アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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今回で勇斗編は終わりです。
長いようで短かった彼の異界を巡る物語を是非見届けてください。


第121話 帰 還 -Nothing else matters-

あれから勇斗はリリィを村に無事連れ帰った。ウォルフはその後村の者達によって拘束され、ウォリアーキャット族全ての村からの追放を余儀なくされた。

長老ランバは勇斗の功績を大きく讃え、さらにこれからは村の者達が自由な生き方を出来るようにと一族の掟を撤廃することを決めた。反対派の者達やリリィの両親達もランバとカーレル、そして何よりリリィの説得によってウォリアーキャット族の新たな在り方にようやく納得してくれた。

 

 

そして━━村では夜通しで宴が行われた。

勇斗達がやってきた時はあれだけピリピリした空気だったのが嘘のように飲めや歌えの大騒ぎだ。

村の広場の焚き火の前に座り、振る舞われた料理を食べながら勇斗はリリィや千春と共に楽しいひとときを過ごした。

 

 

 

 

そして、出発の朝。

 

 

 

 

「……達者でな、リリィ」

 

「皆さんもお元気で」

 

リリィは家族と村の住人達に別れを告げる。服装は日本で暮らしていた洋服を身に付け、勇斗のバイクの後ろに乗った。リリィは日本への渡航を許され、再び福岡で暮らすことにしたのだ。

勇斗のバイクは出発し、続けて千春のバイクが追走して出発する。ここから帝都までは少し距離がある。適度に休憩を取りつつのんびり目指そう。四人は道のりに関してそう話し合った。

 

 

 

……四人?

 

 

 

 

 

 

 

「なんであんたまでついてくるんだよ」

 

「妹が心配なんだ。何かあったら駆け付けられるように少しでも近くにいる方が安心だろう」

 

帰路には何故かカーレルまでついてきていた。妹のためだと言い張って半ば強引にだ。

平原の街道脇で休憩した一行は勇斗の持ってきたカップ麺で昼食を取る。勇斗はやはりまだ妹離れ出来ない兄カーレルにため息をつきながらカップ麺をすする。

 

「心配するな。こう見えても渡航資格持ちだぞ。まあ、ニホンでの仕事先はしばらく帝都で探さにゃならんがな」

 

そういえば忘れていたがカーレルは渡航資格を持っていたのだ。ある程度日本に関する知識は持ち合わせているし、一族からの正式な許可ももらっている。仕事と住居さえ決まればすぐにでも日本に住める状態だ。

 

「そうだリリィ、忘れていた。ほら、お前の"すまほ"だ。ニホンではこれが無いと困るんだろう?」

 

「あ、うん……ありがとう、兄さん」

 

カーレルは妹を連れ戻す際に半ば強引に回収した彼女のスマホを革袋から取り出して彼女に返した。バッテリーは……流石に切れている。そこで勇斗は予備のモバイルバッテリーを取り出して彼女に貸した。これでしばらくすれば回復するだろう。

 

「ありがとう、ハヤト君」

 

「いやぁ……ハハハ」

 

何鼻の下伸ばしてんのよ、と千春が勇斗の頭を小突く。せっかく命懸けの奪還作戦が終わったのだから少しくらいいいではないかと内心ぼやく勇斗。ただあんまり委員長……もとい千春に口答えすると後がめんどくさい。ここは黙っておこう。

休憩を終え、ピャルナチの森まで来た。倒れていた大木は既に撤去されており、街道は通行可能になっている。これなら帰りは楽だ。またあの獣道を、しかも二人乗りで通りたくはない。

森を抜けると街道を行く四人を再び日差しが照らす。風は冷たいが太陽の光は比較的暖かく、寒さで震えるようなツーリングにはならなさそうだ。

ようやく帝都に着く頃にはもう昼をとっくに過ぎており、もう少しで夕方という時間になっている。港へ行くと既に今日の日本行きの便は終了しており、さらにバイクを積めるフェリーは二日後になるらしく少なくともあと二日は滞在することになりそうだ。

 

「君達を見送ろうかと思ったが……それは明日になりそうだな。俺は宿を取る。帝都での仕事も探さないといけないしな」

 

「それだったら北東の宿屋街にある"竜の髭亭"って酒場がオススメだ。俺の友達の母さん直伝の日本の料理も出してるし、もしかしたら仕事もくれるかも」

 

「ほう。ハヤト君の友達の母の……興味深いな。よし、そこを頼ってみよう。ありがとうな」

 

ここでカーレルとは別れた。彼は勇斗が勧めた竜の髭亭へと向かい、残った勇斗達三人は城へと向かう。

事情を説明するとソフォスもアルバートもリリィの分の客室を快く用意してくれた。ピャルナチの森の前で休憩してからはずっと運転しっぱなしだったので流石に疲れた。適切な処置と勇斗自身の異常な回復力もあって傷もだいぶ癒えたものの、かなり疲労している。勇斗は客室に入るやいなやベッドに倒れ込み、そのまま深い眠りに落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇斗が目を覚ましたのは翌日の朝だった。どうやら十時間以上眠っていたらしい。昨日は結局夕食を取らずじまいだったので腹が減っている。半ば腹時計で目を覚ましたといっても過言ではない。

 

「ハヤトくーん。起きてる?」

 

ドアの向こうからリリィの声が聞こえてくる。勇斗は「今いくよ」と告げると着替えて部屋を出た。

 

「おはよう、ハヤト君。昨日すごくよく眠ってたから起こさないでおいたけど……大丈夫?」

 

「お心遣い、感謝します。死んだように寝てたから起こさなくて正解」

 

というか、起こされても起きなかっただろう。数々の戦いとそれによって負った傷、さらには旅の疲れで流石の勇斗も限界に達していた。昨日はまさに"死んだように眠った"と言える状態だった。

 

「チハルちゃんがね、『起きたら食堂に来なさい』って言ってたわ。早く行こ?」

 

「りょーかい。じゃ、朝飯食いますか」

 

千春は先に食堂で待っているようだ。リリィと共に食堂へ向かうと既に千春が腕を組んで座り、勇斗を待っていた。「遅いわよ、いつまで寝てるの」と勇斗を一瞥しつつ、発すると勇斗は悪い悪い、と苦笑しつつリリィと並んで椅子に座る。

しばらくすると給仕の者達を引き連れてマリーが朝食を運んできた。マリーは気を利かせて勇斗の分はかなり多くしてある。

 

「はい、ハヤトさんは大盛りです。おかわりありますから遠慮なく食べてくださいね」

 

「さすがマリー!気が利くなあ!それじゃ……いっただきまーす!」

 

パンやスープ、肉に野菜といった朝食に勇斗は言うが早いかかぶりつく。一晩中寝ていたので胃の中はカラッポだ。もう少し落ち着いて食べれないのあんたは、と呆れる千春に勇斗の食いっぷりを隣で微笑ましく見守るリリィ。平和な朝食の時間はこうして過ぎていった。

朝食を終えると腹が落ち着くまで雑談をする。その途中、勇斗はあることに気付いた。

 

「そうだ、俺らの銃どうしよう?」

 

流石に実銃を日本に持ち帰るわけにはいかない。そんなものを持ち込めば一発でお縄だ。

 

「それなら昨日の夜斎藤からLINEで聞いたわ。帝都の南東にあるグレンディルさんの鍛冶屋に預けてるらしいわよ」

 

「グレンディルさんってあれか?前に龍馬のお母さんと腕相撲して負けたドワーフの……」

 

グレンディルは信頼できるとの龍馬からの情報だ。龍馬とディレットも銃やナイフなどの武器を預けているとのことなので信頼できるだろう。

 

「なら行き先は決まりね。この後は出かける準備をしてグレンディルさんの鍛冶屋に行くわよ」

 

「おう」

 

「私もハヤト君達と一緒に行くわ」

 

リリィもついてくることになり、彼女は勇斗のバイクの後ろに乗って三人でグレンディルの鍛冶屋へと向かう。

南東の商業地区エリアにあるグレンディルの鍛冶屋"大いなる金床"。そこを訪れた勇斗達はグレンディルに事情を説明すると彼は快く引き受けてくれた。もちろんただではなく、千春がある程度のトラム金貨を払ってでの話ではあるが。

銃や装備品を預けた勇斗達だが、ここで千春が離脱する。

 

「私は個人的に行きたいところや調べたいものがあるから二人はゆっくりしてくるといいわ」

 

それが千春の言葉だった。おそらく半分は自分のためで半分はデートをし損ねた勇斗達二人のためなのだろう。気が利く委員長だ。

 

「それじゃ、お言葉に甘えて……行こうか、リリィさん」

 

「うん!」

 

あの夕暮れの乗馬デートの時や会えなかった時間を取り戻すように二人は帝都をのんびりと回る。バザー通りで買い物や食事を楽しんだり、知り合いの店を回ったり、港で釣りをしたり……気が付けば既に夕方になっていた。

 

 

空が赤く染まる頃、二人は人気が無くなりつつある港で海の彼方に沈む夕陽を眺めながら物思いにふけっていた。

 

「綺麗な夕日だなぁ」

 

「うん……そうだね」

 

勇斗がそう言うとリリィは一言返事をして押し黙る。それっきり二人は口を開かない。いや、開けないのだ。

既に二人ともお互いの気持ちに気付いている。だがその一歩が踏み出せない。勇斗の心臓が高鳴り、リリィも頬を赤くして下を向いている。

 

 

だが、勇斗は決心した。ここしかない。自分の気持ちを打ち明けるには最高のタイミング、ロケーションじゃないか。そう自分に言い聞かせて勇斗はリリィの方に向き直る。

 

「リリィさん!あの……!」

 

「え……!う、うん……」

 

「俺は……俺は……!」

 

勇斗は最大の勇気を振り絞る。ある意味一ツ目を相手にした時より緊張する瞬間だ。名前に勇気の"勇"の字が入っていながらここ一番でヘタレにはなりたくない。男・城島勇斗の一世一代の気合いの見せ所である。

 

 

 

 

 

だが、そんな二人に忍び寄る影がひとつ。勇斗は嫌な気配を感じ取ってすぐにリリィをかばうように立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 

「……誰だ!!」

 

「クックック……お熱いなぁ……お二人さんよ……だが今度こそ終わりだぜ……ジョーシマ・ハヤト……!!」

 

そこにいたのは復讐の念に駆られ、憎悪で顔を歪ませたウォルフだった。その手にはクロスボウが握られており、今にも勇斗に向けて放たれようとしている。

 

「しつけえ奴だ。まだ殴られ足りねえのか」

 

「ほざけ!お前さえいなけりゃ……一族はいずれ俺の天下になっていたんだ!お前さえ……お前さえいなければ……!」

 

ウォルフの手は怒りでプルプルと震えている。目障りな異界人、ジョーシマ・ハヤト。こいつさえいなければとウォルフは復讐に身を滾らせてここまで彼を追ってきた。勇斗がいなければ全てが思い通りになっていたはずだった。奴のせいで計画が狂うばかりか村からも追放され、いわば彼からしてみれば勇斗は自分から全てを奪った憎き存在なのだ。

 

「何言ってんだ。自業自得だろうが」

 

「うるせえ!!……見たとこあの妙な武器もねえみたいだな。だったらこっちのもんだ……今度こそ死ね、ハヤト!!」

 

既に銃を預けた後で丸腰の勇斗。そんな彼に向けてクロスボウの矢を放とうとするウォルフ。

 

「甘ぇ!!」

 

勇斗はカウボーイハットをウォルフの目の前にフリスビーのように投げる。いきなり帽子によって視界を遮られたウォルフは狙いをつけられず、その一瞬の隙をついて接近した勇斗はウォルフの腹に思い切り蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐはっ……!」

 

ウォルフは後ろに吹っ飛ばされ、クロスボウがガシャリと音を立てて地面に落ちる。さらに足元に落ちたカウボーイハットを拾い上げてパンパンとはたくと勇斗は再びそれを頭に被った。

 

「……ったく、リリィさんからの大事なプレゼントだからこんな使い方はしたくなかったんだがな」

 

「て、てめぇ……!」

 

ウォルフは起き上がって勇斗を睨み付けた。そして彼は拳を構える。なるほど、最後は喧嘩というわけか。面白いではないか。

 

「ハヤト君!」

 

「大丈夫だ、リリィさん。……どうやら帰る前に最後の決着をつける必要がありそうだな。リリィさん、離れててくれ」

 

勇斗は彼女に帽子を預けた。リリィは無言で一度頷くと勇斗のカウボーイハットを抱えるようにして彼から離れる。

 

「ハヤトぉぉぉ……!!」

 

「来いよ、ウォルフ。最後の勝負だ」

 

夕陽が照らす港で二人は拳を構えて睨み合う。これが今回の旅の最後の戦いだ。おそらくは勇斗にとっても、ウォルフにとっても。

 

 

 

「行くぞ、ハヤトぉぉぉぉ!!」

 

「来やがれ、ウォルフ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「「うおぉぉぉぉぉ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

二人の拳が交差する。お互いの顔面に拳がめり込み、二人は仰け反る。が、すぐに再び攻撃を開始した。

勇斗はミドルキックを、しかしウォルフは空中にジャンプして勇斗の頭上から強力な蹴り下ろしを放った。

 

「死ね、ハヤト!!」

 

「ぐっ!」

 

勇斗はウォルフの蹴りを何とかガードするが、ウォルフは素早く着地すると勇斗に反撃の隙を与えず拳の連撃を加える。

しかし勇斗はウォルフの拳の一撃を弾き飛ばすと彼の顔面にストレートを喰らわせた。

 

「オラァ!!」

 

「ぐふっ!!」

 

ウォルフは勇斗の強烈なストレートで後ろに仰け反る。が、堪えて足に力を込めると踏ん張ってお返しとばかりに勇斗の顔面にストレートを叩き込んだ。

 

「うりゃあ!!」

 

「ぐあっ……!」

 

勇斗の口と鼻から血が飛び散り、怯んだ勇斗の鳩尾にウォルフの更なる拳の追撃が直撃する。顔、腹部と攻撃を受けた勇斗は思わずうずくまりそうになった。

 

「くたばれ!!」

 

「……させるかぁ!!」

 

ウォルフの追撃を寸前で避けた勇斗は彼の懐に潜り込むと頭突きを顔面に喰らわせてさらにお返しとばかりにウォルフの鳩尾に拳を打ち込む。

 

「がはっ……!」

 

血の混じった吐瀉物を吐き出したウォルフ。だがここで退くわけにはいかない。歯を食い縛って耐えると勇斗に掴みかかり、負けじと彼も頭突きで対抗する。

そこからはもう取っ組み合いの勝負である。お互いに掴み合った状態で殴る蹴るの攻防だ。しかし一瞬の隙を突かれて勇斗が、顔面を殴られて大きく仰け反る。

 

「ハヤトぉぉぉぉぉ!!死ねぇぇぇぇ!!」

 

「……ぐぅぅ……!!」

 

ふらつく勇斗に再びウォルフの拳が迫る。しかし勇斗は血まみれの顔のまま、カッと目を見開くと殴りかかるウォルフの拳が届く前に、渾身の力を込めて拳を振り抜いた。

 

「うりゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ぐはぁっ…………!!」

 

空中に飛び散る血。そしてウォルフの身体が宙を舞う。大きな音を立ててウォルフは地面に叩き付けられた。

━━━━今の攻撃で勝負は……ついた。もはやウォルフに起き上がれる気力は残っていなかった。同時に勇斗もその場に座り込む。

 

「ハヤト君!大丈夫!?しっかりして!」

 

「あ、ああ……大丈夫だ……」

 

ウォルフの強さは思っていた以上だった。堕ちたとはいえ、やはり一族の優秀な戦士というだけのことはある。ここまでボロボロになるほどの喧嘩は一体いつぶりか。

だがようやくこうして勝つことができた。こちらだって喧嘩ならば場数を踏んでいるのだ。修羅の国で生きてきた経歴は伊達ではない。

リリィはハンカチで勇斗の血や汚れを拭いてやる。勇斗はハンカチが汚れるからやめた方が、と言ったが構わずリリィは続けた。……その背後でウォルフが再び起き上がっていることに二人は気付いていない。

 

「(クク……馬鹿め……油断したのが運の尽きだ……!死ね……!)」

 

ウォルフは腰の後ろに差していた毒のナイフを引き抜いて襲い掛かる。それにようやく勇斗が気付くが既に遅かった。ウォルフの凶刃は今まさに二人に襲い掛からんとしていた。

 

「……ぎゃあっ!!」

 

悲鳴を上げたのは……勇斗でもましてやリリィでもない、ウォルフ自身だった。よく見ると彼のナイフを持っていた右手を矢が貫通していた。手からは血が溢れ、ウォルフはそれによって悶え苦しんでいる。

 

「もはや一族の誇りすら忘れたか、ウォルフ。貴様は粗暴ではあったが、それでも力と誇りは持ち合わせていた。だから掟に従って妹を預けられると思っていた」

 

建物の影から出てきたのはカーレルだ。その手には弓が握られており、今しがたウォルフに刺さった矢が彼が放ったものだとわかる。

 

「カーレル……!て、てめえ……!」

 

「一族の誇りすら失ったお前にもはや一族を名乗る資格はない。消え失せろ。まだ彼と妹に危害を加えるつもりならば……俺がこの場で貴様を殺す」

 

「うう……ちくしょう……!」

 

ウォルフは右手に刺さった矢を引き抜くと傷口を押さえながらヨタヨタとおぼつかない足取りで逃げ去っていく。一族最強とさえ言われた男の末路というにはあまりに惨めである。

 

「……大丈夫か?」

 

「ええ。兄さん、ありがとう」

 

「カーレルさんよ、つけてたのか?人が悪いぜ、全く」

 

「つけていたのは間違いないが、君達ではないな。正確にこの街で見かけたウォルフを、だ。どうせこんなことだろうと思ってあいつを尾行して正解だった。危なかったな」

 

何はともあれ、助かったのは事実だ。カーレルが来てくれなければ勇斗かリリィのどちらかがあの毒牙の餌食になっていたかもしれない。それを考えるとゾッとする。

 

「……さて、俺は帰る。用事も済ませたしな。明日はニホンに帰るんだろう?ゆっくり休んでおけよ」

 

弓を背負い直すとカーレルは踵を返して歩き出す。ようやく邪魔者はいなくなったのだからあとは自分が退散するだけだと言って後ろ手を振って勇斗達と別れた。空気は読める男らしい。

夕暮れの埠頭、波の音だけが聞こえるその場所で二人は海を眺めて黙って佇む。

 

「リリィさん」

 

「うん」

 

勇斗が呼び、リリィが答える。しばらくの沈黙ののちに勇斗は━━━━━

 

 

 

 

 

 

━━━━━遂に自分の気持ちを彼女に打ち明けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きです。俺と……付き合ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリィの中で答えは決まっている。彼女はもちろん、一度だけ頷いてこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい……よろしくお願いします……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってな事があったわけよぉ」

 

「せっかく美味いラーメンを食ってるのにその最中にお前のノロケを聞かされにゃならんのだこのハゲ」

 

十日後のふくまる。ある日の日曜日にラーメンを食べに立ち寄ったいつものこの場所で勇斗は龍馬に帝国での出来事を説明していた。

あれから帰国後は大変だった。勇斗は親からも学校からもこっぴどく叱られ、さらには背中に負った怪我のせいで入院する羽目になった。

幸いにも適切な処置と勇斗自身の驚異的な回復力ですぐに退院し、現在は問題なく学校に通っている。……たっぷりと課題漬けにされることにはなったが。

 

「でもハヤト、大活躍だったね。はい、コーラ」

 

「おうよ、『正義のガンマン・城島勇斗、異界に降り立つ!』……ってなぁ。お、コーラサンキュー」

 

ディレットからコーラを受け取りつつ勇斗は自分の銃さばきをお前らにも見せてやりたかったぜ、と豪語する。そろそろ自慢話とノロケにもうんざりしてきた龍馬は適当に相槌を打ちつつ、勇斗の話を聞き流した。

 

「お、LINEだ」

 

勇斗のスマホに通知音が鳴る。相手はもちろん、リリィからだ。勇斗は急いでラーメンをかき込むと会計の金額をカウンターに置く。

 

「おばちゃん、ごちそうさま!……なあ龍馬、俺口臭大丈夫かな?臭くないか?」

 

「知らねえよ!大体デート前にラーメン食いに来るなよ!気になるならブ◯スケアでも買っとけや!」

 

いい加減ノロケ全開状態のゴリラの話には飽き飽きしてきた。龍馬は「ウザいから早く行け」と言わんばかりに手でシッシッ、と追い払う仕草をする。

勇斗はディレットや愛華に見送られながら慌ててふくまるを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ場所は大画面前。そこで待つリリィと急いで向かう勇斗。そんな彼の頭にはもちろんあのカウボーイハット。

彼女からもらった大切なプレゼント。恋人からの親愛の証とも言えるそのカウボーイハットを揺らしながら彼は走った。

 

 

 

 

 

 

生まれる時代が違っていれば歴史に名を刻む英雄になり得たかもしれない男。

 

 

 

 

しかしそんなものに興味はない。

 

 

 

 

自分は、自分にとって一番大切な人の英雄(ヒーロー)であればそれでいいのである。

 

 

 

 

これは、想い人のために命を賭けた男のわずか数日間の戦いと旅の物語。

 

 

 

 

 

 

そしてのちに"異界の用心棒"と呼ばれることになる男の始まりの物語である。




●勇斗vsウォルフ戦イメージBGM……
『Bail Con La Mariposa』
(『龍が如く 見参!』より)

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