アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第141話 底知れぬ闇

「これが26年前……あたしが学生の時に起こってからあんたが生まれるまでの間の話たい」

 

「……」

 

話の全貌を聞いて龍馬は絶句した。母と祖父母にそんな過去が秘められていたとは。そしてかつて母や祖父母が対立したかの組織と自分が相対しているとは何たる皮肉な運命か。

 

「龍馬、すまんな。涼子やお義父さん達からお前には決して伝えるなと口止めされてたんだ」

 

「……」

 

龍一郎は龍馬に深く頭を下げ、母達と共に事実を隠していたことを詫びた。もちろん龍馬にそのことを責める権利も何も無いが、それほどまでに大きな過去が自分の母親にあったことが驚きだった。

 

「……とにかく起こってしまったことは仕方がない。家へは俺と涼子だけで一旦帰る。龍馬、お前と勇斗君と……ええと……」

 

「コルボです」

 

「そう、コルボ君だな。三人は今日はお義父さんの家に泊まらせてもらいなさい。お義父さんも大丈夫ですか?」

 

「仕方ないやろ。あんな事情で帰れる訳もねえし、そっちのトカゲの兄さんも家を抑えられとるみたいやし」

 

「成り行きとはいえいいんですか?俺みたいな異界人を……」

 

関係者ということでコルボも一緒に連れてこられてしまったわけだが、突然のことで困惑するコルボ。

 

「いいたい。それにあんたからも詳しく事情を聞く必要があるしな」

 

非常時である以上仕方ない、と平蔵は割り切った。それにまだこのトカゲ男からはまだ詳しい事情を聞いていない。その辺りも聞き出す必要がある。

平蔵達からの問いにコルボは包み隠さず答えた。高宮建設の社長が何者かに刺されて重傷を負ったこと、それは御堂誠公会傘下の紅鸞会の仕業だということ。紅鸞会の支配下にあるホテルにカチコミをかけてたまたま龍馬達と会ったこと。

一連の話を聞いて平蔵と涼子も納得したらしく、彼をここに置くことに誰も異議はなかった。それに腕も立つようなので万が一の時には戦ってくれるだろう。コルボが平蔵とその後も話をしている間、龍馬は龍一郎になぜルビィ達を連れてここに来ていたのか質問をする。

 

「……説明するより見た方が早いだろう。これを見ろ」

 

そう言って龍一郎は新聞を取り出した。九州新聞社の新聞で日付は二日前。一面には政治に関する話題や国際情勢に関する記事が掲載されている。

 

「問題は途中の記事だ。三面を見てみろ」

 

三面といえばゴシップに関する話題が多くあまりいいイメージがない場所だ。龍馬は言われた通り三面の記事を開く。横から勇斗も覗き込み―――それを見た二人は驚愕した。

 

「りょ、龍馬……!これって……!」

 

「お、俺と……ルビィ!?」

 

“福岡中央高生徒、取材記者に暴言・暴行か"――記事の見出しにはそう書かれており、さらに写真には目元には黒線が入れられてるがそこに映っているのは間違いなく龍馬とルビィだ。しかもかなり至近距離で撮影されている。

 

「この写真……!去年の築城基地航空祭の時の……!」

 

「どういうことだよ、龍馬!?航空祭でなんかあったのか!?」

 

訳がわからない。なぜ自分とルビィが記事にされているのか。それに暴言はまだしも手を出した覚えは一度もない。さらに記事を読むとありもしない話をまるで事実のように書かれている。

 

「“筆者が航空祭において自衛隊に関する市民の意見を取材した所、若者の声も聞くべきであると考え、高校生らしき若者に話を伺ったところ訳もなく突然激昂し、筆者を突き飛ばすなどの暴行に及んだ。筆者は現代社会で問題となっている『キレやすい若者』にの現状に憂いを抱きつつも取材を試みたが彼は激昂したままだったため話ができる状態ではなく、やむなく取材を中断した。また、異世界の人種のひとつである『ダークエルフ』の少女を同行させており、それが妹であるなどと主張していた。人種的に有り得ない話であり、咄嗟についた嘘だとすぐに理解した。若者達の間で広がる『不純異性交遊』としての社会問題も浮き彫りとなり、この日本という国の教育における未来に不安が残る一件である"…………ふ、ふざけやがって!!」

 

なんだこの記事は。全てデタラメしか書いてないではないか。そして龍馬の脳裏にこの記事を書いたであろう男の顔が蘇る。

 

「あのヤニカス野郎……!!」

 

「龍馬、この記事がデタラメなのは父親である俺にはもちろんわかるが……まさか手を出すまではしてないよな?」

 

「当たり前だろ!そもそもこの記事を書いた眼鏡のオッサンが『自衛隊って怖いよねぇ』なんて言いながら反自衛隊みたいな意見求めて急に取材しようとしてきたから断ったのにこいつはルビィがダークエルフで珍しいからって勝手に写真撮ろうとしてきやがったんだ!だから声を荒げはしたけど手は出してねえよ!」

 

「……なるほど。そういうことか。事情はわかった。その記者の名前はわかるか?」

 

「……ええと、ちょっと待ってくれ。確か……」

 

龍馬は財布を取り出してレシートやらポイントカードの隙間を探す。確かあの男からもらった名刺が残っているはずだ。

 

「……あった!これだ!」

 

「どれどれ……?九州新聞社・陣内春樹…………」

 

名刺を受け取った龍一郎はそこに書かれた名前を読み上げる。そして龍馬は見逃さなかった。名刺に書かれた名前を見た瞬間、父の顔が一瞬だが恐ろしい形相に変わったのを。

 

「お……親父?」

 

「……ん?ああ、すまん。この記者だな。新聞社に直接問い合わせておこう。それとルビィ達だが……既にこの記事がご近所で噂になってる。しかも同業者(パパラッチ)らしき連中も家の周りで見かけるようになった。人目につかないようルビィを含めアヤちゃんとルミちゃんも連れてきたんだ。しばらくはお義父さん達に預かってもらう。バルガスさんもいるしここなら安全だろう」

 

この記事が広まったせいか近隣住民から斎藤家の良からぬ噂が立つようになり、ルビィとルミナとアヤの三人は外出がしづらくなってしまった。おまけに更なる特ダネを求めて記者らしき連中も徘徊するようになったため龍一郎の判断で三人を五十嵐家に預けることにしたのである。

 

「龍馬、これからのことは改めて話そう。今日はもう寝なさい。ああ、それと勇斗君。君のことは親御さんには上手く言っておくから君も今日は泊まらせてもらいなさい。ただしなるべく早く帰るようにな。あまり親御さんに心配かけちゃいけないよ」

 

「……はい。すんません」

 

しゅんとしながら勇斗は頭を下げる。今は下手に動くべきではないため今日は泊まらせてもらうのがいいだろう。まあ一応親には数日間龍馬の家にお世話になると誤魔化しているし、自分の親はそこまで自分の行動に興味ないだろうから大丈夫だとは思うが。

龍馬はいつでも泊まれるようにと祖父母宅に置いていた寝巻きに着替え、勇斗はバルガスの作務衣を一着ずつ借りた。これがなかなかピッタリだ。コルボは合う服がなかったため、下着だけで過ごすことになった。

着替え終わった三人は和室と居間に布団を敷き、横になる。布団に身を委ねた瞬間に疲れがどっと押し寄せ、三人が深い眠りに付くのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……喉乾いた」

 

龍馬は深夜に乾きを覚え、寝ぼけ眼を擦りながら台所へ向かう。冷蔵庫を開けて冷えた麦茶をコップに注ぎ、一気に飲み干す。

 

「……ふう。ん……?」

 

龍馬がふと窓に目をやると道場の方に明かりがついているのが見えた。台所の窓は丁度道場の方角になっており、夜に明かりがついていればすぐにわかる。

しかし妙だ。こんな深夜に祖父が道場に?掃除ならいつも日中に終わらせるし、そもそも祖父が深夜に起きて活動することは稀だ。せいぜいトイレに起きてくることがたまにあるくらいだろう。祖母も然りだ。

 

「まさか……泥棒!?」

 

以前この家は泥棒に入られたことがある。可能性は充分にある。まあその時はヨネ子の灰皿アタックで泥棒を鎮圧したのだが。

龍馬はすぐに玄関に向かいサンダルを履くと急ぎ足で道場に向かい、さらに万が一に備えて両腕にルナ・アームを装着する。道場に到着し、龍馬は道場に駆け上がると大きく叫んだ。

 

「オラァ!!勝手に人ん家に入ってる野郎はどこのどいつだ!!」

 

どんなコソドロかと想像しながら道場の奥を見る。しかしそこには龍馬の想像したような泥棒は存在せず、代わりに道着と袴を着用した老人が立っていた。

 

「来たか……」

 

「な、なんだテメェは!?」

 

「……ふん、あのハナタレのガキの頃にそっくりやな。あいつも威勢だけは一丁前やった」

 

「っ……!?」

 

やや色黒の肌。白髪の短髪。背は高めで細身ではあるが確かについたしなやかな筋肉。年は70代くらいに見えるがそれ以上に龍馬はその鋭い眼光に圧倒された。老人とは思えぬその目つき、気迫に龍馬は底知れぬ力を感じ取り、たまらず後退りする。

 

「はじめまして、やな……龍馬君。君は俺をよう知らんやろうが俺は君をよう知っとるぞ」

 

「あ、あんたは一体……」

 

「自己紹介がまだやったな。フフ……俺は巌鉄。五十嵐巌鉄や。お前のじーちゃんの親父たい。お前から見たら“ひいじいちゃん"やんな」

 

「は……!?」

 

五十嵐巌鉄。つい数時間前にその名を聞いた。龍馬にとって曽祖父にあたる存在。しかし明らかにおかしい点が。

 

 

曽祖父は……五十嵐巌鉄は龍馬が生まれる10年以上前に亡くなっているはずだ。彼がここにいるなど有り得ない。

 

「……わかるぞ、お前の考えとーことが。でもな、そげなもんは今どうでもいいったい。俺の目的はひとつ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍馬、手合わせ願おうやないか。“博多の怒龍"がどれほどのもんか……ひいじいちゃんに見してみい!!」

 

言うが早いか、巌鉄はいきなり風のような速さで龍馬に突進からの正拳突きを繰り出してくる。龍馬はルナ・アームを装着したままの両手で慌てて防御した。

 

「ぐうっ!?」

 

巌鉄の拳を防いだ瞬間、全身に衝撃波が当てられたかのような強い振動を感じた。腕はルナ・アーム越しでもビリビリと痛みを感じ、龍馬は慌てて後ろに下がる。

 

「どした?そげなもんか?そげなオモチャに頼らんと喧嘩のひとつもできんとか?」

 

「ぐっ……!クソが……!黙って聞いてりゃいい気になりやがってよぉ!!」

 

巌鉄の挑発に怒り心頭の龍馬はならばやってやるぞと言わんばかりにルナ・アームを解除して巌鉄に殴りかかる。しかし……

 

「ハッ、甘い甘い」

 

龍馬の攻撃はまるで未来予知でもされているかのようにヒラリヒラリとかわされる。それもそうだ。あの煙のようなかわし方をする平蔵に五十嵐流無手術のイロハを叩き込んだのはこの曽祖父なのだ。平蔵にすら当てられない攻撃をどうして巌鉄が喰らおうか。

平蔵が煙ならば巌鉄はそう……“空気"。まるで目にすら見えぬ空気を相手にしているかのようだ。その動きには一切の無駄がなく、空気の流れそのものが巌鉄に味方しているような感覚さえ感じてしまう。

 

「ハァッ……!ハァッ……!」

 

「なんや、もうバテとんか?ほならこっちから行くぞ!!」

 

風の如き巌鉄の踏み込み。そしてそこから繰り出される八極拳にも似た背中を利用したタックル。龍馬は正面からそれをもろに喰らってしまい、まるで高速で飛来する岩石をぶち当てられたかのような衝撃で背面に吹っ飛んでしまう。

 

「ぐあっ!!」

 

龍馬はあまりの衝撃に畳に二度叩きつけられた後、転がるようにして畳に倒れ込む。

 

「ぐぅぅ……クソッ……!」

 

「なんや、もうしまえたんか?平蔵のハナタレでももう少し根性あったぞ。ほら、早よ立たんかい!」

 

強い。強すぎる。一度も攻撃を与えられた試しすらない祖父。そして“鬼"と恐れられたあの母に五十嵐流無手術を叩き込んだその腕は半端ではない。勝てる、勝てないの次元ではなく「そもそも勝負にすらなってない」。事実、巌鉄はさっきから「手を一切使っていない」。龍馬の攻撃は全て回避され、防御や受け身すら取らせていないのだ。それはつまり龍馬との試合が児戯にも等しいことを指す。

 

 

……勝てるわけがない。

 

 

 

 

「今、諦めかけたな?ひいじいちゃんが強いもんやけん『勝てるわけない』っち思うたやろ?」

 

龍馬は心を見透かされたような巌鉄のその発言に龍馬はドキリと心臓を鳴らした。

 

「龍馬……もし俺がお前にとって大事な人を傷付ける存在やったらどうする?自分より強かったら諦めるんか?お前の覚悟や怒りっちゅうんはその程度なんか?」

 

「……!!」

 

巌鉄の言葉に龍馬はうつ伏せのまま拳を握り締める。確かに巌鉄は強い。だが相対する敵が曽祖父に匹敵する強さだったとしてもそれが倒すべき悪なら……自分にとって大切な人達を傷付ける存在なら……たとえ石にかじりついてでも戦うだろう。

 

「……けるな……」

 

「なんち?聞こえんぞ?」

 

「ふざけるなぁぁ!!!!」

 

龍馬は叫びながら起き上がると湧き上がる怒りを拳に込め、構えた。ここまで好き勝手言われて黙っている龍馬ではない。たとえ相手が祖父より強い曽祖父であろうと関係ない。せめて一矢報いてやると龍馬は怒りに震えながらも呼吸を整えて拳に全神経を集中させた。

 

「(……!!この構え……!まさか……!)」

 

巌鉄はすぐに何かを察する。しかし龍馬がその攻撃を繰り出すのは巌鉄の反応より遥かに早かった。

 

 

「鬼……穿ちっっっ!!!!」

 

 

一瞬で間合いを詰める突進。そしてそこから鳩尾を狙って繰り出される龍馬の拳。そう、あのバルガスとの戦いでのみ使った五十嵐流無手術奥義にして禁じ手・鬼穿(おにうが)ちである。

荒ぶる鬼をも制す修羅の如き必殺の一撃。龍馬の拳は確かに命中した。その感触はある。だが――

 

「……っ!?」

 

「危ねぇ危ねぇ。平蔵のやつ、孫になんちゅうもん教えとるんや」

 

龍馬の拳。それは巌鉄の両手によって見事に受け止められていた。しかし巌鉄も歯軋りをしながらなんとかそれを受け止めている状態である。

 

「驚いたばい。平蔵のハナタレでもできんやったとに、この俺に手を使わせるたぁな」

 

攻撃自体は防がれてしまった。しかしそれすら常人を遥かに超えている証拠だ。多少油断していたとはいえあらゆる攻撃をまるで気体のようにかわす巌鉄にそもそも防御などという概念はない。そんな曽祖父が両手で攻撃を受け止めたのだ。

まだまだ荒削りな戦いだがきっと自分のひ孫は強くなる――この一撃で巌鉄は確信した。

 

「ふ……はっはっは!ようやるわ!さすが俺のひ孫たい!よし、龍馬。ひとつ聞こう。もっと強くなりたいか?」

 

受け止めた龍馬の拳をゆっくりと下ろしながら巌鉄はそう尋ねた。龍馬も構えを解き、しばらく俯いたのちに頷いてゆっくりと答えた。

 

「強く……なりてえ!ひいじいちゃん……俺もっと強くなりてえ……!!」

 

今回の敵はあまりにも強大だ。底知れぬ闇に潜み、暗躍する敵を倒すためにも自分はもっと強くなる必要がある。そうしなければ誰も守れない。家族も、友人も、自分が生まれ育った街も――。

 

「……ふ、嫌々練習しよったあのハナタレと違っていい顔をしよる。よし、時間があまりないけんはよ始めるぞ。いいか?」

 

「……おうっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、龍馬。起きろ!起きろってば!」

 

「う、うん……?」

 

龍馬は聞き慣れた声で目を覚ます。差し込んでくる朝日が眩しい。ゆっくりと身体を動かすと節々が痛い。気がつけば自分は道場の畳の上で寝ていたようだ。勇斗が起こしに来てくれたらしい。すると道場に平蔵も入ってきた。

 

「龍馬、お前なんちゅうとこで寝とんか。寝相悪いにも程があるやろ」

 

「……夢……だったのか……?」

 

昨晩のあの出来事。あれは全て夢だったのだろうか。それにしてはかなり鮮明でリアルすぎる。それに……

 

「……じーちゃん、いきなりで悪いんだけど……組手してくんねぇかな」

 

「はぁ?」

 

身体を動かしたあの感覚。まるで現実に起こったことのように身体に染み付いている。そうとも、あれは決して夢などではない。確かに曽祖父はそこにいた。

 

「……なんかよう知らんが、まあいいたい。ほな勇斗君、審判頼めるか?」

 

「え、あ、はい!」

 

勇斗は平蔵からの頼みで急遽審判をやることになった。ルールは簡単。5分以内に一撃でも平蔵に当てることができれば龍馬の勝ちだ。逆に時間切れになるか平蔵に一本取られた場合は平蔵の勝ちとなる。勇斗がストップウォッチを設定すると龍馬と平蔵ほ位置についた。

 

「それでは……始め!」

 

かけ声と共に龍馬が平蔵に仕掛ける。しかしいつものように平蔵はまるで煙のように龍馬の攻撃を避けていく。

 

「どうした?まだ寝ぼけとるんか?はよ来てみらんか!」

 

「……!!」

 

「急に組手せえとか言うけんちょっと期待したんやがいつも通りやな。ほなこっちも行くぞ!!」

 

平蔵は龍馬の攻撃をかわした直後に少し間を置いて軽く攻撃を仕掛けた。

 

 

 

――この瞬間、ありえない龍馬の動きに平蔵は驚愕することとなる。

 

 

 

「……!?」

 

なんと龍馬はいとも簡単に平蔵の攻撃をかわしたのだ。今までこんなことはありえなかった。続けて平蔵は拳や肘などを駆使して攻撃を仕掛けるが、龍馬は次々に攻撃をかわしていく。

 

 

そう、まるで“影"のように。

 

 

 

「(ば、馬鹿な!そげなことがあるか!これは……この動きは……!)」

 

 

 

 

 

 

 

「(死んだ親父のそのままの動き方……親父が得意やった“影舞"やないか!)」

 

 

 

 

 

五十嵐流・影舞(かげまい)。そこに確かに存在する。が、決まった形を持たず、触れることさえ出来ぬ影のように相手の攻撃をかわす五十嵐流の体術のひとつ。この自分ですら完璧ではないと巌鉄から生前言われたというのに。

 

 

 

今の龍馬の動きは、巌鉄そのものだ。

 

 

 

「(龍馬にはそもそもこの動き方は教えとらん!それに教えたところで一日二日で出来るような動きやない!)」

 

この動きを習得するには長い練習が必要な上、完全に巌鉄の動きを真似するなどまず不可能だ。なのに龍馬の動きは巌鉄のそれを完全に模していた。かわし方がまるで同じなのだ。

 

「龍馬……お前……その動きをどこで……」

 

「……ひいじいちゃんが教えてくれたんだよ」

 

龍馬は話した。昨晩の不思議な体験を。遠い昔に亡くなったはずの曽祖父・巌鉄。その巌鉄と戦ったこと、彼から武術の手解きを受けたこと、そして……。

 

「じーちゃんに伝言してほしいって言われた」

 

「な、なんや?」

 

「“もしひ孫になんかあったら容赦せんぞ、このハナタレ"だってよ」

 

それを聞いて平蔵は苦笑した。間違いなく龍馬が会ったのは自分の父親である巌鉄だ。巌鉄が自分のことを“ハナタレ"と呼ぶことは龍馬には教えていない。にも関わらずそれを龍馬が知っているのは……

 

「親父らしいこっちゃ……」

 

きっと龍馬のそばで今も彼を見守り続けているのだろう。自分より遥かに強い巌鉄が龍馬の近くに居続けていることに少し安心感を覚えた平蔵だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

昨晩、意識を失う前に龍馬は自分が巌鉄に言われたことを思い出した。

 

「龍馬、お前はこれから大きな敵と戦うことになるやろう。大きな闇そのものっちゅっても過言やない。この戦いは絶対に避けては通れん。苦しい戦いになるかもしれん。そいけどな、絶対に諦めるな。男はやると決めたら最後まで絶対諦めたらいけんもんや。大丈夫や、お前なら勝てる。相手がどれだけ強かろうが底知れぬ闇やろうがお前は絶対勝てる。お前には強いかーちゃんととーちゃんがついとるしハナタレ……平蔵じーちゃんとヨネ子ばーちゃんも、一緒に戦ってくれる友達もおる。何より……この巌鉄じーちゃんがそばについとるけんの!」

 

巌鉄がそこまで言ったあたりから意識があやふやだ。龍馬の意識が無くなり始めたのを悟ったのか、巌鉄は急いだ口調で龍馬に語りかけた。

 

「もう時間やな……平蔵のハナタレに孫になんかあったら容赦せんぞって伝えとってくれ。最後に龍馬……」

 

 

 

 

 

 

 

「みんなのこと、頼むけんな」

 

 

 

 

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