王城に着いた龍馬達はソフォス皇帝とメイド達に案内され、城の中へと入る。
城内はまさしく中世ファンタジー世界のお城といった内装で、龍馬達は感嘆の声を上げる。
「すげー……!マジでファンタジーの城だよ……!」
「私も入るのは始めてだな……」
「すごく綺麗ね……」
城の廊下を見回しながら龍馬達はソフォス皇帝に案内され、歩いていく。
中でもファンタジー好きの勇斗は城の装飾品や兵士達の装備に興味深々であった。
「モノホンのロングソードにスピアや弓にメイス……そしてアーマー……ここでDARK S◯ULSごっこやりたいな」
「おいゴリラやめろ◯の意味無いぞ怒られる」
「人間性を捧げよ」
「中庭で篝火焚いたりすんなよ追い出されるぞ」
勇斗が人間性を捧げたがっているとそのうちある扉まで辿り着き、その先の広い応接間に案内された。
「こちらでお待ちくだされ。じきにアルバートやモニカも来るでしょう」
応接間の椅子に腰掛け、一行はアルバート達を待つことにした。
待っていると再び懐かしい顔が現れた。モニカとアルバートだ。
「ごきげんよう皆様!お久しぶりですわね!」
「本当にお久しぶりです皆様。その節はお世話になりました」
二人は一礼する。
「アルバートさん、久しぶりやね!元気しとった?」
「リョーコさん、お久しぶりです。ええ、おかげさまで」
「そーね、そりゃ良かったたい」
リョーコとアルバートはお互いにハグをし、再会を喜ぶ。
「早速ですが、私から皆様にお伝えしたいことがあります。ルミナさんの件に関してです」
アルバートは報告書を手に"ルミナの故郷を探す"という斎藤一家の第一の目的に関して詳細に語る。
「まず、ピクシー族が住むとされている場所……"花の里"と呼ばれる場所ですが、残念ながら場所は秘匿とされており、陛下のような一国の王ですら容易には知り得ません」
ピクシー族は非常にか弱い。強い魔力を持ってはいるものの、大軍に押し寄せられれば簡単に里は奪われてしまう。
そのため、ごく一部のギルドや行商人のみがピクシー族の集める加工した花の蜜を取引するために花の里を訪れることが出来るらしい。
だが先ほどの理由の通り、商人達の間ではピクシー族を悪意のある者達から守るために厳しいルールがあり、たとえ相手が皇帝であろうとも簡単には場所を教えてくれない。それ故にピクシー族の花の蜜やそれを使った菓子は皇室や貴族達に高値で取引されている。
「さらに厄介な事にピクシー族の花の里に入る道中の森にはピクシー族の長によって強力な幻術がかけられていて、特定の行き方を知っている者やピクシー族に認められた者しか入ることができません。行き方を知らなければいつの間にか森を出てしまうか森で迷うかのどちらかでしょう。
よって人海戦術を駆使した森の探索も不可能です」
「そんな……」
それを聞いて一番がっかりしたのは他でもないルミナ本人だ。
ようやくここまで来たのに。もう少しで両親と会えると思ったのに。
「ルミちゃん、あんた自分が住んどったんやけんなんか心当たりないと?」
「すみません……私は森から出たことがなくて……何もわからないんです……」
ルミナによれば花の蜜を取るために里から森に仲間達と出かけたところで何者かに捕まってしまったという。それから先は意識が混濁して覚えていないそうだ。
「ですがご安心ください。現在も我が国の兵士達が情報収集にあたっています。その中で有力な情報を耳にしました」
アルバートは次の報告書に目を通す。
「我が帝国の東に位置するヴィヴェルタニア王国で花の里への行き方を知っているとされる行商人がこちらへ出発したとの情報を得ました。現在、そのキャラバンに接触するため街道を兵士達が捜索中です。万が一のために帝都の入口でも検問を行ってキャラバンを探しています。報告があるまで今しばらくお待ちください」
希望が見えてきた。
これでそのキャラバンから情報を聞き出せればルミナを故郷に帰すことができる。
「ただ、しばらく時間がかかるのも事実です。なので……どうでしょう?しばらくこの帝都を観光してみるのは?ここは良い町ですよ」
「それは名案ね、アルバート!せっかく帝国まで来てくださったんですもの!色々ご案内したいわ!」
「こらこら。姫様は学業に武術の稽古があるでしょう?」
アルバートの言葉通り、報告があるまではむやみに動いても仕方ない。龍馬達は情報を待つことにし、その間に帝都を見て回るのもいいだろう。せっかく異世界へ来たのだから。
「よし!じゃあ、帝都に出てみようか」
龍一郎はそう言って立ち上がる。メイド達の案内で彼等は客室へと案内され、そこで大きな荷物を置いてから再び車へ戻る。
しかし大人数で固まって動いても仕方がないので龍一郎と涼子、ルミナの三人は車に、龍馬達はバイクに乗って別行動を取ることにした。
帝都城下町。龍馬達は再びバザー通りに戻ってきた。
先ほど訪れた雑貨屋カムランが気になったので来てみたのだ。ちなみに千春は勇斗のセローの後ろに乗っている。
走る三台のオフロードバイクを見て再び驚く町の人々の視線を受けながら一行はバイクを止めて雑貨屋カムランに入店する。
「こんちわー」
「いらっしゃい!お……!ニホンの方かい?」
店内に入るとカウンターの向こうで帳簿を整理する髭を生やした茶髪の男性の姿が。おそらくこの人がマルタの夫のキースだろう。
「あら!皆さんは先ほどの!」
「どーも、こんちゃーす」
勇斗達も龍馬に続いて入ってくる。
「あ!ばいくのお兄ちゃんたち!」
奥からシャルルやマルタも出てきた。
マルタは先ほどの経緯をキースに説明し、お互いに自己紹介した。
「そうでしたか。わざわざうちに来てくれてありがとうございます。ようこそ、雑貨屋カムランへ。衣類・日用品・食品・その他雑貨やニホン製品も取り揃えていますよ」
キースは店内を案内する。なるほど、棚の一角に確かに醤油やみりんなどの日本製の調味料やTシャツにティッシュペーパーなどの製品も多少置いてある。
「へえ。色々あるんですね」
龍馬は棚を見ながら瓶に詰められた香辛料などを手に取る。
「ニホンのおかげで砂糖や香辛料が安く、多く揃えられましてね。おかげさまで帝国民の食生活が豊かになりました」
砂糖と香辛料は本来ならばこの世界の人々にとってはかなり貴重なものだ。特に香辛料は非常に手に入りにくく、貴族や王族ですら滅多に口に出来るものではない。
だがこの世界が日本と繋がったおかげで砂糖や香辛料を安く大量に輸入出来るようになり、庶民達の間にもそれらが広まった。
「ですが最近ちょっと悩みがありましてね……」
「と、言うと?」
「一部のニホン製調味料が売れ行きが芳しくなくて……特にショーユとミリンは"辛すぎる"、"酸っぱすぎる"と大変な不評でして……在庫を抱えたままほとほと困っているのですよ……」
キースはがっくりと肩を落とす。
日本製品のブームを受けて売れるに違いないとキースは独自に日本の雑貨を調べて仕入れた。
ティッシュペーパーやTシャツなどは飛ぶように売れたが、調味料である醤油とみりんだけは"辛い"、"酸っぱい"と不評で大量の在庫を抱えていて、このままでは棚でホコリを被るのを待つだけだ。
しかし料理をしない龍馬達では力になれそうもない。というか料理が出来たとしてもわざわざ異界まで来て醤油なんか買って何の意味があるのか。
「うーん、こっちの人達は和食のレシピ知らなさそうだしね。それだと使いどころが難しいわ」
千春が棚にある醤油のひとつを何気なく手に取る。
醤油は入れすぎると非常に辛くなってしまう。和食にかかせない醤油やみりんは砂糖や酢などと合わせて調理されることが多いが、さじ加減を間違えれば一気に味が狂ってしまう。この世界の住人達にはハードルが高いかもしれない。
「もうひとつが……おっと、噂をすればだ。シャル、奥に隠れてなさい」
キースがシャルルに店の奥に行くように言うと、直後に店にこれでもかというほど豪華な装飾品を付けた、いかにも金に汚そうな男がガラの悪い男二人を連れて入ってきた。
「やあ、キースさん。いい天気ですな。ここは日差しもよくて商売向きだ。さぞ儲けていることでしょう」
なんだこいつは。やけに人を見下した態度を取るその男に龍馬は不快感を覚えた。
「……ラオグリッドさん、何のご用ですか?」
「決まっているでしょう、立ち退きの件だ。この店の建物は立地もいい。商売をするには絶好の場所だ。今日こそこの土地を譲っていただきますよ」
「帰ってください。今はお客様が来ているんです」
「何をそんなに拒む必要があるのです?私は何もタダで譲れとは言っていない。代わりにそれ相応の金額を払おうと言っているのですよ」
「金額の問題ではないんです。私はこの場所で家族と共に商売をして暮らしたい。それだけです」
「ふん、強情な方だ。……おい」
ラオグリッドと呼ばれた男が呼び掛けると二人のガラの悪い男が拳を鳴らしながらこちらに近付いてくる。
「おい、カムランさんよぉ。大人しく言うことがいいぜぇ?さもなきゃ……」
「やめなさい!!」
突如間にマルタが割って入り、男達を制止する。
「それ以上お店で好き勝手するなら衛兵を呼びますよ!!」
「おーおー、威勢のいい奥さんだ。ラオグリッドさん、どうします?」
「好きにさせてあげなさい。我がラオグリッド商会の力を持ってすれば、多少の案件など揉み消せる。衛兵を呼びたければ呼べばいい」
ラオグリッドは屁でもない、と言わんばかりに自信満々にそう言った。
「だってよ?奥さん……へへへ」
「やめろ!妻に手を出すな!」
今まさにマルタに手を上げようとしたその瞬間、男の手を龍馬が掴んだ。
「あぁ~ん?なんだテメェは?ぶはっ!!」
男は間髪入れずに顔面に凄まじい拳を受けて店の外まで吹き飛ぶ。
「てっ、テメェこの野郎!!」
片割れが龍馬に襲いかかるが、鳩尾に凄まじい蹴りを受けてこれまた店の外に文字通り叩き出される。
龍馬は拳を鳴らしつつ、店の外にゆっくりと出る。
「黙って聞いてりゃ好き勝手やりやがってクズどもが。どこの世界にもクズはいるもんだな」
「てっ、テメェぇえ……!!」
「このガキがああ!!」
一人が起き上がり、拳を振りかぶって龍馬に襲いかかる。
だが龍馬はそれを難なくかわして背後に回ると両拳を後頭部に叩き付けて男を地面に叩き伏せた。
「くっ……殺してやるううう!!」
もう一人の男が怒り狂い龍馬に突進するが、龍馬に達する前に突然後ろから頭を何者かに掴まれて身動きが取れない。
「がっ!?はっ、離せ!!」
男を掴んでいるのは勇斗だ。凄まじい握力で頭を掴まれ、頭が激痛に襲われる。
「おらあぁ!!」
勇斗はそのまま勢いよく押さえつけ、男の顔面を地面に思いきり叩き付けた。
ゴリッ、という嫌な音とともに男の鼻から溢れた血が地面に広がっていく。
男達は顔を押さえながら悶絶し、地面でのたうち回っている。
「さて……」
龍馬と勇斗が店内にいるラオグリッドを睨み付ける。
「次はアンタが選ぶ番だぜ、おっさん」
「大人しく帰るか、それとも……後ろで転がってるあいつらみたいになるか……どっちがいい?」
「ヒッ……!!」
さすがのラオグリッドもこれには恐怖を覚えたのか、男達をほったらかして慌てて店から逃げ出していく。
「お、覚えてろよ!!この借りは必ず返すからな!!」
「バーカ、おととい来やがれファッキン成金野郎が」
捨て台詞を吐きながら去っていくラオグリッドに対し、龍馬はファックサインでさらに挑発した。
「さすがリョーマにハヤト!ケンカなら負けなしだね!」
「み、皆さん助かりました。ありがとうございます。いやあ、驚きました。とてもお強いんですね」
「危ないところを助けていただき、ありがとうございました。なんとお礼を言っていいか……」
カムラン夫妻は何度も頭を下げて龍馬達に礼を言う。
「いいですよ、気にしなくて。な?勇斗」
「おう、あんなの日常茶飯事だしな」
「あんたらどんだけ喧嘩してるのよ……」
やれやれと呆れ顔の千春。実際のところここ最近、二人を倒して名を上げるだのナントカ校のテッペンに立つだのと宣う不良漫画の読みすぎとしか思えない輩から絡まれることも多かったが、その度に軽くあしらってきた。どうしてヤンキーというのはあんなに喧嘩をしたがるのだろうか。そもそも学校のアタマになるなどして一体何が楽しいのか。龍馬達には理解できなかった。
「キースさん、あいつら一体何なんです?」
「ああ、あいつはデレック・ラオグリッドと言いまして。この辺では一番力を持っているラオグリッド商会の取締役なのですよ。彼等は自分達が利益を独占するためにうちのように立地のいい土地を無理矢理立ち退かせたり、流通経路の独占をしたりとやりたい放題なんです」
ラオグリッド……そう言えば前にディレットがその名を口にしていた事を思い出す龍馬。あんまり評判の良くない人間らしいが、事実のようだ。
「私のように立ち退きを受け入れない人間にはああやってゴロツキや傭兵を雇って嫌がらせを行ってくるのです。中にはいわれもない悪評を流されて店をたたみ、帝都を出ていってしまった人間もいます」
「ひでぇな……」
どうやら噂以上に悪どい人間のようだ。だがこれだけ悪事を働いていれば衛兵が黙っていない気もするが。
「それが……どうやらヤツは色々な場所に太いパイプを持っているらしく、金の力でもみ消しているのですよ。しかも狡猾でなかなか尻尾を掴ませない。だから法もヤツを裁けない状態なのです。噂によれば帝国で禁止されているはずの奴隷の売買にも手を染めているとの話もあります」
裏でも表でもかなりの力を持っているため、誰も抗えないのが現状らしい。おかげで帝都での商売が最近はやりにくくなってきているとか。
「すみません……お客様にこんなことをお話しても仕方がないですよね。……湿っぽい話になってしまいました。そうだ、お礼にこれを」
キースはカウンターの下から木箱を取り出した。箱を開けると青い液体が入った小瓶が入っている。
「これはブルーポーションです。旅人や冒険者は必ず所持しているのですよ。病気や怪我によく効きます。皆様はご旅行のようですので万が一の備えとしてお持ちいただくと安心かと」
「ポーション……いいねえ、ファンタジーっぽくなってきたじゃんか!」
勇斗は真っ先にポーションを受け取ると中身や瓶を満足そうに眺めている。ファンタジー好きの血が騒ぐのだろう。
こちらの世界では常備薬として一般的なブルーポーションだが、それを見て異常にテンションの上がっている勇斗を見てキースは困惑する。
「り、リョーマさん、一体ご友人はどうしたのですか?」
「あー、気にしないでください。ポーションでも治らない病気みたいなもんです」
「は、はあ……」
その後、龍馬達はキースからお礼としてブルーポーションをそれぞれ2本ずつ貰うと礼を言って店を出た。
龍馬達はゆっくりと町中を走りながらヘッドセットでやり取りをする。
「"ねえ、みんな!見せたいところがあるんだけどいいかな?"」
ヘッドセットから聞こえてきたのはディレットの声だ。
「"特にハヤトは喜ぶかもね!"」
「"おっ?なんだなんだ?一体どんな場所なんだ?"」
「"着いてからのお楽しみだよー!"」
ディレットが先頭になり、帝都を駆け抜けていく。
人々の驚きの視線を受けながら三台のオフロードバイクは帝都の北側を目指すのだった。
「ここは……」
バイクをゆっくりと止める龍馬達。
「"お待たせ!ここはレクシオン教団の巡礼地・レクシア大聖堂だよ!"」
目の前には白く美しい巨大な大聖堂と神殿が広がっている。
ここは戦いと希望の女神アレクを祀る、レクシオン教団が管理する場所らしく、帝都の有名な観光スポットでもあるらしい。
何本もの巨大な柱に女神アレクを支えるといわれる女神達の女神像が祀られている。
「"うおー!すっげー!なにこの俺の性癖に突き刺さる場所!?最高なんですけど!?"」
勇斗は興奮し、ヘルメットを脱ぐのもエンジンを切るのも忘れてバイクから降り、スマホを構えて写真を撮る。
「"やっぱりハヤトにはピッタリの場所だったね!ね、リョーマ?"」
「確かにな。猫にマタタビとはまさにこのことだな」
勇斗は夢中で写真を撮りまくっている。最もあの外見では猫というよりゴリラだし、マタタビというよりはバナナだ。"ゴリラにバナナ"と言い換えた方がしっくりくるかもしれない。
「すごく綺麗な建物ね。見てるだけで心が洗われそう……」
千春も勇斗のセローから降りて写真を撮っている。龍馬もスマホを構えた。
何枚か写真を撮っていると大聖堂から白い僧服に身を包んだ美しい紫色の髪をした女性が出てきた。周囲の人々もあまりの美しさに彼女に見とれている。
「おい、見ろよ……ノエル様だ……!」
「ああ、ノエル様……なんとお美しい……」
男女問わず視線を釘付けにするその美しさに神々しさすら感じた龍馬も思わず見とれてしまった。
「ノエル様!」
ディレットが女性に駆け寄る。
「……えっ!?え……ええと……どちら様でしょうか……?」
女性が困惑している。それもそのはず、ディレットはヘルメットを被ったままだ。
「あ、そうか……よいしょっと……ふぅ、お久しぶりです!ノエル様!」
「あら……!あなたはディレットさん!お久しぶりですね、元気にしていましたか?」
「はい!おかげさまで!」
「そうですか。ふふ、それはよかった。……あの不思議な乗り物に乗った方々はお友達ですか?」
「ええ、ニホンの。……みんな、こっちへ来て!」
ディレットの呼び掛けで龍馬達が集まってくる。皆、ヘルメットを脱いで素顔を見せた。
「みんな、紹介するね!こちらはレクシオン教団司祭のノエル様!」
「初めまして。このレクシア大聖堂で司祭を勤めさせていただいております、ノエル・クロワーナと申します」
ノエルは丁寧に頭を下げて一礼する。
しかし見れば見るほど物凄い美人だ。そういえば以前ディレットが彼女について言っていたような気がする。なるほど、これだけの美しさなら彼女目当てに来る人間がいるのも頷ける。
「ディレットさん、異界のニホンという国へ行っていたという噂は本当なのですか?」
「ええ。ニホンへ留学しに。そこでバイクの免許も取っちゃいました!イェイ!」
「そうだったのですね……ところで"ばいく"……というのは皆様が乗っているあの鉄の馬ですか?」
「そうです!馬よりも早いんですよー!乗ってみます?」
「おい、ディレット。お前まだ免許取り立てだろうが」
突然危ない発言をしたディレットを龍馬が慌てて止める。
「ここニホンじゃないからセーフ」
「法律的にはセーフかもしれんが、技術的にはアウトやぞ」
二人乗りというのは想像以上に体力と技術を使う。いくら法律的にセーフでもまだ免許取得から日が浅い。スッ転んでノエルに大怪我でもさせたら一大事だ。
「ふふ、お気持ちは嬉しいですが今回は遠慮しておきます。さあ、立ち話も何ですからどうぞ奥へ」
一行は彼女の案内で大聖堂の奥へと入っていく。
龍馬達は自己紹介をしつつ、青い絨毯が敷かれた回廊をしばらく歩くと大きな礼拝堂へと出た。
礼拝堂の奥には巨大な剣を持った一際大きな女神像が祀られていた。
「こちらがどなたでも立ち入り可能な礼拝堂でして、あれが女神アレク様の像です。この礼拝堂はどなたでも入れるので観光の人々も多いのですよ。もちろんニホンの方も」
「でけー……!」
アレクの像を見上げてその大きさに圧巻しつつ、勇斗はスマホを構えて写真を数枚撮る。
「いいもん撮れた!これは創作がはかどりそうだな!」
「あの……ハヤト様?ニホンの皆様は皆、そのような光る板を持ってらっしゃるようですが、それは?」
「え、これ?スマートフォンですけど?同じ機械を持っている相手となら離れた場所から通話したり風景を記録したり出来るんですよ」
「まあ!そうだったのですね!あの……少し見せてもらってもいいですか?」
「どうぞ!」
勇斗は先ほど撮影したアレク像を画面に映し、スワイプでいくつかの写真を見せる。
「なんと不思議な道具でしょうか……これならいつでもどこでもアレク様の神々しいお姿を見ることが出来ますね」
ノエルはふふ、と笑った。言動の全てが美しい。まさに理想の女性像だ。
「すぐ暴力振るう誰かさんとは大違いですね」
「……今なんつったコラ」
龍馬の一言で頭の血管が浮き出た千春が龍馬の耳を掴んで引っ張り、龍馬が悲鳴を上げる。
「ノエルさん、俺達帝国に来たばかりでこっちのこととか全然知らないんスけど、そもそもアレク様ってどんな神様何ですか?」
「まあ、ハヤト様!もしかしてあなたもレクシオン教への入信をご希望で?」
「い、いえ。単なる興味です」
「そ、そうですか……それは残念です……ですが、そんな方々に女神アレク様の祝福を伝えるのも司祭である私の努め。喜んでご説明させていただきますね」
ノエルはアレクの像を見上げると、話し始めた。遥か古の時代の伝説を。
ーーーー遥か昔、魔導大戦と呼ばれる人間界・魔界・神界をも巻き込んだ壮大な戦いがあった。
戦いは熾烈を極めた。魔界の軍勢と古のドラゴンが人間界に侵攻し、神は人間達に味方した。
女神アレクは幾多の女神達と共に戦場を駆け抜け、人間達に希望を与えた。
アレクは戦いの女神。神界で作られる武器も彼女自身が鍛えたものらしく、彼女が作った武器は天を切り裂き、大地を穿つほどの力があった。
数十年に及ぶ魔導対戦はその後人間と神の勝利に終わり、古のドラゴンと魔界の軍勢、そして魔界が作り出した無人の魔導兵器は遥か北の大陸に封印されたという。
女神アレクはその後、人間達に数多の神具を授け、また全ての命を祝福する希望の女神として人間達に信仰されたという。
「……これが女神アレク様の伝説です」
「ええ話や……ありがたやーありがたやー……」
いつの間にかファンタジー好きの勇斗は地面に膝を付き、ノエルに向かって泣きながら手を合わせていた。
「あの……リョーマ様。ハヤト様はどうされたのですか?」
「あー、気にしないでください。神の祝福でも治らない病気みたいなもんです」
「???」
その後千春がゴリラ、いや勇斗の髪を引っ付かんで無理矢理立ち上がらせる。
「ほらゴリラ野郎立ちなさい!迷惑でしょ!」
「あぁん、まだお話したいー!」
勇斗はそのまま千春に外まで引きずられていく。
勇斗達が見えなくなったのと入れ替わりに礼拝堂の奥から派手な僧服を身にまとった男性が現れた。
「おや、ノエル司祭。お客様かな?」
「あっ、大司教様。……はい、こちらはニホンから観光に来てくださいました、リョーマ様です。リョーマ様、こちらはレクシア大聖堂の大司教を勤めております、ヴォルティス大司教様でございます」
「初めまして。ご紹介に預かりました、大司教のヴォルティスでございます。わざわざニホンから?それはありがたいことです。アレク様もきっとお喜びになりますよ」
「は、はあ……どうも」
一礼するヴォルティス大司教を前に龍馬もとりあえず頭を下げる。
だがこの時龍馬は心の中で言い知れぬ不信感のようなものを感じていた。
「……ディレット、そろそろ行こう。勇斗達が待ってる」
「え?う、うん」
「ノエルさん、ヴォルティス大司教様、ありがとうございました。またお時間があれば寄らせていただきます」
「そうですか。それは嬉しい限りです。是非またいらしてください。私もノエル司祭もお待ちしておりますよ」
ヴォルティス大司教はニコリと笑みを浮かべた。
その後、ノエルとヴォルティスに外まで見送られる。
龍馬達はバイクに跨がり、エンジンをかけて発進する。
こうして龍馬達はレクシオン教団の拠点であるレクシア大聖堂を後にした。
「"そろそろ腹減ったなぁ"」
ヘッドセットから勇斗の声が聞こえる。確かに時間的にはもう昼である。太陽が真上に来ると同時に龍馬達の腹の虫も鳴り出す。
「"あ!それならいいとこ知ってるから行こうよ!この近くだよ!"」
再びディレットの案内で龍馬達は彼女が先導する方向にバイクを走らせる。
「"何て場所なんだ?"」
「"『竜の髭亭』って酒場だよ!"」