皇帝と姫と騎士団長の騒動から一夜。
いよいよ今日は皇帝自らがニホンへと赴き、ニホンの指導者と本格的な対談を行う日である。この日はそのような国同士の大きな動きがあるとは思えぬほど、穏やかな晴れの日であった。
ソフォスはいつもより早起きし、日課の剣の素振りを早めに済ませた。皇帝たるもの、玉座にふんぞり返って偉そうに命令しているだけでは兵士は動いてくれない。まずは自らが兵士の手本となるべく動いてこそ、兵士達の信頼を勝ち取れるのだと彼は信じている。
それに朝の鍛練ついでに散歩がてら城をぐるっと回ればその機会を利用して多少ではあるが下級の兵士達との交流も出来る。ソフォスは暇さえあればこうして兵士達に待遇や現状に意見や不満がないかなどを聞いて回っている。共に鍛練をしたいという兵士がいれば自ら剣の稽古をつけてやったりもする。こうした他の王にはない地道な努力の積み重ねが彼の皇帝としての地位を確固たるものにしており、兵士や国民からの信頼も絶大であった。
「諸君、おはよう。今日もいい天気だな」
「おはようございます、皇帝陛下。今日は少しお早い見回りで?」
警備の兵士に声をかけるソフォス。いつも朝早くから夜遅くまで警備の仕事と兵士としての職務や訓練をこなしている彼等には本当に感謝しかない。自分がこうして皇帝としての務めを果たせるのはひとえに彼等のおかげに他ならない。
「うむ、今日はニホンとの対談の日だ。少し早めに日課を済ませておこうと思ってな。どうだ?異常はないか?」
「はい、異常ありません。いつも通りの平和な一日になりそうですよ。そういえば陛下。新人の若い兵士が陛下の稽古を受けたがっておりました。よければお時間のある時にお相手をねがえませんでしょうか。なかなか根性のある青年です。あれは良い兵士になりますよ」
「ほっほっほ。全く、この城の兵士は物好きな者が多いのう。こんな年寄りを相手にしたがるとは……しかし悪い気はせん。稽古を通じて若い世代の話を聞いてみるのも重要な役目じゃ。これが落ち着いたら稽古をつけてやると伝えておいてくれ。儂はもう少し城内を回るとしよう……ではな」
「はっ」
ソフォスは兵士に挨拶をして城内へ戻る。一通りいつもの鍛練をしたあとは汗を流すために入浴を済ませ、朝食をモニカと共に取る。これも日課である。
朝食の席でソフォスは娘を心配し、声をかけた。何せ今から行くのは異世界だ。何があるか全く予想が出来ないのだ。
「モニカよ」
「はい、なんでしょうお父様?」
「異界の地は怖くないか?」
「全然!私楽しみで仕方ないの!」
モニカは好奇心に満ち溢れた満面の笑みで答える。昨日の一件のあと、皇帝の判断で娘のモニカも共にニホンへ連れていくことになったがまだ子供とはいえ、皇族の娘である。多少ワガママではあるが、皇女としての自覚もあるし、何よりもう娘に寂しい思いはさせたくなかった。
「朝食を取り終えたらすぐに準備をしなさい。異界とはいえ、国同士の大事な会話だ。相手方に粗相のないようにな」
「わかっていますわ、お父様。こう見えても作法についてはきちんと勉強しているつもりですし、お父様やニホンの方々の迷惑にならないようにします」
「うむ、それでこそ我が娘だ。期待しているぞ」
「お任せください、お父様!」
ーーその後は準備が慌ただしく進み、皇帝一行は馬車に乗り込み、港へと向かった。港から船に乗り込み、異界の門を目指す。門を抜ければ東京湾は目と鼻の先なので航行にそれほど時間はかからない。
「わあ……!!すごい……!!」
「おお……これは……なんと……!!」
城を凌駕する巨大な四角い建造物が建ち並び、天にも届かんばかりの巨大な塔。周囲の船は大小様々であるが、帆を必要とせずに高速で走る鉄の船ばかり。異世界の未知の技術と文明にソフォスとモニカは驚きを隠せなかった。アルバートが言っていたことはやはり嘘ではなかったと改めて実感する。
するとニホンの海軍の船であろう巨大な戦艦からどういうカラクリか、大きな声が響き渡る。
『アルカ帝国皇帝ご一行様、ようこそ我が国・日本へ。我々はあなた方を歓迎致します。海上自衛隊があなた方の船を誘導致しますのでそのまま岸へお進みください』
海上自衛隊と海上保安庁の船に守られながら、皇帝一行の船は東京湾へと入港する。入港したあとは港で待機しているニホン国の政府関係者と話すため、アルバートがまず先に降りる。話を終えるとアルバートの案内でソフォス皇帝とモニカも船から降りる。
遂に踏んだ異界の国ニホンの地。見るもの全てが見たこともない技術で作られたニホンは驚きと感動の連続であった。
「ご覧下さい!!異界の国アルカ帝国のソフォス皇帝ご一行です!!本当に中世ヨーロッパの王や貴族のような格好をしています!!信じがたい光景ですがこれは映画の撮影ではなく、本当に異世界からやってきた方々なのです!!」
既に東京湾で待機していたマスコミが一斉に撮影に乗り出す。ソフォス一行はカメラの大量のフラッシュに驚いてしまったために何かの魔法なのでは、と勘違いしそうになった。後から案内役のSPから写真の仕組みを聞いて「なるほど」と理解したようだ。その後ソフォス、モニカ、アルバートの三人は日本政府のSPの案内で皇帝と同じリムジンへと案内された。
「お待ちしておりました。こちらのお車でご案内致します。どうぞお乗りください」
SPがリムジンのドアを開け、乗車を促す。馬車とは違って車輪も小さく天井は低い。しかし内装は非常に豪華で座席は全て品質の高そうな革張りだ。ソフォスは落ち着いてはいたものの内心ワクワクしており、モニカに至っては大はしゃぎである。
「うむ」
「わあ、すごい!!これがアルバートの言っていた"クルマ"って乗り物なのね!!本当に馬がいないわ……本当にこれだけで走るのかしら?」
ソフォスとモニカはリムジンへと乗り込むが、アルバートをはじめ、ここには護衛の騎士や兵士が多く来日しており、一度にあの乗り物に乗るのは不可能だ。そこでアルバートはSPに尋ねた。
「ニホン国の者よ。私達陛下の護衛の人間はどうすればよい?」
「申し訳ありませんが、騎士団と兵士の方々はここでしばらく待機していてください。送迎用のバスが待機しておりますので順次そちらへお乗りいただきます。……が、騎士団団長のアルバート様のみ皇帝陛下の付き添いとしてご同行いただきたいのですが……」
「わかった。私も陛下と姫様が心配だ。是非同行させてもらおう」
「わかりました。ではお車にどうぞ」
SPに促され、アルバートも指示された通りにリムジンに乗り込み、ソフォスとモニカの向かい側の座席に座る。
来賓用の高級リムジンの車内はまるで寝室のベッドのように柔らかく、乗り心地がよい。これが乗り物の中とは考えられない。
「お父様!アルバート!すごいわ、この椅子フカフカよ!」
「確かに素晴らしい座り心地だ。馬車とはまるで違う」
モニカはリムジンにはしゃぎ、皇帝はただただニホンの技術に驚くばかりだ。そんな二人を見てアルバートは初めてニホンへ調査に来た日の自分を思い出す。
「(本当にあの日は驚きの連続だったな……)」
あの日……空間に穴が空いたあの朝。いつもと変わらない一日が始まるはずだったのに、突如として舞い込んだ緊急の報告を受けてアルバートは直ぐ様港へ向かった。
大規模な転移魔法の一種であろうそれが何故発生したのかは誰にもわからない。もしかしたら向こうには悪意のある存在がいるかもしれないし、話の通じる存在がいるかもしれない。
最大限の警戒をしつつ、敵意が無いことを示しながらアルバートはあの日兵士達を率いて調査に向かった。それがよもやこんなことになろうとは。未だに信じられない。
「それでは出発します。動き出しますのでご注意ください」
リムジンは静かに動き出し、徐々に加速する。
そしてリムジンは東京都内の道路へと入っていく。
後に残してきた兵士達もこの乗り物より大きい"ばす"とやらの大型のものに乗り込んで自分達の後ろから追走しているようだ。
「すごい!!すごいわ!!本当に馬無しで走ってる!!」
「ああ……それも凄いが……馬より早く動いているのにこの静かさと揺れの無さ……なんという素晴らしい乗り心地だ」
ソフォスは初めて乗る異界の乗り物に驚きを隠せない。馬よりも早く、しなやかに動いているのにほとんど揺れがない。そしてこの内装と乗り心地のよさ。異界の乗り物とはかくも素晴らしいものなのか。
「皇帝陛下は首相官邸にて我が国の首相……総理大臣と対談していただきます」
「ソウリダイジン……確かヤマナカ殿といったか。我々の世界で言う王や皇帝のような存在だと」
「多少違いはありますが、概ねそのような認識で構いません。この世界でも国によって指導者の名称は変わりますが、日本では"総理大臣"、或いは単に"総理"か"首相"と呼ぶこともあります」
「なるほど。この世界には王や皇帝といった名称はもう無いのかの?」
「かつてはそう言った者達が国を治めていましたが、今はほとんどの国家が大統領や首相と呼ばれる指導者になっています。一部ではまだ存在してはいますが本当にごく少数です」
「ふむ……なかなか興味深い話じゃな……ところで……この世界には我々の世界で言うような兵士や衛兵の姿を見かけないが、こちらでは戦がないほど平和なのか?」
ソフォスには気になる事がひとつあった。こちらの世界には武器を構えた衛兵のような存在を見かけない。国や都市の治安維持のためには衛兵の配置や巡回が不可欠だ。なのにそういう雰囲気らしき人間を見かけないために不思議に思っていたのだ。
「いいえ、そうでもありません。衛兵や兵士という存在はこちらの世界では国が管理する"警察"と呼ばれる治安維持の組織が役割を担っています。
警察の仕組みについてはまた追々話すとして……今でも世界中の至るところで戦争は発生しています。日本もかつては他国と戦争をしていました。
私達の世界では今から80年以上前に第二次世界大戦と呼ばれる世界中の国々を巻き込んだ大きな戦争がありました。その戦争で世界中でおよそ8500万人の人々が犠牲となりました」
「は、8500万人!?な、なんという……」
とんでもない数字だ。自分たちの世界の戦では規模は大きくとも10万や20万だ。歴史上過去最大規模の戦でも30万から50万ほどだったと聞く。それを遥かに凌駕する巨大な戦争とは……考えただけでもおぞましい。
「驚くのも無理はありません。科学技術の進歩は我々に便利な暮らしをもたらすと共に戦争でより多くの人間を殺す手段の進化でもあったのです。……我々の世界の歴史は多くの人々の犠牲と血と涙の上に成り立っています」
「なるほど……一度この世界の歴史について学ぶ必要があるな」
「……ニホンでも多くの人達が過去に戦争で亡くなったのですね……かわいそう……」
暗い表情の皇帝とモニカを見てSPはすぐに話題を変える。せっかく日本まで来てもらったのだ。あまり暗い話を続けるべきではないだろう。
「……暗い話になってしまいました。申し訳ありません。話題を変えましょう。……本日の対談の前に我が国からのもてなしの催し物としてある物をご用意致しました。まずはそこへ向かいます」
「ほう、催し物とな」
「何かしら?楽しみだわ!」
「ふふ、到着してからのお楽しみですよ。団長のアルバート様も是非」
「うむ、かたじけない」
皇帝一向を乗せた車は"ある場所"へと向かっていった。
行き先は……"空港"である。
しばらくして、東京都・羽田空港。
空港内へと来たリムジンから降りた皇帝一行はここでも驚きの連続だった。
広大な土地にいくつも鎮座しているのは鋼鉄の翼を持ついくつもの巨大な船のような、鳥のようなもの。
「巨大な鉄の鳥……!?」
信じられない。あのような巨大なものが空を飛ぶとは。魔法だとしても信じられないというのにこの世界の人間はあれを魔法無しで飛ばすというのか。
「あれは飛行機という空を飛ぶ乗り物です。我々の世界では空すらも旅の道なのですよ。……さあ、こちらへ」
一向が案内された先にはまるで虫の羽根のようなものが頭頂部に付いた乗り物らしきもの。
車輪がついていないところを見るとまさかこれも空を飛ぶ乗り物なのではとソフォスは想像する。
「これは……私が調査のためにニホンへ来たときに頭上を飛んでいた空飛ぶ鋼鉄の虫か……」
アルバートは初めてこちらの世界に来た時の事を思い出した。確か似たような形のものが自分達の船の上空を飛んでいたはずだ。
……待てよ。あれと似たようなものがここにあるということはまさか……。
「こちらは飛行機とは違う"ヘリコプター"という空飛ぶ乗り物です。皇帝陛下ご一行には主都・東京の案内も含めた遊覧飛行を楽しんでいただきたいとご用意させていただきました」
「すごい!!空を飛べるの!?お父様、早く乗りましょう!!」
「……あ?あ、ああ、そうだな。よし、ニホンのご厚意に甘えるとしようか。……というか儂自身年甲斐もなく子供の用にワクワクしておるよ。なにせ空を飛ぶ乗り物など我々の世界では有り得ないからな。のう、アルバート?」
「え、ええ……そうですね」
やっぱりか。想像はしていたがやはりこれで空を飛ぶ羽目になるのか。
確かに空を飛べるというのは素晴らしいし、興味はあるがやはり未知のものに対する恐怖心というか、警戒心の方が上回ってしまう。
だがここで騎士団を率いる団長ともあろうものが弱さを見せるわけにはいかない。
「なに?アルバート怖いの?」
「こ、怖くなどありませんよ。騎士団団長たるものこれぐらいで怖がってどうしますか」
だが必死にそう言うアルバートの顔は少し青ざめていた。
ヘリは皇帝一行を乗せ、東京都内上空を飛行していた。眼下に広がる都市の街並みを見てモニカは大はしゃぎである。
「すごいわ!!私達本当に空を飛んでる!!」
「ああ……!!なんという摩訶不思議な乗り物だ……!!」
年甲斐もなく、内心ではモニカ以上にはしゃぎながら皇帝はふと、亡くなった妻の笑顔を思い出す。
「(……この光景……フィオナにも見せてやりたかった。あいつが生きておればどんな顔をしただろうか)」
身体が弱く、モニカを生んですぐに亡くなってしまった妻がもしいたならばどんな笑顔を見せてくれただろうかーーーーソフォスはどうしても今は亡き愛する妻のことを考えてしまう。
そんな事を思いつつ景色を見ていると、SPが窓の外のあの巨大な塔を指差して言った。
「あちらに見えますのが我が国で一番高い建造物であり観光名所のひとつ、東京スカイツリーです。もうひとつある赤い塔は東京タワーといいます」
「すごく高いわね……どうやってあんな塔を建てたのかしら?」
「まるで魔法だな。これで魔法のない世界とは未だに信じられんのう」
天を貫くようにそびえ立つ鉄の塔が大都市の真ん中に二つもある光景を目の当たりにしてソフォスもモニカも驚く。モニカがアルバートにも窓の外の景色を見るように促すが、アルバートは青ざめた顔のまま固まっているだけだった。
そうして約数十分の遊覧飛行を楽しんだのち、ヘリは羽田空港へと戻り、着陸した。
「いやはや、素晴らしい体験をさせてもらった。のう、モニカよ?」
「ええ!今日は忘れられない日になりそうだわ!……あら?」
ヘリから降りるとアルバートは立ったまま硬直しており、顔がさっきよりも青ざめていた。ずっと俯いたままでやつれているようにすら見えてしまう。遊覧飛行がよほど精神にダメージを与えてしまったらしい。
「アルバート……大丈夫?」
「……」
返事はない。モニカの声にすら反応しないとはこれはかなりの重症ではないのか。
モニカはアルバートの前に立って顔の前で手を振ってもう一度声をかけてみた。
「アルバート?」
「……はっ!な、なんでしょうか……!」
「……やっぱり怖かったの?」
「……そ、そんなことは……」
「……顔、真っ青よ?」
強がるアルバートであったが、言葉と顔が真逆の状態である。強くていつも頼れるアルバートの弱い一面を長い付き合いで知ったことでソフォスもモニカも笑ってしまう。
「はっは、アルバートよ、強がるでない。誰しも怖いものや苦手なもののひとつやふたつはあって当たり前だ」
「……帝国最強を誇るオールデン騎士団団長ともあろうものがこの体たらく……申し訳ありません……」
「いいのよ、気にしないで。ふふっ、アルバートにも怖いものがあるのね」
そう言ってモニカは再びいたずらっぽく笑った。
その後、ソフォス皇帝一行と山中総理との本格的な対談は予定通り始まり、対談の様子は全国で生中継された。
異世界の国から来たという皇帝という存在。それを一目見ようと誰もがテレビ、パソコン、スマホ、タブレットを食い入るように見つめていた。
学校から帰宅した龍馬と母親の涼子もまた例外ではなく共に生中継をテレビで見ていた。
首相官邸に現れた山中総理に続き、ソフォス皇帝と姫君のモニカ、後にオールデン騎士団団長のアルバートが続く。
「ほぉー……すげ。本当に王様だよ。トランプのキングみたいなカッコしとるねぇ。あげん立派なヒゲ、あたしゃ初めて見たわ」
「端から見たらただのコスプレ集団にしか見えねーな」
そんなことを言っているうちにどうやら対談が始まったようだ。中世のような出で立ちの皇帝とスーツを着た現代の国家の指導者が並んで座る絵面はかなり異質なものがある。
『お初にお目にかかります。ソフォス皇帝陛下。私が日本国総理の山中忠弘です』
『アルカ帝国第三代目皇帝、ソフォス・レーグヌム・アフトクラトリアと申します。こちらこそよろしくお願いします、ヤマナカ総理殿』
そう言って二人は握手をし、報道陣によるカメラのフラッシュが再び焚かれる。今や日本全国の誰もがモニターに釘付けになっていることであろう。
『こちらは我が愛娘のモニカです。……さあモニカ、ヤマナカ殿にご挨拶を』
ソフォス皇帝は共に首相官邸へ訪れたモニカに挨拶を促す。普段のお転婆ぶりはどこへやら、やはりそこは皇女である。美しく、品のある佇まいと雰囲気はわずか14歳の少女とは思えないほどだ。
『初めまして。アルカ帝国皇女のモニカ・レーグヌム・アフトクラトリアでございます。本日は我が父共々お世話になりますわ』
『異界より遠路はるばる日本へと足をお運び下さり、ありがとうございます。私共日本人一同、あなた方を歓迎致します。ささ、どうぞそちらの椅子へおかけください』
山中総理はモニカとも握手を交わす。
その後、アルバートとも挨拶と握手を交わし、対談がスタートした。
一方、龍馬は対談の生中継を見ながらツイッターのタイムラインを確認していた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
『マジもんの王様キター!!!!』
ーーーーーーーーーーーーーーー
『ホントに皇帝って感じの外見だな。ヒゲ立派w』
ーーーーーーーーーーーーーーー
『お姫様可愛すぎか(´・ω・`*)』
ーーーーーーーーーーーーーーー
『ああ^~お姫様かわいいんじゃあ~』
ーーーーーーーーーーーーーーー
「すげえな。タイムラインはほとんど対談に関するツイートばっかり。トレンド入りしたワードは"異世界"、"異世界対談"、"本物の姫"、"皇帝"、"王様"、"騎士団の団長"、"ヒゲ"……」
「ヒゲがトレンド入りってみんなヒゲ好きすぎやろ」
「あのヒゲじゃ無理もない気がするけどな……」
龍馬はスマホからテレビに視線を戻す。
話は既に交易や同盟といった今回の本題に入っているようである。
『さて、今回の対談では私共アルカ帝国としてはニホンとの貿易をはじめとした国同士の同盟を申し入れたい。こうして異界の門で目と鼻の先で繋がってしまった以上は国同士の関わりを避けるほうが難しいでしょう。いかがですかな?』
『確かにごもっともです。しかし我々の世界、そしてこの国は魔法や異世界、人間以外の種族などといったものはおとぎ話の中での有り得ない存在。そのようなものや文化が突然入ってきたとなれば国内、ひいては世界の混乱は避けられません。……ですが、こうしてわざわざ足をお運びいただいた皇帝陛下を無理です、の一言で追い返すのも失礼かと。……少し時間を頂けますか?我が国での国会にて異界との同盟を決議する法案を話し合いたい』
『いいでしょう、我々はいくらでも待ちます。私共としてもすぐに決断を急いだりはしません。国を導く者として悩むのは当然のこと。充分に考えたのちに出された答えであるならばそれが如何なる答えであっても我々は受け入れます』
『ご理解いただき、ありがとうございます。あなたは指導者として非常に優れた人間だ。きっと国民からの信頼も厚いのでしょう』
『ははは、私もまだまだです。指導者として学ぶことは沢山ある。命ある限り学ぶことの連続ですよ』
『その心構え、私も人の上に立つ者として見習わなければなりませんな。……今日は異界よりお越しいただきありがとうございました』
『いえ、こちらこそ。良い返事を期待しておりますぞ』
山中総理とソフォス皇帝は互いに椅子から立ち上がると再び握手を交わし、取材陣に向かって笑顔を見せた。
こうして日本の総理大臣と異界の国の皇帝の対談は終了し、その後のテレビも対談の様子を撮影した映像が流れるニュース番組で持ちきりだった。
その後皇帝一行は山中総理との対談を度々行い、日本側との"異界同盟法案"について国同士がより良い関係を結べるように尽力した。日本ではそれからしばらくは対談に関するニュースが続いた。
さらには東京に続いて京都を観光する皇帝一行の様子や異界同盟法案に関する緊急国会など、連日異界に関する話題が後を絶たない。
それから二週間後ーーーー。
龍馬の近所にある商店街の一角にある食堂"ふくまる"にて、龍馬と勇斗は一緒にラーメンを食べていた。
ふくまるは多くの学生や働く男達の胃袋を支える大衆食堂だ。店主のおばちゃんと娘の愛華が切り盛りしており、龍馬と勇斗の二人は中学時代からずっとお世話になっている。
メニューも豊富で特におばちゃんの作るラーメンは龍馬と勇斗の大好物だ。大衆食堂なのでラーメンがメインではないのだが博多ラーメンのガイドブックにも載るほどラーメンがうまい。しかも学生割引をしてくれるこの店は小遣いの少ない貧乏学生にはありがたい店だった。
「おばちゃん!替え玉!バリカタで!」
「はいよ、替え玉バリカタ一丁ね」
スープだけが残った龍馬のどんぶりにおばちゃんが替え玉の麺を入れる。
"替え玉"とはラーメンの麺のみをおかわりすることで、福岡のラーメン屋は大概メニューに替え玉が存在する。
"バリカタ"とは麺の堅さのクラスの呼称で、福岡のラーメン屋ではラーメンの注文時に麺の堅さを指定できる。
柔らかい順にバリヤワ、ヤワ、普通、カタ、バリカタ、ハリガネ、粉落としとある。
特によく好まれる麺の堅さはバリカタで龍馬も勇斗もバリカタの豚骨ラーメンが好きなのである。ちなみにバリカタの"バリ"とは博多弁で"すごく"、"めっちゃ"というニュアンスである。
「あー、やっぱりおばちゃんのラーメンが一番美味いや」
「誉めてもなんも出らんよ」
「いや、素直な意見だって。そういえば愛華ねえちゃんは?大学?」
「ああ、今日は学校でね。もう少し遅くなりそうだよ」
「へぇ、大変だなぁ」
そう言いつつ先に食べ終わった勇斗が箸を置くと同時に店内のテレビがニュースに変わった。
『こんばんは。ニュースをお知らせします。……二週間前にアルカ帝国から来日したソフォス皇帝の同盟に関して政府は賛成多数で異界同盟法案を可決したと発表しました』
画面が二週間前のソフォス皇帝の対談の様子を映した映像と緊急国会の映像を流す。龍馬は未だ麺をすすりながら店内のテレビに目をやり、おばちゃんも作業が一段落したため手を休めてニュースを一緒に見ていた。
「ああ、あの異世界の王様だか皇帝様とやらの話ね……ま、異世界だろうがなんだろうがあたし達庶民には関係のない話だね」
「だねぇ。別に向こうの世界と関わったからって俺達の生活が変わるわけないし」
龍馬はそう言って替え玉を食べ終えた後に残ったスープを飲み干す。こうやってどんぶりごと抱えて飲み干すのが龍馬流だ。めんどくさいレンゲなどいちいち使ってはいられない。おばちゃんもそれをわかっているので龍馬がラーメンを頼んだ時は普段は必ずつけるレンゲをつけないのである。
スープを飲み干したどんぶりを置くと龍馬は美味かった、と言いながらどんぶりの上に箸を置いた。
「わかんねぇぜ?もしかしたらあっちの世界の人達が観光やら留学でたくさん日本に来たり、もしかしたら俺達日本の人間があっちの世界に行けたりするかもだぜ?」
「まさか。あっちの人を目にする機会くらいはあってもそこまで浸透するわけないだろ。……おばちゃん、ごちそうさま」
「はいよ。龍ちゃんは600円、勇斗くんは850円ね」
二人は会計を済ませると、それぞれの家路へとつく。
……この時、勇斗が冗談で発した言葉が盛大なフラグになったなどと龍馬はこの時、知る由もなかった。