アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第24話 喧嘩羅威舞

福岡のローカルアイドルとして活動中の伊月凛。

彼女はメジャーデビューを目指して学生生活を両立しながら日夜努力している。

 

「……」

 

とある日の夜、彼女は一人暮らしをしているアパートの自室で鏡に向かって表情を変えるという行為を行っていた。

芸能人、とりわけアイドルにとっては笑顔と声は命であり武器である。

武器の手入れを疎かにするものは戦場で命を落とす。そして彼女は今まさに"武器"を研いでいたのだ。

鏡に向かって喜怒哀楽の表情を変え、表情筋を確認する。歌を生業とする者を見た時、声よりもまず観客が目の当たりにするのは第一印象だ。そこで表情によって観客の注目を引き付けて自分の顔と姿を印象付ける。

そして声。これこそ歌手にとっての主武器(プライマリウェポン)だろう。

いくら見た目が良くても歌が下手では意味を成さない。そのため彼女はボイストレーニングも欠かさなかった。

そして喉のケアと体調管理。これも大事な事だ。

帰ってきたらうがいと手洗いをはじめ、のど飴を舐めたり、生姜を使った飲み物や料理で普段から喉のケアをする。

そして体力をつけ、風邪を引きにくい身体作りをするために水泳やヨガなども欠かさない。

 

「……よし!今日はこれぐらいかな!」

 

そう言って化粧台の鏡から移動し、スマホをチェックする。

 

明日は、初めての屋外ライブだ。

 

「(……やっぱり屋外は初だから少し緊張するなぁ……)」

 

福岡のローカルアーティストが集まるとある小規模なイベントの一枠として自分に仕事が入ってきた。

これまで小さなライブハウスなどで仕事をしたことはあるが、屋外はこれが初だ。否が応でも緊張してしまう。

 

「(いけないいけない……今日はしっかり寝て明日に備えなきゃ……)」

 

しかし時刻はまだ午後7時半。就寝には些か早い気がする。

 

「(……エロゲでもすっか)」

 

そう考えた彼女はPCの電源を入れる。

実は彼女は生粋の18禁PCゲーマーである。

とあるツテで17歳の彼女は18禁PCゲームを手に入れてはそれをプレイすることを楽しみにしている。

 

「ふぉおぉおぉお!やっぱり可愛くてエロい二次元のおにゃのこは正義なのだぜ!キリッ」

 

 

 

……ライブ前日のエロゲの夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ます。

酷い頭痛。

酷い吐き気。

ベッドの上から動く気力すらない。

 

「お父様……大丈夫?」

 

モニカが気を使って水を持ってきてくれた。

なんとか身体を起こし、水を少し飲む。

 

「まさか……二日酔い……とはな……」

 

何故このような事になったのだろうか。

事の始まりは昨日の夜に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

博物館を後にしたソフォス一行は夜、龍一郎からの誘いで馴染みだという居酒屋に斎藤一家と共に行くことにした。

居酒屋"博多っ子"。龍一郎と涼子はよくこの店に飲みに来ており、ここで飲んだ後にトロバドルに行ってはしご酒をするのが定番となっていた。

 

「お!龍一、久々じゃねぇか!単身赴任終わったんか?」

 

「ええ。まあ」

 

博多っ子の大将である片山武(かたやまたけし)は龍一郎の事を"龍一"と略して呼ぶのが通例となっている。

大衆居酒屋である博多っ子の店内はソフォス達の世界の酒場とは違う雰囲気に包まれていた。

柔らかなオレンジの照明に所狭しと壁に貼り付けられたお品書き。店内は仕事帰りのサラリーマンや大学生、それに女子グループや年配の男性グループに加え、福岡在住のドワーフやエルフやハーフリング達で賑わっていた。

 

「いやあ、お前がいない間に異界のお客さんもずいぶん増えたよ。お、そうそう。頼まれてた宴会用の個室、空けといたぜ。今案内するからちょっと待ってな」

 

龍一郎の計らいで宴会用の個室に案内され、畳に座る。

こうやって床にあぐらをかいて座り、食事をするというのは新鮮だ。

それにこのタタミなる床の質感と香りはなぜだか落ち着く。

龍一郎と涼子がとりあえず適当に料理を頼みまくり、ビールを頼む。

しばらくしてビールと料理が運ばれてきた。

それからはもう飲めや歌えの大騒ぎであった。

自分たちの世界にはない、生魚の料理や和食ならではの料理、そしてビールや焼酎をはじめとした様々な異界の酒に舌鼓を打ち……そこからはよく覚えていない。

 

 

 

 

 

 

「もう……お父様ったら……飲み過ぎよ……」

 

モニカが呆れつつ、ベッドの脇の椅子に座る。

 

「すまんな……つい羽目を外しすぎてしまった……」

 

そう言いながらひどく痛む頭を押さえる。

 

「アルバートとレイラも二日酔いで動けないらしいわ」

 

「それは……まことか……」

 

なんということだ。

これでは今日の観光に娘を連れていけないではないか。

ソフォスは羽目を外しすぎた昨日の自分の愚かさを呪った。

その時部屋の電話が鳴った。

モニカは音に一瞬驚いたが、おそるおそる電話を取る。

 

「はい……」

 

「"こちらフロントです。ゾル様に斎藤様という方からお電話が入っております"」

 

 

 

 

 

 

 

「……で、お姫様の保護者として指名されたお前にこうやって連れられてきた訳だが」

 

ホテルの前のなるべく邪魔にならないところにバイクを止めて待機している勇斗と龍馬。

 

「しょーがねーだろ。案内役のうちの親父もお袋も二日酔いでダウンしてんだ」

 

龍馬の両親も同じ末路を辿っていた。

今日は案内が出来ないから代わりに息子の龍馬にモニカだけでも案内をさせようかという龍一郎の案でわざわざ学校を早退してこうしてやってきたのだ。

ちなみに二日酔いでダウンしている皇帝一行はマリーに世話を任せている。

そして勇斗が早退の理由を聞きたがるので死なばもろともと勢いで事情を説明し、ヤツも誘って巻き込んでやった。後悔はしていないし、反省もしていない。

だがそんな無茶な誘いにも二つ返事でOKするあたり、勇斗の懐の深さが窺える。或いはただ単に面白そうだったか学校をサボりたかっただけかもしれない。まあ、元はと言えば理由を聞いてきたコイツがいけないのだ。うん。

 

「お、出てきたな」

 

三人で待っていると、ホテルからモニカが出てきた。

 

「お姫様、昨日ぶり」

 

「ふふ、そうね。あら?そちらの方は?」

 

「ああ、こいつは勇斗。俺の友人だよ」

 

「うおお……マジでお姫様じゃん……!俺、城島勇斗!よろしく!」

 

「モニカ・レーグヌム・アフトクラトリアですわ。どうぞお見知り置きを」

 

自己紹介が済んだところでこれからどうするかという話になった。

 

「とりあえず、まずは俺んちに行くか」

 

龍馬と勇斗はバイクを動かす準備をする。

モニカは龍馬と勇斗のバイクに興味津々だ。

 

「これはニホンの方が乗っている鉄の馬ね?これに乗れるの?」

 

「ああ、バイクってんだ。とりあえずこれに乗って俺んちに一旦行こう」

 

「すごい!早く乗りましょう!ね!ね!」

 

龍馬は目を輝かせるモニカに予備のヘルメットを渡し、Ninja250のエンジンをかけ、またがる。

そして後ろに乗るようにモニカに促した。

モニカは少し苦労しながらもなんとか後ろにまたがり、発進の準備が整った。

そしてNinja250とビラーゴは発進し、博多の街中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、ディレットと千春はたまたま屋上に来ていた凛とアメリアと共に四人で昼食を取っていた。

 

「ライブ?」

 

「そう。キャナルでね」

 

キャナルとは"キャナルシティ博多"の略称で博多区住吉一丁目に存在する複合商業施設、いわばショッピングモールのような施設だ。

凛はそこの中央広場であるサンプラザステージにてミニライブを行うことが決定していたのだ。

 

「リン、凄いじゃん!」

 

「と言っても私一人じゃなくて複数のアーティストが出演するイベントの一枠としての出演なんだけどね」

 

今日は夕方からライブの仕事が入った。

そのため昼休みが終われば今日は今日は早退して会場に向かうことになっていた。

 

「よかったらみんなもおいでよ。私の歌、聴いてほしいな」

 

凛の誘いに全員が同意した。

放課後は学校が終わったらそのままキャナルシティに行くという形になった。

一方その頃、龍馬の自宅ではどこに行こうかという案を練っていた。

 

「モニカはどこか行きたいところとかあるの?」

 

「うーん……そうね……色々と買い物してみたいわ」

 

「買い物か。ならキャナルとかいいんじゃないか?」

 

龍馬の隣でPS4をやっていた勇斗が提案してきた。

なるほど、確かにキャナルはちょっとした観光スポットでもあるし、各種色々な施設が存在するしで普通にその辺のビルなんかに買いに行くよりは思い出と成り得そうだ。

 

「そうだな、じゃあキャナルに行くか」

 

「きゃなる?」

 

「キャナルシティ博多っていうんだけど……まあ、行けばわかるさ」

 

龍馬と勇斗はそれぞれ出かける準備をする。

……寝室からは両親のうなり声が聞こえてくるが、ルミナが面倒を見てくれてるし、問題ないだろう。

問題があったとしても自業自得だ。昨晩飲み過ぎた自分達が悪いのだ。

龍馬は成人しても決してああはなりたくないものだと思った。

 

 

 

 

バイクではなくバスに乗ってしばらくしてキャナルシティ博多に到着した。

モニカはバイクに乗りたがったが、あの近辺はバイクを停められる場所が少ないのでモニカを説得してバスで向かうことにしたのだ。

 

「わあ……!!」

 

キャナルシティ内を流れる人工の小さな運河。

そして時折流れる音楽と共に噴水からまるで水の精霊のダンスのように水が噴き出してモニカを釘付けにした。

運河の脇にはパラソル付のテーブルと椅子が置かれている場所があり、そこで利用客達が飲み物を飲んでいる。

まずは龍馬の奢りでスターバッカスという店で飲み物を買って一息ついたあと、店を見て回る。

あまり多くは持てないので服を2、3着とアクセサリーを少し買ったあとは"げーせん"に行って遊んだり、上階にあるラーメンスタジアムという場所でラーメンを食べたりと充実した時間を過ごした。

お姫様にラーメンというのもどうかと思ったが、本人が食べたがっていたからいいだろう。

そして時刻は午後4時ちょっと前。運河沿いを歩いていると龍馬達は制服姿のディレット、千春、アメリアとばったり出会った。

事情を三人に説明し、再びスタバに戻って一息付く。

 

「"家の用事で早退する"とは言ってたけどその理由がまさか斎藤と城島二人してお姫様の付き人なんてね。……変なことしてないでしょうね?相手は皇族なのよ?何かあったら国際問題よ」

 

「してねーよ!するかアホ!」

 

「流石にその言葉は心外な件について」

 

千春の言葉に龍馬と勇斗は揃って口を尖らせる。

どうして彼女はこう自分達の神経を逆撫でするようなことばかり言うのだろうか。

テンプレのツンデレキャラみたいな奴なんだから少しはデレ期が来てもいいと思うのだが、まったくその気配はない。

 

「リョーマもハヤトもとてもいい御仁ですわ。ご心配には及びません」

 

モニカはクスクスと笑いながらそう言って二人をフォローしてくれた。

 

「やっぱり皇族は違うのう。どっかの誰かさんと違ってすぐ人に噛み付いたりせんからのう。のう、ばあさんや」

 

「ええ、そうですねおじいさん。全くこの子を見習って欲しいものです」

 

日本昔ば○しのような声色で言いつつ、プーックスクスと笑う龍馬と勇斗。

もちろんそのあとゲンコツを喰らった。

 

「おー、いてて……すーぐ暴力に走るんだから……」

 

「アンタに言われたくないっつーの!」

 

「はいはい、わかったわかった。んで、何でお前らここに?」

 

「あ、そうだ。リョーマ、ハヤト、これ!」

 

ディレットが差し出してきたのは一枚のチラシ。それには今日キャナルシティで開催されるイベントの概要が書かれていた。

 

「"博多ロック&ポップス!福岡ローカルアーティスト大集結!"か……ん?」

 

龍馬はそこであることに気付いた。

キャスト一覧を見ると"伊月凛"の文字が。

 

「え?これ凛ちゃん出んの?」

 

「そうだよ!もうそろそろイベント始まるから行こう!」

 

どうやらイベント開始は午後4時かららしい。

モニカにも"知り合いが歌を披露する"と説明して皆でB1Fのサンプラザステージへ向かった。

ステージに着くと既にイベントは始まっており、男性二人組のユニットがギターの弾き語りを披露していた。

出演するキャストは全部で6グループで凛の出番は一番最後らしい。

その後は中年男性四人組のジャズユニットや凛と同じくアイドルを目指している三人組のユニットなど年代もジャンルも違う様々なキャストが出演し、見ていて飽きなかった。

そしていよいよ凛の出番が回ってきた。

赤と黒を基調とした衣装にとびっきりの笑顔を振り撒きながらステージ中央にやってきた。

 

「"皆さんこんにちはー!福岡でアイドル活動をしています、伊月凛でーす!"」

 

マイクによって凛の声があたりに響く。

 

「すげえな。これだけの人が見ている中で緊張せずによくあれだけ表情を保てるよな。俺ならガッチガチだわ。さすが芸能人」

 

凛のアイドル根性ともいえるその気概に龍馬は感心する。

そして音楽が流れ出し、凛の歌声がキャナルシティに響く。

 

 

 

その時、龍馬と勇斗の存在に気付いた"何か"がゆっくりと彼等の背後に迫っていた。

 

 

 

 

 

「"……皆さんありがとうございましたー!"」

 

凛の曲が終わり、会場から観客の拍手が起こる。龍馬達も人混みの中からその姿を称えるように惜しみない拍手を送った。

 

その時である。

 

共に拍手をしていたモニカの表情が険しくなり、彼女は龍馬のシャツの裾をクイクイと引っ張る。

 

「(……どうした?)」

 

「(リョーマ……私達監視されてるわ……!)」

 

「(何……!?)」

 

龍馬は出来るだけ自然に身体や視線を動かし、あたりを見回す。

すると黒いジャージにフードとサングラス、それにマスクという明らかに怪しい男がいた。

 

「(あいつか……!?)」

 

「(おそらくは……でも気を付けて!視線はひとつじゃない……数はわからないけど複数いるのは間違いないわ!)」

 

モニカはアルバートから直々の武術の指導を受けている。

いつ、自分が襲われても身を守れるようにと普段から、だ。そのため彼女は見た目の可憐さとは裏腹に五感が研ぎ澄まされており、危機察知能力が高かったのである。

龍馬は横に立っている勇斗の脇腹を小突くと、勇斗にもその旨を小声で伝えた。

勇斗は機転を利かせ、ディレット達に「何か飲み物を買ってきてほしい」と伝え、この場をモニカと共に離れさせた。

時々チラリと目をやると怪しい男は龍馬に向かって徐々に近付いている。

そしてかなり近付いてきたところで龍馬は男がポケットから出したものに気付いた。

 

「(ナイフ……!?)」

 

折り畳み式のバタフライナイフ。男の手にはそれが握られていた。

間違いない。奴は俺に明確な殺意を持っている。

そう確信した龍馬はまた勇斗にそれを伝えると男をギリギリまで引き付けることにした。

 

「(いいか……ヤツが後ろに来たら一緒に取り押さえるんだ……!)」

 

「(おkおk)」

 

ステージでは曲を披露し終わった凛がトークを終え、締めに入ろうとしている。

 

「"この後は物販を予定しています!皆さん、是非私のCDやブロマイドを買っていってくださいね!本日は本当にありがとうございま……"」

 

「「おおらぁぁぁっ!!!!」」

 

突然人混みの中から二人の叫び声が聞こえた。

凛は驚いてそちらを見ると手にナイフを握った男を二人がかりで取り押さえている。

 

「誰か警察呼べ!!こいつナイフを持ってるぞ!!」

 

「ぐ、ぐうぅぅぅ……!!」

 

男はうつ伏せに取り押さえられ、ナイフは龍馬に奪われていた。龍馬はナイフを奪われないように運河の中に投げ捨てる。

それを見た観客達が慌てて逃げ出す。中からは悲鳴も聞こえる。

 

「テメェ何のつもりだ!答えろ!」

 

「……ふ、ふふふ……斎藤……城島……テメェらはもう終わりだ……高橋さんを……本気で怒らせたんだからよ……」

 

「高橋!?高橋だと!?」

 

「またあいつかよ!クソがッ!」

 

高橋。思い出すだけでも反吐が出るあのクズ野郎の名前。

やはり奴を見逃すべきではなかった。龍馬と勇斗は後悔した。

気付けば観客達はとうに逃げ、凛達キャストやスタッフも警察と警備員を呼ぶために退避し、辺りにはガラの悪い男達が集まってきている。

 

「……モニカの言ったことは正しかったな」

 

「ああ……だがここまで多いとはな」

 

ざっと20人弱くらいはいるだろうか。もしかしたら施設のあちこちにまだいるかもしれない。

 

「オラァッ!覚悟しろや斎藤!城島!」

 

「ぶっ殺してやらぁ!」

 

「死んで詫びろや!!」

 

「何が"博多の怒龍"じゃ!なめんじゃねぇぞゴラァ!!」

 

男達は口々に龍馬と勇斗を罵りながら戦闘態勢に入る。

 

「"博多の怒龍"だってよ、龍馬。変なあだ名付けられたなぁ?」

 

勇斗はクスクスと笑う。

 

「ああ。全くだ。だが……悪かねぇ。準備はいいか、勇斗?」

 

「いつでもいいぜ。久々に運動するか!」

 

もはやこいつらに言葉は通じない。ならば。

 

 

 

"拳"でわからせるのみ。

 

 

 

「行くぞオラァ!!」

 

「おうよ!俺らのダチの舞台を台無しにした落とし前、つけさせてやらぁ!!」

 

龍馬と勇斗は取り押さえている男の顔面を地面に叩きつけて気絶させると男達の集団に向かって突進していった。

わずか二人に対し、20人あまりの数。

普通ならば勝てるわけがない。そう、"普通"ならば。

どちらか一方だけならばまだ勝機はあったかもしれない。が、彼等の最大のミスは龍馬と勇斗、二人を同時に相手にしてしまったことだ。

 

「どおりゃあ!!」

 

「甘いッ!!」

 

大柄な男のパンチを手を沿えて軽く力を加えて受け流し、首筋にチョップを当てる。

 

「ぐふっ……!」

 

男が倒れるとそこへ突っ込んできた別の男の顔面に掌底を当てる龍馬。

 

「死ねやぁっ!」

 

ナイフを振り回してくる男の攻撃をバックステップで避けつつ、近くにあった椅子を掴んで顔面に思い切り叩き付ける勇斗。

椅子を投げ捨てるとキックを繰り出してきた男の足を掴み、さらに両手で身体を掴んで持ち上げ、運河の中に投げ捨てる。

 

「相変わらずすげぇ馬鹿力だな、お前はよ」

 

「伊達にゴリラなんて言われてないぜ」

 

二人は共に笑みを浮かべる。

その余裕の表情に逆上した残りの連中が襲いかかってくるが……二人の敵ではなかった。

龍馬の飛び膝蹴りが顔面にクリーンヒットした男は鼻血を噴き出しながら倒れ、勇斗の右ストレートは前歯を数本へし折りつつ、男の一人を吹き飛ばした。

 

「く、くそっ!!」

 

ヤバレ・カバレ、いや、破れかぶれのパンチを放つも龍馬には容易く止められ、その男は胸ぐらを掴まれたまま何度も顔面にパンチを喰らった後、強烈な頭突きを顔面に受けて倒れる。

だが、その時龍馬の背後にスタンガンを装備した男が近付いていた。

 

「龍馬ッ!!」

 

「!?」

 

「死ねや斎藤!!」

 

龍馬は瞬時に振り向くも男の方が一瞬早かった。だがーー、

 

「ぐふっ!!」

 

男は飛び込んできた小さな影に飛び蹴りを喰らい、スタンガンを落としてしまう。その隙を龍馬は見逃さず、鳩尾に拳を叩き込んで気絶させる。

 

「まったく、丸腰の相手に雷魔法の武器を使うなんて騎士道精神ってものがこの方にはないのかしら」

 

「……モニカ!お前何でここに!?」

 

「微力ながら、私も助太刀に。こう見えても私、アルバートから直々に武術の指導を受けていてよ?」

 

そこにいたのはディレット達と退避したはずのモニカ。彼女は胸をドンと叩いて任せろ、と言わんばかりの表情をしている。

 

「……戻れっつって戻る奴の目じゃねぇな。いいぜ。そんかわり何があっても自己責任だからな!!」

 

「わかっているわ!準備はよくて!?」

 

「異世界のお姫様と一緒に喧嘩するなんて多分一生経験出来ねえな!」

 

三人は再び構えを取る。

 

「な、なんだぁ!?あのガキは!?」

 

「めんどくせぇ!あのガキもやっちまうぞ!女だからって容赦するな!」

 

男達は一斉に向かってくる。

だが龍馬達より年下とはいえ、オールデン騎士団団長アルバートの直々の武術を仕込まれているモニカにとってはこちらの世界のチンピラなど取るに足らない存在であった。

攻撃を的確に捌き、確実に攻撃を当てていく。

打ち漏らした敵は龍馬と勇斗がカバーする。

そうこうしているうちに20人あまりの数はたったの三人だけになってしまった。

 

「……さて、どうすんだ?」

 

「これで人数は対等だ。まだやるか?」

 

「私達を甘く見たわね。さあ、どうするの?」

 

「ぐ、ぐうぅ……」

 

男達の額に汗が滲む。あれだけの人数が今やたったの三人だ。まず勝ち目はないだろう。

 

「こらー!!お前達!!大人しくしろ!!」

 

そこにようやく警察が駆け付ける。

 

「ヤバい!逃げるぞ!」

 

残った三人は倒れている仲間には目もくれず、足早に逃げていく。

 

「龍馬!俺らも逃げるぞ!お姫さん連れている以上警察に捕まったら面倒なことになる!」

 

「……!そうだな!モニカ、逃げるぞ!」

 

「え?ち、ちょっと!きゃっ!」

 

勇斗が先に駆け出し、龍馬がモニカの手を引いて後に続く。

キャナルシティ内フロアを駆け巡りながらどうにか警官を撒き、キャナルシティから少し離れたところで連絡を取り合い、ディレット達と合流した。

ディレット達が預かっていた買い物の品をモニカに返し、全員で彼女をホテルまで送り届けた後、解散した。

 

 

 

次の日の朝、学校で龍馬と勇斗は凛に謝罪した。

 

「ごめん、凛ちゃん……!」

 

「ほんとすまねえ……!」

 

「……?何で龍馬君と勇斗君が謝るの?悪いのはあいつらでしょ?」

 

「でも……俺らがいなけりゃ奴等もあんなところで……」

 

「その話は無し。むしろ達はあれだけの人数にたった二人で立ち向かっていったじゃん。もしそれがなかったらあいつら他のお客さんにも危害加えてたかもしれないし」

 

あの後、龍馬と勇斗に倒された十数名あまりの不良達は警察に身柄を拘束された。

いずれもこの学校の一年と二年ばかりだったらしい。全員退学、少年院送りだそうだ。

その後、凛は警察から事情聴取を受けたが龍馬と勇斗の事は絶対に話さず、あの不良達が勝手に乱闘を始めたと話し、他の関係者も凛の態度を察してか龍馬と勇斗は見ていないと否定してくれた。おかげで二人はお咎め無しで済んだのだ。

 

「暴力は良くないことだと思うけど、綺麗事ばかりじゃ済まないことも多いしね。……あ、そうだ。これ」

 

龍馬と勇斗は凛からCDケースを受け取った。

 

「お礼と言っちゃなんだけど……私の新曲のCD。良かったら聴いて。あ、アメリアとディレットちゃんと須崎さんにはもう渡したから。それから……はい、これも。ちょっと恥ずかしいんだけどね」

 

龍馬と勇斗は赤と黒の衣装を着た凛のブロマイドをもらった。

ブロマイドにはご丁寧に"龍馬君へ"、"勇斗君へ"と書かれた凛のサインが入っていた。

 

「……え?いいのか?」

 

「いいのいいの。昨日のアレで物販逃したから余っちゃってね。まあ……私はまだ駆け出しの地方アイドルだからあんまり価値はないかもしれないけど」

 

そう言って凛は苦笑する。

 

「……いや、そんなことねえよ。これは家宝にしていつか凛ちゃんがメジャーデビューしたら親友&ファン1号を名乗らせてもらうとするさ」

 

「あっ、龍馬ずりぃぞ!なにしれっと1号になろうとしてんだ!」

 

「あれー?ゴリラが何かウホウホ言ってるぞ~?」

 

「てめぇ!このやろ!」

 

じゃれ合う二人を見ていると可笑しさが込み上げてくる。

アメリアやディレット、千春もそうだが、自分は福岡に来て本当に良かったと思う。

故郷の宮崎を離れて一人暮らしをするのは不安だったが、いい友達が大勢出来た。

そして自分を応援してくれる彼等のためにももっと頑張ろうと凛は心に誓った。

 

「……二人とも……ありがと。私、もっともっと頑張るから……」

 

「ん?なんか言った?」

 

「……ふふ、いいや。何でもないよ。あ、そうだ。確か……高橋?だっけ?あの襲撃計画した奴って」

 

「……?そうだが?それがどうかしたか?」

 

そしてそれまで笑顔だった凛の顔が鬼の形相になり、ドスの効いた声で言う。

 

「……もしそいつ見つけたら私のライブを見てくれたお客さん達に怖い思いをさせた落とし前付けといて」

 

「「……ハイ、ワカリマシタ」」

 

壊れかけのレイディオ(ネイティブ発音)のような声色で返事をする二人。

この娘だけは絶対に敵に回すまい。

そう心に誓った龍馬と勇斗であった。

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