アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第124話 ルミナ帰還、アジト設営

12月に入り、いよいよ冬の寒さがより厳しさを増してきた。2016年も残すところあと一ヶ月足らずとなった今日この頃、街はクリスマス一色に染まっており、至るところでクリスマスソングが流れている。龍馬とディレットの二人はそんな街並みを眺めつつ、寒さに震えながら家路を急いだ。

 

「今年ももうクリスマスかあ」

 

「私、クリスマスは初体験だからワクワクしちゃうね」

 

年末のイベントはやはりクリスマスと年越しだろう。一年の終わりの二大イベントが近づくにつれて人々は慌ただしく動き始め、同時に胸を踊らせる。忙しくも賑やかな、年末が今年もまたやってくる。

 

「そういえばリョーコさんが言ってたよ。今年は大所帯になったから盛大にクリスマスパーティーをやるんだって!ご馳走もいっぱい準備してくれるらしいよ!」

 

「大所帯、ねぇ……」

 

確かにディレットを迎えてから養子として迎えたルビィ、キジムナーのアヤと予期せぬ家族が増えた。だが……

 

「……ルミナのやつ、いつ帰ってくるのかな……」

 

「あ……」

 

そう、大事な家族が一人足りない。ルミナは魔力を高める修行のために帰省してしまっているのだ。

父親であるアドニス王は「早ければ一ヶ月程度で帰れる」と言っていたが、未だにその兆しはない。そろそろ一ヶ月を過ぎた頃。出来ればクリスマスは……ルミナも揃って祝いたい。

しかし連絡が無い以上、こちらではどうすることもできない。ただ待つしかないのは歯痒いが、龍馬達に出来ることはそれしかないのである。

 

「「ただいまー」」

 

二人がいつものように帰宅すると、台所の方から母とアヤ、そしてルビィの「おかえりー」という声が聞こえてくる。そして靴を脱いで家に上がった瞬間、二人は信じられないものを目にした。

 

「リョーマ!ディレット!おかえり!」

 

「ああ。ただいま……って、えぇ!?」

 

「る、ルミナ!?」

 

なんと目の前にいたのはルミナ。突然の家族の帰還に龍馬もディレットも目を丸くして驚いた。

 

「お、お前!いつ帰ってきたんだよ!?」

 

「んー、今日のお昼くらい?転移魔法でね、ちょちょいのチョイッと……」

 

「何が"おかえり"だよコノヤロー!それはこっちのセリフだっての!」

 

「へへ……ただいま、二人とも」

 

一時的とはいえいなくなってしまっていた家族の一員との突然の再会を喜ぶ二人。ちょうどいなくなって寂しいなという話をしていたころに嬉しいサプライズである。

 

「こっちに帰ってきたってことは……修行の成果は?」

 

「そりゃもうバッチリ!そうだ、二人とも!ガレージまで来てよ!」

 

龍馬の襟を引っ張りながらガレージへ行こうと強く誘う。はいはい、と言いながら龍馬はディレットと共に彼女に連れられてガレージへと向かった。

ガレージの二階、バイクが停めてあるフロアの一角にルミナは着地し、そこで手に力を込めると魔力を一気に地面に放つ。

 

「やあっ!!」

 

青い光と共にルミナを中心として魔方陣が広がっていく。龍馬もディレットもおお、と目を見開いてその様子を見守る。

しばらくすると魔方陣の光が落ち着き、ぼんやりとした光を放つようになった。どうやらこれで完成らしい。

 

「さあ、二人とも!この魔方陣に入って!」

 

「え?入ってって、こりゃ一体……」

 

「いいから早く!入った、入った!」

 

ルミナに急かされて龍馬もディレットも仕方なく魔方陣を踏む。すると魔方陣の光が再び激しさを増し、龍馬達二人を完全に包み込んでしまう。

 

「「うわあっ!?」」

 

視界は完全に白い光に包まれて見えなくなり、不思議な浮遊感を僅かに身体に感じる。徐々に身体の感覚がはっきりしてきたと思うと龍馬とディレットの目の前には全く別の光景が広がっていた。

 

「リョーマ……!」

 

「ここは……まさか……!」

 

ガレージではない、しかし見覚えのある別の光景。石と木で作られた殺風景な空き家の一室。二人がその家から出ると博多の街並みではない、"別の世界"が広がっていたのである。

 

「「帝都……!」」

 

そこは間違えるはずもない、アルカ帝国の帝都。北東の宿屋街の一画にある空き家の前だった。

 

「へへーん、驚いた?私の強化された転移魔法だよ!」

 

かつては自分だけしか転移をさせられなかったルミナ。だが里での修行の成果により、その身体の魔力を大きく増幅させて更なる強力な転移魔法を実行することに成功した。

 

「今ならバイクや自動車をこっちの世界に持ってくることも出来るよ!」

 

「そりゃいいや!これで長ったらしい旅はしやくて済むな!」

 

今までなら飛行機とフェリーを経由しなければならず、バイクを持ち込むなら門司港からのフェリーと東京のフェリーを使わざるを得なかった。

だがこれならどうだ。自宅から一瞬でやってこれるし、バイクも持ち込み放題というのはありがたい。確かこの空き家も古くて買い手が付かないからソフォスからは好きに使っていいとまで言われているので気兼ねなく使える。皇帝様々だ。

 

「でも少し制限があるからね。魔方陣には入口と出口が必要なの。出口の魔方陣を設置してない場所には行けないの」

 

「なるほどな。前にも言われた通り"一度行った場所しか行けない、ファストトラベル"ってことだな」

 

入口がある以上は出口が必要だ。魔方陣を行き先に設置しておかねば移動は出来ない。未知の場所への転移などそう都合良くは出来ないということだ。

 

「そうだ、私がいなくても魔方陣を使えるようにリョーマ達にこの術式を組み込んでおくね。……はっ!」

 

ルミナが光を放ち、光はそれぞれ龍馬のネックレスとディレットの首飾りに宿り、そして消えた。

 

「二人の首飾りに転移の術式を組み込んでおいたよ。これなら私がいない時でも自由に魔方陣を使ってファストトラベルが出来るよ!」

 

つまりはこの術式が宿ったアクセサリーが魔方陣を使う"鍵"となるわけか。なるほど、これなら第三者に悪用されることもない。セキュリティも万全だ。

 

「ルミナ様々だな。しかし……」

 

「?どうしたの、リョーマ?」

 

「ただ単に"魔方陣"って呼ぶのもなあ……」

 

転移の"魔方陣"では何となく捻りがないのではないかと言う龍馬。それに"魔方陣"という言葉を安易に使いすぎては万が一第三者に聞かれた時に不安を煽ったり探りを入れられるのではないかと龍馬には不安があった。そこで別の名称を考えることにする。

 

「そうだな……転移の魔方陣……入口と出口…………お、"ポータル"なんてどうだ?」

 

ポータルは英語で"入口"、"玄関"を表す言葉だ。転移の術にはピッタリの名称ではないか。

 

「ポータル……いいね!かっこいいし!」

 

「じゃあ私の"転移の魔方陣"はこれから"ポータル"って呼ぶことにするね!」

 

魔方陣の名称も決まり、次に何をするかを考える。せっかくの新たな拠点だ。自分達だけで使うのは些か勿体ない。

 

「リョーマ!今度の休みにハヤトとチハルも呼ぼうよ!」

 

「そうだな、あいつらにも報告を兼ねて招待しておくか」

 

龍馬はそう言うと早速スマホを手にして二人にメッセージを送ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週末の土曜日。この日、龍馬とディレットはルミナの魔方陣……もとい、ポータルに勇斗と千春を案内した。ガレージにあるポータルに立つと彼等の姿は消え失せ、代わりに帝都の北東にある空き家の一室に現れた。

 

「おお~!すげぇな、おい!マジで瞬間移動じゃん!」

 

「ルミナのポータル……凄いわね」

 

今まで自身しか転移出来なかったルミナがこうして修行の成果により、龍馬達を転移させることができたのだ。勇斗と千春もその技術に驚きを隠せない。

外へ出るとあの帝都の日常が広がっており、ようやく面倒な交通手段を使って時間と金をかけて来る必要はなくなったのだ。

 

「ところでこの家……」

 

千春が背後にある空き家を見上げる。木造の二階建てだが……木は所々黒ずんでかなり年季が入っている。換気もまともにしてないせいか、家の中は埃っぽい。

 

「だいぶ汚いわね……せっかくの転移先なんだから掃除しちゃわない?古いとはいえ家をタダでもらったんだから……ここを私達の"アジト"にしましょう?」

 

アジト。何と少年の心をくすぐる響きだろうか。秘密基地とかアジトとか、男の子はそういうものにいくつになっても憧れるものだ。アジトという言葉を聞いて千春の提案をすぐに全員が呑んだ。

 

 

 

━━━━それから"アジト"の掃除が始まった。窓を開けて換気し、溜まった埃を掃除する。一部の掃除道具は龍馬の自宅から引っ張り、そしてようやく四人がかりで汚れた空き家であったアジトの掃除を終えた。手入れを施したことで古い家とはいえ、埃まみれの時とは見違えるようになった。

 

「なあなあ、せっかくのアジトだしさあ。色々家具とか置こうぜ」

 

勇斗の言うとおり、確かに家具も何もない家では住むわけではないとはいえ少々殺風景だ。せめて家具くらいは置いておきたい。

 

「そうね。せめて一階の居間にはテーブルと椅子くらいは欲しいわ。あとは適当にラックとか本棚かしら」

 

千春のその提案により再び日本に戻ると龍馬の家の物置に使っていない昔の古いテーブルがあったのでそれを龍馬と勇斗が協力して運び込む。あとは椅子だが……。

 

「椅子の余りはうちには無いなあ」

 

「じゃあ、ニコラスさんのところに頼みに行ってみましょ。確か家具だって作ってくれるはずよ」

 

ここから南の商業地区に行けばニコラス率いる建築ギルド"不動の大引き"がある。彼等なら椅子などお手のものだろう。

……よく考えたらテーブルも彼等の元で新しいのを作ってもらった方がよかったのでは?と考える龍馬だったが敢えて何も言わないことにした。

 

「じゃあ、みんなでニコラスさんのところに行きましょ」

 

「待った、須崎。ここは二手に別れよう。お前とディレットはニコラスさんのギルドに、俺と勇斗とルミナはちょっと行きたいところがある」

 

「……?別にいいけど、どうしたの?」

 

「まあ、後でわかる。それより家具の件、頼んだぞ」

 

龍馬には何か考えがあるようで、二人に家具を任せると彼は勇斗とルミナを連れて再び自宅に戻る。

 

「龍馬、一体何なんだ?」

 

「"武器"の件だよ。正確には"弾薬"だ。お前と須崎もルシアンテから銃もらっただろ?弾薬の補給をしなきゃならないのにいちいち忘却の谷まで陸路で行かなきゃならないのは鬱陶しいからな。ルミナのポータルを設置しに一度二人で忘却の谷まで行こうぜ」

 

「なるほどな。確かに一理ある」

 

「はい、そうと決まればバイクを用意するぞ。ルミナ、勇斗の送り迎えを頼む」

 

「ラジャ!」

 

この世界で唯一銃器を取り扱い、弾薬を補給してくれるルシアンテ。もちろん弾薬には限りがあるため、銃器を扱い続けるためには彼の協力が必要不可欠だが、弾薬が無くなるたびにいちいち忘却の谷まで行くのは効率が悪すぎる。いつ銃器が必要になるかわからない時にこんな非効率なやり方は避けたいところだ。

そこでルミナのポータルを設置するために一度忘却の谷まで行こうというわけである。勇斗のバイクを用意するため、ルミナは勇斗のそばについて転移を開始した。

数分後、ガレージ内にバイクを用意した勇斗が転移によって帰還。再びガレージのポータルで今度は龍馬も一緒にバイクを用意して帝都に転移する。が、しかし……

 

「せ、狭い……!」

 

「いかん、部屋の中が転送先だったことすっかり忘れてたわ」

 

バイクを抱えたまま部屋の中のポータルに転移してしまい、部屋から出られなくなった。仕方なく家の外までルミナが一人ずつ転移させる。

ようやくバイクに跨がった二人は帝都の北門に向かい、忘却の谷に改めて向かった。

 

 

 

 

 

 

 

アジトに戻ってきたのは昼過ぎ。帰りはポータルがあるので楽だったが、帰るなり千春から「遅い!どこ言ってたのよ!」とお叱りを受ける羽目になる。

龍馬と勇斗、それにルミナの三人で向かったルシアンテの店……もとい、洞窟の奥にポータルを設置してきた。これでいつでもルシアンテの店に行けると龍馬は千春とディレットに説明する。ついでに予備の弾薬もいくらか買ってきた。ある程度はアジトで補充出来るように、だ。

ひとまずアジトにテーブルと椅子が揃ったので持ち込んだお菓子とジュースでこれからのことを話し合う。

 

「こうなると武器も保管したいな。いつまでもグレンディルさん頼りじゃあれだし」

 

「んじゃガンロッカーでも買わねえか?あれただの家具扱いだから通販でも買えるだろ」

 

武器を保管したいと言う龍馬に対して勇斗はガンロッカーを勧める。ガンロッカーは日本で猟銃やエアライフルなどの銃を保管するために使われる銃器用のロッカーだ。盗難による悪用を防ぐために非常に強固な造りと複雑な構造の鍵があり、保管にはうってつけである。

 

「バカ!通販で買ったら届いた時に母さんにバレるだろ!」

 

「それじゃこうしましょ。ディレットがああしている間に斎藤がこうして…………」

 

「………………なるほど!須崎、なかなかお前悪知恵が働くな!」

 

「悪知恵は余計だっつーの!」

 

ガンロッカーなど通販で頼んでは到着時に母の涼子に見つかって何を言われるかわかったものではない。そこで千春のある作戦を実行することにした。

 

「来週の日曜日にまた集まりましょう。斎藤は言われた時間にガンロッカーが届くようにして」

 

「ラジャー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「斎藤さーん、お届けものでーす!」

 

「はいはーい!」

 

梱包されたガンロッカーが週末の金曜日、龍馬の家に届いた。宅配の人にガレージの一階の方へ運んでもらうように頼むと伝票にサインをして宅配業者が去ったことを確認してから龍馬はガレージの二階で待機していた勇斗と共にガンロッカーを運ぶ。

 

「重っ……!おいゴリラ、早くしろ!親父と母さんが帰ってくるだろ!」

 

「わかってるっつーの!」

 

現在、この家には龍馬と勇斗の二人だけだ。基本的に父は19時前後に帰宅する。時刻は現在18時半。ディレットとルミナには千春の入れ知恵で涼子やルビィ、アヤを買い物に連れ出すように指示してある。

だが涼子達が出発したのは17時頃だ。時間指定で17~19時にしていたがかなりギリギリである。涼子どころか龍一郎も帰ってきそうだ。ディレット達にはなるべく時間を稼ぐように言ってあるが……。

 

「急げ!ポータルに運び込むぞ!」

 

ポータルの上にガンロッカーを運び、自分達も向こう側へ転送する。家のなるべく目立たない位置に運んですぐにまた自宅へと戻った。

 

「あー疲れた。なんとか間に合ったな」

 

「だな。俺も今日は帰るわ。龍馬、またな」

 

勇斗は運搬係のみの役回りだったのですぐに帰る。龍馬の両親に色々勘ぐられてはまずいからだ。特に涼子は勘がいい。彼女が帰ってくる前に撤退するのが吉だ。梱包されたガンロッカーの開封も日曜日に皆が集まってからにしよう。

 

 

 

そして日曜日。ルミナを含めた龍馬達五人はアジトに集まり、いよいよガンロッカーの開封の儀が始まる。

 

 

「「「「「おお~……!」」」」」

 

 

映画などで見る銃を保管するためのいわば武器庫。龍馬がそのガンロッカーの梱包を外すと普通のロッカーとは違うその重厚な造りと外観に皆感嘆の声を上げる。ロッカーというよりはまるで金庫のようだ。

この中にはライフルやショットガンなどを五丁までしまうことができる。さらにもう二つ買っておいた小型のガンロッカー。こちらは一方がピストル用でもう一方が弾薬用だ。

 

「これで安全に保管出来るな」

 

「いえ、まだよ。この家は古いわ。ガラスを破られたり鍵をこじ開けられたりしたらロッカーごと盗まれる可能性もあるわよ。家全体のセキュリティが万全になるまではこの家の地下に隠すべきよ」

 

千春の言うとおり、この空き家は古い。鍵も古くこじ開けられる恐れがある上に、ガラスなどを破られればひとたまりもない。

そこでガンロッカーは地下通路に隠すことにした。この家はかつてルビィが隠れ家として使っていた地下通路に繋がっている。隠すならそこが安全だろう。龍馬と勇斗は協力して床下にある地下の隠し通路へと運んだ。ここなら万が一泥棒に侵入されても銃器や弾薬を盗まれる恐れはないだろう。

 

「じゃ、グレンディルさんの店に銃を取りに行くか」

 

「そうね……いや斎藤、ちょっと待って」

 

「はあ……今度は何だよ?」

 

またしても龍馬を遮った千春。今度は何かと思いきや千春は意外な事を口走った。

 

「ポータルを忘却の谷に置いてきたんでしょ?ちょっと私を連れてってくれない?」

 

「いいけど……一体なんだ?」

 

「ちょっとルシアンテに話があるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや……さっきは龍馬と勇斗が二人で来たかと思ったら……皆さんお揃いで。もしかしてビジネスの話かい?」

 

ルシアンテはパイプの煙をふかしながら部下のスケルトンと共にチェスに勤しんでおり、その駒を動かしながら今度はゾロゾロとやってきた龍馬達を見た。そんなルシアンテに千春が近づいて一言、放つ。

 

「ルシアンテ。"M79グレネードランチャー"はあるかしら?」

 

その言葉にルシアンテの動きがピタリと止まる。彼は一息口からふう、と煙を大きく吐くとパイプの灰を捨てて傍らに置いた。そしてチェス盤の片付けを部下に任せるとおもむろに立ち上がり、千春の方をギョロリと見た。

 

「ほう……?ロクに銃の名前も知らなかった暴力反対派のお前がグレネードランチャーとはどういう心境の変化だ?」

 

「そんなのどうだっていいでしょ。んで、あるの?ないの?」

 

「…………」

 

千春がグレネードランチャーなどと言い出したことに龍馬達も驚きを隠せない。あのミリタリー要素とは無縁の千春が、だ。そんな龍馬達をよそに千春とルシアンテは話を進める。

 

「お前は運がいい。少し待ちな」

 

ルシアンテはそういうと洞窟の奥へと姿を消した。そして待つこと五分。再び彼が姿を表す。

 

「ほらよ、ご注文の品だぜ。一丁だけ壊れたヤツが流れ着いたのを俺が直したんだ」

 

ルシアンテが台の上に置いた銃。それは紛れもなく千春が所望したM79グレネードランチャーだ。

M79グレネードランチャーは1961年にアメリカ陸軍に導入されてから1971年の生産終了までに使用されていた中折れ式単発の擲弾発射器であり、焼夷弾、爆発を引き起こす榴弾に加えてダーツ型の矢を撒き散らすフレシェット弾などの殺傷弾に加えてスモーク弾やゴム・スポンジ弾などの非殺傷弾も使用できる。

先ほどの通り既に生産は終了しているが、一部の途上国の軍隊や武装勢力などでは未だ現役で使用されているところもある。

 

「……弾は何種類あるのかしら?」

 

「榴弾とスモーク弾、それにフレシェット弾だな。あと暴徒鎮圧用のゴム弾だ」

 

「結構よ。そうね……とりあえずそれぞれ20発ずつ弾を売ってくれない?」

 

「ヒッヒッヒ……毎度あり。千春、なかなかいい面構えになったじゃねぇか。弾薬と合わせて……そうだな、5万トラムで手を打とう。今ならランチャー弾頭用の弾帯もおまけしてやる」

 

「OK、買うわ。お金はこれでいい?」

 

千春は躊躇することなく金貨が詰まった袋をドサリと置いた。ルシアンテと部下のスケルトンが金額を確認し、再び袋へしまう。

 

「確かに。じゃあ、早速練習していくか?」

 

「ええ。扱い方を教えてくれる?」

 

「……全く、どういう心境の変化なんだか。やたらアグレッシブになったじゃねぇか。まあいい。射撃場に来な。ただし落盤の危険性があるから撃つのは訓練用の鉄製模擬弾薬のみに限らせてもらう」

 

「いいわ。ちゃっちゃとやりましょう」

 

呆気に取られている龍馬達をよそに千春はグレネードランチャーのスリングを肩にかけて射撃場へと向かう。射撃場でルシアンテに使い方を教わり、訓練用の弾薬を指定したエリアに落下するようランチャー仕様の訓練メニューで試射をこなす千春。それを見てルシアンテも内心感心していた。

 

「(あの堅物の千春がここまでやるとは。こいつこの短期間でかなり予習したな。奴の目には迷いがない。そして何か"キッカケ"を掴んだか……ヒッヒッヒ……こいつは面白い)」

 

人は変わるものだな、とほくそ笑むルシアンテ。試射を終えた千春は正式に彼との取引を完了し、満足げな顔で新しい"相棒"を担ぐと龍馬達と共にポータルで帝都へと戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジで須崎どうしちまったんだよ、まるで別人じゃねぇか」

 

「斎藤ん家でFPSやらせてもらったでしょ?あれから色々銃の種類や運用方法が何となくわかってきたから自分なりに何が合ってるかを考えたのよ」

 

あのFPSをきっかけに千春は自分なりに何が運用しやすいかを考え、その結果辿り着いたのが龍馬にも尋ねたM79グレネードランチャーである。殺傷力の高い榴弾やフレシェット弾に加えてスモーク弾などもあれば相手を殺傷せずに無力化したり万が一の場合は逃走したりできる。それでいて構造が単純、尚且つ千春でも持ち運べるほど小型という様々な要素を満たしているためこれが一番合っているのだ。

そして現在。今彼等は自分達の武器を取りにグレンディルの鍛冶屋へと足を運んでいる。再び顔を合わせた龍馬達をグレンディルはいつもの笑顔で応対した。

 

「リョーマ達か!なんだ?今日は全員揃って旅行か?こないだニホンに帰ったんじゃなかったのか?」

 

「あまり大声じゃ言えないんですが、向こうとこっちを簡単に行き来する手段を手に入れたので……今は北東にある空き家を拠点にしてます。なので俺達の武器を引き取りに来ました」

 

「ふむ。あそこの家か。それと武器……あの小さい大砲のようなヤツのことじゃな。なるほど、ちょっと待っておれ」

 

グレンディルは店の奥に引っ込むと龍馬達が預けていた銃器と弾薬、それにホルスターなどの装備品を取り出してきた。龍馬達はそれを回収し、身に付ける。

 

「ありがとう、グレンディルさん」

 

「いいってことよ、リョーマ。それよりお主らにちょっと話があるのだが……」

 

何やらグレンディルは神妙な面持ちで話を切り出す。彼がこんな表情をするとは珍しい。一体何があったのだろうか。

 

 

 

 

 

「お主ら……森に出現したオークの調査に行く気はないか?」

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