アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第143話 牙を剥く狂龍

「安田さん、どういうことですか?」

 

「シッ!声は抑えて!……斎藤さん、格闘の心得は?」

 

「……ええ、学生時代にはボクシングを」

 

「なるほど……龍馬君は?」

 

「喧嘩なら慣れてます。ヤクザとも何度もやりあった」

 

「それなら良しだ」

 

新聞社を出た途端にこちらに敵意を向け、四方八方からゆっくりと忍び寄る敵。安田は刑事としての勘や危機察知能力からすぐに気付いたのだ。

奴等の正体が何者かはわからない。だが今回の事件に関連した何らかの勢力の手先であることは間違いないだろう。服装的にはどちらかというと“ヤンキー"っぽい者がほとんどでヤクザらしい者はいない。それにかなり若いため、大体が少年だろう。武器を携帯している様子はないが折り畳みナイフなどを隠し持っているかもしれない。警戒はしておくべきか。

 

「斎藤さん、気付いてないフリをして。人通りの多い所を抜けてできるだけやり過ごしましょう」

 

この場での戦闘も覚悟したがやはり人通りが多いせいか仕掛けてくる様子はない。ただ、つかず離れずといった距離を保ちながら間違いなく数を増やし包囲しようとしている。

 

「安田さん、私の車が近くのコインパーキングにあります。そこまで慎重に移動しましょう。龍馬、俺と安田さんの間に来い。そのまま移動するぞ」

 

龍馬は頷くと先頭の父の後ろに付き、安田は龍馬の背後を警戒しながら追従して歩く。少し急ぎ足で三人は歩きつつ、なるべく気付いていないフリをしながらコインパーキングを目指して歩く。

しばらく歩いてコインパーキングに到着する。龍一郎が先に運転席に乗り込んでエンジンをかけた。まだ人通りがある場所なため襲撃はしてこないと踏んでいたが次の瞬間その予想は裏切られた。

 

「おらぁ!!」

 

「くっ!!」

 

龍馬に向かって一人の不良が拳を振り上げ襲い掛かってきた。龍馬はそれをかわすと咄嗟に殴り倒し、さらに追撃で顔面を踏みつけて気絶させる。安田にも襲撃の手が伸びるが安田は持ち前の格闘技術で難なくいなし、首筋への手刀で気絶させた。

 

「クソッ!仕掛けてきたか……!おい、ガキ共!それ以上やるならタダじゃすまんぞ!こいつが見えねぇか!!」

 

安田はポケットから警察手帳を取り出して水戸黄門の印籠ばりに不良達に見せつける。大抵のガキやチンピラは自分が警察(おまわり)だと知れば恐れを成して逃げ出すものだ。

 

だが、今回は明らかに違った。

 

警察手帳を見せようが威嚇しようが、不良達(ガキども)は退こうとしない。こんなことは初めてだ。一体何のつもりだ?

 

「……おい、安田さん!こいつら何とも思ってねぇぞ!?」

 

「んなバカな……」

 

おかしい。とても手慣れた殺し屋や鉄砲玉には見えない。そんな不良達(ガキども)が警察手帳を見て退かないなど有り得るのだろうか?それどころかいつの間にか数を増やしている。この状態では応援を呼んでも間に合わないだろう。

 

「おぉらぁっ!!」

 

手慣れているのか龍馬はもはやそれ以外に方法がないとばかりに連中に攻撃を仕掛けていく。先頭の一人を殴り倒し、さらに上段蹴りから攻撃をかわしての鳩尾への正拳突きで既に三人が地に沈んだ。

 

「チッ!やるしかねぇか!」

 

車の準備を龍一郎に任せ、龍馬に続いて安田も腹を括った。大人を舐め腐った不良達(ガキども)刑事(デカ)の怖さを思い知らせてやろうではないか。

一人のパンチをいなしてからの打撃、さらに背負い投げと学生時代から警察までに培った持ち前の格闘術で連中を倒していく。

 

「龍馬君、行くぞ!!」

 

「おうっ!!」

 

「「おおらぁッ!!」」

 

周囲の敵を一掃し、残った一人に二人は攻撃を仕掛ける。安田の中段蹴りが前面から命中し、同時に龍馬の跳び回し蹴りが後頭部にクリーンヒット。これには悲鳴を上げる間もなく、相手はノックアウトだ。

 

「よし、応援が来ないうちに車に乗れ!!」

 

邪魔者を排除し、第二波第三波と来る前に二人は車に飛び乗る。龍一郎は二人が乗った瞬間急いで車を出すとその場を急いで離れた。

 

「なんなんだあいつらは!?御堂誠公会か!?」

 

車を運転しながら龍一郎は歯軋りをしつつそう言った。何故かいきなりこちらを正確につけまわして攻撃してきた以上、何か目的があるに違いないが。

 

「いや、あいつらはただのヤンキー連中でしょう。ただ、誰かの指示で私達を狙ってることは間違いない。龍馬君は何か心当たりはないか?」

 

「心当たり、っつっても……」

 

正直ありすぎて逆にどの勢力なのかはわからない。そもそも今回の御堂誠公会が絡む件に関わってるのかすら見当もつかない。せめてヤクザ風の見た目であればなんとなく想像もつくものだが、連中はどこにでもいそうなヤンキーばかりだった。

 

「そうか……ん?」

 

助手席からサイドミラーを見た安田が何かに気付く。後ろから迫るいくつもの爆音と影。あれは……バイクだ!バイクの集団だ!

 

「さ、斉藤さん!後ろ!」

 

「な……なんだあいつらは!?」

 

後ろを見ると爆音を鳴らしながら迫るバイクの集団が。違法に改造された派手なバイクに跨る連中は皆が黒の特攻服を着ており、そして龍馬はその服に記された名前に覚えがあった。

 

九龍(クーロン)の連中だ……!!」

 

久龍和人がかつて率いていた福岡最大の暴走族チーム。それが九龍だ。だがおかしい。九龍は高橋の裏切りと乗っ取りによる騒動を龍馬が解決した後、総長である久龍自身によって正式に解散が言い渡され、以降はバイク同好会としての形で少数のメンバーだけが残っているだけのはずだったが……。

 

「九龍っていやあ、県警(ウチ)も悩まされてた暴走族だろ?なんでそいつらが?というか解散したって聞いたぞ!」

 

「俺に言われても知らないっすよ!なんであいつらが……!久龍は何のつもりなんだ!」

 

正直言って久龍が自分を狙うとは考えにくい。たまにだがふくまるで一緒にラーメンを食べたり他愛無い話をしたりと関係は良好なはずだ。そんな久龍が自分を狙うとはとても思えない。

以前に九龍を乗っ取った高橋も今は少年院かそれ相応の施設送りになっているはずだ。かつての龍馬の制裁によって怯えきっている高橋が今更施設を出所できたところで龍馬を狙うだけの度胸があるとも考えられない。

 

「来るぞ!」

 

龍一郎が叫んだ瞬間、横につけてきた二人乗りのバイクの後ろの男から窓ガラスを思いきりバットで殴打された。衝撃でガラスに大きなヒビが入る。

 

「クソッ!このクソガキどもめ!まだローンが残ってんだぞ!」

 

夫婦共用で使い続けてきた愛車であるヴィッツを傷物にされ悪態をつく龍一郎。だがそんな彼のことはお構いなしに九龍のメンバー達は二人乗り状態からのバットや鉄パイプによる殴打で攻撃を繰り返す。そして遂に後部座席のガラスが叩き割られ、中にいた龍馬にガラスの破片が降り注いだ。

 

「うわあっ!!」

 

「龍馬!!大丈夫か!!」

 

しかし車のガラスは建物のガラスと性質が違うため、破片はそれほど鋭くならないように作られている。顔の側面に軽い切り傷ができた程度で大した怪我ではない。

しかしこれが龍馬の逆鱗に触れてしまった。龍馬は身体にかかった細かいガラス片を払い落とすとシートベルトを外し、窓から上半身を乗り出した。

 

「クソが!!黙ってりゃ調子に乗りやがって!!」

 

龍馬は両腕にルナ・アームを装着するとバレンの獄炎をその手に宿し、そして火炎弾を放って牽制する。

撃ち出される火炎弾に慌てた九龍メンバー達は直撃まではせずとも突然の反撃によりハンドルを取られ、急停止する者や横転してしまう者が続出した。

 

「へっ、ざまあみやがれ」

 

「龍馬君……今のは……」

 

「ほんとは警察の安田さんには見られたくなかったんだけど……」

 

不可抗力とはいえ、刑事である安田の前で異世界のマジックアイテムを使ってしまった。龍馬は何か言われることを覚悟したが意外にも安田が言及することはなかった。

 

「今は非常事態だし野暮なことを言うほど真面目な警官でもないからな、俺は」

 

正直言ってこんな状況下で彼を取り締まるほど頭の固い警官であるとは安田も思ってない。それこそ今しがた発言した“野暮"というものだろう。

龍馬の反撃によってようやく諦めたかと思った矢先、再び後方からのバイクが増え始めた。しかもさっきより多い。こんなに多くては火炎弾をむやみやたらに放つわけにもいかない。

 

「クソッ!!二人ともしっかり掴まってろ!!」

 

龍一郎はアクセルを踏む力を入れた。スピードを増す車とそれを追いかけるバイクの集団。白昼堂々始まるカーチェイスによって龍馬達三人が乗った車はますます追い込まれていく。

さらに厄介なことにあちこちの曲がり角で巧妙に待ち伏せされており、なかなか振り切れない状況が続く。気が付けば龍馬達は遠く離れた海沿いの道へと追い込まれていた。

 

「まずいな……このままだと袋小路だぞ」

 

龍一郎のハンドルを握る手に汗が滲む。この辺りは工業港の埠頭となっており、車で通れる場所も少ない。そう、彼等は完全に“追い込み漁"の魚と化してしまっていたのだ。

後ろにも前にも暴走族の集団。そしてあらゆる横道に待ち伏せ。行く先は行き止まりの埠頭。もはや逃げる場所はどこにもない。

 

「……上等だよ。何のつもりか知らねえがそっちがその気なら……とことんまでやってやるぜ」

 

龍馬は集団を睨み付ける。そして遂に行き止まりで車が止まり、四方を囲まれた状態で龍馬達は車から降りた。

数はおよそ30か40……いや、もっといるかもしれない。だがここで引くわけにはいかない。龍馬は拳を鳴らし、彼の両脇を固めるように龍一郎と安田は構えた。

 

「やるしかないな。龍馬、安田さん、行くぞ!」

 

「ったく、今日はなんて日だ。仕方ないな……っと!」

 

もはや逃げられないなら戦うしかない。三人は暴走族の不良達を相手に戦闘を開始した。叫びながら敵の集団に突っ込む龍馬、そして後ろを援護する安田と父・龍一郎の二人。「40超えたサラリーマンの身体にゃ堪えるぜ」と苦笑気味ながら龍一郎は衰えを見せぬ軽やかなフットワークとラッシュで次々に不良達をなぎ倒していく。

安田も負けてはいない。刑事の恐ろしさを見せてやると言わんばかりに数々の格闘術……主に柔道や合気道をベースとした技で巧みに攻撃を捌きながら不良達を叩き伏せる。

一番の活躍は龍馬だ。有り余る若さとそれから来る怒りのパワーは彼に勝る者はいない。生まれ持った喧嘩に特化した格闘センスと祖父から教えられた五十嵐流無手術を利用し、そこにルナ・アームの攻防一体の力が備われば不良どもなど敵ではない。もっとも今はルナ・アームすら装備していないが。

 

「うりゃあ!!」

 

「せいっ!!」

 

龍馬の蹴りと龍一郎のストレート。二つの攻撃が一人を挟み込むように同時に決まり、殴られた敵は一瞬で戦闘不能になる。親子の共同作業が不良相手の喧嘩とはなかなかレアなケースだとは思うが、そこはやはり斎藤家。息の合ったコンビネーションを見せる。

さらに安田の捌きからの背後拘束、そして押さえ込み。警察官ならではの体術で敵を無力化した直後、うつ伏せで抑え込まれた男に龍馬の後頭部を目掛けた踏み付けが炸裂。敵は鼻血を出してノックアウトだ。

何人も何人も、たった三人の前に九龍のメンバー達は成す術もなくやられていく。しかし15人ほど倒した時状況が変わり始めた。

 

「……斎藤……相変わらずだな、テメーはよ……」

 

「……!久龍!」

 

突如として集団の後ろから彼は現れた。白い特攻服を身に纏って。

 

久龍和人。かつての九龍の総長を務めた男。だが彼によって九龍は解散を宣言されたはず。それに彼が今更龍馬を狙う理由がわからない。

この時龍馬は彼の右手に握られた物を見て息を呑んだ。……あれは……日本刀だ。それもおそらく本物の。彼は……本気で龍馬を殺すつもりなのだ。

 

「久龍!てめぇ何のつもりだ!そんな物騒なオモチャまで持ち出しやがって……!」

 

「うるせぇ!!俺はな、斎藤……お前が気に入らなかった……いつもいつも持て囃されてよぉ。“博多の怒龍"だか何だか知らねぇがいい気になりやがって……どこへ行ってもお前の話ばかりだ。お前さえいなけりゃ……!!この厄病神め!!」

 

厄病神?何を言ってるんだこいつは、と疑問を感じずにはいられない龍馬。確かに九龍解散の要因のひとつにはなったかもしれないが、チーム解散を最終的に決めたのは久龍自身の判断であるし、それをこちらのせいにされても困る。

 

「厄病神だぁ?何をわけのわかんねーことを……」

 

「うるせぇ!!俺はな、何が何でもお前の首取らなきゃならねぇんだ!!……おい、お前ら!斎藤を絶対に逃すな!!(タマ)取った奴には100万円くれてやる!!取り巻きの二人も生きて返すな!!」

 

「「「おおおぉぉぉ!!!!」」」

 

100万円などという金がどこから出たのか知らないが自分の首がたった100万とは舐められたものだ。龍馬は苦笑しながら戦闘態勢を取る。

 

「龍馬!一体お前何したんだよまったく!」

 

「んなもん俺が聞きてぇよ!!」

 

「やれやれ……ただでさえ刑事(デカ)は大変だってのに……!」

 

喚く斎藤親子と肩をすくめる安田。だが敵を前にしていつまでも悠長にはしていられない。三人は襲い来る不良達を迎え撃つ。その中で久龍だけは集団の後ろへと下がり、龍馬達から離れていった。

 

「久龍!テメェ、啖呵切っといて逃げんのか!!」

 

「勘違いするな。これはただの喧嘩じゃねぇ。確実にテメェを殺る必要があるんだ。どんな手を使ってでも勝たせてもらう」

 

つまり雑魚を大量にけしかけて消耗したところを……と言いたいのだろう。だが考えが甘い。この程度の数など前菜(オードブル)にもなりゃしない。それを今から証明してやろう。

 

「いいさ、全員ぶっ飛ばしてやる。そのあとは久龍、テメェだ!!首洗って待ってろ!!」

 

龍馬が指差しながら叫ぶと久龍はこちらを一瞥し、フンと鼻で笑うと埠頭の奥へと去っていく。そして襲い来る不良達。龍馬、龍一郎、安田と九龍メンバー達の大乱闘が始まった。

波のように迫る九龍メンバー達。だが雑魚がいくら集まろうと龍馬達の敵ではない。次々に不良達を打ち倒し、周りには気絶した不良達の山が出来ていく。

しかし厄介なことにバイクの爆音がしたかと思うと新たな応援が駆け付ける。このままではジリ貧だと判断した龍馬は近くにいた不良二人を殴り倒すと父と安田に向かって叫んだ。

 

「親父!安田さん!後を頼む!俺は久龍を追う!」

 

「ええ!?おいちょっと龍馬!!」

 

「待て、龍馬君!!……ああくそ、行っちまった!」

 

二人には申し訳ないがこのままでは埒が開かない。久龍を倒さなければ騒動は治まらないだろう。それに久龍の本命は自分だ。ここは何としてもヤツを倒す必要がある。龍馬は雑魚を二人に任せて久龍の消えた方へ走り出す。

 

「久龍!どこだ!」

 

龍馬が叫ぶが久龍の姿は見当たらない。代わりに倉庫の陰から雑魚四人が飛び出してくる。

 

「邪魔だ!!」

 

龍馬が近くの一人を殴り倒すとさらにそこから一人を背負い投げ、残った二人から反撃を受けるもうまくかわし、顔面へのストレートと鳩尾への一撃で地に伏せさせて久龍を探す。

すると倉庫の陰からこちらを伺う久龍の姿が見えた。だが龍馬が四人を叩き伏せたのを見るとすぐに陰へ引っ込んで逃走を図る。

 

「久龍!待てこの野郎!」

 

龍馬は再び久龍を追いかける。しかし倉庫の角まで来た時に新たに六人もの敵に囲まれてしまう。

 

「上等だよ……かかってこい!!」

 

龍馬は再び敵を迎え撃つ。そして一体多数こそ“あの技"の使い所だ。四方から襲い来る不良達。だが龍馬は精神を集中させ、その身を素早く、そしてしなやかに動かした。

 

「!?」

 

「なっ……!?」

 

まるで攻撃が当たらない。そこにいるのにそこにいないかのように攻撃をかわした龍馬に不良達は驚きを隠せなかった。そう、龍馬が曽祖父より受け継いだ五十嵐流無手術の体術である“影舞"だ。

そこに在るのに触れられず、決まった形も存在しない影が舞うかの如くしなやかに敵の攻撃をかわす。正直修行不足かもとは思ったが意外とぶっつけ本番でも何とかなるものだ。そこは龍馬の格闘センスもあるのだろう。

 

「うりゃあっ!!」

 

龍馬のストレート、鳩尾攻撃が次々に炸裂し不良達は反撃する間もなく叩き伏せられてゆく。最後の一人を倒すと再び久龍が遠くに去るのが見えた。

 

「久龍!!待ちやがれ!!」

 

龍馬が再び後を追う。走り出した久龍は遠くにある倉庫に駆け込んでいき、龍馬も後を追って倉庫の中に入っていった。

 

「久龍!どこだ!」

 

倉庫は窓こそ付いているものの、日の光がそれほど入る大きさではないのと照明が僅かにしかないため少し薄暗い。埃っぽい倉庫には静寂が漂っており、入ったはずの久龍の気配はない。既に脱出したのかどこかに隠れているのか。

 

と、龍馬は背後に殺気を感じた。それと同時にルナ・アームを装着し素早く振り向いて防御態勢を取る。

 

「うりゃあぁぁ!!」

 

同時に背後から振り下ろされる日本刀。ルナ・アームによって弾かれた瞬間、金属音と共に火花が散る。

 

「くっ……うおらぁ!!」

 

龍馬は押し返すように力を込め、背後から襲いかかった久龍を突き放す。久龍は特攻服を脱ぎ捨て、上半身裸にサラシを巻いている状態だ。

 

「高橋が言ってたことは本当だったんだな……“斎藤は光ったり燃えたりする魔法の腕を使う"ってよ……あいつらがラリって見た幻覚じゃなかったわけだ」

 

久龍は刀の切っ先をゆっくりと龍馬に向けてそう言った。彼は刀を向けたままゆっくりと龍馬の右側へと歩き、龍馬は左側へと歩く。二人は円を描くように睨み合った。

 

「へっ、異世界で知り合った女神サマが気まぐれでくれたんだ。だけど重宝するぜ?少なくともお前が持ってるそんなつまんねぇオモチャなんかよりよ」

 

「言うじゃねぇか、斎藤。まあ、なんだ。そんなものを持っていようがいまいが俺のやることはひとつだ。“どんな手を使ってでもテメェを殺す"……今の俺にはそれしか道がねぇんだ」

 

道がない、とはどういうことか。龍馬は久龍の言い草に何か違和感を感じる。それに……

 

「久龍、一体何があった。お前は俺の嫌いなクソヤンキーだが少なくとも筋の通らない喧嘩はしない人間のはずだ。一体何が目的だ?」

 

初めて対峙した時、人質に取ったはずのマリーを目の前で解放したり、卑劣な高橋を殴り飛ばしたり、リオングループによる中国人達の暴動の際には身体を張って商店街の人々を守ったりと暴走族の総長としては義に厚い性格だと龍馬は思っていた。そんな彼がなぜ卑劣な手段に走ってまで龍馬を本気で殺そうと考えるのか。龍馬には全く理由が思い当たらない。

 

「斎藤……勘違いするなよ。俺はお前とお喋りするためにここにいるわけじゃねぇ。どうしても聞きたきゃ……」

 

久龍は左手でかけていたサングラスをゆっくりと外し、投げ捨てる。その下にあるのはかつての総長としてのあの目ではない。まさに狂気に満ちた、“狂龍"とも言える目つきをした彼がそこにいた。そして両手でゆっくりと刀を頭上に構えると……

 

「俺を倒してからにしろやぁ!!行くぞ、斎藤ぉぉぉ!!!!」

 

「クソッ……!!こうなったらとことんやってやるよ!!来やがれ、久龍ぅぅぅ!!」

 

「「うおおおおお!!!!」」

 

 

久龍の振り下ろした刀と龍馬のルナ・アームが再びぶつかり合い、火花を散らす。怒龍と狂龍、二人の“龍"が牙を剥き合う。激しいせめぎ合い、両者は再び距離を取った。

 

「うおおお!!」

 

久龍の刀による連続攻撃。龍馬は攻撃をかわしつつ、防御を織り交ぜるが久龍の攻撃が速くなかなか反撃できない。

 

「くっ!!」

 

「どうした斎藤!!守るばっかりか!!」

 

龍馬は先ほどから防戦一方だ。久龍の太刀筋は素人とは思えないほど早く、また、ボクシング経験者ならではの軽いフットワークを活かした立ち回りで死角のない攻撃を繰り出してくる。

 

「野郎ォォ!!」

 

龍馬は左手で刀を防御した直後、一瞬の隙をついて右足で久龍の横腹に蹴りを入れた。ルナ・アームによる脛当てが付いた硬く、重い一撃が久龍に命中し、彼は一瞬怯んだ。

 

「くっ!……やるじゃねぇか、斎藤。だがまだこれからだ!行くぞぉぉ!!」

 

さらに素早い久龍の斬撃。中段の攻撃を後ろに引いてかわした瞬間、いきなり久龍は龍馬の顔目掛けて刀を斬り上げた。

 

「ッ!!」

 

頭を後ろに引くようにしてなんとか回避する龍馬。だが僅かに掠めた刃が右の頬を傷付け、龍馬の顔から軽傷ではあるが血が飛び散る。龍馬は久龍を睨みつけながら頬の傷口を拭った。

血が頬を伝う生暖かい感触。遅れてやってくる傷の痛み。この時改めて久龍の扱う刀はやはり本物なのだと文字通り身をもって実感した龍馬。久龍の日本刀からは僅かにこびりついた龍馬の血が滴り落ちる。

 

「どうした斎藤……異世界でもらったオモチャがあるんだろうが……だったらかかってこいやぁ!!」

 

ブォン、と勢いよく振り下ろされる久龍の刀。空を斬り裂く音がさらに響く。龍馬はなんとか横に回避すると久龍の懐に飛び込む。

 

「おぉりゃあ!!」

 

「ぐわっ!!」

 

龍馬の右ストレートが久龍の顔面を襲う。それはルナ・アームにより破壊力を増した必殺の一撃。これほど硬く、早い打撃による攻撃には流石の久龍も後ろに吹っ飛ばされざるを得なかった。

 

「……ぐぐっ……やるじゃねぇか斎藤ォ……!だがな……!」

 

吹っ飛ばされ、鼻と口から出血しながらも決して刀を握る手の力は緩めない久龍。ここで負けるわけにはいかない。たとえ相手があの“博多の怒龍"、斎藤龍馬であっても。決して負けるわけにはいかないのだ。もし負ければ……自分がこの作戦に失敗すれば……

 

 

 

それは大切な母親の“死"を意味する。

 

 

 

もう後戻りはできない。

 

 

 

やるしかないのだ。

 

 

 

久龍はグチャグチャになった感情を心の奥底に押し込め、雄叫びを上げながら刀を振り上げた。

 

 

「俺は……俺はお前を殺すまで負けるわけにはいかねぇんだよぉぉぉぉ!!」

 

「久龍ぅぅ!!」

 

「死ね、斎藤ぉぉぉぉ!!!!」

 

重く、早い一撃が襲い来る。龍馬は両手で刀を防御する。が、久龍は何度も何度も激しく刀を振るって攻撃の手を緩めない。

だがそんな久龍にもやはり疲労の色が見え始めた。龍馬は一瞬鈍った彼の動きを見逃さなかった。攻撃が緩くなった瞬間に龍馬は左手で受け止めた刀の刀身を思い切り右手で殴りつける。

 

「どぉりゃあぁぁ!!」

 

「なっ!?」

 

キーン、という甲高い金属音と共に久龍の刀が音を立てて折れ、その刀身だけが空しく地面に転がる。武器を失った久龍の驚愕の表情。最大の攻撃チャンスを龍馬が見逃すはずもなかった。

 

「うりゃ!!」

 

「ぐふっ!!」

 

龍馬のルナ・アームによる重い左拳の一撃が久龍の鳩尾にめり込む。そして――

 

「どおぉりゃあぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

「ぐへぁぁっ!!」

 

龍馬の右フックが久龍の左頬に直撃した。久龍は口から血を吐き出しながら2メートルほど吹き飛ばされ、地面に転がった。

 

「ハァッ……!ハァッ……!」

 

「ぐ……ぐふっ……!」

 

「情けねぇな、久龍!そんなもんに手を出しやがって……!」

 

龍馬はうつ伏せに倒れた久龍にそう怒鳴るが、様子がおかしい。久龍はうつ伏せのままピクピクと震えているがキレている様子ではない。いや……

 

 

あの久龍が、泣いている……?

 

 

 

 

「うぐっ……ぐっ……ううっ……かーちゃん、すまねえ……俺を……俺を許してくれ……」

 

「久龍……?」

 

龍馬が静かに呼びかけると久龍は腫れ上がり、血まみれの顔で龍馬を見上げた。その顔は血だけではない、彼らしからぬ涙と鼻水で見る影もないほどグショグショになっていたのだ。

 

「おい久龍!?お前一体どうしたんだ!?なにがあった!?」

 

「斎藤ぉぉ……俺ぁ……俺はどうしたらいいんだ……なぁ……斎藤ぉ……俺はお前を殺せなかった……このままだと……お袋が……かーちゃんが……」

 

「どうした……!?お前の母親が何だってんだ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

「かーちゃんが……かーちゃんが……殺されちまうよぉ……」

 

 

 

 

 

 

 

久龍が涙ながらにそう伝えたのと倉庫のゲートが勢いよく開かれたのはほぼ同時だった。

 




●vs謎の襲撃者たち戦イメージBGM……
『My Own Style』
(『ジャッジアイズ 死神の遺言』より)

●vs暴走族 九龍メンバー戦イメージBGM……
『悲剣』
(『龍が如く 維新!』より)

●vs九龍総長 久龍和人戦イメージBGM……
『怨魔の契り』
(『龍が如く0 誓いの場所』より)
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