大衆食堂ふくまるでのアルバイトが決まったディレット。
涼子に履歴書の書き方を教えてもらい、履歴書をおばちゃんに渡す。既に採用は決定しているので面接は形式のみだ。
「じゃあ、ディレットちゃんにお願いしたいのはホール……配膳と調理補助ね。注文を取ったり、出来上がった料理を運んだり、テーブルを片付けたりとかそういった作業だよ。愛華がいつもやってる作業だ。あとはレジの会計作業とか。
ああ、調理補助に関しては心配しなくていいよ。調理の大部分は私がやるし、ディレットちゃんにやってもらいたいのは具材を切ったりとか私がラーメンを作るために丼を並べるとかその程度だからね」
「は、はい」
「そう固くならなくていいよ。なるべく私や愛華がカバーするから」
おばちゃんはそう言うが、やはり否応なしに緊張してしまう。ましてやここは異界なのだ。
異界にやってきてもう4ヶ月が経とうとしているが、まだわからないことや知りたいことは沢山ある。
「じゃあ、明日の16時から早速入っとくれ。明日は愛華もいるから安心していいよ」
「わかりました。よろしくお願いします」
いきなり一人で任されるのではと思ったが、愛華が教えてくれるなら多少は安心だ。
早く仕事を覚えなければ。ディレットの目は緊張しつつも決意に満ちていた。
翌日、学校が終わると急いでふくまるへと向かう。
エプロンと三角巾を着用し、準備はバッチリだ。
店内の客はまばらで落ち着いており、今のところは比較的ゆっくりと仕事を覚えられるだろう。
「おっ!あん時のエルフのお嬢ちゃんじゃないか!今日からアルバイトかい?」
そう言ってラーメンを食べながら話しかけてきたのは柳川工務店の社員の倉田だ。今日はドワーフのヴィダールはおらず、代わりに若い茶髪の青年と一緒に来ている。
「めっちゃ可愛いじゃないっすか!ね、ね、愛華ちゃん、その娘新しいバイトの娘?」
彼の名は岡本。柳川工務店の若手社員だ。
「そうだよ、エルフのディレットちゃん。うちで働くことになったんだ」
「よ、よろしくお願いします!」
少々緊張した声色で頭を下げて挨拶するディレット。彼女の美しい金髪と整った顔立ちに岡本は舞い上がっている。
「やべー!マジ可愛いんですけど!どこ住んでんの?趣味は?彼氏とかいる?」
「え?えっと、その……」
「おい、こら!岡本!」
倉田が向かい側に座っている岡本の頭に拳骨をお見舞いする。
「いってぇー!倉田さん、叩くことないでしょ!?」
「お前は馴れ馴れしいにもほどがあるんだよ!彼女が困ってるだろうが!バカなこと言ってないでとっとと食え!」
「ちぇっ。……そんなんだから奥さんの尻に敷かれるんだよ」
「何か言ったか!?」
「いえ!何も言ってないっす!」
岡本は笑って誤魔化しながら、目の前のトンカツ定食を食べる。
ラーメンを半ば食べ終わった倉田は何を思ったのか、チラリとメニューを見た。
「やっぱり少し物足りないな。……そうだ、ディレットちゃん。練習がてら俺の注文受けてくれよ。ゆっくりでいいからさ」
倉田はディレットの練習台にと追加注文を考えていた。
ディレットは愛華に教わりながら伝票を用意する。
「替え玉をバリカタ、ギョーザと白ご飯を並盛りでくれないか」
「は、はい!カエダマをバリカタ、ギョーザと白ご飯並盛りですね!」
緊張した手つきでディレットは伝票に注文の品と数量を書き込む。
「慌てなくていいぞ、俺は練習台だからな」
倉田からのディレットに対するさりげない心遣い。
日に焼けた黒い肌とたくましい腕が特徴の倉田は現場でも時に厳しく、時に優しい頼れる先輩であった。
ちゃらんぽらんな岡本は彼にしょっちゅう叱責を受けつつも、彼との飲みごとや食事を断ったりはしない。
社会人であるとはいえ、まだ若く遊びたい盛りの金欠の岡本によく食事や酒を奢ってくれるし、辛いことや苦しいこと、悩みがあれば黙って後輩の話を聞いてやる倉田は岡本からの信頼も厚かった。
「倉田さん、マジイケメン」
「いいからお前は黙って食え」
そんな二人の会話をよそにディレットは愛華の指示を受けつつ、注文をおばちゃんに伝える。
おばちゃんはすぐさま中華鍋でギョーザを焼きつつ、麺を茹でる。
出来上がった注文の品をディレットは落とさないように注意しつつ運ぶ。
「カエダマバリカタ、ギョーザと白ご飯並、お待たせしました!」
「お、ありがとう。なかなかスムーズに出来てるじゃないか。これならすぐに仕事にも慣れるさ」
「は、はい!ありがとうございます!」
ディレットは深々と倉田にお辞儀をする。
おばちゃんと愛華も微笑ましい表情でその様子を見ていた。
この日は幸い、客はずっとまばらだったので落ち着いて研修が行えた。
オーダーストップ後、後片付けや店の掃除を行ってディレットは帰宅した。
次の日、ディレットの研修の様子を見るために龍馬と勇斗がふくまるにやってきた。
「よ!」
「頑張ってるじゃん」
二人はディレットにラーメンをバリカタで注文する。
二日目にして早くも慣れつつあったディレットは昨日よりはやや忙しめの店内を動き回りつつ、ホール作業をこなしていく。
三日目は車校のため休みだったが、ディレットはこの日客としてふくまるにやってきた。
龍馬と勇斗はいないが、代わりに千春と一緒に来ていた。
「ここのラーメン、美味しいわね」
「でしょ?リョーマも私も大好きなんだー」
ラーメンを食べながら女子同士で他愛ない雑談を繰り返す。
するとその時新たな来客が。
「おいーす!こんちゃー!」
もうそろそろ今晩はという時間帯にやってきたのは涼子がよくお世話になっている"八百屋のげんぞう"の店主であるゲンさんこと柴田 源三がやってきたのだ。
「お!ゲンさん、この時間珍しいね!店は?」
「今は女房に任せて交代で飯食いにきた。なんか可愛い娘が入ったらしいじゃないか」
年季の入った福岡ソフトバンクホークスの野球帽を脱ぎながら、ゲンさんはテーブルに座る。
カウンターに座っていたディレットはゲンさんの方を振り向くと挨拶をした。
「ゲンさん!こんにちわ!」
「おっ?涼子さんとこの異界のお嬢ちゃんの……ええと、ディレットちゃんだっけ?もしかして新しい人ってあんたかい?」
「はい!今日は休みなので普通に客として来てますけど」
「ああ、そりゃ残念。新しい"華"に食いもん運んでほしかったなぁ」
ゲンさんはやや残念そうに肩を落とした。
「ゲンさん?私やお母さんは華じゃないんだね?」
「ゲンさんは今日は料金を500円上乗せだねぇ」
「よ、芳子さん!愛華ちゃん、冗談だって!」
そんな三人の様子を見てディレットも千春も笑っている。
楽しい食事の時間は過ぎていく。
ふくまるでのアルバイト三日目。この日はオーダーストップの30分前になってから柳川工務店のメンツが四人現れた。
倉田、岡本、ヴィダール、そして柳川工務店社長の
全員顔が赤い。どうやら飲んできたようだ。
「あら、柳川オールスターズじゃないの。飲んできたのかい?」
「ああ。ちょっとな」
「どうせまた片山さんとこの店で飲んできたんでしょ?」
「ははは、芳子さんはよくわかってらっしゃる」
社長の柳川は上機嫌でそう答えた。
この会社のメンバーはよく社員同士で片山の店である"居酒屋 博多っ子"で飲んではシメにふくまるのラーメンを食べに来るのだ。
「やっぱりシメにはフクマルのラーメンを食べないとだな!」
「ハッハッハ!ヴィダールさん、あんたもよくわかってきたじゃないか!」
倉田とヴィダールが肩を組んで笑う。
岡本はというとフラフラしている。どうやら四人の中で一番酔いが回っているらしい。
「おばちゃ~ん……ラーメンくだしゃ~い……」
「あんたはラーメンの前に先に水を飲みな!愛華、水入れてやんなさい」
「はーい」
この店は本来飲料水はセルフサービスだが、他に客もいないし、愛華は気を利かせて水を四人分運んでやる。
「芳子さん、ビール一本もらえる?」
柳川はビールを注文する。シメを食べにきたというのにまだ飲む気らしい。
「はいはい、ちょっと待ってな。……ディレットちゃん、ビールと栓抜きとグラスを持ってってあげて」
「はい!」
ディレットは瓶ビールと栓抜き、グラスを柳川の前に置く。
「お待たせしました!ビールです!」
「ありがとう。……君が例の新しいアルバイトのエルフの女の子だね?倉田達から話は聞いてるよ。大変だろうけど頑張ってな」
「あ、ありがとうございます!」
柳川はにっこりと微笑む。
やや中年太りだがそのたくましい腕は倉田にも劣らない。
社長とはいっても柳川工務店は小さな会社だ。人員も少ないので彼も現場第一で前線で活躍している。
そのため社員からの人望も厚い。
岡本以外の三人はラーメンが来るまで一本の瓶ビールを分けて一杯ずつ飲み、四人はシメのラーメンを食べると満足そうに帰宅するのであった。
その日、ふくまるでの出来事を遅めの夕食の席で家族に話すディレット。
「おー、柳川さんとこの人達と仲良うなったんね。あそこの人たちは気さくでみんないい人達やけんね、そらぁ楽しかったやろ」
涼子はディレットの話を聞きながら麦焼酎を一口飲む。
「みんな面白い人達でした!」
「そーね。そら良かったやないね。芳子さんとこやったら安心やし、これからも頑張りぃよ」
「はい!」
翌日からは本格的に業務を任されるようになった。
慣れてきたおかげもあって愛華とは別々に行動を取ることが可能になったし、愛華が学校でいなくても基本的なことは一人で出来るようになった。
飲み込みの早いディレットにおばちゃんもとても喜んでおり、「これならたまに休日の昼間入ってもらった時でも心配ないねぇ」とディレットに大いに期待していた。
何でもこの店は大衆食堂だけあって平日と土曜日の昼間が相当忙しいのだとか。
そしてディレットはその週の土曜日にその忙しさを知ることになる。
土曜のこの日、午前中の開店から夕方までのシフトに入っていたディレットは初の昼間のラッシュを体験した。近辺の現場で働く土木作業の男達が一斉に昼食を取りに来たのだ。
中でも一番比率が高いのが松本組と呼ばれる建築会社の社員達で、重労働である土木作業で腹を空かせた彼等はよく食べる。
「ラーメンバリカタ大盛りとチャーハンね!」
「こっちはラーメンをカタ、半チャンギョーザセット!」
「焼きそば定食をご飯大盛りで頼むよ!」
「ちゃんぽんとギョーザ、ご飯大盛りで!」
とにかく一度に頼む量も種類も多い。
しかもそれでいて人数も多いのでディレットはてんてこ舞いだった。
2回ほど注文を間違えてしまい、「注文が違うよ!」と怒られてしまう。
ようやくラッシュを切り抜けたものの、ミスからしょんぼりとしてしまうディレット。
「ま、ミスは誰にでもあるもんさ。反省は大事だけどあんまり気にしすぎるのもいけないよ」
「はい……すみません……」
おばちゃんは落ち込むディレットを励ましてくれる。もっと仕事を捌けるようにならなければおばちゃんのお荷物になってしまう。次はもっと素早く仕事をこなせるようになろうと決心するディレット。
それからは学校、車校、アルバイトを必死に頑張った。そして店にやってくる男達や学生達の多くに顔を覚えてもらったある日、事件は起きた。
夕方6時ごろ、あまり見ない顔の50代半ばくらいの青いチェックの服を着た男性客がラーメンを注文し、しばらくたった時。
「おい!」
突如男性は声を荒げてディレットを呼びつける。
慌ててディレットはテーブルに駆け付ける。
「は、はい!何でしょう!?」
「何でしょうじゃねーよ!ラーメンに髪の毛入ってんじゃねーか!この店は髪の毛を麺にしてんのか!?」
「え!?……す、すみません……!」
男性は箸で一本の長い髪の毛をつまみ上げてディレットを怒鳴り付ける。慌てて愛華もテーブルに駆け付けた。
「申し訳ありません。すぐに新しいものをお作り致しますので少々お待ちいただけますでしょうか」
「ったくよー……さっさとしろよ」
愛華は頭を下げながらラーメンの丼を下げ、厨房母に新しくラーメンを作るように頼む。
愛華は「気にしないでね」とディレットに言ってくれていたが、ディレットの頭の中には別のことが浮かんでいた。
あの時男性がつまみ上げていた髪の毛は明らかに自分のものではない。
色は明るいが金髪ではないし、愛華はショートヘアーで長さが足りない。厨房のおばちゃんはいかにもおばちゃんヘアーといったパーマをかけたちぢれた髪の毛であり、あんなに真っ直ぐな髪の毛ではない。ディレットは不信感を抱きつつも業務に戻る。
それからその男性は来店してはことあるごとにクレームをつけてきた。
セルフサービスなのに水を出さないだの、麺の固さが足りないだの、大盛りを頼んだのに他の客より量が少ないから客を差別しているだのとクレームの連続だった。
ある日その話を聞いた柳川工務店の岡本は「なんなんすかそのおっさん!自分がぶっ飛ばしてやりますよ!」と憤慨していたが「店の迷惑になるからやめろ」と倉田に制止されていた。
そんな事が続いた次の土曜日、あの男性がよりにもよって昼間のラッシュの時間にやってきた。
男性はやはりセルフサービスの飲料水を店員であるディレットに持ってくるよう命令した。ディレットはクレームを避けるため、やむなく飲料水を持っていく。
この日は松本組の男達が八人ほどやってきて、さらに珍しく柳川工務店の四人も同時にやってきたため、店内は大忙しだった。
愛華やディレットは男性がクレームを言わないことを祈りながら細心の注意を払いつつ、業務をこなした。だがこの時もやはり男性はディレットを呼びつけてクレームを言い出した。
「おい!また髪の毛入ってんじゃねーか!」
男性はラーメンの中にある髪の毛をつまみ上げる。
すぐさまディレットは愛華のように「申し訳ありません。すぐに作り直します」と謝りつつ丼を下げる。
丼を下げて厨房に下げようとするディレットの背後から男性は心ない一言をぶつける。
「ったく、これだから異界人ってやつはよ。エルフだかドワーフだか知らねえが、遅れた文明の中の頭弱い奴等が日本なんかに来るじゃねぇよまったく」
「……!!」
その言葉に流石のディレットも堪忍袋の緒が切れそうになる。しかしこれは仕事なのだ。接客をしていればこういうこともある。ここは我慢だと自分に言い聞かせながらディレットは唇を噛み締めて耐えた。
しかしそれよりも先に立ち上がって文句を言った人間が一人。
「おい!いい加減にしろよオッサン!」
叫んだのは柳川工務店の岡本であった。
まだまだ若く血気盛んな彼は見た目はチャラいと言われるが曲がったことが許せない性格であった。
「黙って聞いてりゃごちゃごちゃうっせーんだよ!自分より弱い女の子いじめて楽しいかよ!?」
「ああ!?なんだこのクソガキ!てめぇにゃ関係ねぇだろが!」
男性も負けじと声を荒げる。
だが柳川工務店のメンバーが全員立ち上がり、共に反論する。
「いいや、関係あるな」
「そうとも。それにだ、飯食ってる横でごちゃごちゃ言われたらせっかくの昼飯がまずくなるんだよ」
「おうよ!それにお前さん、さっきしれっとドワーフもバカにしてたな?喧嘩売ってるのか?」
倉田と社長の柳川が男性を睨み付け、ドワーフであるヴィダールが丸太のような太い腕を出して拳をポキポキと鳴らす。
「おう、俺らもそっちの人達と同意見だな」
そう言って次に立ち上がったのは松本組の社員の一人である田原だ。頭に巻いた白タオルと真っ黒に日焼けした肌、紫色の作業着が特徴の男性である。
彼は松本組の社員でめげずに頑張るディレットを以前から好意的に見ていた一人であり、柳川工務店のメンバーと共に彼女に味方してくれた。
「俺らもよお、アイドルみてえな存在の愛華ちゃんやディレットちゃんの笑顔や、それに母ちゃんみてえな存在のおばちゃんの作る美味い飯のおかげで毎日の仕事が頑張れてんだわ。テメーみてぇな悪質クレーマーに彼女ら泣かされて黙ってるわけにゃあいかねぇな。なぁ?おめぇら!」
田原がそう言うと彼の同期や若手社員達が「そうだ、そうだ」と怒りを露にして一斉に立ち上がる。
「ウチんとこの若いモンはよぉ、ちぃと血の気が多いからなぁ。あんまりイキがらねぇ方がいいぜ、おっさんよぉ?」
「う、うう……」
男性を睨み付ける柳川工務店のメンバー、そして松本組の男達。肉体労働で鍛え上げられた屈強な身体を持つ男達に、しかもこれだけの人数に睨み付けられてはさすがの男性も反論出来なかった。
その時、岡本が男性の胸ポケットからはみ出している、"あるもの"を見つけた。
「おい、なんだこれ……!」
「あっ!それは……」
岡本が乱暴に男性の胸ポケットから取り出したのは女性の髪の毛の束。
それは人工の毛髪であり、マネキンのカツラやドラッグストアの白髪染めのコーナーにあるサンプルのものであった。
「おい、てめぇ!!こんなもん使いやがって!!」
岡本が怒りを爆発させて男性の胸ぐらを掴む。
「ひ、ひいぃ……!」
男性を取り囲む柳川工務店のメンバーと松本組。そして卑怯な手段を使ってクレームを捏造した男性に対し、遂におばちゃんの怒りが爆発した。
「このろくでなしめ!こんなことして大事なうちの娘と従業員にいちゃもんつけるなんざ、覚悟は出来てんだろうね!!」
チャーハンを炒めるために使う大きなお玉を振り上げながら男性に迫り、おばちゃんが怒鳴る。
「今まではあたしらに落ち度があったのかもと我慢してたけど、事実を知った以上はあんたなんか客じゃないよ!!お代はいらないからとっとと出ていきな!!」
「は、はいぃ!!すみませんでしたぁ!!」
今にもお玉で殴りかかってきそうな気迫のおばちゃんに気圧されて男性は慌てて店を出る。
「二度と来るんじゃないよ!!もし次にそのアホ面見せたら熱した中華鍋にあんたの顔を押し付けてやるからね!!」
おばちゃんは店先に出てお玉を振り上げつつ、走り去る男性の背中に向かってそう叫んだのであった。
「……ということがあったんですよ」
ディレットは夕食の席で今日の事件について話していた。
「なんだそのクソ野郎!俺がいたらぶちのめしてやったのに!」
龍馬はその話を聞いて憤慨する。
「いやー、もう充分ぶちのめされとるやろ。精神的に。やっぱり悪いことは出来んし、きちんとしてる人にはちゃんと味方がついてくれとるもんやね」
涼子の言う通りである。
あの時は店の中の全員がディレット達に味方してくれたし、男性もそれ相応の報いを受けた。
「どこの世界にもそういう悪い人っているんだね……」
そう言いつつ、ルミナは夕食のおかずを口に運ぶ。
ちなみにルミナの食器は愛華が小さい頃に使っていたままごと用のおもちゃを譲り受けたものだが、身体の小さなピクシーのルミナにはピッタリの大きさだ。
「そういえばさ、あたしも今日コンビニさい煙草買いに行ったらレジでグジグジ文句言いよるおいさん(オッサン)がおったけん、ムカついてから外連れ出してボテボテにくらしてやったわ。なんかきったない青いチェックの服着たダサいおいさんやったよ」
「涼子……またお前……」
上機嫌で酒を飲む涼子に呆れる龍一郎。
「……え?青いチェック……?」
なんか……どこかで見たような……
「あ……」
ディレットは気付いた。それは間違いなく……
「リョーコさん……それ……多分……うちに来た例の人です……」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
ディレット以外の四人は同時にぽかんと口を開ける。
こんな言葉がある。"因果応報"。
仏教から生まれた言葉であり、自分が行ったことの報いは必ず帰ってくるという意味だ。
やはり悪いことはそうそう出来ないものである。