アナザー・ディメンジョン -異界交流記-   作:誠龍

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第32話 ディレットのバイク免許取得日記その④・卒業検定と筆記試験

「はい、お疲れ様でした。気を付けて帰ってね」

 

「ありがとうございましたー!」

 

ディレットは教官に挨拶をして教習原簿を受け取り、中身を確認する。

 

「(免許まであと少しだ……!)」

 

そう。ついに学科と教習、全ての項目を終えたのだ。

ここまで色々あった。クランクや急制動(加速状態から一気にスピードを落として安全に急停止する教習)でこけそうになったり、シミュレータによるテレビゲームのようなバイク教習で感覚が掴めず苦労したり……その苦労がもうすぐ報われる時がきた。

学科と実技の教習を全て終えれば筆記試験の模擬試験である"効果測定"と呼ばれるテストにチャレンジできる。これは学科と実技で得た知識をフル活用して臨むテストであり、実際に試験場で受ける筆記試験を想定している。

これで90点以上を取れれば合格点としていよいよ"卒業検定"と呼ばれる実技のテストにチャレンジできる。これをクリアすれば晴れて自動車学校を卒業となる。

卒業すればあとは試験場で筆記試験を受け、合格すれば念願の自動二輪免許取得となる。

 

「(あともうちょっと……頑張ろう!)」

 

そうディレットは心の中で呟きつつ、憧れの自動二輪免許取得への夢を膨らませるのであった。

 

 

 

 

 

 

だが、現実は甘くなかった。

 

 

 

 

 

「ああぁ……また不合格だ……」

 

効果測定室でパソコンによる模擬試験を受けてみたが、これが三度目だというのに効果測定はなんと72点という結果に終わり、大敗を喫した。

昔とは違い、今の自動車免許の試験には我々日本人ですら間違えやすい"引っかけ問題"が非常に多い。そこへ自動車など無い世界からやってきたディレットがすぐに合格点を取るのはかなり難易度の高い話だ。72点取れただけでも上出来だろう。

だが、合格出来なければ意味がない。ディレットはロビーの机でしばらく勉強してみることにした。

 

 

数時間後……

 

 

外はほとんど暗くなり、閉校の時間が迫る。

ディレットはギリギリまで勉強を続け、本日最後の効果測定をやってみることにした。

 

 

30分後……

 

 

"おめでとう!合格です!"

 

 

「やった……!」

 

なんとか91点というほぼギリギリのラインで合格出来た。ディレットは印刷された用紙を受付に提出し、効果測定合格の旨を伝える。

 

「おめでとうございます、ディレットさん。これであなたは卒業検定を受けることが出来ます。卒業検定は今週の木曜日の朝ですが……どうされますか?」

 

「じゃあ木曜日の朝で!」

 

「かしこまりました。では手続きをしておきますね。ふふ、無事に卒業出来るように願っていますよ」

 

そう言って受付の女性は効果測定合格の用紙を受け取り、ディレットの卒業検定手続きに取りかかる。

ディレットはそれを見届けると荷物をまとめて自動車学校を後にした。

 

 

 

 

帰宅するとディレットはすぐに入浴と夕食を済ませる。すぐに自室で教科書を広げ、復習に取りかかった。

しばらくするとコンコンと部屋のドアがノックされ、ディレットが返事をすると龍馬がコーラを二本携えて入ってきた。

 

「邪魔するぜ。ほら、差し入れだ」

 

龍馬は持っていたコーラをディレットに手渡す。

 

「ありがと、リョーマ」

 

コーラのボトルを開けるとプシュッ、という小気味よい音が鳴り響く。ディレットはコーラを口にするとそれを喉の奥に流し込む。

炭酸の刺激が舌と喉を刺激し、よく冷えたコーラが夏の暑さで火照った身体を冷やしてくれる。

はじめはこの"タンサン"というものに慣れなかったが、しばらくするとこの刺激がクセになってくるのだ。

 

「ゲェッップ」

 

「ちょっと、リョーマ!」

 

「サーセン」

 

派手に龍馬がゲップをし、それを見て苦い顔をするディレット。炭酸を摂取するとどうしてもこうしてゲップが出てしまうのだが、もう少し抑えてほしいものだ。

 

「ところで今週卒検だって?」

 

「そうなの。だから今までの復習をしているとこ」

 

「そうかぁ、あともうちょっとだな。頑張れよ」

 

「うん、ありがとうリョーマ」

 

ディレットはそう言って再びコーラを口に運ぶ。

 

「なあ、ディレット。今週バイク免許取得出来たらさ、夏休みにツーリングがてらみんなで福津市の海に行かないか?」

 

「フクツ市へ?」

 

「ああ。実はな、福間海岸の海水浴場には海の家やら民宿やら色々あるんだが、その中のひとつにじーちゃんの知り合いのおっちゃんがやってる海の家があるんだ。そんで短期のアルバイトを募集してるんだけど、今年は応募が全然無いらしくてさ。じーちゃんに"お孫さん達にバイトしてもらえないか"って話が来たんだ。二日間じーちゃんちに泊まり込みになるけどどうだ?」

 

「海でアルバイト?わあ、なんだか楽しそう!」

 

「三日間だけだし、休み取れれば勇斗達も誘って行こうかって考えてたんだ。どうだ?」

 

「とりあえずフクマルのおばさんに聞いてみるね」

 

「わかった。じゃあ都合が合えばまた教えてくれ。あ、卒検落ちるなよ?もうここまで来たらあとは合格まで突っ走るだけだぜ?」

 

「もちろん!絶対に合格するわ!」

 

そう言ってディレットは片手でガッツポーズを見せると再び机に向かい、勉強を始める。

龍馬も邪魔しては悪いとそっとディレットの部屋を去った。

 

 

 

そして試験当日。

 

 

 

ディレットはCB400SFの横に立っている。

いよいよ今から卒業検定が始まる。右手を上げればそこから試験開始だ。まずは乗る前の車体前後の安全確認、次にサイドスタンドを外してブレーキレバーを握りつつ、バイクに跨がる。

ミラーの調整、後方の安全確認をしたのちにエンジンをかける。発進の前に再び安全確認。ようやく発進だ。

課題コースのルートは前日までに頭に叩き込んでいる。大丈夫だ。ルートの間違いはしないはず。ディレットはそう自分に言い聞かせながら徐々に加速していく。

外周を走り、さらなる加速とポンピングブレーキ。速度を20㎞以下まで落としてコーナーリング。その後は坂道に入り込み、坂道の途中で停車して発進。ここまでは順調だ。

外周からコース内側に入り込んで一本橋の前まで来た。

 

「(落ち着け、私……!いけるいける……!)」

 

車体は一本橋に乗り上げ、バランスを保ったままゆっくりと走る。一本橋を無事に走り終えたが、タイムがちょっと早かったかもしれない。

だが、気にしてはいられない。次にスラロームに入り、パイロンを縫って走行する。

 

「(……ここはダメね。時間がかかりすぎてる)」

 

スラロームが特に苦手だったディレットは自分の体感時間でも10秒はかけてしまっていたことに気付く。だが、まだ減点程度だ。転倒や足付きで検定中止になっているわけではない。ここまで来たなら最後までやり遂げるのみ。

障害物による車線変更、踏み切り横断、交差点

、S字はスムーズにクリア。

急制動はちょっと危うかったが、なんとか範囲内で停止。ウインカーを出しつつ外周へ戻る。

最後にクランクだ。ここは直角になった二角の狭い通路になっており、通路の両脇にはパイロンが並べられている。これに触れることなくクランクを抜けきらなければならない。

 

「(ここで最後……!もうちょっと……!)」

 

ギアを1速に落とし、通路に進入。半クラを上手く使いこなし、小刻みにハンドルを動かしながらゆっくり曲がっていく。

 

「(落ち着くのよ私……!焦るな、焦るな……!)」

 

ヘルメット内部で冷や汗を流しながら焦る自分にそう言い聞かせて気持ちを落ち着かせる。そしてーー

 

「(や、やった!)」

 

無事ディレットはクランクを抜け、ゴールへとたどり着いた。

降りる前に前後の安全確認をしてからエンジンを切り、ブレーキレバーを握りつつバイクから降りるとサイドスタンドを立てて右手を上げる。この右手が試験終了の合図となる。

 

「はい、そこまで!お疲れ様でした。あとは他の方の検定と採点が終わるまで待ってね」

 

大野教官がそう言ってディレットにライダースルームに戻るよう促す。

 

「はい!ありがとうございました!」

 

 

 

そして30分後。

 

 

 

「えー、では卒業検定の結果を発表したいと思います」

 

ディレットを含む約10名の卒業検定者のうち8名が別室へ案内された。

 

「おめでとうございます。今この場にいる方は全員合格です」

 

大野教官がにこやかにそう言った。

 

「や、やった!」

 

ディレットは思わずガッツポーズを取る。

 

「では、これから卒業証書を渡したいと思います。既に自動車免許を持っている方は試験場で発行してもらえれば晴れてライダーの仲間入りですね。原付または無免許の方はあと一息ですね。試験場での筆記試験、頑張ってください。皆さん、ここまで本当にお疲れ様でした」

 

卒業証書を渡す大野教官から激励の言葉が卒業生に送られる。

ようやくひとつの山場を乗り越えたディレットは卒業証書を片手に満足顔で家路につくのだった。

 

 

 

 

帰宅後。

 

 

 

「おめでとうディレット!」

 

「ディレットちゃん、やったね!」

 

「さすがあたしの娘やが!一発合格たぁようやったばい!」

 

「ディレット、ゴーカクおめでとう!」

 

龍馬、龍一郎、涼子、ルミナから称賛の言葉が送られる。

 

「えへへ……ありがとう」

 

「あともうちょっとで君もライダーの仲間入りだ。試験場での筆記試験、頑張りなさい」

 

龍一郎はそう言ってディレットに茶封筒を手渡す。中を見ると1万円札が入っている。

 

「試験当日の交通費と免許交付手数料だ。これで試験頑張ってきなさい」

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

龍一郎から贈られた祝い金とも言える受験費用。ありがたく思いつつ、ディレットは1万円札の入った茶封筒をしっかりと握り締めた。

 

 

 

 

そして翌日。

 

 

 

 

ディレットは野間の花畑試験場へと足を運んでいた。

 

「いよいよこれが最後ね……絶対に免許取ってやるんだから!」

 

ディレットは試験場の建物を見上げるとそう意気込みつつ、意を決して試験場へと足を踏み入れた。

原付の時とは積み上げたものと緊張感の比が違う。以前太宰府天満宮で買った学業成就のお守りを握り締め、合格を願う。

卒業翌日に筆記試験に行くと聞いて斎藤一家は流石にたまげたが、「色々覚えているうちに行っておきたい」という彼女の意見を尊重して送り出した。

試験場での手続きを済ませ、教室に案内される。試験開始までの間、教本や問題集をギリギリまで読んで可能な限り脳に情報を叩き込む。

そして"その時"は来た。

試験の概要が説明され、問題集とマークシートと筆記用具が配られる。

 

「それでは、試験を開始します。皆様、始めてください」

 

一斉に周囲の人間達が問題集、マークシートとにらみ合いをする。

普通自動車・自動二輪車は原付と違い、倍の100問が用意されており、90点以上で合格となる。

ギリギリまで勉強したおかげか、走り出したペンは止まらない!

 

 

 

 

かに、思えたが。

 

 

 

 

"徐行とは時速10キロメートル以下の速度の事である。"

 

 

「(ええ!?徐行……!?徐行ってゆっくり行くことよね……!?でもこれ速度なんて書いてあったかな……!?)」

 

早くも引っかけ問題でつまずくディレット。

 

「(う、う~ん……なんだか引っかけっぽい……ここは"×"だ!)」

 

 

 

 

"踏切とその手前50メートル以内は追い越しが禁止されている。"

 

 

「(えっ!?踏切の手前は追い越し禁止だったはずだけど……距離まで覚えてないわ……ええい"◯"にしちゃえ!)」

 

 

 

 

 

"高齢者や小さな子供が通行しているそばを通行する際には必ず一時停止か徐行をしなければならない。"

 

 

「(もう×でいいや)」

 

完全に運まかせの勝負に出たディレット。果たして彼女の試験結果は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、帰ってきた」

 

「ディレット、おかえり!」

 

「おかえり~。どげんやった?」

 

帰宅したディレットを龍馬と涼子とルミナの三人が出迎える。

 

「…………」

 

「え……まさか……」

 

うつむいたままの彼女を見て龍馬は悪い方のシナリオを予想してしまう。

 

「…………じゃーーん!!」

 

ディレットは突然そう言って懐からあるものを取り出した。

彼女が取り出したのは新しい免許証。そしてそこに新しく入った普通自動二輪を表す"普自二"の文字。

 

「免許取れましたー!」

 

「び、びっくりさせんじゃねーよ!!でもやったなディレット!!これでお前も晴れてライダーだ!!」

 

「うおー!!おめでとう!!」

 

涼子はそう叫びながらディレットに抱き付き、抱き締める。

 

「卒検も筆記も一発合格!さすがやないね!やっぱりあんたはあたしの自慢の娘やが!!」

 

「りょ、リョーコさん……苦しい……」

 

「それに引き換えこのバカ息子はよーと勉強しとらんもんやけ一回筆記で落ちたけんね。あんた車とかない世界から来た人間に同じ試験で負けて恥ずかしくないとね?」

 

「お、俺のことはいいだろ。それより今日はお祝いだな!」

 

「そうやね!ディレットちゃんがライダーになった日や!パーッと祝わなね!」

 

 

その後龍一郎も帰宅してディレットの合格を知り、今日は家族で外食に出掛けることになったのであった。

 

 

 

 

翌日の土曜日。

ディレットは起床して洗顔と朝食を済ませると龍一郎が「着替えてガレージに来なさい」と言った。

新しく建てたエレベーター付きの二階建てガレージ。そこへ行くと龍一郎と一緒にマックスモータースの店長・冴島が待っていた。そしてその前にはカバーをかけられた物体。

 

「おう!おはよう、お嬢ちゃん!」

 

「サエジマさん、おはようございます。どうしたんですか?」

 

「いいから黙ってそのカバーを取ってみな」

 

「?」

 

龍一郎も黙って頷き、カバーを取るよう促す。ディレットがカバーを取るとそこにはーーーー

 

「!!!!」

 

カバーの下からはかねてからディレットが欲しがっていたオフロードバイクのカワサキ・KLX250が姿を現した。

緑色の美しいピカピカのボディがガレージの電光を反射してディレットの顔を映し出している。

 

「こ、これ……!!」

 

「バイクは買ってあげるって言ったろう?……改めておめでとう、ディレットちゃん。これで君も立派なライダーだ」

 

「あ、ありがとうございます!!何から何まで……本当に何てお礼を言ったらいいのか……」

 

「この日のために整備やら手続きやらあらかじめ終わらせといたんだ。大事に乗ってくれよ?」

 

「はい!!」

 

 

 

 

そして一時間後。

 

 

 

 

「わーい!!」

 

「"おーい、ディレット!!あんまり飛ばしすぎるな!!"」

 

「わかってるー!!」

 

ヘルメットに仕込まれたヘッドセットから龍馬の声が。彼女は龍一郎と龍馬と共にツーリングに来ている。

車高が高くやや乗りにくいオフロードバイクを早くも乗りこなし、彼女は颯爽と走り続ける。

ようやく憧れの自動二輪に乗ることができた。

長いようで短かった免許取得までの道のり。それが今ようやく報われたのだ。

 

 

さあ、行け。新たなライダーよ。

夢のバイクライフが君を待っている。

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