「竜の髭亭っていうと……前にディレットが言ってたあの酒場か?」
「"そうだよ!よく覚えてたね?"」
「まあな」
龍馬達は今、昼食を取るためにディレットの案内で料理が美味いと噂の酒場"竜の髭亭"へと向かっている。
「"あれ?"」
目的地の竜の髭亭が見えてきた時、ディレットはあることに気付いた。店のすぐ横にランドクルーザーが止まっている。
「"リュウイチロウさん達の車だ!ここに来てたんだね!"」
何という偶然だろうか。バイクを近くに止めた一行は店へと入る。
「おかみさーん!こんにちはー!お久しぶりで……す……?」
店に入ったディレットは店内の異様な事態に気付く。何人もの男達が床に突っ伏して倒れ、奥ではジョッキを抱えた涼子が酒をグビグビと飲み干している。
「な……なにこれ……」
「あっ……い、いらっしゃいませ……ってあれ!?ディレットちゃん!?」
白い三角巾を頭に付けた給仕であろう栗色の髪の少女がこちらに気付いた。
「レベッカちゃん!久しぶり!」
「凄い久しぶりだね!急に来なくなったから心配してたんだよ!?」
「えへへ……実はニホンに行ってました」
「ニホンに?あっ、ニホンといえば……あそこでお酒飲んでるニホン人の方々が来てから大変で……」
レベッカと呼ばれた給仕の少女は後ろをチラリと見る。
「つまらん男共やな!あー!?もうおしまいか!!」
「りょ、涼子!真っ昼間から飲み過ぎだぞ!」
テンションの上がった涼子を龍一郎が必死に止めている。ディレットは龍一郎に駆け寄り、事情を聞いた。
「リュウイチロウさん!一体何があったんですか!?」
「あっ、ディレットちゃん。実はさ……」
数時間前、龍馬達と別行動を取った斎藤夫妻とルミナは車で反対側に行っていた。
出発前、龍一郎は早めの食事を取ろうと近くにいたアルフォンスを呼び止めておすすめの場所がないか聞いてみたのだ。
「ああ、それでしたらここから北東の方角に"竜の髭亭"という酒場がございます。地元の人々も冒険者も訪れる評判の高い酒場ですよ。私も時々お世話になっています」
アルフォンスが教えてくれた道の通りに帝都を北東に向かい、目的の店を見つけた。
驚く人々の視線をよそに龍一郎は車を脇に止め、店へと入っていく。
まだ昼前だからだろうか。人はまばらであり、その中に丁度良さそうなテーブルを見つけて座る。
「ほー。いいとこやん。中世にタイムスリップした感じで」
「タイムスリップというか異世界なんだが」
確かにいい雰囲気だ。いかにも中世の酒場という感じでこれはいい店を聞けたと龍一郎は内心ワクワクしていた。
「いらっしゃいませ!竜の髭亭へようこそ!ご注文は?」
三角巾を付けた茶髪の給仕の少女が注文を取りにやってきた。
「ああ、すみません。こちらの店は何がオススメなのですか?」
「オススメですか?当店のオススメはアルカ港で獲れたばかりの新鮮な魚にブラウンボアの肉がたっぷり入ったシチューです!」
「ブラウンボア?」
「ブラウンボアは茶色い毛並みを持つ獣です。肉が柔らかくて美味しいんですよ~」
ブラウンボアは森や山の麓の草原に生息しているイノシシに似た獣だ。
こちらが危害を加えない限り、非常に大人しくシルワ大陸の各地で見かけることができる。
見た目はイノシシだが、地球のイノシシと違って身は柔らかくてクセのない味だ。
また、毛皮は鎧の下地あるいはそのまま安価なレザーアーマーの材料として利用される。
「じゃあ、オススメの魚料理とそのブラウンボアのシチューを三人分お願いします。あ、一人分は少なめで」
龍一郎はルミナが食べきれる量になるように一人前の量を少なめに注文する。
「かしこまりました!少々お待ちください!」
少女は注文を受けると店の奥へと入っていく。
「ルミちゃん、大丈夫ね?」
「はい。いつまでも落ち込んでいられませんから」
「あんた小さいのに強い子やね。大丈夫、絶対あたし達がお父さんとお母さんに会わせちゃるけん」
「リョーコさん……ありがとうございます!」
「うん、やけん今は待っときー。……さあ、その前にみんなで腹ごしらえするばい!」
「お待たせしましたー!」
雑談をしていると少女が料理を運んできた。
「サマージの塩焼きにブラウンボアのシチューです!」
木の皿の上に大きな葉が乗せてあり、その上で焼きたてのサマージの魚がジュージューと音を立てている。
もうひとつの皿では大きな肉の入ったブラウンボアのシチューからいい香りが漂っている。
「残りもお持ちしますね!」
その後残りの分も運ばれ、龍一郎達は料理に手をつける。
まずは魚。サマージという魚だが、見た目は大きなアジといった感じだ。
「うん、うまいな!」
一口食べてみるとアジに近い風味がある。脂もよく乗っていてうまい。
「お、うまい。サンマに似た味やね」
龍一郎はアジに近いと思ったが、涼子はサンマが一番近いと感じたらしい。ルミナも黙々と食べている。
「レモンかかぼすが欲しいな」
「は?これは大根おろしに醤油やろ」
サマージに何が合うかをやり取りしつつ、次にブラウンボアのシチューに手を伸ばす。
熱々のシチューによく煮込まれたブラウンボアの肉は確かにクセがなく柔らかい。豚肉のブロックのような感じだ。
野菜も甘みがあって非常にうまい。
「うまいな。ここを教えてくれたアルフォンスさんに感謝しなければ」
「そうやね。城に戻ったらお礼を言っとかなね」
三人が食事を取っていると酒場のドアが開き、ガタイのいい男達が三人入ってきた。
「おい、ねーちゃん!!酒だ、酒!!エールを三つ頼むぜ!!」
「は、はい!!少々お待ち下さい!!」
男達が怒鳴るようにエールを注文すると少女は慌ててエールを取りに店の奥へと向かう。
男達はテーブルに付くと何やら話し始めた。
「それにしてもよぉ……今日はついてねぇぜ……ちょろい仕事だと思ったのによ……」
「ああ、全くだ。なんなんだあのガキども……」
「ガキ?お前らその顔の怪我、ガキにやられたのか?だっせぇな!」
「ガキと言ってもありゃただもんじゃねぇ。恐ろしく喧嘩が強かった。まったくついてねぇぜ、ほんとによぉ……。おい、ねーちゃん!!エールはまだか!?」
顔に怪我を負った男の一人がイライラしながらテーブルを叩く。給仕の少女は慌ててエールの入ったジョッキを三つ持ってくる。
「す、すみません!お待たせしました!エール三つです!」
男達は木のジョッキを受け取り、エールを飲み干す。するとーー
「……まずいエールだな、ねーちゃん」
「おうよ。客にこんなエールを飲ませるなんざ、どんな神経してんだここの店は?」
三人のうち顔に怪我を負った二人が少女に難癖を付ける。何者かに負わされた顔の怪我が原因でムシャクシャしていた男達は何か憂さ晴らしをしないと気が済まなかった。
「そ、そんな!うちのエールはちゃんとしたーー」
「ごちゃごちゃうっせーんだよ!」
「きゃっ!!」
男の一人が空になったジョッキを少女に向かって投げ付ける。ジョッキは少女の肩に当たり、少女が悲鳴を上げる。
「言い訳がする暇があったら、上物の蜂蜜酒くらい詫びに持ってこいや!!」
男は今にも泣き出しそうな少女に向かってさらに怒鳴り声を上げる。その時ーーーー
「しゃーしぃ」
女性の声が聞こえた。声の主は……涼子。
「ああ!?なんだオバサンよぉ!?わけわかんねぇ言葉使ってんじゃねぇぞ!!」
涼子の一言に男は更に激昂する。
「"やかましい"って言ったんたい、この
「お、おい……!涼子……!」
「……俺らに喧嘩売るたぁいい度胸してんなぁ、オバサンよ?……おらぁ!!」
三人のうち。怪我を負っていない男はニヤリと笑ってこちらに背を向けて座る涼子の後頭部に向けてジョッキを投げ付ける。
後頭部への直撃は免れないかと思えたが、涼子は背を向けたまま片手でジョッキをキャッチする。そしてーー
「ふんっ!!」
「ふがっ!?」
それを凄まじい勢いで投げ返す。男の鼻っ面にジョッキが直撃し、ジョッキが粉々に割れて男は地面に倒れて伸びてしまった。
「「!?」」
「あたしはねぇ……この世に三つ嫌いな人間がおる。ひとつは弱い者いじめをするやつ、ひとつは人の飯をまずくするやつ、そしてもうひとつが……女に手ぇ上げる男や!!」
テーブルを叩いて立ち上がる涼子。
「お、おいやめろ涼子!」
「あんたは黙っときぃ!!……おいこら、このブサイク共、そんなに上等な酒が飲みたいんか。なら……」
涼子は腕を捲り、男達のテーブルに座る。
「あたしと腕相撲で勝ったら酒でも何でもおごっちゃるわ。おら、早よ来んかい」
「ああ……?ナメてんのかババア?」
「来るのか、来んのか、どっちなんや。早よせえや。それともこんなババアが怖いんか?」
男は殴りかかろうかと思ったが、一度冷静になって考えた。
相手は中年の女だ。腕も大したことはなく、特別力があるようには見えない。
なんだ、簡単じゃねぇかーーーー男はそう考えた。こんなババアを腕相撲で倒してタダ酒が飲めるのならいくらでもやってやる。
「クク……いいぜ、その勝負に乗ってやる。その言葉、忘れるんじゃねぇぞ」
「忘れるかアホ。そんかわり、あたしが勝ったらお前ら金払って店から出ていけよ」
「いいだろう」
「おう!やっちまえ相棒!腕をへし折ってやれ!」
涼子と男は手をがっしりと握り合い、勝負の準備をする。
今思えばーー男達は連れの一人が涼子に倒された時点で逃げるべきだったのだ。
「始め!」
男の一人が勝負開始の合図をする。
「おらぁ!!」
男は涼子の腕をへし折ろうと思い切り力を込める。だがーーーー
「(!?動かねぇ!?な、なんだこれは!?)」
どれだけ力を込めても目の前の女の腕はビクともしない。まるで巨大な岩のように。
「どうしたシャバ憎。はよ力入れんかい」
「ぐ、ぐぬぬ……!!」
「おい、相棒!?何遊んでんだよ!?」
血管が切れそうな勢いで渾身の力を込めるが、全く女の腕は動かない。
「……しょーもない男やのう。つまらんわ。オラァ!!」
涼子が力を込めて腕を振り下ろす。男の腕はテーブルに叩きつけられーーーーテーブルを破壊して石の床まで叩きつけられた。この瞬間男は気を失った。
「……え……えぇ……!?」
残った最後の一人の男は目の前の事態に頭が追い付かず、オロオロとするばかりだ。
「さあ、残っとるのはあんただけばい。……あんたも勝負するね?」
「い、いえ!帰ります!僕達の負けです!すぐに帰ります!」
男は慌てて倒れた連れを抱えて逃げようとするが、涼子に服を掴まれる。
「どこ行きよんか。金払ろーとらんやろが」
「は、払います!払わせていただきます!」
男はエール三杯分の銅貨を置くと、仲間を再び抱えて慌てて逃げていく。
男達が去った後の店内にはしばしの静寂が流れ、その後給仕の少女が涼子に駆け寄ってくる。
「あ、あの!危ない所を助けていただき、ありがとうございました!」
「いや、いいとよ気にせんで。それよりもテーブル壊してしもうて悪かったね。腹立つけん、力入れすぎてしまったわ」
「いえ!テーブルくらい大丈夫ですよ!」
少女がぺこりとお辞儀をする。と、その時店の奥から騒ぎを聞きつけてこの酒場のおかみさんが出てきた。青いエプロンをした白髪の女性だ。
「レベッカ!一体何の騒ぎだい?」
「あ、おかみさん……実は……」
「まあ、そうだったのかい!うちの大事な従業員を助けていただいてありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそ妻がテーブルを壊してしまって申し訳ない。もちろん弁償は致しますので……」
「本当にすみません……あたしが力みすぎたばっかりに」
斎藤夫妻は何度もおかみさんに頭を下げる。
「いいんですよテーブルくらい!この子の身の安全に比べたら安いもんです。古くなってきたからそろそろ買い換えようかと思ってたくらいだから丁度いい機会だ。……ああ、申し遅れました。私はここ"竜の髭亭"のおかみをやっとります、アンナと申します。そしてこの子がレベッカ」
「レベッカと申します!本当に今日はありがとうございました!」
アンナはこの竜の髭亭をレベッカと共に切り盛りするやり手のおかみだ。見た目からして涼子より年上だろうが、なかなか活気に満ち溢れた女性だ。彼女の作る料理は帝都一評判で彼女の料理のためにわざわざここへ寄る冒険者や傭兵もいるらしい。
「お礼と言っちゃなんですが、今回のお食事代は無料にさせていただきますよ」
テーブルを壊してしまったとはいえ、従業員の身の安全を身体ひとつで守ったこのリョーコという女性には感謝してもしきれない。
「ありがとうございます……本当にすみません」
「いいんですよ、気にしないでください。足りなければいくらでもおかわりしても構いませんよ」
アンナはそう言って再び調理をするために厨房へ向かう。だがその時、再び店の扉が開いた。
「たのもー!」
「ここに力比べで勝ったら酒をおごってくれる女がいると聞いたぞ!」
「ワシはドワーフいちの力持ちじゃ!ワシにかかれば一捻りよ!」
……どうやら逃げていった男達から早くも噂が広まったらしい。タダ酒を飲もうと力自慢の男達が集まってきた。
涼子はニヤリと笑みを浮かべ、再び別のテーブルにつく。
「おう。ここにおるばい。さあ、負けたい奴からかかってこんかい」
「……もうテーブル壊すなよ」
「リョーコさんの勝ちー!」
いつの間にか審判役になったレベッカが涼子の右手を持ち、高々と掲げる。
10戦中10勝0敗。あれから力自慢の男達が続々と増え、涼子に勝とうと集まってきた。
だが一人として"鬼の涼子"に勝てる者はおらず、10人の男達が女に力比べで惨敗し、腕の代わりにプライドをへし折られながらとぼとぼと帰っていく。
「ちょっとは骨のある奴はおらんとか!男のくせにいっちょんつまらん奴らばっかりやのう!」
「ならば次はワシじゃ!」
涼子の向かい側に座ったのは一人のドワーフ。
ドワーフは鍛冶・炭鉱夫・建築士など力を必要とする仕事を好む。
特にドワーフ族は身長こそ低いものの、種族のほとんどが岩のように固く鍛えられた鋼の肉体を持ち、人間の力自慢とは比べ物にならないほどのパワーを持っている。
「グフフ……悪いのう、ご婦人。ワシ……いや、ドワーフは酒好きでのう。ご婦人を破産させてしまうかもしれんぞ?」
岩そのもののような固く、ゴツゴツした腕をドンと置く。
ドワーフはその大半が酒好きで特に酒精の強い火酒を好んで飲む。ドワーフが団体で来た日には店の酒全てがなくなるような勢いだ。
「獲らぬ狸の皮算用はやめときーや。そういうセリフは勝ってから言ぃ」
「ムッ……この腕を見てもまったく同じぬとは……よかろう。ワシが最初の勝者になってやるわ!」
二人はがっしりと手を組む。
「よーい……始め!」
レベッカが試合開始の合図を告げ、二人の腕に力が入る。
「ふんぬぅぅぅ!!!!」
ドワーフは思い切り力を込める。鍛冶業と炭鉱夫で鍛えたこの肉体が人間の女なんぞに負けるものか。彼はそう絶対の自信を持っていた。
だが、彼は信じられない現実を突き付けられることになる。
「!?なんじゃと!?」
最大限の力を込めているにも関わらず涼子の腕はまったく動かない。
「ぐぬうぅぅぅ!!!!」
顔が赤くなるほどに力を込めるが、腕は最初の位置からまったく動いていない。一体どういうことなのか。
周りで見ている男達もレベッカも絶句している。
「ほーん。さすが力自慢のドワーフ。今までのシャバ憎どもに比べたら全然強いわ。強いけどまだまだやな……オラァ!!」
ドン、とドワーフの手が糸もあっさりテーブルに付いてしまう。彼は目の前の現実を受け入れることが出来なかった。
「ば、バカな……この……このワシが……人間の女に力で負けるなんて……」
「お、おいすげぇぞあのニホン人のおばさん……!力比べでドワーフに勝っちまいやがった……!」
「い、一体あの女は何者なんだ……?」
「あんな細い腕のどこからあんな力が……」
男達の間にどよめきが走る。無理もない。かつて"鬼の涼子"、"博多の呂布"と言われ恐れられた
「我が妻ながら恐ろしい」
「リュウイチロウさん、リョーコさんって実はドラゴンの生まれ変わりか何かじゃないんですか?」
「むしろドラゴンが人に化けているのかもしれないぞ」
豪腕に見えぬ豪腕を持つ涼子を見て苦笑する龍一郎とルミナ。あれが人間とは夫である龍一郎にも時々信じられなくなる。
「ぐぬぬ……まだじゃ!力は強いかもしれんが、酒はどうかのう!?お嬢ちゃん!エールを二つ持ってきてくれ!」
「え?は、はい!」
レベッカは慌ててエールの入ったジョッキを持ってくる。
「次は飲み比べと行こうぞ!!先に音を上げた方が二人分の飲み代を払う……どうじゃ?」
「おう、よかろー。その勝負乗っちゃるわい」
二人はジョッキを握る。そしてゴクゴクと飲み干しーーーー
一時間後、そこには涼子との飲み比べに負けてテーブルや床に突っ伏す男達の姿が。
彼等は胃が酒でいっぱいになった代わりに財布は空っぽになって半泣きで酔い潰れていた。
「これが事の次第です」
「うちの母が本当にご迷惑をおかけしました」
竜の髭亭に着いた龍馬はレベッカに頭を下げる。
「でもびっくりです。まさかリョーコさんがあなたのお母さんで、しかもディレットちゃんがそこに居候してるなんて……」
「えへへ……リョーコさんはお酒飲むとあんな感じだけど料理も上手くて強くてとっても優しい人なんだよ」
ジョッキを高々と掲げる涼子の姿を見てクスクスと笑うディレット。横では龍一郎とルミナが必死に彼女を止めている。
「おや?お客さんかい?……あら、ディレットちゃん!久しぶりだねぇ!」
「おかみさん、ご無沙汰してます!」
奥からアンナが出てきてディレットとの久々の再会を喜んだ。そして彼女を抱き締める。
「もうずっと来ないから心配してたんだよ?どこに行ってたんだい?」
「ええと……実はニホンに留学しに……」
「ニホンに!?どうりで服装もニホンの人みたいな感じだと思ったよ!」
言い忘れていたが、ディレットはカーキ色のオフロード用ジャケットを着ているのでエルフなのにこっちの世界では浮いている。
ディレットは斎藤一家との歓迎をアンナに説明し、龍馬達を紹介した。
「そうかい、異世界からわざわざ帝国までねぇ。みんなお腹空いてるんだろ?おばさん、腕によりをかけて作るからお腹いっぱい食べていきな!」
アンナは袖を捲り、再び厨房へ戻る。
しばらくすると龍馬達の前に様々な料理が運ばれてきた。
一品目はコカトリスの香草焼き。ニワトリに近い飛べない鳥であるコカトリスの肉に様々なハーブを詰めて焼いたものだ。さっぱりとした味わいにほのかなハーブの香りがたまらない。
二品目は斎藤夫妻も食べたサマージの塩焼き。ご飯が欲しくなる味だ。
三品目はこれまた先ほど斎藤夫妻も口にしたブラウンボアのシチュー。柔らかくなるまで煮込まれたブラウンボアの肉がとても美味い。
四品目はなんと貴重なレッドボアのステーキだ。レッドボアはブラウンボアの上位種である。赤い毛並みと大きな牙が特徴の種でブラウンボアより獰猛で危険な存在だ。
しかし肉はブラウンボアよりも身が引き締まっていて美味く、毛皮や牙は高く売れる。
龍馬達はおかみさんの料理に舌鼓を打ち、異界の味を心ゆくまで堪能した。
「ああ、美味かった」
「久々のおかみさんの料理、美味しかった~」
「も、もう食えねぇ」
「こんなに食べたの生まれて初めてかも……」
龍馬、ディレット、勇斗、千春の四人は膨らんだ腹をさすってふう、と一息つく。
そこへアンナが現れた。
「どうだい、私の料理は?気に入ってくれたかい?」
「とっても」
龍馬がグッドサインをする。
「そりゃあ、良かった。私も腕によりをかけて作った甲斐があったよ……う"っ!?」
アンナは突然腰を押さえてかがみこむ。慌ててレベッカが彼女に駆け寄った。
「おかみさん!?どうしたんですか!?」
「こっ、腰が……」
これはあれだ。前触れもなく唐突にやってくるあれだ。そうーーーー
"ぎっくり腰"というやつだ。