アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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この回では作者がお世話になっている『フレアバー EDEN』のマスター・ナックルさんが本人役でゲスト出演しています!


第15話 ようこそ福津市へ

コミックシティの終了から数日経ったある日のこと。

ある一本の電話が龍馬宅にかかってくる。

 

「はい、もしもし斎藤です。……なーんね、お父さんね。龍馬?おるよ?ちょっと代わるけん待っとって。……龍馬!龍馬!じーちゃんから電話かかってきとるよ!」

 

涼子が呼ぶと二階から龍馬が降りてくる。龍馬は母から受話器を受け取った。

 

「もしもし、じーちゃん?」

 

相手は龍馬の母方の祖父である五十嵐平蔵(いがらしへいぞう)からであった。

 

「"おー、龍馬か!最近どげんしよるとや?お前ここ数ヶ月あんまり顔見せんやんか。やけんくさ※、元気しとるやろーかー思うてこげんして電話したたい。たまにはじーちゃんとこに遊びに来ぃーや。ばーちゃんも孫の顔が見たいっちゅうて寂しがっとるぞ"」

 

(※やけんくさ・・・『○○だからね、○○』というような感じの言葉に接続詞のニュアンスとして使われる宗像弁の一種。同じようは意味で『そいけくさ』などもある。『そうだよ』という意味で『そうくさ』という言葉もある。宗像弁は主に年配の方に多く見られる)

 

「あー、そういや最近じーちゃんち行ってないもんね。そーだなー……じゃあ、今週末にでも泊まりがけで行くよ」

 

「"おっ、そーか!ほな、待っとるぞ!"」

 

龍馬はガチャリと受話器を置く。

 

「リョーマ、誰から?」

 

丁度二階からディレットも降りてきた。

 

「俺のじーちゃんからだよ。福津市ってとこに住んでる」

 

龍馬の母方の祖父・五十嵐平蔵は海沿いの市・福津市に住んでいる。福津市の祖父の家はここから車やバイクなら交通状況にもよるが1時間半ほどで到着する。

小学生の頃はよく泊まりがけで遊びに行ったものだ。しかし中学時代から行く回数は減り、高校に入ってからは数ヶ月に2、3回程度しか行かなくなっていた。最後に行ったのは今年の正月である。

今週末は予定もなく暇だし、たまには祖父の家に顔を出してみるのもいいかもしれない。

 

「リョーマのおじいさん?へえ、一度会ってみたいな」

 

「ならディレットも一緒に行くかい?」

 

「いいの?」

 

「ああ。じーちゃんに連絡しとくよ。……もしもしじーちゃん?さっき電話切ったばかりでごめん。あのさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほな、気を付けて行ってきーよ」

 

「わかってるって」

 

龍馬は愛車のNinja250のエンジンを軽くふかす。

後ろには龍馬のお下がり (安物)のkawasakiのロゴが入ったバイク用のライダースジャケットを着たディレットが跨がっている。

 

「じゃあリョーコさん、行ってきます」

 

「おう!気を付けて行ってきー!バカ息子が変なことしたらひっぱたいていーけんね!」

 

「しねーよ!」

 

龍馬はバイクを発進させ、家を出る。

 

 

今日は金曜日。二人は平蔵の家に行くために下校してすぐバイクに乗って出発したのであった。

目指すは福津市。香椎浜方面の高速の下道である道路を走って行くことにした。

龍馬は一人だけなら高速道路を走れるのだが、自動二輪免許取得から二年間は高速道路での二輪車二人乗りは不可能なため、取得から一年しか経過していない龍馬がディレットを乗せた状態では高速道路に入れない。そのため必然的に一般道のルートになるのだ。

自宅を出発してから40分ほど。龍馬とディレットは香椎浜へと到着した。龍馬は海沿いの歩道の脇にバイクを止め、ディレットと共に休憩する。

 

「大丈夫か?疲れたり怖いとかないか?」

 

「大丈夫!すっごく楽しい!」

 

二人は海岸にある舗装された道のベンチに腰掛けて対岸を見る。

向こう岸には香椎浜に作られた人工島アイランドシティ福岡とそびえ立つタワーマンションが見える。

 

「向こう岸のあれ、おっきな塔だねー。人が住んでるの?」

 

「まー、そりゃ俺らなんかじゃ想像もつかないような金持ちが住んでんじゃね?」

 

二人は少し雑談をしたのちに再び出発した。

ここからは海沿いの道はなくなり、住宅街を抜けて495号線へと出る。九産大前駅前通りを通過してさらに495号線を北上、二人は福津市の隣街である古賀市まで辿り着いた。

ここでコンビニに立ち寄り、飲み物を買って2度目の休憩に入る。

 

「さすがにちょっと疲れてきたな……二人乗りはまだあんまり経験ないし、神経使うからな……」

 

身体の疲れを少しでも取ろうと伸びをする龍馬。

 

「リョーマ、大丈夫……?ごめんね、私が無理言ったから……」

 

「いや、気にするな。一人でも二輪は結構疲れるもんさ。さ、今いる古賀市を抜ければもう福津市だ。じーちゃんの家は目と鼻の先だぜ」

 

龍馬はもう一度伸びをすると両腕をグルグルと回して再びヘルメットを被り、バイクにまたがる。そしてディレットもヘルメットを被って龍馬の後ろに再びまたがった。

 

「さ、行くぞ!」

 

「おー!」

 

龍馬はエンジンをかけ、バイクを発進させる。

二人の乗ったバイクは再び交通の流れの中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

福岡県福津市。

北九州地方と福岡地方のほぼ中間に位置する人口約6万人の海沿いの街。

元々は福間町と津屋崎町という別々の町であったが、福間町と津屋崎町の合併により名称を"福津市"へと改名。現在に至る。

福津市はマリンレジャーの盛んな街で海岸沿いは海水浴場や民宿が数多く存在し、シーズン中は多くの海水浴客やマリンスポーツ客で賑わう。更に冬場はかき小屋での焼き牡蠣も人気のスポットとなる。

最寄り駅である福間駅周辺はイオンモール福津をはじめとした各種商業施設や病院、飲食店などで賑わっており、比較的新しいマンションや住宅が建ち並んでいる。

そこから元・津屋崎町方面へ向かえば山や田畑が広がるのどかな風景が広がっている。

平蔵の家は津屋崎町であった場所の海水浴場近くにある。

 

「見えた。じーちゃんちだぜ」

 

さらに進んだ先に大きな農家の一軒家が佇んでいた。その家は敷地内に道場まで併設してあった。どうやらここが龍馬の祖父の家らしい。

龍馬が敷地内にバイクを止めて降りると、向こう側から一匹の犬が尻尾を振りながら全速力で向かってくる。

 

「ワンワンッ!」

 

犬はヘッヘッと舌を出しながら龍馬に飛び付いた。

 

「ターボ!元気にしてたかー?」

 

「ワンッ!」

 

ターボと呼ばれたラブラドールレトリバーの犬は龍馬の呼び掛けに返事するように一度鳴いた。

 

「おー、龍馬か!よー来たなぁ!」

 

向こうから歩いて来たのは作業服を着た白髪頭の一人の年配の男性。

どうやらこの男性が龍馬の祖父らしい。

 

「おう、隣におるとがこないだ言いよったエルフのべっぴんさんか?」

 

「はじめまして。サイトウさん一家にお世話になっているディレット・アドミラシルです。リョーマのおじいさんですか?」

 

「はいよ。俺が龍馬んとこ母方のジジイの五十嵐平蔵たい。お嬢ちゃん、よろしく。ま、立ち話もなんや。家さい入りい。ばーちゃんも待っとるが」

 

「ワンッ!」

 

龍馬はバイクを少し奥に移動させて農業用の重機のある納屋に止めると、ディレットと共に平蔵宅に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま~、あんた達よう来たねぇ。ほら、粗茶やけど飲みぃ」

 

龍馬の祖母・ヨネ子が龍馬とディレットのために氷水で抽出した八女茶(やめちゃ)※を出してくれた。

 

(※八女茶……福岡県八女市で栽培されている緑茶)

 

「ありがと、ばーちゃん」

 

「いただきまーす」

 

よく冷えた八女茶がバイクでの長距離移動で疲れた身体に染み渡る。飲み干すと二人ともほう、とため息が出る。

 

「ほら、あんた達が来るっちゅうけん、お菓子買ってきとうけんくさ、食べりぃ」

 

ヨネ子はテーブルの中央にあった煎餅やら飴やらチョコレートの乗ったお盆を差し出した。

龍馬は煎餅を、ディレットはチョコレートを食べる。

 

「いやー、しかしそっちのお嬢ちゃん、今よくいる異界の人っちね?」

 

「はい。アルカ帝国領内のトルトの森からやってきたエルフです」

 

「あんたあれやろうも?エルフっちゃ、なんか凄い長生きっちゅう話やないね?」

 

「はい、175歳です」

 

その言葉に平蔵もヨネ子も驚く。

 

「175!?俺とばーさんの年足しても足りんやんか!羨ましいばい!」

 

「あたしたちゃ、もう棺桶か墓石の下に入ってもいい年頃なのにねぇ。人の人生っちゃほんと短いたいねぇ……」

 

「じーちゃんもばーちゃんも殺したくらいじゃ死なんくらいしぶといでしょ。俺が死神だったら関わりたくないね」

 

はっはっはと笑う平蔵とヨネ子。

この二人も龍馬の祖父母、あの涼子の両親と言うだけあって非常にタフである。

平蔵は小さいながらも道場を経営しており、空手や剣道、合気道の有段者で"五十嵐流無手術"という看板名で武道を教えている。

ヨネ子に至っては泥棒や暴漢をガラス製の灰皿で殴ってノックアウトさせるなど、夫や娘に負けず劣らずのパワフルばあちゃんだ。

 

「ま~、あんた達がわざわざ遠くから来てくれたし、今日はばーちゃんも色々作らないかんね。こんな美人のお客さんも来てくれとることやし、ごちそう作らなたい」

 

ヨネ子はそう言って居間の奥の台所へ行き、冷蔵庫や戸棚を見てある物や足りない物を確認している。

 

「龍馬。ところでお前くさ、相変わらず喧嘩ばっかりしよんか?」

 

「人聞きの悪いこと言うのやめてくれよじーちゃん。それは中学の時の話だろ?」

 

龍馬はばつが悪そうに言いながら、再び煎餅に手を伸ばす。

 

「リョーマ……喧嘩ばっかりしてたの?」

 

「昔の話だよ」

 

「おう、こいつくさ、中学ん時は荒れまくって喧嘩しちゃあ、チンピラやらヤンキーをボテボテにして自分も傷だらけでウロウロしよったたい」

 

「じーちゃん……」

 

「そいけどくさ、ディレットちゃん誤解せんでやっとって。こいつは無意味に誰かを傷付けるような喧嘩は絶対にせんかった。弱いものいじめをしたり、筋の通らないバカチンどもを叩きのめして、弱い人間からは好かれとった。この子は小さいときから正義感強かったけん」

 

平蔵はそこまで言うと立ち上がり、こう言った。

 

「どや、龍馬?久々にじーちゃんの稽古受けてみらんか?」

 

「えー、やだよ。じーちゃん強すぎるもん」

 

平蔵が得意とする武術"五十嵐流無手術"。

空手・合気道・柔術などをベースに平蔵の先祖が編み出したと言われる武術であり、如何なる場合でも素手においての戦いに重点を置いており、一対多数・武器を持った相手などの状況においても強さを発揮する武術である。

龍馬は何度か平蔵と組手を行ったことがあるが、勝てるどころか攻撃を当てることすらできなかった。

まるで赤子の手を捻るかの如く、必要最小限の動きと力で捌かれてしまう。

 

「何を言いよんか!お前、女連れとってからいつ変なとに(変な奴に)襲われるかわからんのやぞ!このジジイに一発も当てきらんでからどうするとか!」

 

「そんなこと言ったってさあ……」

 

二人がああだこうだと言っている時、ディレットが平蔵に言った。

 

「あ、あの!おじいさん!」

 

「ん?」

 

「わ、私に武術の稽古をつけてくれませんか!?」

 

その言葉を聞いた平蔵は目を丸くして驚き、しばらく固まった。

 

「え……いや、いいけどくさ……どうしたとねお嬢ちゃん」

 

「実は……」

 

ディレットは話した。先月、自分が不良達の集団に拉致された事を。そして龍馬が身体を張ってボロボロになりながらも助けてくれたことを。

あの時自分は無力だった。魔法を使って助けることもできたであろうに、縛られていたせいか、それとも恐怖からかーー。

彼女は動けなかった。そして魔法も使えないただの人間であるはずの龍馬が己の肉体だけを武器に自分を必死になって助けてくれたのだ。

せめて自分の身くらい自分で守りたい。そう思って彼女は平蔵に武術の手解きをしてくれるように申し出たのだ。

 

「……なるほどねえ。龍馬、お前立派な男やないか。女のためにてめぇの身体張って死ぬ気で歯ぁ食いしばって戦ってこそ男たい。でもそんとき思わんやったか?"もっと強うなりたい"って」

 

「う……ま、まあ……」

 

歯切れは悪いが答える龍馬。そして平蔵は言った。

 

「よし、ちょっと道場掃除してくるけん、お前はその間ディレットちゃんとターボの散歩にでも行ってこい。まだ日も明るいしのう」

 

平蔵はそう言うと玄関に向かい、敷地内の道場に向かっていってしまった。

居間に残された龍馬とディレットは仕方なく外に出て平蔵か道場の掃除をしている間にターボの散歩をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして……福間海岸にて

 

 

 

「ワンワンッ!」

 

海岸に付くと龍馬はターボのリードを外してやった。

ターボは待ってましたと言わんばかりに海岸を凄い勢いで走り回り、海に飛び込んだ。

しばらく泳ぎ回るとのそのそとあがってきて大きく身体を震わせて水を切る。

 

「わっ!ターボやめろ!」

 

わざわざ龍馬の近くでやるものだからターボの飛ばした水しぶきが派手に龍馬にかかる。

それを見てアハハと笑うディレット。

龍馬は苦い顔をしながら濡れたターボの身体をタオルで拭いてやる。

 

「綺麗だねー……」

 

水平線の向こう側に浮かぶ夕陽。夕焼けの光に照らされた福間海岸はとても美しかった。

 

「ところでターボってとてもリョーマになついてるよね」

 

「ああ……こいつは捨て犬だったんだ。今から7年前……俺が10歳の時にじーちゃんの道場の前に捨てられてた」

 

「……それは……ひどいね……」

 

龍馬は何か思い出したくない過去を思い出してしまったと言わんばかりの暗い表情をしている。

フゥ、と軽いため息をついてから龍馬は続ける。

 

「当時の俺は泣き虫でいじめられっ子でさ。誰も友達がいなかった。親父は出張が多かったし、その頃は母さんも働いてて家でも一人の事が多かった。だからよくじーちゃんの家に泊まりがけで遊びに行ってた。

そんな時捨てられてた仔犬のターボと出会った。じーちゃんとばーちゃんはまるで孫がもう一人出来たみたいにターボを可愛がった。そして友達のいなかった俺にとってもターボは唯一の親友だったんだ」

 

龍馬は砂浜に座る。するとターボも龍馬に寄り添うようにして右隣に座った。

 

「俺が嫌なことがあってじーちゃんちに泊まりに来るとさ、ターボはいつも俺のそばにいてくれたんだ。しかもターボは勇敢で強かった。俺が野良犬に襲われて泣きながら助けを呼んだときにも小さな身体で疾風のように駆け付けて一回りも大きい野良犬に噛みついて戦ってくれた」

 

ディレットは黙って龍馬の過去の話を聞いている。そして龍馬の左隣に歩み寄って座り込む。

 

「なんか、リョーマの昔話初めて聞いた気がする」

 

「今まで言わなかったからな」

 

「そうだね」

 

ディレットはふふっと悪戯っぽく笑う。

 

「勇斗との出会いもそうだけど、一番俺を変えた出会いはターボかもしれないな。こいつは多分来るべくして俺の前に来たんだ」

 

「運命ってやつかもね」

 

「ワンッ!」

 

ターボはまるで二人の言葉がわかるかのように短く声を発した。

 

「よし、そろそろ帰るか。な、ターボ!」

 

「ワンッ!」

 

龍馬は立ち上がり、ターボにリードを付けた。

帰ろうとしたその時、海岸の片隅に眼鏡をかけた細身の男性を見つけた。

男性は複数のボトルやタンブラーのようなものを持っており、なんとそれをまるで大道芸のようにジャグリングし始めたではないか。

気になった龍馬とディレットはその男性に声をかけてみることにした。

 

「よっ!ほっ!」

 

男性はボトルをジャグリングしたり、タンブラーのような容器にボトルを入れたりするなどのテクニックを披露している。

 

「あの~、すみません」

 

「ん?」

 

龍馬達に気付いた男性はジャグリングを中断してこちらを向く。

 

「なんかすごいですね。何をやってるんですか?」

 

「ああ、これ?これねぇ、"フレア"っつーの」

 

「フレア?」

 

男性の説明に出てきた聞き慣れない単語。

なんだかRPGに出てくる魔法みたいな言葉だ。

 

「そ。俺バーテンダーっちゃん」

 

「バーテンダー……ってあのお酒シャカシャカして入れたりする?」

 

「そうやねぇ。でも俺はこんなふうにパフォーマンスを交えながらカクテルを作る"フレアバーテンダー"って人間なんよ」

 

すると男性はさっきのようにボトルをジャグリングするパフォーマンスを龍馬達に見せてくれた。

 

「わあ!凄い!」

 

まるで生きてるかのように宙を舞うボトルを見てディレットは拍手をする。

そして回転しながら宙を舞ったボトルのひとつが吸い込まれるようにカシャッ、と音を建てて容器 (シェーカーというらしい)にはまり、二人は拍手をする。

 

「自己紹介が遅れたね。俺はナックル。"夏が来る"と書いて"夏来(ナックル)"さ。」

 

「すげー!」

 

「どうやったらそんな事が出来るんですか!?」

 

「ま、地道な練習の積み重ねやね。俺普段は親富孝通りに店構えとんやけど今日は久々に休みが取れたんで地元の福津に戻ってきたっちゃんね」

 

するとナックルと名乗った男性は近くにあった自分の鞄から小さなチラシを取り出し、龍馬とディレットに渡す。

 

「"Bar EDEN(エデン)"……?」

 

「それ俺の店。……あっ、もしかして君たち高校生とかだった?」

 

「は、はい」

 

「あー、じゃあまだ今は来れんね。成人してお酒を飲めるようになったら是非来てよ。最近は異世界のお客さんも多いし、そっちのエルフのお嬢さんも楽しめると思うよ。

それかお父さんとかお母さんに教えてもらえるとありがたいかな」

 

そう言うとフレアバーテンダー・ナックルは再びボトルを手にする。

 

「俺はもう少しここで練習していくよ。君たち帰るとこ?気ぃつけてね」

 

「はい、ありがとうございました。ナックルさんも頑張って」

 

「素敵なものを見れて凄く楽しかったです!ナックルさん、ありがとうございました!」

 

「いえいえ。じゃーね」

 

龍馬とディレットはナックルに別れを告げ、ターボを連れて平蔵宅へと帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると平蔵が丁度道場の掃除を終えたところだった。

 

「おう、帰ってきたか。準備出来とるぞ。じゃ、早速道場の方に……」

 

平蔵がそこまで言った時、奥からヨネ子が出てきた。

 

「なんが道場ね!もう飯出来るが!あんたは風呂掃除して湯でも沸かしてきぃや!」

 

「えぇ……ばーさんそれはなかろう……」

 

「ゴチャゴチャしゃーしぃ!二人ともバイク乗ったり犬の散歩行ったりしてから疲れとーやろうけん明日にしぃ!明日に!もう日も暮れとーのにから!」

 

「へいへい……」

 

やる気満々だったはずの平蔵はヨネ子の気迫に圧倒されて肩を落としながら渋々浴室の掃除に向かった。

 

「龍馬、ディレットちゃん、もうちょっと待っときーね。すぐご飯出来るけん、テレビでも見ながら待っときー」

 

ヨネ子はそう言って再び台所の奥へと引っ込んでしまった。

 

「あ、あはは……すごく豪快なおばあさんだね」

 

「だってあのうちの母親のさらに母親だぞ」

 

「なんかすごい納得……」

 

二人は夕食が出来るまで居間でテレビを見て過ごすことにした。

お笑い番組を見ながら待っているとヨネ子が次々と料理を持ってきた。

 

「ほら、食べりぃ食べりぃ!いっぱい用意しとるけん!」

 

アジの塩焼きに里芋の煮っころがし、きんぴらごぼうやその他様々なものが並んでいる。

丁度浴室の掃除を終えた平蔵も戻ってきて四人は食卓を囲んだ。

 

「いただきまーす!」

 

ディレットはまずアジの塩焼きに手を付けた。

ほどよい塩梅(あんばい)で塩がきいていて身はホクホクしていてとてもうまい。

 

「ほー、あんた箸の使い勝手上手いやないね」

 

「こっちの世界に来る前に勉強と練習しましたから!」

 

「そーね!ほな存分に箸使うて食べときんしゃい!」

 

ヨネ子はハハハ、と笑う。

 

次に小さな骨付き肉のようなものを取ってかぶりついてみた。どうやら鶏肉のようだ。

ニホン特有の調味料"ショーユ"と……恐らく酒や砂糖などで甘辛く味付けした鶏肉は骨からポロポロと肉が簡単に離れるほど煮込まれている。

そしてなぜかほのかに"酸っぱい"。だがこの酸味がまた食欲を引き立てる。

 

「おばあさん、これは?」

 

「そりゃああんた、かしわ(鶏肉)を醤油と酒と砂糖とみりん入れて、あと"酢"を入れて炊いたやつくさ。疲れた身体にいいんばい」

 

涼子も料理が美味いが、その母であるヨネ子は涼子にも負けず劣らずの料理を作る。

きんぴらごぼうや里芋の煮っころがし、さらに唐揚げやヨネ子特製の大根の漬物などとても美味くてついついご飯が進んでしまう。

平蔵もビールを飲みながら料理に手をつけている。

よく食べる二人がいたせいか、炊飯器の中の米はほとんど無くなってしまった。

 

「ま~、あんた達よー食べるねぇ。あたしも作った甲斐があったばい。足りたね?」

 

「いや、ばーちゃんの料理ほんと美味い。お腹いっぱい」

 

「私も……久々に食べ過ぎました……でも美味しかった……」

 

二人は膨らんだお腹をさすり、水を一杯飲んだ。

 

「お腹が落ち着いたら風呂入りぃ。じーさんが沸かしてくれとるけん」

 

一時間ほど経った後、二人は順に風呂に入る。

龍馬が風呂から上がるとすでにヨネ子が居間に布団を敷いてくれていた。

 

「ほなあたし達もディレットちゃんがあがったらもう風呂入って寝るけん、あとはごゆっくり」

 

「ばーちゃん、ありがとう」

 

平蔵とヨネ子は和室が寝室である。龍馬は昔からいつもこの居間に布団を敷いてもらって寝ていた。

 

しばらくするとディレットがあがってきた。いつもの水色のパジャマを着ている。

 

「お待たせ。おじいさんとおばあさんは?」

 

「もう風呂入って寝るってよ。俺らはどうする?」

 

「じゃあ私達ももう寝よっか」

 

「そうだな」

 

龍馬が電気を消し、二人は布団に入る。

 

「おやすみー」

 

「おやすみ、リョーマ」

 

そうして二人は眠りについて…………

 

 

「…………ん?」

 

 

ちょっと待てよ。今まで全く気にしてなかったが。

 

 

"ディレットと相部屋で就寝"……!?

 

 

龍馬はそう考えた途端、火が吹き出そうなくらい顔が熱くなった。心臓が高鳴り、急にパニックになる。それはディレットも同じだった。

 

「(よ、よく考えたら……年頃の男の子と一緒の部屋で寝てるじゃない!ど、どーしよ!)」

 

二人ともお互いに背を向けたままの状態で顔を真っ赤にしている。

 

「(やばいやばいこれはやばい普通なら喜んでもいい状況なのにパニックにしかならない)」

 

 

 

……何十分経っただろうか。

暗闇の中でディレットは意を決して話し掛けてみることにした。

 

「ね、ねえ……リョーマ……起きてる?」

 

……返事はない。

 

「……リョーマ?」

 

ディレットはゆっくり起き上がって龍馬に顔を近付けてみた。

すると……。

 

「ZZZzzz……」

 

寝ている。どうなら睡魔には勝てなかったようだ。

 

「もう……人の気も知らないで……」

 

ディレットは頬を膨らませて自分の布団に戻ろうとする。

 

「ううん……ディレット……」

 

「え?」

 

後ろから龍馬の声がする。どうやら夢を見ているようだ。

時折むにゃむにゃと言いながらディレットの名前を呼んでいる。

 

「ディレット……す……す……すき……」

 

「(え!?ちょっと!?待って!そんな大胆な!寝言とはいえ心の準備が……!!)」

 

ディレットは自分の鼓動がみるみるうちに高まるのを感じる。

 

「すき焼き食いすぎお前……」

 

「(ズコーッ!)」

 

はち切れんばかりに高鳴ったディレットの心臓は一瞬にして萎えてしまった。

それにしても紛らわしい。しかもリョーマ本人自分が食べている夢を見ているとは、リョーマはどれだけ私の事を食い意地が張っている奴だと思っているのだろうか、とディレットは頬を膨らませながらつくづく思う。まあ、あながち間違いではないのだが。

 

「(ま、いっか……)」

 

ディレットはそう考え、再び自分の布団に潜った。

龍馬の寝顔を見ていたらなんだか自分も眠くなってきた。自然とあくびが出て、眠気が強くなってきた。

まぶたが重くなり、ディレットはいつしか深い眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

一方その頃、斎藤家では……

 

 

「リョーコさん飲みすぎですよ!」

 

龍馬とディレットのいない斎藤家にはアメリアと凛が泊まりがけで遊びに来ていた。

誰もいないからと連絡先を前に交換していたアメリアに涼子が電話をかけたのが事の始まりだった。

たまたまアメリアと一緒に凛もいたため二人でお邪魔することになったのだが、テンションの上がった涼子はいつも以上に酒を飲んで大騒ぎしている。

 

「やがぁしい!こげな時に飲まんでいつ飲むんか!あんたもね!年食うたらわかるよ!」

 

「り、涼子さん落ち着いて……」

 

「あたしゃいつでも落ち着いとる。落ち着いとるよぉぉ~?……ああ~……眠てっ」

 

涼子はソファーにぶっ倒れるとそのままいびきをかいて眠ってしまった。

この日は涼子がかに鍋をしてくれたのだが、涼子が酔いつぶれてしまったのでその後片付けは全てアメリアと凛だけでやることになってしまった。

だが、後片付けをする二人の顔はどこか嬉しそうであった。二人はソファーで寝る涼子にタオルケットをかけて自分達は2階のディレットの部屋で眠りにつくのであった。

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