ある日の昼休み、龍馬は屋上でパンを食べながらバイク雑誌を読んでいた龍馬。
するとそこへ現れた一つの大きな影。
「よう!」
「……またお前か」
また城島とかいうデカブツだ。中学生のくせに180㎝もある巨体は嫌でも目立つ。
しかも彼は事あるごとに何故か龍馬に絡んでくる。
不思議と悪い気分がしないのも事実だが、鬱陶しいのもまた事実だ。
「何読んでるんだ?……おっ、バイク雑誌か。お前バイク興味あんの?」
「……関係ないだろ」
そう言ってそっぽを向く龍馬。しかし勇斗は龍馬が無造作に置いたバイク雑誌の一冊に手を伸ばすとそれのページを開きながら龍馬の隣に腰を下ろす。
「へへ。俺もさ、実は興味あんだよな。バイクにさ」
「だからどうした。もうあっちいけよ」
「つれねぇなぁ。せっかく人が仲良くしようとしてるんだぜ?」
「誰が仲良くしてくれって頼んだんだよ」
どうしてこいつはこうも馴れ馴れしいのか。
自分はこの学校の厄介者だ。どうせ一人ならせめてその一人の時間くらい好きに使わせてほしいーーその願いとは裏腹に勇斗はやたらと龍馬に付きまとう。
その後も暇さえあれば彼は龍馬を見つけては絡んできた。
たまに怒鳴るとすごすごと退散するのだが、次の日にはもう同じように接してくる。
追い払っても時間が経てばまたやってくるし、無視を決め込めばこちらが返事をするまで話し掛けてくる。龍馬はそのうち、彼の粘り強さに負けて遂に会話をすることにした。
「……なあ、城島」
「フレンドリーに勇斗って呼んでくれてもいいんじゃよ」
「……城島、お前何で俺にそんなに構うんだ?俺が起こした騒ぎを知ってるだろ?俺はこの学校じゃ厄介者扱いで、刺激すれば爆発する爆弾みたいな扱いを受けてる。誰一人として目も合わせようとしないんだぞ」
「んもぅ、いけずぅ。…………お前が校長室で暴れたって話だろ?いや、すげえよな。俺も流石に校長室で暴れて担任と校長ぶちのめす勇気はないわー」
勇斗はバイク雑誌に目を通しながら続ける。
「……喧嘩売ってんのか」
「まあ、人の話は最後まで聞けって。……それでお前は厄介者扱いされてるんだよな?似てるんだよ……転校前の俺と」
「……え?」
「なんつーか、俺も問題起こしちゃってさ。んで周りから厄介者扱いされてたんだよね。だから逃げるように転校してきたんだ」
驚きだ。
誰に対してもフランクで、龍馬とは違って早くもクラスの人気者になりつつある勇斗が問題を起こしたとは。
ゴリラのような顔付きだからゴリラと呼ばれても嫌がるどころかウッホウッホと言ってゴリラの真似をしてクラスの笑いを取るような彼がだ。
「お前、見た目いかついけど話し方も上手くてみんなからの人気もあるじゃねぇか。そんなヤツが一体どんな問題を起こしたんだよ」
「まあ、ちょっとな。あと、クラスで人気者ってのはありゃ俺としてはキャラ作ってるに過ぎない。内心は『問題を起こさず、周りから嫌われないようにしないと』ってビクビクしてんだよ」
「ふーん、で……それが俺に絡むことと何の関係があるんだよ?」
「やっぱりずっと自分も周りも騙し続けるのは疲れるもんさ。でもよ、何となくだけど……お前に似たようなものを感じたときに『こいつになら本当の自分を見せられるかも』って思ったんだ」
「勝手に見せに来られても鬱陶しいだけなんだけどな」
「そう言うなよ。"類は友を呼ぶ"って言うだろ?こうなったのももしかしたら運命なのかもしれないぜ?」
「……ハァ……なんなんだよ、全く……」
「まあ、こうやってよく来るからこれからよろしくな」
「よろしくせんでいい」
勇斗はニコニコしながらバイク雑誌のページをめくる。
龍馬ももう追い払うことはせず、黙ってバイク雑誌に目を通す。
それから勇斗は屋上でたむろする龍馬に更に絡むようになった。
龍馬も段々と勇斗と接触する時間が増えてきたことでたまに軽く悪態は突きつつも、徐々に彼に対して心を開くようになった。
そんなある日の昼休み。
「城島」
「なんだ?」
「お前……何のバイクに乗るつもりなんだ?」
いつものように屋上でバイク雑誌を読みながら過ごしていたある日のこと、龍馬から勇斗に質問を投げかけた。
龍馬自身も意外だった。最初は鬱陶しく思っていた彼にこんな質問をして話しかけるとは。
「ほら、俺こんないかつい見た目だからよ。一応アメリカンに乗りたいんだが、まだ決まってなくてな」
「ふーん……ま、確かに中学生とは思えないほどデカいし、老けてるし、丁度いいかもな」
「サラッと悪意のある言葉混ぜるなよ」
勇斗は苦笑する。
「そういうお前はどうなんだよ、龍馬」
「……SSかな」
「あ、お前絶対好きそう」
あの時、屋上から見かけたスポーツタイプのバイクは"スーパースポーツ"と呼ばれるジャンルだと雑誌を見て知った。
シャープでクールなデザインはまるで戦闘機のようで龍馬の好みに合っていた。
「そういえばさ、福岡中央高校あるじゃん?あそここの辺で唯一の中免取得許可してるらしいぜ。お前も一緒にそこ行かね?」
知っている。ほとんどの高校がバイク免許取得を禁止している中、あそこの高校は免許取得の許可を出している珍しい高校だ。
「ああ。もちろんそこに行くつもりだ」
いじめを受けていた時は県外の高校に逃げるように行くつもりだったが、佐古田やいじめグループが龍馬に手出ししなくなった今、この近くでも大手を振って歩けるようになったのだ。
ならば、自分のやりたいことに合った環境の高校を目指してもいいだろう。
「なら、高校入って免許取ったらツーリング行こうぜ!」
「……それは考えとく」
「ズコーッ!そこは『ああ、いいぜ』って言うとこだろ!」
ブーブー言う勇斗をよそに龍馬は雑誌を読み進めるのであった。
それから半年が過ぎたある日。
とある日曜日に龍馬は本やゲームソフトを見に天神へ出かけた。
軽く色々見たところでファーストフード店に入ろうとした時に、遠くに見知った顔を見つけた。
「(城島……?)」
勇斗が数人のガラの悪い学生四人に取り囲まれてどこかに連れていかれているように見えた。
ただならぬ予感を察知した龍馬はそのグループを尾行する。
たどり着いたのは人気のない路地裏。
物陰から様子を伺うとーー勇斗がその連中に暴行を受けていた。
「(!!)」
「ぐっ……!」
「城島ァ……!テメェのせいで俺達は……!」
「転校したくらいで逃げられると思ったか!」
何故か勇斗は抵抗しない。成すがまま、相手グループにリンチされている。
「ぐふっ!」
鳩尾にパンチを喰らう勇斗。
「おら、土下座して謝れよ!!『みんなの夢を奪って申し訳ありませんでした』って!!」
さらに顔面をバットで殴られ、勇斗はもはやボロボロだ。
龍馬はたまらず飛び出そうとしたが、足を止める。
「(……なんで俺が助ける必要がある?こっそり警察でも呼んで、このまま去ればいいじゃないか)」
もう面倒事に巻き込まれるのは御免だーーそう思っていた龍馬だが、厄介者の自分に唯一心を開いてくれた彼をやはり見捨てることはできなかった。
「(クソッ……!!)」
龍馬は再度飛び出そうとする。だが、彼の脳裏にある光景が蘇る。
それは半年前ーー龍馬が学校で起こしたあの騒ぎ。明らかに非があるのは相手なのに相手の保護者も教師も、佐古田をかばった。
このまま彼を助けたとしても、また学校で悪者扱いされる可能性がある。もしそうなれば龍馬は今度こそ学校にいられなくなる。
そこで龍馬はある方法を思いついた。
「(……そうだ!)」
龍馬は見つからないように路地裏の一角にとある仕掛けを施す。
そして勇斗を暴行している連中に向かっていく。
「オラァ!死ねや城島!」
「さっさと土下座しろっつってんだろクソ野郎!」
「この野郎、まだワビ入れねえか!マジで殺しちまうぞ!ああ!?」
「やめろ!!!!」
龍馬が一喝すると、四人は一斉にこっちを向く。
「ああ?なんだテメェは」
「今取り込み中なんだよ!消えな!」
「お前もこいつみたいにするぞコラァ!」
四人は龍馬をギロリと睨み付け、罵倒する。
「りょ……龍馬……なん……で……ここに……」
顔も身体も痣だらけの血まみれで勇斗は息も絶え絶えで口を開く。
「今すぐ暴行をやめろ!警察を呼ぶぞ!」
龍馬のその言葉に四人は薄ら笑いを浮かべて顔を合わせる。
「今の聞いたかよ?『いまちゅぐボーコーをやめりょ!けいちゃちゅをよぶじょ!』だってよ!」
「マジ笑えんだけど!」
「ウッケるー!」
腹の立つ奴等だ。今すぐ殴ってやりたい。が、ここは我慢だ。もし自分の想定通りならこいつらを叩きのめすだけでは最悪の事態になる。
「サツなんか呼ばれる前に……お前ぶっ殺してやるよ!!」
四人のうちの一人が龍馬に殴りかかる。
そして龍馬は敢えて顔面にそのパンチを受ける。
「ぐっ……!」
「なんだ?威勢がいい割には弱っちいな。オラァ!」
倒れた龍馬を踏みつけてさらに追い打ちをかける男。
散々龍馬を踏みつけた男は悶える龍馬を見て満足したのか、踵を返して再び勇斗の方に向かっていく。
その背後に怒りに満ちた"龍"がいるとも知らずに。
「お、おい!後ろ!」
「後ろ……?ぐはっ!!」
仲間が背後を指差したがもう遅い。
後ろを振り向いた瞬間、凄まじい力で顔面にパンチを受け、男は地面に叩き伏せられる。
「先に手ェ出したな?正当防衛だオラァ!」
龍馬は次に勇斗を取り押さえている三人にタックルをかましてそのうち一人の上に馬乗りになって殴りまくる。
さらに龍馬を羽交い締めにした男に肘内を喰らわせて背負い投げで地面に叩きつける。
側にいた男には鳩尾にパンチをお見舞いし、悶えたところで顔面を掴んで必殺のニーキックだ。
あっという間に四人を倒した龍馬は壁に寄りかかって力なく座り込んでいる勇斗を引っ張って肩を貸すと、共に立ち上がる。
「重てっ……大丈夫か?」
「龍馬……お前……どうして俺を……」
「うるせえよ。たまたまお前を見つけてついてったらこの有り様で身体が勝手に動いただけだ。……歩けるか?」
「あ、ああ……」
勇斗に肩を貸して共に歩く龍馬。
彼を近くの公園まで連れていくと、ベンチで休ませて彼に自販機で買ってきたお茶を飲ませてやった。
「ほら」
「ああ……悪いな」
勇斗は一口でお茶を半分ほど飲む。
「何があったんだよ?あいつらは誰だ?」
「……あいつらは箱崎小と箱崎私立中学の元バレー部だ。俺のかつてのチームメイトだよ」
「なんでそいつらがお前をリンチする必要があるんだ」
勇斗は龍馬からもらったお茶を再び飲むとふぅ、とため息をついてから話し始めた。
「……俺さ、小学校の頃からバレーやってたんだ。んでバレーの強豪校って言われてる箱崎私立中学に入学してそこでも小学校時代のメンツでバレー部始めたんだ」
しかし箱崎私立中学のバレー部では三年生からの後輩に対するイビリが酷いものであった。
雑用ばかりさせられ、少しでも歯向かえば酷い暴行を受ける。
それを表沙汰にしたくない顧問教師は問題の解決をしようともしなかった。
ある日、同級生に暴行をしていた三年生を勇斗は持ち前の巨体と怪力で遂に叩きのめしてしまった。
その際にバレーを続けることが困難なほどの怪我を相手に負わせてしまい、結果として勇斗をはじめとした一年生の新入部員全てが連帯責任として無期限の試合出場停止を言い渡されてしまった。
「なんだよ、それ……ふざけてんのかよ……お前何も悪くないじゃねえか……」
「でももう取り返しがつかないんだ。その内嫌な噂がバレー部以外にも広がって俺は学校中から問題児のレッテルを貼られて……逃げるように転校しちまった。あいつらはあの時、みんなの夢を奪っちまった俺を未だに恨んでるんだ」
勇斗はそう言って力なく項垂れる。
龍馬は理不尽な学校と一部の愚かな人間の存在に拳を震わせていた。
「龍馬……助けてもらって悪いんだが……あの時手を出したのは間違いだったかもしれん。あいつらが箱崎の学校に報告すればきっとこっちの学校の耳にも入る。俺はまだしもお前が……」
それを聞いて龍馬はふっと笑う。
「心配するな。同じ手はもう食わない。対策はしてある」
龍馬は不敵な笑みを浮かべながらスマホを握りしめた。
翌々日、やはり勇斗の予想通り龍馬と勇斗は保護者共々学校に呼び出された。
あの時の佐古田と同じだ。こういう奴等はいつだって自分の力で勝てないと分かれば被害者ヅラして親と学校の力で相手を責めやがる。
だが見てろ。こっちには秘策がある。ーーそう思いながら龍馬は内心ほくそ笑んだ。
「斎藤君。もう言いたいことはわかっているね?」
校長がやや怯えた表情になりつつも冷静を装って龍馬に言った。
「はい」
「君は箱崎私立中学の生徒に暴行を働いた。それがどれだけ問題なことかわかっているのかね?」
問題なのはお前らだよ。相手以上に大怪我をしている城島は無視かよクソッタレーーそう心の中で罵倒しながら龍馬は黙って校長の話を聞く。
「もう一度問題を起こせばもうこの学校には君を置けないと言ったはずだ。なのにまた問題を起こすとは……」
そして校長が話し終わると箱崎私立中学の生徒の親が口々に龍馬を罵る。
そして同席した母の涼子も頭を下げる。
「本当に申し訳ありません。……龍馬、あんたもきちんと謝んなさい!」
だが龍馬は頭を下げるどころかポケットからスマホを取り出していじっている。
「斎藤君!大事な話の最中にスマホを扱うなど……!」
次の瞬間、龍馬は机の上にスマホを叩きつける。龍馬のスマホには"とある動画"が録画されていた。
『オラァ!死ねや城島!』
『さっさと土下座しろっつってんだろクソ野郎!』
『この野郎、まだワビ入れねえか!マジで殺しちまうぞ!ああ!?』
『やめろ!!』
『ああ?なんだテメェは?』
『今取り込み中なんだよ!消えな!』
『今すぐ暴行をやめろ!!警察を呼ぶぞ!!』
そこには目の前の四人が勇斗を暴行する瞬間、そして"説得で"暴行をやめるように促した龍馬に暴力を振るう様子が映し出されていた。顔もバッチリ映っている。
そう、龍馬はこの状況を予想してスマホを動画撮影モードにして近くにセットしておいたのだ。
四人とその親の顔がみるみるうちに青ざめていく。
「これでもまだ僕が悪いって言えるんですかね?」
こんな証拠を見せられては校長も流石に黙らざるを得なかった。
結局この動画が決め手となり、四人とその親が龍馬と勇斗に謝罪し、勇斗は治療費を払ってもらえることになった。
後日、治療費いるのかと思うほどすっかり回復した勇斗が龍馬に礼を言ってきた。
「龍馬……ありがとな」
「気にするな。あいつらとうちのクソ校長を正論で黙らせてやりたかたっただけさ」
「俺この学校来てお前に会えて良かったわ。本当に感謝してる」
「よせよ、気持ち悪い」
そう言って苦笑する龍馬だが、悪くない気分だ。
そうこうしているうちに朝のチャイムが鳴り響き、全員が席について担任を待つ。
勇斗も龍馬の前にある自分の席に座ると、前を向いた。
「勇斗」
後ろから呼ぶ声がした。名字ではなく、名前で。龍馬だ。
勇斗は後ろを振り向く。
「昼休み、屋上来いよ。お前がいねえと暇だ」
「……ああ!」
この一件以来、龍馬と勇斗は常につるむようになった。
学校ではもちろんのこと、休みの日も一緒に遊ぶようになったし、同人活動を始めたという勇斗と共に同人誌即売会に参加したり、近くのバイク屋にバイクを見に行ったりと常に行動を共にした。
さらにいじめを行っている連中を見つけては二人で一緒に喧嘩をしてそういった連中を叩き伏せていて、彼等二人は弱き生徒からはヒーローとして扱われていた。
だが龍馬の家庭では相変わらず夫婦喧嘩が絶えなかったため、龍馬はやはり時々祖父母の家に遊びに行っていた。そんなある日のこと。
突然、涼子と龍一郎が夫婦喧嘩をしている最中に祖父の平蔵が龍馬の家に乗り込んできた。
そして二人を一喝すると、殴り飛ばした。
「いつまで喧嘩しよんか、このバカタレどもが!!喧嘩なんかしよる場合か!!」
突然の出来事に涼子も龍一郎も言葉が出ない。
「親のくせにいっちょん子供の面倒っちゃ見らんでからこのバカども!ほて、しまいにゃ責任の押し付けあいとかお前ら子供をなんと思うとるんか!学校に呼ばれた時も自分の子供信じんでから頭下げるばっかりやったらしいやないか!子供信じてやらんで何が親や!おい、龍一郎!お前は仕事、仕事で学校にも最初の一回くらいしか来んやったらしいな!?全部うちの娘に任せてからえらそうに!!それでも親か!!」
ずっと龍馬を見てきた平蔵はこの二人に対して堪忍袋の緒が切れそうだった。それでもあまり教育に口を出すべきではないと黙っていたが、もう我慢の限界だった。
「少し親として何をしたらええか考えれ!!」と言うと平蔵は帰っていった。
二人は俯いて静まり返り、己の親としての在り方を恥じた。
そして数日後。母は仕事だというのにスーツではなく、私服に着替えていた。
「母さん、仕事は?」
「ああ?辞めたわ」
「は?」
「お父さんに怒られてからやっと気付いた。仕事、仕事っちゅうてからあんたにいっちょん構ってやれんかった。やけん、仕事辞めて専業主婦になったんよ。さ、龍馬。あんたも着替えりい。遊びに行くばい!」
「え!?ちょ!?」
その時、龍一郎も髭を剃りながら洗面所からやってきた。
「今日は俺も無理矢理休み取った。お前も早く準備しろ」
「いや、でも今日学校……」
今日は平日だ。当たり前だが学校がある。
すると涼子はスマホを取り出して学校に電話をかける。
「あ、すんません。1-Aの斎藤龍馬の母ですが。今日は息子は休みますんで。はい。……え?理由?家庭の事情です!じゃ!」
涼子は電話を切り、ポケットにしまった。
「さ、今日は全員ズル休みです」
「えぇ……」
涼子はドヤ顔でそう言い張った。
というか、母の場合もう仕事を辞めたからズル休みというよりニートではーーそう思ったが龍馬は突っ込まないことにした。
その日は久々に家族で出掛け、買い物をしたり、ステーキハウスで豪華な食事を楽しんだり、映画を見たり、アミューズメント施設で一緒に遊んだりして今までの夫婦喧嘩や家族の仲違いが嘘のように思えた。
さらに別の日、勇斗が自宅に遊びに来て家族は友達のいなかった息子の親友を快く迎えてくれた。
家族で過ごすことが多くなったそんなある日、休みを多くとっていた龍一郎がガレージでバイクをいじっているときに龍馬を呼び出した。
「龍馬、お前バイク乗りたいんだってな。城島君と楽しそうに話してるの、聞いたぞ」
「え?……う、うん」
「高校生になったら免許取りに行け。免許代、バイク代は俺が出してやる。ただ、自分でアルバイトして少しずつ返せよ」
「え?いいのか親父?」
「ずっと出張ばかりで母さんにもお前にも構ってやれなかったからな。それに、俺の無理もそろそろ聞かなくなる。母さんも仕事を辞めたし、その分俺が頑張らないといけないから俺もこれまで以上に家に帰れなくなる。だから、俺がいない間、母さんを頼むぞ。お前は……強い男だからな」
「……わかった」
「よし、約束だ。そしてお前が免許を取ったらツーリングに行くか!」
「……もちろん!」
そう言って龍馬は父と約束を交わす。
勇斗という親友と出会えたことと、自分を見ていてくれた祖父母のおかげで家での生活も、学校生活も大幅に変化した。
龍馬は福岡中央高校に入学するため、勇斗とともに苦手な勉強を可能な限り頑張った。
中学の三年間はあっという間に過ぎーー龍馬と勇斗は福岡中央高校に合格し、無事中学卒業を迎えた。
そして高校生になったその年にーーーー日本が異世界と繋がり、さらにその一年後ーーーー既にライダーとなった龍馬は異世界からの来訪者であるエルフのディレットと運命の出会いを果たす事になる。
ーーーーーーーーーー。
「……これが俺の過去の話さ」
その話を聞いてディレットは涙を溢さずにはいられなかった。
「リョーマ……辛かったんだね……ごめんね……私のせいで……」
「よせよ。怒鳴った俺も悪かったし」
龍馬は照れくささからか、反対側を向いて頭をポリポリとかく。
すると白く、美しい肌をしたディレットの腕が龍馬の後ろから伸びてきてーー彼を抱き締めた。
「お、おい!」
「ハヤトやリョーコさん、リュウイチロウさんだけじゃないよ、リョーマ。私もそばにいるからね」
「……ああ」
内心恥ずかしさで死にそうだったが、龍馬はそれに甘えた。
今はーー今だけはーー彼女の温もりを感じていたい。
「じーちゃんやばーちゃん、ターボ、それにルミナも、アメリアも、須崎も、凛ちゃんもいる。沢山の家族や友達がいる。異世界の皇帝陛下達だって良い仲になった。昔とは比べられないほど俺は今幸せさ」
そう言って龍馬は背後から回されたディレットの腕を握った。
これからも一緒だと、言わんばかりに。