アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第125話 モンスターの村

「オークの調査……ですか?」

 

「商人達が話しているのを少し聞いたくらいじゃがな。どうやらピャルナチの森で普段は現れないはずのオークを見かけたとの情報があったらしい」

 

オークは緑色の肌を持つ巨漢のモンスターで、特徴としては非常に好戦的かつ残忍で、人間を見かけると襲い掛かり、その肉をも喰らうというトロールに似た亜人種モンスターだ。

本来ならこの帝国領ではあまり見かけないはずなのだが、そんなオークがピャルナチの森に現れたという噂がこの帝都にまで広がっている。もし商人達の重要な流通ルートであるピャルナチの森にオークが集落でも作ってしまおうものなら流通に影響が出てしまう。もちろんそれはグレンディルとて例外ではない。

 

「オークが何体いるかもわからんし、あやつらは兵士達でも手こずる存在だからのう。そこへ行くとリョーマ、お主らは異界の武器やらなんやらを持っていて心強い。どうじゃ?ひとつ頼まれてはくれんか?もちろん、無理にとは言わんが……」

 

相手は危険なオークだ。だがグレンディルには武器の管理で世話になっている恩がある。それを考えると突っぱねるわけにもいくまい。龍馬はすぐに了承した。

 

「わかりました。調べてきます」

 

「おお、そうか!それはありがたい!くれぐれも気を付けてな。無理をせず、危ないと思ったらすぐに逃げるようにな」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってアジト。四人はそれぞれ銃器と弾薬のチェックを行う。ルミナによる直接の転移で千春のバイクも持ち込んで、オーク調査の準備に取り掛かる。

 

「しかし須崎、一番反対すると思っていたお前がまさか素直についてくるとはな」

 

龍馬は意外だった。こういう時真っ先に反対する千春が何も意見せず、龍馬達のオーク調査に付き合うと言い始めたのだ。勇斗に至っては槍でも降るんじゃないかと苦笑する。

 

「相手が人間ならまだしも知能の低い凶暴なモンスターでしょ?それも見境なく人間を襲うなら四の五の言わずにブッ殺した方が早いわ」

 

「お前マジでどうした」

 

以前の千春とはまるでキャラが違う。とても風紀委員をやっているとは思えないその変貌ぶりに龍馬は困惑してしまう。千春は先ほど買ったばかりのグレネードランチャーを確認すると、銃身を折ってそこに弾頭を込める。

 

「人に危害を加えるようなケダモノは……木っ端微塵にしないと……ね」

 

「お前それ撃ちたいだけだろ」

 

どう考えても彼女はグレネードランチャーの榴弾を撃ちたがっているようにしか見えない。未だ訓練用の弾頭しか撃ったことがないため、爆発を引き起こすランチャーの主要弾薬である榴弾を撃ちたくて仕方がないといった感じだ。おそらくあのFPSのせいで暴力反対な千春が爆弾魔(ボマー)になってしまったのであろう。

弾薬と銃器、装備品の確認が終わると龍馬は地図を広げ、状況を確認する。

 

「さて……目的地はピャルナチの森だな。んで目的は……」

 

「エロ同人の竿役を狩りに行くんだったな?」

 

「草」

 

「ゴリラはその言い方やめろや。あとディレットは草を生やすな」

 

「リョーマ、"くっ殺"が足りないんじゃない?」

 

「ルミナも少し黙れや。どこで覚えたんだそのワード」

 

その筋の人間にしかわからないネタが飛び出す状況に龍馬は悪態を付きながら地図上にあるピャルナチの森の北側を指差した。

話によれば整備された街道から北側に歩いていくオークらしき後ろ姿を見かけたとの情報だ。あくまで"らしき"なので正確にはまだオークと決まったわけではないが……用心に越したことはない。龍馬達は万全を期して装備を整え、バイクに乗り込んだ。

 

「しゃあ、行くぜみんな!」

 

"「「「「おー!」」」」"

 

ヘッドセット越しに聞こえるメンバー達の声。ちなみにルミナは龍馬のバッグの中だ。バイクを発進させ、帝都の人々が龍馬達に手を振る中、東門から龍馬達はアルカ平原へと出発する。

そういえばこの四人でこうして異界の地を走るのは久しぶりかもしれない。まだあの時は千春が勇斗の後ろに乗っていたが、そんな彼女も第二の愛車を手に入れた。武器も手に入れて頼れる存在へと昇華しつつある。

平原の街道を抜けて龍馬達はアテリ村へと辿り着いた。一旦ここで休憩し、村の人々と交流しつつ再び東へ向かい、ピャルナチの森を目指す。

森へ入ると美しい緑の木々と木漏れ日が醸し出す情景、そして小鳥達の(さえず)りが聞こえ、オークが潜んでいるなどという不穏な空気は一切感じられない。

街道の真ん中まで来ると北側に向かうために龍馬達はバイクを木々の間に隠して徒歩で歩く。

 

「本当にオークなんているのかなぁ?私も長いこと生きてるけど、トロールならまだしもオークを帝国領でなんて見たことないよ?」

 

「ディレットですら見たことないのなら本当はオークなんていないかただのでかい木こりのおっさんか何かを見間違えたんじゃないか?」

 

草木をかき分け進む龍馬達。しかしオークどころかさっきから見かけるのは小さな野生動物ばかりである。実はオークなどいないのではないか━━━━龍馬達の頭にそんな考えがよぎり始めた。

 

「つまんないわね。早くコイツをぶち込んでみたかったのに」

 

「委員長が物騒すぎて草も生えない」

 

やはり千春は肩にかけたグレネードランチャーを使いたくてたまらないらしい。発言が恐ろしすぎて千春の後ろを歩いている勇斗は密かに戦慄していた。

 

「ったく、骨折り損かよ。やっぱりオークなんているわけ…………って、うわあああああ!?!?」

 

「え?……わあああああ!!!!」

 

龍馬がぼやきながら大木を曲がった瞬間、"それ"は現れた。目の前に二メートルをゆうに越える緑色の巨体が不意に現れたのである。それは紛れもなくオーク。慌てて右手のモーゼルを構える龍馬に各々の銃を構えたディレット達三人。

しかし様子が変だ。オーク自身も慌てて悲鳴を上げながら後ろに尻餅をついてしまっているのだ。

 

「や、やめてください!私は薬草を取っていただけです!どうかその武器のようなものを下げていただきたい!」

 

オークは流暢な言葉を話し、敵意がないことを龍馬達に示した。よく見るとこのオーク、背中に薬草やキノコの入ったカゴを背負っており、さらに丸眼鏡をかけている。上下茶色い革の半袖シャツに半ズボン、さらにはブーツといった出で立ちだ。

 

「オークが……言葉を話してる……!?」

 

ディレットは驚いた。確かオークは人間と会話が出来るほど知性は高くない凶暴なモンスターのはず。だがこのオークはどうだ。獲物の肉の代わりに人間やエルフのように薬草とキノコを集め、さらには丸眼鏡をかけて人間らしく振る舞い、流暢な言葉まで話している。それは人々が知っているオークのイメージとはあまりにもかけ離れた姿だ。龍馬達は銃をしまうとオークの話を聞いてみることにした。

 

「俺達はこの森にオークが出たって噂を聞いて調査に来た。それはあんたのことか?」

 

「ええ……ええ……それはおそらく私で間違いないでしょう。なるべく人に見られないように気を付けてはいたのですが……失礼、自己紹介が遅れました。私はローランド。以後、お見知りおきを」

 

ローランドと名乗るそのオークは丁寧にお辞儀をすると眼鏡をつまんで位置を直した。その仕草はおおよそオークとは信じがたい。

 

「立ち話も何です。私が住む村へ来て下さい。村と言っても私を含めて四人しかいませんが」

 

そこに突っ立っていても仕方がないので龍馬達はローランドについていくことにした。木々の間を抜けてしばらく行くと開けた場所が見えてくる。そこには二つの小屋と広場の真ん中に焚き火が存在するだけの、とても村とは言い難い場所に辿り着いた。

入口には謎の大きな岩が鎮座し、焚き火の前では牙と角の生えた赤い肌の大男が弓矢の手入れをしており、小屋の前では洗濯物を干している長い黒髪の少女らしき後ろ姿が確認できた。

 

「サルーン、ただいま戻りましたよ」

 

「おう、ローランドか。……って、何だその後ろの人間どもは?」

 

「落ち着いて。彼等は私が招き入れたのです。不思議な出で立ちをしていますが悪い人達ではありません」

 

「……ふん、まあいい。俺の仕事の邪魔だけはするなよ」

 

赤い肌の大男はぶっきらぼうにそう言うと再び弓の手入れに戻った。

 

「オーガ族……!」

 

「え?」

 

ディレットは赤い肌の大男を見て驚いた。それはディレットも実際に見るのは初めての種族だったからだ。

 

「主に東の大陸に暮らしているオーガ族……こちらの大陸では非常に珍しい種族よ。それがどうしてここに……!?」

 

「なんだ、エルフの女?オーガ族が西の大陸で暮らしてちゃ悪りぃのか?あぁ?」

 

「いや、そんなことは……」

 

このオーガ、見た目通り血の気が多いようだ。あまり刺激しない方がいいかもしれない。

まあまあ、とローランドはオーガのサルーンをなだめるとカゴを足元に置き、洗濯物を干している少女に近付いた。

 

「エルザ、ただいま戻りました」

 

「あら、ローランド。おかえりなさい。薬草は取れたかしら?」

 

「ええ、今日はいつもより多めに」

 

「そう、よかった」

 

少女はローランドの方を振り返り、にこやかに微笑む。だが龍馬達はその少女の顔を見て驚愕した。

 

 

 

 

この少女、目が一つしかないのだ。

 

 

 

 

 

黒く、長い髪。そして華奢な身体つき。そこまでは普通の人間だ。だが顔面にはまるでゲイザーのような巨大な眼球が一つ。しかもよく見ると前頭部に短い角が生えている。鼻や口といったパーツは普通なものの、やはりその異質な単眼がどうしても目を引く。

 

「ローランド、そちらはお客さんかしら?珍しいわね」

 

「はい、この近くで出会った方々です」

 

「そうなのね。ふふ……私の目が珍しいんでしょう?無理もないわね。私は数少ない"サイクロプス族"の生き残り、その末裔だもの」

 

サイクロプス族……それは遥か昔に存在した一つ目の巨人の一族である。だが変化しゆく環境、そして度重なる太古の戦争など様々な要因によってその数を減らしていった一族だ。

今では他種族や人間との血の交わりによってかつての巨体を持つものはほとんどいなくなり、角と一つ目以外は人間と何ら変わらない存在となってしまった。

 

「この見た目だからね。迫害されるとまではいかないけど……やっぱり人間が多い場所だとあまり受け入れてもらえなくて。たまたま辿り着いたここに住まわせてもらってるの」

 

「は、はあ……」

 

エルザはクスリと笑い、笑顔を見せた。目が一つしかない分、表情の変化が大きくてよく見るとなかなか魅力的である。そんな彼女を見て勇斗が龍馬に耳打ちする。

 

「(お、おい龍馬。俺、新しい性癖に目覚めそうだわ……単眼キャラ……いいかもしれねえ……)」

 

「(それ今言うことかこのブタゴリラ!後にしろ後に!)」

 

「……?どうしたの?」

 

「い、いや!何でもないです!き、綺麗な目ですね!」

 

「あら、そう?ありがとう、お世辞でも嬉しいわ」

 

「エルザ、お客人にお茶を淹れたいのですが……手伝っていただけますかな?」

 

「ええ、もちろん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか……皆様は異世界の国から。いや、かねがね異世界の噂はお聞きしておりましたがそちら側の世界の方々のお会い出来るとは……光栄でございます。ささ、まずはお茶をどうぞ」

 

ローランドはエルザと共に木のコップに淹れた茶を差し出す。この茶……とても香りがよい。森に住まう者の定番の茶といえばルサヌ豆茶が主流だが、この茶は豆の香ばしさのような香りではなく、ハーブのような優雅で優しい香りが漂ってくる。

 

「あ……美味しいわ、このお茶」

 

一口飲んだ千春がふう、と一息ついてから味の感想を語る。

 

「そうでしょう。私が薬草を配合して作った薬膳茶です。飲めば精神のリラックス効果や疲労回復、保温作用に血行の促進など様々な薬効がありますよ」

 

そう言ってローランドは再び眼鏡をつまみ上げた。確かにこの茶を飲んでいると不思議と気持ちが落ち着き、まるで温泉にでも浸かっているかのように身体が暖まってくる。そして何より美味い。龍馬達はあっという間に飲み干してしまった。

 

「おかわりもありますよ。よろしければどうです?」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

龍馬がローランドに空になったコップを渡したその時、外からサルーンの怒号が聞こえた。さらには複数の悲鳴まで聞こえてくる。何事かと慌てて龍馬達が外に飛び出すと三人の傭兵らしき男女がサルーンに弓矢を向けられ、さらに巨大な岩に取り押さえられている。

……いや、違う。ただの岩ではない。人型の岩……あれはゴーレムだ。しかも取り押さえられている三人、見覚えのある顔だ。

 

「オレたちの村、手を出す、許さない。オレたち、普通に、暮らしたい、だけ」

 

ゴーレムがたどたどしく言葉を話した。どうやら自我があるようだ。

 

「いてて、やめろ!わかったから!」

 

「痛い痛い!大人しくするから離してくれ!」

 

「いたた……!力入れすぎ!もうちょっと優しくしてよ!」

 

その三人は龍馬とディレットには見覚えがあった。男性二人、女性一人の冒険者達。スレイド、ラファエル、フェリアの三人組だ。

 

「スレイドさん達……!?」

 

「どうしてここに……!?」

 

「お前ら……リョーマにディレットか!?なあ、助けてくれ!何もしないからってこいつらに説明してくれよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?ささ、どうぞ。私特製の薬膳茶です」

 

「あ、ああ……サンキュ。いや、まさかオークにもてなされる日が来るなんてな」

 

龍馬達とスレイド達は顔見知りだったおかけですぐに解放された。どうやら彼等もオークの噂を聞きつけてギルドの仕事の依頼としてやってきたらしい。そこでサルーンとゴーレムの挟み撃ちにあい、今に至るというわけだ。

焚き火の前に座って龍馬達に振る舞われたのと同じ薬膳茶を三人は飲む。ちなみにサルーンは騒動の後、狩りに行くと言って出かけてしまった。

 

「おお、そうだ。皆様、紹介しておきましょう。この村の"四人のうちの一人"、エンシェントゴーレムのゴルです」

 

「……オレ、名前、ゴル。よろしく」

 

焚き火の前に共に座る人型エンシェントゴーレムのゴル。どうやらゴーレムとしてはかなり小型の部類のようだがそれでも3メートル近くはありそうだ。巨体のローランドが小さく見える。

 

「サルーンがここに住み始めた頃に近くで発見したのです。以来、サルーンとここで暮らしているのだとか。私とエルザはその後に入ってきた次第でございます」

 

話によればサルーンがこの森に居着いたある日、狩りの途中で見かけたという。彼が触れると突然ゴルは動き出して言葉を話したため、さすがのサルーンも驚いたそうだ。

だが彼には記憶がほとんどなく、覚えているのは"何かを作ることをしていた"というわずかな記憶だけ。それ以来彼は物作りを担当している。

 

「私とエルザの小屋を作ってくれたのもゴルなのです」

 

「……ローランドとエルザ、来たばかりのとき、住むとこ、ない。屋根、ない、住むとこ、ないは、すごく、大変。だから、オレ、小屋、建てた」

 

龍馬達とスレイド達は彼等から色々と昔話を聞いた。だがその中でローランドだけは頑なに己の過去を語ろうとしなかった。龍馬は誰しも掘り返されたくない過去のひとつやふたつあるだろうと深くは聞かなかった。

その中でゴルとローランドは叶わぬと知りながら実は密かな願いがあることを知った。

 

「……人間たち、夢、見る。オレも、夢、ある。オレ、家、建てたい。誰かが、喜ぶ、家、建てたい。ローランドとエルザ、初めて家、建てた時、すごく、嬉しそうだった。だから、誰かのため、家、建てたい。みんな、笑顔。そしたら、オレ、嬉しい。幸せ」

 

「私もゴルと同じようなものです。私はこの薬学の知識を誰かのために役立てたい。病気や怪我に苦しむ人を一人でも多く救いたいのです。そして……いつかはここを大きな村にしたい。人間も、魔族も共に手を取り合って笑い合える……そんな村を」

 

そう言って再び眼鏡を直したローランドの眼はどこか哀しい眼をしていた。その眼の奥に刻まれた記憶は龍馬達にはわからないが……きっと辛い過去があったのだろうと察する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"『ローランド。あなたの名前よ』"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"『これをあげる。ほら、かがんで。かけてあげるわ。……ふふっ、とても似合ってるわよ』"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"『ありがとう、ローランド。あなたは本当に優しい人ね』"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"『お願い……ローランド。約束して……人を傷付けるのではなく、人を助けるために生きるって……』"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ローランドの胸の内に記憶が甦る。自分の命……いや、人生の恩人とも言える人物の顔、そして遺言(ことば)が。

 

「……まあ、そんなものは夢物語にしか過ぎません。我々はここでひっそりと暮らしますので、どうかそっとしておいていただければ……」

 

「いや……可能かもしれない」

 

「え?」

 

龍馬はふと思い付いた。今回は顔見知りのスレイド達だったからいいものの、金に汚い傭兵などが続々とやってくればいくらローランド達といえどひとたまりもないかもしれない。ここはこの場所を正式な集落にできるようにソフォスやアルバートに協力を仰げれば……。

 

「俺達は皇帝陛下と親しい間柄だ。村を作れるように、あとローランド達が危害を加えられたりしないように保護してくれと依頼すればきっと陛下も騎士団も動いてくれる」

 

「そ、それは本当なのですか!?」

 

ローランドは驚いた。まさかかの人間達が皇帝と親しいなどとは。にわかには信じがたい。彼等はまだ子供ではないか。

 

「あー……オークの旦那。そりゃ本当だ。帝都でリョーマ達と会った時も彼等は城に普通に出入りして寝泊まりしてたしな。信用できる」

 

実際に城を出入りしていた龍馬とディレットをスレイドも目撃している。この国を治める主の保護下にあれば彼等も安心して生活できるだろう。

 

「よし、みんな。手分けして作業を進めよう。まずはここを村として認めてもらうために俺とディレットはルミナの転移を使って陛下に会いに行ってくる。勇斗と須崎は村の発展計画をローランド達と話し合ってくれ」

 

「任せろ」

 

「了解。こっちは私達に任せて」

 

それからは皆で村を発展させるための準備が始まった。龍馬とディレット、ルミナの三人は一度帝都へと戻り、ソフォスへの謁見へ。残った勇斗と千春は村を作るにあたって何が必要かをローランド達と話し合う。

 

「まずインフラが必要でしょ。住人を増やすなら住むための家と役場ね。それから最低でも病院は欲しいところだわ」

 

「病院なら私とエルザの住まう小屋を診療所代わりにすれば何とかなるでしょう。ならば必要なのは役場と新たな家……ゴル、できますか?」

 

「……新しい家、できる。でも、新しい家、作る、材料、足りない。もっと、木や石、必要」

 

やはり新しく建築物を建てるにはそれなりに資材がいるようだ。そこもクリアしなければならない。新たに課題が発生した時、勇斗のスマホに龍馬からの着信が。

 

「なんだ龍馬、どうした?」

 

「"陛下が村の名前を教えてくれってよ。そういえば名前ってあったか?"」

 

「名前か……ローランド、村に名前ってあんの?」

 

「名前ですか?ううむ、特に決まってなくて……」

 

実際のところ、村と呼ぶにはあまりにも規模が小さすぎる。それでも集落として扱うには呼称が必要だ。

 

「じゃあ、無難にピャルナチ村でどうかしら?」

 

「エルザ……せっかくの名前ですからもう少し捻りましょうよ」

 

「うーん……じゃあ"クエルクス村"は?」

 

「……ふむ、まあいいでしょう。では、"クエルクス村"で決定ということで」

 

新しく決まった村の名前は"クエルクス村"。それを聞いて勇斗は城にいる龍馬にそのことを伝える。こうしてモンスターの村・クエルクス村が新たに帝国の地図に刻まれることになった。

「今後に備えて食料の備蓄もせねばなりませんね」とローランドは春の農地開拓のプランを練る。彼は一部の薬草を育てる傍ら、農耕の知識や技術にも詳しいため彼がいればすぐに拡大できるだろう。

ゴルは柵と看板を建て始め、エルザはゴルの建てた看板にクエルクス村の名前を書く。まだ全体ではないが入口らしいものを作っただけでそれなりに"らしく"は見える。村作りの第一歩だ。

ほどなくして龍馬達が帰ってきた。さらにこの村は帝国の保護下にあるとの皇帝直筆の書面を持ち帰ったことでローランド達は驚いた。まさか魔族の中でも特に人間に受け入れられ難い自分達がこのようなものを貰えるとは夢にも思ってなかったからだ。

 

「村作りの夢がいきなり叶うなんて……これからが楽しみね、ローランド!」

 

「ええ、これは大きな一歩です。そしてこれからが始まりです。エルザ、共に頑張りましょう」

 

二人が嬉しそうに笑みをこぼし、ゴルが作業を続ける中、丁度狩りの獲物を抱えて戻ってきたサルーンは困惑しながら辺りを見回す。

 

「こりゃあ……一体何事だ……?」

 

新たに建てられた柵や看板に戸惑うしかないサルーンに対し、ローランドとエルザが事の次第を説明した。それを聞いたサルーンは「めんどくせぇことになったな」とぼやきながら焚き火の前に座り込んで狩り取ったブラウンボアの肉を解体していく。

 

 

 

だが僅かではあるがその表情はどこか満足気にも見えた。

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