アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第13話 故郷への贈り物

「ノーブルさーん、お届け物だよー」

 

トルトの森の村、ディレットの故郷にハーピーの配達員がやってきた。

この世界では高い知能を持ち、更に空を飛べるハーピーの一族は手紙や小包といった配達物を届ける仕事に適した存在だった。

帝都にはハーピーの一族が建てた郵便局まであるぐらいだ。

空を飛べるハーピー達は盗賊や傭兵に襲われることもないし、万が一空の魔物に遭遇しても軽く逃げ切れるだけの飛翔速度を誇っていた。地球側の世界と違って科学技術が発達していないこの世界では乗り物といえば馬くらいで、人間が運ぶよりもハーピー達が運んだ方が遥かに早く、安全性が高いのだ。

ただし空を飛ぶ以上、あまり多くの物や重い物は運べないという難点があるが。

 

「はいはい、お待たせ。いつもありがとう」

 

「確かにお届けしたよー。それじゃあねー」

 

この森の方角担当なのだろうか。いつも配達しに来る見慣れた顔のハーピーの少女はノーブルに小包を配達すると、再び空へと飛び立っていった。

 

「あら、荷物?」

 

「ああ、ディレットからだ。しかし不思議な箱だな?こんな材質は見たことがない」

 

娘のディレットから届いたのは小さなダンボール箱であった。

製紙技術もまだまだ発展しておらず、羊皮紙が主流であるこの世界において地球の紙の一種であるダンボールも異界人にとっては珍しかった。

 

「む……どうやって開けるんだ?」

 

ガムテープでしっかり梱包されたダンボールの開け方がわからず、ノーブルは箱を持ち上げて底や側面を見る。すると、側面に"刃物で箱の帯を切ってください。中を傷付けないように先端で慎重にね"とディレットのメモ書きが残されていた。

ノーブルはガムテープの真ん中を指示通りにナイフの切っ先で慎重に切り、ダンボール箱を開ける。箱を開くと中にはこれまた花の模様の入った紙に包まれた箱と、分厚い封筒が入っていた。

 

「ふむ……これらはもしや異世界の技術で作られた紙なのか?なんとも不思議な……」

 

ノーブルが封筒を開けると、中には娘からの手紙と不可思議な絵のような紙がいくつも入っていた。

 

「これは……ディレット?」

 

「あらあら……不思議な絵ねぇ。まるでディレットがその絵の中に本当にいるみたい」

 

「ふむふむ。マリア、どうやらこの絵は"シャシン"というらしいぞ。風景や人物を見たままに紙に記録できるんだと」

 

「まあ……ニホンにはそんなすごいものがあるのね」

 

ディレットからの手紙を読みつつ、二人は異界の技術ーー"シャシン"に映った娘と斎藤一家の姿を見る。

 

 

 

 

"お父さん、お母さん、お元気ですか?私は元気です。私は今ニホンの南西にあるキュウシュウという島の街フクオカにいます。

一緒に入っている絵は『写真』というもので、風景や人物をそのまま紙に残すことが出来る物です。一緒に写っている男の子は私がお世話になっているサイトウさん一家の長男のリョーマ君です。とっても強くて頼りがいのある優しい男の子だよ。

もう一人の女性がお母さんのリョーコさん。男勝りで豪快な人だけど、音楽が大好きで料理がとっても上手なの!なんでもリョーマやリョーマのお父さんよりすっごくケンカが強いんだとか……。でもすごく優しくてお母さんがもう一人出来たみたい。

お父さんはいるみたいなんだけど、今は遠くで働いていてしばらくは家に帰らないみたい。"

 

 

 

"シャシン"に笑顔で写っているディレットを見て、ノーブルとマリアは娘が向こう側でも楽しく暮らしている事を知り、ほっとした。

やはり娘と遠く離れて暮らすのは心配であるし、寂しいものだ。

だが、この"シャシン"と娘の手紙を見て少しは寂しさと不安が緩和された二人であった。

 

「ディレットは楽しく暮らしているようだな」

 

「ええ、そうみたいね。あら?この"シャシン"は……まあ、立派な神殿ねえ」

 

マリアが手に取った一枚の"シャシン"は見たこともないような外見の神殿の前でリョーマという少年と一緒に写る娘の姿だ。

 

 

 

"大きな神殿の写真はニホンのジンジャっていう神殿で『ダザイフテンマングウ』っていうみたいなの。ここには『スガワラノミチザネ』っていうニホンの大昔の貴族の人が祀られていて、学問の神様として信仰されてるんだって。フクオカに来たその日にリョーコさんが連れていってくれたんだ。"

 

 

 

「ほう、ニホンにもこういった立派な神殿があるんだな。なるほど、これがニホンの古き時代の文化か」

 

「とっても素敵ね。私も一度見に行ってみたいわ」

 

二人はニホン古来の文化に感心しつつ、次の写真を見ると、統一された服装のリョーマとディレット、そして初めて見るニホン人の男女二人が写っていた。

 

「あなた、これニホンの学校で写されたシャシンらしいわよ」

 

「どれどれ。……ニホンの学校では統一された服を着るのか?変わった風習だな」

 

 

 

"これは学校で写した写真で、手前に写っている大きな男の子がリョーマの友達のハヤトって子。ちょっと厳つい見た目だけど、強くて優しくて面白い子だよ。

後ろの女の子はスザキさん。最初会ったときはちょっと怖い女の子だったけど、今ではすっかり仲良し!ちょっと真面目すぎるとこがあるけどね……。"

 

 

 

 

異界の新たな家族や友人達と楽しく暮らしている様子のディレット。

その後も様々なシャシンを見て、遠く離れた娘の幸せそうな生活に若干の寂しさを覚えつつも安堵するノーブルとマリア。

全ての写真を見終わった二人は紙に包まれた箱に目をやった。

 

「これは何かしら?」

 

 

"お父さん、お母さんへ。こっちの世界では美味しい料理やお菓子が沢山あります。その中でもフクオカで人気のあるお土産のお菓子を一緒に送ります。是非食べてね。"

 

 

 

 

「マリア、どうやらこれはニホンのフクオカという街の菓子らしいぞ」

 

「まあ。じゃあ、早速開けてみましょうか」

 

マリアは箱を包んでいる紙を剥がしていく。

そしてその中にあった菓子とはーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

ノーブルとマリアの元に荷物が届く一週間ほど前。

 

 

「ああ~……やっと終わった……」

 

中間テスト最終日。大嫌いなテストもようやく終わり、放課後の屋上でううんと伸びをする龍馬。

 

「斎藤、ちゃんと教えたとこ出来たの?」

 

「バッチリ……とまではいかないが、少なくとも基礎問題はちゃんとできたと思う。あとは応用がきちんと出来てるかはちょっと不安だが……」

 

「そう。せっかく教えたんだからちゃんと結果出してよね」

 

「はいはい」

 

いつものように屋上に集まった龍馬、ディレット、勇斗、千春の四人。今日もいい天気で柔らかな春の日差しが照り付けている。

テストは午前中で終わることもあって、しかも今日で最終日。テスト終わりの解放感だけは全国共通だと某学園RPGのキャラが言っていたような気がするが、まさにそれだ。今だけはよくわかる。

 

「ふー、これでやっと原稿に集中できる」

 

「城島、あんたそういえば前から原稿がどうとか言ってたけど何の話?漫画でも描いてるの?」

 

「あれ?言ってなかったっけ?俺同人誌描いてるんだよ」

 

勇斗の趣味。

それはゲームやバイクの他に絵を描くことであった。彼は非常に可愛いイラストを描くことでインターネットでは有名で自分のサークルを同人誌の即売会に出して同人誌を販売したりしている。

ハンドルネームは"ジョナサン"でネット上のファンからは敬意を込めて"ジョナさん" と呼ばれている。

 

「ドージンシ……ってなに?」

 

ディレットが勇斗に尋ねる。同人誌も即売会も知らないディレットからの問いかけは極々自然な反応と言えよう。

 

「うーん……ま、簡単に言うなら"あくまで趣味の範疇で作った本のこと"で、即売会ってのはそれらを"自費出版で販売するイベント"かな」

 

「へえ……何だか楽しそう」

 

「おっ、それならディレットも来いよ。6月に福岡ヤフオクドームでコミックシティ福岡って大きなイベントがあるんだ」

 

コミックシティ福岡。福岡ヤフオク!ドームを貸し切って開かれる企業主催の同人誌即売会であり、福岡で開催される同人イベントでは最大の規模を誇る。ジョナサン、もとい勇斗のサークルはそれなりに人気のあるサークルだった。

 

「同人誌ってエロいのばっかでキモいオタクみたいなのばっかりが集まって売るんでしょ?そんなとこにディレット誘うなんてアンタ配慮足りないんじゃないの?」

 

ひどい言われようだ。まあ、オタク界隈の情報に明るくない一般人(パンピー)の理解などそんなものか。

 

「オタクへの偏り過ぎな偏見キタコレ。そういう発言よくない。そりゃオタクばかりなのは間違っちゃいないし、エロいのもあるけど、自分の好きなことに全力で取り組む熱い奴等の集まりでもある。

それに、若い人間からおじいちゃんおばあちゃんまで手作りの小物やアクセサリーを販売したりもしてるんだぞ?そんな人達まで否定するのかなぁ、須崎さんは?うわー、須崎さんってそんな酷い人間だったんだー」

 

勇斗は千春にじりじりと迫りながらまくし立てるようにプレッシャーをかける。同人活動に関して勇斗は自分の"好き"を形にするために全力で取り組んでいる。それを目の前で批判されたとあっちゃあ、黙っているわけにはいかないのである。

 

「う……わかった!わかった!私が悪かったから!謝るから顔を近付けないで!」

 

迫り来る勇斗を押し戻して引き離す千春。

元々ゴリラみたいな暑苦しい顔だというのにそれを近付けられると余計に暑苦しいしむさ苦しい。勘弁してもらいたい。

 

「わかればいいのだよ。わかれば」

 

腕を組んでスッと離れる勇斗。

 

「ところでお前、こないだ高橋とひと悶着あった日に"例のイベント"って言って電話してきたけど、あれコミシのことだよな?」

 

ディレットがさらわれた日にバイクにまたがった時に空気を読まずに電話をかけてきたゴリラ……もとい、勇斗。そういえばそもそもの用件をあの後聞きそびれていた。まあ、大体内容はわかってはいたのだが。

 

「そうそう。いつも通りお前に売り子を頼めないかなって」

 

「そういうことか。ま、別にいいけど」

 

同人イベントではサークルに売り子などの手伝いがいてくれると、販売時の作業が楽になる上に受け渡しもスムーズになる。毎回コミックシティのたびに龍馬は勇斗のサークルで売り子をしていた。

 

「あ!頼みごとといえばリョーマ!私も頼みたいことがあったんだ!」

 

「ディレットが頼みごとって珍しいな。どうした?」

 

「実は私、故郷の両親に手紙を送ろうかなって思ってたんだ。それでね、スマホで撮った写真を印刷出来るって知ったからそれを両親に送りたいなって」

 

ディレットの上達も早いもので、愛用のスマホをそれなりに使いこなしている。

特にディレットが気に入っているのがカメラ機能で、写真という概念が存在しない異界人からしてみれば風景をそのまま記録できていつでも見れるなど、高等魔法でも成し得ないことであった。

しかしスマホを使うエルフなど、なかなかシュールな絵面だ。異界と繋がるという非現実的なことが起こらなければこんな絵面は拝めなかっただろう。

 

「それならうちのパソコンとプリンター使えば印刷出来るから、帰ったらやってやるよ」

 

「ありがとう。それともうひとつ……」

 

「ん?」

 

「こっちの世界の何か……お菓子とか両親に送ってあげたいの。何かオススメとかあるかな?」

 

ピコーン。

龍馬の頭の上に電球が灯った(イメージ)。

 

「パリィ!」

 

勇斗が叫ぶ。

 

「いや、閃かなくていいから。つーか、心を読むな」

 

「流し切りが……完全に入ったのに……」

 

「もうそういうボケいいから!ソウルスティール喰らってろ!……んで、お菓子だっけ?ふふん、ならこの俺に任せろ」

 

実は龍馬は地味に福岡のお土産のお菓子が好きである。どれが一番好きとかはないが、とにかく色々好きなのである。ならば自分の出番だ。

 

「じゃあ今日はテストも終わって暇だし、お土産用のお菓子でも見に行くか。勇斗、須崎、付き合えよ」

 

「おう」

 

「はいはい……って、私も!?」

 

しれっとお菓子選びメンバーに自分までをも加えようとする龍馬。

 

「なんだよ、暇なんだろ?」

 

「暇じゃないわよ!帰って今日のテストの復習をしようかと……!」

 

「だったらなんでお前今屋上にいんの?テスト終わったらさっさと帰れば良かったじゃん」

 

「う……」

 

痛いところを付いてきた。まあ、実際のところ暇でもなければ忙しいというわけでもないのだが、ただなんとなくここに来てしまったのだ。

いがみ合っていた龍馬達と交流するようになってからは大体昼食は屋上で龍馬達と取っているし、自分でもよくわからないが彼等の輪はなんとなく居心地がいいのだ。

生真面目で堅苦しい性格故に異性はおろか、同性の友達もほとんど出来なかった。

そんな中彼女と龍馬達の架け橋になってくれたのが、そうーーーーディレットだ。

初対面できつく当たったにも関わらず、彼女が遊びに誘ってくれたおかげで自分にもようやく居場所ができた。自分でもそれはわかっているのだ。

けれど素直になれずにいた彼女は未だにどこか強がっている節がある。

 

「ま、まあ……いいわよ……別に……」

 

「始めからそう言やぁいいのに……」

 

「うっさい!」

 

そう言って強がりつつも、結局は了承する千春。

他ならぬディレットのためだ。彼女の存在が自分と現状を変えるきっかけをくれた。ならば彼女のためにお菓子選びの付き添いをするぐらいいいではないか。……付き添いに誘ったのはディレット本人ではなく龍馬だが。

 

「決まりだな。じゃ、早速……」

 

「ちょっと待った!ほれ、みんな寄れ寄れ」

 

勇斗が急に全員を一ヶ所に集めてスマホをインカメラにして自撮りを始める。

 

「ほら!笑え笑え!」

 

と、言いながら自身はうるさい顔で有名な某男性声優のような顔でシャッターを切る。

撮り終えた写真を見てディレットは吹き出してしまった。

 

「ぷっ!何ハヤト、この顔!」

 

「なかなかイケメンだろ?」

 

いやゴリラだろ、と同時に心の中でつぶやく龍馬と千春。勇斗は今撮った写真のデータをLINEで全員に送る。

 

「写真送るんだろ?だったらこっちで楽しくやってるって友達の写真も送った方がディレットの父ちゃん母ちゃん安心するだろ」

 

「ハヤト……ありがとう!」

 

「お安いご用さ」

 

写真を確認し、四人は一旦帰って着替えてから集合することにした。

 

 

待ち合わせ場所は……博多駅前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍馬とディレットの二人は博多駅に向かうため、天神の地下鉄に向かっていた。

地下鉄天神駅は天神に点在する地下鉄階段を降りて天神地下街を中心まで行った先にある。

天神地下街はショッピングモールになっていてそこから天神ビブレ、天神コア、天神パルコといった天神各地域や施設と繋がっている。

地下と言えば暗いイメージしかないディレットにとって、とても明るく多くの人々が行き交う天神地下街は驚きの連続だった。

 

「すごい……!地下にこんな街があるなんて……!」

 

「街ってほどじゃねぇけどな。でも地下街としてはそれなりに広い場所だと思うぜ」

 

ブティックや喫茶店、本屋や化粧品店など多くの店が並んでいる光景にディレットは釘付けになっている。

まだ待ち合わせまでには時間もあるし、軽く見て回るくらいいいだろう。そう思いつつ龍馬はディレットとちょっとしたウィンドウショッピングを楽しむことにした。

 

「あ!リョーマ!見て見て!この服素敵!」

 

「どれどれ」

 

……

 

「わぁ!凄い!本が沢山!」

 

「いや、俺達の世界じゃかなり小さい規模だが……まあいいや」

 

……

 

「この"ふらぺちーの"って美味しいね!リョーマ、ありがとう!」

 

「どういたしまして」

 

……

 

 

店をある程度見て回り、喫茶店で飲み物を買ってから地下街中心にある地下鉄への入り口へ向かう。

改札にICカードをかざすためにカードを取り出したところで龍馬は気付いた。

 

「あ、そっか。ディレットはSUGOCA持ってないんだったな」

 

「"すごか"?」

 

SUGOCA(スゴカ)。JR九州が2009年より取り扱いを始めたサイバネ規格のICカード乗車券で、あらかじめカードに現金をチャージしておけばこれ一枚でJR九州の電車をはじめ、バスや地下鉄、西鉄の電車などに切符を買わずにスムーズに乗車できる。

また、コンビニなどの交通系電子マネー対応店舗であれば残高から買い物したり現金をチャージすることも可能だ。

ちなみにSUGOCAという名称はSmart Urban GOing CArdの略であり、「凄い」を意味する九州の方言である「凄か!」とかけている。

 

「……っていうカードでな」

 

「???」

 

「……あんまわかってないみたいだな。まあいいや。とりあえずお前の分の切符買おうか」

 

龍馬は券売機で天神から博多駅地下鉄までの切符を買うとディレットに渡す。

改札に切符を通すと機械に吸い込まれた切符が反対側から一瞬にして顔を覗かせたことにまた軽く驚くディレット。

彼女が改札に通した切符を取ったのを確認すると龍馬もSUGOCAをかざして改札を通り抜ける。

更にそこからエスカレーターで地下のホームに降りる。

5分後に電車がやってきて、ドアが開いた。

 

「これに乗るの?」

 

「ああ」

 

二人は電車に乗り込むと空いている席に座る。

 

「うう……なんかちょっと怖いな……」

 

「そっか、ディレットは電車乗るの初めてだっけ」

 

暗いトンネルの奥深くを突き進む得体の知れない"デンシャ"という乗り物。飛行機に初めて乗った時に比べたらまだマシだが、不安は尽きない。

 

「心配しなくてもあの世に連れていかれる訳じゃないから怖がるこたぁねーよ」

 

「う、うん……」

 

そうは言うが彼女はやはり不安なのか、キョロキョロとしながら不安な表情で隣にいる龍馬の腕にしがみつく。

 

「(!!)」

 

腕にディレットのふくよかな胸が当たって龍馬は心の中でたじろいだ。

ヤバい。柔らかい。ああ、やべえどうしよう。心臓バクバクいってきた。このシチュエーションいいんだろうか。あれ、俺今夢見てんのかな?ディレットって見た目より胸大きいな。ああ、クラスメイトにバレたら殺されるかも。

 

……龍馬の頭の中は様々な思考が巡っていてグチャグチャになっていた。

 

 

『次は博多。博多です』

 

車内のアナウンスに気付いた龍馬は照れ臭さを隠すように席から立ち上がる。

 

「ほ、ほら。行くぞ」

 

「え?う、うん」

 

二人は電車から降りて改札を抜け、地上の博多駅構内へ向かった。

博多駅構内へ出ると、地下鉄の駅よりも遥かに広い駅が二人を待っていた。

 

JR博多駅。

福岡の中心部を担う駅だけあって、かなりの規模を誇る駅だ。

駅にはJR線の他に新幹線も通っており、九州各地の県や本州への足としても重要なポイントとなる駅である。

旅行客や仕事での出張の利用客も多い博多駅は地上9階、地下1階で構成されているJR博多シティという名称の駅ビルであり、駅ビルとしては国内最大級の規模を誇る。

ビル内部には東急ハンズやレストラン街、映画館やお土産などを販売する各施設が揃っており、屋上には博多駅周辺を見渡せる庭園地下からは更に博多駅地下街や地下鉄とも繋がっている。

それぞれ博多口・筑紫口と二つの入り口があり、龍馬達の待ち合わせの場所は博多口広場にあるなんだかよくわからないモニュメントの前だ。

龍馬とディレットがやってくると案の定、千春が一番乗りである。こういう時だけは一番早いのが彼女だ。

 

「一番嫌そうな顔してた奴が一番ノリノリじゃねーか」

 

「う、うっさいわね。いいじゃない別に」

 

出会い頭にそんな会話をした5分後にゴリラこと勇斗がウッホウッホとやってきた。

 

「待たせたな!」

 

某伝説の傭兵風に言いつつ、目の前に現れた勇斗。ツッコむのもめんどくさいのでそのままスルーして博多駅構内へと歩を進める。

「無視すんな!!」と後ろから聞こえたが、「うっさい」という千春の一言に「はい」と黙る勇斗。

四人はJR博多シティ1階のみやげもん市場へと向かった。

 

「さて……何を買おうか?」

 

博多のお土産のお菓子は色々種類がある。ここでは試食もさせてくれるのでまずは色々食べてみてもいいだろう。

 

「おい、龍馬」

 

後ろから勇斗の呼ぶ声がした。後ろを向くとおかしなたれ目のお面を付けた勇斗がいた。

 

「たま~に~はけ~んか~に~ま~けてこい~……ってか」

 

「ごめ~ん」

 

おかしなやり取りをする二人を見てディレットは頭に3つほど?が浮かんでいた。

 

「スザキさん、リョーマとハヤトは何してるの?」

 

「あ~……あれはね、"にわかせんぺい"ってお菓子のCMのネタよ。福岡県民なら大体通じるわ」

 

"にわかせんぺい"とは福岡の郷土芸能である"博多仁和加"に使われる、目の部分だけを覆うたれ目のどこか愛嬌のある"にわか面"をかたどった甘い味付けの煎餅である。中にはおまけでにわか面が付いている。

なお、にわかせんぺいは漢字では"二○加煎餅"と表記する。注意してもらいたいのが読みが"せん『べ』い"ではなく、"せん『ぺ』い"である点だ。

間違えた人はにわか面をかぶって"ごめ~ん"と謝ろう。

勇斗がにわか面を売場のおばちゃんに返すと、四人の中に異界人であるディレットを見つけたおばちゃんが一枚せんぺいをくれた。

 

「……美味しい!」

 

少し固いが、甘い味付けと確かな歯応えにディレットは舌鼓を打つ。

 

「美味しいかい?そりゃよかった。ほら、こっちも食べてみなさい」

 

おばちゃんは次に白いものに黒紫色の何かが乗ったお菓子を出した。

一口食べると濃厚な甘味が口の中に広がり、柔らかいが弾力のある何かがとてもくせになる。

 

「博多ぶらぶらぶら下げて♪」

 

勇斗が突然歌い出す。

 

「あんにたっぷり包まれた♪」

 

龍馬も続けて歌い出す。

 

「あ~、一口食べれば忘られぬ~♪」

 

「テケテケテケテケ、テンテンテン♪テケテケテケテケ、テンテンテン♪」

 

龍馬と勇斗が歌っているのは今ディレットが食べた"博多ぶらぶら"という生菓子のCMの歌である。

博多ぶらぶらは求肥餅(ぎゅうひもち)を小豆餡でくるんだ生菓子であり、滑らかな舌触りの餅と濃厚なあんこはCMの歌の歌詞通り、一口食べれば忘られぬ(忘れられない)味だ。ただしあんこを使った濃い味の生菓子である以上、喉が乾くので飲み物は必須だ。

 

「これも美味しいね~」

 

「そうかい、そりゃよかった。あんこは日本人でも好き嫌いあるからね。異世界の人の口に合うかと思ったけど、気に入ってくれたみたいで良かったよ」

 

おばちゃんは嬉しそうだ。

 

「あ、ディレット、これオススメだよ。私好きなんだ」

 

そう言って千春が指差したのは"筑紫餅"と書かれた菓子だ。

 

「お、そっちのお嬢ちゃんは筑紫餅が好きだなんて若いのに通だね。ほら、食べてきな」

 

ディレットと千春は筑紫餅を一口分ずつ貰う。

親指大の大きさの餅にきな粉と黒蜜をかけた筑紫餅はふんわりとしたきな粉の甘みと黒蜜の濃い甘みが絡み合ってとても美味しい。

その後もディレットは博多のお土産として人気のあるお菓子を試食していく。博多めんべい、博多の女(ひと)、ひよこまんじゅう、とっとーと……目移りするほどたくさんのお菓子がある。

両親に送るお菓子を選びに来たはずなのに色々試食したせいで半ば自分が食べるためだけに来たみたいになっていたが、あまり深くは考えないでおこう。

 

……30分後。

 

「で、それでいいのか?」

 

「うん!これが一番美味しかったから……えへへ」

 

ディレットは龍馬、勇斗、千春のオススメやアドバイスを聞きつつ、ようやく贈るお菓子を決めて買った。手にはお菓子の入った紙袋が下げられている。

 

「確かにそいつは美味いな。お土産人気ナンバーワンだし」

 

「和菓子と洋菓子の良いとこ取りって感じよね」

 

どうやらお土産の中でも特に人気のあるお菓子を選んだようだ。果たしてディレットの両親の口に合うのだろうか。いや、きっと合うだろう。

 

「毎度あり~。また何かあったらうちに寄ってね~」

 

売場のおばちゃんは笑顔で四人を見送ってくれた。

みやげもん市場を後にした四人は一息つくために駅ビル屋上の庭園へ向かい、そこでラムネを買って飲みつつ展望台から博多駅の周辺を見下ろす。

 

「わあ……」

 

建ち並ぶビル、眼下を行き交う人や車、上空を飛ぶ飛行機。ディレットの世界では決して見れないであろう、異界の光景。

もっとこの世界を知りたい。いつまでこっちに居れるかはわからないがーーーー可能な限りこの世界を見て回ろうと思う。そんな思いを馳せながら見上げた青空を飛行機が横切っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在……異界側・トルトの森のディレットの実家。

娘が写る"シャシン"を見たのちに箱の中にある娘からの贈り物の箱を取り出すノーブル。

 

「異界の菓子か。ふむ、興味深い」

 

「あなた、早速開けてみましょう?」

 

「そうだな」

 

ノーブルは箱の包み紙を剥がしていく。中からは黄色い箱が現れ、その箱の中にはこれまた不思議な素材の袋に包まれた黄色い菓子が一個一個丁寧に包装されていた。

 

「ほう……これは……なになに?"ハカタ……トオリモン"……?」

 

少し包みを開けるのに難儀したが、なんとか二個開けてノーブルとマリアはその黄色い菓子を口にする。

 

「!?」

 

ノーブルは絶句した。

しっとりとしたやわらかい生地の中には濃厚な甘みの"何か"が口の中に広がる。

次の瞬間濃い甘みの後に香り豊かなバターのような味と甘みが優しく口の中に広がっていき、気付けば口の中に全て溶け込んでしまっていた。

 

「美味い!」

 

「とっても美味しいわね、これ!」

 

ディレットが厳選したお菓子。

それは博多土産でナンバーワンを誇る"博多通りもん"というまんじゅうである。

ただのまんじゅうではない。"傑作まんじゅう"とも呼ばれ、黄色い生地の中に詰め込まれた白あんの中には練乳とバターが練り込まれており、和菓子なのにまるで洋菓子のような味わいもあわせ持つ博多最強のお土産である。

 

「こんな美味い菓子は初めて食べた!これは美味い!」

 

「こんな美味しいものが存在するなんて……ふふっ、ちょっとディレットが羨ましいわね」

 

ノーブルとマリアは子供のように夢中になって博多通りもんを食した。

二人は娘に感謝しつつ、異界の美味を噛み締めたのであった。

 

 

 

一週間後……

 

 

 

「リョーマ、誕生日おめでとう!」

 

「馬鹿息子ももう17歳か。こないだまで鼻たれの泣き虫やったくせに」

 

今日は龍馬の17歳の誕生日である。

涼子がケーキやピザやフライドチキンなどを買ってきてくれていた。

 

「ほれ、誕生日プレゼント」

 

涼子が渡したもの。それは……

 

「うお!本革のレザージャケット!母さん、ありがとう!」

 

龍馬がいつも着ている安物のフェイクレザーではない、赤黒い本革のレザージャケットだった。

 

「せっかくバイク乗りよるのにいつま~いでもあげな安もんのフェイクレザーやったらカッコつかんやろ」

 

「ありがと、母さん!」

 

龍馬は早速ジャケットを羽織る。

 

「似合う?」

 

「とっても似合ってるよ、リョーマ!」

 

「なかなか様になっとるやんけ」

 

「じゃあ……私からはこれ!」

 

そう言ってディレットは小さな細長い箱を渡した。

 

「お、ありがとう!開けていい?」

 

「いいよ!」

 

「じゃあ、早速……おおっ!」

 

中に入っていたのは龍をかたどったネックレスだった。

 

「リョーコさんと二人で選んだんだよ。どうかな?気に入ってくれた?」

 

「なかなかカッコいいじゃん!どれどれ……」

 

龍馬はプレゼントの龍のネックレスを付ける。

シルバーの龍が鈍い輝きを放っていた。

 

「ふふっ、似合ってるよリョーマ」

 

「二人ともありがとう、大事にするぜ」

 

「そらぁ大事にしてもらわな、高ぇ金払ろうたんやけん」

 

誕生日の食卓には笑顔が絶えない。と、その時インターホンが鳴った。

 

「サイトウさーん。お届け物ですよー」

 

「はいはーい、ちょっと待っとってねー」

 

涼子が玄関に出ると、郵便局員のハーピーの女性がいた。

ハーピーはこちらの世界でも郵便局員としての腕前を発揮している。特に道の混む都心部ではビルの合間をぬって素早く配達できるハーピー達の強みは日本の郵便局からしても大きな戦力だった。

 

「あらっ!なんね、異界の人?」

 

「はい、ハーピーの一族です。こちらの世界で郵便局員として働いています。あ、これ小包とお手紙です。宛名はこちらにご在宅のディレット・アドミラシルさん宛てです」

 

「まぁ~……異世界まで来て働いて大変やねぇ……はいはい、ご苦労様」

 

「確かにお渡ししました。それでは失礼します」

 

ハーピーの女性は空へと羽ばたいて次の郵便物を配達するために飛び立っていった。

 

「ディレットちゃーん、手紙届いとるばーい」

 

「はーい」

 

ディレットが涼子から小包を受け取る。送り主はノーブルとマリア……ディレットの両親だ。

 

「お父さんとお母さんからだ!」

 

小包の中にはシルワ語で書かれた手紙とマリアが織ったエルフ生地のコースターが入っていた。

 

 

"ディレット、元気にしているようだね。この間はとても美味しいお菓子をありがとう。素晴らしい味だったよ。お礼に母さんが織ったコースターを送ります。余った分はお友達にあげるといい。"

 

 

「ほー、こら立派なコースターや。酒飲むのが楽しみになるね」

 

「リョーコさん、お父さんとお母さんからリョーコさんとリョーマにもメッセージが書いてあります」

 

「どれどれ……読めん」

 

シルワ語の文字で書かれた手紙は龍馬と涼子には読めず、ディレットに読んでもらうことにした。

 

 

 

"サイトウ・リョーコさん、サイトウ・リョーマ君、うちの娘がお世話になっております。シャシンで異界にいる娘の幸せそうな姿を見て安心しました。

感謝の印として妻の手作りのコースターをお送りします。あまり大きなものは送れないのでこれくらいしか出来ませんが、よろしければ受け取っていただきたい。

まだこれからも娘がご迷惑をかけると思いますが、娘をよろしくお願いします。

 

     ノーブル・アドミラシル、マリア"

 

 

「……ふーん、いいお父さんとお母さんやね。ほて、またこげな立派なコースターやらもろうてから……お母さんの手作りっち?ほな大事にせなね。じゃ、酒飲むけん早速このコースター使おうかね!……あら?」

 

涼子は冷蔵庫と戸棚を開けて何かを探している。

 

「しもうた……酒買うてくるの忘れた……龍馬!ちょっとあんた!ビールと焼酎買うてきちゃりぃ!ついでに煙草も」

 

「わ し 未 成 年」

 

「ほんっとあんたつまらん男やねぇ……そこは……こう……あんた、どげんかして都合ようしちゃりぃよ」

 

「その"都合よく"が出来たら拒否してません。都合よく出来ないから言ってるんです」

 

「あはは!」

 

 

しぶしぶ自分の足で近くのコンビニまで酒と煙草を買いに行く涼子。

その後戻ってきた涼子は酒を、龍馬とディレットは食事を楽しみながらいつまでも笑い声の絶えない誕生日会の夜を過ごしたのであった。

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