長老は髭を撫でながら勇斗を見下すような目で見る。勘のいい勇斗はこの時点で察した。なるほど、"一ツ目"がどういう個体かは知らないがおおかた勝ち目のない存在と戦わせて自分を葬ろうという腹積もりだろうが。

 

「何となく察しはしたがいい加減に説明してもらえるかな、爺さん」

 

「威勢のいい若僧じゃ。よかろう。最近普通のワイルドベアーよりもふた回り以上もの巨大なワイルドベアーが出没し、多くの手練れの男達が奴の犠牲になった。奴は我等一族との戦いで左目を失っており、それからわしらは奴を"一ツ目"と読んでおる。お前には一ツ目を討伐してもらおう」

 

凶暴なワイルドベアーの特殊個体・"一ツ目"の討伐。それが勇斗に課せられた条件だった。それを達することなくしてリリィの解放は有り得ない。勇斗には選択肢などなかった。

 

「やってやろうじゃねぇか。一ツ目だろうが三ツ目だろうが、ぶっ飛ばして帰ってきてやるよ」

 

「ふ、よかろう。では準備をするがよい。行っておくが一ツ目の肉体は鎧のように堅い。生半可な武器なら弾いてしまうぞ。お前さんのその武器なら可能かもしれんがそれでも一ツ目の戦闘力を舐めないことじゃ」

 

「ご忠告どうも、お爺ちゃんよ」

 

勇斗は皮肉たらしくそう言って準備をする。予備の弾薬を持てるだけ持って、勇斗は戦闘に備えた。

試練の場はロンヌの森の奥深く。古代人の古い遺跡がある場所の周辺に一ツ目はよく現れるという。ここから先は森の木々が多くなり、バイクで進むのは困難だ。徒歩で行くしかない。

 

「城島。気を付けなさいよ。危なくなったら……」

 

「いいや、俺は退かんぜ。いざとなったら奴も道連れにしてやる。もちろん死ぬつもりは毛頭無いが」

 

「……ハヤト君……気を付けてね」

 

「大丈夫だ、リリィさん。ゴリラと熊なら俺は間違いなくゴリラの方が強いと思ってるからな」

 

いつになく顔をしかめていた勇斗が見せた束の間の笑みといつものジョークにリリィも千春も思わず笑みが溢れてしまう。

そしていざ出発しようとした勇斗の後ろから声がして勇斗はそちらを振り向いた。

 

「やあ」

 

そこにいたのは見慣れない、黒髪の若い男性だ。

 

「……誰だアンタ」

 

「俺はリリィの兄のカーレルだ。向こうの世界では妹が世話になったな」

 

勇斗はそれを聞いた瞬間、いきなり走り寄ってカーレルの顔面を思いきり殴り飛ばした。カーレルは口と鼻から血を流しながら吹き飛んで地面に叩き付けられる。

 

「に、兄さん!」

 

「リリィさん、すまねえ。ガマン出来なかったわ。……テメーよくもそのツラを俺の前にノコノコと出せたな。その挙げ句に挨拶が"妹が世話になった"だあ?お前頭イカれてるんじゃねぇのか、このトンチキが」

 

勇斗は倒れたカーレルに歩み寄ると胸ぐらを掴んで上半身を引き起こし、顔を間近に近づけて鬼のような形相で彼を睨み付ける。

 

「オメーは異界で夢を追って暮らしてた妹のリリィさんの夢を奪おうとしてるんだぞ。その愚かさがわかんねーのか」

 

「愚か、か……確かにそうかもしれない。こうして……君に殴られても文句は言えないのかもしれないな。だが……俺は村を抜け出した者達の悲惨な末路を知っている。もし妹がそうなったら……君は自分が俺の立場だったらどうする?妹が道端で野垂れ死にしたりしたとして耐えられるか?」

 

胸ぐらを勇斗に掴まれたままカーレルはそう告げる。確かに自分の行動は結果として妹を悲しませることになってしまっただろうが、それでも道端で人知れず骸になっていたりするよりはまだマシだ。ウォルフは少々粗暴で口が悪いが戦士としては一流だし、一族の誇りも持ち合わせている。村もそんなに離れていないし、嫁いだとしても会いに行こうと思えば会いにいける距離だ。カーレルが何よりも願うのは妹の無事。それだけだった。

 

「……話にならねえな。それはただの過保護だ。妹離れ出来ねえアンタの兄貴としての器の無さにしか思えねえ」

 

勇斗は乱暴にカーレルの胸ぐらを離すと踵を返して歩き出す。こんな馬鹿に付き合っている暇はない。さっさと一ツ目を倒して、リリィを連れて帰らねば。勇斗は森の奥へと向けて足早に歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「森というよりはまるでジャングルだな」

 

鬱蒼と生い茂る木々は進むにつれてより深みを増し、勇斗の歩みを阻んでくる。日の光も遮られつつあり、昼間だというのに薄暗く不気味だ。風に揺れる木々はまるでそれ自体が唸りを上げているかのような音を出し、木が今にも歩き出しそうな雰囲気さえ感じてくる。

 

「お、なんか珍しい鳥発見」

 

だがそんな中にも自然が垣間見せる美しさがあった。勇斗の頭上の枝に美しい彩りをした羽根を持つ鳥が止まって辺りを見回している。さらに珍しい花や植物などこの森の生態系は非常に豊かであるということが自然にあまり詳しくない勇斗でも理解できた。決して深く、不気味なだけの森ではないのだ。

 

「……雰囲気は結構不気味なもんだけど、一見すると平和だな。一ツ目なんてデカい熊、本当にいるのか?」

 

実は長老達が自分をビビらせるために少々話を盛ったのではないかとさえ思えてきた。あまりにもそんな気配が無さすぎるからだ。

 

 

 

 

 

しかし、勇斗はそんな自分の考えが楽観的だったことを思い知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズシン。

 

 

 

 

 

「……なんだ!?」

 

地面が揺らされる感覚。そして重い足音。音に驚いた鳥達が一斉に飛び立ち始める。

ズシン、ズシンと足音はより近くに近づくごとに重く、大きくなっていく。そしてーーーー

 

「グルルルルル…………」

 

「!?」

 

遂に"一ツ目"がその正体を現した。それは"熊"と呼ぶにはあまりに巨大すぎる体躯。勇斗は思わず目を疑った。

 

「(何がふた回りだ!それ以上じゃねーか!!)」

 

「グオォォォォォォーーーーッ!!!!」

 

龍馬がトルトの森で倒した個体とは比べ物にならないくらい目を見張るほどの異常な巨体。そしてウォリアーキャット族との戦いでついたであろう左目を潰された大きな傷痕。間違いなく"一ツ目"であろう。

勇斗は先制し、構えていたショットガンを素早く顔面に向けて放つ。だが……

 

「グゥッ!?グオォォォ!!」

 

比較的至近距離で放ったにも関わらず一ツ目の異常に硬い頭蓋骨と皮膚は12ゲージショットシェルの散弾をも防ぎ、顔面から多少の出血を促したに過ぎない。ショットガンの攻撃を顔面に受けてまともに立っていられるなどという有り得ない事実に勇斗は驚愕するばかりであった。

 

「散弾銃を頭で防ぐとか二重の意味で頭おかしいんじゃねーのか!?なんだよコイツは!!」

 

「グルオァァァァァァッッッ!!!!」

 

一ツ目がその丸太のように太い腕の爪を振り上げて勇斗に襲い掛かる。彼はすぐに後ろに飛び退いてギリギリで爪をかわした。

あんな恐ろしく太い腕と爪で攻撃されれば自分など障子の紙を破るかのように引き裂かれてしまうだろう。勇斗は思わず息を飲んだ。

 

「クソが……!いいぜ、とことんやってやろうじゃねぇか!来な、バケモノ!」

 

「グアァァァァァァァッッッ!!!!」

 

幾多のウォリアーキャット族の戦士を葬ってきた怪物に対し、再びショットガンを構えて対峙する勇斗。その銃口からさらに散弾が放たれ、森の中に銃声がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……!?」

 

リリィは森の奥から銃声を聞き取った。きっと勇斗が一ツ目と戦い始めたに違いないと彼女は確信する。しかし彼女には大きな不安があった。

勇斗は強い上に銃を持ってはいるが、それでも幾多のウォリアーキャット族の猛者達を亡き者にしてきた一ツ目相手では分が悪すぎる。

ヤツを狩るために多くの勇敢な男達が立ち向かい、八つ裂きにされてきたのだ。もし勇斗がそうなってしまったら……リリィの鼓動がどんどん早くなる。不安と大事な人を失うかもしれないという恐怖が彼女を包み込む。

リリィはいてもたってもいられず、自室のベッドの下から弓と矢を取り出した。そしていざというときのために兄の部屋から少し拝借しておいた硬い甲殻を持つ毒蜘蛛・アーマースパイダーの毒液が入った瓶も取り出し、それを矢に塗った。

自分も狩猟民族のはしくれ。弓を持つのは好まないが扱えないわけではない。両親は部屋に来る様子はないし、兄は千春と共に長老の家にいる。抜け出すなら今だ。

 

「私がハヤト君を助けなきゃ……!」

 

自分が手を貸せば「一人で討伐しなければならない」という条件は達成できない。しかし勇斗を失うかもしれない恐怖に比べたらこちらの方がずっとマシだ。

リリィは窓枠を外して家からこっそりと抜け出し、弓と矢筒を背負うと誰にも見られていないことを確認しながら森の奥へと向かう。

 

 

 

一方、勇斗は森の奥地を駆け抜けていた。木々の隙間を縫うようにして走るが、一ツ目は全てをなぎ倒す勢いで追い掛けてくる。

 

「(クソ……!リロードする暇もねえ……!)」

 

ショットガンの弾を装填分撃ち込みある程度のダメージは与えているものの、一ツ目の異常に硬い皮膚や筋肉、骨には決定打とはならない。一ツ目は手負いになって余計に興奮し、リロードの隙すら与えてくれない。

SAAも既に撃ち尽くしており、ショットガンすらまともなダメージを与えられない一ツ目に対しては拳銃など豆鉄砲にも等しかった。

 

「(このままじゃやられる。何か策を考えないと……!)」

 

勇斗は走りながら考えを巡らせる。何か……何か策はないかと一秒を争う状況。徐々に一ツ目が勇斗との距離を詰めていく。

 

「グォア!!」

 

一ツ目が後ろから一気に飛び掛かってきた。だが一瞬早く勇斗は横に飛んでなんとかその攻撃をかわす。一ツ目は勢い余って大木に激突し、本の少しだが動きが止まった。勇斗はその隙に弾帯から取り出したショットガンの弾を急いで込める。

 

「よし……!」

 

一ツ目がこちらを向き、勇斗は再び反対側へ逃走を始める。こうなったら一か八かだ。奴をギリギリまで引き付けて、一ツ目が爪を振るおうと腕を上げて胸をさらけ出した瞬間に心臓の位置に全弾を叩き込んでやる。

だがもしそれでも一ツ目が止まらなければ……その時は死は避けられないだろう。しかし勇斗は覚悟を決めてショットガンを握る手に力を込める。

 

「来やがれ、バケモンが!!」

 

「グオォォォォォォアァァァァァ!!!!」

 

森全体を振動させるような咆哮を上げて一ツ目が突進する。勇斗は再び突進を避けた。そして狙い通り、追撃で腕を振り上げてその胸をさらけ出した。

 

「そこだ!!」

 

勇斗が一ツ目の心臓の位置目掛けて引き金を引こうとする。今まさに弾丸が発射されようとした、その時だった。

 

「グゥッ!?」

 

ドスッ、ドスッという音と共に一ツ目の側頭部に矢が突き刺さる。一瞬怯む一ツ目だがまるで虫をはたき落とすように矢を抜き、矢が飛来した方向を睨み、勇斗もそちらを見た。

 

 

彼は目を疑った。

 

 

「リリィ……さん……!?」

 

そこには弓を構えたリリィの姿が。今のは間違いなく彼女だろう。そして……

 

 

 

まずい。この状況は限りなくまずい。

 

 

 

狩りを邪魔された一ツ目は愚かな邪魔者を睨み付けるとそちらに向けて……走り始めた。

 

「!?」

 

「クソッ!間に合え!」

 

勇斗は全速力で走る。一ツ目が勢いをつける前に奴を追い抜き、リリィを前にして彼は跳躍した。

ほぼ同時。一ツ目が距離を詰めてその凶悪な爪を振り下ろした。

 

 

 

 

勇斗がリリィを庇って飛び付いた瞬間ーーーー振り上げられた一ツ目の恐ろしい爪が勇斗の背中を引き裂いて辺りに鮮血を振り撒いた。

 

「ぐうぅっ……!!!!」

 

「っ!?ハヤト君っ!!」

 

なんとか致命傷は避けたようだが勇斗の背中は爪による三本の大きな傷と血で染められている。再び一ツ目が腕を振り上げた瞬間、勇斗は仰向けになる形で一ツ目にショットガンを向けた。

 

「く……くたばれクソ野郎……!!」

 

ショットガンの轟音が連続して響き渡り、一ツ目の口や鼻や耳といった箇所に被弾し、いきなりのダメージに一ツ目も驚いたのか、その場で顔をかきむしるように暴れ始める。

 

「……に、逃げなきゃ……!ハヤト君、しっかり……!」

 

「ううう……」

 

一ツ目が悶えている隙にリリィは勇斗を起こして何とか移動を開始する。勇斗の出血が酷い。どこか避難して手当て出来る場所はないかとリリィは探す。

 

「そうだ……!遺跡……!あの中なら……!」

 

謎が多いロンヌの森奥地の遺跡。そこなら勇斗を手当て出来るかもしれない。ここからならそう遠くはない。リリィは勇斗に肩を貸しながら急いで奥地の遺跡に向かうことにした。茂みや木々で身を隠しつつ、遺跡を目指す。

 

「(あった……!)」

 

苔が生え、草木に侵食された石造りのロンヌ遺跡の入口。リリィは勇斗をそこへ連れていく。一ツ目はどうやらこちらを見失ったようだ。今のうちに急いで入ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺跡の奥、一ツ目の巨体では入れない場所にリリィは火を焚き、勇斗の背中を治療した。

勇斗が備えとしてブルーポーションを持っていたのは幸いだった。半分を傷口に塗り、半分を服薬する。勇斗の傷の痛みは多少癒えた。

だが今が危険な状況であることに変わりはない。勇斗はもっと適切な治療をしなければならないし、おそらく勇斗が残した血の跡を辿って一ツ目も近くまで来ているはずだ。

リリィは己の浅はかな行為を後悔した。そのために彼に大怪我を負わせる結果となってしまった。壁にもたれ掛かって座る勇斗の手を握り、彼女は涙を溢しながら謝罪する。

 

「ハヤト君……ごめんね……私のせいで……」

 

「へ……へへ……泣くない、リリィさん……俺の方こそゴメン……デカい口を叩いてこのザマたぁ……男として情けねぇぜ……」

 

あれだけ偉そうな事を口走っておいて、女一人どころか自分の身すら守れないとは。

 

 

 

 

力が無くては何も守れはしないーーーー。

 

 

 

そう、自分の身さえも。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺に……俺にもっと力があれば……

 

 

 

 

誰かを守るだけの力が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『異界の戦士よ。力を欲するか……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇斗の耳に何かがこだました。辺りを見回すが何も変わった様子はない。

 

「リリィさん……何か言ったか……?」

 

「え?私は何も言ってないよ……?」

 

「でも今確かに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『力を欲するか、異界の戦士よ。ならば奥へと来い。我はそこで永い眠りからの目覚めを待っている……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに今聞こえた。幻聴ではない。確かに勇斗の耳に声が聞こえたのだ。勇斗は何かに誘われるように、或いは何かに導かれるように立ち上がって遺跡の奥へと歩いていく。

 

「ハヤト君どうしたの!?休んでないと……」

 

「誰かが俺を呼んでる……遺跡の奥だ」

 

勇斗はリリィと共に歩みを進める。リリィの記憶ではこの先には"開かずの扉"があり、そこは如何なる方法をもってしても開くことはない。二人は遺跡の奥に辿り着き、勇斗は松明で"開かずの扉"を照らした。

 

「ここだ……この奥からだ」

 

「でもここって何か不思議な力で封印されてるみたいで開かないよ……?」

 

「でも確かにこの奥から声が……」

 

扉には丸い円に九つの蛇らしきレリーフが円を描くようにして彫られている。勇斗は開ける手段がないかと扉に手を触れた。その瞬間遺跡に地鳴りのような音が走り始める。

 

「扉が……!」

 

「嘘……!?ここは絶対に開かないはずなのに……!」

 

 

 

 

 

 

 

『よく来た。さあ、進むがよい。お前の求める力がそこにある』

 

 

 

 

 

 

 

扉の奥は円形の広い空間になっていた。部屋の中心にはひとつの台座が立てられており、台座の上で光の玉が輝きを放ちながら宙に浮いている。

 

『我はずっと待っていた……我にふさわしき戦士の到来を……さあ、その台座の光へ手を伸ばせ。その力を手にするのだ』

 

声に導かれるままに勇斗は歩を進める。台座の段差を一歩、また一歩と登り、台座の上の光へとその手を伸ばした。

その瞬間光の玉はまばゆい輝きを放ち、辺りを照らし、光は勇斗の左手を包み込むようにしてその形を変えていく。

 

「こいつは……!?」

 

 

 

『戦士よ。何故、力を欲する……?』

 

 

 

まただ。もしかしてこの光が話し掛けているのだろうか。勇斗はその問いにこう答える。

 

「俺は……俺は誰かを守るための力が欲しい……!誰かを守れるだけの大きな力が!!」

 

 

 

 

 

『"護るための力"か……ならば問おう。そなたは護るべき者のために己が命を"盾"とする覚悟はあるか!』

 

 

 

 

 

ーーーー声の主はそう勇斗に問いかけた。

 

 

 

そんなもの、聞かれずとも答えは決まっている。

 

 

 

 

「当たり前だ!覚悟がなけりゃ、こんなとこまで危険犯して来たりしねえ!」

 

勇斗は声の主に向かってそう叫んだ。大事な人を守るための覚悟。それを以てここまで来たのだ。そのための力が手に入るならば、この命など……いつでもくれてやる!!

 

 

 

 

『よかろう!そなたに力を貸そう!我が名は"ハイドラ"!武の神・グルダが作り上げし聖なる存在!そして数多の"顔"を以てそなたの力となるもの!異界の戦士よ、心に"刃"を持て!お前の心の"刃"が魔を切り裂き、人々を護る"盾"となるのだ!』

 

 

 

 

 

 

光が収まるころには勇斗の左手には九つの蛇の紋章が彫り込まれた盾が装着されていた。中心には赤い宝玉が埋め込まれ、蛇の紋章はその宝玉を中心にして円を描くように彫られている。

 

『戦士よ!名を名乗るがよい!覚悟を決めた偉大なるそなたの名を!』

 

「……俺は勇斗!城島勇斗!それが俺の名だ!」

 

『いいだろう、ハヤトよ!この我、ハイドラは"数多の顔を持つもの"!我はお前の魂に応え、顔を変える!この我を見事使いこなしてみせよ!』

 

聖なる盾・ハイドラはそう勇斗の心に語りかけた。勇斗はハイドラのその言葉の真意を、魂で悟る。

……頭の中に流れ込んでくる。ハイドラの数多の顔が。その形が。勇斗は台座から降りると目を見開いて盾を構えた。

 

「……でぇりゃあぁぁ!!」

 

ハイドラがその姿を変形させる。彼が盾を一振りすると盾は細長く折り畳まれ、一本の長い棒へと変形した。勇斗はそれを高速で回転させて振り回すと地面に棒の先端を叩き付ける。

 

「そりゃ!!」

 

次の瞬間棒の真ん中が分離したかと思うと青い魔力の鎖が棒の柄同士を繋ぎ、鉄棒はヌンチャクの形状へと更なる変形を遂げた。

 

「ホーッホッホゥ!!」

 

勇斗はヌンチャクを高速で両側に振り回し、頭上へと放り投げる。ヌンチャクは頭上でその魔力の鎖をさらに伸ばすと勇斗の手元に吸い込まれるように戻り、今度は鎖鞭(チェーンウィップ)の形状へと変化する。

鞭の先端を振り回して地面に叩き付けられるとまたしてもハイドラは変化を遂げた。魔力の鎖は一気に縮んで再び一本の鉄棒へと戻ると今度は両側の先端が変形して両側に二つの突起を持つ棍へと変わる。

頭上で回転させた棍を地面に勢いよく突き立てると質量保存の法則を無視した更なる変形を遂げ、ハイドラは巨大なライオットシールドへと変形した。勇斗がシールドを蹴飛ばすとハイドラは空中へと舞い、勇斗の頭上で最初の形態である盾へと戻り、勇斗の左手へ戻る。一通りの形態で演舞を決めた勇斗は盾を構え、決め台詞を放った。

 

 

「ーーイカすぜ」

 

 

 

あらゆる形態に変形する盾・ハイドラ。それはまさに多様に変化する"多変盾(たへんじゅん)"。ハイドラを我が物とした勇斗は確信した。

 

 

 

この力があれば一ツ目を倒せる、と。

 

 

 

 

 

「ハヤト君……大丈夫……!?」

 

「ああ。絶好調だぜ。行こう、リリィさん。この力で……あのクマ野郎をぶちのめしてやる」

 

もはや受けた傷の痛みなど知ったことではない。勇斗はSAAとショットガンをフル装填し、左手にハイドラを付けたまま、右手にはSAAを構えてリリィと共に遺跡を出る。

遺跡を出るとやはり奴はいた。勇斗の血の匂いを辿って来ているのだ。彼はリリィに安全な場所に隠れるように指示すると辺りを嗅ぎ回っている一ツ目に挨拶代わりのSAAを一発、叩き込んだ。

 

「グゥッ!?」

 

「おら!餌が来てやったぞバケモンが!かかってきやがれ!」

 

「グルルル……グオォォォォォォアァァァァァ!!!!」

 

再び一ツ目が咆哮を上げて勇斗に突進する。だが勇斗はSAAをしまってハイドラを鉄棒に変化させると遠心力を利用して一ツ目の横っ面を思い切り殴り付けた。

 

「どうりゃあぁぁ!!」

 

「グフゥッ!?」

 

異常な硬さ、そしてその見た目からは想像も出来ぬ威力。これには一ツ目も驚愕せざるを得ない。さらに勇斗はハイドラを変形させて今度は棍の形態で一ツ目の脳天を思い切り殴り付ける。

 

「グオォッ……!!」

 

「うら!!どりゃ!!そりゃ!!」

 

ふらつく一ツ目の顔面を棍の先端で叩きのめす。何度も、何度も、何度も。その息の根を止めるまで。

 

「グォア!!」

 

「うっ!?」

 

だが一ツ目もやられっぱなしではない。勇斗を突き飛ばして距離を取ると体勢を立て直して彼に突進による攻撃を図る。しかし勇斗は冷静にそれを見定めるとハイドラを鉄棒に戻し、今度は鞭へと変形させた。

 

「うりゃあ!!」

 

勇斗の振りによって魔力の鎖が一ツ目に伸びる。その鎖は一ツ目の身体を完全に拘束し、身動きを許さない。

振りほどこうと必死に暴れる一ツ目だがハイドラの魔力の鎖は勇斗の意思が無ければ如何なる怪力をもってしても解けることはない。さらにここへ来て一ツ目はさらに不利な状況へ追い込まれた。

身体が思うように動かないのだ。それは先ほどリリィが撃ち込んだアーマースパイダーの麻痺毒の液が塗られた矢の効果であった。よりにもよってこの局面で毒が回り始めたのだ。

もはや身動きも取れず、抵抗する力も失いつつある一ツ目。勇斗は拘束されたまま仰向けに倒れた一ツ目の腹の上に乗ると背中のショットガンを引き抜いて一ツ目の口の中に突っ込む。

 

「おい、クマ公。どんな気分だ?殺す側から殺される側に回った気分はよ」

 

幾多の獲物を喰らい、ウォリアーキャット族の狩人や戦士達でさえも屠ってきた一ツ目。この森は彼にとって自分が支配する城のようなものだった。

だが今はどうだ。立場は逆転し、狩られる側であるはずの脆弱な人間が……今まさに自分の命を奪わんとしている。

 

 

 

一ツ目は初めて、死の恐怖を覚えた。

 

 

 

 

「グゥッ……!グォアッ……!アァ……!」

 

「怖ぇか?怖ぇよなぁ。だがもう遅い。お前はやり過ぎた。やり過ぎたんだ。そして俺の大事な人さえ喰おうとした」

 

勇斗の引き金を引く指に力が入る。いくら一ツ目といえど、口の中に零距離射撃を叩き込まれれば……決して無事ではいられない。

 

「グォアァァ…………!グゥゥゥ……!」

 

「これで……ゲームオーバーだ」

 

今、自分の腹の上に立っている人間は人間などではなかった。

 

 

この目の前の脆弱であるはずの存在は…………

 

 

 

 

 

自分にとっての"死神"だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くたばれ、化け物め( Y o u l o s e , b i g g u y .)

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