アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第120話 英 雄 -Holding out for a hero-

五発の銃声が連続して響く。喉の奥をショットガンで、それも零距離射撃で連発されて無事な生物はいないだろう。一ツ目は喉奥を散弾によってズタズタにされ、遂に勇斗によって息の根を止められたのであった。

もう動かない一ツ目の死体からハイドラの鎖を解除して手元に戻すとハイドラは光の粒子となって消えてしまった。

 

『案ずるな。我はお前が必要とする時にいつでも現れる。お前が戦いに身を投じる時、また会おう』

 

どうやら龍馬のルナ・アームと同じで呼び出せばすぐに出現するらしい。これは便利な武器だ。もう神の武器はお前だけの特権ではないぞと勇斗はほくそ笑んだ。

と、安心していたら何だか意識が遠くなってきた。視界が歪み、周りの音も徐々に聞こえなくなりつつある。

 

 

 

 

 

「ハヤト君!?…………しっ…………して…………ハ…………君………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

勇斗は傷の痛みで目が覚めた。徐々に視界が鮮明になり、目の前の光景が目に入ってくる。ゆっくりと起き上がるとそこは見覚えのある場所だった。パチパチと火の焚く音が聞こえ、火のそばには長老のランバと千春が座り、自分のそばにはリリィがついている。

 

「あ、ハヤト君。目が覚めたんだね」

 

「城島、あんた相当無茶したわね。心配したのよ」

 

どうやら自分は意識を失っている間に村まで運ばれてきたようだ。傷は痛むものの身体には包帯が巻かれており、怪我の治療も施されていた。勇斗はゆっくりと立ち上がると囲炉裏の前へと向かって歩き、火の前に腰を下ろした。

 

「……まさか本当にあの一ツ目を退治してしまうとはの」

 

「あんな化け物を倒したんだ。約束は守るだろうな?」

 

「もちろん……と、言いたいとこじゃが少し難しいことになっていての」

 

長老はパイプで一度煙を吸って吐き出すとふう、とため息をつく。

 

「実はお前さんが気を失っている間に村の者達の間で意見が別れてしまっていたのじゃ。一ツ目を倒したその功績を認めるべきか、否か」

 

その言葉を聞いた瞬間、勇斗は立ち上がってランバに駆け寄り胸ぐらを掴んで睨み付けた。

 

「どういうことだ!話が違うぞ!」

 

「……落ち着け、若造。何も絶対に認めないとは言っておらん。だがわしは一族の長として慎重に決断せねばならぬのだ」

 

確かに多くの犠牲者を出したあの一ツ目を見事仕留めたことを称賛する者もいれば、「女の手を借りた軟弱者」と勇斗を認めず罵る者もいる。もし長老が皆の意見を聞かずに決断を早めれば一族の分裂や内紛の危険性も有り得る。それだけは避けねばならなかった。

 

「お主はリリィの力を借りたとはいえ、見事あの一ツ目を仕留め、この村をあやつの脅威から救ってくれた。それは紛れもない事実じゃ。反対派の者達が納得するよう、わしも全力を尽くす。じゃが……今はどうか待っていてほしい」

 

最初の態度とうって変わって長老はやけに協力的だ。最初は勇斗を嫌っていたもののやはり一族の脅威を排除してくれた功績は大きいのだろう。勇斗は長老から手を放すと座って待つことにする。

 

「痛って……」

 

また背中の傷が痛み出した。だいぶ落ち着いたとはいえ、まだまだ予断を許さない状況である。

 

「あ……私、痛み止めの薬草を取ってくるね」

 

傷に苦しむ勇斗のためにリリィは薬草を取りに自分の家に戻ることにした。彼女が戻ってくるまでの間、二人は長老と共に火に当たりつづける。

 

 

…………重い沈黙が空気となってただただ流れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウォルフは西の村において最強の男だった。喧嘩も酒の強さも狩りの腕も、全てにおいて彼の右に出るものはいなかった。

後は女だ。元々リリィはウォルフのお眼鏡にかなう女であったのだ。そんな彼女がもうすぐ手に入るとあって彼は完全に浮かれていた。そこへ謎の異界人のガキが彼女を取り戻しにやってきたと聞いて内心焦ったが、狡猾さも持ち合わせていた彼は一ツ目の件を長老に吹き込み、あの小僧を亡き者にしてやろうと画策した。

今頃はあのガキも一ツ目の腹の中であろう。少し気が早いかもしれないがウォルフは自分の村での結婚の準備のために馬車を借りて村に向かい………万が一、東の村がゴネた時のために力ずくで事を進めようと村の弟分達を引き連れ、金で傭兵を雇った。

 

「(あの女は俺のものだ。あんな図体だけのガキに渡してたまるか)」

 

彼は馬車を止め、村の入口で降りる。すると何やら村が全体的にざわついていることに気が付いた。

何やら様子がおかしい。ウォルフは近くの村人を捕まえて話を聞いてみる。

 

「おい、何があった?」

 

「あ?ああ……あの異界人がな……一ツ目を倒しちまったんだと……」

 

「なに!?」

 

それを聞いてウォルフは驚愕する。あの一ツ目を?自分でさえ仕留めきれなかったあの怪物を本当にあの異界人が仕留めたというのか?馬鹿な、とウォルフは自分の耳を疑った。もしそれが本当ならリリィは……

 

「クソッ!あの異界人め……!こうなったら……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長老の家には続々と村の者達が集まってくる。勇斗とリリィの件による賛成派と反対派の者達の会議のためだ。重苦しい雰囲気の中、いよいよ会議が始まろうとしていた。

 

「それでは、これより異界人ハヤトに関する処遇についての話し合いを行う。ではまず……」

 

しかしランバがそこまで言った時、この場の空気を変えてしまう出来事が起きる。突然、村の若者が血相を変えて飛び込んで来たのだ。

 

「ち、長老!大変です!」

 

「どうした!何事じゃ!」

 

「ウォルフが……ウォルフが東の村の若者と傭兵を連れて…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリィを……リリィを連れ去っちまった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと!?」

 

ランバが言葉を発するより早く勇斗が立ち上がって男性に詰め寄る。

 

「それは本当なのか!?」

 

「あ、ああ……力ずくでな……」

 

「……あのクソ野郎!!絶対に許さねぇぞ!!」

 

勇斗はカウボーイハットを被るとSAAとショットガンを、そして残りわずかな弾薬を持って長老達が止めるのも聞かずに外に飛び出す。

だがこのような緊急事態にも関わらずそんな勇斗を止めようと反対派の、主に若い男達が立ち上がって後を追おうとする。そんな彼等を食い止めるべく、一人の少女が立ち上がった。千春だ。

彼女はホルスターからモーゼルM712を引き抜くと威嚇のために一発、銃弾を放つ。

 

「……動かないで!おかしな真似をしたら撃つわよ!あいつの邪魔はさせないわ!」

 

石弓(クロスボウ)などの比ではない、異界の武器を向けられて流石の男達も恐れおののいて動きを止める。

 

「いつまで掟、掟と言うつもり!?そんなに掟が大事なの!?馬鹿も休み休み言いなさいよ!あいつは……城島勇斗は……大事な人を助けるために、命を捨てる覚悟でここまでやってきたのよ!そんな彼を邪魔するのは私が許さないわ!」

 

いつもはおちゃらけているお調子者の勇斗。だがいざとなれば仲間や大事な人のために命を賭して突き進む覚悟を持ち合わせている人間だということを千春は誰よりも知っている。

そんな彼が大切な想い人を助けようと動くのならば━━━━

 

 

 

 

 

 

━━━━自分も動かなければ。口うるさいだけの足手まといで終わるのはごめんだ。

 

 

 

「……」

 

反対派の男達の中にいたカーレル。しかし千春のその心からの叫びを聞いた彼はゆっくりと彼女に歩み寄る。

 

「……な、何よ!?」

 

「……やはり俺は間違っていた。掟に従うことと、それによって守られる身の安全だけが妹の真の幸福なのだと自分に言い聞かせてな。だがそれは違った。異界へ渡り、文明の進んだあの世界で必死に努力をしながらも必死で、一人でたくましく生きる妹の姿を見た時に心が揺らいだんだ。俺のやってることは本当に正しいんだろうか、ってな」

 

異界へまで渡り探し出した妹。そこでの彼女は誰よりも働き、誰よりも努力しながらリリィは日々を幸せそうに生きていた。そんな妹を見た時からカーレルは己の行動に疑問を持ち始めた。しかし掟に従うことこそが一族の、ひいては妹の幸せなのだと自分に言い聞かせて彼は妹を無理矢理連れ戻した。

カーレルは千春のそばに立つと、反対派の男達に対して腰のナイフを抜き、言い放つ。

 

「俺は……俺は妹が信じた道を進むのを応援したい。これから俺は妹の、そしてここにいるこの娘と、そして妹を追って危険を省みず飛び出した勇敢な異界の戦士である彼の味方だ。文句がある者はかかってくるがいい。誰にも彼等を邪魔させはしない」

 

カーレルは遂に腹を括ったのだ。鉄の掟に逆らい、妹の本当の幸せを願う兄として生きることを。

カーレルはかなりの手練れである。さらには異界の武器を携えた少女が一人。これでは人数で勝っているとはいえ、必ず誰かしら死人が出る。男達は冷や汗を流しながら動きを止めざるを得なかった。

 

「……皆の者、腰を下ろせ。……行くがよい、二人とも。彼を助けてやれ」

 

「長老……」

 

「……我等の一族も……そろそろ変わるべき時が来たのかもしれんな……」

 

長老はふっと笑いながらパイプを一口吸って吐き出す。長老の命令とあっては男達も従わなくてはならない。不満を募らせつつも彼等は床に再び座る。

千春とカーレルは長老に一度頭を下げ━━━家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どりゃ!!」

 

「ぐわっ!!」

 

村に残っていた傭兵達の最後の一人を殴り倒すと勇斗はリリィをさらった馬車に乗ったウォルフを追うべく、村の入口に止めてあるバイクに急ぐ。だが━━━━

 

「……なっ!?クソッ!ウォルフの野郎!」

 

なんと自分と千春のバイクのタイヤに太く、硬い縄が何重にもなって巻き付けられている。おそらくウォルフの仕業だ。自分を足止めするためにこんなことをしたのだろう。縄は硬い上に相当きつく巻き付けられているため、ナイフを使ってもなかなか切れない。

 

「くっ……!これじゃ……!」

 

「城島!」

 

「ハヤト君!」

 

そこへ千春とカーレルが現れた。さらにカーレルは自分の家から馬を引き連れて勇斗に手綱を渡す。

 

「ウォルフを追うんだろう?俺の馬を使え!」

 

「あんたは……どういう風の吹き回しだ?」

 

「説明は後だ!今ならまだウォルフに追い付けるはずだ!…………妹を頼んだぞ、異界の勇敢なる戦士よ」

 

「城島、私達は後から追い付くわ。頑張んなさいよ。あんたはリリィさんにとっての"英雄(ヒーロー)"なんだから」

 

「……ああ!」

 

勇斗はカーレルの馬に乗る。乗馬の経験はないが、気合いで何とかしてやると勇斗は意気込んだ。しかしよそ者を乗せたカーレルの馬は突然暴れ出す。

 

「うわっ!!くそっ……このじゃじゃ馬(ビラーゴ)め……!大人しくしやがれ!」

 

勇斗が必死でしがみつく。やがて馬は落ち着きを取り戻した。カーレルの手伝いもあって馬は勇斗の言うことを聞くほどには大人しくなった。

 

「行け!走れ!」

 

夕暮れが迫る中、勇斗を乗せた馬が走り出す。異界に響く蹄の旋律が奏でるは、一人の若き英雄の物語。勇斗は西部開拓時代のガンマンが馬を駆るかのように、雄々しく勇敢に、さらわれた想い人を追って村を出る。

ウォルフの雇った傭兵を叩きのめした時、行き先を聞いた。奴は村ではなく街道に向かったと。勇斗は森を出て街道へと馬を走らせる。すると街道を走る馬車や馬の一団を見つけた。ウォルフ達だ。

 

「ウォルフぅぅぅ!!待ちやがれこのクソ野郎がぁぁぁ!!」

 

「チィッ!しつこい奴め!」

 

あの鉄の馬を封じたというのに、諦めの悪い奴だ━━━━ウォルフはそんな勇斗を見て歯軋りをした。

その時、勇斗の叫び声を聞いて馬車に乗せられていたリリィが馬車の後ろから顔を出す。

 

「ハヤト君!」

 

「待ってろよ、今助ける!!」

 

リリィは馬を駆ってボロボロの身体でもなお自分を助けに来てくれた勇斗の姿を見た瞬間、涙が溢れ出した。

……正直、ウォルフに無理矢理連れ去られた時はもうダメだと思った。大事な人に別れも告げられず、この男にいいようにされてしまう運命なのだと。

だが━━勇斗はやってきた。身体が傷付いても、自分の愛車が封じられても、なお諦めることなく。そんな勇斗に応えるように、リリィもまた叫ぶ。

 

「ハヤト君……!!助けて!!」

 

「じっとしてろ!!必ず助ける!!」

 

彼女は英雄を求めた。自分を救いだしてくれる自分だけの英雄(ヒーロー)を。そして勇斗(ヒーロー)はやってきた。自分を救うために。

 

 

 

 

"Where have all the good men gone.(男達はどこへ行ってしまったの)"

 

 

 

"And where are all the gods?(それに神様もどこへ行ってしまったの?)"

 

 

 

"Where’s the street-wise Hercules To fight the rising odds?(あの力強いヘラクレスはどこにいるの?)"

 

 

 

"Isn’t there a white knight upon a fiery steed?(勇敢なる白馬の騎士はいないの?)"

 

 

 

"Late at night I toss and I turn |and(目眩を覚えるほどの夜中に)

I dream of what I need.(夢を見るようにあなたを待つわ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来い!!ハイドラ!!」

 

『承知!我が力、存分に振るうがよい!』

 

勇斗の呼び声に応え、ハイドラが勇斗の左手に現れた。勇斗はハイドラを鞭の形態に変化させ、馬車を守るウォルフの弟分達を攻撃する。しなる鞭の攻撃を受けて一人が落馬した。さらに勇斗は自分に槍で攻撃を仕掛けてきた一人の攻撃を盾に戻したハイドラで防いだ直後に鉄棒に変形させて反撃し、また一人を落馬させた。

 

「どりゃ!!」

 

「ぐわっ!」

 

目前を走る馬。それに跨がる男を再び鞭の形態に戻して連続して叩く。それによって護衛の弟分達は次々に勇斗の攻撃で落馬していく。

 

「クソッ!これでも喰らえ!」

 

ウォルフが弓を構えて矢を素早く射ってきた。ガードをする暇はない。勇斗は慌てて上体を左側にそらして何とか回避する。しかし矢が顔を掠め、勇斗の顔に一筋の血が流れ落ちた。

 

「ハヤト君!!」

 

「かすり傷だ!リリィさんはじっとしてろ!舌を噛むぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"I need a hero.(私にはヒーローが必要よ)"

 

 

 

"I’m holding out for a hero ‘til the end of the night.(夜明けまでずっとあなたを待つわ)"

 

 

 

"He’s gotta be strong And he’s gotta be |fast(もっと強く もっと速く)

 

And he’s gotta be fresh from the fight.(真の戦士を目指すのよ)"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び馬を走らせて馬車に近付く勇斗。すでに護衛は全て倒した。後は馬車を止めなければ。勢いに乗って馬車はどんどんスピードを増している。早く止めなければリリィが危ない。

 

「よし……!」

 

勇斗はSAAを引き抜いた。そして馬車の車輪に狙いを付ける。

 

「リリィさん!馬車を止める!しっかり掴まってろ!」

 

勇斗はそう叫ぶと馬車の左側後輪に向けてSAAを放つ。が、思うように車輪は壊れない。

ならばショットガンならと勇斗は背中からショットガンを引き抜く。揺れる馬上では長い銃は照準が合わせにくい。が、彼は天性の才能である死の瞳(デッド・アイ)によって正確な狙いを付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"I need a hero.(私にはヒーローが必要よ)"

 

 

 

 

"I’m holding out for a hero ‘til the morning light.(朝焼けまであなたを待つわ)"

 

 

 

 

"He’s gotta be sure And it’s gotta be soon |And(わかってるでしょう、もうすぐなの)

he’s gotta be larger than life.(一番望んだものを掴めるのよ)"

 

 

 

 

 

 

 

"larger than life.(命よりも価値のあるものを)"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこだ!!」

 

響き渡る銃声。放たれる弾丸。ショットガンから放たれた12ゲージショットシェルは見事に馬車の車輪を破壊した。

 

「うわっ!?」

 

「きゃあっ!!」

 

車輪が破壊されたことによって馬車は大きくバランスを崩し、傾いて地面に荷台が擦れていく。

急激な車体の揺れによってウォルフは馬車から投げ出されたが、リリィは何とか馬車の内部にしがみついて耐えた。馬車を引っ張っていた馬はヒヒーンと鳴いて前足を上げるとしばらく興奮していたがようやくその足を止めた。勇斗は馬から降りて馬車の荷台からリリィを助け出す。

 

「大丈夫か、リリィさん」

 

「ハヤト君……!ありがとう……本当にありがとう……」

 

「……言ったろ。必ず助けるって」

 

リリィは嬉しさのあまり勇斗に抱き付いて泣き始めた。ちょっと照れ臭かったが勇斗も優しく彼女を抱きしめる。

 

「ぐぐ……クソ……!そこを動くんじゃねぇ……!」

 

再会の喜びも束の間、ウォルフの声が聞こえた。馬車から投げ出された彼は弓を手に矢を三本も同時につがえて勇斗に向けている。

 

「異界人め……!殺してやる……!殺してやるぞ……!」

 

ウォルフは弓の達人だ。この弓に狙われたが最後、並みの人間なら逃れることは出来ない。彼は自分の弓の腕に絶対の自信を持っていた。

勇斗はリリィの前にずいと出るとカウボーイハットを深く被り、ウォルフと対峙する。

 

「ハヤト君……!」

 

「大丈夫だ。奴は殺さない。それに……俺は負けないさ」

 

少しだけ後ろを見てリリィに微笑みかける勇斗。そしてウォルフに歩み寄る。しばらく歩くと歩みを止め、勇斗とウォルフは睨み合った。

 

 

 

 

 

 

━━━━夕暮れの赤い陽が照らす平原で、二人の男が向かい合う。それはまさに"決闘"。辺りには風の音だけが響き渡り、重い静寂の時だけが過ぎ去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……死ねぇ!!」

 

ウォルフが三本の矢を同時に放つ。矢が放たれる同時に勇斗はホルスターからSAAを引き抜いた。

続けざま三発の弾丸が放たれた。そしてウォルフの矢が空中でほぼ同時に破壊される。勇斗の見た世界━━━━死の瞳(デッド・アイ)が支配する世界においては見切れぬ的などない。例えそれが高速の矢であろうとも。

 

「な……!」

 

「終わりだ、ウォルフ」

 

さらに勇斗はSAAから弾丸を放つ。それによってウォルフの弓は破壊され、もはや完全に彼は勇斗に対抗する手段を失ってしまい、その場に尻餅をついてしまう。勇斗はそんなウォルフに歩み寄り、彼を見下ろした。

 

「な……なんなんだよ……お前は……一体何者なんだ……」

 

「俺か?俺は通りすがりの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正義のガンマンさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇斗はそう言ってニヤリと笑うとウォルフの顔面に強烈な拳の一撃をお見舞いしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、リリィさん。帰ろう」

 

「……うん!」

 

勇斗は再び馬に跨がり、後ろにリリィを乗せると馬を走らせる。平原は草花が夕陽に照らされて美しく輝いており、幻想的な風景を醸し出していた。勇斗は背中に、リリィはその腕と胸にお互いの大切な想い人の温もりを感じながら夕暮れの平原を駆け抜けていく。

 

「ねえ、ハヤト君」

 

「ん?」

 

「帰ったら……原稿やらなきゃね」

 

「そうだなあ、かなり遅れちゃったからなあ」

 

二人で進めた合同誌はまだ完成していない。だがきっと完成すればいいものになるだろう。いや、なるはずだ。そうに決まっている。勇斗は確信した。

二人が村へ帰る途中、バイクのエンジン音が聞こえてくる。バイクに跨がった千春と、後ろにはカーレルが乗っている。

 

「おーい!」

 

「城島ー!大丈夫ー!?」

 

いいところで現れやがって、と勇斗は軽くぼやいた。せっかくの乗馬夕暮れデートが台無しだ。

 

「ハヤト君、デートはまた今度だね」

 

「……はあ、まったく……」

 

勇斗はリリィの言葉に苦笑しつつ、千春達に向かって手を振る。

 

 

 

 

夕暮れの赤い空は徐々に暗くなり、星達を輝かせている。空の彼方へ沈みつつある太陽を背に、勇斗達の旅が終わろうとしていた。




・120話イメージBGM……
『Holding out for a hero』
(Bonnie Tyler)

・決闘シーンイメージBGM……
『星空の用心棒メインテーマ』
(映画『星空の用心棒』より)

・夕暮れの乗馬(ラスト)シーンイメージBGM……
『夕陽のガンマンメインテーマ』
(映画『夕陽のガンマン』より)


※作中の歌詞掲載に関しましてはハーメルンの『使用楽曲情報』の欄にJASRACの楽曲コードを掲載しておりますので問題ありません
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