龍馬と勇斗は夜、青薔薇の二階でこれからの行動について話し合っていた。電子レンジや鍋などの調理器具は朱美に貸してもらえたため二人はコンビニで買った弁当やカップ麺を調理して食べる。……正直、ディレットがああなってからあまり食事を美味しいと感じられないと呟く龍馬。
「なら早いとこ犯人捕まえてブッ飛ばして……あとはディレットの回復を願うしかないな」
勇斗はそう言ってカップ麺をすする。明日からはおそらく多くの情報を握っているであろう、御堂誠公会直系・紅鸞会会長の鷲尾という男を当たらねばならないが直系の幹部組織ともなればそれ相応の覚悟で臨まねばならない。末端のチンピラとはわけが違う。
「こっちは二人しかいないんだ。相手は殺しも厭わないヤクザ連中……それも今度は幹部ときた。龍馬、キレて突っ走るなよ」
「わかってるよ。今度は慎重に行くさ」
田嶋組の時は正面突破でもなんとかなったが、次からはそう上手くいくとは限らない。いくら自分達には神の力が宿る異世界の武器があるとはいえ、自身は生身の人間なのだ。全方位から銃撃を浴びせられるようなことにでもなれば流石に死は免れない。
「田嶋組長から聞き出した話によれば紅鸞会って組織がでかい情報を握ってるらしいな」
「ああ。んで朱美さんから聞いた情報が……」
数時間前……
「紅鸞会……いきなりでかいのが出てきたねえ……」
「朱美さんは何か知ってるんですか?」
「知ってるも何も奴等はこの辺じゃあ有名さ。小倉に自分の店やら会社やら持ってる奴なら知らない奴はいないほどにね」
紅鸞会の情報を持ち帰った龍馬と勇斗の話を聞いて朱美はやや暗い表情を浮かべながら煙草に火を付けた。
「紅鸞会……御堂誠公会を支える資金を一番多く出している組織でね。会長の鷲尾は現会長の藤島がいなければ奴がトップになっていたなんて話もあるくらいだ」
御堂誠公会直系・紅蘭会二代目会長・
元々北九州は第二次世界大戦時代から製鉄産業が盛んであり、長崎に落とされた原爆は元々は製鉄所の多い福岡に落とされる予定であったレベルだ(天候の悪化によりアメリカは投下地点の変更を余儀なくされた)。
製鉄をはじめとした工業の街であることは現代でも変わることなく、その利益と実権のために裏社会の標的となることが多い。紅鸞会はその多くを握っているのだ。
さらに鷲尾は投資家でもあり、株の投資によっても大きな利益を得ているとの事。無論、真っ当な取引かどうかまではわからないが。
「ここ数年間はあまり目立った動きはなかったんだけど……昔は酷くてね。あいつは若い頃からインテリの頭角をメキメキ現して、先代の紅鸞会会長の右腕としてバブル時代に多くの利益を上げた。そのおかげで今じゃ紅鸞会の二代目。本家の金庫番さ」
「バブル……か……」
バブル経済。龍馬も社会の授業で聞いたことくらいはある。昭和末期に発生した社会現象で、簡単に言えば土地の価格が高騰することによって日本経済が異常なまでに発展したかつての日本の栄光とも言える時代である。これにより多くの富裕層はもちろん、一般庶民ですら今では考えられないほどのカネで潤っており、先代会長の時代から元々地上げ屋として名高い紅鸞会は当時、紅鸞会の幹部だった鷲尾の手腕により組織は瞬く間に御堂誠公会内部での地位を確固たるものにしたのだ。
「バブルかぁ……うちの親父も酒飲んだ時によく言ってたよ。『バブルの頃は良かった』ってさ。龍馬もお母さんとかから聞かされたことあるんじゃね?」
「……いや、ないな」
勇斗によればやはり自分の親世代が若い頃の話というのはどこの家庭でも子供は聞かされるものだという。酒を嗜む親なら尚更だ。しかし龍馬は何故か両親からあまり過去の話を聞かされた記憶がない。酒豪の母ですら酒に酔った勢いで話した過去のことといえば学生時代の恋愛沙汰だとか喧嘩の話ばかりで、祖父母の過去や当時の涼子に何があったかなど聞いた覚えがないのだ。もちろん父・龍一郎との馴れ初めも。
「そうか?お前のお母さん、酔ったらいつにも増して饒舌になるからてっきり……」
「……今思い出したんだがそもそもうちの母親、“バブル"って言葉があまり好きじゃないみたいでな」
よくよく思い返して見ると母はよくテレビなどでバブル経済時代の特集が流れたりすると席を外したりチャンネルを変えたりと、当時の時代に関する話題を忌避しているような態度があった。もちろんバブルという言葉自体が嫌いなわけではないだろう。きっと母のことだ。あの人は自分が本当に辛かったことは決して口に出さない強い人なのだ。まあ、当時に何かあったのだろう。
それよりも今は目の前の問題だ。紅鸞会会長の鷲尾の居所を掴まねばならない。ヤツが何かしら重要な情報を握っているのは確かなのだ。犯人の情報も知っているかもしれない。
「ただ、上手く奴を捕まえられるかはわかんないよ。鷲尾は表の仕事も裏の仕事も多忙な奴だからね。そもそも今小倉どころか県内にいるかどうかすらも怪しい」
「ま、そこは何が何でも周りの奴らから情報を聞き出してやりますよ」
どうやら鷲尾は不在なことが多いようだが、そんなことは関係ない。どこにいようと見つけ出して締め上げるまでだ。
「朱美さん、俺と勇斗はそろそろ寝ます。情報ありがとうございました」
「いいんだよ。大したことも出来なくて悪いね」
「いえ、そんな……情報だけじゃなく寝泊まりする場所まで提供してくれてほんとに助かってます……コーヒーごちそうさまでした。おやすみなさい」
「はいよ、おやすみ」
龍馬と勇斗は朱美に礼を言うとカウンターから立ち上がり、店を出て外の階段から二階に向かった。二人がいなくなった後、朱美は食器を下げるとカウンターを拭いて、無人になった店の中で一人煙草に火を付ける。
「……おやすみ、坊や達。せいぜい死なないようにね」
数時間後。食事を済ませて床に入った二人。暗くなった部屋の天井を見上げながら勇斗は龍馬に話しかけた。
「……龍馬、起きてるか?」
「ああ……」
「お前そういえば学校はともかくとして家は大丈夫なのか?小倉に来てるって……伝えてないんだろ?」
「大丈夫だよ。一応傷心し過ぎたからしばらくじーちゃんちに泊まるって言ってる。じーちゃんとばーちゃんにも口裏合わせるように伝えてある」
独自に犯人を探していることは親には伝えてない。いずれはバレるかもしれないが、それまでにはきっと犯人の足取りを掴んでみせる。龍馬はそう誓ったのだ。祖父母にも真実は伝えていないが、二人は黙って協力してくれた。
「そうか……それならいいんだがお前……犯人を見つけたとして……やり過ぎるんじゃねえぞ」
「……わかってるよ」
自分も人のことを言えた身分ではないが、龍馬は自分よりもキレやすいのは確かだ。しかも今回は龍馬にとって一番大事な存在が傷付けられたのだ。その怒りは尋常ではないはず。もし犯人を目の前にしたら龍馬は本気で殺しかねない。それほどまでに龍馬の怒りは最高潮なのだ。万が一の場合に彼を止められるのは……友人として一番付き合いの長い自分だけだ。
「ならいいんだけどな。俺も一緒だってこと、忘れるなよ。お前だけの問題じゃないんだ」
「わかってるって。……もう寝ようぜ」
段々と瞼が重くなるのを感じる。休める時にしっかり休んでおかねば。
二人は徐々に寝息を立て始め、深い眠りへと落ちていった。
翌日、二人はドアを叩く音で目が覚めた。声が聞こえる。
「二人とも、起きてるかい?朝ごはん用意してやるから顔洗って着替えたら店に降りてきな」
声の主は朱美だ。どうやら二人のためにわざわざ朝食を用意してくれるらしい。二人は目をこすりながら起き上がると洗顔と着替えを済ませて一階にある青薔薇へと脚を運ぶ。
「おはよう。よく眠れたかい?」
「それなりには」
「そうかい。とりあえず座んな。大したものじゃないけど朝ごはん用意したから」
朱美はそう言ってトーストとハムエッグの乗った皿を龍馬と勇斗の前に出してくれた。二人は「いただきます」と言ったのちに朝食に手を付ける。
食事の後、出されたコーヒーを飲んでいると朱美は一枚の写真を取り出す。写真にはダークブラウンのスーツに黒髪でオールバックの男が写っていた。
「……こいつは?」
「紅鸞会の鷲尾だよ。あんたらが探しているやつさ」
「こいつが……」
龍馬は写真を手に取ると手をかすかに震えさせた。そしてゆっくりと写真を置く。その目はまさに獲物を見つけた猛獣の如しだ。
「昨日も言った通り、そいつは普段の居所がなかなか掴めない。だけどね……」
朱美はもう一枚の写真を置いた。その写真には坊主頭のいかつい黒スーツの男が映っている。顔には傷痕がいくつもあり、いかにも“ザ・ヤクザ"という感じだ。ぶっちゃけ鷲尾よりヤクザらしい風貌である。龍馬は写真をまじまじと見つめた。
「こいつなら居場所を知ってるかもしれない」
「……こいつは?」
「紅鸞会若頭・
朱美は煙草を取り出していつものように火を付けながら口に咥える。煙を吐き出して一服したのち、間を置いて再び口を開いた。
「……そいつは見た目とは裏腹に相当頭のキレる男だ。鷲尾の右腕が務まるくらいだからね。こいつがいるおかげで鷲尾は今の地位を保ててると言っても過言じゃない」
「と、言うと?」
「こいつは紅鸞会の“脅し"担当なんだよ。組織にとって有利に事が運ぶよう、どんな手を使ってでも相手を脅しにかける。チンピラを使った典型的な嫌がらせから要人の誘拐・殺人・拷問に至るまで、ね」
聞けばこの金田という若頭の男は紅鸞会の汚れ役らしく、基本的に“表"の仕事を担当する鷲尾の陰で組織が有利に動けるよう、あらゆる手を使って組織に逆らう者や協力を拒否する者を脅しにかけるプロなのだという。
金田は生粋のサディストでもある性格故に慈悲など一切存在しない。しかも見た目とは裏腹に狡猾で非常に頭がキレる者だそうで、紅鸞会の影のドンだそうだ。
だがこの話を聞いた龍馬は逆に不敵な笑みを浮かべてカウンターに置かれた金田の写真をドンと叩いた。
「そいつは都合がいいぜ。だって……」
「そんなクズなら、遠慮なくブチのめせるからな」
「ひ、ヒイッ!」
「ウラァッ!!」
ガシャン、と激しい音を立てて事務所の机が吹き飛ぶ。周囲には書類や椅子が散乱し、窓ガラスは見るも無残に叩き割られ、組員達がズタボロになって辺りに倒れていた。そんな中、残った最後の一人に異様な風貌の男が歩み寄り、胸ぐらを掴む。
「おい」
「ヒィィッ!!助けてくれぇ!!」
「人の会社襲おうって連中が情けねえ声上げやがる。おいテメー、“コウラン会"のボスはどこにいやがる?」
人間よりも大きな体躯、鱗に覆われた肌、鋭い牙に爪、そして大きな尾。男の正体はリザードマンのコルボだった。
あれから会社に再びチンピラ達がやってきた。コルボは奴等から社長を襲った連中の情報を聞き出すべく、「意識不明の社長に代わって社長夫人からの伝言と書類を預かっている。会社では話しにくいので事務所まで連れて行ってほしい」と話すとなんとまあチンピラ達はコルボをノコノコと事務所に案内したのだ。
おそらく契約関係の書類を引き渡すとでも思ったのだろう。もちろんそんなものは存在しない。そしてコルボを事務所に連れ込んだのが運の尽きだ。その腕っ節で事務所のチンピラ達を全て叩き伏せたコルボは社長を襲った黒幕を探し出すべく、連中を脅して情報を聞き出したのだ。
しかし会社にやってきた連中の組はただの末端組織に過ぎなかった。わかったのは奴等が“コウラン会"という組織の駒として動いていることだけ。コルボは“コウラン会"のボスであるワシオという男の存在を知った。
そして今。コルボは御堂誠公会系の事務所の場所を片っ端から見つけ出しては問答無用でカチコミをかけて組員達を叩き伏せ、情報を聞き出している。ちなみにこれで四つめだ。
「か……会長は多忙な方なんだ!俺らみたいな下っ端の組はどこにいるかなんて知らない!」
「はあ……またそれかよ」
この返事もこれで四度目だ。どこの組の人間も「会長は忙しい人間だからどこにいるかわからない」の一点張り。もう聞き飽きてきた。
「じゃー、別の質問だ。コウラン会のボスの居場所に心当たりがありそうな奴は?」
「か……金田のカシラ……」
「あん?」
「こ……紅鸞会若頭の金田のカシラなら……会長の居場所を知っているかも」
ようやく情報に繋がりそうな人物の名が出てきた。コルボは男を引き寄せてさらに牙を剥き出しにして迫った。
「そのカネダって奴はどこにいる?」
「カシラもよく事務所を空けている人間だから正確な場所はわからない……ただ、勝山通りにあるホテルがカシラが経営を任されてる……接待やらなんやらでもよくそこを利用してるって聞いたから会える可能性は高いかも……」
これはかなり有力な情報だ。そのカネダという男に接触できればボスのワシオという男の居場所を掴めるかもしれない。まあ、戦いは避けられないだろうが。
「そのホテルの名前は?」
「ぷ……“プリンス"ってホテルだ……カシラは夜に居ることが多いって話だ……」
「ありがと……よっ!と」
そこまで聞ければもう用はない。コルボは男を思いきり殴り飛ばして気絶させると滅茶苦茶になった事務所をさっさと出た。
……自分なりの調査でわかったことがある。社長を襲った犯人はミドウセイコウ会に所属している人間だということ。そしてミドウセイコウ会は直系組織であるコウラン会に命じて強引な地上げ行為を行なっていること。そして社長襲撃を命じた計画犯はコウラン会のボスであるワシオという男であるということ。そして今の“調査"でわかったのが、ワシオの居場所を知る可能性が高い人物・カネダの存在だ。
“ワカガシラ"というのは確かヤクザという組織の副リーダー的な存在のはず。ならば今の情報の信憑性は高い。
「……カツヤマ通りのプリンスって宿だな……よし……」
カネダは夜にいることが多いという話だ。ならば夜を待ってカチコミをかけてみよう。そう考えたコルボは身体を休めるため、会社に連絡をしてから自宅に帰った。
一方その頃、博多の方では安田が過去の事件を知る記者である陣内という男を訪ねるため、九州新聞社にやってきていた。
ロビーで「ある事件のことで陣内という記者に話を伺いたい」と尋ねたが……
「申し訳ありません。陣内はただいま取材のために出払っております」
……なんてことだ。留守とは。安田は軽くため息をついた。いつ戻るかもわからないそうなので安田は仕方なく自分の名刺を取り出して伝える。
「私の名刺です。陣内さんが戻ったらそれを渡して連絡するように伝えてください」
「はあ……かしこまりました」
受付嬢はややぶっきらぼうに答えると安田の名刺を受け取ってそれをしまう。安田は軽く手を振りながら九州新聞社を後にした。
「さて……どうするかね……」
陣内に話を聞けない以上、これ以上の調査は今のところ不可能だ。と、なるとひき逃げの件に関する業務を行うしかないのだが。
そんな時、陣内の携帯に連絡が入った。相手は職場の上司だ。
「もしもし警部、どうしました?」
「“安田。すぐに署に戻れ。えらいことになった"」
「ど、どうしたんですか、そんな急に……」
「“ひき逃げの件で身柄を拘束されていた田嶋組の組長が……"」
「“留置場の中で遺体で見つかったんだ"」
龍馬と勇斗は一度、青薔薇の二階に戻っていた。朱美から伝えられた情報を整理するためだ。
まず、田嶋組から聞き出した紅鸞会の存在。そして紅鸞会会長である鷲尾がひき逃げ犯の情報を握っている可能性が高いこと。しかし鷲尾は様々なビジネスの経営者でもあるため紅鸞会本部事務所を留守にしていることが多いこと。そんな鷲尾の居所を知る可能性が高いのが若頭である金田の存在であること。そして金田がよくいる場所というのが……
「奴が経営を任されている、勝山通りのホテル“プリンス"……」
朱美の情報によれば今夜そこで金田が取引先との商談を行うらしい。これはまたとないチャンスだ。
「商談も何もかもぶち壊しにしてやるよ。待ってろ金田……」
「なあ、龍馬。意気込んでいるところに水を差すようで悪いんだが……ここらで一回会長さんに報告しとかねえか?結構わかってきたことも多いしな」
「あ、そうか……そうだな」
そういえばすっかり忘れていた。情報も多くなってきたし、一度仁に連絡してここまでの経緯を報告しておいた方がいいかもしれない。龍馬はスマホを取り出して電話をかける。
「“もしもし、俺だ。どうした?"」
「ああ、会長さん……実は色々わかってきたから一応報告をと思ってな」
龍馬はこれまでに得た情報を仁に話した。田嶋組のこと、紅鸞会のこと、そして紅鸞会会長の鷲尾と若頭の金田をあたるつもりであること。仁は龍馬の話を黙って聞いていたが、龍馬が話し終えると電話の向こうで大きくため息をついた。
「なんだよ、情報が少ないってか?」
「“いや、そうじゃねぇよ。紅鸞会か……お前ら厄介な連中だぞそいつらは……"」
仁は再びため息をつくと、しばらく間を置いてから重い腰を上げたかのようにゆっくりと話し始めた。
「“まだ俺が下っ端だった頃の話だ。お前らガキンチョにはわからないかもしれないが、当時はバブル経済の真っ只中でな。表社会も裏社会も、それこそヤクザやカタギも関係なく土地の莫大な利権とそれが生み出す利益を狙ってシノギを削ってたんだ。当時の黒狼会会長は北九州の御堂誠公会や久留米・大牟田の連中と博多の土地開発の利権争いの最中だった"」
仁が言うには遡ること26年前。昭和62年の今頃にバブル経済による土地の利権を狙って日夜企業や組織が激しい争いを繰り広げていた頃。その中でも御堂誠公会の紅鸞会が最も勢力を拡大して土地を入手し、莫大な利益を生み出して本家の力を確固たるものにしようとしていたそうだ。
特に小倉の再開発の利権を手中に収めてからは博多にまで進出し、博多を拠点とする黒狼会すらも凌ぐ勢いで勢力を伸ばし、同時期には久留米や大牟田からも別勢力が伸びてきて三つ巴の抗争にまでなっていた。
「“うちはなんとか生き残ったが、久留米・大牟田の連中は撤退させられ弱体化した。生き残ったうちの組織でさえかなりの損害を被った。その時に多くの利権を手にした御堂誠公会の中心組織……それが紅鸞会だ。ひとつ忠告しておくぞ。俺達同業者ですらヤバいと噂する連中だ。それは紅鸞会の先代が退いてからも変わっていない。龍馬、充分に気を付けろ"」
「わ……わかった……」
「“よし。あとそれからこっちも思わぬ収穫だ。昨日県警のサツが一人で俺を訪ねてきやがった。とある事件の情報を渡す代わりに警察内部の情報を渡すように約束を取り付けた。何かわかったら連絡するからお前も情報を手に入れたら連絡してくれ。……龍馬、死ぬなよ"」
仁はそう言うと電話を切った。黒狼会の現会長がこれだけ忠告するのだ。今回の相手はかなり危険かもしれない。万全の準備と対策で挑む必要がある。龍馬は仁からの情報を勇斗にも伝えると紅鸞会襲撃の準備に取り掛かった。
仁は電話を置いてから煙草に火をつけ、部屋でひとり煙を燻らせた。
「(……紅鸞会。覚悟はしていたがまたその名を聞くことになるとはな。しかしひとつ気になるのは……なぜ御堂誠公会は本家の会長に大して力も持たない藤島一家の組長を会長として選んだんだ?今も昔も……どう考えても紅鸞会が一番力も金も持っているはず……)」
仁には不可解な点があった。藤島一家組長の藤島繁雄は確かに直系組織なだけあって力も権力もあった。しかし仁の知る限り、藤島一家は紅鸞会ほどの力はないはず。本家会長の座を継ぐなら紅鸞会が一番適任だ。なのになぜ彼等がナンバー2なのか。そして彼等がなぜ何の不満も漏らさずその地位に甘んじているのか。紅鸞会という組織を知る仁だからこそその点はあまりにも不自然だった。
「(どういうことだ……?もしかしてこの事件……俺達の理解の範疇を超えた“何か"が渦巻いているのか……ええい、クソッ!見当もつかねえ……!)」
仁は心の中に渦巻く不安を揉み消すかのように吸っていた煙草を乱暴に灰皿に押し付けた。
彼の中で未知の“何か"に対する不安と焦りが見え始める。