アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第137話 逃亡、そして過去の真実

「若頭補佐……?金田はどこだ!」

 

「だから言ったでしょう。金田のカシラならここにはいませんて」

 

紅鸞会の若頭補佐を自称するその松山という男はやれやれといった顔で煙草の煙をふかしている。

 

「金田のカシラも、鷲尾会長も、あんた達のようなカタギが考えることなんざ全部お見通しなんですよ。福岡中央高校の斎藤龍馬さん、城島勇斗さん、それから……高宮建設のコルボ・ガレントさん」

 

なんと松山は龍馬達の名前を全て把握していた。いや、名前だけではない。龍馬達の学校やコルボの会社まで、だ。

 

「何で……俺達の名前を……」

 

「言ったでしょう。全てお見通しだと。名前だけではないですよ。あなた達が来ることも全て、ですよ。そもそもおかしいとは思わなかったのですかい?」

 

松山は再び煙草を咥えるとふぅ、とため息をつくように煙を大きく吐き出した後に話を続ける。

 

「ここまですんなりと情報が手に入ったことはもちろん、あなた達の侵入ルートに関してもです。普通ならそんなに都合よく二階の客室の窓が開いているわけないでしょう。あれも全てワシらが誘導のために準備したんです。ああ、裏路地の人払いもですよ」

 

「……!」

 

なんて事だ。最初から全て龍馬達を誘い込む罠だったのだ。偽の情報を流したのも、侵入ルートも、全て把握され、誘導されていた。まんまと一杯食わされたわけだ。

 

「まあ、流石にコルボさんに関しては正面から堂々と乗り込んで来るとまでは思いませんでしたがね。そこだけは計算外でしたわ」

 

味な真似をしてくれるぜ、とコルボは苦笑する。が、次の松山の言葉を聞いた瞬間、彼の表情は一変した。

 

「しっかし、高宮建設の社長さんも残念ですなあ。こっちの話に素直に乗っておけばあんな目に合わずに済んだんですけどねぇ」

 

「な……何だと……」

 

「申し訳ないですけど、こっちも仕事だし“親"の命令は絶対なんですわ。たとえカタギでも仕事のためなら命も奪う……それが御堂誠公会に属する人間のやり方です。いやぁ、殺し屋に社長さんを襲えと命令するのは流石に気が引けましたよ。幸い命は助かったみたいだから良かったですねえ」

 

「て……てめえええええ!!!!」

 

コルボは怒りに震えながら突進し、松山の胸ぐらを掴み上げた。牙を剥き出しにしながら恐ろしい形相で松山を睨みつけ、今にも彼の頭を食いちぎらん勢いだ。

 

「テメェが……社長を……!!」

 

「落ち着いてくださいよ、コルボさん。ワシらはただ命令されただけです。親の言うことは絶対……それがヤクザってもんです。確かに殺し屋に直接指示を出したのはワシですが、そもそもは会長とカシラの命令なんです。そんなことよりも皆さん、いいんですかい?ワシを殴るよりご自分らの身の心配をした方がいいのでは?」

 

松山がチラリと窓の方を見る。それに気付いた龍馬と勇斗は急いで窓へと駆け寄り、ホテルの下を見る。するとそこには黒塗りの車が続々と集まってきており、車内から降りてくる構成員達が次々にこのホテルになだれ込んでくるのが見えた。

 

「マジかよ……!」

 

「やべぇぞ、龍馬!流石にあの数はヤバい!」

 

嫌な予感が的中してしまった、と勇斗は思った。なぜこういう嫌な予感というものはよく当たるのか。流石に焦りの色を見せる龍馬達を見つつ、コルボに胸ぐらを掴まれたままの松山は落ち着いた口調で再び話す。

 

「ホテルの伏兵だけであんたらを始末できるとは思いませんよ。これくらいしなきゃね。さて……どうするんです?ワシを殴ってる暇があったらさっさと逃げた方が身のためですぜ?」

 

「クッ……!」

 

コルボは松山から手を離す。松山はコルボに掴まれた部分のスーツとシャツのヨレを直すとチラリと窓の外を見てからまたこちらへ向き直った。

 

「逃げるならどうぞ。“ワシは"追いません」

 

「……どういうことだ。あんたは俺達を殺るように言われてんじゃないのか」

 

これだけの増援を呼んでおきながら逃げろ、とはどういう了見だろうか。龍馬にはこの松山という男の意図が全く掴めなかった。

 

「いやあ、実を言うとワシ自身は喧嘩はあんまり得意ではなくてですね。それでなくてもあんたら三人を一人で相手にする勇気なんかないですわ。だから部下に一任することにします。そういうことなんでどうぞ、お逃げください。もっとも……“逃げられれば"の話ですがね」

 

どうやら松山自身はあまり戦闘は得意ではないようだ。今呼んだ増援に任せる代わりに『ここだけは』見逃すということらしい。だが裏を返せば「これだけの増援と戦力から逃げ切れるわけがない」という絶対的な自信の表れでもあるのだろう。

 

「龍馬!コルボ!早くしろ!」

 

「チッ!クソが!」

 

先に部屋の出入り口に向かった勇斗のもとへ龍馬も仕方なく向かう。逃げ切れるかどうかはわからないがやるしかない。

コルボはというと、怒りに満ちた表情のまま松山を睨み付けて指を差し、彼に向けて言い放った。

 

「……覚えてろ。テメェは絶対にブチ殺してやる!!」

 

「それはいい。楽しみに待ってますよ」

 

まあ無理でしょうがね、と言わんばかりの顔で松山は肩をすくめながら苦笑した。正直この場でこいつだけでも道連れにしてやろうかと考えたコルボであったがそれだけでは紅鸞会、ひいては御堂誠公会に対する復讐にはならない。コルボはこの男を引き裂いてやりたい気持ちを抑えながら龍馬達の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下に出たはいいがこれからどうするべきか。エレベーターは止まり、階段は増援で塞がれ、ここは地上十階の高さ。窓や配管を伝って降りるなどまず不可能だ。そして下からは大勢の構成員達が押し寄せている。まさに前門の虎、後門の狼である。

 

「おい、ガキども!屋上だ!屋上に急ぐぞ!」

 

「屋上!?なに考えてんだ!?」

 

「いいから早くしろ!死にたくなけりゃな!」

 

屋上へ上がれと血迷ったかのような発言をしたコルボに龍馬も勇斗も困惑する。しかし何か考えがあるようだ。三人は屋上へと上がる階段を登り、鍵のかかったドアを蹴り壊すと屋上へと出た。

 

「よし、行けそうだ……!」

 

「おい、一体何をするつもりなんだ……!?」

 

「こうするんだ……よっとぉ!!」

 

「あ?……う、うわーっ!!」

 

そう言うとコルボは龍馬を突然抱え上げて、隣のビルへと思いきりぶん投げた。彼の身体はビル間の宙を舞い、半ば隣のビルの屋上にあるフェンスに叩きつけられるようにして到達した。慌てて彼はしがみつき、必死でフェンスを登って越えると隣の屋上からコルボに向かって叫ぶ。

 

「あ、危ねーじゃねーか!!落ちたらどうするつもりだよボケ!!」

 

「成功したからいいだろ!!次はお前だぞ色黒のガキ……って、えぇ……!?」

 

なんと龍馬とコルボの二人が言い争っているうちに龍馬が隣のビルに飛び移った(と言うか投げられた)のを見た勇斗はハイドラを鞭の形態にして隣のビルのフェンスに巻き付けると自分一人でさっさと飛び移ってしまっていたのだ。あんぐり口を開けている龍馬とコルボをよそに勇斗は鞭の伸縮を利用して手早く壁とフェンスを登りきる。

 

「よっと」

 

「勇斗くんさぁ……」

 

「いやぁ、投げられるお前を見てなるほどな、と思ったわけよ。ハイドラにはこういう使い方もアリだな」

 

そうこうしているうちにコルボは己の脚力だけでビル間をジャンプする。さすがリザードマン、身体能力は普通の人間より遥かに高い。

 

「まあ、なんとかなったな!俺達がこっちに渡ったことに奴等が気付かないうちに逃げるぞ!」

 

隣の雑居ビルは空き部屋が多いらしく、比較的静かだ。まだ敵は龍馬達がこちらに来たことに気付いていない。三人は階段を駆け降りて隣のホテルが騒がしいうちに見つからないようにビルを出た。

脱出したはいいがこれからどうするか。いずれ奴等は自分達が脱出したことに気付くだろう。そうなれば小倉中を探し回るはずだ。青薔薇に戻るのは危険すぎる。朱美にまで被害が及ぶかもしれない。

 

「俺の家へ行こう。コクラ駅からふた駅分離れてるからこの辺りよりは安全なはずだ」

 

コルボの家なら確かにここよりは安全だろう。さすがに奴等もコルボの家までは知らないはずだ。三人は急いで小倉駅へと向かう。が、しかし……

 

「うっ……!まずいぞ……!」

 

コルボが何かに気が付いた。よく見ると小倉駅周辺を明らかにヤクザであろう男達が徘徊している。

 

「ちくしょう……お見通しってわけか……!」

 

「二人とも、タクシーならどうだ?離れた場所から乗れば気付かれずに街を出れそうだけど……」

 

勇斗の提案に龍馬もコルボも賛成した。駅周辺が見張られている以上、奴等の捜査網はこの街全体に及んでいるはずだ。電車はまず使えないし、徒歩での脱出はリスクが高い。現状ではタクシーが一番確実だろう。三人は見つからないように駅から離れるとコルボの家周辺に向けて数キロ歩いてからタクシーを捕まえた。

タクシーに乗ってからいくらかの時間が過ぎた。コルボの家周辺で降りると彼のアパートを目指して三人は歩き出す。だがようやく一息付けると思った矢先、彼等は己の考えが甘かったことを認識することになる。

 

「なっ……!」

 

コルボは驚いた。なんと彼の家のアパート周辺にも黒服の男達がうろついていたのだ。

 

「な、なんで俺の家が……奴等に……!?」

 

奴等の情報網を甘く見ていた。まさかコルボの自宅まで突き止めているとは。これでは戻ることはできない。とりあえずここを離れなければ。

 

「くそ、結局走って逃げなきゃいけねえのかよ!」

 

「龍馬、こうなったら何としても一旦博多に戻ろう!コルボもそれでいいな?」

 

「仕方ねぇ……背に腹は変えられねえか!」

 

三人は結局徒歩でその場から脱出した。どこまで行けるかわからないが、とにかく逃げよう。出来る限り人気の少ない通りや場所を選んで三人は歩く。しばらく無言の状態が続いた。

時刻は既に午後11時を回っていた。そろそろ彼等にも疲労の色が見え始める。と、そこで龍馬の携帯が鳴った。相手は母だ。龍馬は嫌な予感がしながらもおそるおそる電話に出た。

 

「……もしもし」

 

「“あんた今どこおるんね?"」

 

「じ、じーちゃん家だけど……」

 

「“ほーん?今あたしお父さんの家におるんやけど?あんたの姿なんか見えんばい?"」

 

「……!!」

 

なんてことだ。遂に嘘がバレてしまった。いや、もしかしたら母は勘づいていたのかもしれない。そうでなければこんな時間に祖父の家にいるはずがない。

 

「“白状せえ!今どこおるんか!"」

 

「こ……小倉に……」

 

「“小倉ぁ!?……いい、事情はあとでゆっくり聞かしてもらう。今どこおるか教えれ"」

 

龍馬は観念し、今自分達がいる現在地をマップで検索し、そのスクショを母に送った。母は怒り心頭になりながらも「今から迎えに行くから近くにあるネカフェにでも行って待て。そこを動きなさんなよ」と電話を切った。龍馬の青ざめた顔を見て勇斗も大体を察した。

事情を説明し、龍馬達は近くにあったネットカフェの個室を借りてそこに身を潜めた。重苦しい空気が漂う中、二時間ほど経ったころ、龍馬の携帯が再び鳴る。母からだ。どうやら表に着いたらしい。

会計を済ませて出ると、母の車があった。運転席では鬼の形相をした母が待ち構えていた。

 

「さっさと乗んなさい。勇斗君と……なんか事情があるんやろ、そっちのトカゲみたいなお兄さんも乗んなさい」

 

「……すんません、失礼します」

 

三人は涼子の車に乗り込んだ。車内ではさらに空気が重苦しく、涼子は運転中一言も発さなかった。暗い車内でのそんな時間がただただ過ぎていく。

車は福津市へと到着し、龍馬の祖父・平蔵の自宅に入っていく。車から降りて家の中に入ると居間でバツの悪そうな顔をした祖父母とバルガスが座っていた。勇斗の他にリザードマンのコルボがいたことで三人は驚いていたが、その件も含めて話をするということでテーブルを囲んで龍馬達も腰を下ろした。

 

「龍馬、素直に言いなさい。あんた小倉で何しよったんね?」

 

「……ディレットをひき逃げした犯人を……探して……」

 

「……まあ、そうやろうとは思ったよ。んで?犯人はどうしたんね?それと隣におるトカゲの兄さんは一体誰ね?」

 

「あ、す、すいません……自分、こういうもんです……」

 

コルボは恐縮しながら名刺を差し出す。

 

「“株式会社高宮建設 コルボ・ガレント"……?」

 

「その……リョーマ君達と知り合ったのは……成り行きというか……」

 

「……まあ、息子からまずは事情を聞きます。その次にあなたからも話を聞くんで」

 

涼子が龍馬に向き直ると彼は俯きながら事情を話した。ディレットをひき逃げした犯人を勇斗と共に探していたこと、その手がかりを掴んだこと。

 

……そして……犯人は小倉を牛耳る御堂誠公会の人物であること。その名前を聞いた瞬間、涼子の顔付きが一変した。

 

「み……御堂誠公会やって……!?あ、あんた……なんちゅう連中に喧嘩を売ったんや、このバカタレがぁ!!!!」

 

激怒した涼子の平手打ちが龍馬の顔に直撃する。衝撃で龍馬は畳に顔を打ち付けるほど激しく倒れた。そして御堂誠公会の名を聞いた瞬間、平蔵とヨネ子の表情も一変したのである。

 

「なんちゅうことか……!よりにもよってあいつらに……!」

 

「もうあいつらの名前を聞かんで済むと思っとったのに……!じーさん、やっぱり血は争えんのかねぇ……」

 

龍馬達、そしてバルガスは訳がわからず困惑するばかりだ。「母君、落ち着いてください!」とバルガスは龍馬をさらに殴りそうな涼子を必死で止める。

なんとか落ち着いた涼子は鼻息を荒くしながらも再び床に腰を下ろし、再び話し始める。

 

「……あいつらは……御堂誠公会は……!あたしとお父さんとお母さんから全てを奪った仇なんや!」

 

涼子の声にこれまでにない怒りと憎しみ、そして悲しみが入り混じる。

 

「あたしは若い頃、あたし達から全てを奪ったあいつらへ復讐することだけを考えて生きてきた!でも龍馬……あんたがお腹におるのがわかってから……あたしは復讐を諦めて家族を守ろうと決心したんよ!」

 

龍馬にはわけがわからなかった。一体、母や祖父母が御堂誠公会と何の関わりがあったのかまるで想像が付かない。その時和室から足音が聞こえ、襖が開いた。そこにいたのは父・龍一郎の姿だった。

 

「涼子、あんまり騒ぐな。ルビィ達が起きちまう」

 

「あんた……」

 

「もうこうなってはどうしようもない。今こそ話すべきだろう。俺達の忌まわしい過去の真実を。お義父さんとお義母さんもそれでいいですね?」

 

仕方ない、とつぶやいて平蔵はため息をついた。過去の真実?それにルビィ達がここに?龍馬はますます混乱する。

 

「ルビィの件に関しては俺から話す。が、龍馬。今はお母さんとじーちゃんばーちゃんのことについて話そう」

 

しばしの沈黙。そして重い腰を上げるかのように平蔵がゆっくりと語り出す。封印された過去の記憶を。

 

「……龍馬。俺はお前に嘘をついとった。俺はずっと農業してきたと言っとったが……あれは嘘たい。本当はな、俺は昔に建設会社を経営しとったんや」

 

祖父から語られた衝撃の事実。それは平蔵がかつて建設会社の社長であったこと。農業を始めたのは会社が倒産し、平蔵の父親……つまり龍馬の曽祖父の遺産であったこの家と土地を元に農家として人生の再出発をしたこと。

 

「……じーちゃんが……建設会社の社長……!?」

 

「ヘイゾウ殿。建設会社ということは我等の世界で言うところの建築ギルドを運営していたと言うことですか?」

 

バルガスの質問に平蔵はそうたい、と言って頷く。さらに平蔵は語る。

元々ヨネ子は社長である自分の秘書であったこと、そしてゆくゆくは会社を娘、つまり涼子に継がせたいと考えていたこと。

 

「龍馬。お父さんはね、今じゃ考えられないくらいお金持ちやったんよ。それこそ屋敷っていうくらい私達は大きな家に住んどったしね」

 

でも、と言って涼子は続ける。

 

「あいつらが……!御堂誠公会がお父さんの会社を……!それであたし達は……!」

 

「涼子、落ち着け。……龍馬、お前が敵に回した御堂誠公会はな、ただのヤクザじゃない。あいつらはとんでもない“闇"そのものだ」

 

涙ぐむ涼子をなだめながら龍一郎は語る。龍馬、そして勇斗もコルボも何も言えずにただただ黙って聞いているしかなかった。

 

「龍馬。そしてお友達も聞いてほしい。俺達五十嵐一家に過去に何があったんか。そして御堂誠公会という連中がどれだけヤバい連中なんかをな」

 

暗い表情のまま、平蔵は語り出す。かつて封印したはずの“あの忌まわしい記憶"を。自分達五十嵐家を破滅に追いやった御堂誠公会の真実を。

 

 

 

過去と現在が交差する物語。母と祖父母に秘められた過去の真実。そして今回の事件。

 

 

今明らかになる過去の記憶。そして龍馬達はそれを知った時、恐るべきさらなる“闇"と向かい合うことになる……。

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